<pre>☆重要判例

 ★恵庭(えにわ)事件

  概要:自衛隊演習場の近隣で酪農を営み騒音により牛乳生産量が落ちた兄弟が、「境界付近での射撃訓練については事前に連絡する」と自衛隊と確約していた。しかし、自衛隊にその確約を破られ、自衛隊の着弾地点との通信回線を切断した。これに対し検察は、通信回線は「その他の防衛の用に供する物」に該当するとして防衛器物の損害(自衛隊法第121)で起訴。

第一審判決では通信回線は自衛隊法「その他の防衛の用に供する物」に該当しないとして、被告人に無罪を言い渡した。自衛隊の憲法判断に関しては、被告人の行為が無罪である以上、憲法判断を行うべきではないとして、これを回避した。検察は上訴をせず、また無罪となった被告人の上訴は訴えの利益がないとして上訴できないため、無罪が確定した。

 ★長沼事件

  概要:北海道夕張郡長沼町に航空自衛隊の「ナイキ地対空ミサイル基地」を建設するため、農林大臣が1969年、森林法に基づき国有保安林の指定を解除。これに対し反対住民が、基地に公益性はなく「自衛隊は違憲、保安林解除は違法」と主張して、処分の取消しを求めて行政訴訟を起こした。一審の札幌地裁は「平和的生存権」を認め、初の違憲判決で処分を取り消した。国の控訴で、二審の札幌高裁は「防衛施設庁による代替施設の完成によって補填される」として一審判決を破棄、「統治行為論」を判示。住民側・原告は上告したが、最高裁は憲法に触れず、原告適格がないとして上告を棄却。

 ★百里基地訴訟(最判平元6.20)

  事案:航空自衛隊の百里基地を設置する際、基地建設予定地を所有していた住民が、建設反対派の住民に売った土地の契約を解除して防衛庁(現・防衛省)にその土地を売った。このことで土地所有権の帰属に関連し、自衛隊の合憲性が争点となった。

  判旨:1国の行為であっても、私人と対等の立場で行う国の行為は、個別的・具体的ながらも公権力を行使して法規範の定立を伴わないから憲法981項にいう「国務に関するその他の行為」に該当しない。

     2.国が行政の主体としてではなく私人と対等の立場に立って私人との間で個々的に締結する私法上の契約は、当該契約がその成立の経緯及び内容において実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法9条の直接適用を受けず、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるにすぎない。

     3.自衛隊基地の建設という目的ないし動機が直接憲法9条の趣旨に適合するか否かを判断することによって、本件売買契約が公序良俗違反として無効となるか否かを決すべきではないのであって、自衛隊基地の建設を目的ないし動機として締結された本件売買契約を全体的に観察して私法的な価値秩序のもとにおいてその効力を否定すべき程の反社会性を有するか否かを判断することによって、初めて公序良俗違反として無効となるか否かを決することができる。

 ★砂川事件(東京地判昭和34.3.30・最大判昭34.12.16)

  事案:アメリカ軍の立川基地拡張の測量で、拡張に反対するデモ隊の一部が、アメリカ軍基地の立ち入り禁止の境界柵を壊し、基地内に数m立ち入ったとして、デモ隊のうち7名が日米地位協定の実施に伴う刑事特別法違反で起訴された事件。

  第一審判旨:「日本政府がアメリカ軍の駐留を許容したのは、指揮権の有無、出動義務の有無に関わらず、日本国憲法第92項前段によって禁止される戦力の保持にあたり、違憲である。したがって、刑事特別法の罰則は日本国憲法第31条に違反する不合理なものである」と判定し、全員無罪の判決を下した。

  最高裁判旨:「憲法第9条は日本が主権国として持つ固有の自衛権を否定しておらず、同条が禁止する戦力とは日本国が指揮・管理できる戦力のことであるから、外国の軍隊は戦力にあたらない。したがって、アメリカ軍の駐留は憲法及び前文の趣旨に反しない。他方で、日米安全保障条約のように高度な政治性をもつ条約については、一見してきわめて明白に違憲無効と認められない限り、その内容について違憲かどうかの法的判断を下すことはできない」(統治行為論)として原判決を破棄し地裁に差し戻した。

☆解答

.  1(正しい) (砂川事件 最大判昭34.12.16 日米安保条約の合憲性が争われた事件)

.  1(正しい) (砂川事件 最大判昭34.12.16)

.  2(誤り)  (砂川事件 最大判昭34.12.16)

.  1(正しい) (百里基地訴訟 最判平元6.20 自衛隊の百里基地の用地買収をめぐる民事事件)

 

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