山内智博作成

概要

まず、結論を最初に述べ、その後、なぜそのような結論に達したのかという理由や、その他の平等に関する問題点を記載し、最後に帰結する形でまとめたいと思う。

 

結論

 年金制度に関わる諸事情において生じる様々な不平等を考慮し、それらを改善していくことを考えた場合、やはり、積立方式であるCPFのような年金制度に移行していく方法が良いと思われる。

 

現状

 現在、日本の年金制度は大きく分類すると3階建構造となっている。1階部分は国民年金(基礎年金)であり、1、2、3号被保険者が加入する形となっている。2階部分としては厚生年金、共済年金がこれに当たり厚生年金は第2号被保険者の中の民間サラリーマンが加入し、共済年金は公務員が加入する形となっている。そして、3階部分は私的年金と呼ばれ、金額を上乗せし、その分多くの給付金を貰う制度である。これには厚生年金基金、定額給付年金、定額拠出年金(企業型、個人型)、国民年金基金などがある。これらには、仕事をして働いている現役世代が年金を受け取る高齢者のために保険料を納付するという賦課方式が採用されている。次に、これらの年金制度に関する問題点について言及していこうと思う。

 

年金制度おける不平等問題

 年金制度における問題点は私が思うに大きく分けると2つに分類することが出来ると考える。一つ目は賦課方式を採用していることにより起こる世代間の不公平である。二つ目は世代内での不公平であり、これはさらに2つの分類に分けると考えやすい。

 

@世代間による不公平

 現在の年金制度は自分で将来の年金を積み立てる積立方式ではなく、仕事をして働いている現役世代が年金を受ける高齢者のために保険料を納付するという賦課方式を採用している。年金制度を制定する当時は合計特殊出生率4.5以上であり、年金制度の将来は明るい見通しとなっていた。しかし、少子化により、合計特殊出生率は徐々に減少していった。そして、現在の合計特殊出生率1.37となってしまっている。以前は現役世代4人で騎馬戦のように高齢者1人を支える様な負担であったが、現在は2人で一人の高齢者を支えなければならず、いずれは肩車のように現役世代1人で高齢者1人を支えなくてはならなくなってしまう。つまり、高齢者層と若年層では負担率が大きく異なり、高齢者は少ない保険料で多くの益を受け、若者は多くの保険料を払うにもかかわらず、少ない益しか受け取れない不平等が生じているのだ。これは応益負担の原則から考えてもおかしいことである。応益負担は受ける益が同じならば、払う額も同じであり、逆に考えると払う保険料が同一ならば、受ける年金も同一であることが本来あるべき姿ではないのか。

 

A世代内の不公平について

 

1)制度間における不平等

 この制度間の不平等における問題の一つに官民格差がある。公務員(共済年金制度適用)と民間サラリーマン(厚生年金制度適用)は同じ被用者であり、老齢厚生年金対象だが、公務員(共済年金制度)の方が保険料の支払いや年金需給の面で恵まれている。このため、共済年金の大部分を占める公務員の優遇だという批判が強い。これを官民格差と呼ぶ。最も目立つ格差は共済年金の職域加算である。国の試算では、夫が平均的賃金で40年間働き、妻が第3号被保険者であった世帯の老後の年金月額は、厚生年金が約23万であり、同じ賃金であった公務員の共済年金は約25万円であった。この2万円の差が職域加算の差だ。また、現在保険料率は厚生年金が16.4%、国家公務員共済と地方公務員共済は15.8%、私学共済は13.2%となっており、私学共済が一番得をしている状況である。

 また、国民年金のみの加入者と上記の老齢厚生年金加入者との差はとてつもなく大きいものとなっている。老齢厚生年金は一見応能負担になっており、能力のある人間が多くの保険料を払うことになってはいるが、最終的には多くの年金を給付されている。さらに、この老齢厚生年金は労使折半であり、保険料の半分は会社や国、地方公共団体が支払う為、その不平等はさらに広がってしまう。この不平等はジョンロールズの正義の2原理に照らし合わせると、職業=年金制度となっている部分では、全ての開かれている職に付随する為(社会均等原理)は満たす。しかし、この不平等は最も不遇な立場にある人(この場合国民年金のみの加入者)の利益を最大にするどころか、最小にしてしまっている。これでは格差原理の条件を満たすことが出来ず許されない不平等であると言える。

 次に職場で使用される人が対象となる職域保険(厚生年金保険、共済組合等)と、自営業者や農業従事者等の職域保険の対象者以外の住民が対象となる地域保険(国民年金)との不平等であるが、これは構成員の違いによって生じるものである。職域保険の構成員は通常は収入のある20才から60才となっており、その構成員内での助け合いは収入がある為、一人ひとりの負担率は少ないものとなっている。一方、地域保険の構成員にはバラツキがある。以前の地域保険の構成員は、無職の人や自営業者、高齢者が混ざっている状況であった。その為、収入のある構成員は他の構成員の分も割合で払わないといけない為、保険料の負担が高くなってしまう。また、それに加え、高齢者の医療費は若者の医療費に比べ多く必要となる為、さらにその負担を苦しめるものとなっていた。その不平等の是正するための策の一つである後期高齢者医療制度により、負担を職域保険にも回し、以前ほどの不平等はなくなってきている。

 

