倉田朋香

こんばんは。内容に不足があったので、少し内容を追加しました。追加した部分は青字になっています。お手数おかけしますが、よろしくお願い致します。

 

親族法レポート 法学部法律学科218J103005 倉田朋香

テーマ「家族法と認知症」

結論 家族法は、保護される側の人だけでなく、彼らを支える側のことももっと考えていくべきであり、保護される側と支える側のバランスのとれたものであるべきである。

 

目次

@認知症の人が持つ能力は?

A制限行為能力者制度について

B成年後見制度について

C英米法と日本法の制限行為能力者制度の違い

D認知症と婚姻・離婚

E私見

F授業、レポートを通じての感想

 

 

@認知症の人が持つ能力は?

 人が法律行為を成立させるためには、権利能力、行為能力、意思能力の3つが必要となる。権利能力とは、人であるならば誰しも生まれつき持っているものであり(民法第31項)、人権のようなものである。行為能力とは、法律行為を単独で有効にすることが出来る能力のことをいう。後で述べる「成年後見制度」は、この行為能力をある基準に当てはまる人のみ制限している。意思能力とは、自分の意思表示の結果、どのような法律上の効果が発生するのかを予測・判断出来る知的能力のことである。この意思能力がない者が行った法律行為は無効となる。(民法第3条の2)ただし、あくまで意思無能力者の保護のための無効であるため、この無効は確定無効ではなく、民法119条の適用もないので、追認を認めて良いと考えられている

 認知症とは、「生後いったん正常に発達した種々の精神機能が慢性的に減退・消失することで日常生活、社会生活を営めない状態」のことをいう。(厚労省HPより)認知症の多くは、アルツハイマー、レビー小体型、脳血管性の3つのどれかである。認知症になると、ほとんどの人は事理弁識能力(ある物事について道筋を理解し見極める能力)を欠く状態になってしまう。ただ、認知症=意思能力がない というわけではない。認知症の進行具合によって判断が変わるようであり、裁判では中程度まで認知症が進行していれば意思能力がないと判断されることが多いようである。認知症のように、事理弁識能力を欠くじょうたいになると、制限行為能力者制度を利用する可能性もあり、この制度を利用するようになると、行為能力を制限されることになる。

 つまり、認知症の人が何の能力を持つかは、その人の症状の進行具合や制度の選択次第であるが、多くの場合、意思能力はかなり低下し、行為能力も制限されるようになる。どの程度で意思能力がないとするかは、まだまだ議論の必要がある。

 

A制限行為能力者制度について

前で触れた「成年後見制度」は、制限行為能力者制度の1つである。そこで、ここでは

制限行為能力者制度について述べたいと思う。

 民法は、法律行為について「私的自治の原則」を採用しており、契約については特に「自由で平等かつ合理的な個人」という人間観が潜んでいる。しかし、社会には、自己の行為の結果を正常に判断する能力が低い人も存在している。そういった人達を保護し支援するための制度が制限行為能力者制度である。制限行為能力者は、未成年者、成年被後見人、成年被保佐人、成年被補助人の4つに分けられる。制限行為能力本人者制度は、2000年に本人の自己決定の尊重、残存能力の活用、ノーマライゼーション(障害のある人も障害のない人と同じように生活を営めるようにすること)を理念として新設されたものである。未成年者以外の3分類は「成年後見制度」で扱われる。

 

B成年後見制度について

 ここでは、認知症が関わることが多い成年後見制度について述べる。成年後見制度には、民法に基づく法定後見と特別法(任意後見契約に関する法律:以後、「任意後見法」という。)に基づく任意後見がある。

 任意後見は、法定後見とは違い、本人の意思を可能な限り尊重しようとしている。そのため、後見制度の始まり方、本人の意思の反映、後見人の権限に大きな違いがある。

 まず、後見制度の始まり方の違いから説明する。例えば、成年被後見人の場合、事理弁識能力を既に欠いた状態になってから、本人や配偶者、四親等内の親族等、請求権者の請求による家庭裁判所の後見開始の審判を受ける事で後見が開始する。(民法第7条、8条)一方、任意後見は、本人の能力低下前に任意後見契約を結んでおき、本人の事理弁識能力が不十分な状況になり、任意後見監督人が選任されたときから後見が開始する。(任意後見法第21号、41項)

 次に、本人の意思の反映についてだが、法定後見は、一部を除き、(被後見人、被保佐人、被補助人それぞれによって各権利の割合に違いはあるが)多くの法律行為について代理権、同意権、取消権、追認権(民法第9条、13条、17条、119条、859条、876条の4876条の9)をもっており、事理弁識能力が低下してから、後見人が選任されるため、本人の意思を正確に確認することが難しく、本人の意思を反映するのは厳しい。一方、任意後見は事理弁識能力が低下する前に、あらかじめ契約で何についての後見を委任するのか具体的に内容を決めておく(任意後見法第21号)ため、後見が始まった後でも本人の意思が最大に反映されていると考えられる。

 また、後見人の権限についてだが、法定後見人の権限については、前段で述べたとおりである。後見人、保佐人、補助人は、取り消すことが出来る被後見人、被保佐人、被補助人の行為について、追認することが出来る。(民法第120条、124条)任意後見人の権限は、契約で定められた範囲の代理権のみである。そのため、どんなに本人にとって良いと思われるようなことでも、契約の範囲にそれが含まれていなければ、任意後見人は行為できないのである。

 他にあげられる違いとしては、後見監督人が必須(民法第849条)か否か(任意後見法第21号)、後見人を本人が選任できるか否か(民法第8431項)というものがある。

 法定後見と任意後見で同じ点については、注意義務の程度と本人と後見人の利益相反行為があげられる。

 注意義務については、どちらも善管注意義務(民法第869条、任意後見法74項)を負っており、注意義務は、親権者が負う「自己のためにするのと同一の注意」(民法第827条)より重いものとなっている。また、どちらも身上配慮義務(民法第858条、任意後見法第6条)も負っている。

 利益相反行為とは、「当事者の間で利益が相反する内容の行為」のことをいう。成年後見制度の場合、本人(被後見人)と法定後見人の間での利益相反では後見監督人がある場合には後見監督人が本人を代表することになっている。(民法第8514号、第860条)後見監督人がない場合は、家庭裁判所が特別代理人を選任することになる。任意後見の場合は、任意後見監督人が本人を代表することになる。(任意後見法第74号)

 ここで問題となるのが、どういうときにこの利益相反にあたるのかということである。判断の基準については、利益相反行為かどうかは、「その行為自体の外形から判断すべきである」とする、形式的判断説と、利益相反行為か否かの判断は、「行為の動機、目的、結果、必要性、背景等すべての事情を考慮してすべき」とする、実質的判断説がある。この2つは、取引の安全性に重きを置くのか、この保護に重きを置くのかという価値判断の違いがある。

 判例を見てみると、@親と子が共有する土地・建物について、未成年の子については親権者として自らこれらを代理し、成年の子については代理人名義を兼ねて連帯保証契約、抵当権設定契約を締結したという事件(最高裁昭和43108日第三小法廷判決:昭和43年(オ)第783号)について、最高裁は「親権者による代位の問題が生ずる等のことが、前記連帯保証ならびに抵当権設定行為自体の外形からも当然予想される」として利益相反行為に該当すると解している。また、A遺産分割について、1人の者にすべての遺産を相続させるということを、親権者が相続人らと協議で決めたことについて、子らが利益相反を主張したという事件(最高裁昭和49722日第一小法廷判決:昭和46年(オ)第675号)について最高裁は、「民法8262項所定の利益相反行為とは、行為の客観性質上数人の子ら相互間に利害の対立を生ずるおそれのあるものを指称する」といっている。@Aからもわかるように、判例は形式的判断説をとっているが、実質的判断説も有力視されている。

 利益相反行為となった行為は、無権代理の状態となるため、利益相反行為となったからといってすなわち第三者の保護が全くないというわけではない。例えば、ア)Aは、Aの子C名義の不動産をBに売った。イ)CBの売買契約が利益相反行為だと主張し、それが認められた。ということがあったとする。この場合、A,C間では利益相反行為となるが、だからといってA,C間の契約も無効となるわけではないため、ABに対して責任を負わなければならない。(契約解除、損害賠償請求等をされることになる。)つまり、利益相反行為は、絶対的な無効ではなく、いわゆる相対的無効なのである。

 

C英米法と日本法の制限行為能力者制度の違い

 ABで制限行為能力者について述べたので、ここでは少し英米法と日本法の制限行為能力者制度の哲学について違いを説明しようと思う。

 日本法は、本人の保護を重視しているがために、制度自体、代理権が基軸となっており、本人の権利は、代理権でつぶされてしまっており、表に表れにくい状態となっている。

 一方、英米法は、本人を保護しつつ、本人の意思を最大限に尊重することを重視しており、日本法とは違い同意権を基軸としていて、本人の権利もきちんと表に表れるような状態になっている。特に、2007年よりイギリスで施行された意思決定能力法(Mental Capacity Act)は、立法により意思能力に欠ける人の保護をしつつ、本人にとって最善の利益を追求していくという意志が明確となっている。

