上野友斗

（第二次）情報社会における正義

18J107010　上野友斗

結論：日本が、政治哲学につき、イデアは存在するものの、それは霊的な世界と同視される存在、概念であり、それを知る者が独裁政治をすべきとする哲人政治は、現実的に不可能と言わざるを得ず、結果的にルソーの言う一般意志の集合としての民主政治を実現すべきであり、代わって、情報社会における刑事法は、結果無価値論と行為無価値論の弁証法と観念しつつ、政府や巨大企業による人権侵害に対抗するため、結果無価値論に基軸を置くべきであり、以上の基本的立場を日本型の正義と位置づけ、これを宣言するとともに、中国、米国に対抗しうる第三の勢力を形成していくことが、情報社会における正義というものである。

１．総説

本稿では、法律論を中心に、情報社会における正義について検討する。また、正義をめぐる議論は、法律論に限られない。政治体制のあり方や、日本企業のあり方、精神障害者の社会的な手当のあり方など、様々な観点から正義とは何かについて議論されている。これらの問題についても、本稿で検討していくこととする。なお、本稿は、卒業論文�T及び英米法�Tの答案も兼ねている。したがって、法律学演習�Tで要求されるレベルより一段階専門性の高い内容に踏み込むと同時に、日本法と外国法を比較する視座に立ちながら、それぞれ論じていくこととする。

２．情報社会における政治哲学

（１）民主集中制

政治体制は、大きく民主集中制と民主政治に大別される。両者を比較していくが、まずは民主集中制について検討する。民主集中制とは、権力を集中させて政治を行う体制を言う。語義上、民主政治の「民主」が置かれ、それを「集中」させるため、矛盾を内包した概念と言える。権力を集中させることとデモ（民主）は相容れないはずなので、結局、実態は権力を集中させることに比重を置く概念であると指摘することができる。では、なぜ民主というのか、という問いに対しては、人民の中から選ばれた者が政治を行うという意味だろうと思われる。つまり、確かに特別の権力を持つ者が現れて独裁体制を築く。しかし、権力者は世襲ないし神から権利を授けられた者ではなく、あくまで人民の中にある、ということと考えられる。中国における毛沢東思想・習近平思想は、確かに「思想」と付されており、若干人知を超えた存在を想像する余地があるが、それでも、人民の中から選ばれた者ということとされている。

民主集中制の背景思想は、プラトンの哲人政治に遡る。プラトンは、哲人が政治を行うべきと主張した。プラトンの哲学は、世界を理性・気概・欲望に分けられるとした。このうちの理性がイデアと呼ばれるものであり、一方で気概と欲望は俗的なものと理解された。そして、イデアを知る者は非常に少ないと考えた。反対に言うと、多くの者は気概・欲望のレベルに留まるものと考えたということである。そこで、政治はイデアを知る哲人に一任すべきと考えた。そのため、民主集中制と哲人政治(プラトン) は、共に独裁的な政治構造を是としており、親和性が高いといえる。もっとも、プラトンも始めから哲人政治を主張していたわけではなく、いわゆるソクラテスの弁明等を経て先に述べたような結論に達したものとされている。

東洋における民主集中制的な思想として、朱子学が挙げられる。朱子学は、儒教の一派であり、朱熹や程頤によって構築され、発展した。重要な概念として、理気二元論が挙げられる。簡単に述べると、理気二元論とは、世界を理論的な「理」と物質的な「気」によって構成されているものとする理論を言う。「理」はプラトンの言う「イデア」に相当すると言われている。しかし、朱子学は理論に拘泥するため、理屈が通っていれば妥当な結果になっていなくても意に介さない。現代の財政均衡主義、自由貿易絶対論、ワクチン信仰は、これらに類するものと言えよう。また、教条的という点で、法体系としては大陸法に親和的である。

中世における民主集中制的な政治体制及び哲学としては、絶対王政並びに王権神授説などがある。しかし、イギリス市民革命、フランス革命等によってこれらは打倒されている。

現代において民主集中制を取る国は、中国を皮切りに一定数存在する。こと東南アジアにおいては、（タイの）お隣ラオス、ベトナムなどが完全な形の民主集中制をとっている。ベトナム憲法８条は社会主義共和制を掲げている。一方で、ラオス憲法５条も、国会、地方議会、その他のすべての国家組織は、民主的中央集権制に従い、設立され、かつ機能する、という趣旨の規定を置いている。なお、ラオス憲法２０１５年改正前は、国会その他のすべての国家組織は、という趣旨の規定だったが、それに地方議会も加えられた。細かい点は無視するとして、いずれにしてもマルクス・レーニン主義のラオス人民革命党による一党独裁体制が敷かれており、盤石な民主集中制といえよう。

ちなみに、ブルネイも一院制の立法評議会が置かれているものの、１９６２年のブルネイ動乱以降選挙は実施されていない。また、大統領制をとるお隣カンボジアにおいても、フンセンに人気があるとはいえ、事実上独裁体制になっているとの指摘もあり、緩やかな民主集中制とでもいえようか。

　

（２）民主政治

民主政治とは、選挙等によって選ばれた国民の代表者が政治を行う体制を指す。民主政治の背景思想は、アリストテレスの哲学に遡る。プラトンがイデアを知る者による政治（哲人政治）を述べたのに対して、アリストテレスは、イデアを否定した。イデア論に代わってアリストテレスが述べたのが、質料形相論である。質料形相論とは、世界を形という形相と、素材としての質料によって構成されるとみる考え方をいう。ここでは哲学に深入りせず、簡単に要点だけを述べると、次のようなことに帰結する。まず、イデアは無い。そして、イデアが無い以上、イデアを知る者による独裁的な政治というものを観念する余地がなくなる。とすると、結論として多数決原理、すなわち民主制こそが理想ということになる。

中世における民主集中制的な政治体制及び哲学としては、ホッブス、ロック、ルソーの社会契約論や、三権分立を説いた法の精神(モンテスキュー)などが挙げられる。社会契約論という名の書物を著したのはルソーであるが、ホッブス及びロックも社会契約論を主張した。社会契約論とは、個人と社会全体が契約を結んでいるという趣旨の理論である。ルソーは、人間には個別意志と一般意志があると主張した。個別意志は自分の周囲を見る近視眼的な損得勘定に基づく意志を指し、一般意志は社会全体のための意志を指すものとする。ドイツ観念論哲学のいう主観的人生観と客観的人生観を、意思の枠組みで捉えても、そのような分類をすることができる。ルソーは、その中の一般意志による投票、すなわち一般意志の集合を持って政治を行うべきと述べた。社会契約論の中でも、三者では抵抗権の是非など、それなりに相違点があるが、ここでは省略する。

また、社会契約論を批判する考え方として、保守主義というものがある。カール＝シュミットは、民主政治を同質性と捉えた。シュミットの思想を超訳すると、あくまで民主政治は被支配者から支配者への服従に過ぎず、民主主義的同質性を形作っているに過ぎないとする。この考え方は、結局のところ現在の体制を維持することに重点を置いている。つまり、形の上では民主政治を肯定するが、客観的に見ると民主集中制の方が親和的と言える要素も含んでいる。

代わって、モンテスキューは、三権分立を説いた。三権分立とは、国家権力を立法・行政・司法の三つに分けることをいう。このことにより、権力を相互間で監視させることが可能となり、不当な人権侵害を防ぐことにつながるとされている。立法違憲審査や、行政に対する違憲審査はこれに該当する。ドイツでは、違憲判断の件数が多く、司法による立法・行政への監督が十分に行われているものと評価できる。この点につき、日本では、違憲判決を出すことは少なく、そもそも司法消極主義で統治行為論や自由裁量などを根拠に審査すらしないことも多い。とはいえ、不十分な点はあれど、三権が分立しているだけマシということは言える。いずれにしても、モンテスキューの三権分立が民主政治における重要な要素であるということができる。

東洋における民主政治的な思想として、陽明学・古学・水戸学などが挙げられる。もっとも、これらは、直接的に民主制を説いているわけではなく、むしろ朱子学に対置される思想である点に意義を持つが、現在の体制、とりわけ独裁体制（民主集中制的な体制）を批判する性格を持つという意味では、ここで取り上げるべき重要な思想潮流といえる。まず、王陽明がおこした陽明学は、儒教の一派であるが、いわゆる理気一元論を説いている。この考え方は、朱子学のいう理（理論）を否定する。超訳すると、絶対的に正しい理というのは存在しないので、理論より実践を重視すべきということである。中江藤樹、大塩平八郎、吉田松陰などが代表的な陽明学者である。

一方、古学は、陽明学に近い考え方をとったが、陽明学が注釈書頼みであることを批判した。古学は、注釈書ではなく、経書（孔子が著した原典）に当たるべきだと主張した。要するに、朱子学・陽明学は学者先生の教科書を読んで満足していたが、古学は条文に当たれと批判したというわけである。これは、プロテスタントが聖書を読めと言ったのと同じである。古学は山鹿素行、伊藤仁斎、荻生徂徠などによって発展した。渋沢栄一の論語主義も、古学の影響を大きく受けたものと解されている。

また、同じく江戸時代に、儒教を基底として、国学や神道を融合したのが水戸学である。水戸学は前期水戸学と後期水戸学に区分され、水戸光圀、会沢正志斎などによって構築された。水戸学も朱子学の対極に位置づけられる陽明学的な考え方と言えるが、日本独自の思想としての色彩が強く、儒学の体系の一派として捉えることが妥当かどうかというと疑問は残る。

現代において民主政治の国はアメリカを筆頭にして相当数に上る。こと東南アジアでも、マレー系３ヶ国とフィリピン並びに一応タイ、ミャンマー、カンボジアも民主政治体制とされている。ただし、後ろで挙げた３ヶ国については、民主政治体制と実質的に言えるのかについて疑問がある。タイ政治については後期に詳述し、その他ミャンマーやカンボジアについては、機会があれば論文に著すこととして、ここでは留保しておく。

　なお、民主政治については、選挙の過程等の実質面も重視される。ただ選挙が行われていればそれでよいと言うわけではない。その意味で、２０２０年のアメリカにおける不正選挙は、民主主義の根幹を揺るがすものである。郵便投票の不正や、バイデン票の二重集計などは、到底許されるものではない。それから、アマルティア＝センのケイパビリティという概念も、民主政治の実質的な公平性の確保のために重要である。

（３）進歩史観と政治体制論、政治体制のあり方

政治体制について、少なくとも、民主集中制対民主政治の枠組みで述べれば、民主政治の方が正しいと解するのが日本においては通説である。これについては、もはや民主政治が民主集中制を克服したという、ある種進歩史観的な見方さえ出てきているといえる。ソ連、東ドイツ、その他の社会主義諸国が崩壊したことをもって、共産主義はもちろん、独裁という国家体制も過去の遺物とみなす見方である。しかし、中国や、タイ式民主主義その他の開発独裁諸国の発展などを踏まえると、あながち独裁による政治手法が誤りであると言い切ることはできないのではないかとも言われている。

思うに、この点を検討するに際しては、�@イデア論対反イデア論の決着、�A権力者の実態、さらに�B国家規模や経済成長の段階に応じた結論の違いを認めるか、という点を考慮しなければならない。まず、私は、�@イデア論対反イデア論について、物事の真理というものはあるのではないかと考える。ただし、それは必ず後付けになると思われる。私は、霊的なものを重視する立場に立つため、イデアや、さらに言えば全宗教的・地球的な正義というものがあると考えている。しかし、それに到達することはかなり難しいと考える。とすると、イデアを知る者による政治というのは、理想論としてまで否定されるべきものとは言えず、むしろそれが可能であるならば、民主政治を上回るパフォーマンスを発揮しうると考える。だが、この世のすべてを理解したような哲人が政治を行うのは、現実問題として不可能と考える。刑法で言えば期待可能性が無いということである。とすると、イデア自体は認められるが、それを根拠とした哲人政治を実現するのは困難と考える。

次に、�A権力者の実態について検討する。民主政治は衆愚政治に陥ると批判されるが、そのようなことが言えるのか、実態を踏まえて判断する必要がある。まず、民主政治では、短期的に有権者の得になるような政策ばかりが進められると主張されている。この点、やはり有権者の顔色を伺うことにより、政治判断が歪められることは確かにあると思われる。「黒い雨」訴訟（東京高判令和３年７月１４日）における国側の上告断念などは、まさに選挙を意識した政治判断である。当該判断の是非は置いておくにせよ、少なくとも選挙を意識した判断がなされていることは事実である。経済学においても、政治的景気循環の理論などが主張されている。もっとも、誤ったドグマに基づく新自由主義政策の追求や消費増税など、ひたすら道を誤ることもあるので、全てが衆愚政治に陥っているとは言えないだろう。

しかし、民主政治のより大きな問題は、次のようなことにある。特に二大政党制の場合に言えることだが、与野党が頻繁に入れ替わる場合、正反対の政策が実行されることになる。すなわち、政策のコペルニクス的転回が数年おきに起こることになる。そのため、中長期的な視野に立った政策が実行されない。そうすると、長期間を掛けて取り組んでいくべき問題が中途半端なところで中断してしまう。この点が民主政治の抱える構造的な問題と言える。

中台統一と一帯一路や中国製造２０２５は、まさに長期的な視野に立った政策である。これらの政策は、習近平の周りがイエスマンばかりで、有能な人材が少ないことから、結果的に計画それ自体が杜撰なものであるために失敗が積み重なっている。しかし、仮に政策それ自体が完璧なものであった場合、政策を実行する環境は中国の方が間違いなく整っていると言えるから、成功する確率が高い。仮にアメリカのように数年おきに指導者が変わり、一帯一路を宣言したかと思うと政権交代によって撤回され、というようなことを繰り返していれば、長期的な計画それ自体がまっとうなものであっても、結局中途半端に終わる。このように、中長期的な政策の実効性という観点で、民主政治（特に二大政党制）は大きな弱点を抱えているといえる。

他方で、民主集中制においても権力者の実態を見る必要がある。哲人政治の本質は、優秀で、かつ高潔な人間による政治である。では、習近平や金正恩はそのような主導者と言えるのだろうか。習近平については、一応コネで清華大学を卒業しているエリートということになる。しかし、中国共産党の中央書記になった顛末は、権力闘争に勝ち抜き、王岐山と共に言いがかりをつけて政敵を追放し、その一方で自身は相当な数に上る汚職を繰り返したとのことである。このようなことを踏まえると、「民主集中制で高潔な者による政治を実現する」というのは、やはり現実問題として無理ではないかという結論に至る。

また、�B国家規模や経済成長の段階に応じた結論の違いを認めるか、という点も検討すべきである。つまるところ、民主集中制か民主政治か、という論争を、世界共通について言える一般論として打ち立てるのは無理であり、経済状況等の諸般の事情によって異なると解する余地があるのか、という点について検討する必要がある。小国は全国民を結集する方が良いとするのか、反対に大国こそ独裁者が仕切った方が良いのか、また、ラオスのような後発途上国では、国民の権利よりも開発独裁によって開発を優先させた方が良いのか（開発独裁なら正当化されるか）など、検討の余地がある。この点は、民主集中制と民主政治の中間的な形態によって経済発展を収めたタイ式民主主義などが示唆に富んでいるが、具体的な検討は後期に回すことにする。

以上を踏まえると、イデアを知る者による哲人政治が可能であれば、民主政治以上に社会の発展をもたらしうるといえる。しかし、実際問題としてイデアを知る高潔な指導者が政治を行うというのは不可能であり（不能犯で言う相対不能）、結局民主政治の方が政治体制として妥当であると考える。

３．刑事法領域の基底的な論争

（１）結果無価値論と行為無価値論

刑事法は、行為無価値論HandlungsUnwertと結果無価値論ErfolgsUnwertの二つの考え方によって理論的に貫かれている。行為無価値論は、違法性の本質を倫理違反とする。悪いことをしようという内心を罰するため、主観重視、行為規範ということになる。そして、刑法の任務を社会秩序の維持と解する。源流はロンブローゾやフェッリ等の新派刑法学に遡る。

これに対して、結果無価値論は、違法性の本質を法益侵害又はその危険とする。不能犯の結果無価値一元論的な検討においては、「その危険」という点がポイントになるが、後で述べることにする。結果無価値論は発生した結果に重点を置くため、客観重視で、その侵害結果の有無は裁判時に判断されることから、裁判規範（評価規範）で見ることになる。本稿のキーワードではないが、「行為規範と評価規範」の刑事法版が、それぞれ行為無価値論HandlungsUnwertと結果無価値論ErfolgsUnwertに当てはまることになる。結果無価値論は、人権保障を最大限重視すべきと主張する。結果無価値論の源流は、カントやヘーゲルによる旧派刑法学に遡る。

なお、行為無価値論HandlungsUnwertと結果無価値論ErfolgsUnwertがそれぞれ単体のキーワードであれば、他にも主観的違法論と客観的違法論、目的刑論（一般＋特別）と応報刑論、刑罰一元主義と二元主義など述べることがあるが、出題意図を考慮してこの辺りに留めておく。

（２）行為無価値論と人権

行為無価値論は、社会秩序の維持を刑法の目的としている。ここでいう目的は、任務と置き換えてもよい。「債権の目的」などとして使われる「目的」とは少し異なる。当然、「目的物」とも異なる。本題に戻ると、行為無価値論に立つ場合、人権侵害が起こりやすいことに留意する必要がある。例えば、不敬罪などはその典型例である。タイ刑法１１２条の王室不敬罪は、王室を批判することを社会秩序の破壊とみなして厳しく処罰する趣旨の規定である。しかし、タイ王国２０１７年憲法では、国王の権限が強化されている。そのため、もはやタイ式民主主義の柱とされた、王室の政治的な中立性が損なわれている。そして更なる問題は、政治と王室が結び付いていることを根拠として、政治に対する批判を王室批判と認定し、これを封じる目的で不敬罪を適用することが現に行われていることにある。

また、カンボジアでは、２０１８年に不敬罪が制定された。これをフンセンによる独裁体制への布石などと批判する者が多いが、あながち間違いではない。不敬な行為を倫理違反として罰するとすると、やはり政府（フンセン）に都合の悪い発言をする者に「不敬」のレッテルを張り、厳しい処罰を与えるということに繋がりかねない。これは、人権保障の観点からすると、重大な懸案事項である。しかし、行為無価値論は社会秩序の維持に重点を置くので、行為無価値論に立つと、不敬罪なども肯定されることになる。

しかし、言論統制に繋がりかねないような考え方には、危機感を持つ必要がある。昨年度のキーワードの再来であるが、香港国家安全維持法や、また国家転覆罪などの意味不明な中国法は、結局のところ現政権に不都合な言論を抑え込む目的で適用されている。それに比べれば、まだタイ刑法１１２条やカンボジアにおける不敬罪は序の口と言えなくもないが、明らかに肯定すべきものではない。そして、行為無価値論に立つとこれらは肯定されることになるが、やはりその帰結は妥当ではないと思われる。特に、精神的自由は、経済的自由（公衆浴場距離制限等。ここで出てきたか。）よりも手厚く保障されなければならない（二重の基準論）。したがって、行為無価値論の人権抑制的な側面を見逃してはならない。もっとも、日本法では、刑法７３条〜７６条にかけて大逆罪や不敬罪などが規定されていたが、既に削除されていることを指摘しておく。

（３）未遂犯・不能犯における結果無価値論と行為無価値論の理論構成の相違

ここでは、未遂犯と不能犯について、行為無価値論HandlungsUnwertと結果無価値論ErfolgsUnwertの対立を踏まえながら検討する。まず、未遂犯の処罰根拠は、主観説と客観説と折衷説がある。判例・通説は実質的客観説に立つ。これに対して、行為無価値論からは、客観的な法益侵害の危険が発生することではなく、罪を犯そうという行為者の悪い意思を処罰するべきと考える。そのように解すると、未遂犯の成立時期はかなり早まることになる。

また、実行の着手をしたものの、犯罪結果を発生させることができず、犯罪が成立しない類型を不能犯という。不能犯については、純粋主観説、抽象的危険説、具体的危険説、客観的危険説（修正説と純粋説）が主張されている。これらの見解の対立も、行為無価値論HandlungsUnwertと結果無価値論ErfolgsUnwertの対立構造の一部をなすものである。純粋主観説は、判断基準を行為者とする。そして、行為者が犯罪結果を生じさせると思っていれば、不能犯ではなく未遂犯が成立すると解する。一応、純粋主観説でも、丑の刻参り等の科学的に証明されない類型については不可罰と解している。しかし、純粋主観説を徹底すれば、どのような場合であっても、犯罪結果を実現できると思って行動に移しているわけだから、ほとんどの場合で未遂犯が成立することになる。この説は、まさに行為無価値論を徹底する理論と言えよう。つまり、行為者の内心をもって未遂犯成立とすることになる。だが、そうすると、主観に偏重した判断がされることになるため、妥当性を欠くのではないかと批判されている。

