横山奨作成
物権変動と弱者
物権変動とは物権が発生、変更、消滅することの総称をいう。
(1) 物件の発生
物件の発生は様々な原因によって発生するが、大きく2つにわけることができる。
例えば、父親が愛用している時計を父親の死後、子が形見分けで獲得する、文字通り人から物権を「承継」して取得するわけである、これを承継取得という。
そしてもうひとつは原始取得である、わかりやすいものは建造物の建築である、自分で建築会社に発注して完成後は自分名義のものになるわけであるから「原始」取得になるわけである。
(2) 物件の変更
例を挙げるとAが所属しているサークルにテレビを寄付する、その場合テレビは自分の所有物から所属サークルの組合財産となり、寄付したAが勝手にそのテレビを処分できなくなる。つまり物権の変更とは物権の同一性を保ったまま物権の内容や客体が変わることである。
(3) 物件の消滅
物件の消滅は目的物の滅失、消滅時効、混同、などに分かれるがわかりやすいものは滅失だろう、物権は基本的に「モノ」があって初めて発生するものであり火事や自然災害などで家が消失したときには当然その「モノ」を支配する物権も消滅してしまうことになる。
公示の原則と公信の原則
(1) 公示の原則
物権の取引は目に見えるものではない、そのため第三者が見てもわかるようにしなければならない、これを公示の原則という。民法では不動産については登記、動産については引渡しが対抗要件になっている。これがなされてない場合甚大な被害を受ける場合がある。例えばAがBから家を購入したが諸事情で登記をしなかった、そこに目を付けたBが第三者のCに家を売ってしまった、先にAが家を購入していることを知らずにCは登記をすませてしまった。この場合AはCより早く家を購入したわけだが肝心な登記をしていないので正式な所有者ではない一方CはAより後に家を購入したわけだが登記をAより早く済ませてしまった。AはBに騙されたわけだがCは完全な善意の第三者のため家はCの所有物となってしまうのである。
(2) 公信の原則
実際には権利が存在しないのに、権利が存在すると思われるような公示がある場合に、その外形を信頼し、権利があるように信じて取引した者を保護するためにその者に権利が存在するとみなすという原則を公信の原則という。例えばAはBに金の指輪を5万円で売却した、ところがその指輪はCからあずかっていたものだった。この場合BはAのものであると信じていたと想定してBは過失がない、そのため所有権の取得を認める、これが公信の原則である、これは動産取引の安全を確保するためのものだが本来の権利者を犠牲にするものでもある。
弱者の救済処置
(1)成年後見人と成年被後見人
近年日本は高齢化社会に突入しつつある、その上でますます重要になってきているのが成年後見人制度である、高齢化また認知症の進行などで意思能力が不十分で単独では完全に有効な行為を行うことができないとされるものを制限行為能力者といいこれらの者の行為能力を制限する反面、それぞれに保佐人が代理権を行使して制限行為能力者が損害を受けない配慮をしている。例えば成年被後見人のXは成年後見人のAの同意がなく土地の売買などができない(日用品の購入を除く)これが保佐人の同意権である、また本人が同意なく行ってしまった法律行為も取り消すことができる、これは代理権と呼ばれている。
(2)意思能力
私法上の権利や義務の関係を有効につくるには、その関係を作ろうとする「意思」がなければならない。この「意思」を有効に為せるだけの資格のことを「意思能力」という。ある法律行為をした結果がどうなるのかを認識できるだけの能力が必要となる。
条文に規定はないが、一般的には、10歳未満の幼児や泥酔者、または認知症高齢者などはこの意思能力を欠くので、その意思表示は無効になりうるとされる。もちろん権利能力は保有しているので代理人をたてて意思表示をするのは認められている。
(3) 行為能力
行為能力とは、単独で、有効な法律行為(権利や義務を発生させる行為)をする資格。行為能力が未熟な未成年者や、成年者でも不安のある者は「成年被後見人」、「被保佐人」、「被補助人」と類型化して保護され、単独でした法律行為は取り消される場合もある。
(4) 行為能力と意思能力の関係
人が有効な法律行為をなすには、意思能力に加えて行為能力も必要となる。この二つの能力のうち一方が欠けていた場合、もしくは両方ともかけていた場合はどう処理されるのか?