 

D認知症と婚姻・離婚

 ここでは、認知症(もしくは制限行為能力者)の人の婚姻・離婚について述べる。

 まず、婚姻についてであるが、婚姻の成立要件は婚姻の届出であると解されている。(民法第739条)また、「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し」と憲法第241項にあることから、当事者間の「婚姻をするという意思」も必要と考えられている。民法第738条に「成年被後見人が婚姻をするには、その成年後見人の同意を要しない。」とあり、被保佐人、被補助人が行為をするときに保佐人、補助人の同意が必要とされるものの中にも「婚姻」は入っていない(民法第13条、17条)ことから、制限行為能力者であっても後見人らの同意なしで婚姻が出来る。つまり、認知症になって、制限行為能力者となったとしても、婚姻は自由に出来るということになる。

 次に離婚について述べる。まず、離婚する方法としては、協議離婚、調停離婚、裁判離婚の3つがある。協議離婚は、最も一般的な離婚方法で離婚する人達の9割がこの方法を選択している。調停離婚は、夫婦間で離婚の協議がまとまらない場合に、民法第7701項の離婚原因事由があれば、家庭裁判所で調停委員という第3者も交えて話し合いをし(夫婦関係調整調停)、合意までいけば離婚が出来るというものである。裁判離婚は、夫婦関係調整調停でも意見がまとまらず、離婚裁判を申し立て、そこで離婚が認められれば離婚となるものである。裁判離婚の場合、民法第7701項のいずれかの理由に当てはまる必要がある。民法第770条があげる離婚原因事由の1つに、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。」というものがあり、認知症がこの「強度の精神病」に含まれ、離婚が認められ得るのかということが、問題となる。

 離婚原因の定め方には、有責主義と破綻主義という2つの考え方がある。有責主義とは、「夫婦の一方に非難される有責行為があるときに離婚を認める立場」である。破綻主義とは、「夫婦間の共同生活関係の客観的な破綻を離婚原因として認める立場」である。明治民法下では、有責主義の立場であったが、最近では、破綻主義にだいぶ近づいた考えがとられている。

 認知症が問題となる民法第77014号の離婚原因事由については、破綻主義の観点から離婚を認めるものとなっている。判例では、統合失調症を民法77014号の「精神病」と認めたものがある(最高裁昭和451124日第三小法廷判決:昭和45年(オ)第426号)が、精神病を原因とする離婚については、不治の精神病にかかったというだけではなく、離婚後の療養や生活について出来る限り具体的方途の見込みがついているということも必要だと考えられている。不治の精神病にかかったからといってすぐ離婚が認められては、精神病患者が離婚後生きていくのに多大な困難が生じてしまうため、実際裁判所は、民法第7702項を使って、精神病を理由とする離婚については慎重な態度をとっている。アルツハイマー病は精神病の離婚事由には該当しないとした判決もあり、判例は精神病をかなり厳しくとらえており、民法第77014号の「精神病」に何が含まれるのか、どの程度の症状で認められるのかということについては、まだまだ議論が必要である。

 

E私見

 私は、冒頭に結論として「家族法は、保護される側の人だけでなく、彼らを支える側のことももっと考えていくべきであり、保護される側と支える側のバランスのとれたものであるべきである。」と述べた。なぜなら、制限行為能力者制度について学ぶなかで、家族法は、制限行為能力者の保護を重視するあまり、彼らを支える側(後見、配偶者、家族等)の責任や負担が大きいように見え、それはおかしいのではないかと考えたからである。ここでは、そのことについて、いくつかの制度ごとに述べていきたいと思う。なお、ここでは主張の便宜上、認知症=制限行為能力者と考えてもらいたい。

 まず、婚姻についてだが、婚姻については今のままでいいと考えている。なぜなら、制限行為能力者が婚姻するのに、後見人の同意は必要なく、制限行為能力者(保護される側)の意思が最大限尊重されており、後見人の負担も婚姻することに関してはほとんどないといえるからである。

 次に、離婚についてだが、私は、精神病患者の具体的方途の見込みが明確にあるのであれば、民法第77014号の「強度の精神病」を今より少し広めに解釈して離婚を認めても良いのではないかと考える。なぜなら、離婚が認められない場合、支える側(精神病患者の配偶者)の負担が大きく、支える側の生活にも影響を及ぼしかねないからである。確かに、夫婦には協力義務や扶助義務がある(民法第752条)ため、支える側は精神病の療養に協力し、経済的な支えをしなければならないはずなのかもしれない。しかし、752条には「互いに」と明記されており、精神病で夫婦の一方の協力、扶助義務を行うことが厳しくなったのであれば、もう一方の側もその義務を拒んでもよいのではないだろうか。たまたま、配偶者が精神病になってしまったということで、支える側が苦しい生活を送るのはおかしいと私は思う。仮に、77014号の「強度の精神病」による離婚を厳しく判断するのであれば、支える側の生活を圧迫せずに、精神病患者もその配偶者も笑顔で暮らせるよう、訪問介護サービスを充実させるとか、介護施設を増やす等対策をすべきである。ただ、現在、介護業界が人手不足であり、かつ高齢化により介護事業の需要が高まっているため、私の提案するような介護施設を増やす等の対策はあまり現実的ではないかもしれず、具体的な対策についてはもっと考えていく必要があると考える。

 次に、成年後見制度についてだが、私は、任意後見をもっと広げていくべきだと思う。なぜなら、任意後見は本人の意思をあらかじめ決めてあるため、本人の意思が最大限尊重されやすいからだ。また、自分で代理権を与えた以上、後にその範囲内で制限を受けるのは妥当であるとも考えられる。後見は、被後見人らの生活について多かれ少なかれ影響を与えるものであり、後見人となる人の責任は大きく、精神的な負担もあるだろう。その点、任意後見であれば内容が契約で定められているため、任意後見人も動き出しやすいのではないかと考える。平成2912月末日時点における成年後見制度の利用者数は、合計210.290人で、そのうち法定後見(成年)の利用者数は、207,774人、任意後見の利用者数は2516人であり、現在任意後見の割合が圧倒的に少ない。(成年後見制度利用者の約98%は法定後見)英米法のように同意権基軸の制度にするという方法もあるが、同意権基軸だと、やはり保護される側の保護に不安を感じる。だからといって、法定後見(特に成年後見人)ほど、保護される側の意思が制限されるのも良くない。だから、私は任意後見をもっと広めるべきだと考える。(任意後見にかんする条文を民法に入れてしまっても良いのではないかとも思う。)

ただ、もし仮に、任意後見の割合が増えた場合、任意後見監督人について少々考えなければならない点があるので、それについても少し触れておく。前述したとおり、任意後見には任意後見監督人が必須であるため、任意後見の割合が増えれば、任意後見監督人の数も多く必要となる。任意後見監督人には、本人の親族等ではなく,第三者(弁護士,司法書士,社会福祉士,税理士等の専門職や法律,福祉に関わる法人など)が選ばれることが多い。そうなると、働き手(若者)の人口が減少しており、かつ働き方改革も進められている現在、そして今後、任意後見の割合を今の制度のままで増やしていくのは無理があると考えられる。そのため、任意後見の割合増加を目指すのであれば、任意後見監督人について見直す必要がありそうである。

 また、最近ではreverse mortgageという制度が注目されているようである、私はこの制度に反対である。まず、そもそもreverse mortgageとは、「自分の自宅(持ち家)を担保にして、そこに住み続けながら金融機関から融資を受けられる主にシニア層向けの融資制度」のことをいう。自宅を売却することなく融資が受けられ、受け取り方も一括か、月ごとか選べるため、年金を受け取ることが厳しくなるこれからの時代には、生活の助けとなるのではないかと思う。しかし、「長生きするほど融資額が大きくなり、将来の返済額が大きくなる」、「金利が上昇すると返済額が膨らむ可能性が高い」、「不動産価値が下落すると、融資限度額に割り込んでしまう可能性がある、その際一括返済を求められることもある」というデメリットがある。医療の発達や生活環境の向上により、寿命が延びており、今後も平均寿命は延びていくと考えられる。そうなると、これらのデメリットの影響を受ける可能性は高くなるのではないかと思う。デメリットの影響を受けるのは、契約した高齢者本人だけでなく、その家族にまで及ぶかもしれない。また、高齢者はさまざまな能力が衰えていくが、そんな中で、金利、不動産価値について、細かく考えることは難しく、全体的に考えたときに、メリットよりデメリットの方が大きいのではないかと、私は考える。よって、私は、この制度には反対である。ただ、この制度は空き家の活用や、年金では不十分な生活費の補填にもなるため、デメリットを極力減らし、またデメリットになっても、極力周りに影響を及ぼさずに済むような制度設計にして、この制度を上手く使うことで、今の社会問題の1部を解決する方法の1つになり得るだろう。       

 

F授業、レポートを通じての感想

 これまで15回の親族法の授業を、何が正義なのか、どうしたらみんなが幸福になるのかということを意識して受けてきた。授業でも、今回のレポートでも実感したが、知識が少ないと、その分選択肢も狭まってしまい、結果、自分の望む結論につなげられないということにもなる。今後ももっと勉強し、何が正義か、みんなが幸福になるためにはどうしたら良いのかということを考え続けていきたいと思う。 (8047字)

 

参考文献・参考資料・参考ホームページ

・本山敦・青竹美佳・羽生香織・水野貴浩『家族法(第2版)』(日本評論社.2019.

