10J102027 茂山望美
老人の法律行為
わが国で、急速に高齢化が進んでいることについては、いまさら言うまでもないことだろう。これにつれて、高齢による痴呆性の人、知的障害のある人、精神障害のある人などが増えている。こうした判断能力の不十分な人々は、財産管轄や身上監護(介護、施設への入退所などの生活について配慮すること)についての契約や遺産分割などの法律行為を自分で行うことが困難であったり、悪徳商法などの被害にあうおそれがある。
そこで、このような判断能力の不十分な人々を保護し支援するのが新しい成年後見制度だ。高齢者の契約は、支払能力、判断能力、成年後見制度の利用などを判断材料に契約している。成年後見制度は、平成11年12月に「民法の一部を改正する法律」が成立した。もちろん、これまでも、民法に禁冶産および準禁冶産の制度があり、知的障害のある人が精神障害のある人の財産保護が図られていた。しかし、この制度はもともと、痴呆の高齢者のような人は想定していなかったこともあり、様々な問題点が指摘された。対象者の心神喪失及び心身耗弱という要件が重く厳格であるため、軽度の痴呆、精神障害には適用できないこと。禁冶産者の全ての法律行為が取消の対象となるので、日常生活に必要な範囲の法律行為を必要とする痴呆の高齢者には利用しにくかったこと。禁冶産及び準禁冶産の宣告を受けると戸籍に記載されるため、関係者が制度の利用に抵抗を感じること。保護者である後見人・保佐人を一人しか置けないことなどから、必ずしも適任者による保護や支援を受けられず、本人の保護体制が十分とはいえないことなどの問題がある。そこで、こうした状況を受け、自己決定の尊重の理念と本人の保護との調和を目的として、より柔軟かつ弾力的で利用しやすい制度を創ることを目的として、成年後見制度が設けられたのだ。それにより、それまでの禁治産・準禁冶産の制度が補助・保佐・後見の制度に改正された。この制度によって、高齢者はその状況によって、行為能力を完全に有する人のほか、3つの制限行為能力者が存在することになった。その3つとは、新設された被補助人、準禁冶産制度が改正された被保佐人、禁冶産制度が改正された成年被後見人だ。
被補助人とは、精神上の障害を原因として、判断能力(事理弁識能力)が劣るものの、保佐や後見に該当しない軽度の常況にある者で家庭裁判所の「補助開始の審判」により、被補助人のために「補助人」を選任された者のことである。当事者が申し立てれば、家庭裁判所は民法13条1項の行為の範囲内で、選択された「特定の法律行為」について、補助人に同意権を付与することができる。また、特定の法律行為についても、家庭裁判所の審判により、補助人に代理権を与えられる場合もある。同意権、代理権の有無と範囲というのは登記されていますが、債権者は登記事項について、その証明書の発行請求ができない。よって、業者としては、家族や補助人を通じて補助人が代理権を有するのか、本人の行為に補助人の同意が必要なのかの確認、また、補助人の代理、または同意の必要な「特定の法律行為」の範囲の確認が必要になってくる。
被保佐人とは、精神上の障害により、判断能力が著しく不十分な者であって、家庭裁判所の「保佐開始の審判」により「被保佐人」のために「保佐人」を選任された者のことである。保佐人に民法13条1項の行為や、これに特定の法律行為を付加して同意権を付与するとともに、当事者が申し立てによって選択した「特定の法律行為」について代理権を付与することを認めている。よって、業者としては、保佐人の有する同意権は、民法13条1項に定める行為の範囲か、拡張されていればその範囲はどこまでか、保佐人が代理権を有する特定法律行為はどのような行為かの確認が必要となってくる。
また、成年被後見人とは、精神上の障害により、判断能力を欠く状況にある者であって、家庭裁判所の「後見開始の審判」により「成年被後見人」のために「成年後見人」を選任された者のことをいう。これは職権で選任される。成年後見人については複数の者が選任されることがある(843条第3項・859条の2)。また、法人が成年後見人となることもある(843条4項)。成年後見人は成年被後見人について広範な代理権(859条第1項)と取消権(120条1項)、財産管理権(859条)、療養看護義務(858条)をもつ。従来の禁冶産と違うところは、自己決定尊重の観点から「日用品の購入その他日常生活に関する行為」を本人の判断に委ねて、取消権の対象から除外された点だ。これによって、日常生活に関する行為が、取消しの対象にならなくなってしまうが、その範囲は狭いと考えられるので、個品割賦の利用や融資の利用については、成年後見人によって、取消しの対象になると思われる。また、遺言や婚姻などの身分行為や治療行為などの事実行為に関する同意など本人だけで決めるべき(一身専属的)事項についても取消権や代理権は行使できない。痴呆性老人の婚姻は、婚姻の意思があり、婚姻の法的な効果を理解することができる判断能力、精神能力(このような能力は、一般に「婚姻能力」と呼ばれている)があればできる。逆に言うと、婚姻の意思や婚姻能力のない婚姻届出は無効になる。婚姻能力は、財産に関する意思能力より低い程度の判断能力で足りるものと解されている。成年被後見人が婚姻するときは、成年後見人の同意はいらない。また、婚姻は代理に親しまない行為なので、成年後見人が代理して婚姻することもできない。民法738条で、成年被後見人が婚姻をするには、その成年後見人の同意を要しない、とされており、戸籍の届出も、戸籍法32条で、成年後見人ではなく、成年被後見人がすることになっている。なお、この届出については、平成12年の改正前は、婚姻能力があることを証する医者の診断書の添附が必要とされていたが(改正前の戸籍法32条2項)、現在は診断書の添附は要求されておらず、それだけ成年被後見人の婚姻はしやすくなったと言える。同意権については保佐人や補助人とは異なり認められていないと解するのが通説である。成年被後見人は精神上の障害により判断能力を欠く常況にある(7条)ため、成年後見人が予め同意をしていても同意の直前に成年被後見人が判断能力を失ってしまうおそれがあるためである。したがって、成年後見人には同意がないので成年被後見人の行為については成年後見人が同意した行為であっても取り消しうる。成年後見人の義務としては、成年被後見人の生活・療養看護・財産管理事務を行うにあたり、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
