09J101020  酒井 詩織

 

社会保障法Aレポート  テーマ 老人医療の見直しの方法

老人医療を見直す方法を検討するにあたって、まずは日本の老人医療の現状や法律はどうなっているのかを調べてみた。

1、高齢者と医療費の関係

年間の医療費支出を測るには、国民医療費を用いる。医療費は主に3つの構成要素(保険料、公費、自己負担)によって構成されており、この3者の微妙なバランスの上で日本の医療は成り立っている。この国民医療費は、1999年度に初めて30兆円を突破した後もなお増え続けている。国民医療費を対国民所得と比較してみても、その割合は増え続けている。この国民医療費増加の最も大きな原因は「人口の高齢化」であるといわれている。高齢者は一般に、病気にかかるリスクが高く、病態も慢性化・複合化する傾向がある。そのため、現役世代と比べて相対的に多額の医療費がかかる。『老人医療事業年報』(2001)によると、70歳以上の高齢者1人当たり診療費は現役世代の4.8倍にもなる。加えて、2003年度の国民医療費31.5兆円のうち、ほぼ4割の12.4兆円は70歳以上の高齢者が消費した。高齢者の医療費の大半は老人保健制度を通じた就業者からの所得移転によって維持されている。高齢者が消費する医療費の大きさから、高齢化が医療費の負担構造にもたらす影響の大きさが分かる。さらにいえば、高齢化が医療費の負担構造にもたらす影響の大きさは、医療制度の根幹に関わるものである。               厚生労働省保健局調査課によると、1人の人の生涯医療費は、1998年度価格で約2200万円、一生のうちで使う医療費のうち60歳以上で66.8%を、70歳以上で50.7%を使うことになり、生涯医療費のうち半分以上は老齢になってから使われるという。その老齢になった人が爆発的に増えているのだから、医療費の高騰は仕方のないことである。しかし、それに伴う適切な処置というものが、まだ考えられていないように思われる。働いて収入を得られなくなった年齢層に対して、誰がどのように医療費を負担するのか。現役世代の数倍の医療費を使うには、誰がその医療費を負担するのか。現役世代の所得移転での賄い方が問題となる。そこで、何歳以上の者を高齢者と定義するのか、高齢者に保険料をいくら負担させるのか、高齢者が患者になったとき、患者の負担をいくらにするのか、といったような問題は、高齢者にとっても、その家族にとっても深刻な問題である。

2、後期高齢者医療制度

老人医療は、これまで1983年に施行された「老人保健法」に基づいて実施されて来ていて、財源は国・都道府県・市町村の負担金及び健康保険等(政府管掌保険、共済組合、健康保険組合、国民健康保険等)の拠出金でまかなわれてきた。高齢化が進むにつれ、財政負担の増加に対応するため、これまで被保険者の年齢や窓口負担等の引き上げ等を行うなど制度改正を行ってきたが、高齢者医療費がなおも増え続ける状況にあって、財政負担を抑制することがこの制度創設の主な目的だとされている。ただ政府は「財政的な配慮が先行しているのではなく、後期高齢者の健康状態、ケアのあり方が前提である」と言っている。これまでの制度と大きく異なる点は、「老人保健法」による老人医療制度では他の健康保険等の被保険者資格を持っているまま老人医療を適用していたのに対し、後期高齢者医療制度では適用年齢(75歳以上)になると、現在加入している国保や健保を脱退させられ、後期高齢者だけの独立した保険に組み入れられるという点や、徴収方法が年金からの天引きが基本となっていることが挙げられる。また、一つの病名によって1か月の医療費が決められる「包括制」や、新たに設けられた診療報酬なども挙げられる。

