09j108024 片野 佑紀

 

1、      はじめに                                    

                                            

 平成23年12月24日に「日本再生の基本戦略」が閣議決定された。その中でも重点的に取り組む施策として、民法改正が挙げられる。閣議決定では、「国際的にも透明性の高い契約ルールの整備を図るため、経済のグローバル化等を

踏まえ、2013 年初めまでに民法改正の中間試案をまとめる。」としているが、現行民法では、民法の「素人」である国民から見たら非常に理解しにくい。          

 例えば現行民法では、「共通部分を前にくくりだす」パンデクテン方式が採用されているが、当然「共通部分を前にくくりだす」ことから必要な条項は散ってしまい使い勝手が悪い。                               

また、事情変更の原則、不安の抗弁権など現行民法では明文化されていないものもある。                                                                                       

経済のグローバル化を踏まえて現行民法の債権法の改正を行うということであるが、「国民の法的質の向上」といった点でも民法改正は非常に意義深い。        

 グローバル化が進み、外国との取引がより頻繁になるにつれ、グローバル・スタンダートを確立することは重要であるが、特に外国との取引での危険負担が問題となる。例えば、外国の企業と何らかの双務契約を結んだとき、不可抗力により、特定物の引き渡しまたは債務の履行が不可能となった場合、残った反対給付は払われるのか、若しくは払われないのか、明確にする必要がある。         

 一方で、このようなリスクに備えて損害保険等の保険に加入するという手段もある。                                       

 グローバル化の取引のリスクとそれに対する保険について今後どのようにあるべきであり、それにあわせてどのように民法を改正すればいいのだろうか。        

 

2、    危険負担について

                                          

 危険負担とは、双務契約における存続性の牽連性の問題である。双務契約とは、売買契約のように所有権の移転と金銭の移転といった具合に互いに他を前提とする債務を生みだす契約のことをいう。                        

双務契約ではこの様に互いに他を前提とする債務を負っているが、どちらかが債務を履行できなかった場合、帰責事由があれば帰責事由のある方が責任を負えばすむが、どちらにも帰責事由がない、つまり不可抗力で債務が履行できない場合、残る他を前提とする債務がどうなるのかが危険負担の問題である。                                      

 例えば、甲が乙にある物売る旨の売買契約があったが、不可抗力により、ある物の引き渡しが不能となった場合、甲のある物を引き渡す債務は消えてしまうが、乙の代金支払いの債務が残り、乙がリスクを負うのか、代金支払いの債務も消えて、甲がリスクを負うのかが問題となる。前者のように不能となった債務の債権者がリスクを負うことを債権者主義といい、後者のように不能となった債務の債務者がリスクを負うことを債務者主義という。           

現行法では、債権者主義は民法第534条に、債務者主義は同法第536条に規定がある。原則として、現行法では債務者主義をとられているが、例外として、「特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合」は債権者主義がとられる。また、同法第534条第2項より、「不特定物が同法第401条第項2項の規定より、そのものが確定した時から」債権者主義がとられる。                                   

例えば、ビール1ダースを配達するというケースで、特定される前に滅失した場合は、入手可能な限り、引き渡す債務は不可能にならないので危険負担の問題とならない。特定後に滅失した場合は債権者主義が採用される。            

 この債権者主義については、不合理である、不公平である、など様々な批判がある。債権者主義は伝統的には、ローマ法に遡り、フランス法等を経て我が国日本には入ってきた。ローマ法以来、「所有者が危険を負担する」等の法格言があり、所有権と一緒に危険も移転すると考えられてきた。           

 一方で、債権者主義の規定条文である民法第534条は任意規定であるが、この債権者主義の適用を制限する解釈の方法として、債権者主義の適用を排除する当事者の意思をなるべく広く認定するという方法がある。商人間の取引では多くの場合特約があり、危険の移転時期について明確に特約されている。国際取引では、FOBCIF等といった取引条件がある。FOBによる契約では、目的物が船の舷側の手すりを通過する瞬間に買主に危険が移転する。CIFによる契約では、売主は、海上保険料や運賃などを負担し、買主は輸入関税などを負担し、危険は目的物が港で船に積まれた時に移転する。

これらの商取引において、多くの場合、目的物は不特定物であり、ここでいう危険負担とは目的物を他から調達して給付する負担という意味がほとんどである。このような負担を給付負担、反対給付との牽連性の問題を対価負担と区別されることもある。                               

このように、明確な特約がない場合、当時者の意思を契約の解釈によって探る。例えば「6月3日に登記を移転して代金を支払う」と定めていれば、その時危険が移転すると定めたものと解釈する。                           

当事者の意思が明確でないときは、民法第534条第1項では「その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。」とあるが、いつ負担するか厳密に規定されていないことから、そこで目的物についての支配が移ったと解釈し、支配可能性の移転時に危険が移転すると解釈する。 尚、判例は民法第534条を文言通り適用する立場と理解されているようだが、新たな最高裁判決がなく、必ずしも明確ではない。                            

