眞山拓也作成
第1章 時効
時効ついては、民法144条から174条に定めている。「時効の効力は、その起算日にさかのぼる」(民法144条)。
まず、わかりやすく時効についての例題を上げる。
@
他人のダイヤモンドを盗んで、自宅のタンスに20年隠しておいた。
A
アパートを借りたが、あまりに住み心地がいいので、自分のものにするため、20年住み続けた。
@
については、盗んだものなのだから、元の持ち主に返すか時効が成立すれば、問題はないだろう。また、時効の問題になれば、その所有していた20年が一番の争点になる。Aについては、普通に考えて住み続けたといって、自分ものになるのはおかしいと考えるのが妥当である。これらを法的思考で考えてみる。
まず、@について考えてみる
@に一番関係のある条文は、民法162条である。162条は、「@二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。A十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。」と定めている。この条文からわかることは、自主占有(自分のものと認識して所有)の場合に善意、または過失がなかったときは、10年で所有権を取得する。逆に自主占有ではあるが、それが悪意であった場合、20年で所有権を取得する。
よって、@の場合は、悪意である者が、20年にわたり他人の物を自主占有した事例であるから、民法162条により、所有権を取得したことになる。
次にAについて考えてみる。
@では、自分のものと認識する自主占有により、所有権を取得したが、Aの場合では、自主占有ではなく他者占有というのがあてはまる。他者占有とは、他人が所有権を有する事を前提に、その他人の所有権の権能の一部を支配する場合の占有である。
賃借人は、賃借物を使用・収益するという機能を目的として、その範囲で占有している(賃借物を他人に売り飛ばす権限はない)のであって、賃借人は原則として、何十年に渡り賃借物を占有し続けようと、賃借物の所有権を時効取得することはない。また、民法597条一項で、「借主は、契約に定めた時期に、借用物の返還しなければならない。」と定めてある。よって、契約に定めた時期には、借用物は返さないといけないことや他者占有は悪意であろうが善意であろうが時効により賃借物を取得はすることはできない。
@に対する結果を見て、@では悪意であっても20年間、自分のものという意思があれば、盗んだ側の人ものになってしまうというものである。前はたとえ自分のものという意思を持っていたってそれはもともと他人のものだし時間がどれだけ経っても盗んだ側の人のものにならないと考えていた。しかし、今では、そのダイヤモンドを盗まれた本人が直ちに探していれば問題はなかったかもしれないが、20年に渡りそのことについて放置していたことになる。それは、所有権を破棄したようにもうけとることができる。だから、その所有権の破棄を確定させるためにも20年は十分な期間である、と考えることができた。
第2章 動産と不動産
二重譲渡における登記の例題と、詐欺による動産の例題を上げてみる。
まずは、二重譲渡についても例題を上げる。
・Yが最初にXに家を売ると話を持ちかけた。Xは買う気になり、登記を済ませようと思ったら、YはXの他にZに家を売るという話を持ちかけていて、ZがXより先に登記を済ませていた。この場合、XとY、どちらのものになるか。
この事例の物権変動の対抗要件については、民法177条に定めた。「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」と定めてある。この民法177条は公示の原則と呼ばれている。この公示の原則は、「早い者勝ち」とも言われている。この条文には、登記をしなければ、第三者に対抗することができない、と定めてある。よって、先に登記をしてしまったZには対抗できないとする。これは、Xが裁判所に持ち込んでも、Z側の対抗要件として存在する。
次に詐欺における動産について例題を上げる。
・A→B→C
AがBに指輪を、
@騙された
A脅された
B勘違いした
という理由でBに売ってしまった。そのあとBは善意であるCに売り渡した。
この三つの場合、Aに家が取り戻せるのは、あるか。
@の騙された(詐欺)と、脅された(脅迫)については民法96条に規定されている。「一項、詐欺又は脅迫による意思表示は、取消すことができる。」と定めている。Bの勘違いした(錯誤)については、95条に定められている。「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らの主張することができない。」と定めてある。