診療報酬とは、保険診療の際に医療行為等の対価として計算される報酬を指す。診療報酬点数表に基づいて計算され、点数で表現される。「医師の報酬」と誤解されがちだが、それだけでなく医療行為を行った医療機関・薬局の医業収入の総和を意味する。医業収入には、医師(または歯科医師)や看護師、その他の医療従事者の医療行為に対する対価である技術料、薬剤師の調剤行為に対する調剤技術料、処方された薬剤の薬剤費、使用された医療材料費、医療行為に伴って行われた検査費用などが含まれる。保険診療では患者はこの一部を窓口で支払い、残りは健康保険で支払われる。健康保険を適用しない自由診療の場合の医療費は、診療報酬点数に既定されず、患者が全額を負担する。                         診療報酬点数表の内容は、保険医療機関の指定を受けた病院(病床数20床以上)または診療所(無床または病床数19床以下)は患者に医療を提供すると、患者に対しては一部負担金を、患者(被保険者または被扶養者)が加入している健康保険の保険者に対しては、患者の一部負担金を除く額を診療報酬として請求する。健康保険法の第76条(旧第43条ノ9)には診療報酬について次のように規定されている。
1項「保険者は、療養の給付に関する費用を保険医療機関又は保険薬局に支払うものとし、保険医療機関又は保険薬局が療養の給付に関し保険者に請求することができる費用の額は、療養の給付に要する費用の額から、当該療養の給付に関し被保険者が当該保険医療機関又は保険薬局に対して支払わなければならない一部負担金に相当する額を控除した額とする」
2項「前項の療養の給付に要する費用の額は、厚生労働大臣の定めるところよにより、算定するものとする。」
保険医療機関が患者とその保険者に請求できる額は、厚生労働大臣が定める公定価格である。これは健康保険法第63条(旧43条)に規定してある療養の給付(診察、検査、投薬、処置、手術、入院等)について、医療行為ごとに点数として定めてある。これが社会保険・老人保健診療報酬医科・歯科・調剤点数表である。1点の単価を10円に固定して、おおむね2年ごとに点数を改定して、診療報酬の額を改定している。
健康保険法第82条(旧第43条ノ141項)には、「第76条第2項の定め(診療報酬)をしようとするときは、中央社会保険医療協議会34に厚生労働省が提出した原案を診察側、支払い側および公益側の委員が審議し、そして厚生労働大臣が決定するという形をとっている。

3、薬価基準制度

医薬品が患者に投薬されるまでには、他の商品の流通と同じように、医薬品の製造から医療機関または保険薬局の仕入れまでのそれぞれの流通段階で取引価格が形成される。しかし、健康保険に基づいて処方箋によって患者に投薬される医薬品については、投薬した時に医療機関または保険薬局が、患者とその保険者に請求する薬剤の価格は、「薬価基準」に収載される厚生労働大臣が定める公定価格である。薬剤の取引上発生する「薬価差益」は、医療費を増加させる要因の1つである。
診察料や手術料等の診療報酬の額は、専門的技術料としては低すぎるといわれていた。低い技術料を埋め合わせるため、厚生大臣が定める薬価は、薬価差益が発生するように定められてきた。患者に投薬して薬価差益が得られれば、薬価差益の大きい薬剤を使用したり、必要以上に投薬したり、必要以上に検査を行う傾向が生じる。このことが国民医療費を増加させることになるから、薬価差益は社会的な関心を呼び、厚生省は医療機関が薬価差益に依存しない経営を行うように、医薬分業を推進してきた。必要以上の投薬は、患者の健康を損なう可能性があるという点からも非常に重要な問題である。

4、介護保険の問題

また、介護保険は給付が増えると低所得者もふくめて保険料が上がるしくみになってる。ただでさえ高齢化がすすむために保険料値上げが見込まれているが、「見直し」を機に改善をかちとれば、給付はもっと増え、保険料のさらなる値上げ要因となってしまう。これは、介護保険のもっとも大きな矛盾のひとつだ。解決のカギは、国庫負担の引き上げであると思う。もともと、05年の介護保険法の改悪も、社会保障費を毎年2200億円削減する政治のなかで行われたことであるのだから、軍事費やムダづかいをけずり、大企業や大資産家に応分の負担を求め、社会保障を充実する政治への転換が、国庫負担引き上げ実現の最大の保障だと考える。 介護保険の国庫負担割合を5%引き上げることは、全国市長会、全国町村会も要求していて、これに介護保険料をためこんだ積立金の活用など、自治体の努力もくわわれば、制度の改善と、保険料の値上げ中止、保険料・利用料の減免制度をつくる財源はつくれる。その金額は約3500億円。アメリカ軍への「思いやり予算」の規模、約2500億円と大差ない。お金がないのではなく、大企業・アメリカいいなりの政治のあり方が問題なのではないだろうか。