・犬伏由子「判批」民法判例百選V親族・相続(第2版)30貢(2018

・高橋朋子「判批」民法判例百選V親族・相続(第2版)32貢(2018

・角紀代恵「判批」民法判例百選V親族・相続(第2版)94貢(2018

・合田篤子「判批」民法判例百選V親族・相続(第2版)96貢(2018

・川合健『民法概論1(民法総則)[4]』(有斐閣.2018

・ポケット六法 平成31年度版

・法律学小辞典[5]

2019年度親族法ノート

・イギリスMCA視察報告書日弁連

https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/organization/data/58th_keynote_report2_cd_1.pdf#search=%27%E3%83%A1%E3%83%B3%E

 

・リバースモーゲージ三井住友銀行

https://www.smbc.co.jp/kojin/reverse-mortgage/

 

 

 

・リバースモーゲージとは?メリット・デメリットについて

https://www.joyobank.co.jp/woman/column/201612_03.html

 

[PDF〕成年後見関係事件の概況

http://www.courts.go.jp/vcms_lf/20190313koukengaikyou-h30.pdf#search=%27%E6%88%90%E5%B9%B4%E5%BE%8C%E8%A6%8B%E9%96%A2%E4%BF%82%E4%BA%8B%E4%BB%B6%E3%81%AE%E6%A6%82%E6%B3%81%27

 

・認知症|疾患の詳細|専門的な情報|メンタルヘルス|厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_recog.html

 

・統合失調症|疾患の詳細|専門的な情報|メンタルヘルス|厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_into.html

 

・裁判所|任意後見監督人選任

http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_04/index.html

 

*以上ホームページ等インターネット上の資料は2019730日に参照したものです。

 

今回このレポートを書くにあたり、吉野孝則さん、嶋野加奈子さんの話を参考にさせていただきました。また、中江先生のゼミの方々にも勉強会等お世話になりました。



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帝京大学法学部法律学科2年3組 18J103005 倉田朋香

 

 

 

 

上野友斗

「家族法と認知症」

18j107010 上野友斗

 

1.総説

 「家族法と認知症」とは、高齢化によって生じうる様々な紛争に対して、法律的な解決手段を見出すことである。民法(家族法)では、家族制度について詳細に規定されている。しかし、時代の変化に追いつかない部分が多く存在する。例えば家族の在り方、養子制度、扶養についてなど、かなり問題を残した要素が多く含まれている。特に本稿は認知症に対する法的アプローチを検討するものであるから、少子高齢化社会の家族法の在り方について述べていく。

 本稿では、@認知症と離婚法、A認知症と行為能力者制度の2本を大きな論点として問題提起し、検討していく。なお、「認知症」には、アルツハイマー型、ピック病などかなり詳細に分類されるが、以下では通常人が「認知症」と指すものを考えることにする。

 

2.認知症と離婚法

 まず、離婚法(民法第4編第2章第4節)で争点となっている規定を述べる。争点となっているのは、民法770条の裁判上の離婚の規定である。

 そもそも離婚は、協議離婚と裁判離婚に分類される。協議離婚とは、民法763条による離婚であり、当事者間の合意で自由に離婚することができる。協議離婚が成立するためには、実質的要件としての離婚意思と、形式的要件としての届出が必要である(*1)。離婚意思をどのように解すかについては争いがある。いわゆる仮想離婚の有効性については見解が分かれている。判例は法的な婚姻関係を解消する意思があれば、仮想離婚でも有効と解している(最判昭和38年11月28日、最判昭和44年11月14日、最判昭和57年3月26日)。

 裁判離婚とは、調停離婚や審判離婚を含めた広義の概念と、狭義の判決による離婚とが概念上考えられる。なお、広義の裁判離婚にいう調停や審判は並列に扱うのではなく、調停前置主義が採られており、裁判の前に調停を申し立てることになっている(家事事件手続法257条1項)。裁判離婚は、一方的に離婚を申し立てるものであるから、離婚原因が必要である。離婚原因の考え方として有責主義と破綻主義がある。有責主義とは、相手方に有責な原因がある場合にのみ離婚を認めるものである。破綻主義とは、相手方に有責行為がなくても離婚を認めるものである(*2)。

 これらの学説の対立を哲学、宗教の視点から捉えてみる。まず、離婚を認めないキリスト教の観点からすると、破綻したというだけで離婚を認めるのはもってのほかと指摘されよう。これは、加藤一二三先生もおそらく同じことを言われると想定でき、要するにこのような考え方は過去のキリスト教社会の観念にとどまらず、現代においても受け継がれているものと考えられる。他方で、イスラム教社会では一夫多妻制で問題を解決しているが、当然日本法でこれを導入するわけにはいかない。よって、日本は欧米諸国と比較してあまりにも離婚がたやすいと指摘されるが、もっとも、背景に流れる価値観や宗教的観念について、欧米式の価値観が良く、日本は良くないなどと比較することに合理性はないから、日本において、離婚が認められやすい破綻主義を採っていることに問題はないといえる。

 さらに、有責主義を採ると婚姻関係が完全に破綻していても、相手方が何も悪いことをしていなければ離婚は認められないということになり、妥当ではないと考えられる。したがって、破綻主義を採るべきと解される。

 そのうえで、破綻主義には積極的破綻主義と消極的破綻主義に分かれる。その違いは有責配偶者からの離婚請求を認めるかという点にある。積極的破綻主義を採ると、有責者からの離婚請求を認めることになる。つまり、散々不貞行為をされた後に離婚しろと請求され、判決でそれを決定されるということが起こる。離婚請求をされた方からすればまさに踏んだり蹴ったりである。他方で、消極的破綻主義を採ると、そのような我儘は許されないということになり、離婚請求は却下される。

 明治民法においては有責主義を採っていたが、現行民法は破綻主義を採るものと解されている(*3)。そのうえで、判例は当初、有責配偶者からの離婚請求を認めなかった(踏んだり蹴ったり判決 最判昭和27年2月19日、最判昭和38年10月15日)。しかし、最大判昭和62年9月2日で有責配偶者からの離婚請求を認めた。つまり、消極的破綻主義を採る判例の立場を翻倒し、積極的破綻主義に舵を切ったといえる。そうだとすれば、離婚原因を作出した方から離婚請求をしても認容されることになる。しかし、それはやや正義・公平の観点から是認し難いといえよう。とはいえ、完全に破綻した婚姻状態をそのまま続けさせるべきかと言われると、それが正解ともいえないだろう。よって、完全に破綻した婚姻生活を続けさせるのが妥当でないならば、たとい有責配偶者の方からの離婚請求であれども、認容すべきと解すべきである。もっとも、箆棒に離婚を認めるものではなく、@長期間の別居、A未成熟児の不存在、B苛酷条項の三要件(前掲の判例)によって判断される以上、合理的な判断が為されると期待できることも認容すべき理由の一つとして挙げられる。

 以上は離婚原因に関する立法について検討してきたが、次に本稿の本質的な論点の1つである、具体的な離婚原因について見ていくことにする。具体的な離婚原因は770条1項各号に列挙されているものであるが、本稿のテーマに関わる1点に焦点を当てて論じていくことにする。それは、770条1項4号の「強度の精神病」規定である。抽象的な解釈論は一旦保留し、具体的な例を挙げて検討していく。考えられるケースは、〔1〕妻が心神喪失になり会話もままならないため、夫が疲れ果てて離婚請求するケース、〔2〕妻が認知症になり会話もままならないため、夫が疲れ果てて離婚請求するケース。この場合に両方とも離婚を認めても良いと判断されるかというと、判例はそのように解されないと考えられている。〔1〕の心神喪失の場合は当然本規定に該当するが、〔2〕の認知症のケースでは本規定の適用外とされることが予想される。その理由は、長野地判平成2年9月17日で認知症の4号該当性を認めなかったことから、それを踏襲し、離婚が認めないと推測されるためである。当該判例では、認知症は4号に該当しない旨判示しつつ、5号のその他の事由で離婚を認めている。しかし、この判例には大きな落とし穴がある。それは、当該判例では、かなりやむを得ないといえる事情があったということである。逆に言えば、相当な事情が無ければ、4号で認められなかったら、5号で請求するということはできない点に注意しなければらならない。最判昭和36年4月25日では、4号で認められなかったからといって、自動的に5号の方を主張できるものではなく、さらにそう主張しているともみなさないと判示している。つまり、民訴246条にある通り、4号で認められなかった時点で裁判は終了ということになる。したがって、〔2〕のケースで、認知症は4号に該当しないと判断された場合、5号のその他の事由に持ち込むことはできないということであり、この点には注意を要する。