これらの条文を基礎にして、今回の問題を見てみたい。
まず、Aが騙された場合と脅された場合では、民法96条を見て、「詐欺又は脅迫による意思表示は、取消すことができる。」と規定されているのを見れば、Aに家は返ると思われる。
次に、勘違いした場合では、「意思表示は、法律行為に錯誤があったときは、無効とする。」と定めている。よって、勘違いをしたAに家は返ってくると考えるだろう。
しかし、判例は、三つの場合すべてにおいてCを保護した。なぜなら、民法192条により、Cの立場は保護されているからだ。民法192条には「取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。」と定めている。192条は、公信の原則と呼ばれる。C側の取引の安全も考えて、善意であるCの保護を重視するという判例となった。
私見として、二重譲渡について述べる。二重譲渡では、早いもの勝ちの原則で登記を先に済ませたほうが勝ちとなる。これについては、YがXに家を売る話を持ちかけたとしても、Xが買うことは本人にしかわからないことやいつXが買うかわからない状態であるから、YはX以外の人間にも売る話を持ちかけるのはいたって当たり前なことだ。
詐欺における動産では、Aが、騙された、脅された、勘違いした場合でもCが民法192条によって保護されることが現時点でも判例である。しかし、Cの立場は保護されるのはおかしくないが、A自身の立場はどうなるのか。これについては、Bに対してAが損害賠償の請求などができないのか、などAの立場の保護のほうも今後の講義で研究していきたい。
第三章 相続放棄
相続放棄の効力とは、民法938条と民法939条で、938条が「相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。」、939条は「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」と定められている。ここで使われている「みなす」というものは、法律で、ある事物と性質の異なる他の事物を、一定の法律関係について同一視し、同じ法律効果を生じさせることである。わかりやすいたとえでいうと、未成年が婚姻をしてしまえば、成人達した者とみなす、というものである。これに似ているのは、「推定する」という言葉である。「推定する」とは、「みなす」と違い、反対をあげればくつがえすことができるというものだ。次に 相続放棄について、例題をあげる。
・父が死亡して、その遺産である家を父の息子2人(仮に兄をA、弟をBとする)で相続することになったが、Bは相続放棄をした。しかし、Bにお金を貸しているCは借金を返してもらうためにこの家を差し押さえて自分に登記を移してしまった。この家はだれものになるか。
この事例について、まず、相続のスタンスについて述べる。1つ目は、単純承認というものである。これは、民法920条にて定められていて、「そのまま親の財務や債務を引き継ぐ」というものだ。2つ目に限定承認というものがある。これは、民法922条で定められており、「遺産がプラスのときにだけ引き継ぐ」というものである。そして3つ目が、相続放棄である。これについては、さっきにあげた、民法932条と939条で定められていて、「相続人にならなかったものとみなす」というものだ。相続について、三カ月間放置すれば、自動的に単純承認となる。
今回の判例では、Cの出現「前」と「後」で判決が変わる。まず、Cの出現前では、AとCのものになる。これは、所有者絶対であり、本来の権利者が勝つことになる。次にCの出現後では、Cのものになってしまう。なぜなら、民法177条である公示の原則で、早いもの勝ちというものがある。Aがグズグズしていたんだから、財産を失っても仕方ないというものだ。しかし、裁判所の考え方としては、早いもの勝ちと弱者の保護のバランスとCの出現期間によってスタンスの正反対を言っている。また、学説では、公信の原則の拡大適用、善意のCだけを勝たせるものや、不動産において公信の原則を使ってもよいのか?という問題も残っている。
私見として、Aの立場も重要だが、Cの立場も大切である。なぜなら、Cも債権者として早くお金を返してほしいと思うのは普通のことであるからだ。余談になるが、一昨年に祖父の所有するアパートで孤独死があった。これについて、遺族に連絡して部屋の改装する代金を請求したが、その遺族は相続の放棄をし、請求ができなくなった。結局祖父側が全て負担することになってしまった。遺産の相続になると、相続されるのはプラスな部分だけでなく借金などのマイナスな部分も存在する。マイナスな場合が大きいときは相続放棄は1つの手段かもしれない。しかし、その相続を放棄された側の人の気持ちも考えたほうが良いような気がした。