2)制度内における不平等

 現在、第3号被保険者に分類される者は納付実績が無くとも、扶養されている間は保険料を納めた期間とされている。その為、保険料負担の不平等感は否めないものである。実際、母子家庭の母や共働きの母(130以上を稼ぐ)は子供がいるにも関わらず、第3号被保険者に該当しない為に保険料を支払わなければならない。この不平等においても、最も不遇な立場にいる人(この場合は母子家庭の母)が最大の利益を得けるのではなく、逆にその格差が広がっていることから格差原理の条件を満たしていないと言える。

また、制度内における不平等の一つとして、厚生年金基金(企業年金)における不平等が挙げられる。企業年金は先程上記に記載した年金の3階部分は勿論、公的年金である2階部分も企業が国に代行して運営するものとなっている為、運用が上手くいかない場合、加入者はその分の被害を受けることになる。最近で一番有名な運用問題としてはAIJ問題があり、現在ではありえない予定利率5.5パーセントという話に多くの企業が引っかかり、被害を受けることになってしまった。この際、大型社は単独型のスタンスを取っている為に、すぐに解約などの対応が出来たのだが、中小企業は統合型のスタンスを取っている為、解約制限(3分の2以上の同意)により対応が遅れ、結果として1階部分である基礎年金以外は年金が貰えなくなるという事態に陥ってしまった。これは統合型と単独型の格差であると言える。また、厚生年金基金では運用が上手いところと下手なところでの運用ギャップの差も生じてしまうことは否めない。

 

これらの問題を受けて

 上記に記載しただけでも多くの不平等問題が存在していることが分かる。これらの不平等はジョンロールズの正義の理論に照らし合わせてみても許されないところがあり、同時に私としても、これらの不平等のなかには合理性を欠いているのではないかと考えられるものが多数存在していた。そこで、どのような制度にすればだれもが納得するのかをこれから記載していきたいと思う。

 

年金制度に対する平等権を踏まえた私の考え方と積立方式

@年金とは

厚生労働省のホームページの乗っていた『公的年金制度に関する考え方第2版』等を読み、年金制度とはいったい何なのかを根本から考えてみることにした。まず、人が年をとり働けなくなった時に蓄財が無ければ、社会的なセーフティーネットである生活保護を頼ることになる。しかし、生活保護では必要最低限の給付しか受けられない。故に、多くの人は必要最低限の生活はしたくない為、蓄財をすることになる。そして、生活保護費が膨大にならないようにする等の兼ね合いも考慮し、蓄財という自助努力を社会的に義務化したものが年金制度の始まりなのではないかと私は考える。その考えから導き出すならば、自分で払った金が自分に帰ってくる積立方式が本来年金制度のあるべき姿なのではないか。

 

A賦課方式について

一方、現在採用されている賦課方式の制度は上記に記載したように世代間ギャップを引き起こすものであり、さらに、合理性について『公的年金制度に関する考え方第2版』を読んだところ、その理由付けは精神論や先進国は賦課制度を採用しているから等が目立ち、とても合理性があるとは思えなかった。

 

B最新の考え方

平成24727日のフロンティア会議(政府の動向)での、租税原則は従来の(公平・中立・簡素)から(公平・透明・納得)へと移項するという考えであり、租税原則と保険料納付は異なるが、消費税の増加分は社会保障に当てること等を考えると、その二つは限りなく一致する。それ故に、これらかの保険料の納付制度も(公平・透明・納得)であることが求められるのではないか。また、最新の政府の動きとして、マイナンバー法案を作成中であることを知った。

 

C例示

 シンガポールのCPFという積立方式の制度は一人ひとりに番号を与えられており、自分がいくら保険料を支払ったかを確認することが出来、透明性の高いものとなっている。また、自分のために蓄財を義務化し、もし、自分が無くなった場合においても、その間に支払った保険料は相続が可能である。さらに、もし、蓄財が失敗したとしても、セーフティーネットである生活保護は確保されている。このような制度ならば、ジョンロールズの正義の2原理の基になった、原初状態においても誰もが納得し、誰もが同じ判断をするだろう。これは先程記載した、日本の政府の動向である(公平・透明・納得)を満たすことが出来、マイナンバー法案を思案しているところを考えると、日本政府もいずれこのような年金制度に移行させようとしているのではないかと感じた。

 

D積立方式にした場合の措置

 仮にCPFのような制度にする場合、個人の蓄財を義務化し、透明化したものであるから、老齢厚生年金のような労使折半という不平等を増大させるようなものにしてはならないと私は考える。つまり、個人の積立部分(年金)と安定財源(インフレ等、不足の事態に対する安定化の為の費用)を切り離すべきである。これは制度を簡素にし、同時に、非正規社員と正規社員との区別を無くし不平等を解消し、誰でも納得が出来るものとするためである。なお、安定財源は税によって様々な部分から徴収するものとし、各会社の労使折半の負担が減ることを考慮し、法人税の見直しを行うことは言うまでもない。

 

帰結

 上記に掲げた現代の年金制度における様々な不平等問題、賦課方式から積立方式へ移行した場合のメリット、最新の政府の考えである(公平・透明・納得)やマイナンバー制度の思案、ジョンロールズの正義の2原理等による妥当性、それらを全て考慮するならば、やはりこれからの年金制度はシンガポールのCPFのような制度に移行することが望ましいと結論付けられるだろう。

 

参考サイト

内閣官房http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/index.html

総務省http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/daityo/mynumber_rfi.html

厚生労働省年金局『公的年金制度に関する考え方(第2版)』

http://www.mhlw.go.jp/general/seido/nenkin/seido/index.html