一方で、抽象的危険説は、判断基準を行為者と一般人によるべきと主張する。純粋主観説と異なり、行為者が危険と思っているだけでなく、一般人も危険と思わなければ不可罰とする。この見解に立つと、一般人の見方が入るため、純粋主観説より多少結論としての妥当性が確保されることになる。しかし、客観的な危険性を一切無視している点に変わりはないため、やはりこの説に立っても、全く危険でない行為が未遂犯として処罰される可能性を含んでおり、その点を批判されている。

行為無価値論に立つ場合で最も妥当性の高い見解が、具体的危険説である。具体的危険説は、一般人を基準として見る。行為無価値論に立つ論者も、先述の主観説では、主観に偏りすぎると批判する者が多いとされる。その立場からは、判断基準を一般人に固定すべきと主張されている。

これに対して、客観的判断を重視する結果無価値論からは、客観説が主張されている。客観説は、科学的な結果発生の可能性などを織り込み、すなわち全ての事情を考慮したうえで危険性を判断するという見解である。徹底した結果無価値論に立つと、純粋客観説をとることになる。この場合、一般人からすると明らかに結果が発生しそうな場合であっても、科学的に見て発生しない場合は未遂犯不成立と解する。しかし、そのように解すると、たいていの場合で結果が発生しなかった理由があるわけだから、未遂犯の処罰範囲が非常に小さくなる。この問題を解決する見解として、修正客観説が主張されている。修正客観説では、科学的な判断に加えて一般人の目線を取り入れるべきとする。そうすることで、毒薬として保管されている薬品を食べさせるような事例や、弾の入っていないピストルで人を撃とうとする事例で、未遂犯を成立させることができる。

判例は、修正客観説的な立ち位置で、事例を相対不能と絶対不能に分類して、未遂犯と不能犯を区別している。空気注射事件（最大判昭和３７年３月２３日）は、空気注射を相対不能として未遂犯の成立を肯定し、広島高判昭和３６年７月１０日は、死体を殺そうとしたも同然の状況であったが、一般人目線での危険性を考慮して未遂犯の成立を肯定し、また、都市ガスで心中しようとした岐阜地判昭和６２年１０月１５日は、相対不能で未遂犯成立とした。以上を踏まえると、判例は、一般人の視点を加味しつつ、明らかに不能なもの（絶対不能）は不可罰としているとまとめられる。

情報社会においては、犯罪も複雑化している。その事例として、特殊詐欺における受け子が、騙されたフリ作戦をしている者を騙そうとした場合に、不能犯が成立するかと、承継的共同正犯が成立するかが問題となった最判平成２９年１２月１１日が挙げられる。結論として不能犯は不成立とされたが、騙されたフリ作戦のカモはもはや騙されないわけで、騙そうとしても不能犯ということが言えなくもない。とはいえ、特殊詐欺その他、犯罪手口が複雑化・巧妙化している以上、そう簡単に不能犯とすることは相当でないと思われる。そうだとすると、結局のところ、犯罪の処罰の有無（未遂犯と不能犯）を検討するに際しては、修正客観説に立ち、一般人の目線を判断基準とすることで妥当な結論を導くべきという結論に至る。

（４）刑事法の弁証法的考察

情報社会は、便利な側面も大きい一方、監視社会、生物兵器、クローン人間など、危険な要素を多く含んでいる。監視社会については、中国がそれに該当し、また、西側諸国でも、起こりうる問題である。スマートフォンのハッキングやワクチンへのマイクロチップ混入などは、技術的に可能である。これらは、できるかできないかの話ではなく、やるかやらないかという次元の問題である。また、生物兵器やクローン人間なども、これらに対して反対と言えるような法体系にしておかなければ、人権保障の根幹が揺らぐことになる。

したがって、結果無価値論を基軸にしつつ、自由にやって駄目（法益侵害が発生した）なら制裁を与える、という方向が好ましい。拙稿「（第一次）情報社会における正義」では、刑罰よりも、起きたことに対する社会的制裁を重視すべきと述べた。この点は繰り返さないが、刑罰よりも、株価への影響等の社会的な制裁・自浄作用によって法益を保護すべきということである。この考え方を別の言い方で述べると、防災より減災ということである。そして、抵抗権についても認めていくことが望ましい。

思うに、情報社会における刑事法の正義は、行為無価値論HandlungsUnwertと結果無価値論ErfolgsUnwertの弁証法として捉えるべきだろう。ここでいう弁証法とは、ヘーゲルの弁証法を指す。ヘーゲルの弁証法は、矛盾・対立する概念同士がその対立を乗り越えることによってより進歩的な概念が生まれ、社会が発展すると考える。先に述べたとおり、結果無価値論と行為無価値論は、徹底してどちらかをとると、必ず妥当性若しくは理論に問題が生じる。妥当性が損なわれると、社会秩序が混乱し、理論の破綻を放置すると、人権侵害に繋がる。

結果無価値論を基軸として捉えつつも、極端な結果無価値論をとると問題が生じる。ここで、正・反・合の観念論的弁証法が登場する。この意味は、結果無価値論（正）を基軸として捉えつつも、妥当性を欠くところでは行為無価値論（反）の考え方を取り入れるべきということである。ちなみに、弁証法にはマルクスの史的弁証法やキルケゴールの質的弁証法などもあるが、ここではヘーゲルのそれを述べている。

４．正当防衛・緊急避難と自衛権

（１）正当防衛と緊急避難 総説

ここでは、正当防衛と緊急避難について検討する。なお、行為無価値論HandlungsUnwertと結果無価値論ErfolgsUnwertの検討は不能犯のところで細かく述べたので、ここでは、なぜ行為無価値論だとこの考えになるのか、などはいちいち述べずに、要点だけを概説していくことにする。まず、正当防衛は、正対不正の関係に立つ。つまり、不正なことをしている相手方に対して反撃をするので、相手方は不正である。これに対して、緊急避難は、現在の危難を避けるために他者の権利（正）を侵害する。いわば正対正の関係なので、そのことを正当化するだけの事情（害の均衡性・補充性）が求められる。

緊急避難の根拠として、違法性阻却事由（通説）、責任阻却事由説、二分説の対立がある。簡単に述べると、社会的相当性の観点から違法性の段階で切るか、期待可能性が無いとして責任の段階で切るか、という対立である。結果無価値論に立つと、責任の段階で切るという結論に至りやすいと言えよう。なお、非侵害者Ｂが第三者Ｃに害を転嫁したことに対し、第三者Ｃが異議を唱えて反撃した場合、責任阻却事由説に立つと、Ｂによる害の転嫁自体は違法性が阻却されない（＝違法＝不正）。ゆえに、初めに侵害を行った人Ａが不正であることは当然としつつも、緊急避難者Ｂも不正となる。そのため、転嫁された第三者Ｃが怒り、緊急避難者Ｂに対して反撃した場合、転嫁されて反撃した第三者Ｃにつき、責任減少説では正当防衛となり、違法性阻却事由説では緊急避難となる。

対物防衛とは、例えば、犬が襲ってきた際に犬を始末すると、果たして正当防衛が成立するか、緊急避難が成立するか、という問題である。この問題について検討する。なお、正当防衛の「不正」は「違法」として捉える（判例・通説）。さすがにここから論じていてはキリが無いため、不正＝違法の前提に立ち、違法とは何かという点から検討する。

行為無価値論は、違法を人間による倫理違反行為と捉える。とすると、犬は人間ではない。ゆえに、犬による侵害は「違法」な侵害でないという結論になる。そのため、犬を始末した行為に正当防衛が成立しないと解することになる。そうすると、認知症で心神喪失に陥っている者が襲ってきた場合は、かなり微妙な判断となる。認知症で錯乱状態になりながら襲ってきている場合、違法な行為をしようという意思はないから、不正な侵害もないように考えられる。この点については、認知症患者は犬も同然で人間に非ずと捉えれば、対物防衛として緊急避難が成立すると導けよう。ただし、かなり差別的な含意のある解釈ゆえ、言い回しには注意すべきである。なお、対物防衛は、民法上正当防衛と解されている。そして、「違法」を客観的な侵害状態と捉える結果無価値論に立つと、対物防衛を刑法上も正当防衛の範疇として論じることになる。

ちなみに、国家緊急行為が認められるか否かについても見解の対立がある。判例はこれを肯定する（最判昭和２４年８月１８日）。

（２）防衛の意思

正当防衛に関する議論の中で必ず俎上に乗るのが防衛の意思の要否である。行為無価値論は、防衛の意思無き加害行為は、ただの加害行為であって、正当防衛は成立しないと解している。そのため、偶然防衛（≒積極的加害意思）の場合はもちろん、防衛の意思と加害意思が併存する場合までも、正当防衛の成立を否定する傾向にある。これに対して、結果無価値論に立つと、客観的な法益侵害があれば、たまたま正当防衛となった場合でも正当防衛の成立を認める傾向にある。

ちなみに、防衛の意思の要否が直ちに有罪・無罪を決めることにならない点には注意が必要である。つまり、防衛の意思必要説に立っても、既遂犯説と未遂犯説の対立がある。また、防衛の意思不要説に立っても、防衛の意思を欠く場合に、無罪説と未遂犯説が対立する。防衛の意思不要説に立つと、イメージ的には偶然防衛を無罪とするように思える。しかし、侵害はなくとも行為の危険性があるため、そのことをもって未遂犯とする、というのが未遂犯説の理屈である。先に述べた不能犯でいえば具体的危険説的な考え方といえよう。

防衛の意思の内容として、目的説と認容説（判例）が対立する。これは、純粋に防衛の意思・目的を防衛の意思の内容とするか、あるいは、その内容を単に侵害を避ける認識とするか、という対立である。言葉を変えると、逆上や憤激の場合に、防衛の意思の要件を満たすか、という問題でもある。判例は、この場合でも防衛の意思を満たすとしている。ゆえに、防衛の動機までもを防衛の意思の内容としているわけではないと解される。

防衛の意思の内容を分析することで、過失による正当防衛の是非という問題につなげることができる。目的説に立てば、過失による正当防衛を認めないことになる。他方で、認容説をとり、防衛の意思不要説に立つ場合は、過失による正当防衛を肯定することとなる（平野説）。なお、防衛の意思必要説に立っても、過失による正当防衛は、積極的加害意思の場合と比べればまだ許される部類ということで、これを肯定すべきとの見解もある。このあたりは、結果の妥当性に重きを置いて判断することになるだろう。

また、防衛の意思が無い場合の理論構成については、見解の対立がある。防衛の意思の欠如は、急迫段階で切られるのか（急迫性欠如説）、単純に防衛の意思無きものとするのか（防衛の意思欠如説）、防衛行為が無かったとするのか（防衛行為欠如説）という問題である。判例は、防衛の意思で切るもの（最判昭和５０年１１月２８日等）と、急迫性の段階の問題とするもの（中核派鉄パイプ正当防衛事件）がある。

（３）誤想・過剰と自招侵害

正当防衛と緊急避難には、それぞれ誤想及び過剰と言われる類型がある。誤想防衛とは、侵害が発生していると誤解して防衛行為を行うことをいう。一方で、過剰防衛とは、必要性を上回る防衛行為を行うことをいう。確かに、正当防衛は正対不正の関係なので、害の均衡（法益権衡）は要求されない。とはいえ、必要性を著しく上回るような防衛行為を行った場合についてまで正当防衛の成立を肯定することは妥当でないから、過剰防衛として処罰される。過剰防衛には、違法減少説、違法・責任減少説（有力説）、責任減少説（平野説）の対立があるが、さほど気にしなくて良い。また、質的過剰と量的過剰の分類もあるが、無視しておく。

誤想防衛と対物防衛のところで問題となるのは、過剰防衛よりも、特に誤想防衛の方である。誤想防衛を事実の錯誤と解するか法律の錯誤と解するかにつき、見解の対立がある。制限責任説は、誤想防衛を事実の錯誤と解する。理由は、構成要件該当事実の認識が無い以上、悪いことをしてはいけないという反対動機が形成されず、そもそも規範や当てはめの問題にならないと解するからである。これは、結果無価値的な考え方である。英国騎士道事件が仮に過剰でない防衛行為だったとすると、錯誤についての過失があれば過失犯が成立するという結論になる。しかし、構成要件的故意を無視ないし軽視している点に問題がある。要するに、構成要件的故意はあるわけである。つまり、蹴るという防衛行為をすることについては明らかに故意がある。であるにもかかわらず、故意犯が成立しないというのは若干背理ではないかとの疑いがある。この点、開き直れば、故意は責任要素としての故意を言うのだから、構成要件的故意などはどうでもよいのだと述べることもできる。誤想防衛の場合であれば、その考え方で妥当な結論を導ける（過失犯又は無罪のため量刑が重すぎない）が、これを別のところにも当てはめてよいのかについては疑問があろう。

これに対して、厳格責任説は、誤想防衛を法律の錯誤と解する。構成要件的故意（回し蹴りの故意）がある以上、事実の錯誤ではなく、規範、当てはめの問題（法律の錯誤）とすべきと主張する。故意を構成要件段階と責任段階に分けて考えつつ、ｏｒ条件とする前提に立てば、この説が非常に論理的に通っているといえよう。先に述べたとおり、制限責任説は構成要件的故意を等閑にして、蹴る認識があっても故意を阻却するとしているが、厳格責任説では、構成要件的故意がある以上故意を阻却することはあり得ず、当てはめの問題としている。理論的には、厳格責任説の方が妥当と思われる。しかし、悪いと思っていないにも関わらず重い故意犯が成立すると解するため、結果の妥当性は確保されない。故意の提訴機能（必殺まわし蹴りをする前に適法かどうか確認する義務）に反したのだから、重い故意犯で仕方がないと言い切れないこともないが、どうも腑に落ちぬ。

この点、厳格責任説には、一般人を基準として、どうしても誤想してしまうような場合に責任を阻却すべきとの見解が指摘されている（二元的厳格責任説・川端博）。おそらくこの見解が妥当だろう。制限責任説のように構成要件的故意をスルーすることで故意を阻却すると解するより、一般論として故意を阻却しないとしつつ、仕方がない時に責任故意を阻却するとする（二元的厳格責任説の）方が理論的に筋が通っているように思えるからである。

なお、第三の錯誤説という見解もある。この見解に立つと、結局責任故意を阻却するという結論に至る。

以上の議論をまとめると、最終的には責任要素としての故意を阻却されてあげたいというのが人情ということだ。つまり、理論的に制限責任説はとりづらいが、特に英国騎士道事件のように、善意で誤想防衛をしてしまっている場合には、なんとか責任故意を阻却する形で救ってやれないか、ということである。

誤想防衛と対物防衛を理論レベルで検討してきたが、一応事例も想定してみる。犬が構ってほしくて近寄ってきているが、人間側は襲われたと勘違いして犬を叩いた場合が好例である。この場合、結果無価値論に立つと、誤想防衛かつ制限責任説により過失器物損壊で無罪という帰結に至る。これに対して、行為無価値論では、誤想避難かつ厳格責任説により器物損壊罪（故意犯）が成立することになる。

なお、他にも、誤想防衛については、構成要件該当性を積極的構成要件要素とし、違法性の判断を消極的構成要件要素とすることで、違法性の錯誤（法律の錯誤）を構成要件段階の問題に収斂させ、結論として誤想防衛を（構成要件的）事実の錯誤として構成要件的故意の阻却事由とすると解する見解（消極的構成要件要素の理論）や、判断基準を行為者の判断時とし、要するに行為規範として見るみることにし、誤認につき有過失なら過失犯、無過失なら正当防衛成立とする見解（正当防衛説）などが主張されている。

ところで、過剰防衛には故意犯が成立する。誤想防衛で英国騎士道事件を素材として取り上げているが、過剰であった点を捨象してきた。そのため、本来的には過剰防衛の方も検討が必要である。この点については、過剰事実についての認識の有無によって故意犯か過失犯かが決定されるとだけ述べておくことにする。また、自招侵害については、社会的相当性説、原因において自由な行為説、権利濫用説などが対立しているが、ここでは保留する。

（４）不戦条約と集団的自衛権

正当防衛を国家レベルの問題に当てはめると、自衛権の問題に該当する。自衛のために実力を行使することについては、憲法９条と不戦条約との関係で問題となる。まず、憲法９条は、戦争をすることや、戦力を保持することを禁止している。しかし、自衛のための実力行使まで禁止しているとまでは言えない。そのため、自衛権は認められている。ただし、自衛権の範囲については検討の余地がある。

自衛権には、個別的自衛権と集団的自衛権がある。両者の区別は、自分を守るか、同盟国を守るか、という点にある。集団的自衛権については、自国が攻撃されているわけではないため、特にその点が問題となる。国連憲章５１条や日米安保条約には、集団的自衛権を根拠づける規定があるため、肯定されると解されている。ただし、憲法９条との関係で肯定されるかという点については争いがあったが、一応決着している。というか、この論争については、元より国際法上認められている集団的自衛権を否定する方が妥当でないといえよう。

不戦条約は、戦争それ自体を違法としている点に特色がある。その点、不戦条約１条と憲法９条は内容上類似する面が大きい。しかし、いずれも自衛戦争までをも否定しているわけではない。ゆえに、自衛権自体は首肯されることになろう。そこで、自衛権の発動につき、先に述べた刑法の理論と合わせて検討する意義が生じる。

中台統一と一帯一路について、それが仮に軍事的な侵攻を伴う形で展開された場合に、自衛権の問題となりうるかが問われる。問題となるのは、仮に米軍基地が攻撃された場合に、日本が応戦することができるかということである。これこそが、不戦条約と集団的自衛権の具体的な問題である。集団的自衛権の行使の要件は、急迫不正の侵害、補充性、害の均衡（法益権衡）と解されている。刑法の枠組みで述べれば、正当防衛のケースで、要件を緊急避難にしたものと評せよう。

思うに、集団的自衛権の要件はかなり厳しくしなければならないだろう。なぜなら、国レベルの防衛行為となると、戦争に直結する危険性が高いからである。過剰避難の判例で、吊り橋爆破事件という事例がある。危ない橋があるので爆破してしまえということで、やらかした事案であるが、敵基地爆破のようなことを国家レベルで行った場合、大きな問題になることは自明である。そのため、集団的自衛権の行使には慎重になる必要がある。

なお、専制的自衛権なる概念もある。これについては、集団的自衛権以上に厳しい要件のもとに発動されなければならない。代わって、ＧＰＳ誘導が可能な弾道ミサイル等を想定した場合、どの段階で急迫性を満たすか、など評価が難しい問題に直面することがあり得る。また、中台統一と一帯一路に関連して、中国が、日本に対して、「日本が台湾を攻撃しなければ日本にミサイルを撃ち込む」と脅迫した場合の対応なども検討する必要がある。これは、いわゆる強要された緊急避難の問題である。ここで、日本が、中国にやられては仕方がないから台湾を犠牲にするということで、台湾を攻撃した場合に、それを自衛（緊急避難）ということができるかが問題となろう。強要による緊急避難の判例は、オウム真理教元信者リンチ殺害事件において、一般論として緊急避難は成立しないが、生命侵害の場合は格別という扱いで過剰避難が成立するとした。やや判然としないところで、強要された緊急避難については、学説上も対立がある。

また、中台統一と一帯一路に関連して、日本が、中国が何かやろうとしていると誤信し早まって、それを避けるために他国の軍事基地を占拠し、結果的に当該設備を全損させた場合の法律関係も問題となる。この場合は、狭義の誤想過剰避難又は二重の誤想過剰避難に該当する。判例は、誤想過剰避難の場合に刑法３７条１項による減軽を認め（大阪簡判昭和６０年１２月１１日）、さらに、自殺誤想妨害のケースでも誤想過剰避難の成立を認めている（東京地判平成９年１２月１２日）。もっとも、これらを議論する実益は大して無いだろう。

（５）違法性の意識の位置づけ

誤想防衛について事実の錯誤が成立するか、法律の錯誤が成立するかという論点の根本は、違法性の意識の解釈とパラレルな問題である。まず、大原則として、犯罪の成立に違法性の意識が必要か否かが問われる。また、違法性の意識は、故意の問題なのか、故意とは別の責任要素の一つなのかが問われる。まず、犯罪の成立には違法性の意識が不要であると解するのが判例の立場である。これに対して、故意説は、違法性の意識は責任要素としての故意の中核をなすもので、ほぼイコールであるとする。その上で、厳格故意説（違法性の意識必要説）は、違法性の意識が無ければ故意犯が成立しないと解する。また、制限故意説は、違法性の意識の可能性が無ければ故意犯が成立しないとする。

