10j103009 澤井 武

民法には様々なルールがある。その中に危険負担というものがある。この危険負担は双務契約と関わってくる。双務契約の典型例は売買契約である。ある商品を買うとする。売主は商品を渡す義務と代金を受けとる権利がある。買主は代金を支払う義務と商品を受け取る権利がある。このようにお互いに債権・債務がある契約を双務契約という。他にも雇用や請負も双務契約である。これらの契約が無事に実行できれば危険負担は関わってこない。では、どのような場合に危険負担が関わってくるのだろうか。

 それは債務が何らかの事由によって履行できなくなった場合だ。たとえば家を買う契約をするとする。引き渡し前に何らかの理由で家がなくなってしまった場合どうするかということだ。ただし、この家の消失がどちらの責任でないことが重要だ。売主側に責任があれば家を渡す債務が履行できないので債務不履行となる。つまり売主が危険を負担することになる。では、どちらの責任ではない地震や台風などの自然災害・不可抗力で家が消失してしまった場合どちらがリスクを負担するのだろうか。売主は代金を受け取れないのか。それとも買主は代金を支払わなくてはならないのか。これをどちらに負わせるか。それが危険負担の問題となる。

 まず危険負担を考える上で双務契約の2つの債権・債務のうちどちらが履行不能になったのかを考える必要がある。家を買うという例では家を引き渡す債務を実行できなくなった。この債務を負っているのは売主だ。そのため売主が債務者となる。逆に買主は家を引き渡してもらう権利を持っている。よって買主が債権者となる。この債権・債務の関係が履行不能になったわけだ。このように両者の立場を明確にしさらに考えていきたい。

 民法は原則として債務者主義をとっている。債務が消滅することによって生じるリスクを債務者が負うということだ。上記の例では売主は代金を受け取れず家を失った損失をかぶることになる。これは民法の536条に書いてある。ただし例外も存在する。債務者ではなく債権者がリスクを負うことがある。それを債権者主義という。上記の例で考えると債権者である買主は家を受け取ることもできず且つ代金を支払わなくてはならない。これは民法534条にある。ではどのようなときに例外となる債権者主義にとなるのだろうか。当事者にとってはとても重要なことだ。それはその債務が種類物か特定物かで分かれてくる。種類物の場合が債務者主義である。特定物の場合が債権者主義となる。

 ここで問題となるのはいったい何が種類物で何が特定物かということだ。まず種類物からだ。これは種類債権という。一定の種類に属するものの一定量の引き渡しを目的とする債権をいう。種類と数量のみで指示される債権である。米10キロやビール1ダースのようなものを種類物という。何をもって同じ種類とするかは当事者の意思によって決まる。そのため物の客観的な性質上代替の利く物や代替の利かない物でも種類債権となることもある。基本的に種類物は履行不能はおきない。米やビールなどは市場にある限り代わりを用意することができるためである。

 次に特定物だ。不動産や芸術品のように物の個性に着目して引き渡しの対象とされた物を特定物という。その債権を特定物債権という。また種類物が特定されることがある。種類債権の場合、基本的に履行不能は無いと述べた。目的物となるものが滅失した場合、債務者は他の目的物を調達し引き渡さなければならない。いつまでも債務者がこの義務を負うことになる。それでは債務者の負担が重くなってしまうのではないだろうか。そこである一定の時期になったときに目的物が特定されるのだ。これを種類債権の特定という。特定の要件は民法401条2項に定めがある。@両当事者が合意によってある特定物を選定したときA債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了したときB債務者が債権者の同意を得て給付すべき物を指定したとき、である。このような場合に種類物も特定物となる。

 先に述べた通り種類物なら債務者が、特定物なら債権者がリスクを負うことになる。例の家はどちらになるのだろうか。結論は家は不動産となるため特定物となる。そのため不可抗力で家が滅失した場合は債権者である買主は代金を支払わなければならない。

 そもそもリスクの移転は所有権とともに移転されると考えられてきた。所有権は契約を結んだ段階で移転すると考えるのが通説だ。ローマ法以来債権者主義が適用されてきた。しかし妥当とは言えない結果を招くことがある。そのためリスクが移転する時期を遅らせようとしてきた。そのため当事者の意思が優先されるのである。

