松本彩香作成

帝京大学法学部法律学科 09J114027 松本 彩香(マツモト アヤカ)

1.日本の現状と問題点
(a)婚姻
 昭和40年代後半には100万組を超えていた日本の婚姻件数は、現在68797(236月〜245, 厚生労働省人口動態統計速報,平成245月分)にまで減少し、平均初婚年齢は男性30.5歳、女性28.8(平成22年人口動態統計)となっており、晩婚化が進んでいる。晩婚化が進むことにより、初産の年齢も上がっており、出産におけるリスクも高くなることから、少子化に繋がってしまっている。このようなことから、日本の婚姻制度が晩婚化の原因になっていないか以下に検討する。
 まず、日本における婚姻の成立要件は、実質的要件と形式的要件に分けられる。実質的要件として、婚姻意思の合致と婚姻障害事由の不存在が挙げられるが、婚姻意思は更に、実質説と形式説とに分けられる。実質説とは、「社会通念上夫婦と認められる関係を形成しようとする意思」(1)だと考え、形式説とは、「婚姻の届出を行う意思があったのであれば、婚姻の成立要件として十分」(2)と考える説である。私は、実質説を基準に、法的効果を考慮した上で判断をすることが、現代の日本に適していると考える。形式説では、子に嫡出子の地位を与えるという目的だけの為に、婚姻し直ちに離婚した場合でも婚姻は認められるが、例え子の為を思ってした行為であっても、民法第752条にある通り、夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならず、そのような実態がないにも関わらず、夫婦と することは妥当とは言えず、婚姻は無効であると考える。また、嫡出子と非嫡出子では相続分が異なることから、離婚した片方が再婚し新たに子が生まれた場合に、相続のことで問題が発生する可能性があり、そのような危険を排除する為にも、形式説は妥当ではないと考える。
 しかし、実質説にも臨終婚のように相続権を与える目的で婚姻届を提出した場合に問題となる。実質説で解釈した場合、臨終婚は無効となるが、直ちに無効とする必要があるのか疑問であり、法的効果も合わせて考えることが妥当であると考える。この場合、婚姻は贈与(民法第549)や包括遺贈(民法第964)と同等の法的効果を持っており、贈与の代わりに婚姻を用いただけであるから、嫡出子の場合のように他に問題が生じない為、 有効と認めるべきだと考える。
 次に形式的要件として、届出(民法第7391)がある。これには、事実婚主義と法律婚主義の2つの主義が対立している。日本は、法律婚主義を採用しており、婚姻関係が明確であるというメリットがあるが、民法第750条により夫婦同姓とされていることから、仕事をする上で不都合が生じるなどのデメリットがある。特に、法律婚によって改姓するのは、ほとんどが女性であり、キャリアアップを目指す女性にとって不便で、このことが晩婚化の要因になっているとも言える。一方、事実婚は、@夫婦別姓が可能、A戸籍の姓と通称を使い分ける必要がない、B氏名変更手続きの煩わしさがない、C相手の親に婿や嫁という見方をされない、D対等な関係でいられる、E別れても戸籍に残らない、というメリットがあり、事実婚を選ぶケースも増えてきている。
 しかしながら、@周囲の理解を得られにくい、A家族割引が利用できない、B社会的信用を得にくい、C税金の配偶者控除を受けられない、D子どもが非嫡出子になる、E生命保険の受取人に指定するのが難しい、といったデメリットもある。フランスのPACS(民事連帯契約)やスウェーデンのSamboは事実婚を認めており、出生率も高いことから、夫婦同姓や事実婚を認め、法的保護を与えることで、出生率を上昇させることができると私は考える。

(b)離婚
 日本の離婚件数は241231(236月〜245, 厚生労働省人口動態統計速報,平成245月分)である。離婚の方法には、@協議離婚(民法第763)、A調停離婚、B審判離婚、C裁判離婚があるが、協議離婚が9割を占めており、日本は離婚の自由を認めている。また、調停が不調に終わった後でなければ裁判できないという、調停前置主義を取っており、必ず裁判離婚を行う欧米とは異なっている。この違いは、事実婚を認めているか否かということが挙げられるが、調停前置主義があることにより、もう一度夫婦関係を改める努力を行うことができるというメリットがあり、慎重に物事を進められるという点で優れていると考える。
 次に、離婚を認める為には、「姦通・遺棄・虐待など、常に配偶者の一方に非難される有責行為のあることを必要とする」(3)有責主義と、「夫婦間の共同生活関係の客観的な破綻を離婚原因として認める」(4)破綻主義があり、日本は破綻主義を採用しているが、その破綻主義をどこまで拡大するかで、積極的破綻主義(有責配偶者からの離婚請求は認めないとする立場)と消極的破綻主義(有責者からでも請求を認めるとする立場)が対立している。昭和62年の最高裁判決から積極的破綻主義に転換したが、積極的破綻主義には私も賛成である。長期間に渡り別居を続けている夫婦であれば、夫婦という形をとっていても、実質的には夫婦であると言えず、婚姻を継続している意味がなく離婚を認めても良いと思うが、責任のない者から関係修復のアプローチを受けているのにも関わらず、無視し続けた場合には認めるべきではない。また、財産分与や慰謝料といった苛酷条項があることから、財産さえあれば簡単 に離婚ができるという考えになってはいけない。離婚は子どもの成長に悪影響を与える可能性があり、DVといった特段の事情がない限りはできるだけ回避すべきだからである。また、子どもがいなくとも、一度婚姻関係を結んだからには真摯な姿勢で向き合うべきだ。
 私は、昭和62年の最高裁判決のように積極的破綻主義といえども、@相当長期間の別居、A未成熟子の不存在、B相手方配偶者が過酷な状態に置かれる、といった事情がない場合や、相手方が婚姻継続のために真摯な努力を行っている場合は除外するという要件が必要であると考える。