　なお、厳格故意説を基底としつつ、行為者の過失によって違法性の違法性の錯誤に陥ったのであれば、「違法性の過失」として故意犯扱いすべきとの見解もある（違法性の過失準故意犯説）。厳格故意説に立つと、犯罪の成立がかなりのケースで否定されることになりかねないため、ある種修正を加えた説といえよう。

　代わって、違法性の意識を、（責任要素としての）故意の要件ではなく、故意とは別個の責任要素の一つと捉える見解が責任説である。責任説は、違法性の意識の可能性を有責性の要件として位置づけている。違法性の意識の可能性が無い場合は、責任要素としての故意が阻却されるのではなく、超法規的な責任阻却事由に該当すると解する（平野龍一）。

また、違法性の意識を巡っては、自然犯・法定犯区別説も主張されている。自然犯（殺人、窃盗など、一般的に悪とされている犯罪類型）は違法性の意識を欠いていても故意が阻却されないが、法定犯（＝行政犯。無免許など行政的、政策的な理由で禁止する犯罪類型）では違法性の意識を故意の要件とすべきと主張する。

さらに、故意の判断は一般人を基準とすべきであり、構成要件的故意と責任要素としての故意を区別すべきでないとする見解（実質的故意論）も主張されている。この見解に立つと、構成要件的故意や違法性の意識の可能性といった概念は、全て、（責任）故意に収束されることとなる。その上で、あまりにも酷な場合は、非難余地の減少による超法規的責任阻却事由として、有責性を否定すべきとする。以上の見解の対立は相当複雑なものであるが、総合的に見て制限故意説ないし（厳格）責任説が妥当といえるだろう。

５．過失理論の公法・私法横断的な検討

（１）国家補償の谷間

公務員の行為によって損害が発生した場合、金銭によって損失の埋め合わせが行われる。その根拠となるのが、憲法１７条を具体化した国家賠償法と、憲法２９条を具体化した諸法である。前者を賠償、後者を損失補償という。かつて賠償については、国家無答責とされてきた。つまり、国は現在の中国共産党と同じく絶対無謬なので、石を投げられることはない、すなわち投石されない、無答責だ、ということである。もっとも、言い回しの点で若干諧謔を含んでいる。

問題は、このような考え方が否定された今日においても、微妙な位置づけになる類型が存在していることである。国家による合法な行為の場合は、損失補償の問題となる。また、違法で有過失の場合は国家賠償の対象となる。しかしながら、違法で無過失の場合は、救済されない。このことを国家補償の谷間という。

国家補償の谷間を解消するには、補償を広げるか過失を広げるか、という二通りの構成が考えられる。このうちの補償を広げるアプローチについては、相当補償説と完全補償説その他の論点があるが、本稿では論じない。ここでは、過失の定義を動かして賠償を広げるか、という点について検討することにする。

ちなみに、訴訟追行上、国賠法１条１項に基づく賠償請求に飽きたならば、憲法２９条３項に基づく損失補償請求に移行されたい。損害賠償請求に損失補償請求を予備的、追加的に併合する申し立てについて、相互に密接な関連性を有するものであるときは、予備的請求の追加的併合（民訴１４３条）が許されると解されている。ただし、控訴審において損害賠償請求に損失補償請求を併合するには、相手方の同意が必要とされる（最判平成５年７月２０日）。この点については手続法の問題なので、さらっと流すことにする。

（２）過失理論

予防接種禍と過失の問題を論じるにあたっては、そもそも過失とは何かについて論じる必要がある。まず、旧過失論は、過失を結果予見義務違反と解する。結果とは、法益侵害を指す。つまり、結果を予見すべきであったにも関わらず予見しなかったことをもって過失ありと判断する。旧過失論は、過失を責任過失に一元化して理解する。前のパートで、構成要件的故意と責任要素としての故意をしつこく論じてきたのは、この辺りに繋がる部分があることを見込んだものである。本題に戻ると、旧過失論では、構成要件的過失を観念しない。思うに、過失は、本来的にはうっかりしていたという主観の問題である。それゆえ、過失を責任要素として位置づけることは妥当と思われる。

旧過失論では、便利な一方で危険を伴う行為を実行した場合に、高い確率で過失が認定されることになる。例えば、自動車を運転する行為は危険である。とすると、自動車を運転して事故を起こした場合、危険性を予見していたとして、過失犯成立という結論に至る。しかし、その結論は妥当でないと思われる。そこで、修正旧過失論は、結果予見義務に加えて許された危険の法理を取り込み、過失犯の成立範囲を限定すべきとする。この点については、次のパートで述べることとする。

代わって、新過失論は、過失を結果回避義務違反と解する。結果を回避する前提として「予見」があるといえるから、結果予見義務とする見解よりも過失を狭く認定することになる。新過失論は、過失を構成要件的過失と責任要素としての過失（責任過失）の二元的なものと理解する。ただし、構成要件要素として位置づける方に軸足を置いている。つまり、過失を客観的なものとして捉えるということである。

さらに、新々過失論（危惧感説）は、危惧感、不安感を感じて行為を改めなければならなかったにもかかわらず、それを怠って結果が発生すれば、過失を認めるという考え方を言う。新々過失論では、予見性はおろか、不安感の段階で過失犯の成立を認めることになる。そのため、処罰範囲が相当広くなる。

結果無価値論は、過失論につき、旧過失論をとり続ける。ここで重要なのは、旧過失論をとり続ける理由が、旧過失論を絶対的に正しいとみなしているからではないことにある。詳しく述べると、結果無価値論は、過失の定義を動かしてはならないと主張している。この点が非常に重要である。過失の定義を安易に変えると、人権侵害につながる恐れがある。結果無価値論はそのことを防ぐために、旧過失論に対する批判を受忍しつつも、あくまで過失の定義は動かさないとしている。では、旧過失論をとることによって不相当な結論が導かれてしまう場合にどうすべきか。この点については、後で述べるが、過失の定義を動かすこと以外の方法で解決すべきと主張する。

これに対して、行為無価値論は、新過失論をとったり、新々過失論をとったりする。つまり、事例によって過失論を使い分けている。確かに、新過失論一択とする見解もあるが、どちらかというと、状況に応じて使い分けるべきというような主張をする者が多い。例えば、交通事故事例では新過失論を、公害事例では新々過失論を、などの使い分けをする。確かに、柔軟に過失理論を使い分ける方が、妥当な結論を導ける。しかしながら、やはり安易に過失の定義を動かすべきでなく、過失理論は固定しておくべきである。

判例は、原則として新過失論的な考え方に立脚している。彌彦神社餅撒き事件では、結果予見義務と結果回避義務を述べ、それに加えて、結果予見可能性と結果回避可能性についても言及している。このことから、判例は新過失論的な立ち位置に立脚していると言えるだろう。しかし、森永ヒ素ミルク事件では、新々過失論的な立場に立った判決を下している。これについては、事の重大性に鑑みると、新々過失論をとって有罪とする方が結論において妥当と思われる。しかし、このような事例を安易に認めるのは危険である点を没却してはならない。

やや細かい論点ではあるが、予見・回避「義務」と予見・回避「可能性」は、一応峻別される。これについては、故意と過失を並行して捉え、具体的符合や法定的符合などの枠組みでアプローチする考え方と、過失犯は故意犯と全く別の構想をするという考え方の、大きく分けて二つの流れがある。そして、予見可能性の程度につき、具体的予見可能性説と危惧感説との対立や、予見可能性の対象につき、構成要件レベルで見るのか、個別の客体レベルで見るのかなどの対立がある。この辺りは細かな対立なので触れない。

ただし、予見可能性を否定すると、その上に立つ予見義務・回避義務を論じるまでもなく過失犯不成立となってしまう。その意味で、因果関係の予見可能性等はそれなりに重要な問題である。部品取付不備から巡り巡って火災が発生した生駒トンネル火災事件、井戸水による食中毒で園児死亡のしらさぎ幼稚園井戸水事件（浦和地判平成８年７月３０日）などは、過失を肯定した。予見義務をその「可能性」という段階で切ってしまい、過失犯不成立と結論付ける訳にはいかないという判断からだろう。

（３）監督過失と過失の共同正犯その他諸問題

元より、予防接種禍と過失の問題では、一人の者がうっかりしていた為に侵害結果が発生することは稀である。言い換えれば、様々な立場の人間がうっかりしているケースが多いということである。例えば、厚労省、医師、看護師等々、様々な段階で過失があることが想定される。

まず、過失が競合する場合の過失の認定について検討する。過失の競合とは、いくつかの過失が合わさって侵害結果が発生していることを言う。過失の競合は、一人が何個も過失を抱えているケースと、複数の行為者が過失を持ち寄っているケースに分けられる。前者については、過失の認定につき、過失段階説と過失併存説が対立している。予防接種禍と過失においては、医師が厚労省から出されている通達を読まずに方法を誤り、かつ、とぶ浚いの後で手を洗わずに一連の行程に携わり、さらに、問診をし忘れていたことによって、予防接種後に菌が混入したほか、その他様々な要因によって侵害結果が発生したというような場合が想定される。この場合に、過失段階説は、最後の過失を過失と判断する。この例では、過失を問診忘れ一点に絞る。一方で、過失併存説は、一連の過失全体を過失として捉える。この論争については、過失併存説の方が融通を効かせられる。しかし、過失によって行われた実行行為は一体どの行為だったのかが判然としなくなる。

続いて、複数行為者による過失の競合のケースでは、過失の共同正犯や監督過失が問題となる。予防接種禍と過失においては、厚労省と現場医師両者に過失があったと事実認定する場合、これらの理論の問題となる。まず、過失犯の共同正犯について検討する。過失犯の共同正犯については、犯罪共同説と行為共同説が対立している。犯罪共同説は新過失論に立ち、共同義務違反があれば過失を認める。よって、過失の共同正犯を肯定しやすい。反対に、行為共同説は、過失の共同正犯を否定する方向に考える。判例は、共同経営飲食店メタノール事件（最判昭和２８年１月２３日）、電気溶接作業失火事件（東京地判平成４年１月２３日）において過失の共同正犯の成立を認め、明石歩道橋群衆雪崩事件では否定した。もっとも、共同正犯の事例は、横の関係であることを指摘しておく。要するに、予防接種禍と過失で言えば、現場と所轄庁といった縦の関係ではなく、寄せ集めの医師連合や、同僚の看護師らといった横の関係の者どもによる過失の場合に、今述べた共同正犯が問題となるということである。

現場と厚労省というような縦の関係では、監督過失が問題となる。監督過失は、狭義の監督過失と管理過失に分けられる。前者は直接的な指揮・監督の過失を指し、後者は組織体制までも含めた全体的な管理の不備を指す。無理な作業計画によって事故が発生した北ガス一酸化炭素中毒死傷事件（札幌地判昭和６１年２月１３日）、医師が薬剤過剰を投与した埼玉医科大学事件、火災が発生するも職員狼狽で患者が置き去りに遭い理事長が訴追された白石中央病院事件、指示を言い間違えて事故の日航機ニアミス・ケアレスミス事件等の事例では、狭義の監督過失が問題とされた。また、横井英樹社長の節約で防火設備未整備の結果、火災被害の拡大を招いたホテルニュージャパン事件、帝京薬害エイズ事件、福知山線脱線事件、火災避難誘導不作為の大洋デパート事件などでは、管理過失が争われた。これらの共通の論点は、予見可能性の有無と、監督過失における信頼の原則の適用の可否である。ここでは、択一対策として、北ガス〇・埼玉〇・白石×、日航○・ニュージャパン○・薬害○・福知山×とまとめておく。

さて、象牙の塔ではだめだ（中江）と言われるので、現実的な事例を検討してみよう。例えば、保育園児を送迎バスに乗車させて輸送したが、目的地に到着した後に降車させるのを忘れたまま鍵をかけたところ、置き去りにされた保育園児が熱中症を発症して死亡したという事例を想定してみる。リーディングケースは、双葉保育園送迎バス置き去り事件である。この場合、送迎業務に従事していた園長の過失が問題となる。過失を結果回避義務違反とすると、点呼をとったり、降り忘れが無いかを確認することを怠ったことが過失の内容とされる。この点につき、園長の過失は容易に認められるだろう。あとは、どの犯罪が成立するかについて、バスを施錠して保育園児をうっかり閉じ込めたことを監禁と捉えれば、過失監禁で不可罰となる。しかし、そのような構成はあり得ない。よって、単純に業務上過失致死罪の問題とすべきである。

ところで、園長は浦上陽子であるが、理事長は浦上ヤス子である。このため、ヤス子の監督過失も問題となるだろう。というか、予防接種禍と過失のテーマとパラレルに述べる以上は、ヤス子の監督過失をどのように評価するのか、という方を論ずべきである。まず、理事長ヤス子の監督過失を問う場合、送迎バスがワンマン運転であったことがポイントとなろう。ワンマンで運転させていたことそれ自体に過失を認定することもできるだろう。なぜなら、ワンマンでは、降車確認が不十分になる恐れがあるからである。加えて、バスでの点呼や保護者に対する出席確認をしなかったことに対して、組織的な監督過失を肯定することもできるだろう。

ただし、そこまでしてヤス子を罰しなければならないか、という疑念を持たざるを得ない。陽子だけで十分ではないか、ということである。つまるところ、園児置き去り事例のようなケースで、いちいち理事長を処罰する必要性があるのか、という点を検討すべきである。処罰感情に任せて安易に過失を認定することは危険であることは、先に述べたとおりである。また、双葉保育園は認可保育所だから、福岡県や中間市に認可等に係る監督過失があると主張することも考えられる。しかし、何でもかんでも行政に責任を押し付ければよいという話ではないだろう。

テーマは変わるが、業務上の過失が重く処罰されるのはどうしてだろうか。その根拠をめぐっては、特別注意義務説（判例）と違法性責任重大説の対立がある。そもそも業務者には一般人よりも重い注意義務が課せられると解するか、業務者はプロだから、何かがあった場合は、一般人よりも注意義務違反の落差が大きく、それゆえ違法性・責任が重くなると解するかの違いである。

ところで、注意義務の程度については、民事法のそれと重なる部分もある。民事法における善管注意義務≒忠実義務と自己と同一の注意義務は、注意義務の程度の違いと説明することができる。結果予見か結果回避か、という枠組みでも述べられる（中江）が、単純に注意義務のレベルの違いとして述べる方が明快だろう。注意義務の基準については、行為者の注意能力を基準とする主観説、一般人を基準とする客観説と、行為者＞一般人の時に行為者を基準とし、行為者＜一般人の時に一般人を基準とする折衷説（団藤）が対立している。これが、民事法における善管注意と自己と同一の注意義務とに対応すると考えられる。

ちなみに、売買契約において、特定物の引渡債務を負っている者は、目的物につき善管注意義務を負うと解される（民法４００条）。種類債務ないし制限種類債務でも、債務の特定が生じた後はこの規定が適用される。ところが、買主が受領遅滞に陥っている場合、売主の注意義務は自己と同一の注意義務にダウンする（民法４１３条１項）。思うに、善管注意義務が客観説、自己と同一の注意義務が主観説にそれぞれ対応すると解して差し支えないだろう。

６．結果の妥当性確保のための修正理論

（１）刑事法における過失理論の修正〜加害者の処罰範囲軽減

前提として、新過失論をとると、かなり過失の範囲が狭まる。他方で、新々過失論をとると、過失が認められる範囲が広くなりすぎる。そのため、結果の妥当性を確保するために、過失理論を修正する必要がある。このパートでは、論拠とする過失理論に準拠すると不相当な結論が導かれる場合における修正の理論について、刑事法の理論と民事法の理論とを分けつつ、それぞれ検討していく。

ここでは、加害者の処罰範囲を軽減すべき場合に使えるであろう理論について検討する。まず、合義務的な択一的挙動が挙げられる。これを単純化して述べると、頑張っても結果が発生してしまう場合は過失なしとするということである。この考え方を広げると、注意義務違反が無かったという論理で過失犯を成立させないという結論を導ける。ただし、これは本来的には因果関係の問題であることは付言しておく。

次に、許された危険という理論がある。許された危険とは、電気を扱う仕事などは危ないことだが、社会の発展のために許され、違法性が阻却される、とする理論を言う。先述の通り、新過失論に立脚すると、自動車の運転等は、それをするだけで危険なので、事故が起きれば即有過失となりかねない。そこで、そのような結論に至らないようにするのが許された危険の理論である。許された危険をある程度広く認めなければ、街中が国鉄労働法判例で言う遵法闘争状態となってしまう。つまり、過失犯の成立を避けるために、ひたすらノロノロ運転を強いられることになる。しかし、これは社会の発展を阻害するから、やはり許された危険を広く認めておく必要があるだろう。

また、信頼の原則も、加害者に不当な刑責を問われないようにするために重要な法理である。信頼の原則とは、被害者等が異常な行動をとらないと信頼して、その結果事故が起こっても過失はないとする理論を言う。信頼の原則を認めることで、これまた過失犯の処罰範囲を狭めることができる。ただし、先に述べたとおり、監督過失が問題となる場面で信頼の原則を適用し、過失犯成立を狭めることが妥当かどうかという点については争いがあり、微妙なところである。予防接種禍と過失に当てはめると、「厚労省としては、現場の者がしっかりやるはずと信じた訳で、信頼の原則が適用されて過失はない」という抗弁を認めて免責してよいか、ということが争われるだろう。この点、医師と看護師の事例（北大電気メス事件）のように、ある程度関係性が近いもの同士であるならば信頼の原則を認めてよいと思われるが、厚労省から現場のような、結局監督・意思疎通が行き届かないようなところ同士でも信頼の原則を認めるのは行き過ぎなように思われる。

そして、危険の引き受けという考え方も有益である。ダートトライアル千葉地判事件（千葉地判平成７年１２月１３日）では、被害者が社会的に相当な危険を引き受けたのであれば、違法性阻却事由となる旨判示している。危険の引き受けと過失犯の成否という論点においては、法益衡量説と社会的相当説の対立があるものの、さほど難しく考える必要はないだろう。要するに、指詰めなどの社会的相当性に欠ける引受けでなければ、違法性を減少させるというだけのことである。予防接種禍と過失においては、患者が副反応の発生という危険を引き受けていたとして、過失を認めないような論理構成を取れなくもない。だが、これはさすがに強引すぎるだろう。

（２）民事法における過失理論の修正〜加害者の賠償範囲軽減

民事法においても、加害者の賠償範囲が不当に広がっている場合、それを狭める法理が求められる。そのような法理論について検討する。まず、開発危険の抗弁が挙げられる。これは、主に製造物責任で問題となるもので、新技術の開発には危険が伴うが、社会の発展のために必要だから、一定の損害が出ても仕方がないとして良いとする考え方である。注意すべきは、どのような場合でもその抗弁を使えるというわけではなく、あくまで当時の技術でどうしても予見できないことに場合でのみ言えるということを付記しておく。つまり、行為規範として見て、その時に製造物の危険性を予見できなかったのであれば、抗弁を認めて免責するということである。

また、素因減責を認めることも、加害者の賠償範囲軽減のための一手段である。素因減責過失相殺類推適用説に立つということである。つまり、被害者の持病等によって損害が大きくなった場合は、過失相殺を類推適用して損害賠償額を割引くことを認めるべきとする。ちなみに、過失相殺の刑法版が危険の分配ということになるが、本稿では無視しておく。

（３）刑事法における過失理論の修正〜挙証責任の転換

刑事法では、加害者を不利にする理論として、挙証責任の転換が挙げられる。刑事裁判では、検察官が挙証責任を負うが、反対に被告人に挙証責任を負わせる場面がある。それが挙証責任の転換である。刑事裁判における挙証責任には、形式的挙証責任（主張する負担）と実質的挙証責任（不利益にされる側の負担）があり、挙証責任の転換では、その中の実質的挙証責任が被告人に転換される、ということである。

本稿は英米法の答案も兼ねているため、英米法についても述べておく。英米法では、挙証責任を説得責任burden of persuasionと証拠提出の責任burden of producing evidenceに区分し、両者は、日本法のいう実質的挙証責任と形式的挙証責任にだいたい対応すると考えられている。ただし、証拠提出の責任burden of producing evidenceは、形式的挙証責任より重いとする見解も主張されている（平野龍一）。

