相続人と第三者
遺産分割の際に相続人と第三者の関係は問題になる。
遺産分割の意義
遺産分割とは、共同相続の場合において、遺産を構成する相続財産を分割して、各相続人の単独所有とすることをいう。
相続財産はいったん共同相続人全員の共有に属するが、それは過度的な状態であって、最終的には遺産分割手続きを通じて各相続人に分配されることになる。
遺産分割は、遺産を構成する相続財産のすべてを一括して分割する手続きであって、ここの財産について共有関係を解消する共有分割とは異なる。
遺産分割の方法
遺産分割の方法総説
民法が定める遺産分割の三つの方法を、それらが適用される優先順位に従って並べると、@遺言による指定分割、A協議分割、B裁判分割となる。
遺言による指定分割
はじめに
被相続人は、遺言で、遺産分割の方法を定め(遺産分割方法の指定)、もしくはこれを定めることを第三者に委託すること(遺産分割方法の指定の委託)が出来る(民法第908条)。
しかし、遺留分という遺族の生活を保障する規定があり、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人には相続開始とともに相続財産の一定割合を取得しうるという権利(遺留分権)が認められる(民法第1028条)。
これにより被相続人の「財産の全てを愛人に贈与する」などの遺言は無効となる。
遺産分割の方法
遺産分割の方法には、@現物分割、A換価分割、B代償分割、および、Cそれらを組み合わせる方法の四つがある。
したがって、被相続人が遺言でそれらの方法の選択を指定できるということはいうまでもないが、実際には、より具体的に、個々の相続財産の帰属まで指定することが多い(たとえば「甲不動産は長男Aに相続させ、乙不動産は二男Bに相続させる」というように)。後者の遺言の性質については、遺贈と解する説と遺産分割方法の指定と解する説との対立があるが、「特段の事情のない限り、遺産分割方法の指定と解すべきである」というのが判例の見解である。
具体的指定による分割の結果が法定相続分の割合と異なる場合には、遺産分割方法の指定と併せて、相続分の指定が行われたことになる。
協議分割
遺産分割自由の原則とその制限
遺産分割自由の原則
共同相続人は、遺言による遺産分割方法の指定または指定の委託がない限り、いつでも協議で遺産を分割することができる(遺産分割自由の原則、民法第907条1項)。
遺産分割自由の原則の制限
ただし、被相続人は、遺言で、5年を超えない期間を定めて、遺産分割を禁止することができる(民法第908条)。
また、遺産分割の審判の請求を受けた家庭裁判所は、特別の事由があるときは、期間を定めて、遺産の全部または一部について、分割を禁止することが出来る(民法第907条3項)
さらに、明文の規定はないが、共同相続人間の協議によって、5年を超えない期間内、遺産分割を禁止することができると解するのが通説である。
遺産分割協議の詐欺行為取り消し
総説
相続人がした遺産分割協議を相続債権者(相続財産に属する債務の債権者)や相続人の債権者は詐欺行為として取り消すことができるか。
判例は、遺産分割協議は相続財産の帰属を確定させるものであるから、その性質上、財産権を目的とする法律行為であるとして、これを肯定している。
詐害性の認められる遺産分割
もっとも、どのような遺産分割に詐害性が認められるかは一義的には定まらない。
遺産分割は各共同相続人の特別便益・寄与分を考慮してなされるので、法定相続分と異なる分割がされても贈与の要素がない場合もある。
また、民法は遺産分割において、各相続人の種類、性質、各共同相続人の生活状況を考慮することを正面から認めているので、寄与性があっても詐害性が否定される場合があると解されるからである。
そのため、共同相続人が債権者を害する意思で過小な財産しか取得しない場合に限定して、詐害性を認めるという見解が有力である。
ちなみに民事訴訟においては弁論主義が採用されている。弁論主義における事実の扱いは判例に大きく影響し、弁論主義の適用される事実とはいったい何なのかという問題が残ってしまう。
遺産分割協議の当事者
はじめに
遺産分割協議には共同相続人全員が参加しなければならない。
一部の相続人を除外してなされた協議は、原則として、無効であり、除外された相続人は他の相続人に対して再分割を請求することができる。
他の共同相続人がすでに遺産分割をしている場合
ただし、遺言認知や死後の強制認知によって相続人となった者が遺産分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人がすでに遺産分割をしているときは、再分割を請求することはできず、その者は価額のみによる支払の請求権を有する。
非嫡出子の相続権と他の共同相続人の既得権との調整を図る趣旨である。
この規定は、父を被相続人とする相続において、その非嫡出子たる相続人につき遺産分割後に認知が行われた場合に限って適用される。
910条の類推適用の可否
これに対して、母の死亡による相続について、遺産分割後に非嫡出子の存在が明らかになった場合には、910条を類推適用することはできない。
なぜなら、母と子の親子関係は、認知によるまでもなく、分娩の事実によって当然に発生しているからである。
したがって遺産分割は無効である、非嫡出子は再分割を請求することができる。
遺産分割の効力
遺産分割の遡及効
総説
宣言主義
遺産分割の効力は、相続開始の時にさかのぼって生ずる(民法第909条本文)
