根岸俊暢作成
(1)はじめに
今回、このレポートのテーマとなる、「社会保障と地方自治」。「地方自治」という言葉について辞書を引いてみると『国内の一定地域の住民が、その地域における公共事務を自主的に決定し処理することをいう。』(小学館・日本大百科全書)と書いてあった。地方とは都道府県や区市町村のことを指すのである。社会保障は国(厚生労働省)が行っているが、実務の多くは地方公共団体(市町村)に任せているのが実情である。赤字国債の発行額が膨らんでいる中で、社会保障費は国の予算の多くを占めており、社会保障を我々の世代やそれ以降まで安定的に給付するための方法を考えることにする。
(2)廃藩置県と道州制
廃藩置県とは明治4年7月14日に、明治政府がそれまでの藩を廃止して地方統治を中央管下の府と県に一元化した行政改革のことである。この改革の目的は平安時代後期以来続いてきた特定の領主がその領地・所領を支配するという土地支配のあり方を根本的に否定・変革したものであり、明治維新最大の改革とも言われている。その後、昭和の大合併、平成の大合併により市町村数は1700まで減少した。明治時代に起こった廃藩置県のように地方自治の仕組みを大きく変えようと大阪市長で日本維新の会の橋下徹代表代行らが唱えているのが「道州制」である。この道州制を導入すれば北海道を除く都府県を廃止して行政を広域化される。また、外交と軍事以外の権限を全て国家から地方に委譲し、対等な道州同士の緩やかな連合によって国に対し低い地方の地位を押し上げるということなどが議論されている。これにより、都府県合併による地方公務員の削減および国から都道府県への権限委譲による国家公務員の削減や地方議会議員の削減をすることが出来て、人件費の削減や国から都道府県、都道府県から市町村へと財源及び権限が委譲されるので、より国民に身近な行政が実現することが期待されます。しかし、今以上に
地方の空洞化・老齢化が進む可能性が強くなり、今まで県や都として、ある程度の規模を持っていた都市も、単なる地方都市となり、州都となる都市への一極化が進むとも言われております。公務員・議員の人件費等の無駄を無くすために、道州制も一つの手段として考えることが出来るが、メリット・デメリット双方をよく考え、検討する必要があります。
(3)地域分権一括法の成立と事務自治
1995年に設置された地方分権推進委員会の勧告を受け、国と地方を上下関係から対等関係にし、一層の地方分権を進めることを目的とし、関係各種の法律を改正されて地方分権一括法が2000年4月に施行された。それによって今までは国と地方は上下関係にあったが、国の都道府県及び市町村に対する関与、または都道府県の市町村に対する関与についてはできるだけ排除され、自主性や自立性が確保されるようになった。国と地方の関係を対等関係にして地方分権をより一層進めようとした。この地方分権一括法によって、それまであった、国は包括的な指揮監督権を有し、地方議会の関与も制限されていた「機関委任事務」と地方議会もそれに関与出来、費用は一定の割合を国が負担した。「団体委任事務」という区分は廃止された。地方公共団体の仕事は大きく2つ分けられる。国の事務を地方自治体が法令により委託されて処理する事務である、「法定受託事務」と、地方自治法2条2項では「地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する」とされており、法定受託事務以外に地方公共団体が行っている事務のことを「自治事務」と呼ぶ。自治事務と法定受託事務の相違点は、法令の規定から見れば、自治体の事務として定めた当該法令に法定受託事務である旨規定されているか否か、ということのみである。しかし、地方の自立・自主性の確保というのは名目で国の責任を回避していると思われる点もある。それは、例えば私の小さい頃に予防接種を受けた記憶がある。予防接種法は予防接種の実施は自治事務、予防接種による健康被害に対する補償を法定受託事務としている。地方の権限強化でなく、国の仕事の軽減や責任の回避であると思われても仕方がなく、法律で定められ、取り組むことが必要な事務は国が責任を持って行うべきである。国と地方の責任を明確化し、効率の良い業務を行うためにはそれぞれの業務を適切に振り分けることが大切である。そのためにも「法定受託事務」という曖昧な制度を廃止し、新しい制度を作るべきである。現在の法定受託事務については、地方公共団体・国の双方に、委託・受託するか否かを主体的に判断できることとすることにより、国と地方を対等の関係にして地方分権を推進し、地方公共団体に対して弱められた関与権限ではなく、民間企業同士の契約のような対等な当事者同士の契約に基づく指揮・監督権限を国は有する。また、国は自ら業務を行う地方公共団体を選択し、地方公共団体に対する十分な指揮・監督権限を与えなければ国の責任を全うすることや地方公共団体の自主性・自立性の確保につながる。地方公共団体の事務は、「法定自治事務」と「任意自治事務」の二つに分けて。法令により義務付けられた地方公共団体の事務を「法定自治事務」とし、国から任意に受託した事務や、法令の枠内で創意工夫をこらして執行される事務を「任意自治事務」とする。任意自治事務については、国から任意に受託した事務については、民間企業のように委託契約に基づく受託者の義務が課せられるが、受託することを任意であり、法定の義務ではない。任意自治事務については、公平・公正等の最低限の規律を確保するためのルールだけを定めるようにすべきである。