挙証責任の転換は、同時傷害の特例や、第一次情報社会における正義で問われた名誉毀損の真実性の錯誤などで採用されている。このほか、児童福祉法６０条４項は、児童の年齢に関する錯誤について、過失が無いときは刑罰を免れると規定している。これは、過失の挙証責任を転換したものである。挙証責任を負う方が負けやすいことに鑑みると、予防接種禍と過失の事例で、過失を推定する規定を置けば、かなりのケースで過失ありとされるだろう。しかし、過失の証明責任の転換規定を増やすのは、加害者に厳しすぎるだろう。そのため、刑事法領域で挙証責任の転換の規定を設けるのは、よほどの必要性が無い限り認めるべきではない。

（４）民事法における過失理論の修正〜被害者救済

民事法において被害者救済を図る法理論としては、まず素因減責と自殺が挙げられる。また拙稿「法学と感染症」のキーワードが再来しているが、素因減責と自殺とは、生命保険を掛けて３年経過後は、自殺の場合でも保険金を下してやることにするという法理を言う。しかるに、生命保険を掛けて自殺するのは、根本的に筋違いである。そのため、自殺の場合に保険金を下さないのは、当然のことと言える。しかし、保険金自殺等は論外にせよ、自殺は自殺でも、例えば予防接種による後遺症に起因した自殺等を想定すると、遺族救済の観点からは保険金を下ろすべきといえまいか。このようなケースでは、保険金を下ろすべきといえるだろう。これを認める根拠となるのが素因減責と自殺の判例法理である。これは、一種の被害者救済として機能することになるだろう。

因果関係の立証を緩和する観点からは、疫学的因果関係や割合的因果関係といった理論も主張されている。これらは、１０割の証明は無理でも、７割、８割で良いと解釈する。これこそまさに英米法的な考え方で、論理より結果の妥当性を、ということである。

割合的因果関係等は、やや理論的に詰まっていないところがあるが、証明責任の転換であれば、理論的にも筋を通すことができる。刑事法において、むやみに挙証責任の転換規定を増やすのは危険と述べた。一方で、民事裁判では、結局賠償額の妥当性確保が一義的な目的となるので、証明責任の転換についても、まあ良いか、というトーンで首肯されるだろう。さて、民事法において証明責任を転換する場合、法律上の推定規定を置くのが一般的である。例えば、民法１８６条２項は、適法な占有を推定している。これを覆すためには、適法でないと主張する側から、適法でないことを証明する必要がある。原則論として、権利根拠規定については、それを主張する側が証明責任を負う。その上で、権利消滅規定と権利障害規定については、権利の不存在を主張する側が責任を負う（法律要件分類説・通説）。証明責任の転換は、その原則に対する例外として位置づけられる。

もっとも、証明責任の転換と法律上の事実推定は、厳密にはイコールでない。推定は、証明責任の転換に加えて、証明主題の拡大という機能をも有するからである。ただし、結局のところ、証明責任を転換された側が立証できなかった場合に不利益を受けるという点では同じである。つまり、効果の面では両者はほぼ同じなので、細かく区別する実益はないだろう。

被害者の証明責任を緩和する手段として、間接反証を認めることが挙げられる。間接反証とは、証明責任を負う側が立証した間接事実によって、主要事実を真偽不明に追い込む証明活動をいう。経験則によって間接事実から主要事実にアプローチしていく。つまるところ、証明責任を実質的に緩和するものとして機能する。あべ静江『みずいろの手紙』発売から４日後の判決である新潟水俣病訴訟（新潟地判昭和４６年９月２９日）は、被害者側の因果関係の証明責任を緩和したものと評されている。

間接反証については、通常の間接事実の立証方法である評価根拠事実vs.評価障害事実の枠組みの問題とすればよいのではないかという批判（高橋宏志）もある。しかし、間接反証は、評価障害事実と異なり、相手方の主張事実と両立する、すなわち否定しない点に意義があるように思える。なるほど間接反証が、結果的に証明責任の分配を変更してしまっていることは事実である。そのため、法律要件分類説（通説）との兼ね合いでこれを否定すべきという見解にも、一定の合理性があるとも考えられる。しかし、原則を覆してこそ被害者救済になるわけだから、間接反証によって被害者側の証明責任を緩和してやるくらいは見逃すべきである。

さて、過失の証明責任の転換と情報社会というテーマで重要なのが、偽造カード等の預金者保護法である。前提として、債権の準占有者に対してした弁済（民法４７８条）は、公信の原則で善意・無過失の場合に弁済者を免責する。原則として、弁済者の善意・無過失は、証明責任が本来の占有者（キャッシュカードであれば預金者）にある。しかし、預金者保護法は、過失の証明責任を転換している。５条２項がキャッシュカード、５条４項がリボ払いの場合である。預金者保護法制定前の判例で、既に銀行の過失を緩く解するものがあった（最判平成１４年４月８日）。そして、預金者保護法によって、それを具体化した。具体的には、金融機関側が、自身の善意・無過失を証明しなければならないと規定した。これは、情報社会に置いて行かれる情報弱者への救済法理として重要である。情報社会では、預金者（弱者）保護のような仕組みが必要なので、これらの法理論は重要性を増すだろう。

７．責任能力及び精神障害と法

（１）監督義務者の責任

民法７１２条と７１３条は、未成年者、事理弁識能力を欠く者の責任能力についてそれぞれ規定している。結論から言えば、これらの者は責任を負わないとされる。しかし、その場合でも、被害者は泣き寝入りとならずに、損害賠償請求をすることができる。しかし、当然請求の相手方は加害者本人ではなく、その監督義務者に対してすることとなる。

監督義務者への責任追及は、民法７１４条に基づいてされる。しかし、７１４条は、「本人がその責任を負わない場合において」と規定している。すなわち、補充性があるといえる。ゆえに、これを素直に読むと、本人に責任能力が少しでもあれば、７１４条に基づく請求ができないことになる。とすると、本人に責任能力がある場合、請求の相手方は本人（子供や認知症患者）となる。しかし、これらの者は大方無収入であり、賠償能力が無い。したがって、本人に対して賠償請求するしかないというのは、実は被害者にとっては酷な結論となる。そこで、７１４条を直接覆すことはできないが、８２０条（監督義務）等を持ち出して、直接監督義務者に７０９条を適用できるという苦しい逃げ道を作っている。

ちなみに、７１４条は、交通事故（自賠責）と同じく中間責任である。つまり、過失責任ではあるが、証明責任の転換が行われている。これについては前のパートで詳しく述べたので、ここでペンディングする。

さて、ここでは、責任無能力者、特に認知症患者等が起こした不法行為に対する賠償問題を扱いたいわけだが、そのためには、監督義務者が誰なのかと、監督義務の内容は何か、という点を段階的に考察する必要がある。まず、未成年者については、たいていの場合で親（親権者）が監督義務者である。これに異論はあるまい。しかし、認知症患者の場合は、監督義務者を簡単に決定することができない。制限行為能力者の場合、後見人等が付されているケースが多い。であるならば、後見人等を監督義務者として良いのではないかと言えなくもない。しかし、後見の内容に立ち戻る必要がある。後見人の任務は、法律行為の代行等がその内容である。例えば、契約などが挙げられる。これに加えて、事実行為である財産管理も後見人の職務である。しかし、介護やお世話、徘徊防止措置までも後見人の職務に含まれると言えるか。これについては、否定すべきである。

他方で、家族が監督義務者に該当すると考えるのはどうか。これについては、一見すると妥当なように思われる。しかし、一緒に住んで献身的に介護している娘が監督義務者に該当し、親を見捨ててどこかに行った放蕩娘が監督義務者に該当しないというのは、かなり違和感を覚える。要するに、献身的に介護をする善意の者が重い責任を問われ、介護を放棄するような者が触らぬ神に祟りなし的な形で責任を免れるわけである。これでは、下手に介護に手を出すと、何か起こったときに責任を問われるから、介護を放棄しようというインセンティブが働く。極論を言うと、何か問題が起こって監督義務者の責任を問われる前に離婚したほうが良い、という事にもなりかねない。以上のことから、認知症患者の家族等に安易に監督義務を負わせると、介護放棄等のインセンティブを与えかねず、よって政策上は、むしろ責任を限定する必要がある。ちなみに、法定後見と任意後見が区別されるが、後見人の責任というレベルの議論であれば、結局事例判断となるだろう。

これが争われたのがＪＲ東海認知症患者轢死事件である。結論として、この判決は、保護者や成年後見人であることだけでは直ちに法定の監督義務者に該当するということはできないとした。ただし、準監督義務者に当たる場合は民法７１４条が類推適用されて法定監督義務者と同じ責任を負うとされた。ここまで家族の責任を重くし過ぎると介護へのハードルが高くなり、家族で看るという選択肢を狭めてしまうと述べてきた。とはいえ、あまりにも酷い家族等の過失によって事故が起こったのであれば、責任追及されるべきともいえる。その意味で、準監督義務者への責任追及という道を残したのも一定の合理性があるものと考えられる。

次に、監督義務の内容について検討する。監督義務者として、どのような内容、程度の監督義務を負っていたと言えるか、ということである。未成年者に対する親権者の監督義務については、割とふんわりしたもの（しつけ等抽象的なもの）というニュアンスで捉えられてきた。では、ふんわりとしているからといって簡単に監督義務違反が認められるかというと、そうではない。例として、サッカーボール事件（最判平成２７年４月９日）では、監督義務違反が否定されている。この事例で監督義務違反が否定されることを踏まえると、少年の悪性格や、街中でサッカーボールを蹴り飛ばす等、それなりの異常性が無い限り監督義務違反が認められないのではないかと思料される。

ただし、悪性格や異常性は、未成年者はともかくとして、認知症患者の場合に良く当てはまる。なぜなら、認知症患者には徘徊や異常行動などが当然のようにあるところ、監督義務者には監禁ないし強制収容する等、それを防止する義務があると言えそうだからである。つまり、徘徊防止等が監督義務の内容と言えそうである。そのように考えると、監督義務違反を認めようと思えば、割と簡単に認められそうである。しかし、先に述べたとおり、安易にそれを認めるべきではないことを強調しておく。

（２）監督義務者と不真正連帯債務

軽度の認知症で、監督義務者（７０９条）と本人（７０９条）が共に責任を負う場合、当該債務は不真正連帯債務となる。この場合、被害者は、どちらか一方に全額賠償請求することができる。連帯債務と不真正連帯債務は、主観的な意思の連絡の有無によって区別される。認知症患者と家族が申し合わせて店から商品を盗んだ場合は、連帯債務となる。しかし、ピック病（認知症）患者に商品を盗ませてやろうという間接正犯類似のケースや、まだらボケでぼけていない時の認知症患者と共謀して商品を盗んでやろうなどと申し合わせる共謀共同正犯のケースはほぼ無い。要は、認知症患者が勝手に物を盗むケースがほとんどということである。そのため、大半のケースでは不真正連帯債務を負うことになる。

もっとも、細かい点を述べれば、主観的意思の連絡の有無だけで連帯債務と不真正連帯債務が区別されてきたわけではない。例えば、併存的債務引受（４７０条）の引受人について、連帯債務を負うとする判例（最判昭和４１年１２月２０日）と、不真正連帯債務を負うとする学説が対立していた。改正後は連帯債務を負うと解されているので、議論の実益は無いが、この場合のように、必ずしも意思の連絡によって両者が区別されるとは限らないということだけ指摘しておく。

　連帯債務と不真正連帯債務は、効果の上でほぼ同じである。そのため、もはや区別する必要が無いと説明する論者もいる。概念の廃棄まで踏み込む（潮見）とか、求償の特則としてだけ残しておく（内田）とか、いろいろ言われている。ちなみに、しっかり区別すべしと主張する見解もある（中江章浩）が、改正前民法を懐古している面も大いにあるのではないかと推測する。それは置いておくとして、民法改正前は、連帯債務における履行の請求（改正前４３４）、免除（改正前４３７）、時効完成（改正前４３９）が絶対効で、他方不真正連帯債務においてはそれらが相対効とされていた。しかし、民法改正によって、これらの規定は削除または正反対の趣旨に改変された。このため、連帯債務と不真正連帯債務の効果はほぼ同じものとなったと言ってよい。

ちなみに、絶対効と相対効の違いは、弁済等の効果が、他の債務者にも及ぶか否かの点である。民法改正後もしぶとく絶対効の規定が残っているのが、弁済である。これはなぜか。絶対効の規定の根拠として、主観的共同関係説や相互保証説が対立しているが、それを持ち出すまでもなく、単純に公平の確保と解すべきである。弁済の場合、１人が弁済すれば、それで被害者（債務者）は満足するわけである。しかし、弁済を相対効とすると、１人が全額弁済したのに、他の債務者に請求できることになってしまう。つまり、二重、三重弁済を認めることになる。いったん二重返済を認めた上で、不当利得として返還させるということも出来なくはないが、馬鹿馬鹿しいことこの上ない。これは、相殺や更改においても同じである。相殺や更改は、弁済と異なって直接的にお金が動く訳ではない。しかし、チャラにするなどして、結局債権者が利得を得ていることには変わりない。そうすると、二重相殺、三重相殺もやはり不当利得となる。したがって、弁済等を絶対効としているのは、単純に公平のためだと言い切ってよいだろう。

ところで、免除が相対効となった（改正前４３７削除）ことも気になるので、この点についても検討する。結論から言えば、一人に許したからといって全員に許したわけではないということを考慮したものと解釈してよいだろう。夫の浮気については、浮気した夫を許す一方、不倫相手は許さないというケースが多いとされる。その場合に、夫を許した（免除した）からといって不倫相手も免除したことになる（絶対効）のは納得がいかないだろう。その意味でも、免除を相対効としたことには合理性があったように思える。

ただし、免除された者についても、求償請求されることはある（４４２条１項）。先の例で夫が４割悪く、不倫相手が６割悪かったのに、不倫相手が１０割賠償した場合、４割分を夫に求償請求できるということである。結局のところ、夫が免除されても、求償請求されることはあるというわけだ。そして、先に述べた連帯債務と不真正連帯債務とでは、この求償のところにその違いがある。連帯債務の場合は、それぞれが負担部分を有している。不真正連帯債務でも、悪い割合は算定されるが、連帯債務では、これがよりはっきりと表れる。しかし、連帯債務において求償が認められるのは、弁済額が自身の負担部分を上回った場合に限らない。これに対して、不真正連帯債務では、弁済額が自身の負担部分を上回った場合に限って求償が認められる。この点が異なるのである。

例を挙げると、夫の負担額（割合）が４０万円（４割）で、不倫相手の負担額（割合）が６０万円（６割）であったとする。この場合、不倫相手が１０万円負担したとき、これが連帯債務であれば、１０万円のうちの４割（４万円）を夫に対して求償請求することができる。他方で、これが不真正連帯債務であれば、夫に求償請求できない。なぜなら、不倫相手が弁済した額は、不倫相手の負担額である６０万円を下回っているからである。連帯債務と不真正連帯債務では、唯一この点が異なっている。

（３）鑑定による医学的判断と裁判官による社会的判断〜原因において自由な行為

心神喪失者及び心神耗弱者については、責任を負わない。しかし、自分から薬物を使用し、あるいは深酒をして酩酊状態に陥り、それで事件を起こした場合にまで責任を負わないとするのは妥当でない。このような、いわゆる原因において自由な行為の場合は、行為者は責任を負うこととされる（民法７１３条・刑法判例）。この場合、医学的には、認知症で事故を起こした場合と、自ら泥酔して事故を起こした場合とでは、心神耗弱であることに変わりはない。しかし、それで免責、減軽はおかしいということで、裁判官が責任を認めるという社会的判断を下す。医学的判断と裁判官の判断の違いというのは、以上のようなことである。刑法では、これを開かれた構成要件などと言う。なお、原因において自由な行為における刑法上の理論構成については、酔った自分を道具として使っているという間接正犯類似説と、全体を行為とみる結果行為説と、二元説の対立があるが、無視しておく。

ちなみに、タイ刑法は第４章に責任の規定を置いている。日本法との比較では、原因において自由な行為に関する明文の規定が置かれていることに特色がある。タイ刑法においても、心神喪失者の免責規定がある（タイ刑法６５条）。しかし、タイ刑法６６条は、自らアルコールや薬物等を服用した結果心神耗弱状態に陥った場合は、６５条によって免責されないと規定している。

（４）精神障害と離婚

配偶者が精神病になった場合、殺害するか、離婚するか、介護するか、等の選択肢が与えられる。一家心中は刑法の問題で、離婚は民法の問題で、介護は社会保障法の領域にも関係する問題である。ここでは、離婚についてのみ検討する。精神病によって離婚請求する場合、民法７７０条１項４号の問題となる。この規定によって離婚が認められるためには、配偶者が回復し難い「強度の精神病」に罹患していることを証明する必要がある。判例は、統合失調症を強度の精神病とする一方、認知症は強度の精神病に当たらないとする。これについては、妥当な判断と思われる。

統合失調症は、精神障害の中でもかなり重症である。確かに認知症でも、症状が進行すれば意思疎通ができない情況に陥る。しかし、統合失調症と比較すれば、その程度は緩やかなものと言える。また、実際上の要請として、認知症離婚を認めることで、次から次へと離婚訴訟が提起されては困るということも言える。そして、そもそも離婚する道は、精神病（７７０条１項４号）に限られない。具体的には、７７０条１項５号の道が残されている。つまり、認知症を精神病と認めないからと言って、絶対に離婚が出来ないと言うわけではない。特別な事情があるのであれば、７７０条１項５号のその他の事由で救えばよいのである。以上のことから、統合失調症の場合は精神病離婚を認めて、認知症の場合は精神病離婚を認めないと解するのは相当と言うべきである。

なお、認知症の治療について、東洋医学・振動医学的なアプローチとして、音響チェア（音波）による治療が推奨されている。中国政府は音響チェアを導入しており、これによる成果が期待されている。他方で、西洋医学からは、アミロイドβを除去することで、認知症の症状を和らげることができると主張されている。この論争については、基本的に振動医学によるアプローチが正しい。

８．代理と利益相反

（１）利益相反等の紛争における原則論としての部分社会論

物言う株主と利益相反の問題は、株主代表訴訟（会社法８４７条）の規定等に基づいて、法廷闘争に持ち込まれるケースが多い。しかし、取締役の責任等の問題を検討するうえでは、前提として裁判所の審査能力や、審査の範囲について検討しなければならない。いわゆる部分社会論と司法権の限界の問題である。部分社会論とは、団体（部分社会）の内部事項については、司法審査の範囲外であるとする原則を言う。共産党袴田事件では、政党の内部事項について、裁判所が審査すべきでないとした。他にも、富山大学単位認定事件、警察法改正無効事件などで、部分社会の手続きを尊重すべきと判示している。また、種徳寺事件では、曹洞宗の寺院の住職が、住職を辞めさせられたことに怒って提訴した。これに対して裁判所は、宗教団体内の人事問題を司法審査の対象外とした。

以上の考え方は、物言う株主が会社を提訴してきた場面でも、若干考慮に入れておく必要がある。利益相反の判断においても同様で、要するに、会社の決定は尊重されるべきではないか、ということである。つまり、物言う株主からの訴えに対しても、ある程度は会社の決定を尊重することになるだろう。宗教団体や政党に限らず、会社も部分社会の一つなので、物言う株主に言われるまま闇雲に司法審査すべきではない。

また、裁判所の審査能力についても検討しなければならない。利益相反の認定（会社法３５６条、４２３条２項３項）は、法律的な問題といえる。しかし、経営判断の失敗（会社法４２３条１項）については、かなり微妙なところである。前提として、会社法３３０条は、取締役を委任の規定（民法６４３条以下）に準ずるものと規定している。委任契約における受任者は、善管注意義務を負っている（民法６４４条）。

そこで、取締役の責任が追及される場面では、任務懈怠（≒善管注意義務違反）があったか否かが問題となる。この場面で、裁判所の審査能力について論じる必要がある。まず、裁判官は経営の専門家ではない。ゆえに、経営判断について、これが良かった、これが悪かったなどと言うことはできないはずである。そのため、判例上、経営判断の原則が定式化している（アパマンショップＨＤ株主代表訴訟事件、東京地判平成１６年９月２８日等）。その内容として、著しく不合理な経営をしていない限り、過失があったとされないと説明される。このような考え方は、取締役の判断をある程度尊重するもので、妥当と思われる。経営判断の失敗については、評価規範として客観的に、後付けで評価されることが多いわけである。しかし、そもそも会社の経営は運的な要素も大きいし、考える暇もなしに次から次へと判断・処理しなければならないものである。とすると、経営の素人である裁判官が、理由を付けて過失があったなどと言うのはあまり好ましくない。したがって、取締役の過失については、さほど厳格に判断すべきものでもないだろう。