 以上のように、やや飛越して言えば「認知症ならば離婚」とはならないと考えられている。その理由は、まさに高齢化により認知症が増加する中で、簡単に離婚を認めると認知症患者の保護という点で問題があるためといえよう。確かに、統合失調症で離婚が認められるならば、認知症でも離婚を認めるべきとの指摘も一理ある。しかし、統合失調症での離婚を認めた判例(最判昭和33年7月25日)では、「単に夫婦の一方が不治の精神病にかかつた一事をもつて直ちに離婚の請求を理由ありとするものと解すべきでなく、たとえかかる場合においても、諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じ、ある程度において、前途に、その方途の見込のついた上でなければ、ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当と認めて、離婚の請求は許さない法意であると解すべき」としている。要するに、精神病を拡張して広く解釈することが許されないはもちろんのことながら、諸般の事情を考慮し、ある程度の策を講じたうえでようやく婚姻関係を解消できるとしている。したがって、精神病規定を援用した離婚は、被告側の保護の要請から、若干症状が軽いとされる認知症までも4号に含めて離婚を認めるのは相当でないと解すべきである。

 海外に目を転じると、フランスでは民法が改正され、精神病を離婚事由から除外した。つまり、○○精神病はどうか、□□病はどうかという以前に、そもそも精神病での離婚が原則認められなくなったということである。もし例外的に特殊な事情があるならば、その他の事由のほうで処理することになる。日本での民法改正案要綱でも4号の削除が提案されている。仮にそうなれば、認知症を理由とした離婚はかなり難しくなる。離婚のハードルが上がるということは、認知症患者と共に夫婦でいなければならなくなるから、家族の負担は増えることになる。しかし、フランス法は同時に、家族法の枠組みを超えて社会保障法で認知症を看るという改正もしている。つまり、家族法の枠組みの中で認知症患者を介護するのは限界であるとし、一部を社会保障で看ると決定した。したがって本改正は、片方の面で家族の扶養義務を強化する厳しい判断を下しつつ、一方で社会保障法の中でも面倒を見るという硬軟両用の法改正といえる(中江)。この制度を日本社会に取り入れるべきか検討する。

 まず、認知症は家族法の枠組みで解決すべきか、社会保障法に広げるかがこの制度の導入の可否を決める分水嶺となる。社会保障法の枠組みで認知症の問題を対策する場合、新たな費用を要するため、家族法の枠組みの中で解決すべきとの指摘もある。ところが、家族内で認知症患者を看る場合、昔の大家族世帯ならまだしも、現在の一家庭数人の世帯では、介護者の負担が大きすぎると言わざるを得ない。そして、介護のために家族が仕事を辞めざるを得ないような状況では、かえってGDPにマイナスの影響をもたらすことが懸念される。したがって、減税の乗数効果のように、社会保障の部分で予算を付けて家族の負担を減らすことにより、結果的に政府が割いた額よりも多くの経済効果が得られると考えられる。例えば、介護費用が100万円かかるが、それを年収300万円の家族が自力でやれば、仕事はできないが介護は行える。一方で100万円分の介護を社会保障で行い、その家族が働くことができれば、差し引き200万円分生産があったことになるため、その分GDPは増加すると仮定される。さらに、介護の義務が大きすぎると「結婚すると相手方の介護をしなければならなくなるからやめた方が良い」と考えるようになり、未婚率の上昇にもつながりかねないため、やはりある程度は社会保障の枠組みで看ることが必要といえる。以上より、離婚の要件は厳しくしつつ、社会保障の枠組みでも、認知症患者とその家族をサポートする制度は日本においても導入すべきといえよう。

 

2.認知症と制限行為能力者制度

 続いて、認知症と制限行為能力者制度について検討する。制限行為能力者制度とは、精神の障害等により判断能力が低い人を保護するため、後見人に代理権を与え、後見人が契約を代理する制度である。その中身は法定後見と任意後見に分かれ、法定後見は法律により決められた人が被後見人の取引を行うものである。それから、任意後見は被後見人自身が将来判断力が低下したときに備えて後見人を決めておき、実際に判断能力が低下したときから契約の効力が生じる旨の特約を付した契約である(任意後見2条1号)。法定後見と任意後見の優劣については、私的自治の原則から任意後見が優先されると解されている(任意後見優先の原則)。なお、ここでは制限行為能力者制度の問題点を指摘するが、認知症がテーマであるため、未成年後見、補佐、補助ではなく、「成年後見人」について検討していく。

 まず、成年後見において問題となるのは、成年後見人が利益相反にあたる契約をしたときの法律効果についてである。民法826条と860条、任意後見契約法7条1項4号には利益相反行為にに関する規定が置かれており、それに該当する場合の手続きが定められている。例えば特別代理人の選定を行わずに契約を結んだ場合、権利の裏付けはあるが、無権代理となる(大判昭和11年8月7日)。したがって、その契約は無効となるが、追認によって有効になる(最判昭和35年10月11日)ものであるため、相対的無効と解される。

 それから、成年後見人は善管注意義務を負っている。善管注意義務とは、善良な管理者の注意義務のことであり、親権者の注意義務とは異なっている(827条・869条)。当然に後見人が注意義務違反により被後見人に損害を与えた場合は、被後見人に対して損害賠償の義務を負う。

 続いて、以上の制限行為能力者制度における問題点と、海外における制限行為能力者制度について見ていく。民法9条では、成年後見人の行為を取り消すことができると規定している。つまり、何か問題があった場合はいつでも取り消すことができるという、相当な保護を与えているといえる。しかし、日本民法は保護が手厚い反面、逆に本人の権利を奪ってしまっているとも指摘されている。現実問題で、認知症はいわゆる「まだらぼけ」という状態であることが多い。それは、つねに判断能力が著しく低い状態にあるのではなく、時によって普通人と変わらぬ判断能力が発揮されたり、逆にある時は全く事理弁識能力が失われていたりと、大きな差があるという意味である。しかし、日本法は保護が手厚い半面、一旦後見を開始してしまうと、全て後見人が代理することになっている。すなわち、判断能力が時にも、全てを後見人がやらなければならない仕組みとなっているが、若干疑問が残る。

 そこで、英米法に目を転じると、Mental Capacity Actという制度が使われている。これは、本人の自立を促すことをひとつの目標にしたイギリス法の制限行為能力者制度である。特筆すべきことは、なるべく本人にやらせる同意権基軸のスタンスをとっていることである。日本法では、制限行為能力者の保護に傾き、できるだけ本人にはやらせないでおく代理権基軸の方針を採っているため、英米法とは大きく相違がある。日本では全権委任で後見人が全てをこなしているが、どうもその在り方には再検討が必要と思われる。なぜなら、今後認知症の患者がさらに増えたときに、「たまに呆けることがあるが、ほとんどは正常」という人の契約まで、全てを後見人がこなすとすると、大変な仕事になる。当該制度には監督人といった補助要員も要することを考えると、認知症患者の代理のために莫大な手間をかけることになる。したがって、本人の保護は残しつつも、英米法のように一定程度本人に自立して契約をさせるほうが望ましいといえよう。

 最後に、任意後見について、介護と関連させながら、詳しく検討する。まず、介護保険のところでは、行政からサービスを与えてやるという趣旨の「措置」から、対等な「契約」によってサービスをしていくべきという方向に移りつつある。特に、reverse mortgageというサービスが注目されている。reverse mortgageとは、自宅を抵当に入れてサービス提供を受け、自分が死亡したところで家を明け渡すという、いわゆる「逆抵当」と言われる仕組みである。reverse mortgageは、在宅介護支援事業者が任意後見人となり、サービスを提供するものである。しかし、業者自身が任意後見人となる場合、利益相反行為や代理権の濫用などがされる恐れがある。特に、悪質な業者が弱い立場である高齢者に損害を与えるケースも考えられる。したがって、監督人の就任前は契約の効力が発生しないといった規定(任意後見2条1号)のほかにも、特別法で悪質業者から高齢者を守る規定を置くことも検討する必要がある。

 

3.総括

 以上が「家族法と認知症」のテーマで上げた重要な論点である。認知症問題の対処には、家族法の見直しはもちろん、社会保障法やその他の特別法も含めて見直しをする必要がある。それだけ大きな問題であるが、少子高齢化社会において避けて通れない道である以上、今問題となっている、或いは今後顕在化されるであろう問題に対して真摯に向き合い、法的なアプローチを検討していくことが重要である。

 

4.出典

*1 半田吉信ほか『ハイブリット民法5 家族法〔第2版〕』70頁、法律文化社、2012年

*2 同上『ハイブリット民法5 家族法〔第2版〕』 79頁

*3 同上

 

 

 

 

小川夕輝

家族法と認知症

 

16J101024

小川 夕輝

 

キーワード 任意後見Mental Capacity Act  注意義務利益相反reverse mortgage無権代理追認相対的無効破綻主義統合失調症

 

 

認知症と婚姻

 

平成29年の内閣府発表では65歳以上における認知症高齢者数は462万人にのぼり、約7人に1人(有病率15.0%)が罹患していることになる。また介護保険制度における要介護又は要支援の認定を受けた人は平成26年度末で591.8万人であり、10年前と比べて約220万人増加している。2025年頃には約5人に一人が認知症を発症するとの統計もあり、認知症有病者は増加していくと考えられている。