 これまでの危険負担の内容は双務契約で片方の債務が消滅した場合に反対債務も消滅するのか存続するのかという双務契約の牽連性の問題であった。これに対し何をすればどの時点で債務者は引渡債務を完了したことになるのか、引渡債務はいつ消滅するのかという意味で危険負担を使うことがある。国際取引契約にはFOBCIFというものがある。貿易などに関わってくる。FOBCIFはリスクや費用の負担部分は違うものの品物が船の欄干を通過した時点で引渡債務は完了したことになる。つまり船が沈没しても売主は再び品物を調達する必要はないということになる。FOBCIFの負担部分についてだがFOBから。本船甲板渡し条件と訳される。売主である輸出者は貨物を積み地の港で本船に積み込むまでのリスクと費用を負担する。それ以降の費用と及びリスクは買主である輸入者が負担する。CIFは運賃・保険料込み条件という。売主は運賃と海上保険料などを負担する。買主は輸入関税や通関手数料を負担する。FOBCIFともに港で本船に積み込まれた時点でリスクは移転する。運送中に事故があって貨物が損壊したとき買主は買主は代金支払い義務はあることになる。だが本来の意味での危険負担は引渡債務が履行不能となった場合に反対債務の代金債権も消滅するかである。引渡債務が完了したかの問題は密接に関わるが別の話になる。                                                    今まで民法の規定でどうなるかを述べてきた。しかし両者にとって納得のいかないことが多い。特に債権者主義。目的物が手に入れられないにも関わらず代金を支払わなければならない。金額の小さいビールや米などならまだ納まりがつくかもしれない。しかし債権者主義は不動産などの高額なもので適用されるのが基本だ。数千万単位で支払うことになる。それはとてもじゃないが負担が重いと感じる。民法の規定だからといって簡単に納得できるものではない。

 そこで誕生したものが保険というものだ。その歴史は古代ローマ中近世のヨーロッパから始まる。14世紀後半のイタリアでは今とほぼ同じ仕組みの海上保険があった。日本にも江戸時代には保険に類似したものはあった。今日の保険は明治維新の際に欧米の保険制度を導入して始まったものである。明治12年頃から保険会社が創立され本格的に保険が行なわれるようになった。保険には様々な保険があるが危険負担に関わってくるのは損害保険だ。自然災害や自動車事故など偶然な事故により生じた損害を補償するのが目的だ。自動車保険や火災保険などのノンマリン分野と貨物保険や船舶保険などのマリン分野がある。保険業法を根拠法としている。個人から法人まで多くのものを契約対象としている。おもな会社としては東京海上ホールディングスNKSJホールディングスなどがある。

 また日本には保険業法という法律はあるが保険法という法律はなかった。従来は商法の商行為法の一部を総称して保険法と呼んできた。しかし口語化・現代化を目指した結果、立法されることになった。商法から独立した単行法としての保険法である。2008年に成立、2010年に施行された。海上保険に関しては従来通り商法に規定が残った。また商法に規定がなかった人の疾病や災害に際して給付を行なうことも規定され保険契約一般を規律する内容となった。

 保険というのは無くなることのないものだと思う。自然災害や交通事故・火災などがある限り保険は必要とされる。また損害保険だけではなく生命保険についても同じことが言える。こういった予想することのできない不安がある限り保険は必要とされてくる。人はこういったリスクのために備えておきたいと考えるのが普通である。自分のためであり家族のためである。そのようなことで必要とされいる保険であるが就活をしている学生にとって人気のある業界なのだろうか。他の業界と比べると人気があるとはいえない。その理由のひとつは不払い問題というのがある。2005年にある保険会社の死亡保険の不当な不払いが発端となり以降様々な会社で不当不払い事実が大量に発覚した問題である。不適切な支払いや支払い漏れや契約不備を理由に支払い拒否など様々なものがあった。大きな驚きなのはこの問題が 1社や2社の問題ではなかったところだ。生命・損保あわせて50社以上に不払いの問題があったことだ。この問題により保険業界全体の著しい腐敗が明らかになり社会問題んまで発展した。保険会社による詐欺とまで批判された。原因は利益至上主義と言われている。これが保険が保険として機能しない状態を作ってしまった。

 保険金不払い問題があったため就活をしている学生にとってあまり良い印象はない。そのため人気は下がっている。よって食品や旅行代理店などが人気となる。世間的には人気が高くない保険業界だが個人的には少し興味がある。大学の講義で危険負担を勉強しいろいろと調べた。それによって保険というものはなくてはならないものだと感じた。人々の安心のために仕事をするのはすばらしいことだと思う。確かに不祥事はあった。しかし再び立ち上がる必要がある。信頼を取り戻すのは簡単ではない。だがなくてはならないものだからこそできるはずだ。法律を学んでいるものとして将来は保険のように法律を扱う仕事に就きたいと考えている。せっかく法律を学んでいるという気持ちと選べる職が多いか らという理由だ。また宅建という資格がある。これは不動産についての資格なので危険負担の問題を扱うことがあるはずだ。資格の勉強にも重要であるし就職にも役に立つ

 法律というのは日常の様々なところで私たちに関わってくる。危険負担だけではなくいろいろな法律が関わっていることを意識していきたい。そうやって日常の生活で意識して法律を考えていれば就活やそれ以降の将来で大いに役に立つはずだ。今回のレポートは危険負担によって保険というものを詳しく知るきっかけとなった。将来の選択肢がひとつ増えたと感じる。様々なことを考えつつ将来の就職先を考えていきたい。

 

参考文献

・民法V 債権総論・担保物件 内田貴「著」

 

参考ページ

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%B1%E9%99%BA%E8%B2%A0%E6%8B%85 危険負担

 

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BF%9D%E9%99%BA%E9%87%91%E4%B8%8D%E6%89%95%E3%81%84%E4%BA%8B%E4%BB%B6 保険金不払い事件