裁判所の審査能力という逃げ道については、砂川事件に代表される統治行為論で有名である。高度に政治的な内容については、裁判所ではなく国会で議論、判断すべきということである。また、行政行為における認可、許可、届出の内の認可に当たる部分も、自由裁量として裁判所の審査の埒外とされている。取締役の経営判断については、行政行為における羈束裁量と同等の解釈で良いだろう。つまり、裁量の逸脱・濫用があれば、それに対してツッコミを入れる程度に留めるべきということである。

なお、取締役が専門分野で失敗した場合については、安易に免責されないと解されている。拓銀特別背任事件において、判例は、銀行の取締役であれば、それなりの注意義務が求められるわけで、安易に経営判断の原則が適用されることは無い趣旨の判示をしている。代わって、企業組織の複雑化に伴い、子会社への監督義務違反も重要な論点となっている。福岡魚市場グルグル回し事件では、親会社の取締役が子会社を監督する義務を負うとし、このケースではその義務違反を認めた。子会社に責任を投げるような悪質な経営が行われるケースもあることから、子会社への監督義務も重要な概念といえるだろう。

ちなみに、忠実義務（会社法３５５条）と善管注意義務は、ほぼ同じと解されている（通説）。これについて、アメリカ法ではしっかり分けて解されている。英米法では信認義務三分説などが主張されているが、ここでは立ち入らない。なお、会社に余力が無いのに莫大な政治献金をするのは忠実義務違反となるとした事例（八幡製鉄政治献金事件）があることだけ触れてペンディングする。

（２）自己契約・双方代理・利益相反と代理権の濫用

そもそも利益相反等は、代理の問題である。自己契約及び双方代理、利益相反は、有権代理である。言い換えると、無権限で代理行為をしているわけではない。それでも無効とされる。まず、民法１０８条１項は、「又は」の前が自己契約、「又は」の後が双方代理である。自己契約は、物を売ることを委託された者が、自分にその物を売却するようなケースが該当する。これは、買主が自分なので、安く買いたいと思うが、代理権を授与した本人は高い値段で売ってほしいと思っている。結果的に、本人の利益を害することになるので、このような自己契約は無効とされている。また、双方代理は、売買契約の両当事者を１人で代理するようなケースである。この場合、売主は高く売りたい一方、買主は安く買いたいということになるので、利害が対立し、結果的にどちらかに損失を被らせることになる。そのため、双方代理も無効としている。

これに対して利益相反は、代理人が得をして本人が損をする類型を指す（民法１０８条２項）。親権者と子との利益相反を規定しているのが民法８２６条である。民法における利益相反は、形式的に判断される（形式説・判例）。しかし、別に代理人（親権者）が得をしているわけではない一方で、本人を損させているケースがあり得る。このような場合では、別の理論を援用してきて対処する。つまり、外形理論（最判昭和４２年４月１８日）はそのままにしながら問題を解決する。

例えば、親権者が数人の子を代理し、遺産集中のために、（代襲）相続の放棄をしている場合には、数人の子の利益が相反するとして、特別代理人の選任が無い限り利益相反に該当するとした（最判昭和４９年７月２２日）。別の事例で、子所有の不動産を自己の借金の担保に供する場合、相手方が子本人のためではなく親自身のためだと知りうべきときに、民法９３条但書心裡留保の類推適用により、無効とする余地があるとしたものもある（一般論としてそう述べたが、最判平成４年１２月１０日では否定）。心裡留保の類推適用は、結果の妥当性確保のための苦肉の策であった。これについては、代理権の濫用として明文化された（民法１０７条）。

　

（３）会社法における利益相反等の諸規定

会社法３５６条１項は、それぞれ１号に競業取引、２号に直接取引、３号に間接取引を置いている。このうちの競業取引（１号）については、会社が携わっているビジネスと同じ種類のビジネスを他で行うことを指す。会社の取締役として得た情報を自分のビジネスに使ったり（東京地判昭和５６年３月２６日）、取締役を務める会社の従業員を自分の会社に引抜きしたり（前橋地判平成７年３月１４日）するケースがこれに該当する。ゆえに、物言う株主と利益相反とは若干異なる論点である。

物言う株主と利益相反の本命は、直接取引（２号）と間接取引（３号）である。直接取引とは、取締役が自己の名で会社と取引する形態を言う。例えば、会社の不動産を取締役が購入するケースがこれに該当する。これは、自己契約（民法１０８条１項）に近いもので、やはり利害が相反する。続いて、間接取引とは、取締役の債務を会社に保証させたり、取締役以外の者に利益を得させるような契約を、会社と第三者との間で結ばせることをいう。この場合、取締役と会社が直接契約関係に立っているわけではないが、結局は取締役の思うつぼになり、会社は損失を被るため、禁止されている。正確に言うと、会社の承認を受けない限り禁止されている。東芝騒動（車谷劇場）は、車谷が自分の古巣を利用して間接取引をしたものと解されている。

会社法における利益相反等の判断基準は、競業取引（１号）で計算説を、直接取引（２号）で名義説をとる（通説）。計算説とは、利益相反の判断基準を、誰が儲かるかに求める見解のことである。他方で、名義説とは、法律行為の形式的な帰属先は誰か、という点で判断すべきとする見解のことである。計算説は民法学説で言う実質説、名義説は民法で言う形式説に対応すると考えられる。細かく両者の違いを述べると、会社法３５６条１項１号２号を「自己または第三者の名義で」と読むか、「自己または第三者の計算で」と読むかの違いである。この点、会社法３５６条１項１号２号は、「自己または第三者のため」と規定している。「ため」なので、結局どちらと捉えてもよいのではないかというオチである。

これについて、もう少し細かく述べると、競業取引の方は、形式的な法律行為の帰属先を見ても仕方がないということで、計算説をとるのが多数説である。他方で、直接取引には、間接取引の規定が直後に控えている。このことが何を意味するかと言うと、次のことがいえる。計算説は、名義（法律行為の帰属先）で見てしまうと、会社と第三者とが契約の当事者となった場合に、その実態を踏まえて判断することができない、と主張する。すなわち、誰が儲けたかで判断しないと意味がないということである。しかし、会社法は間接取引の規定を置いているのだから、名義上は会社と取締役との間の契約でないが、実質的に会社と取締役で利益が相反している場合は、間接取引の規定に持っていけばよいといえる。その意味で、直接取引を「計算」で判断する意味がなくなったということである。

ちなみに、民法において間接取引なるものは存在しない。そもそも、会社法でも、間接取引に関する規定は存在しなかった。これは、最大判昭和４３年１２月２５日を受けて新設されたものである。

会社法における利益相反取引の効果は、相対的無効である（最大判昭和４３年１２月２５日）。つまり、会社の中では無効である。しかし、善意・無重過失の第三者が現れた場合、その者との関係では、利益相反取引が有効なものとして扱われる。第三者が悪意であることの立証責任は会社側にある。他方で、民法における利益相反行為は絶対的無効（ここでは追認無き限り無効という意味）である。この異同は、取引安全と本人の利益とのバランスに配慮したことによるものである。なお、利益相反行為をした取締役から無効を主張することは許されない（最判昭和４８年１２月１１日）。これは、元はと言えば誰のせいか、という点に鑑みれば当然のことである。これについて、禁反言、信義則、クリーンハンズその他理屈は考えられるが、当たり前のことを述べているに過ぎない。

また、利益相反取引の承認を得ている場合でも、手形の振出をする場合は、別途手形行為につき承認が必要である。手形債務の場合、抗弁の切断その他通常の債務より重い負担を強いられるためである。代わって、会社法の判例理論は、もの言う株主からの責任追及手段として、取締役に対して直接民法７０９条に基づく不法行為責任の追及はできないする（東京高判平成１７年１月１８日）。他方で、債権者から取締役に直接民法７０９条に基づく不法行為責任の追及はできるとしている（最大判昭和４４年１１月２６日）。

役員が第三者に対して損害を与えた場合、役員は会社法４２９条に基づく損害賠償責任を負う。この場合、１項に該当するケースでは、被害者が役員の悪意又は重過失若しくは任務懈怠を証明する責任を負い（最大判昭和４４年１１月２６日）、２項に該当するケースでは、役員側が無過失を証明する責任を負う。また、直接取引によって会社に損害を与えた取締役は、無過失責任を負っている（会社法４２８条１項）。以上のように、過失責任か無過失責任か、その他証明責任など、かなり細かく規定が分けられている。

（４）東芝騒動の背景と相殺と差押え無制限説

近年、物言う株主が台頭してきている。その理由は二つあると考える。第一に、低成長による株主のフラストレーションが挙げられる。物言う株主と利益相反と言っても、会社の経営が上手くいっているのであれば、極論として取締役が利益相反をしていようとも、物言う必要は無い。それどころか、余計な口を挟む方がおかしいということにすらなる。ところが、東芝その他物言う株主が出現している企業は、多くの場合で経営が頭打ちとなっている。この問題は、東芝に限らず、日本企業ひいては日本社会の問題とも言える。

簡単に述べると、大企業が保守的であり、また、ベンチャー企業も活発でないことが大きな問題である。大企業が、いわゆる大企業病に陥ることはある程度仕方の無い面もある。しかし、ベンチャーまでもが活動的でなく、停滞していることは、由々しき問題である。チャレンジを嫌う悪性格？については、仕方が無い面もある。しかし、チャレンジをしたいが金銭の問題からそれが出来ないというケースは、できるだけなくさなければならない。物言う株主と利益相反の原点は、このようなところにあるものと考える。

以上の問題は、具体的には次のようなことである。金融機関は、貸し倒れを恐れるので、ベンチャーにお金を貸さない。しかし、多くの場合、チャレンジしようとしているベンチャーには、金銭的な余裕が無い。そのため、新しいことに挑戦することができない。しかし、イノベーションを起こしていくためにも、ベンチャーに対しては、積極的に融資していくべきである。とすると、金融機関に対して、融資を促進していくような法理論が求められる。ここでは、その一例について検討することとする。具体的には、相殺と差押えについて論考する。

法定相殺は、自働債権の弁済期が先で、受働債権の弁済期が後でなければしてはならない。仮に、銀行がベンチャーへの貸金債権（自働債権）を有しており、反対にベンチャーが銀行に対して歩積み両建て預金債権（受働債権）を有しているとする。この場合に、相殺適状と言うためには、自働債権（ベンチャーへの貸金債権）の弁済期が到来していなければならない。なぜなら、仮に貸金債権の弁済期前に相殺を認めると、まだそのお金を使うことが出来たのに、それが事実上出来なくなってしまうからである。要するに、ベンチャー側は、まだ弁済期まで時間があるので、その間にお金を使って事業を営むことが出来たのに、その期限の利益が奪われてしまうということである。

この例外として認められたのが、いわゆる相殺と差押えである。これは、歩積み両建てをした後に差し押さえがやってきても、「差押え前に取得した債権」（＝歩積み両建て預金債権）による相殺をもって対抗できるという法理をいう（最大判昭和４５年６月２４日、民法５１１条１項）。議論すべきは、三パターンある。まず、自働債権の弁済期が先で、その債権の発生後に差し押さえがやってきたパターンである。この場合は、文句なしに相殺が認められる。問題となるのは第二のパターンで、自働債権と受働債権の発生は差し押さえがやってくる前だったが、自働債権の弁済期が受働債権の弁済期の後のケースである。この場合に相殺を認めるか否かが、無制限説と制限説の対立である。制限説（旧判例）は、（法定）相殺の原則に従い、相殺を認めないと解した。しかし、無制限説は、相殺の期待が差押えの期待より優越するとして、この場合に例外として相殺を認めるとした。これが判例変更後の判例と改正民法５１１条１項の規定である。他方で、第三のケースでは、改正民法の元でも相殺が認められない。それは、差押えの後に慌てて歩積み両建てをしたような場合である。これは、民法５１１条１項の「差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗する」場合である。この場合は、差押えがやって来た後に慌ててお金を貸して相殺するようなケースであり、このようなケースに相殺を認めるのは、債務不履行を助長するだけとなる。そのため、差押え後に取得した債権をもって相殺することは許されない。もっとも、差押え後に取得した債権でも、差押え前に発生原因がある場合には、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる（５１１条２項）。

以上の法理は、相殺の期待を上位とすることで金融機関の立場を有利にし、金融機関に融資をさせる法的バックアップとなるものとして期待されている。先に述べたとおり、物言う株主と利益相反の問題を草の根レベルで解決するためには、ベンチャーへの融資を促進していくことが必要である。相殺と差押えは、その一助となる立法例として評価できる。

物言う株主の台頭の第二の理由は、会社法制度そのものの混乱が挙げられる。まず、日本は、会社法の改正等を経て、株式持ち合いが消滅し、役員については社外取締役が増加していった。しかし、日本の会社法改正は、米国の法制度を真似ただけの代物で、日本的な仕組みと整合的なスキームにはなっていない。そのため、社外取締役制度は機能不全に陥っている。社外取締役に何も発言しない人やタレントを起用するなど、明らかな無駄が発生していることは言うまでもない。また、株主については、株式持ち合いだからお互い様ということでものを言わなかったが、外資の参入等によって一転した。これらの混乱は、新自由主義による規制緩和や会社法の改悪によって招かれたものと言わざるを得ない。

以上をまとめると、会社法や金融商品取引法の改悪が、企業統治の面で多くの企業に非効率を招き、そのような混乱が東芝騒動のような事案が多発する一因になったと考えられる。

９．医療関係と法

（１）新型コロナウイルス騒動の分析

新型コロナウイルスは、正式にはSARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)と呼ばれる。これは、ＳＡＲＳが起源であることに由来される。有力説は、新型コロナウイルスをＳＡＲＳとＨＩＶの合成によるものと解する。そもそもＳＡＲＳは「はしか」＋「おたふくかぜ」の生物兵器なので、まとめると、「はしか」＋「おたふくかぜ」＋「エイズ」＝新型コロナウイルスと表される。ＳＡＲＳにＨＩＶを掛け合わせたのは、免疫攻撃力を付加するためと理解されている。新型コロナウイルスはＳＡＲＳにＨＩＶが掛け合わされているため、エイズに見られる免疫暴走の症状が現れる。また、ＳＡＲＳを原材料の一部としているため、ＳＡＲＳに耐性のある日本人は発症しづらい。そもそもＳＡＲＳは、はしかとおたふくかぜのウイルスを掛け合わせたものなので、多くがはしかの免疫を持つ日本人は発症しづらい。そのため、日本では発症数が少ない。

ちなみに、エイズ（ＨＩＶ）は、狂羊病ウイルス（ピスナウイルス）＋白血病ウイルス（ヒトＴ細胞白血病ウイルスＨＴＬＶ−１）の合成によって生成された生物兵器である。１９６０年代に遺伝子組み換え技術が完成し、そのことによって微生物兵器を強力化できるようになった。そして生まれたのがエイズで、これが生物兵器第１号と解されている。

新型コロナウイルスの起源につき、武漢研究所説と米軍起源説（武漢軍事五輪持ち込み説）が対立しているが、米軍起源説の方が正しいと思われる。米軍が中国叩きの手段として生物兵器を使用したことについては、卑怯と言わざるを得ない。その一方で、今回の件を摘示しながら、中国に対して人権問題などの言いがかりをつけるのはけしからんとまで主張する者もいる。しかし、今回の米軍による生物兵器散布が卑怯だからといって、中国政府の人権弾圧までも正当化するのは妥当でない。

ワクチンについては、大別すると、体内にウイルスを直接注入するものと、遺伝情報を注入するものに分けられる。前者に分類されるのが生ワクチン、不活化ワクチン、トキソイドワクチン、樹状細胞ワクチン、ペプチドワクチンで、後者に分類されるのがＤＮＡワクチン、ｍＲＮＡワクチン、ウイルスベクターワクチンである。新型コロナワクチンで主流とされるのは遺伝子ワクチンの方である。歴史的に、ワクチンはほぼ失敗に終わっている。それは、そもそもワクチンが普及する前に感染が終息していたパターンと、ワクチンによってむしろ感染が拡大したパターンに分けられる。

まず、ワクチンが普及した時点で流行が終わりかけていた事例としては、英国における麻疹が挙げられる。１５歳未満人口１００万人当たりの死亡数は、１９１０年の前は１０００人を上回っていた。しかし、流行がピークを打ち、１９５０年の段階では１００人を下回っていた。ワクチンが導入されたのは１９６０年代である。ワクチンが導入された後も死亡数は下がり続け、最終的にほぼゼロに達した。これを別の表現にすれば、「ワクチンが導入され、死亡数がほぼゼロになった」と言うこともできる。西洋医学的にはむしろそのように宣伝される。しかし、ワクチンによって感染が終息したと言うことは出来ないだろう。要するに因果関係の断絶があるということである。

英国における百日咳の例も挙げることにする。こちらは、病原菌の発見が１９００年頃で、ワクチンの導入が１９５０年代である。しかし、これについても、その間にほぼ終息したと解されている。確かに、ワクチン導入後にも死亡者数は減少したが、ワクチンによる効果とは言えない。ここでも、因果関係が断絶していると解される。

また、ドイツ・ベルリンにおけるジフテリアによる死亡率は、かえってワクチン接種を停止した後の方が改善している。ワクチン接種後に感染拡大が引き起こされるということについては、従来型のワクチンの性質に鑑みると、当然と言えば当然ということもできる。従来型のワクチンの場合は、ウイルスを注入するので、ワクチン接種によって早かれ遅かれ発病することがある。「ことがある」と述べたが、これがかなり高い割合で起こると考えられている。現場の診療所（ワンマン）は、そのことを経験則によって理解しているので、ワクチン接種を推奨しないことも多い。問題は、ワクチンによって発病した者が他人に感染させることで、かえって感染拡大を招くという点にある。見解によっては、ワクチンがウイルスを悪性化させ、結果的に企図しない流行が引き起こされることも指摘されている。だとすると、ワクチン接種が逆効果になるという結論に至っても何ら不思議はない。

この点について、基本的に新型コロナウイルスのワクチンには遺伝子ワクチンが採用されていることから、直接的な発病による逆噴射リスク（ワクチンによる感染爆発）は抑えられると考えられている。しかし、遺伝子ワクチン自体が未知の領域も多く、潜在的な危険性は大きいと解すべきである。これは、数日間の副反応のリスクというよりも、もっと長いスパンで懸念される事項である。

医学について、大きく分けると西洋医学と東洋医学・振動医学等の二つの流れがある。ワクチンに対しては、西洋医学は肯定的、東洋医学等は懐疑的なスタンスであることが多い。これについては、東洋医学等を支持すべきである。西洋医学の理論的根拠は、「科学」にあるとされている。しかし、実態は、「科学」よりも「貨幣」がより大きな存在として裏に控えていることを認識する必要がある。天然痘ワクチンは、ジェンナーが始めたものだが、それを経済・貨幣の目で見ることも有益である。種痘は、ジェンナーというたった一人の少年の成功例に過ぎなかった。しかし、それが直ちにイギリス政府や各国政府をも動かしている。その背景には金儲け主義のロスチャイルドが控えていた。要するに、ワクチンは金儲けの道具に過ぎなかったということである。

西洋医学は「科学」を盾に医学界を牛耳っている。しかし、それは都合の良いデータを集めて理論化し、薬やワクチンを売り、又は手術件数を増やしてお金を儲けるというただのビジネスに成り下がったと言ってよい。それは、教条的な理論を正当化する朱子学的な発想ともいえる。これに対して、東洋医学やドイツ振動医学は、理論よりも実践を重視する。非科学的とされるものでも、実際に患者を快復させた実績があるならば、それを実行していく。医学の目的は、理論の追求や診察代薬代手術代稼ぎではなく、病気を治すことにあるとする。そのためには、仮に宗教・精神修養的な側面を有するような厳しい世界であっても、それを追求していく。そして、製薬・ワクチン利権や不要な手術の推奨など、間違っていることに対しては断固としてノーを突き付ける。この勇敢な有り様は、まさに陽明学を論拠として立ち上がった幕末の志士たちと重なるものである。情報社会においては、石油王ロックフェラー・錠剤大量生産・規模の経済という西洋医学のスキームを工業社会の遺物として葬り去り、真の生命論や医学を打ち立てていくことが求められる。

（２）分娩者＝母理論と二段階創造説

情報社会においては、クローン人間や生物兵器等の懸念材料が非常に多い。一方で、生殖補助医療等、当事者の利益となるような技術も進化してきている。しかし、以上の問題については、良くも悪くも法整備が追い付いていない。そのため、情報社会における正義の最後のパートとして、借り腹における母は誰か、という点を検討する。