5、ターミナルケアについて

ターミナルケアとは、終末医療と呼ばれるものである。末期がん患者など、余命6カ月(終末期)と診断された患者に対する医療・看護・介護などのこと。積極的な延命治療を中心とするのではなく、安楽死などの患者の人格や家族の意思を尊重し、肉体的な痛みをやわらげ、死に対する恐怖を緩和し、残された人生のQOL(生活の質)を高めることをめざしている。また、患者だけでなく家族へのサポートも重視している。

高齢者の医療においては、死亡する直前に多くの医療費が使われる。高齢者の医療費が高い理由に、死亡率が高いということも挙げられる。しかし、ターミナルケアにおける医療費を抑制するという問題が発生している。ターミナルケアにおいて、医療費がかかるという事は事実だが、医療財源を圧迫するというところまではいっていない。例えば、@日本の老人の死亡前1年間の医療費の老人医療費全体に対する割合は約11%にすぎず、アメリカの28%に比べてはるかに低いこと、A医療費の高騰は死亡者の中の2025%の人にのみ起こっていること、B医療費の高騰が始まる時期も死亡前の2ヶ月前からと遅かったことが明らかになっている。
ターミナルケアにおける医療費は、2020年には29千億円に膨れ上がるとされているが、2020年には医療費総額もはるかに増える。2020年の医療費総額は、37兆円になるとされ、29千億円はその78%である。この程度なら、医療財源を「圧迫する」とまでは言えないであろう。医療費抑制のために、例えば入院での死亡を減らそうとすると、その受け皿のない悲惨な「患者の追い出し」が増加し、社会的不安を抱かせることになってしまう。むやみやたらに医療費を抑制しようとすれば、医療としての本質を忘れ去ってしまう結果になりかねないであろう。そういった点で、ターミナルケアは今後の大事な医療方法となると私は考えている。

6、混合診療についての論点

混合診療(こんごうしんりょう)とは日本の医療における保険診療に保険外診療(自由診療)を併用することである。現在は、健康保険で診察を受けているとき、一部でも保険適用外の診察を混ぜると、すべての診察について保険が支払われないことになっている。単純に考えてただけでも作為的でおかしな制度である。なぜこのようなことになっているのか。
よく挙げられる第一の理由は、保険適用外の診察では認可されていない危険な医療が行われるかもしれないというものだ。だがそんなにお医者さんを信用できないのか。保険適用外の新薬でこそ助かる可能性がある人も多い現実を考えると、患者を無視した独善的な主張と言わざるを得ない。
第二の理由は、お金があるかどうかで受けられる医療が決まるようになるというものである。これもまたおかしな理由だ。保険外診療を受けても他の保険は貰えるようにしたほうが、お金がなくても多くの医療を受けられるようになると考えるのが自然ではないか。医師会は混合医療に強く反対している。主に上の2つの理由を挙げているようだが、詭弁であると思う。人の命にかかわる事柄について、業界団体が自分の利益を優先して策を弄しているとしたら、恐ろしいことである。