成年後見人と成年被後見人との利益相反行為について、成年後見人は成年被後見人のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない(860条本文・826条)。利益相反行為は一定の範囲内において不法なものであるとされ、法律でも規制の対象になっている。たとえば、法定代理人(親権者、成年後見人など)と制限行為能力者との間で利益の相反する行為について、その法定代理人には代理権はなく、その行為をなすにあたっては、家庭裁判所に対して特別代理人、臨時保佐人など第三者の選任を請求しなければならない。これをせずに代理人が直接行った利益相反行為は、無権代理となる。ただし、後見監督人などの第三者がいる場合はこれを要しない。利益相反行為の場合、その法定代理人が正常な判断からではなく自己の利益の絡んだ判断をしてしまう恐れがあるので、第三者が公平な判断をするべきだからである。
例えば、成年被後見人が一人で動産の売買を行った場合、その法律行為を完全に有効なものとするわけにはいかない。成年被後見人は売買の場面、自筆署名であっても効力を否定される例がある。その際、代理人(代行者)が介在した場合に、実印・印鑑証明を所持していても、その代理人が同居の親族だった場合には、「冒用」とされる確立が高いので注意が必要である。成年被後見人が自ら行った法律行為は、取り消すことができるのだ。物権が発生・変更・消滅することを物権変動という。物権には第三者との関係から、公示の原則と公信の原則がある。公示の原則は、物権変動を対抗するためには物権の変動を外部から認識しうる一定の徴表的な形式が伴わなければならないとする原則で、公示がない限り物権変動がないであろうと信頼した者の消極的信頼の保護である。民法では動産については178条の引渡しが書かれている。公信の原則は、真の権利状態と異なる公示が存在する場合に、公示を信頼して取引した者を保護しようとする原則で、公示があったならば公示どおりの物権変動があるであろうと信頼した者の積極的信頼の保護なのである。民法では、動産については192条の即時取得が公信の原則を認めている。即時取得とは、動産(不動産以外の物)を所有(事実上支配していること)している無権利者を真の権利者と過失なく誤信して取引をした者は、その動産について完全な権利(所有権又は質権)を取得できるという制度のことだ。こうした制度が動産について認められている理由は、動産の場合、不動産の場合のような登記制度がないため、誰の物かはっきりしないので、取引の相手方が不測の損害を被らないよう保護するところにあるのだ。でも、そうなると、自分の物が盗まれて売られでもしたらたまらないだろう。そこで、法律も盗品や遺失物の場合には、被害者らが返還請求できるとしている(民法193条、194条)。
物の売買において、相手方が無権利者であった場合、無権利者からは物を受け取れないから、何も得られないのが原則である。しかし、一定の条件をもとに即時取得によって物を得られることがわかった。では、手形はどうなのだろうか。まず、手形を扱う人に制限はあるのか。手形の権利を得られる人、つまり手形で言う権利能力者は誰なのだろうか。実は、手形法には規定がなく、民法に従うしかない。民法第1条の3によると「私権の享有」とは「権利を得られる」と言うことであった。つまり、手形の権利は生まれさえすれば手に入れられるのだ。しかし、例えば幼児が何もわからないまま手形に100万円と書きこんだら、幼児は100万円を払わねばならないのだろうか。それは常識的に考えて払う必要はないだろう。そこで、民法でも権利を得られる人と、契約が出来る人を区別したように、手形法でも手形の権利を得られる人と、手形を振り出せる人を区別させるべきだろう。ところが、手形を振り出せる人についても手形法に規定はない。ということは民法に従い、つまりは未成年者・成年被後見人などは手形を振り出すことはできないということだ。手形は即時取得の対象ではないが、手形や小切手などの有価証券はそれぞれの法律の定められる善意取得制度による。だが、手形を即時取得として認める必要があるだろう。
【引用URL】
http://loan-f.ytmt.net/05.html
http://www.happycampus.co.jp/docs/983431885701@hc05/2633/?__a=livedoor
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%90%E5%B9%B4%E5%BE%8C%E8%A6%8B%E5%88%B6%E5%BA%A6
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%A9%E6%A8%A9%E5%A4%89%E5%8B%95
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%B3%E6%99%82%E5%8F%96%E5%BE%97
【参考文献】民法T[第4版]総則・物権総論/内田貴[著]