まず、借り腹の場合において、分娩者＝母とするのが判例の立場である。しかし、この場合は、契約者を母とするのが実際上の要請に適う。なぜなら、ほとんどの場合で実際に養育するのは契約者だからである。また、代理母では該当しないが、借り腹では遺伝子上の母は契約者である。以上の事情を考慮すると、契約者＝母とすべきと言う結論に至る。これに対しては、判例の立場をとるべきとする見解も根強い。その理由は、生みの苦しみがあってこそ母になる、というものである。つまるところ、出産を経ずに母が決まるのは、感覚的に許容されないということである。

思うに、借り腹における母の決定は、手形理論における交付契約説と二段階創造説の対立の問題と同列に扱うことができる。両者は、手形関係の成立時期に関する学説である。具体的には、手形の署名はあるものの、受取人への交付前に手形が盗取され、何者かによって流通に置かれていたという交付欠缺の場合に、どのような理論構成を取るかという点で両説は対立する。交付契約説は、手形債務は手形の授受によって成立すると解する。つまり、この説をとると、机上で手形に署名をしていても、交付するまでは手形関係が成立しないと解することになる。交付契約説をとる場合、交付欠缺のケースでは、手形関係が成立していないとされる。しかし、手形を善意で過失なく受け取った者がいる場合、その者を保護する必要が生じる。この場合は、権利外観理論を用いて救済することになる。

他方で、二段階創造説は、手形債務は、手形を作成することによって発生するものと主張する。この見解によると、手形行為は手形債務負担行為と手形権利移転行為から成り、手形に署名する時点で、第一段階の手形債務負担行為が行われたと解する。そして、交付が無かった場合は、手形の善意取得（手形法１６条２項）の問題とすべきと主張する。

交付契約説の利点は、取引社会における感覚と一致することである。二段階創造説では、机上で手形に署名をした時点で、債権者と債務者が共に署名者という手形が成立すると解することになる。しかし、これはおよそ実務的な発想ではない。さらに言えば、不自然極まりないといえる。手形は交付によって成立すると考えるのが一般的な常識である。この点で、交付契約説の方が実務社会に適合した理論といえる。他方で、交付契約説では、善意無過失の第三者が現れた際に、本来手形関係が成立していないものを、権利外観理論によって強引に成立したものとして扱うので、理論上は筋が通らない。この点、二段階創造説では、手形自体が成立しているものとし、手形法の理論（善意取得）によって解決を図るので、筋が通る。

ここで分娩者＝母理論と契約者＝母理論の対立に戻る。すると、分娩者＝母理論は交付契約説、契約者＝母理論は二段階創造説に対応することが見て取れる。借り腹の場合は、出産欠缺ということができる。つまり、遺伝子上の母はすでに決まっているが、出産（交付）が抜けているということである。この場合に、交付契約説に立つと、分娩（交付）によって母が決まると解することになる。その場合、分娩者が母となる。しかし、出産の前に遺伝子上の母は決まっている。つまり、机上で署名した通りの内容（手形債務者＝母）となっている。そのため、出産前に母は契約者で決まりと解して良さそうである。しかし、あくまで分娩（交付）によって母が決まるべきとする。理由は、先に述べたとおり、一般社会の常識に適合させるためである。出産前に遺伝子上は母と決まっていても、その時点で契約者＝母（署名者＝債権者兼債務者）と決めるのは、不自然ということである。生みの苦しみがあってこそ、という中江説は、手形理論でいう交付契約説に立つものとも評せよう。

これに対して、契約者＝母とするのは、二段階創造説的な考え方である。出産（交付）は関係なく、遺伝子上の母を母とするわけである。向井・高田事件で言えば、代理出産者の腹の中にいる段階で、もはや母は向井なのだから、手形理論で言う手形債務負担行為は済んだことになり、結局分娩（交付）の有無を問わずに母は向井ということになる。

次いで、出産後の法律関係についての検討に移る。まず、交付契約説（分娩者＝母）に立つと、実際に養育する者が母とされない。養育者を母とするには、権利外観理論（特別養子等）を持ち出す必要がある。こうしてみると、生みの苦しみを味わってこそ母という社会通念を根拠に分娩者＝母とすると、結局それを覆すことが前提となり、論理的には一貫しないことになる。他方で、二段階創造説であれば、出産は他人でも、母は出産前に契約者（署名者）と決まるので、そのまま出産後も契約者＝養育者＝母となり、不合理な点が無い。しかし、生みの苦しみ無くして母決定という一般常識的な欠陥を抱えている。

この問題については、交付契約説・分娩者＝母理論をとるべきである。確かに、この理論を貫くと、出産の時点で養育者が母とならず、また、手形関係は不成立となり、最終的には覆す前提ということになる。しかし、交付（分娩）無くして手形成立、母の地位を得るというのは、社会的な感覚と違える部分が大きいと思う。特別養子や権利外観理論で覆す前提の考え方というのは、理論的に一貫しない面もあるが、理論を追求して社会・取引通念を曲げるよりも、社会の実態・観念を重視すべきである。したがって、借り腹における分娩者＝母理論に対抗すべく、二段階創造説を持ち出して検討したが、結局は判例を維持すべしという結論に落ち着く。

　

１０．まとめ

以上、情報社会における正義について検討してきた。情報社会では、技術の過剰な進歩・発達にどう対処していくかが、法律論としての最も大きな課題と考える。具体的には、生物兵器、電磁波兵器、ＡＩ戦争、クローン人間等の様々な問題が顕在化しつつある。以上は、人権侵害や環境破壊に直結する問題である。それを、法律の面から抑制していくことが法律家の務めである。情報社会では、いよいよ憲法９条があるから平和である、生物兵器は条約で禁止されているから存在しない、等々の楽観論が通用しなくなる。中台統一や尖閣侵攻が実力行使によってなされることは十分あり得るし、そもそも新型コロナウイルス自体が、米軍が散布した生物兵器である。

したがって、表面的な論争ではなく、情報社会において進むべき人類の道、正義を決定するというような、根本的なところに立ち戻る必要がある。その正解は、刑事法では結果無価値を基軸とし、政治体制については民主政治を軸とするところにあるだろう。とすると、政治体制という面では、中国的な体制よりも米国的な体制に親和性があるということになる。しかし、新型コロナウイルス等の諸悪の根源は米国にあるということは先に述べたとおりであり、日本としては、そのような悪事に加担することをもって目先の利益を追求してはならない。

そうだとすると、日本は、中国による人権侵害等に対して異議を唱えつつ、ロックフェラー財閥、ビルゲイツその他の米国を中心とした巨悪に対しても対抗していくことが求められる。それは、天下三分の計とも言い換えられる。天下三分の計のターゲットは、東南アジアや南米諸国である。東南アジア諸国を例にとってみると、基本的にこれらの国々は中国の勢力圏である。しかし、ＡＳＥＡＮ諸国が完全に中国の支配下になってしまった場合、その中では、言論弾圧や民族浄化等の人権侵害が早かれ遅かれ起こりうるだろう。そのようなことに陥らないようにするためにも、日本その他の自由主義陣営のプレゼンスを高め、中国に依存する国を減らしていく必要がある。

戦前の日本は、アジア諸国を統治下に置き、欧米列強による植民地支配から解放すべく、正戦、すなわち正義のための戦争を遂行してきた。そして、正戦を遂行しただけでなく、インフラを整備し、戦後におけるアジアの経済発展の基礎を作り上げてきた。現代の日本も、戦前の日本のような高貴な精神を思い起こしたうえで、アメリカや中国と協調できることについては協調しつつも、日本型の正義を宣言し、情報社会の先陣を切っていく気概を持つことが求められる。その支柱となるのが、結果無価値基軸、民主政治基軸の社会・政治体制のあり方といえるだろう。

＊参考文献

・内田貴『民法�V 債権総論・担保物権〔第４版〕』東京大学出版会、２０２０年

・山口厚『刑法〔第３版〕』有斐閣、２０１５年

・上原敏夫ほか『民事訴訟法〔第６版補訂〕』有斐閣、２０１２年

・寺崎嘉博『刑事訴訟法〔第２版〕』成文堂、２００８年

・船瀬俊介『コロナとワクチン』共栄書房、２０２１年

・船瀬俊介『なぜ中国は認知症に音響チェアを導入したのか？』徳間書店、２０１９年

・タイ政府 自治委員会　https://www.krisdika.go.th/home

・法学研究所　https://www.drthawip.com/node/2177

佐藤亮太

情報社会における正義

19J110022 佐藤亮太

キーワード 認知症、SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)、予防接種禍と過失、誤想防衛と対物防衛、物言う株主と利益相反、行為無価値論HandlungsUnwertと結果無価値論ErfolgsUnwert、民主集中制と哲人政治(プラトン)、法の精神(モンテスキュー)、中台統一と一帯一路、不戦条約と集団的自衛権

1.結論

社会の変化が目まぐるしい情報社会において、それに対応する形で迅速かつ柔軟に自分自身、そして法律も変化して行かなくてはならないと考える。

2.始めに

農業革命、産業革命と続き、現代は情報革命の時代とされている。そんな中で、科学技術の発展は目まぐるしいものを感じる。10年前に無かったものが現在当たり前に存在している。例えば、スマホやZoomといったものがこれに該当する。そして、今後このような発展は指数関数的にますます加速していくこととなる。この時代の流れに自分自身、そして法律が追いついていけるのであろうか。

3.シンギュラリティ(技術的特異点)

(1)シンギュラリティとは

上記にもあるとおり、科学技術の発展は指数関数的に加速していくと述べたが、このことを表す出来事を挙げる。それはシンギュラリティ(技術的特異点)である。これはアメリカの発明家で人工知能研究の世界的権威であるレイ・カーツワイル博士らが示した未来予測の概念で、一つの仮説として想定され得る、人工知能(AI)が人間の能力を超える時点 や、それにより人間の生活に大きな変化が起こるという概念のことをいう。この結果により、人工知能等のコンピュータが人間の知能を超えることとなる。そして、AIが下す決断が人間には予測がつかなくなり、社会的に大変革が起きると考えられている。更に、レイ・カーツワイル博士は2029年にAIが人間並みの知能を備え、2045年に技術的特異点が来る」と提唱している。このことを「2045年問題」と言う。

(2)シンギュラリティによって生じる変化

まず具体的に考えられることは「雇用の変化」である。工場のライン作業や事務管理、経理などがAIに取って代わると考えられる。また、雇用だけに留まらず、人間そのものも変化させてしまう可能性も指摘されている。SF映画にも代表される「ターミネーター」にでてくるような機械と人間が融合していくものが実現されると示唆される。これが行われることで、脳内の記憶をある特定のクラウドに保存したり、記憶を機械が引き継ぐこと、すなわち、生の肉体が必要なくなる。これらのことがもし出来るとするならば、「死」をも超越することが可能であると言える。実際にアメリカには「トランスヒューマニスト党」という上記のとこを実現させて人間を更なる高みへ目指していくことを目的とする政党も現れている。

しかし、仕事が取って代わることはある程度容認できても、人間自体を変化させてしまうことは果たして倫理上容認されてしかるべきなのだろうか。社会の正義、幸福を満たせるに値するのであろうか。

4.遺伝子組み換え

シンギュラリティの例にもあった通り、人間自体を変化させてしまうのは果たしてよいことなのであろうか。そこで、この問題を考えるにあたって、遺伝子組み換えについて見ていく。

(1)遺伝子組み換えとは

遺伝子組み換えは、特定の遺伝子のみを「組み込む」技術のこと、つまり両親を丸ごと掛け合わせて交配を繰り返すのではなく、特定の遺伝子のみを組み込む技術のことを言う。

(2)遺伝子組み換えのメリット

病気に強くなる、害虫被害を抑えられる、特定の除草剤で枯れないなどが挙げられる。機械的にこれを行うことに限った話ではなく、大昔の農耕社会においても稲などの多様な種が交配され続けたとこによって上記のようなメリットを時間をかけて会得してきた。

(3)遺伝子組み換えのデメリット

まずは、人体に害をもたらす可能性が考えられる。主にアレルギーを引き起こす原因になりうる。次に環境への悪影響だ。遺伝子組み換えによって生まれた作物の花粉が飛散して無関係のところで遺伝子組み換え作物が誕生してしまう恐れがある。これらの問題はカルタヘナ法で対応している。

ア カルタヘナ法とは

カルタヘナ法とは、正式名称「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」といわれる。遺伝子組換え技術は、その利用により生物に新たな形質を付与することができるため、人類が抱える様々な課題を解決する有効な手段として期待されているが、作出された遺伝子組換え生物等の形質次第では、野生動植物の急激な減少などを引き起こし、生物の多様性に影響を与える可能性が危惧されている。

遺伝子組換え生物等の使用については、生物の多様性へ悪影響が及ぶことを防ぐため、国際的な枠組みが定められている。この国際的な流れに応じる形で日本ではカルタヘナ法が作られた。

(ア) TPP問題

　　　遺伝子組み換えについては参加国ごとに規制がバラバラである。

今後、どの国を基準にして安全等を考えていくか、または、TPP参加国で独自の基準を設けるかなどをして対応していく必要がある。

日本では2018年4月に種子法が廃止された。

一部ではTPPの意向を受けての廃止だと意見も挙げられている。これを受けて、遺伝子組み換えがされたコメの種子が出回るのではないかと懸念されている。

5.ゲノム編集

遺伝子組み換えとセットで出てくるものとしてゲノム編集がある。

(1)ゲノム編集とは

ゲノム編集は、特定の遺伝子のみを「編集する」技術のことを言う。

(2)デザイナーベイビー問題

2018年に中国人の科学者が遺伝子を改変させるゲノム編集によって、双子を誕生させた。HIV（エイズウイルス）に感染しないよう受精卵の遺伝情報を書き換え、ゲノム編集ベビーを誕生させたというものである。他の方法でHIVの対策があったのにも関わらず、いわゆる「パンドラの箱」を開けるような禁忌を犯してまでこれを行ったのだろうか。

ア デザイナーベイビーが増えるとどうなるのか

操作によって「優れた」人間が生まれることで、人間の限界が飛躍的に突破できると考えられる。病気にかからない、身体能力が非常に高い、容姿端麗な見た目になる…などより高みを意図的に目指せるものになる。しかし、その一方で「格差」も生じうるとも考えられる。例えばオリンピックを挙げてみる。表彰台にあがれる人々は全員ゲノム編集によって生まれた者で独占されることとなる。また、デザイナーベイビーとして生まれてきたもの同士が結ばれて、その子もデザイナーベイビーとして産まれてくる…といった循環がなされる。「優れた」人間がドンドン上へ行き、それ以外の人間が下層に取り残される。そのようなことが果たして本当の人類の発展や幸福に繋がるのだろうか。遺伝子研究は時が経つにつれ、新発見や新たな概念がうまれてくる。それによって豊かになることは確かにある。しかし、1歩間違えれば人類の発展どころか滅亡を引き起こしてしまうことも真面目に検討しなくてはならない。そのためにも遅れている法整備を速やかにしていく必要があると考える。

6.日本の発展の阻害となるもの(物言う株主と利益相反)

利益相反(会社法356条)とはある行為によって、一方の利益になると同時に、他方への不利益になる行為のことである。

この行為は一定の範囲内においては不法なものとされており、民法や法人法で規制の対象となっている。

わかりやすく言うと、依頼者からの業務依頼があった場合、中立の立場で仕事を行わなければならない人がいたとする。

その人が自分や第三者の利益を図り、依頼者の利益を損なう行為のことである。相対的無効(最判最大判昭和43年12月25日)。会社の中では無効である。だが、善意・ 無重過失の第三者(会社と関係のない者)が現れた場合、その人を保護する要請から、利益 相反取引が有効なものとして扱われる。第三者が悪意であることの立証責任は会社側にある。

計算説(直接取引における通説・判例、判断基準を誰が儲かるかとする)と名義説(間接取 引のときに該当、誰が法律行為の形式的な帰属先かという点で判断)がある。直接取引の例 は、取締役自身が会社から低い利息でお金を借りる場合が挙げられる。間接取引の例は、取 締役個人の借金を会社に背負わせる(債務引受させる)場合(∵債権者が第三者なので「直 接」取引ではない)が挙げられる。

東芝の物言う株主騒動から見受けられる背景として、低成長へのフラストレーション、すなわち変化を嫌う大企業病であったり、ベンチャーへ十分に資金が行き渡らないなどの問題が起こる。こうなってしまうと、日本の成長は著しく止まってしまう。古い価値観も大事な時があるが、どんどん新しいものを受け入れていかないと情報社会の波に飲まれてしまうことになるだろうと考える。

7.行為無価値論HandlungsUnwertと結果無価値論ErfolgsUnwert

今回のレポートでキーワードの中でも基軸となってくるのがこの行為無価値論HandlungsUnwertと結果無価値論ErfolgsUnwertの2つである。ここにある「無価値」というのは非常に分かりにくい。と言うのも、ドイツ語を直訳したためこのような形になってしまった。ただ、無価値を「違法」と置き換えて読むと理解しやすくなる。すなわち、行為無価値は「行為が違法」であり、結果無価値は「結果が違法」であるということになる。ピストルを使って人を撃って殺害した場合、人の命という法益が侵害されているため、結果が違法は明らかである。

しかし、ピストルで人を殺そうとして撃ったが、たまたまピストルに玉が入っていなかった場合どのような罪に問われるのだろうか。行為無価値で考えてみると、いくら玉が入っていなかったとしても、人を殺そうとしたその行為でアウトになってしまうので、殺人未遂が成立する。対して結果無価値で考えてみると、いくら人を殺そうとしていても実際には人が死んでいないので、不可罰となる。前者は社会秩序を尊重し、後者は法益、人権を重視するためこのような結果の差異が生じた。

8.SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)について

SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)とは、COVID-19や新型コロナウィルスと呼ばれている。これによって重症化する可能性がある急性呼吸器疾患のことをいう。2019年に中国の武漢で発生してから今日に至るまで猛威を振るい続けている。コロナウイルスに感染した人のほとんどが無症状もしくは軽い症状で済むことがあるが、中には重症化して最悪死に至るケースもある。主な症状としては、発熱・せき・息切れまたは呼吸困難・悪寒または繰り返す悪寒戦慄・疲労・筋肉痛・頭痛・のどの痛み・臭いや味を感じなくなる・鼻づまりや鼻水・吐き気または嘔吐 ・下痢などがみられる。通常、症状が現れる時期は感染してからおよそ2〜14日後ですが、最も一般的には4〜5日以内である。

COVID-19の感染者における重篤化および死亡のリスクは、年齢とともに高まるほか、喫煙している人や、がん、心臓、肺、腎臓、肝臓の病気や鎌状赤血球症、糖尿病、肥満、免疫不全症などの重篤な病気をもっている人でも高くなる。

重症化して死に至る可能性もある呼吸器疾患に加えて、以下の合併が発生する可能性がある。

9.コロナウイルスワクチンと過失論

日本は世界的にみてもワクチン開発やワクチン接種について遅れをとっている。その原因は一体何だろうか。

(1)日本の遅れる法対応

先進国の中でもとりわけ日本は保守的な考え方が根強い。というのも、過去の判例や制度に固執している部分というのがあるからだ。そこでここでは具体的に日本の遅れている法対応について挙げていく。

ア 新型コロナウイルスワクチン

厚生労働省によると感染症の時代は終わりを迎えて、今は生活習慣病の時代であるとの考えの元、政策が進められている。しかし、現在の新型コロナウイルスはそんな考えとは逆行した事態となってしまっている。そして、最近ではワクチン供給の遅れについて問題となっているが、原因は一体何なのか。

(ア) 日本におけるワクチン接種の遅れ

日本においては、1970年代の天然痘による副作用をめぐる集団訴訟があり、政府が予防接種に消極的になった事例があった。また、子宮頚がんを予防するHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンについても集団訴訟になっているため積極的な摂取をすすめていない。日本はこのようなリスクを重視してしまったためにコロナワクチン摂取の遅れを生み出してしまったのだろうと考える。

(2)予防接種禍と過失(過失論)

過失論については主にふたつに分類される。旧過失論と新過失論である。旧過失論は、�@基本的には実行行為・結果・因果関係という客観的要件があれば構成要件に該当し、主観的構成要件要素は要求されないという犯罪論体系を前提としていた。したがって、過失の有無は構成要件該当性には影響しないと解する。�Aまた、違法性の本質は客観的な法益侵害そのものであるという結果無価値をとり、故意犯も過失犯も客観的な法益侵害を生じさせたという点で違法性には何ら変わりないと解する。�Bこのように構成要件に該当し、違法性を充足した上で、責任の判断において初めて過失の有無が判断されるとする。