初期の認知症は物忘れが増えたり計算力、集中力の低下が目立つ程度だが、中核症状が進めば介護が必要になる。家族がいる場合、介護を担うのは家族ということになろう。要介護者等からみた主な介護者の続柄をみると、6割以上が同居している人が主な介護者となっている。そのうち主な介護者の3割が配偶者であり、介護を担う続柄の中で一番多い。介護者の年齢も男女ともに約7割が60歳を超えており、老老介護のケースが相当数あることが伺える。

かつて苦楽を共にした配偶者といえども、要介護者の介護の負担が重くのしかかった介護者たる配偶者がこれ以上耐えられないと思ったとき、離婚することはできるだろうか。

離婚には協議離婚、調停離婚、審判離婚、裁判離婚の4類型がある。9割以上の大多数の夫婦は離婚に至る際に協議、すなわち話し合いで離婚の意思を双方で確かめ、離婚届を提出し離婚に至る。調停前置主義のもと、離婚についての協議がまとまらなかった場合には家庭裁判所に離婚調停を申し立てることとなる。それでも合意に至らず離婚調停が成立しなかった場合、家庭裁判所に離婚訴訟を提起し裁判上で離婚を求めることになる。

以下では認知症有病者を相手取る離婚について考える。まず、認知症患者のような意思能力のない者でも有効に協議離婚ができる。成年被後見人の離婚について定める民法764条は、成年被後見人の婚姻のためには成年後見人の同意は不要とする民法738条を準用しているからだ。成年被後見人でも婚姻、協議離婚、養子縁組など、高度な財産的法律行為でない身分行為を為す一定の行為能力はあるとした条文を準用しているのだから、認知症が進行し後見人のついた本人が離婚の意思表示をすれば協議離婚の成立の余地はある。残念ながら協議離婚が成立せず裁判で離婚を争うことになると、原告は民法770条に規定された離婚原因を主張、立証しなければならない。

7701項の定める離婚原因は、(1)配偶者に不貞な行為があったとき(2)配偶者から悪意で遺棄されたとき(3)配偶者の生死が3年以上明らかでないとき(4)配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき(5)その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき、の5種類を定めている。認知症を理由に離婚を求める際には、77014号か5号を根拠にして求めることになろう。

実際に精神病を離婚原因として争った判例がある。婚姻当初から以上な行動のみられた妻に夫は離婚を決意し、離婚調停が成立する寸前で妻に精神病の判断が下された。その後統合失調症の症状で禁治産者宣告を受け、妻の後見人に就職した父を相手に夫が77014号をもとに離婚を請求した事件だ。最高裁判所はこの請求に対し、夫婦の一方が不治の精神病にかかったことだけでなく、諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活などについて出来る限りの具体的方途の見込みがついた後でなければ、精神病を離婚原因とする離婚請求は認められないとする「具体的方途論」を採用し、この件では夫が自己の資力で可能な範囲の支払いをなす意思を表明し、夫妻の間に生まれていた子を夫が養育していることなどを勘案して離婚を認めた。77014号が2項の適用を受けることを示し、この件にあっては離婚の請求を棄却する事由がないと判断したのだ。

ここで認知症はこの判例の射程外ではないかと疑問が浮かぶ。強度で回復の見込みがない精神病と定める4号に、はたして認知症は該当するのだろうか。

日本では認知症は精神疾患ではないとの理解が広まっている。認知症の約7割はアルツハイマー病であり、他に血管性認知症、レビー小体型認知症などがある。慢性、進行性の脳器質障害であり、現在においても根本的治療法はない。長い経過をたどり、この間に様々な精神症状や問題行動を伴う。一方WHOによるInternational Classification of Desease-10(身体・精神疾患による国際疾病分類)の「精神および行動の障害」では、認知症は症状性を含む器質性精神障害に分類されている。さらに2013年に発表されたアメリカ精神医学会による精神疾患の診断基準(DSM-5)においても、認知症(Major Neurocognitive Disorder)、軽度認知障害(Mild Neurocognitive Disorder)として記述されている。国際的に見れば認知症は精神病に該当すると定義されているとみるのが妥当であり、本レポートではその立場を踏襲する。

しかし現在、日本では統合失調症は77014号に該当しても認知症は該当しないとされ離婚原因として認められていない。精神病を厳格に捉えた結果アルツハイマーは精神病ではないとしたようだが、どのような基準に厳格にあてはめたのか些か理解に苦しむ。

「強度の精神病」の法的判断は「婚姻の本質ともいうべき夫婦の相互扶助義務殊に他方の配偶者の精神的生活に対する協力義務を充分に成し得ない程度」と定義されており、認知症患者に上記の義務は果たせないであろうことは容易に予想できる。

ともかく、4号をもとに訴訟を提起しても認められないのなら、5号をもとにすることはできるだろうか。

 

有責主義と破綻主義

ここでは離婚請求はどのような場合にも、またどちらからでも請求できるのかについて簡単にまとめておきたい。

明治民法で法律婚主義を制定してからというもの、戦前は法律で定められた事由でのみ離婚が許された。戦後になり離婚原因に関する規定を置き、判例は離婚について有責主義の立場をとった。踏んだり蹴ったり判決として知られる有責配偶者からの離婚請求につき争った昭和27年の裁判では、離婚は婚姻関係が破綻していれば認めるが、その破綻の原因を創出した有責配偶者の側から離婚を請求することは信義誠実の原則に反して不可能と判断していた。これに反し、破綻主義とは婚姻関係が事実上破綻し回復の見込みがなくなった場合、たとえ破綻の原因を作り出した配偶者からであろうと夫婦のどちらからの訴えでも離婚できるとする。

踏んだり蹴ったり判決から30年あまり経ち、判例は破綻主義に転換する。昭和62年の判決で「有責配偶者からされた離婚請求であっても,夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態におかれる等、離婚請求を認容することが著しく社会正義に反すると言えるような特段の事情が認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできないものと解するのが相当である」として有責配偶者からの離婚を認めた。

判例が破綻主義を採用するのであれば、上記の具体的方途を提示した上で配偶者の認知症が原因で婚姻関係が事実的に破綻し、回復する見込みがないからと離婚を認めることも可能だろう。

 

家族の扶養と社会保障

上記の判断、裁判を経て、具体的方途の目処があるからと離婚宣告が下った認知症有病者の生活はどうなるだろうか。裁判の際将来に渡る具体的方途を配偶者は主張しても、その履行がされなくなることも当然に考えられる。現在のところ法はそれを元配偶者に強制する術を持たず、ひとりになった認知症有病者が保護されることなく放置されてしまうことも当然あるだろう。

家族とは本来ひとつの生活保障であった。親が子を養い、老いた親の面倒を子が見る。けれど最近になり、私的扶養で賄ってきた親の介護は社会保障が担う方向にシフトしている。2018年度の社会保障費は329732兆円にのぼり、歳出に占める割合の約33%になった。過去30年間で社会保障費は約20兆円も増加している。

もしも認知症有病者の離婚が司法で認められ、全国約600万人の認知症有病者のすべてが途端に放り出されることはなくとも、ある程度の人数が私的扶養から抜けることになるとその負担は社会保障に重くのしかかることになる。これを許すべきか否か疑問が残る。

 

 

これからの社会保障

アメリカにはreverse mortgageという制度がある。mortgageは抵当という意味で、reverse mortgageは反抵当と訳す。これは自分の家を抵当に入れて介護を受ける金額を工面し、本人が死亡した時点で家を明け渡す制度だ。Americaでは中古物件が活発に取引されているからこそできる制度であり、日本の不動産市場では中古物件は人気がないためこれを日本で有効に行えるか疑問が残る。グループホームなどとして中古物件を活用する方法を探ることが必要だろう。

 

 

認知症と後見

認知症が発症すると意思能力を失うため、生活に関わることを代わりに取り仕切る後見人が就職することになる。多くの方は後見というと本人が意思能力を失った後家庭裁判所の審判を受けて就職する法定後見人を思い浮かべるだろうが、もうひとつ任意後見という制度がある。

法定後見は民法で規定されているのに対し、任意後見は「任意後見に関する法律」が平成11年に正式に定められた。

 

 

後見制度

後見制度の違いについてみる。後見には未成年後見、成年後見の中の後見、保佐、補助といった類型がある。

一時的には未成年の保護に当たるのはその親権者であるが、親権者がその任を果たせなかったりそもそも不在である場合も当然ある。そのような場合、未成年後見をつけて親権を補助することになる。未成年後見と親権は一見したところ似たものに思えるが、まず注意義務に違いがあることに留意されたい。生まれてから関係を育み、財産上の不利益を起こすことは稀であろうことから親権者に課される子への注意義務はあくまで自己と同等の注意義務でいいとされる(827)が、一方未成年後見はそのような関係に基づくものではないから、善良な管理者の注意義務が要求される(869条、民644)。また子にかかった財産管理費用と子の財産の収益は相殺する規定が親権者についてはあるが(828)未成年後見にはこのような規定は見受けられない。