@ 無効でも取消でもどちらでも主張できるとする説
制限行為能力者が、意思無能力者である場合、通説は「制限行為能力者としての取消し」でも「意思無能力者としての無効」でも、どちらでも主張できるとしている。制限能力者を手厚く保護できるからである。
A 取消のみを認める説
他方の学説では、制限行為能力制度による「取消し」のみ認めるべきだとしている。意思能力の程度に応じて制限行為能力制度というのが設けられているのに、わざわざ意思能力無効を主張するのはおかしいなどの理由がある。ただしこの学説には、たとえば意思能力の無効を主張できたはずの人が、行為能力の制限の審判を受けた途端に「取消し」しか主張できなくなるのはおかしいのでは、という反論もある
(5) 未成年者の保護
民法では、未成年者は、判断力が備わっていないとされている。
このため、不利な内容の契約を結んでしまわないように、強力に保護されている。
例えば未成年者は、原則として単独で法律行為ができず、法定代理人(親権者または未成年後見人。一般的には親)の同意があって、初めて完全に有効な法律行為をおこなうことができます。(民法第5条第1項)ただし、すべての行為が制限されてしまうと、未成年者は、法定代理人の同意がなければ、何もできなくなってしまう。このため、ただし書きに規定する「単に権利を得、又は義務を免れる法律行為」については、法定代理人の同意を要する法律行為から除外されている。
(6) 親権者と利益相反行為
利益相反行為とは,法律行為自体や外形からみて,親権者(後見人)の利益になるが未成年者(被後見人)にとっては不利益になる行為,又は親権に服する子の一方には利益になるが他方の子にとっては不利益になる行為のことをいう。
例えば、ある家庭に未成年の二人の兄弟がいて両親は兄には目もくれず弟を可愛がっていた、そのため自分たちの財産はすべて弟に相続させようと考え、兄には相続を放棄させる手続きを行った。これは上記に書いた条件と一致するため利益相反行為となる
(終わりに)後見制度の問題点、東日本大震災
(1) 前述のとおり少子高齢化の進行で日本は高齢化社会に突入しつつあり成年後見制度の利用者も増加してきた。ところが今この制度でトラブルも多発している。例えば成年被後見人の財産を管理すべき後見人があろうことか被後見人の財産を着服して後見人を解任されるという事件が珍しくなくなってきている、また身寄りがない老人のために司法書士などが代わりに後見人になる「法定後見人制度」をとる場合もあるがここにも日本が抱える現代病が潜んでいる、それは日本の介護事情もあるが労力に対する報酬が少なすぎることである。報酬は本人の貯蓄額によって異なるが、例えば借金があり貯蓄もゼロの場合は、本人から報酬を受け取ることができないため自治体から月1万8000円が支給される。年間額で21万6000円だ、しかも認知症患者、ボケ老人の世話を一日中して月給がこれである。確実に日本は高齢化が加速し、似たようなケースはさらに増える。このままだと後見人も足りなくなり、誰も面倒をみない「後見人難民」が増えることになるだろう。これらのことから成年被後見人の財産の保護だけではなく法定代理人もしくは任意後見人両方にも救済が必要になるのではと考える。
(2) また新たな展開も生まれている、個人的に気になり今後の課題に恐らくなると思うことだが後見人が大規模震災などで突如として「事務不能」になるケースだ、これは2011年の東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城、岩手、福島の三県で多数の成年後見人(または法定代理人)が死亡もしくは行方不明または遠隔地に避難したため後見事務が「不可能」になる事例が多発した、成年被後見人は財産の管理や介護施設または病院への入所手続きを後見人に基本的に管理を任せているがために。成年被後見人が孤立してしまっているというケースだ、そもそも成年後見制度は今回のような大規模災害を想定していないそもそも成年後見制度は明治時代に本人の保護・家財産の保護を目的として作られた禁治産・準禁治産制度での問題点、本人の自己決定権の尊重や身上配慮などの不徹底だった部分の両方を調和させることで利用しやすいように改正されたもので今回のケースのように突如として後見人が活動できなくなるような事態を想定していないため制度が不十分である。また震災で親権者を失い孤児になってしまった未成年者の保護も大きな問題である、幸いなことに親族が残っている場合、震災孤児たちの殆どは引き取られているようだが彼らには突然残された遺産もしくは保険金(あまりいい話ではないが)が入ってくる、この財産は将来の孤児たちのために使われなければならない、悪意の第三者に横領などはあってはならない。そこで民法のひとつである未成年後見人を積極的に使用して震災孤児たちの保護、救済に努めなければならないと自分は考える。これらの事例で登場してきたものは紛れもない弱者でありかれらの救済のためにも今後は親族だけではなく本人の権利擁護のため弁護士や司法書士などの専門家を後見人とするそして大規模災害などでの後見人の問題についても考慮した法整備が必要になってくると考えられ、時代の変化に対応する柔軟性がますます高まっていると考える。
参考文献 民法T「第四版」総則・物権総論 著 内田貴
新はじめて学ぶ民法 著 高橋裕次郎
2011年12月4日付Yomiuri online
2011年9月14日付Yomiuri online
2011年8月24日付毎日jp
2011年4月13日付 産経ニュース
2011年5月5日付 毎日jp