(4)国民年金の保険料納付率の推移と改革
厚生労働省が国民年金の保険料納付率を毎年発表しているが、制度が将来的に維持できないほど大幅に悪化している。2012年7月に厚生労働省が発表した、平成23年度の国民年金の保険料納付率は58・6%となり、過去最低を更新した。6年連続の減少で前年度比0・7ポイントのマイナスとなったのである。その要因として、年金不信や若い世代で、収入が低いために保険料を支払えないケースが増えたことなどが影響していると思われる。その対策として、年金事務所は「戸別訪問の重視」など行っているがあまり成果が上がっていません。納付率を上げるためには抜本的な対策が必要であります。国民年金の財源の2分の1(2009年以降)を国が負担しています。仮に国民年金を全額払ってなくても、国負担分相当をもらうことが出来ます。そのような仕組みを知っているのかどうかは知りませんが、全体の4割を超える人が国民年金を払っていないという現状は異常であり
ます。その現状を打破するためには、抜本的な改革が必要です。改革案として一つ目は、保険料免除者を除き、保険料未払いゼロを目指すということです。平成13年までは市町村が徴収していたが、地方分権一括法の施行に伴い社会保険事務所が徴収するようになった。市町村が徴収していた時代にも低下傾向があったが、およそ80%前後の徴収率であった。ところが社会保険事務所が徴収するようになってから極端に納付率が低下しだした。平成14年には60%前半となり、2011年では58%に低下してしまった。もう一度、市町村に徴収業務を「任意自治事務」として委託し、市役所の職員はもちろんのこと退職した、徴収業務など社会保障関連の事務に携わっていた市役所職員を非常勤職員や臨時職員として再雇用して、現役の市役所職員と共に徴税業務を行い、業務に関する知識や地元についてよく知る人と共に仕事を行えば、現役の市役所職員の負担の減少や勉強にもなることや円滑に
業務を行うことにつながります。また、二つ目は現在の国民年金保険料は、月額1万5020円(平成23年度)となっています。1万5000円を経済的理由により4割以上の人が支払うことが出来ないことはないと私は思います。経済的に本当に払えない人は仕方ありませんが、不正行為をして払っていない人もいるはずです。そのような人を減らすために通常の徴収業務は市町村に委託し、国税庁が行っている納税業務、労働保険事務所が行っている雇用保険徴収業務、日本年金機構が行っている保険料徴収業務を統一し、歳入庁を創設して円滑に業務を行うべきです。歳入庁とは2009年に民主党政権が発足した際の衆議院総選挙で民主党が掲げたマニフェストの一つであり、自民党政権へ政権交代された現在はあまり議論されておらず、具体的には進んでいないが、国税庁や日本年金機構などの機関における徴収の機能をすべて受け持つ機関として創造されていた。国税と保険料を一体的に扱うことで、窓口の一元化や手続きの簡素化、それによる徴収率の向上などが図られ、一部マスメディアの試算では各種社会保険の徴収漏れが試算で10兆円あり、国税庁が設置されればこの10兆円とその他諸々を含めた14兆円の歳入の増加が見込まれるとされた。また、現在の仕組みでは所得税の手続きは税務署に、年金は社会保険事務所に、雇用保険は労働保険事務所、生
活保護は市役所などといったように分かれているが、国税及び社会保障制度に関する実務は一元化され、国税、年金、雇用保険、健康保険、生活保護などの受付業務をすべてここで行えば、利用者の利便性が向上するとされた。通常の市役所業務では徴収出来ない人には現在の社会保険事務所のような歳入庁の各地域事務所を作り、その職員が国税庁の職員が脱税事件の際に行うように歳入庁の地方事務所職員に調査権を与え、保険料(年金、雇用・健康保険、生活保護)に関しても、脱税者同様に、悪質な保険料未払い者や生活保護補正受給の疑いのある者には家宅捜索や差し押さえをして、必要があれば銀行や警察などにも協力してもらい徹底的に調査を行う。そして、すべての調査を終えて、本人が年金や保険料を支払うほどの経済状況でなければ、親や兄弟、親類、配偶者などに支払わせるような制度にする。また、生活保護に関しても調査をして、必要が無ければ地方事務所所長の権限で廃止し、不正受給であれば全額を本人及び親類に支払わせる。本人だけでなく、親や兄弟など身内にも迷惑がかかってしまうような制度にすれば、社会的責任や周囲の目から支払わなくてはいけ
なくなるはずです。三つ目は「みんなの党」が昨年の衆議院総選挙でマニフェストに掲げた「社会保障個人口座」の開設である。みんなの党のマニフェストによると税金と社会保険料をあわせた「社会保障個人口座」を開設し、「社会保障電子通帳」を交付。医療・介護、年金などの負担と給付の関係を明確化。また、その個人口座を使い、個人の選択による自前のセーフティーネット構築を可能にし、所得の捕捉を公平に行うため、税、社会保険料を通じた、共通の番号制度「社会保障番号」を導入。任意拠出、相続税減免恩典付きの社会保障貯蓄口座を社会保障口座の中に開設をするというものであります。私はこの政策に賛同しており、負担と給付の関係を明確化し、将来の自分にどのような影響を与えるのかすぐに分かるシステムにすれば安心感を与え、それによって支払う人も増えることが期待され、この制度を活用すれば不正行為をする人を発見しやすくなるはずです。一見、現行制度以上