次に、能力の違いに応じて後見、保佐、補助の制度が設けられている。

後見人は被後見人の財産の管理を誠実に行わなければならないが、ときに後見人と被後見人、あるいは親子の間で利益相反が生じたり、信義則からみて許されない行為が行われることがある。どのような場合には許され、どのような場合には許されないのかをまとめてみたい。

第一に、後見人の追認拒絶が信義則に反するかどうかにつき争った判例がある。6歳程度の知能しかない者を、その姉がなんらの権限もなく代理した契約につき契約後に就職した後見人がその追認を拒絶したのが事の顛末だ。

無権代理行為がなされた場合、原則として本人はその行為の追認を拒絶することができる(113)。のちに後見人が就職した場合でもそれは変わらず、代理権をもつ後見人が本人にかわって追認を拒絶する。この判例では「相手のある法律行為をするに際しては、後見人において取引の安全など相手方の利益にも相応の配慮を払うことは当然」「当該法律行為を代理してすることが取引関係に立つ当事者間の信頼を裏切り、正義の観念に反するような例外的場合には」そのような代理権の行使は許されない場合があると認めた。利益相反、つまり108条の双方代理自己代理に該当する行為は相対的無効になる。絶対的無効の構成であれば追認しても遡及して無効だが、相対的無効では追認を得れば有効になる。

 

保佐、補助含む成年後見制度の利用数は平成30年度において約21万件にのぼる。被後見人を保護するためとはいえ、これらの法定後見が開始すると被後見人の意思が無視されることになる。日常生活に必要な物の売買はともかくとして、財産の処分を決定しても後見人に取消権が生ずることになる。

これを解決するのが任意代理制度である。法定後見は本人の意思能力が欠如してから家庭裁判所が審判を開始するが、任意代理は本人が意思能力のあるうちに任意代理人を選任し、本人が意思能力をなくしたあとの代理権の範囲を指定しておくことができる。

 

英国ではいち早く本人の自決権を尊重するMental Capacity Act2005年に施行された。従来の財産管理を主とした代理人制度を改め新たな成年後見制度として、医療や生活全般の意思決定支援にまで広げた。この制度の原則は5つある。

@ そうでないと証明されない限り、すべての成年は意思決定能力を有するとみなされる。

A 意思決定できないと判断される前に、自分で決定するための実施可能な限りの支援が尽くされていなければならない。

B 他人には奇妙または愚かと思われる決定でも尊重される権利がある。

C 意思決定能力の欠けた人のために、またはその人に代わって行うことは、それが何であれその人の最善の利益に叶っていなければならない。

D 意思決定能力の欠けた人のために、またはその人に代わって行うことは、それが何であれ、その人の権利と自由を最も制限しないものでなければならない。

英国の後見制度たるMental Capacity Actでは本人の同意が重視されているのに対し、日本の後見制度は本人に意思能力がないから同意を求めるのは無意味だと割り切ってしまっている。

民法の代理につき、そもそもなぜ代理人のなした行為が本人に帰属するのかは議論のあるところだった。現在は代理人行為説が通説となっている。代理において法律行為をなすのは代理人と相手方であり、代理人がする意思表示は本人の意思ではない。代理の効果が本人に帰属するのは代理人と相手方が本人に効果を帰属させる意思表示と、法律がこれを認めているからであり、代理権を授与する行為と代理行為は別個の法律行為である。だから代理人には意思能力が必要であるが、本人の意思表示は必要ないとされている。任意代理は法律関係の私的自治的形成を認められている本人がこの形成範囲を広げるものであり、制限行為能力者の法定代理は私的自治形成を法律によって制限された本人に代わりに与えられる保護手段である。本人の自己決定権は日本においてほとんど重視されてこなかったことが伺える。

後見制度の本来の形は任意後見だというのが、任意後見に関する法律の条文からは読み取れる。任意後見を使用している者は日本ではごく少ない。まだらぼけのような状態の認知症有病者であっても法定後見では、たとえ頭がしっかりしているときであっても本人の意思は反映されない。任意後見制度はまだ十分に市井に認知されておらず、この利用を推し進めていくことが大事だと考える。

 

 

参考文献

『平成29年版高齢社会白書』 内閣府

『民法判例百選V 親族相続』 水野紀子、大村敦志  有斐閣

『成年後見制度の現状』 厚生労働省

『代理取引の保護法理』 佐久間 毅 有斐閣

 

 

 

馬場瑞穂

親族法レポート

16K201020 馬場瑞穂

「家族法と認知症」

 

結論:日本の成年後見制度は、認知症患者が持っている権利を選ばれた後見人にすべて任せているので、英米法の自己決定型を取り入れた方が良いのではないかと考える。

 

1 家族法とは?

初めに家族法について述べる。家族法とは、相続法親族法の両方の意味を含んで使われる用語である。相続法と親族法では共に親子や夫婦を軸とする親族関係をといい、この「家族」を基礎に法律関係を取りあつかうので、相続法と親族法は、家族法と呼ばれている。また家族法(相続法と親族法)では本人の意思尊重が必要とされる婚姻の731条〜737条や遺言の961条から962条のように、民法の総則では規定されていない内容が別に定められている。日本と違いフランス・ドイツの英米では、親族法のみの意味で使われている為、家族法に相続法を含んでいない。これは家族法に相続法と親族法を共に一つの意味でまとめて考えているのが日本独自のものだからである。相続法とは、死亡という原因から関係する私法上の相続関係を規定する法律である。相続とは、被相続人の死亡を原因として、被相続人の住所において起こりうる財産上の変化のことである。この被相続人である人のことを自然人といい、この自然人が生前に所有していた一切の財産上の権利義務を特定の者(相続人)へと承継するのが相続である。また、本人の生前にあらかじめ一定の相続人に対して相続分(相続するもの)を決めておいて、後に相続が起こった時に相続人へと、あらかじめ決めておいた相続分を相続させることを法定相続主義という。そして、法定相続主義における相続人を法定相続人という。上記の相続分とは、共同で複数の人間が被相続人の財産を相続する場合に、この共同相続人のだれが、何をどのくらい相続するのかの割合のことを相続分という。そして相続が発生することで必要となる要経費は、相続財産から支払われるものであり共同相続人の財産から支払われるものではない。親族法とは、家族間・親族間などでの身分関係を規定する法であり、親族・家族関係において争いが生じた場合に、その親族・家族間での争いに対して打開する手段を規定している法である。また、協議離婚や婚姻のように法律効果を発生させる身分上の法律行為を身分行為という。要式行為(ある一定の形式を用いる)が身分行為の大部分を担っており、原則として代理行為は身分行為においては適用できず、行為能力に関係する規定も身分行為においては適用されない。瑕疵ある意思表示・意思の不存在に関する規定も同様に適用されないとされている。親族法は、社会秩序・国の秩序のように基本秩序に関係している為、強行規定が主な部分を担っており、大きく私的自治の原則が制限されている。また家庭裁判所は身分関係に対して、身分関係を規律する為に後見的な関与をしている。

 

2 超高齢化社会と相続

日本における高齢化は、世界のどの国も経験したことのない速度で進行しており、高齢者の割合が最も高く、他のすべての国を上回ると考えられている。2018年、日本の人口の28.1%が65歳以上で、14.2%が75歳以上である。日本では、出生率が低下し、平均寿命が伸び、劇的な高齢化が続き、2011年に人口が減少し始めた。高齢化が進む日本で気を付けていかなければならないことは、相続に関することである。それは、後見人を誰にするかということである。まず、成年後見制度について説明する。成年後見制度とは、認知症・知的障害・精神障害等によって物事を判断する能力が十分でない方について、その権利を守る援助者(後見人等)を選任する事によって、本人を法律的に保護・支援する制度である。具体的には、選ばれた後見人が、本人の財産を管理したり、本人の為に診療・介護・福祉サービスなどの契約を締結したりする。後見開始後は、後見人は家庭裁判所の監督のもとに置かれますので、安心して利用できる制度です。一方英米法では制限行為能力者の意思決定を支援する(Mental Capacity Act)意思決定能力、とあるように自己決定型の制度を取り入れている。日本法とは違い同意見中心となっている。日本の成年後見制度には2種類あり、法定後見と任意後見がある。任意後見とは、今現在は判断能力に問題のない人が、将来判断能力が不十分になった時に備え、信頼できる人(将来の後見人)と支援内容について公正証書を作成して契約を結んでおくものである。その後、実際に判断能力が低下したときに、家庭裁判所が後見監督人を選任すると、この契約の効力が発生し、後見人は契約で定められた事務処理を始めることになる。このように任意後見では、契約後その効力が発生するまでに数10年かかることも考えられるため、併せて「見守り契約」や「任意代理契約」を結んでおくこともできる。成年後見人の義務の1つに善管注意義務がある。善管注意義務とは、職業上や社会通念上、客観的に期待される程度の注意義務で、自己の財産におけるのと同一の注意をなす義務(自己同一注意義務)よりも重い義務である。この注意義務を怠って何らかの損害や損失を与えた場合は賠償責任を負うことになる。成年後見人は被後見人を保護する立場にあることから、後見人には常に、善良なる管理者の注意義務が要求される。