                                          

3、    保険について                                  

                                            

 現実、大きな取引には大抵の場合、損害保険がかけられている。           

保険については、2011年に保険法が施行され、損害保険、生命保険の他に第三分野の保険である、傷害疾病定額保険の規定がある。                

 損害保険業界では、金融危機を受け、大手6社体制から、2011年春から、MS&ADインシュアランスグループホールディングス、NKSJホールディングス、そして、東京海上ホールディングス三メガ損保体制に移行した。         

 リスクは常につきものであるが、加速するグローバル化のなかで需要が高まると考えられる。                                   

 損害保険には、大きくマリン分野とノンマリン分野に分けられ、マリン分野には、海上保険、ノンマリン分野には、自動車保険、火災保険、傷害保険などがある。                                       

                                           

4、    民法改正について                                 

                                           

法務省より、平成23年に「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」が発表されているが、「債権者主義(民法第534条第1項)における危険の移転時期の見直し

特定物の物権の設定又は移転を目的とする双務契約において,契約当事者の

帰責事由によることなく目的物が滅失又は損傷した場合,その滅失又は損傷の

負担を債権者に負わせる旨を定めている民法第534条第1項については,債

権者が負担を負う時期(危険の移転時期)が契約締結時と読めることに対する

批判が強いことから,危険の移転時期を目的物引渡時等と明記するなど適切な

見直しを行う方向で,更に検討してはどうか。その上で,具体的な危険の移転

時期について,解除の要件につき債務者の帰責事由を不要とした場合(前記第5,2)における売買契約の解除権行使の限界に関する規定の論点(後記第4

0,(2))との整合性に留意しつつ,更に検討してはどうか。」とある。

民法改正をめぐっては、改正に反対する、といった意見もあるが、日本にもグローバル・スタンダートを確立し、「国民の法的質の向上」を上げるためにも非常に重要なことであるが、債権者主義について、様々な批判があるが、この改正に関する中間的な論点は妥当なのであろうか。                

 

5、    債権者主義に関する改正に関する中間的な論点整理への考察             

 

 債権者主義を適用する意味があるのだろうか、ということであるが、物権法定主義、所有権絶対、という言葉があるように、民法上、物権、特に所有権に対してかなり強く保障している。原則債務者主義を適用し、例外として特定物の物権の設定又は移転について債権者主義が適用されるということであるが、所有権は排他的独占権があり、保護も手厚く、所有権を得て得られる法益は大きいといえる。ひとつ、この債権者主義の適用を廃止し、目的物が滅失又は損傷した時点で履行が終了していたかどうかで判断するという案もあったようだが、債権者主義適用の廃止は妥当とはいえるのだろうか。確かに目的物の価格が下がるリスクもあることから、債権者主義への批判は非常に的をえているが、一方で所有権を所得すること自体、かなり強い法的利益を得ることができる。そもそも、実際は特約で危険時期の移転を取りきめることが多い。また、保険でカバーすることができる。よって債権者主義の適用を廃止するかどうかあまり現実的とは考えられない。それよりも、原則である債権者主義の危険移転時期を明確にする、という方が現実的であり、妥当であるといえる。              

 

6、    まぁw)ニめ

 

 生きている以上リスクはつきものであり、契約がある以上、リスクの所在を明らかにすることは非常に重要な事である。今後、グローバル化が進むにつれ、さまざまなリスクが出で来る事が考えられ、損害保険の需要が高まる事が予想される。また、グローバル化が進めば、人と人のつながりがより多元的になり、国の役割が減り、個人化が進む事が考えられるが、今まで国が運営していた公的扶助等も保険でまかなう事もできるようになり、個人単位でさまざまなリスク管理を行うようになる事が予想される。グローバル化のもと、グローバル・スタンダートを確立するためにも民法改正は極めて重要といえるが、「国民の法的質の向上」を促す事も非常に重要である。数十年前、隣人訴訟と言われる事件があった。この事件は、契約と不法行為の境界など民法上極めて重要な論点があり、津地方裁で判決が出たものの、世論の影響で訴えを取り下げる事となり、当時の国民の法意識の低さを露呈することとなった。 最近では、景観権など、さまざまな権利が叫ばれるようになったが、国民の法的質が向上しているとは言い難い。個人単位でリスク管理を行うためには、「国民の法的質の向上」も必要不可欠である。これから先、現実的には、危険負担というよりは、契約の特約の方が重要になってくると考えられるが、今まで通りに、人や国に任せっぱなしであたり前のように生きるのではなく、これから生きていくには、日本の法律を理解した上で、さまざまな国の法律を理解し、様々なリスクを把握したうえで、常に自分の有利な契約を結べるような能力が必要である。