すなわち、各相続人は、遺産分割によって取得した財産を、相続開始の時に被相続人から直接承継したものとして取り扱われるのである。
このような扱いを宣言主義という。
移転主義
これに対して、通常の共有物の分割には遡及効がなく、分割時から将来にむかって、共有者間で持ち分の移転が生じる。
このような取扱を移転主義という。
民法第909条は、遺産分割の遡及効(宣言主義)を規定している。
遺産分割前の第三者との関係では遡及効の制限を認めているが、これは、解除前の第三者の保護と同じ趣旨である。
なお、遺産分割後の第三者との関係は対抗問題として処理するのが判例である。
相続人が数人あるときは相続財産は共同相続人の共有に属することになる。この「共有」の意味については共有説と合有説の対立があるが、判例は共有説をとっている。
共有は、みんなと一緒にもつ自分のもの。
合有は、本当は自分のものだけどみんなと一緒にいるときはみんなのもの。
このように考えたら理解できた。
遡及効の制限
はじめに
遺産分割における宣言主義取扱は現行法上必ずしも貫徹されておらず、次のような例外ないし制限が定められている。
遺産分割前の相続財産の処分と第三者保護規定
総説
遺産分割は、第三者の権利を害することができない。
遺産分割の遡及効を制限して取引の安全保護を図る趣旨である。
ここにいう「第三者」は、相続開始後、遺産分割前に、個々の相続財産に対する共同相続人の持ち分について、譲渡や担保権の設定を受けた者、あるいは差し押さえをした債権者などをいう。
第三者として保護されるためには、相続財産に対する共同相続人の持ち分について、譲渡や担保権の設定を受けた後、あるいは差し押さえをした債権者などをいう。
第三者として保護されるためには、相続財産であることについて善意か悪意かを問わないが、対抗要件を備えた者であることを要する(通説)。
論点と問題の所在
甲土地の所有者Aが死亡し、BCが共同相続したところ、Bが甲土地を単独相続する遺産分割協議が成立した。ところが、Bが登記を備える前に、Cが甲土地をDに譲渡してしまった(登記済み)。この場合甲土地の所有権を取得することができるか。
遺産分割の効力は相続開始に遡るから、相続開始時からBは単独所有者であったことになる。そこで、遺産分割により所有権を取得した者は、かかる所有権の取得を第三者に対抗するためには登記が必要なのかが問題となる。
検証
まず、遺産分割前のBの持ち分については、Bは登記なくして所有権を主張しうるが、遺産分割前にCの持ち分であった部分についてはどうか。
確かに遺産分割は遡及効を有するから、Dは無権利者Cからの譲り受け人というここになり、Bは登記なくして対抗出来るとも思える。
しかし、遺産は、相続開始によりいったん相続人の共有となり、共同相続人の協議を経て最終的なその権利の帰属が決定される(分割される)。
これは第三者に対する関係でみれば、相続人が相続によりいった
取得した権利につき分割時に新たな変更が生ずるのと実質上事ならない。
よって不動産に対する相続人の共有持ち分の遺産分割による得喪変更については177条の適用があり、遺産分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は、その旨の登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、取得した持ち分を対抗できないと解する。
また相続放棄と異なり、最終的な権利関係が確定するから、権利者に登記を要求しても酷でない。
したがって、Bは登記を備えていない以上、甲土地が遺産分割により自己の単独所有となったことをDに対抗できない。
第三者の権利に対しては遡及効を主張することができなくなった現在、宣言主義の必要性あるのかという疑問が生まれた。
しかし、登記手続きにおいては、分割による所有権移転登記は、被相続人名義から直接、取得者名義に移転登記を求めてもよく、共同相続による共有名義での登記をしたのちに移転登記を求めてもよいとされているので、より簡便な手続きである前者の方法の根拠となっている宣言主義の考え方を残す意義はあるのだと思う。
最判平10.2.13
不動産の死因贈与の受贈者が贈与者の相続人である場合において、限定承認がされたときは、死因贈与に基づく限定承認者への所有権移転登記が相続債権者による差し押さえ登記より先にされたとしても、信義則に照らし、限定承認者は相続債権者に対して不動産の所有権取得を対抗することができないというべきである。ただし、被相続人の財産は本来は限定承認者によって被相続債権者に対する弁済にあてられるべきものであることを考慮すると、限定承認者が、相続債権者の存在を前提として自らに対する所有権移転登記手続きをすることは信義則上相当でないものというべきであり、また、もし仮に、限定承認者が相続債権者による差し押さえ登記に先だって所有権移転登記手続きをすることにより死因贈与の目的不動産の所有権取得を相続債権者に対抗することができるものとすれば、限定承認者は、右不動産以外の被相続人の財産の限度においてのみその債務を弁済すれば免責されるばかりか、右不動産の所有権をも取得するという利益を受け、他方、相続債権者はこれに伴い弁済を受けることのできる額が減少するという不利益を受けることとなり、限定承認者と相続債権者との間の公平を欠く結果となるからである。
遺贈と死因贈与の違いについて明確にわからなかったが、贈与は贈る方、貰う方が合意した「契約」。遺贈は一方的な単独行為ということを知って正確に理解することができた。