 相続開始により、相続人は被相続人の一切の地位を承継する。本人と無権代理人が相続人と被相続人の関係にある場合、相続開始によって、@無権代理人が本人の地位を承継し、あるいは反対に、A本人が無権代理人の地位を承継する。また、B第三者が本人の相続人と無権代理人の相続人とを兼ねる場合には、その者が本人の地位と無権代理人の地位をともに承継することが起こりうる。このように、相続によって本人の地位と無権代理人の地位とが同一人物に帰属した場合に、無権代理をめぐる法律関係をどのように処理すべきかが問題となる。それが無権代理と相続と呼ばれる問題である。無権代理行為の効果は、本人に帰属しないのが原則である。ただし、無権代理行為の効力が完全に否定されるわけではなく、本人への効果の帰属が不確定の状態にあるにすぎない。それゆえ、無権代理行為の効果を不確定無効などと言うことがある。

無権代理行為は、本人の追認または追認拒絶によってその効果の帰属の有無が確定する。すなわち、本人がその行為を追認したときには本人にその効果が帰属し、本人が追認を拒絶したときには本人に効果が帰属しないことが確定する。 一方で、無権代理行為の相手方は、本人に追認するかどうかの確答を催告する権利を有する。また、相手方は、本人が追認する前に無権代理による契約を取り消すことも可能である。

 そして、契約を無効にできる場合もある。無効は、誰に対しても主張することができる。つまり、法律行為の当事者に対してだけではなく、第三者に対しても無効を主張することができるのが原則である(絶対的無効)。しかし、明文の規定あるいは解釈によって、特定人に対しては無効を主張できないとされる場合がある。民法94条2項が虚偽表示による無効を善意の第三者に対して主張することができないと定めており、また、同規定が93条ただし書の場合にも類推適用されると解されているのがその例である。このように、無効主張の相手方が制限されているような無効を相対的無効と呼ぶ。

 

3.高齢者や障害者の利益相反

認知症高齢者や知的障害者、精神障害者の場合、その症状(障害)の程度によっては成年後見人を立てることができる。成年後見人は、被後見人の財産管理を行います。そのため、資産売却などの契約の代理権を持つ。よって高齢者や障害者(被成年後見人)と成年後見人との間でも2で挙げたような利益相反行為があり得る。被後見人(認知症高齢者、知的障害者、精神障害者)の土地を買ったり売ったりする相手が成年後見人自身であった場合には、その代理権もしくは売買契約自体が無効になる場合がある。

 

4 高齢期から利用できるリバースモーゲージ(reverse mortgage)とは

 リバースモーゲージとは、高齢期に利用できる金融機関による融資制度の1つである。自宅に住みながら、その不動産を担保に融資を受けられる仕組みである。お金はまとまった一時金か、分割かなどを選択し受け取ることができる。お金は金融機関によって、まとまった一時金か、分割かなどを選択し受け取ることができる。満期時や、契約者の死亡後に不動産を売却するなどして返済することができる。自宅に住み続けながら、自宅を担保にして一時金や月々の生活費を借りられる仕組みが「リバースモーゲージ」である。金融機関や社会福祉協議会の一部で取り扱っている。20年などあらかじめ設定されていた契約期間満了時、あるいは亡くなったときに、自宅を売却するなどして借入金を返済する。死亡時に自宅を売却して返済した場合は、差額が残れば遺族に支払われる。利用できる年齢は金融機関などで異なりますが、5565歳以上などと高めになっている。物件種類や築年数等の条件があるものの、リバースモーゲージが利用できれば、高齢世帯にとっては非常に助かる制度といえる。借り入れには主に三つのプランがあり、毎月(または毎年)一定額の融資を受ける「年金型」、一時金としてまとまった金額を一括して借りる「一括融資型」、必要なタイミングで借りる「枠内自由引出型」がある(金融機関によって異なる)。

 

5 統合失調症と離婚

統合失調症の離婚率は30%と言われている。一般の離婚率が10%程ですから約3倍の離婚率になる。そして統合失調症の自殺率は一般の自殺率の約30倍と言われている。統合失調症を患うと言う事はそれだけで人生が変わってしまうのである。本人にとっても辛いのは勿論ですが、結婚している場合は配偶者にとっても非常に辛いものがある。陽性期においては、配偶者の妄想、幻覚から来る症状に振り回され、陰性期においてはその症状により感情の乏しくなった配偶者と過ごさなければならないのである。

また、統合失調症の場合、その発症した人の殆んどが職を失うのが実情である。夫婦二人だけの場合でも配偶者の負担はありますが、子供さんがいるならば、経済的な問題は大きな障害になる。場合によっては、小さな子供を抱えながら仕事に出なければならない事もある。肉体的にも精神的にもその負担は離婚を考えるには十部な要因と言える。

離婚の場合、まずは当事者同士で話し合い、話がまとまらなければ調停へ進む。そして調停でも合意に至らない場合は、裁判へと進むことになる。離婚裁判には、離婚を判断する際の基準として、有責主義と破綻主義という異なる思想がある。有責主義とは、離婚裁判の被告に離婚原因がある場合のみ離婚請求を認める考え方で、旧民法の時代には有責主義で離婚を認めるかどうか判断していた。有責主義においては、有責事由が法律で定められており、その有責事由に該当するとき、原告からの離婚請求を認めるとしている。相手に離婚原因がなくてはならないので、離婚の原因を作った有責配偶者から、離婚を請求するのは考えられない。いくら離婚したくても、法律で定められた有責事由に該当している必要がある。しかし、離婚できないからといって、夫婦が元通りに円満な関係を続けられるはずもなく、実態としては完全に婚姻関係が破綻した事実上の離婚が残ってしまう。別居した夫婦を強制的に同居させて、婚姻関係を続けさせることなど当然できず、有責主義において離婚請求が認められるのは、かなり限定的である。その後、有責であることを問うのではなく、婚姻関係が破綻してしまった夫婦においては、離婚請求を認める破綻主義へと移っていった。婚姻関係が破綻していてもなお、有責配偶者からの離婚請求は認めないとする考え方を消極的破綻主義、婚姻関係が破綻していれば有責性を問わず離婚請求を認める考えを積極的破綻主義と呼ぶ。

有責主義から破綻主義への移行時には、消極的破綻主義を前提としており、有責配偶者からの請求は依然として退けられてきた。その後、幾度も判決が出されていくに従って、有責配偶者からの離婚の訴えであっても、相手配偶者よりも有責性が小さければ離婚を認めるようになり、やがては積極的破綻主義へと移っていく。そもそも、離婚で裁判が起こること自体が既に円満な婚姻関係の継続は実現不可能に等しく、離婚請求を棄却しても、何の解決にならない現実を考えると、破綻主義の考え方は合理的であるとも言える。それでも、離婚によって相手配偶者が著しい不利益や苛酷な状況に置かれてしまうようでは、家庭裁判所の後見的な機能が発揮されないことから、積極的破綻主義においても相手配偶者の生活が保障される環境を前提にして離婚を認めている。

<まとめ>

 日本の成年後見制度は、認知症患者や、障碍者の権利を後見人がすべてを担うということが分かった。しかし、認知症患者が介護や財産の面で、後見人と意思の疎通が図れなかった場合に、問題が起きてしまうので、イギリスが取り入れている英米法は自己決定型なので、英米法を参考にした方がいいと考える。

 

引用文献

・高齢者の不動産活用術

https://kaigo.homes.co.jp/manual/money/asset_management/general/reversemortgage/

・統合失調症の症状の具体例

http://tougoukibou.com/entry2.html

・利益相反取引とは?

https://www.sgho.jp/kouken/

・女性のための離婚知恵袋

http://www.rikon-chie.org/saibanrikon/646.html

・法務省

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html

 

 

 

 

 

 

吉岡広貴

中江先生

 

おはようございます。

帝京大学法学部法律学科 吉岡広貴と申します。

 

親族法の試験レポートを、本メール本文に記載して提出致します。

 

よろしくお願い致します。

 

「家族法と認知症」

私は、任意後見契約の制度に賛成である。

 

1.       はじめに

 任意後見契約の制度に賛成であると考えた理由は、以下の通りである。

@      法定後見とは異なり、自分の意思で後見人を選任できるので、後見開始後も本人の権利が活きやすい。

A      任意後見契約は解除することができる。(任意後見契約に関する法律第9条)

B      任意後見契約締結後、すぐに後見が開始されるのではなく、精神上の障害により本人の事理弁識能力が不十分な状況にあって、かつ任意後見監督人が選任されてからでないと、後見は開始されない(任意後見契約に関する法律第2条、第41項)ため、本人に事理弁識能力がある間は、本人の権利は一切侵害されない。

 これらの理由から、私は、任意後見契約の制度に賛成であると考えた。現在の日本では、多くの高齢者が認知症(主にアルツハイマー型認知症)を発症し、判断能力を大きく欠いてしまった高齢者が、詐欺をはじめとした犯罪に巻き込まれ、なけなしの財産を根こそぎ奪われてしまう事例が後を絶たない。こうした財産を、第三者可能であれば自分がよく知り、信頼できる人物に守ってもらうことができる点は非常によいと考えたためである。