(c)親子
 日本の出生件数は1074863件なのに対し、死亡件数は12758(236月〜245, 厚生労働省人口動態統計速報,平成245月分)と着実に日本人の数は減ってきている。そうした現状の中で不妊に悩む患者の数は多く、晩婚化の影響と合わさって少子化に拍車をかけている。不妊症に悩む夫婦は、人工授精や体外受精等により子どもを持てるようになってきたが、誰と誰の間に親子関係が生じるのかという点で問題が生じるようになった。
 例えば、夫以外の精子を用いるAIDでは、民法第772条の嫡出推定により夫の嫡出子として推定されるが、遺伝子的には精子の提供者が子の父親であり、嫡出でない子であるからといって精子の提供者は子を認知できるのかという点である。私は、夫婦は提供者に精子の提供を依頼して、精子の提供者は夫婦が自分達の子を欲しがっていることを理解した上で精子の提供をしているわけだから、両者の間には契約関係があり、その上で認知の訴えをするというのは、夫から父親の立場を奪うものであり、契約違反であるから、認知を認めるべきではないと考える。また、認知を認めれば、AIDを利用してまで子どもを望んだ夫婦の期待を裏切るものであるから、これは民法第12項の信義誠実の原則に反するものであり、やはり認めるべきでない。
 次に、夫の死後、冷凍保存精子を用いて出産した場合に、夫と子の間に嫡出親子関係を認めるべきかであるが、判例は、民法第787条は死後認知を認めているが 、冷凍保存精子を用いた出産は受精が夫の生存中ではなく、現行法が想定していないことから認めていない。しかし、夫が突然死してしまった場合に、夫との子を持ちたかったと妻が思うのはごく自然なことであり、歴史上の人物の実子が後世に生まれることになるという可能性は捨て切れないが、夫婦関係があった上で精子を冷凍保存しているのであれば、夫も子を残したいという意思があったと推定でき、そのような夫婦間の子どもであれば、夫と子の間に嫡出親子関係を認めるべきだと考える。
 代理母出産については、反対派から、母子関係は妊娠中から育まれる、女性の体を出産の道具にしている、といった意見があるが、依頼した夫婦と代理母が妊娠中にコミュニケーションを図ることで依頼した母と子の母子関係を育め、また、女性の体を出産の道具にしているという点については、代理母は強制的にやらされている訳ではなく、同意の上でやっていることであるから、道具というのは疑問がある。金銭の授受は人身売買に類似する行為ではないかという意見もあるが、何らかの圧力がかかっているわけではなく、代理母は自分の意思で母体の提供を行っていることから、違法性があるものだと私は思わない。300日も他人の子どもを胎内に宿し、悪阻や倦怠感に耐えて何も見返りがないの であれば、善意だけで代理母になろうと思う女性は少ないことが予測でき、外国では代理母で生計を立てている者がいることから、女性への功労という形で金銭の授受をすることも認めるべきである。
 そして、親子になることは、一定の法的効果を生む。それが親権である。親権は@監護・教育、A財産管理、B経済的扶養の3つの類型に分けることができる。ここでは財産管理の問題点について取り上げる。親権者には代理権があるが、代理権行使において重要になるのは、民法第826条により利益相反行為ができないということである。このことで、「利益相反の有無は行為の外形から判断すべきだ」(5)とする形式説と、「行為の動機、目的、結果その他の背景事情を実質的に考慮して判断」(6)すべきであるという実質説が対立しているが、私は実質説を採用すべきだと考える。