そして、過失の判断については結果を予見することができたのに予見しなかったという心理状態（予見可能性・予見義務違反）があれば過失が成立するとされる。新過失論は、�@基本的には、構成要件は違法・有責類型であって、構成要件に該当する以上、違法阻却事由・責任阻却事由がない限り違法・有責な行為として犯罪が成立するという犯罪論の体系を前提としている。したがって、過失の判断も構成要件の中に取り込まれることとなる。�Aまた、違法性の本質について、行為無価値論（あるいは通説的な見解である行為無価値論結果無価値論折衷説）を採るため、構成要件において行為の態様も問題とすべき、つまり社会的に相当な行為は構成要件該当性がないとすべきだと考える。�B以上を前提に、過失は構成要件・違法・責任の各段階で考えるべきであるとする。つまり、構成要件段階では主観的要素として構成要件的過失が必要であり、違法段階では違法過失が必要であり、責任段階では責任過失が必要とする（ただし、実際上、違法過失はあまり問題とならない）。そして、構成要件的過失（注意義務違反）の内容としては、具体的予見可能性を前提とした具体的予見義務違反（純粋な内心の問題）のほか、結果回避義務違反（行為的問題）もあってはじめて、構成要件的過失があるとすべきだと主張する。

具体例を挙げると、車の運転を見てみると理解できる。旧過失論に立ってみると、運転をすること自体が危険を伴うもので、歩行者等が飛び出してくる可能性が予言できた時点で過失が成立する。すなわち、車に乗っただけで過失責任が問われてしまうことになる。そこで過失が成立してしまうことになる。新過失論に立ってみると、歩行者等が飛び出してくる危険を予知するのに加えて、それを回避するために適切に操作する必要がでてくる。つまり、仮に事故を起こしてしまったとしても、事故を回避しようと努力をした結果であるならば過失が問われないということになる。

ア 損害賠償の問題

新型コロナウィルスが猛威を振るい続けている訳だが、ワクチンを接種したときの副反応で発熱をして1週間仕事が出来なかったり、コロナを発症したり、鬱になって飛び降りをしたりした時に損害賠償請求ができるかについて問題となってくる。憲法17条には国及び公共団体の賠償責任の規定がある。それを基に国家賠償法1条が規定されている。これは国又は公共団体が違法でかつ有過失のときに請求ができる。対して憲法29条3項には補償の規定がある。これは合法で有過失・無過失に請求できるものである。ただ、違法で無過失の場合は憲法17条・国家賠償法1条と憲法29条3項のどれにも当たることがない。つまり、ここにあるどの法律でも救うことが出来ない。そこで、賠償の範囲(憲法17条)を広げたり補償の範囲(憲法29条3項)の範囲を広げたりと対処している。ただ、根拠とする過失論によって幅が大きく変動してしまうので、他のところで修正をかける。加害者を有利にするものとして合義務的な択一的挙動や許された過失、信頼の原則が挙げられる。逆に被害者の側を有利にするものとして、証明責任の転換や間接反証(新潟水俣病訴訟(新潟地 判昭和46年9月29日))が挙げられる。

イ 認知症の人に対する損害賠償問題

認知症の人が他人に加害を加えた場合本人に損害賠償を請求できるのか、またその家族に請求することができるのかが問題になる。民法709条の不法行為による損害賠償の規定がある。ただし、民法713条には「精神上の障害」を持ったものは賠償の責任を負わないとある。これによると認知症の加害者には損害賠償が請求できないことになると考えられる。ただ、これだと被害者があまりにも酷な状態になってしまう。そこで、民法714条を使ってその家族に損害賠償を請求することができると考えられる。

ちなみに、離婚(民法770条)については、統合失調症は離婚請求ができて、認知症は離婚請求できない。この2つの病気はともに発生のメカニズムが分かっていないのにも関わらず、このような差異が生じてしまうのはどうも納得がいかない。

10.石原莞爾の「最終戦争論」と現在の世界情勢

現在の世界情勢を考察するにあたって、大変興味深いものがある。それは、石原莞爾の「最終戦争論」である。この思想を紐解いていくと現在の米中対立の発生が必然的であったことが見えてくる。

(1)石原莞爾とは

石原は1889年1月18日に山形県鶴岡市に生まれる。父石原啓介は警察官である。1915年には陸軍大学校に入学。陸軍大学校創設以来かつてない頭脳の持ち主といわれ、三年後には次席で卒業する。歩兵連隊中隊長、陸軍大学教官などを経てドイツに駐在し、軍人としてのキャリアを積み上げていく。この前後に日蓮宗系の国柱会に入会しているが、この日蓮宗の教えが彼の後の思想に大きく影響している。

石原がその特異な才能を発揮するのは、満州事変からである。

後述するように石原は満蒙領有の構想が示したが、結局は陸軍中央、関東軍内部との調整の結果、満州国家を独立させる方針を採ることになるが、1931年の柳条湖事件を機に満州事変が始まる。兵力は関東軍１万人に対し中国軍は２５万人（別の資料によれば、公安隊を含め４５万人）と、圧倒的に不利な状況であった。また装備も自動小銃など中国軍の方が良いものが多かったにもかかわらず、たった５ヵ月で満州全域を占領、翌年３月１日には「満州国」を建国した。これは、第２次世界大戦における、ドイツの電撃作戦（対ポーランド・フランス）に匹敵する戦果であったため、作戦の立案・実施を行った石原は「戦争の天才」と称されようになったのであるが、この戦勝をきっかけとして石原の思惑とは裏腹に、日本は中国軍の実力を極端に軽視し、戦火を拡大する方向に傾いていく。

1937年７月７日の北京西南の盧溝橋で起った日本軍と中国軍との一軍事衝突は、華北地方に拡がり、更には上海・南京へと飛び火して、全面戦争へと拡大していった。この時、参謀本部作戦部長であった石原は戦線が泥沼化することを予見して不拡大方針を唱え軍部中枢と対立し、さらには後に参謀長の東条英機との確執から予備役に回されることとなる。対ソ戦を最優先に考えると今中国と戦争するのは得策ではない、また来るべき最終戦争では東亜の一員である中国とも協力してアメリカと対抗しなければならない、と考えていたからである。しかしながら、現地の部隊にも国内の陸軍中央にも強硬派が多数を占めていた。満州事変が５ヵ月で終わった経験から、中国全土を支配するのも短期間で済むだろうという楽観的な考えが支配的だったのである。やがて石原は不拡大方針を引き下げるしかなく、本格戦争へと発展していったのである。

戦後は東条との対立が有利に働き、極東軍事裁判においては戦犯の指名を受けず、東亜連盟結成に奔走しながらマッカーサーやトルーマンを批判した。東亜連盟の構想は、戦後の右翼思想に大きな影響を与え、また中国や韓国にも支持者が多くあったといわれている。

その後立命館大学で国防学の教鞭をとったが、後に山形県に隠居し、1949年8月15日の終戦の日に没した。

(2)石原の思想から見えてくる現在の世界情勢

石原の代表的な思想としては言うまでもなく「最終戦争論」が挙げられる。石原は、この最終戦争論のなかで、近代技術文明の発達に伴って軍事力を及ぼしうる範囲と武器の力が増大し続けている、というダイナミズムに注目した。同時に、彼は人類の歴史とは抗争の歴史であると位置づけ、このようにして軍事力が増大していく以上世界のどこかで強力な国が出現し、他を圧倒するようになっていくだろうと予測した。そして、彼にとって第一次世界大戦はこの流れの中で必然的に起こったものであり、しかしながらその結果の不徹底のため、やがてそれを上回る世界規模の大戦争が起こると予言したのだ。戦争発達の極限に達するこの決戦戦争をもって戦争がなくなるのであり、それは決して人間の英知などによるものではなく、そもそも人間の持つ闘争心はなくならないと主張している。世界平和という理想を唱えながら、それを実現させていく人間は必ずしも理想的な生き物ではないと捉えているのだ。

ただ、このような考えは当時の世界では一般的に考えられていた。しかし、石原の最終戦争論のユニークな所として第一次世界大戦の次の大戦、すなわち大東亜戦争、が「準決勝」であると考えたことにある。石原は当時の国際情勢を見て、いまだ最終戦争にいたるまでは煮詰まっていないと考えていた。ヨーロッパとアジアには大きな隔たりがあり、それぞれにおける覇権も定まっていないため「決勝戦」にはまだいたらないと考えたのである。

第二次世界大戦当時、世界は3つの価値観があった。1つ目に民主主義、2つ目に全体主義、3つ目に共産主義である。この時、アメリカや欧米などの民主主義国(連合国)＋ソ連を中心とする共産主義国対ナチス・ドイツ、イタリア、日本の全体主義国(枢軸国)の構図であった。結果はご存知の通り枢軸国側の敗退、すなわち、全体主義という価値観が否定されることとなった。第二次世界大戦が「準決勝」ということは「決勝戦」と言われる対戦が今後行われうる可能性を示唆している。つまり、自由主義対共産主義で「決勝戦」が行われることとなる。石原は当時ヨーロッパとアジアに大きな隔たりがあり、覇権も定まっていないから「決勝戦」が行われないとしていた。

しかし、現在の情勢を見てみると、第二次世界大戦をきっかけとして自由主義国筆頭、そして覇権国としてアメリカが確固たる地位を収める事に成功をした。そして、中国が急速に経済成長をし、領土の拡大(尖閣問題、台湾侵攻、東シナ海問題等)を目論んでいる。民主集中制(共産主義)の親玉、また超大国としてアジアでの存在感が一気に増してきた。このような姿勢はアメリカに対して世界の覇権を奪おうとする意志の表れであると考えられる。実際、コロナ禍において中国は被害も抑えられ、経済復興もいち早く行うことが出来た。他方でアメリカはコロナでの死者数が世界1位となり、GDPの伸びも著しく減少傾向にある。あらゆる要素を鑑みて自由主義のアメリカと民主集中制(共産主義)の中国が衝突することは想像に難くない。つまり、この2国、2つの価値観でもって今後「決勝戦」が勃発するのではないかと見ることが出来る。この「決勝戦」が行われることによって、世界の価値観が1つに統一される可能性も捨てきれない。目まぐるしく変わっていく世界をより注視して、敏感に対応して行かなくてはならない。そうでなければ1人だけ置いてきぼりにされてしまうからである。

11.民主政治と民主集中制(民主集中制と哲人政治［プラトン］)の歴史

前述の通り、現在世界では民主主義(民主政治)と社会主義(民主集中制)のふたつがある。

民主政治の国はアメリカを中心として日本、マレーシア、シンガポールなどが採用している政治形態である。対して、民主集中制は中国を中心として、ラオス、ベトナム、カンボジアなどが採用している政治形態である。

民主政治とは民主主義（みんしゅしゅぎ、英: democracy、デモクラシー）または民主制（みんしゅせい）とは、国民から選出された議員や、政府が主権を持ち行使する政治体制を指す。近代では、市民革命により一般化した政治の形態・原理・運動・思想で、民主主義に基づく社会は「市民社会」、「ブルジョア社会」、「近代社会」などと呼ばれる。このような考え方はロックの『社会契約論』や法の精神(モンテスキュー)に影響されている。

民主集中制とは民主集中制（みんしゅしゅうちゅうせい、英語: democratic centralism）とは、民主主義的中央集権主義の略で、ロシア社会民主労働党が採用した党組織の原則。のちにコミンテルンの加盟政党に普及するとともに、ソ連や中国において国家組織の原則へと拡張された。この考え方の起源を辿ってみると、プラトンの哲人政治まで行き着く。プラトンの師であるソクラテスが民衆によって死刑にされてしまった事に怒りを覚えて、民主政治を衆愚政治と称し独裁制により強大な権力を1人の哲人王に集中させて政治を運営していく哲人政治を提唱した。

12.中国の野望

新型コロナウィルス対策で中国は民主集中制の特性を活かし被害を最小にすることができた。世界各国が停滞している中で中国のGDPの伸び率が上昇している。10年程でアメリカのGDPを追い抜くという説もあるほどに勢いが凄まじい。当然そうなると覇権国であるアメリカに挑戦することも容易に考えられる。

そこで、中国の野望をみていく。

(1)中台統一と一帯一路

ア 一帯一路

一帯一路構想は習近平氏が2013年に初めて打ち出した構想のことである。陸路と海上航路でつなぐ物資ルートをつくって貿易を活発化させ、経済成長につなげようとするものである。大昔、中国とヨーロッパをつないだ「シルクロード」の現代版であると中国は大々的に宣伝している。この一帯一路に関連して、中国の借金漬け外交の問題もみられる。中国は主に発展途上国を狙い空港や港などを作り、借金が返せなかったらそこの施設を中国資本が年数を決めて運営することをしている。これは事実上の植民地支配であり、かつて中国が欧米列強にされていたことをそのまま発展途上国にしているともとれる。当然西洋諸国を中心に中国の動きに懸念を示している。

イ 中台統一

中台統一は中国の悲願とも言える内容である。習近平氏は党創立100周年式典にて「台湾統一は歴史的任務」だと発言した。最近は香港が国家安全維持法施行以来、香港の人々の自由が脅かされ続けている。香港の次は台湾であることは目に見えている。台湾に侵攻してくるということは、尖閣問題も絡んでくる。と言うのも、台湾は尖閣を自身のものだと主張しているためである。そして、中国は台湾を自国のものと言っている。すなわち、尖閣諸島は中国のものという式ができあがる。こうなってくると日本も無関係という訳にはいかない。十分に対策をねらないと台湾どころか日本の主権も脅かされかねない。

ウ 誤想防衛と対物防衛

まずこれらを語る前に正当防衛と緊急避難について説明していく。正当防衛は「急迫不正の侵害」、切迫した場合に限って認められる(刑法36条1項、正対不正、犯罪の成立が緩い)。緊急避難は「現在の危難」は不正であることを要さない(刑法37条1項本文、正対正、犯罪の成立が厳しい)。また、どちらにも「やむを得ずした行為」の文言があるが正当防衛については防衛行為の必要性と相当性を必要とする。対して緊急避難についてはこれに加えて避難行為の補充性を必要とする。

正当防衛の度が過ぎると過剰防衛になる。相手を殴るという故意はあるため傷害罪になるが、情状によって刑の減軽又は免除ができる(刑法36条2項)。また、明確な規定はないが、急迫不正の侵害がないのに勘違いして反撃した場合の誤想防衛がある。本人は自分の行為が正当防衛として許されると思っているので、故意が阻却され、犯罪が成立しない(構成要件事実に錯誤あり)。そして、誤想防衛と過剰防衛を併せ持った誤想過剰防衛がある。有名な事件として、「勘違い騎士道事件」があるが、前述した行為無価値と結果無価値のいずれかに立つことによって犯罪の要件が変わってくる。これに加えて、対物防衛についても立場によって変化をしてしまう。犬が自分を攻撃してきた場合、正当防衛になるか緊急避難になるかの争点がある。民法720条2項には対物防衛の規定がある。ここでは緊急避難が成立することになる。ただ、問題は刑法だと、結果無価値の立場であれば緊急避難で変わりないのだか、行為無価値だと正当防衛になる所である。

エ 不戦条約と集団的自衛権

不戦条約の歴史を紐解いていくと、第一次世界大戦まで遡ることができる。不戦条約は侵略戦争を否定したものとなっている(1条、2条)。そして、第二次世界大戦になってきて、自衛権の存在も重要視されるようになった。ちなみに自衛権は正当防衛の国際バージョンである。中国の台湾侵攻を例にしてみると、台湾攻略のために尖閣諸島を攻撃してきた場合に日本はどのような対応をすれば良いのか。現在の国際法においては国家による武力行使は原則禁止となっている(国際連合憲章2条4項)。ただし、国際連合憲章51条には個別的自衛権と集団的自衛権の規定がされている。すなわち、他国からの武力攻撃に対して、実力を持ってこれを阻止・排除することができる。確かに、国連憲章33条に見られるように平和的解決の義務があるのは分かるし、必要なことではあると考えるが、中国はそんな呑気なことを言っているスキにどんどん侵略を進めていく危険性がある。現に香港の例にもあるように、世界が中国に懸念を表明している間に香港を攻略してしまった。もし仮に台湾が統一されてしまったら次に狙われるのは間違いなく日本(沖縄)である。そうならないようにするためにも尖閣諸島が狙われた時には武力でもって反撃するのがベストだと考える。この場合、自分としては過剰防衛にもならないとも考える。

なお、侵略戦争の禁止に関連して日本の憲法9条問題も見ておく必要がある。現在の9条の解釈では侵略戦争は禁止しているが、自衛のための戦争は可能としている。しかし、あくまで「解釈」であるので、やはりここは曖昧にしないようにしっかりと明文化する必要があると考える。

13.まとめ

このように、情報社会では年を重ねるに連れて技術が急激に成長をしていくことが予測される。しかし、法整備はそんな社会の流れに追いつくことが出来ていない状態にあると考えられる。とりわけ日本はその傾向が顕著に現れている。新型コロナウイルスは現代版の黒船と言われたように、日本、そして世界は大変革の直前に立たされている。いつまでも古い価値観をもっていたらこの世界で生き残る術を失ってしまう可能性がある。迅速かつ柔軟に変化に対応して行く必要があると考える。

〇参照・引用

・中江先生の板書、資料

・勉強会の板書

・『警察官のためのわかりやすい刑法』佐々木知子

・Wikipedia

・シンギュラリティって何？今さら聞けないキーワード！」https://job.mynavi.jp/career_tanq/articles/?id=145

・農林水産省 「カルタヘナ法とは」 https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/carta/about/

・コロナウイルスと急性呼吸器症候群【COVID-19、MERS、SARS】https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/16-%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87/%E5%91%BC%E5%90%B8%E5%99%A8%E7%B3%BB%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9/%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%81%A8%E6%80%A5%E6%80%A7%E5%91%BC%E5%90%B8%E5%99%A8%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4-covid-19-mers-sars

・松下政経塾 https://www.mskj.or.jp/report/2803.html

・１からわかる！中国「一帯一路」【上】それってなに？ https://www3.nhk.or.jp/news/special/news_seminar/jiji/jiji22/

・『正当防衛論の基礎』橋爪隆

・コトバンク 不戦条約 https://kotobank.jp/word/%E4%B8%8D%E6%88%A6%E6%9D%A1%E7%B4%84-124847

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柴田悠翔

進化し続ける情報社会で、私達も法も時代に合った形に変化し続ける必要がある

1，代理と利益相反

利益相反に関する近時の事案として東芝問題が挙げられる。事案の概要としては、不祥事や経営不振によって苦しい状況に陥っていた東芝が、外国人株主など外部の株主から資本を調達したことで外国人、特に物言う株主が大半を占める構成となっていた。この物言う株主により株主総会の運営や会社の経営が不安定になるのを危惧した東芝は、株主らに圧力をかけて排除しようとしたが、その企みが臨時株主総会での株主の提案可決によって暴かれ問題となったというものである。

そもそも物言う株主というのは、株主としての権利を行使し、企業価値が向上するよう経営の見直しを求める投資家を指す。大量に取得した株式を基に、積極的に経営改革を迫ることも多く、東芝問題について見ればエフィッシモ・キャピタル・マネジメントやＣＶＣキャピタル・パートナーズがこの物言う株主に当てはまる。

(1)物言う株主と利益相反

今回の東芝問題は利益相反に当たると言えるだろうか。これについて私は、利益相反に当たらないと考える。

利益相反に関して条文では、取締役がその地位を利用し、会社利益を犠牲にして、自己または第三者の利益を図ることを防止するため、利益相反取引を行う場合には、株主総会において、その取引について重要な事実を開示して、その承認を受けなければならないとしている(会社法３５６条１項)。

問題となった当時東芝の社長であった車谷氏は、過去にＣＶＣキャピタル・パートナーズの日本法人の会長を務めていたこともあり、そのＣＶＣから東芝に対して買収提案がなされたことで実質的な助け船ではないのかという意見もあり問題があるようにも感じるが、この行為に自己利害のための優遇や東芝の企業価値を毀損するような事実があったとは言えないため、不正な行為であったとは言えず、利益相反にも当たらないというのが私の考えである。

なお、このような東芝の物言う株主の問題の背景には、低成長へのフラストレーション、さらに言えば低成長の原因として変化を嫌いベンチャー企業に資金を回さなかったことが挙げられる。