論点は、保険適用外の医療を行うことの安全性と、貧富による医療格差の2つにほぼ集約されるようだ。
たしかに安全性の問題はあるが、これは「どっちもどっち」だろう。保険機構が認可したからといって安全が保証されるわけではない。日進月歩の医療において政府や保険機構が現場の医師より常に優れた判断を行えるとは思えない。仮に保険機構が時間をかけて認可した医療のほうが安全性が高いとしても、そのような医療しか受けたくない人はそうすればよいのであって、まだ認可されていない医療でも受けたいという人の望みまで断たなくてよいのではないか。
もう1つは格差の問題だ。こちらのほうが圧倒的に多く議論されている。素直に考えれば、混合診療を解禁するほうが誰にとってもありがたい。解禁によって保険適用の診療が減るわけではないのだから、医療の選択肢は広がりこそすれ、狭まることはない。それなのになぜ反対が多いのか。
混合診療を解禁すると、国民皆保険制度の崩壊につながるとの意見がある。だが保険で受けられる医療の質と量は、基本的に、保険の掛け金と医療の値段によって決まるものだろう。どうして混合診療を関連付けようとするのか。
混合診療が解禁されると、薬などの保険適用の認可が遅れるのではないかとの懸念がある。だが現在でも高額な医療の中には、有効とわかっていても保険が適用されないものがある。ない袖は振れないからだ。結局、保険の適用範囲を広げるには、保険料を上げるか診療報酬を下げるしかない。軽い病気でむやみに医者にかからないとか、薬漬け医療などの無駄を省くなど、いろいろな工夫も考えられるが、いずれにしても混合診療とは関係ない。医薬品の量産効果がどうのといった細かい話もあるが、為にする議論になっていないか。
そこまで考えるならむしろ、保険外診療が増えれば医療機関の経験と収入が増え、保険で受けられる医療の質に好影響を及ぼす可能性も考慮すべきだろう。また保険外診療によって新しい医療や薬の効果が明らかになれば、そうした医療が保険で認可される時期がむしろ早まるかもしれない。
自分が病気になったとき、「ここから先は保険外なので20万円かかります」などと言われたくない、という人がいる。気持ちはわかるが、しかし混合診療が禁止されていれば20万円ではなく50万円必要になるだろう。家を売らないと医療が受けられなくなるなどと恐れる意見もあるが、現在なら家を2軒売らないとその医療は受けられないのである。
病気になっているときにお金と医療をはかりにかけるのは苦痛だという人がいる。これもわかるが、自由の代償というものだ。選択肢が増えることを恐れるのか。何も考えない国民を国家に管理する社会ではなく、個々人が自ら考えて行動する自由な社会を我々は目指していたのではなかったか。
おかしな医療がはびこらないかとの懸念もある。怪しい健康食品がたくさん売られている現状からしてもっともな心配ではある。だがそれを理由に混合診療を禁止するのでは角を矯めて牛を殺すようなものだ。情報の公開と個々人の意識向上、それに極端なケースへの罰則によって対応すべき問題だろう。
医療関係者には混合診療解禁に対する反対意見が多い。医師会は断固反対している。何でそこまで反対なのかよくわからないのだが、業界団体が熱心に反対するときは大概利害が絡んでいるものだ。良心的な医者はたくさんいるが、良心的な業界団体というのは見たことがない。
混合医療の解禁が診療報酬の改訂方向に影響することは考えられる。保険料と診療報酬が変わらなければ、混合診療で保険外の医療費が増えると日本全体の医療費も増えることになる。それなら保険の診療報酬を少し下げても大丈夫でしょう、という話が出る可能性はある。だが当然これは混合医療禁止の理由にはならない。
ちなみに現在、日本の医療費は他の先進国より安い。それはよいことに思えるが、しかしそのために医療従事者が減ってしまうようであれば考え直さねばならないと私は思う。GDPに対する医療費の比率を一定に保とうという意見があるが、無理がある。国民がお金を(つまり自分達の労働力を)何にかけたいかは、時代とともに変わる。今後、医療に対する要求は対GDP比で見ても増えていくのではないか。それを無理に固定化して、たとえば「物が豊かに溢れているが必要な医療は不足している」ような社会を作っても、誰も嬉しくはないだろう。現在は医師の数が不足してきているという話も聞く。
保険外診療は各医療機関が自己の責任で行う面があるから、外部からの医療機関の評価につながるだろう。仕事する側はどうしても評価されることを嫌う傾向があるが(その気持ちはよくわかる)、もちろんこれも解禁反対の正当な理由にはならない。
混合診療の解禁を求める理由ははっきりしている。そうした医療を一日も早く望んでいる人達がいるという現実である。自分もいつそういう立場になるかわからない。それに対して反対論は抽象的であるか感情的だ。理屈の立たないところに無理やり理屈をつけているように見えることもある。現実に病に苦しんでいる人々の希望を、第三者の思弁や感情、そして利権によって排除してはならない。