 実質説のように親権者の目的や動機までも考慮して利益相反か否かを判断することは、取引の安全を脅かすものだというのが形式説の立場であるが、例えば、親権者が子の名義で借金し、子の不動産に抵当権を設定する行為は、借入金を親権者の債務の弁済に使用する目的であっても、子が主債務者であれば、子が自身の借金のために自身の所有物を担保に出す行為は、親が得するわけではないので、客観的には利益は相反しないから有効である。逆に、親権者が自身の借入金債務のために、子を代理して不動産に抵当権を設定する行為は、子の養育費のために借入をする場合であっても、親の借入のために子の所有物が担保に出されるのであるから、利益相反行為となってしまう。このように、形式的に見 るだけでは取引の安全は守れても、子の利益を本当に保護できているとは言えない。親権者が何を目的として行い、その行為により誰が利益を受けるのか、総合的に判断すべきだと私は考える。

(d)扶養
 扶養とは、自分の資産・労力で生活することのできない者に経済的な援助を与える制度である。生活困窮者に対する経済的援助は、憲法第24条、民法第752条のように家族が援助を行う私的扶養と、憲法第25条、生活保護法等による国が援助を行う公的扶養がある。
 ここでは、どこから国が援助を行っていくのかという公的扶養と私的扶養の関係が問題となる。公的扶養には、補足性の原則と呼ばれる原則があり、これは生活保護法第42項に定められており、親族扶養が公的扶養より優先することを規定している。扶養義務の内容には配偶者や未成熟子の間に存在する生活保持義務と、成熟子や親、兄弟、三親等の間に存在する生活扶助義務がある。生活扶助義務は、自らの社会的身分に相応しい生活をしてなお余力がある場合に扶養の義務を負うことになり、民法第8772項により三親等内の親族においては特段の事情があるときは家庭裁判所が扶養の義務を負わせることができるとしている。しかしながら、現在生活保護受給者は2108096(平成243月時点)で、生活保護制度が開始されて以来、初めて210万人を超え、今年度予算の生活保護費は約37000億円にも上っている。こうした現状の中で、生活保持義務や生活扶助義務というように義務の内容や、家庭裁判所の審判の有無で親族間の扶養義務の程度をわける必要はなく、3親等内であれば審判がなくとも公的 扶助よりも優先的に扶養する義務があるとしても良いと私は考える。生活保護費は国の財源から充てられているわけで、その財源は国債と税金である。日本の債務残高は1000兆円を超えるというのに、特段の事情のない3親等より、国民の税金や国債で保護するのは疑問に感じる。直系ではないとはいえ親族であるから、全くの他人に頼るよりも先に身内で解決すべきである。ましてや、生活保護の不正受給者が増えている中で、安易に生活保護を受ける者が増えては、他にすべき政策に影響を与えてしまう。まずは、親族内で助け合い、身内のいない者やそれでも困窮する者に対し、生活保護を行うべきだと考える。
 
2.改善策
 このように日本の現状と問題点は、複雑化した現代社会において民法の規定がカバーできていないからであり、早急に民法を改正すべきだと私は考える。
 婚姻については、民法第750条の夫婦同姓を削除することにより、婚姻後も仕事を円滑に進めることができ、仕事を続けたいから結婚しないと考える人も減り、晩婚化の流れと出生率の低下に歯止めをかけることができる。また、事実婚についても制度化し、法的保護を与えることで、新しい夫婦の在り方として周囲に認知され、将来の不安をなくすことができると考える。
 離婚については、積極的破綻主義をベースに、相当長期間の別居とは何年なのか、過酷な状況とは具体的にどの程度のものなのか、除外する場合の要件を明確にすべきである。
 親子関係については、代理母やAID等、新たな親子関係をきちんと明文化すべきである。少子化が問題となっている中で子どもが欲しくてもできない夫婦は数多くある。そうした夫婦でも安心して子どもを育てることができる法制度は必要不可欠である。特別養子縁組という形ではなく、実子として育てることができるのであれば、挑戦する夫婦も増加し、少子化対策になることからも、認めるべきである。また、嫡出子と非嫡出子の間で相続分が異なることも問題である。どちらも親の遺伝子を受け継いでいる子なのであるから、差別するのはおかしく、改正すべき点だと考える。
 扶養については、民法第877条を変更して、三親等内の親族間においては、互いに扶養する義務を負うべきである。親族内で資 力のあるなしとは別に扶養すべき者の順序をつけるのはおかしく、ますます親族間の繋がりが薄くなってしまう。困ったことがあれば血の繋がった者同士助け合うのが当然のことである。生活保護受給者が増加している現状を鑑みても、親族内のことは第一に親族内で解決すべきである。
 以上のことから、民法改正は必須であり、少子高齢社会と言われている今、新しい家族のあり方を認め、国として支援していくべきだ。

以上


引用文献
1)内田貴『民法W 補訂版 親族・相続』東京大学出版会, 2004.3, p.56.
2)同上, p.58.
3)金子宏,新堂幸司,平井宜雄編集『法律学小辞典』有斐閣, 4版補訂版, 2008.10, p.1218.
4)同上, p.1014.
56)内田貴『民法W 補訂版 親族・相続』東京大学出版会, 2004.3, p.230.