に厳しい仕組みかもしれないが、必死に稼いで保険料や税金を支払っている人がいます。汗水流して払っている人が損をするような仕組みにしては絶対にしないためにはこのような改革が必要である。
(5)広域連合と後期高齢者医療制度
老人保健法が2008年3月に廃止され、同年4月から「高齢者の医療の確保に関する法律」を施行、新たな「高齢者医療制度」が創設されることになった。75歳以上の高齢者(一部を除く)は全ての健康保険から脱退し「後期高齢者医療制度」に移行した。該当する人口は、約1300万人とも言われている。現在の後期高齢者医療制度の運営主体は国、都道府県や市町村でなく後期高齢者医療広域連合と呼ばれる地方ごとにおかれた特別地方公共団体が行っている。保険料が都道府県単位で設定されており、医療費が低い都道府県は保険料が安くなり、医療費の高い地域に住んでいれば保険料も高くなるということです。同じ国の国民同士の保険料の値段が違うことも問題であるが、市長や知事といった行政の責任者が責任を取りたくがないために広域連合という曖昧な組織によって運営されていることも問題である。そんな仕組みでは誰もが安心する社会保障など構築できるわけがありません。後期高齢者医療広域連合を廃止し、高齢者も若者もみんなが同じ健康保険に入り、国が責任を持って運営を行い、国民年金と同様で(4)で述べたように、歳入庁が統一して徴収すれば、利用者の利便性の向上にもつながります。高齢者の方には負担を掛けることになるが、今後の健康保険制度の維持のためにすべての年齢において自己負担率を一律3割負担として、若者も高齢者も制度の維持のために同じ額を平等に負担してもらう。
(6)まとめ
民主党政権が昨年末、「社会保障と税の一体改革」の一環として消費税増税法案を可決された。悪化する一方の経済状況の中、国民の多くは社会保障制度の維持のためにと苦渋の思いだったのだろう。日本の社会保障制度は他の国に比べて劣っている印象をマスメディア等が与えているが、世界の国々を見ていると「これが一番である」と断定できる制度がない。日本で「福祉の理想像」として一時期注目されていたスウェーデンにおいても社会保障制度の維持が困難になっており、議論すべき点・改善すべき点はある。日本は先進国であり、人口が1億8千人(2010年総務省・国勢調査)おり、人口の多さや国の大きさを考えると他国に比べて社会保障制度が充実し、安定しているように今回のレ
ポート作成の中で調べているうちに感じました。しかし、日本の超高齢化社会が到来しており、昨年は芸能人の親による生活保護問題など社会保障制度に関する問題も大きく取り上げられました。ナショナルミニマムという言葉があるが、国が国民に対して保障する生活の最低限度のことであり、日本では根拠として日本国憲法第25条がある。国が国民に対して最低限の生活を保障するために財源が必要であり、歳入庁が創設され、同組織がお金の出し入れをすべて行い、監視するお金のプロフェショナルにならなければ日本の社会保障制度は崩壊してしまい、日本国そのものが沈没してしまう事態になってしまいます。政治家や官僚ばかりに任せるのでなく、すべての日本国民が日本の社会保障の在り方について考えるときが来ています。
≪参考文献≫
●インターネット
・「道州制.com」 http://www.doshusei.com/(2013/1/16)
・「やまちゃんの地方自治研究」 http://www.cans.zaq.ne.jp/fuadr907/3%20zimu.html
(2013/01/17)
・「日本の地方自治その現状と課題-総務省-」
・「国民年金保険料納付率が過去最低を更新-MSN産経ニュース-」
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120705/plc12070517390014-n1.htm
(2013/01/18)
・「『みんなの党』マニフェスト関連参照資料」
「みんなの党」 http://www.your-party.jp/ (2013/01/18)
「パクト・ドットジェーピー」 http://www.pacte.jp/policy_detail.php?policy_id=1160&PHPSESSID=vicvslpsdb
(2013/01/18)
・「東京後期高齢者広域連合」 http://www.tokyo-ikiiki.net/rengou/seido.php
(2013/01/19)
・「道州制とは何か-NEVERまとめ-」 http://matome.naver.jp/odai/2134681729256942301?page=
(2013/1/19)
●書籍
・鈴木 亘(2010) 「財政危機と社会保障」 講談社
・西沢和彦(2011) 「税と社会保障の抜本改革」 日本経済新聞出版社
・山田昌弘(2012) 「ここがおかしい日本の社会保障」 文藝春秋