,丸山ワクチンはなぜ承認されないのか

丸山ワクチンとは、1944年に皮膚結核の治療薬として誕生した医薬品。がんに対して予防・治療効果があると支持者によって主張されているが、薬効の証明の目処は立っておらず、2011年現在がんに対する医薬品としては未承認である。では、なぜ癌患者やその家族の団体による嘆願署名運動などが行われ、国会でも医薬品として扱うよう要請されたのにも関わらず、今日においてもその薬効の証明の目処は立っておらず、医薬品として承認されるには至っていないのか。                                                                 愛知がんセンターが行った臨床試験と東北大学が行った臨床試験については、丸山ワクチンの有効性が認められなかったとされている。効果があるのかは今だ議論され続けているらしいが、なぜそこまで時間がかかるのか。科学的に容易に解明できるものではないのだろうか。しかし調べてみると、丸山ワクチンによって延命治療や癌が小さくなったという例がいくつも見られている。現在ではNPOが丸山ワクチンについて研究や講演会を行っていたりしている。私の意見としては医者たちが丸山ワクチンが効くのか効かないのかという議論を何度もしている暇があったら、そのワクチンを基に癌に効くワクチン、新たなワクチンをつくることで癌患者を少しでも多く救ってもらいたいと感じた。 

8、法人

営利法人とは、営利(利益をあげること)を目的とする法人のことであり、株式会社、合資会社、合名会社、有限会社にわけられる。
医療法人は、現在、全国で 45,396 法人ある。医療法人の特徴として非営利性があり、法人は民法その他の法律によらなければ設立することができない。民間の法人の代表的なものは、いうまでもなく株式会社や有限会社等の会社だが、医療はかけがえのない生命、身体の安全の直接関わるだけに、これら営利企業にゆだねるのは適当ではないとされた。
そこで、昭和251950)年、医療事業の経営主体を法人化することにより、医業の永続性を確保するとともに、資金の集積を容易にし、医業経営の非営利性を損なうことなく、医療の安定的普及を図るため、医療法により「医療法人」という法人類型が創設された。
  これを法律の上でみると、医療法では営利目的の病院、診療所の開設を許可しないこととしている(75項)。このため医療法人営利を目的としないよう、「医療法人は、剰余金の配当をしてはならない」(54条)と厳格に規制されているのである。この非営利性が医療法人の最大の特徴だ。

 

9、終わりに

1961年4月に現在の国民健康保険法の施行によって、日本の医療保険制度において国民皆保険が確立され、50年を迎えた。皆保険体制が確立されたことにより、すべての国民に公的医療保険への加入が義務付けられ、国民が年齢や所得に関係なく、原則として医療費の一部を負担するだけで、保険給付と医療を受けることができる。また、日本ではいつでもどこでも受診できる「フリーーアクセス」が保障されており、世界的に見ても国民の健康達成度は高く、男女とも世界トップクラスの長寿国となった。日本の医療費の対GDP比は8.1%であるが、OECD平均9.0%と比較しても低く、OECD諸国で22位と低水準である。このため日本の医療費はまだ拡大の余地があると思われるjが、財源の確保については国民的合意が形成されていない。協会健保の平均保険料率は、2010年度の9.34%から2011年度は9.50%へ引き上げられる見込みであるが、他の被用者保険や高齢者の負担増についても、どの程度であれば国民の納得を得られるのか。また、公費負担を拡大するには増税の水準はどこまで国民に受け入れられるのか、医療保険の給付水準と両面からの検討が必要である。医療保険制度については、時代の変化とともに制度を見直しは必要であるものの、後期高齢者医療制度の創設時のように、早々に改革を求められるような制度設計は避けなければならない。また、医療だけではなく、年金や介護も含めた社会保障の財源をかくほするためには、公費の投入を増やすことが避けられない。政府には、今後、社会保障制度を持続可能な制度とするために必要な財源の規模と、それを確保するための選択肢を国民に提示し、より多くの国民にとって安心できて納得できる社会保障制度を構築することが求められるのではないだろうか。               