 

2.       任意後見契約

 任意後見契約は、法定後見とは異なり、被後見人となる者(委任者)が己の事理弁識能力が不十分になる前(後見人が必要となる)前に、自分の意思で後見人(受任者)を決定できる制度のことである。

 良い点として、任意後見契約締結後、すぐに後見開始となるのではなく、あくまでも事理弁識能力が不十分になってから、本人・配偶者・四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、家庭裁判所が任意後見監督人を選任するまで、後見は開始されない(任意後見に関する法律第41項)という点が挙げられる。後見監督人の選任より前に行われた代理行為については無権代理となり(相対的無効の形をとる)、取り消しうる後見監督人(後見監督人は注意義務を負う)の追認がなければ、無権代理による契約は認められない(効力は発生しない)。代理人の、利益相反行為を防止するためである。法定後見人・任意後見人に関わらず、法定代理人が正常な判断からではなく、自己の利益の絡んだ判断をしてしまうおそれがあるので、第三者が公平な判断をするべきだからである。

 

3.       Mental Capacity Act(意思決定能力法)

 Mental Capacity Actは、直訳すれば意思決定能力法という意味である。いわば、自己決定をサポートする法律のことといえる。日本の「任意後見契約」もこれにあたるだろう。Mental Capacity Actは、「保護」の名の下に被後見人の意思決定能力を排除してしまうのではなく、被後見人の意思決定能力を最大限引き出して、可能な限り、本人も意思決定の判断過程に参加してもらうことを目的としたものである。

冒頭でも述べたとおり、任意後見契約に関する法律第91項によると、任意後見監督人が選任される前においては、本人又は任意後見受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって、任意後見契約を解除することができる。また、同条2項では任意後見監督人が選任された後においても、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、任意後見契約を解除することができるとしている。

 法定後見も任意後見も、後見監督人なしに、後見を開始することはできない。

 これは「後見は受けない」自由な意思決定を促すものと捉えられると私は考える。

 残念ながら、日本の法律の現状では、後見人にほぼ一任されるかたちとなってしまい、本人の意思決定能力がほとんど認められない状況である。だからこそ、「任意後見制度」だけでなく、さまざまなMental Capacity Actが考案、認められていく必要があると私は考える。

 

4.       Reverse Mortgage(リバース・モーゲージ)

 Reverse Mortgageとは、自宅(持ち家)を担保として、そこに住み続けながら金融機関から融資を受けられる、主に高齢者をターゲットとした融資制度のことである。住人(Reverse Mortgage契約締結者)死亡後は、自宅を売却して返済に充てるというものだ。このReverse Mortgageだが、財産処分の観点からして非常に有用な者とも思えるが、現在様々なトラブルが発生し、テレビでも取り上げられるほどになっている。

 どのような面でトラブルに発展するのかというと、子などの法定相続人に、不動産が相続されないという点で、Reverse Mortgage利用者が、法定相続人にその契約を締結していることを伝えていなかった場合、相続人の人生設計に大きな影響を与えてしまう可能性があるということが主に問題点としてあげられる。

 

5.       認知症を理由とする離婚

 民法第7701項で規定される、離婚の訴えを提起できる条件は

一 配偶者に不貞な行為があったとき。

二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。

三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。

四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

とされている。認知症を理由に離婚することは可能か。四号で、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。」とあるが、これを理由に離婚の訴えを提起することは可能か。

 現在のところ、認知症は精神病としては認められていない。そもそも、四号をもって離婚が認められることはほぼない。統合失調症などの、精神障害といえるものであっても、同様である。

 五号を用いて「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとして、四号を理由とする離婚請求は棄却した上で、「婚姻生活の破綻の主な原因は妻の粗暴で家庭的でない言動にあり、夫がそれを今後許容していくことは難しい」として離婚を認めた例はある。

 こうした夫婦間の共同生活が客観的に破綻し、和合回復の見込みがなくなった場合に、それについての当事者の責任の有無を問わず離婚を認める立法上の立場を破綻主義という。配偶者の一方の有責行為のみを離婚原因とする有責主義に対するものである。近年の精神病及び婚姻を継続し難い重大な事由という新たな離婚原因に対応することで、有責主義から破綻主義へ移行した。

 配偶者が認知症と診断されていても、離婚の意味とその効果を理解しうる事理弁識能力があれば、夫婦間で離婚について話し合い、夫婦間で合意ができれば離婚することができる、夫婦間で協議することが難しい場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、それでも解決できない場合は、離婚裁判を起こして離婚を目指す形になるのだが、認知症を発症した配偶者が、症状の進行によって、離婚の意味や効果を理解できなくなっている(事理弁識能力に欠ける)場合は、離婚するか否かを判断することが難しいため協議離婚や調停離婚はできない。

 離婚裁判においても、家庭裁判所が配偶者の手続き行為能力に問題があると判断した場合は、手続きが中断され、手続きを進めるためには配偶者について成年後見制度を利用しなければならなくなる。

 配偶者に認知症を理由に、民法第7701項四号「回復の見込みのない強度の精神病」を理由に離婚できるとも考えられるが、「病気の性質等に照らせば、認知症が強度の精神病に該当するか否か疑問が残るとした判例がある。

 この判例の裏には、政治的理由も少なからずあると私は考える。もし簡単に認知症を理由にした離婚の判例を作ってしまえば、いわば家族が見捨てる形で認知症を患った家族を家から追い出すことがまかり通ってしまう。そうなれば、ただでさえ後を絶たない高齢者の孤独死や、高齢者の起こす事故の増加に拍車をかけることにも直結しかねない。家族による金銭的、身体的サポートがうけられなくなるため、介助するべき人間をヘルパーのように金銭で雇わなければならなく上に、認知症の高齢者本人に財産がなければ、生活保護受給の件数も増える。そうなれば、日本の財政を圧迫する原因ともなりかねないと考える。

 

6.       私見と考察

 私は、認知症を理由とする離婚は認めるべきではないと考える。なぜならば、先ほども述べたとおり、認知症を理由とした離婚を認めてしまえば、邪魔になった「もうなにもわからなくなってしまった家族」を家から追い出すことがまかり通ってしまうからである。

 確かに、日本の家庭の現状からいっても、認知症の家族がいることはとてつもない負担である。ただ物忘れが激しいだけならいいのだが、認知症は脳細胞の死滅や活動の低下によって、日常生活・社会生活が困難になる状態のことをいう。記憶の消失だけでなく、理解力・判断力にも支障を来し、場合によっては妄想が激しくなる・幻覚を見るようになるなどといった症状もみられ、意味もなく徘徊をはじめたりもする。認知症はパーキンソン病をはじめとした、身体的自由に大きな影響を与える病気を併発することが多い。こうなれば家族の介助だけでは足りず、介護士(ヘルパー)を必要とする場面が増えてくるであろう。しかし、彼らを雇う十分な金銭的余裕がない、そもそもの介護施設・介護士不足から、金銭的には余裕があっても介護してくれる人がいない。というケースもある。家族の監視の目の隙に、自動車で徘徊して事故をおこし、帰ってきたと思えば、自動車は破損し本人は「何があったか覚えていない。」という有様、あとから警察が来て物損事故にとどまらず、下手をしたら人をはねていたなんて話も近年マスコミの報道に多く取り上げられている。運転免許を返納したのにもかかわらず、返納したことを忘れて自動車を運転してしまうような高齢者がいる中で、離婚により「野放し」の状態になってしまうことは、考えただけでも恐ろしい。ただでさえ少子高齢化社会で、子供が急激に減り続ける世の中で、高齢者が(自分の意思でないにしても)子供を轢き殺すのが日常茶飯事の世の中になれば、日本経済は破綻しかねない。

 離婚して縁を切るなどという楽な道を選ぶ形式を整えるのではなく、できる限り認知症の人に家族が寄り添っていける世の中をつくっていくのが、難しいだろうが最善策であると私は考える。今回の話題にも上がった任意後見の制度など、うまく活用していけば、いままで「わからない」で終わっていたことも、ある程度本人が選んだ後見人の働きという形で、本人の意思を尊重しながら解決していくことができる。また、日本にもMental Capacity Actとなるものを整備していくことが必要だと私は考える。日本の現在の法制度では、未だ認知症患者の権利を極端に制限してしまう。

 

【参考文献、参照文献および参照データ】

内田貴、『民法T 第4版 総則・物権総論』、東京大学出版会(2015年)、111頁・143頁・151頁〜155頁・163

絶対的無効・相対的無効・無権代理無効

https://www.google.com/amp/s/okwave.jp/amp/qa/q3812419.html

2008.2.262019.7.31

長生きするとリスクが増える!?リバースモーゲージの問題点とは?

https://www.housedo.co.jp/leaseback/media/oldage/reverse_morgage_prpblems

2018.10.302019.7.31

認知症の症状から予防・対応方法まで

https://kaigo.homes.co.jp/manual/dementia/

2019.7.31

認知症は離婚原因になる?認知症の高齢者の夫や妻と熟年離婚できる?

https://rikonhandobook.com/ninchishou/

2019.4.62019.7.31