また、国民医療費の増加は、医療が発展していく中で不可避である。その中で、国民医療費をできるだけ効率的に抑制するためには、診療報酬の問題や、薬剤による薬価差益の問題など、もう一度医療制度を見直す必要がある。
日本の医療保険制度は前にも書いたが、保険料、公費、自己負担の三つのバランスによって成り立っている。基本的に保険料が大半を占めてはいるが、実際には公費の占める割合も高く、自己負担の割合も高くなってきている。国民健康保険は、他の医療保険に比べると、財源に公費の占める割合が高く、組合管掌健康保険は公費をできるだけ抑えており、政府管掌健康保険は、この2つの中間である。政府の危機的な財政状況からみれば、保険料を財源の中心に置くべきであるといえるが、それには保険料の負担格差の問題も取り除いていかなくてはならない。2003年から被用者保険の自己負担が3割に引き上げられ、医療アクセスに悪影響を与える状況となっている。高齢者医療における自己負担もこれから引き上げられることも予想されるが、高齢者の疾病状態を考えると、それが一概にいいことだとはいえない。老人保健制度は現役世代からの所得移転に大きく頼っているため、将来老人医療費が増加すれば、今まで以上に各公的医療保険からの拠出金や公費は大きくなるであろう。少子高齢化が進展し、老人保健制度を通じた世代間の所得の移転が大きくなり、公的医療保険において大きな問題となっている。これから生まれる世代にとっては、重い保険料の拠出が問題となるであろう。民間医療保険の需要も少子高齢化によって大きくなるであろう。さまざまな状態を考えた上で、高齢者の医療供給体制を整備するなど、まだまだ修復しなければならない問題が医療制度にはある。高齢者の医療供給体制整備することが、今後の日本における効率的な医療を実現する上での大きなポイントになるであろう。
診療報酬制度においても、診療報酬の改定幅がその時々の時勢によって複雑になり、抜本的改革が必要となっている。個々人の診療にかかる医療費のばらつき、そして病院間における原価のばらつきによって、適正な診療報酬の決定が困難な状況となっている。診療報酬の点数の決定を抜本的に見直し、さまざまな状況に対応できる制度を作らなくてはならない。
医療機関の医療としての倫理が問われる薬価差益をめぐる問題も、投薬という行為を「商売」という視点から見ることのないように、薬価の設定を見直す必要がある。薬剤の取引方法や、投薬における問題点をもう一度見直し、さらなる改良を加える必要がある。
利益追求の方向性が医療機関にみえることも大きな問題点である。薬価診療報酬の見直しも必要であるが、医療費の削減が主となり、国民の健康が脅かされていくのであれば、それは意味をなさない。患者の命を救うという大前提を、もう一度思い出し、包括的に老人医療政策を見直していかなくてはならないと思う。

 

参考文献


竹下昌三『わが国の医療保険制度』, 大学教育出版, 2004年。
小松秀和『日本の医療保険制度と費用負担』, ミネルヴァ書房, 2005年。
木村辰夫 『日本の医療保険』 , 保健同人社, 2005
遠藤久夫・池上直己 『医療保険・診療報酬制度』, 勁草書房, 2005
法庫「医療法」, 2007, http://www.houko.com/00/01/S23/205.HTM
日本労働研究機構「海外労働情報 ドイツ」, 2003 , http://www.jil.go.jp/jil/index.htm
全国保険医団体連合会,「医療用語の解説」, http://hodanren.doc-net.or.jp/index.html
日本薬学会 HOT NEWS 「これまで公表されていなかった新薬の薬価の算定内容が公表」
http://www.pharm.or.jp/hotnews/archives/1997/12/post_150.html
社会保険庁「どのような給付があるのか(保険給付)」
http://www.sia.go.jp/seido/iryo/kyufu/kyufu06.htm