(2)司法権の限界

すべて司法権は裁判所に帰属する（第７６条１項）が、法律上の解釈等の理由から裁判所の審査が及ばないとされる領域が存在し、これを司法権の限界という。この司法権の限界に関する考えとして部分社会論と統治行為論が挙げられる。

部分社会論とは、団体内部の紛争については、その内部規律の問題にとどまっている限りは団体自治を尊重すべきであり、司法審査が及ばないとするものである。部分社会論に関する判例として共産党袴田事件が挙げられる。本事案では除名処分という政党の内部審査が司法審査に馴染むかが争点となったが、判決では除名処分が内部的な問題にとどまる限りは裁判所の審判権が及ばないとした。

これに対して統治行為論は、国家統治の基本に関する高度な政治性を有する国家の行為について、その高度の政治性ゆえに司法審査の対象にはならないとするものである。この統治行為論に関する判例として砂川事件が挙げられる。本事案では日米安全保障条約の憲法適合性が争点となったが、判決では日米安全保障条約の高度な政治性を理由に極めて明白でない限りは裁判所が法的判断を下すことはできないとした。

２， 精神障害と法

不法行為をした者はその被害者に対して不法行為責任を負う(民法７０９条)が、その不法行為をした者が心神喪失状態にあった場合は責任を負わないとされている(民法７１３条)。しかしこれでは被害者が一方的に不利益を受けることになってしまうため、被害者の救済と加害者側の事情のバランスを取ることが重要となる。ここでは、精神障害の中でも認知症に焦点を当てて民法との関係について論じる。

(１)不法行為責任の所在

認知症患者が他人に対し損害を負わせた場合において問題となるのは、�@本人が責任を負うか、�A認知症患者の家族に請求できるか、の２点である。

�@については、前述の７１３条の通り、本人は責任を負わない。ただし、心神喪失状態が本人の故意または過失によって引き起こされた場合は本人が責任を負う(民法７１３条但書)。

�Aについては、認知症患者が７１３条により責任を負わない場合は、その監督義務者が責任を負う(民法７１４条)ため、認知症患者の家族への請求は可能である。

これらの条文に関する判例としてＪＲ東海認知症患者轢死事件が挙げられる。事件の概要としては、認知症患者Ａが線路に立入り走行してきた列車にはねられて死亡し、ＪＲ東海がＡの妻と長男に対して、振替輸送費等の損害賠償を請求する訴訟を提起したというものであり、判決では、Ａが重度の認知症患者あったことを理由に、７１３条により損害賠償責任を負担することはないとし、Ａの妻と長男に対する監督義務者としての責任についても、妻が高齢であったことや長男がＡと同居していなかった事実を踏まえて両者ともに７１４条には該当せず、監督義務者としての責任を負わないとした。本判決は認知症患者を介護する家族らの現実を踏まえており、全面的に同意である。

(２)認知症を理由とした離婚の訴え

裁判上の離婚において、配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないときは離婚の訴えを提起することができる(民法７７０条１項４号)が、ここでは認知症が条文上の「強度の精神病」に当てはまるかが問題となる。これについて判例は、配偶者が認知症であることを理由とした離婚の訴えを認めていないが、このような判決に対して、私は同条の定める範囲を拡大すべきだと考える。認知症は最先端の医療技術をもってしてもなお未解明な部分が多く、罹患者も多い病気である。罹患者が多いと言うことはそれを支えている人も多くいるわけであるから、より多くの人を救えるようにするためにも範囲の拡大が必要だと私は考える。

3，行為無価値論HandlungsUnwertと結果無価値論EfrolgsUnwert

刑法における違法性に関して、行為無価値論HandlungsUnwertと結果無価値論EfrolgsUnwertという考えがある。前者は倫理違反を刑の本質とし、行為自体に違法性があったかを重視するというものである。これに対して後者は法益侵害を刑の本質とし、行為の結果を重視するというものである。両者を踏まえた上で私は行為無価値論を推す。以降の考え等においても私が行為無価値論の立場を取っているという前提で論じていく。

ピストルで人を狙って撃ったが弾が完全に外れたというケースにおいて、結果無価値的な考えでは実際には弾が命中しておらず結果が発生していないため犯罪の成立には至らないが、行為無価値的な考えであれば結果が発生していなくてもピストルで人を狙って撃ったという行為が違法なものであったと評価され未遂犯として処罰することができる。このように行為無価値論は未遂犯においてより広い範囲で処罰できるため私は行為無価値論を推す。

(1)正当防衛等との関係

誤想防衛と対物防衛等において両無価値論が取る立場についてまとめると以下のようになる。

	行為無価値	結果無価値
対物防衛	不成立 (緊急避難によって救済)	成立
防衛の意思	必要	不要
偶然防衛	不成立	成立
誤想防衛	故意犯 法律の錯誤 厳格責任説	過失犯 事実の錯誤 制限責任説
正当防衛の要件	厳しい (緊急避難はより要件が厳しい)	緩やか

対物防衛に対して、行為無価値では「不正」は人による行為であるとしているため不成立となり、その代わりとして緊急避難が一応は許されている。一方で結果無価値では「不正」は客観的侵害状況であるとしているため成立する。

誤想防衛に対して、行為無価値では法律の錯誤によって故意を阻却することはできない(刑法３８条３項)ため故意犯として扱う。一方結果無価値では、事実の錯誤は原則として故意を阻却できる(刑法３８条１項)ため、過失犯として扱う必要がある。

では誤想過剰防衛は故意犯と過失犯のどちらで扱うのが妥当であるだろうか。これに対して私は誤想過剰防衛を故意犯として扱うべきであると考える。そもそも誤想過剰防衛というのは誤想があったという前提の上でさらに過剰であった場合のことであるため、誤想防衛と同様に扱うべきであると私は考える。そうした場合誤想防衛は行為無価値の観点からは故意犯として扱うため、誤想過剰防衛についてもこれと同様に扱ってよいというのが私の見解である。

誤想過剰防衛に関する判例として勘違い騎士道事件が挙げられる。事件の概要としては、酒に酔っ払ったＡ女をＢ男が介抱しているのを見て、Ｂ男がＡ女に暴力を振るったのだと勘違いした空手有段者の外国人ＸがＢ男に回し蹴りをして傷害を負わせ、その結果Ｂ男を死亡させたというものであり、判決は誤想を認めつつも、回し蹴りという行為が明らかに防衛の程度を超えたものであったことから誤想過剰防衛で故意犯が成立するとした上で、傷害致死罪の成立を認めた。前述の通り私は誤想過剰防衛を故意犯として扱うべきであると考えているため、本判決に全面的に同意である。

また、過剰防衛は情状により刑の軽減又は免除ができる(刑法３６条２項)が、誤想過剰防衛においても同条は適用されるのだろうか。これについて私は減免が認められないと考える。その根拠は、過剰防衛は不正な侵害に対する防衛行為であるから違法性は減少するという違法減少説の考えにある。これを誤想過剰防衛に置き換えて考えた場合、実際には急迫不正の侵害が存在しないため違法性は減少せず刑の減免も認められないというのが私の見解である。

(2)過失論との関係

過失と両無価値論との関係についてまとめると以下のようになる。

	行為無価値	結果無価値
悪の本質	倫理違反 主観基軸	法益侵害 客観基軸
法の目的	社会秩序の尊重	人権保障
過失とは	結果回避義務違反	結果予見義務違反
過失理論	社会と共に変化すべき 新過失論 　　→危惧感説	変化してはいけない 旧過失論一本
違法性過失の救済	過失の範囲を拡大	過失の範囲を容易に変えてはいけない
リスク対応	防災 リスクをゼロにできる	減災 リスクをゼロにはできない

過失の有無を判断するに当たって、行為無価値では新過失論を採用しており、予見できた損害を回避すべき義務があったかを基準としている。この義務を怠ったために事故などが生じた場合は、結果回避義務違反として過失責任を問われる。一方行為無価値では旧過失論を採用しており、結果の発生を認識・予見すべき義務があったかを基準としている。なお行為無価値に関しては、過失を認める前提として必要な結果発生の客観的予見可能性が具体的なものでなくともよく，危険を絶無として無視できない程度の不安感があれば足りるとする新新過失論(危惧感説)も近年唱えられている。こうした新たな理論が生まれるのは、過失理論は社会と共に変化すべきであるという行為無価値の考えが根底にあるためである。

国家補償において、国の行為が適法であった場合には過失の有無に関わらず憲法２９条２項の損失補償によって、違法で有過失であった場合には憲法１７条の国家賠償請求によってそれぞれ保障されているが、違法で無過失であった場合にはこのような救済規定が憲法で設けられておらず国家補償が及ばない。国家補償の谷間ともよばれるこの部分における救済手段として、行為無価値の立場から過失の範囲を拡大すべきであると私は考える。具体的には、違法で無過失な行為に対して結果回避義務、またその違反があったとし、行為に過失があったことを認め違法で有過失な行為であったとして損害賠償請求を可能にするという手段である

(３)予防接種禍と過失

現在日本国内ではSARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)のワクチン接種が進んでいる。私はまだ接種していないので分からないが、ワクチン接種をした人の中には接種後に発熱等の副反応を起こす人もいるという。なおワクチン接種後の副反応が実際にあるかについては、厚生労働省のホームページでも生じることがあると記載されているため争いがないものとする。では、ワクチン接種後に何らかの不利益を被るようなことがあった場合、そのことを理由に損害賠償請求をすることは可能であるだろうか。以下では、�@ワクチン接種後発熱を起こしたため学校に試験を受けに行くことができず単位を落とした、�Aワクチン接種後にSARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)に感染した、�B事前にモデルナ製のワクチンを打つと告知されていたのに実際にはアストラゼネカ製のワクチンを打たれた、という３つのケースにおいて、ワクチン接種という行為に過失があったとして損害賠償請求することは可能であるかについて私の立場を明らかにしていく。

まず�@と�Aについて、損害賠償請求はできないと私は考える。このように考えるのは、ワクチンを接種したことと発熱・SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)発症との因果関係を確実に証明することがほぼ不可能であるためである。責任追及をするためには「間違いなく〜である」と断言できる事実が必要であるが、�@についても�Aについても、どこで、何が原因で発症したかを明らかにするのは非常に困難である。それに加えて今回のSARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)のワクチン接種はあくまでも任意接種であるため、ワクチン接種に過失があったとして損害賠償請求することはできないというのが私の見解である。一方�Bについては損害賠償請求できると考える。被保険者は保険者に対し重要な事項を告げなければならない義務を有する(保険法３７条)と規定されているが、今回のケースにおいてもこの条文が適用されると考える。そうした場合、どのワクチンを打つかというのは重要な事項であると評価でき、以前告知したものとは異なる種類のワクチンを打つとなったときに、それを接種時に告知しなかったのであれば告知義務違反があったとして損害賠償ができるというのが私の見解である。

４，民主政治と民主集中制

古代ギリシャ時代から現在に至るまで用いられている政治体制に民主政治と民主集中制というものがある。以下では両者についてまとめた上で私の取る立場・見解を明らかにしていく。

(1)民主政治と法の精神(モンテスキュー)

民主政治を代表する考えの１つとしてモンテスキューの法の精神が挙げられる。モンテスキューは司法・立法・行政の三権をそれぞれ独立させ、互いに監視し合うことで政治的自由を守ることが望ましいとした。いわゆる三権分立の考え方で、日本やアメリカ、フィリピンはこの民主政治を採っている。

(2)民主集中制と哲人政治(プラトン)

一方民主集中制を代表する考えとしてはプラトンの哲人政治が挙げられる。哲人政治の最大の特徴は独裁制であることである。１人の為政者に強大な権力を付与することで速やかな意思決定を可能にしている。また、その為政者には哲学を学んだ賢人・哲人を就かせることで私心なき統治を行わせようとしており、中国やベトナム、ラオスはこの民主集中制を採っている。

両者の考えを踏まえた上で私は民主政治を推す。ただし、民主政治が民主集中制より完全に優れていると考えているわけではなく、どちらの考えにも優れた点があるとした上で民主政治を推すという意味である。

前述のように民主集中制にも優れた点があり、それは今回のコロナ禍での中国の対応にも明瞭に出ていた。中国はコロナ感染の水際対策として堂々と門戸を閉ざし、コロナ感染の抑制策として人民に対する監視体制を強化した。これにより中国は世界の主要国のどの国よりも早くコロナ感染の抑制に成功した。このことは経済成長にも現れており、２０２０年、世界の主要国が軒並みマイナス成長を喫したなかで、中国経済だけは２．3%とプラス成長を実現した。２０２１年第１四半期、中国経済はさらに18.3%も成長した。

しかし、それでも私が民主政治を推すのは、民主集中制と哲人政治(プラトン)下での独裁体制に対する抑止力が存在しないことへの懸念からである。確かに政治的指導者として上に立つ者が、プラトンの言う賢人・哲人といった優秀な者であれば、より素早く正確な判断が可能であり、基本的には国を正しい方向へと導いていけるであろう。しかし、そのような賢人・哲人も人間である以上間違わないとは限らず、もし間違ってしまった時にそれを止めることができる周りの存在がやはり必要であると私は考えるため、民主集中制を推すことはできない。

５，国際紛争とその解決

グローバル化が進むことによってもたらされるものは必ずしも良いことばかりではない。それまで起こり得なかった、国を超えた個人間の紛争や時には国家間での大規模な紛争も起こりうるようになった。しかし、だからといってグローバル化を拒もうというわけでは決してなく、変化を受け入れた上でそのような紛争の解決に努めることが必要であると考える。以下では日本と中国・台湾との領土問題、特に尖閣諸島問題に焦点を当てて論じていく。

(１)中台統一と一帯一路

尖閣諸島は日本が実効支配していると一般的に解されているが、台湾は尖閣諸島について台湾固有の領土であると主張している。一方で中国は台湾について中国の一部であると主張している。つまり中国が台湾を取り込み統一がなされたら尖閣諸島は中国のものであると言えてしまい、中台統一によって日本の領土が失われる恐れがあるのである。

また、近年中国は貿易の活発化とそれによる経済促進を目的とした、陸路と海路から成る物流ルートを作った。一帯一路構想ともよばれるこの取り組みには多くの国や地域が参加しているが、問題となっているのが借金国への貸し付けである。資金繰りの厳しい国々に不良債権を抱えさせ、返済できなくなった国に対しては軍港を設置するなどして勢力を拡大しているのである。現在日本はこの一帯一路に参加していないが、私も一帯一路には参加すべきでないと考える。理由としては、現在日本は既に莫大な借金を抱えており、そこにつけ込まれる危険性があるためである。もし中国から貸し付けを受けるようなことになれば、それによって中国に対する日本の立場も弱くなることが懸念されるため、一帯一路には参加すべきではないというのが私の見解である。

(２)不戦条約と集団的自衛権

国家規模での緊急行為をどのように扱うべきであろうか。ここでは中国が台湾へ侵攻しているというケースにおいて、日本は自衛権の行使が可能であるかについて論じる。

まず自衛権の行使について、条文では国連加盟国への武力攻撃が起きた場合、国際平和と安全の維持に主要な責任を負う安全保障理事会が必要な措置を取るまでの間、個別的または集団的自衛の固有の権利を認めるとしている(国際連合憲章５１条)。しかし、ここで問題となるのが憲法９条との関係である。我が国は憲法９条で戦争の放棄と戦力不保持を定めているため、自衛権の行使がこれに抵触するのではないかという争いがある。これについて私は、平時においては自衛権の行使を認めない

とした上で、今回のケースのような自国の領土の所有が危ぶまれるような緊急事態下においてはこの限りではない、つまり憲法９条に抵触しないと考える。

これらを踏まえた上で私は個別的自衛権を行使できると考える。中国による台湾への侵攻というのは歴史的な背景からも侵略行為と評価することができ、また、前述の通り中国の台湾侵攻により尖閣諸島という日本固有の領土の所有が脅かされることから、日本の領土を守るという名目の下個別的自衛権を用いて中国に対抗できるというのが私の見解である。

６，これからの社会(まとめ)

現在私達の生きる情報社会の成長というものは本当にめざましい。10年前には存在しなかった技術もたくさん生まれているし、おそらく10年後には現在存在しない技術もたくさん生まれているだろう。そのようなめまぐるしく変わり続ける情報社会で私達に求められていることは「変化し続けること」である。その時代に合った形に、私達も、法もアップデートし続けることでより良い社会を作っていけるのではないかと私は考える。

参考文献

https://www.mag2.com/p/money/1067793/2

https://www.kigyou-houmu.com/post-3260/

https://www.cfiec.jp/2021/0039-karyu/

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_hukuhannou-utagai-houkoku.html

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田澤勇斗

情報社会における正義

法学部法律学科3年生（学籍番号：19J106024）

田澤　勇斗

結論：

　情報社会における正義とは、より自由で創造的な未来の開拓、物理的制約にとらわれない自己実現を誰もが成し遂げられる社会を目指す一方で、格差が広がる社会において、これまでの法が大切にしてきた「個人の尊重」という基本的原理を重く受け止め、社会的弱者に対する配慮を忘れないことをいう。

�T．認知症

（�@）前書き

　情報社会においては、認知症患者は情報弱者の立場に置かれやすい。したがって、認知症患者をいかに保護するかが問題となる。そこで、認知症とはそもそも何なのかを明らかにし、認知症患者を取り巻く法律関係を明らかにしていく必要がある。

（�A）認知症について

　　厚生労働省によれば、認知症とは、「脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態」を言うとされている。認知症の症状としては、記憶力・理解力・判断力の低下や日常生活へ支障をきたすことなどが挙げられる。

（�B）認知症と意思能力

　民法第3条の2によれば「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」とされているから、認知症患者の法律関係を知るにはまず、その意思能力について明らかにしなければならない。

　『法律学小辞典』によると、意思能力とは「法律関係を発生・変更させる意思を形成し、それを行為の形で外部に発表して結果を判断、予測できる知的能力」と記されている。意思能力は一般に、10歳未満の幼児や精神障害者、泥酔者は有しないとみなされる。では、認知症患者が意思能力を有するか否かはどのように判断されるのだろうか。日本神経学会の『認知症疾患診断ガイドライン2017』によると、意思能力は�@機能的能力、�Aキャパシティ、�Bコンピテンスの3層構造になっているという。このうち、機能的能力とキャパシティは医師によって判断され、コンピテンスは裁判官によって判断される。すなわち、意思能力の有無は専門家の意見を踏まえながらも、最終的には裁判官が決定することとなる。

（�C）認知症と行為能力

　では、認知症患者を法的に保護するためにはどうすればよいだろうか。その方法の一つとして、行為能力に制限をかけることが考えられる。『法律学小辞典』によると、行為能力とは「法律行為を単独で有効にすることができる法律上の地位あるいは資格」と記されている。前述の通り、意思能力の有無を判断するには、その人の個別的な事情を考慮しなければならない。これは、認知症患者にとっても立証するのが大変であるし、取引相手にとっても判断することが難しく、不安定である。そこで、形式的に判断できるようにしたものが行為能力である。その類型には４つあるが、認知症患者の場合、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状況にある者」に適用される成年被後見人、「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」に適用される被保佐人、「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者」に適用される被補助人として審判を受けることが考えられる。

　情報化社会においては、情報弱者に置かれやすい認知症患者を保護していく必要がある。意思能力では必ずしも十分に保護されるとは限らない認知症患者を確実に保護するためには、積極的に行為能力に制限をかけることを検討すべきだろう。

（�D）認知症と責任能力

（1）認知症患者本人

　　『法律学小辞典』によると、「不法行為責任を負担するのに要求される精神的な判断能力」と記されている。民法７０９条には「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と記されている。では、重度の認知症患者の場合どうなるか。713条には「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。」と記されている。今、重度の認知症は「精神上の障害」に該当するため、不法行為の責任能力を負わない。

（2）認知症患者の家族

　では、認知症患者が事故を起こした場合、その家族の責任はどのようになるのだろうか。714条1項を見てみると「責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」とある。これについて、最高裁平成28年3月1日第三小法廷判決（JR東海事件）を題材にして考える。この事件では、重度の認知症患者が線路内に立ち入り、列車の遅延を発生させた。当患者の妻と長男に責任を問えるだろうか。

　ここでの論点は、認知症患者の家族は714条が定める精神障害者の法廷監督義務者に該当するかどうかである。最高裁はそれを次のように否定した。「法廷の監督義務者に該当しないものであっても、責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし、第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力の監督を現に行いその太陽が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には、衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視してその者に対し民法714条に基づく損害賠償責任を問うことができる」としたうえで、「法廷の監督義務者に準ずべきものに当たるか否かは、そのもの自身の生活状況や心身の状況などとともに、精神障害者との親族関係の有無・濃淡、同居の有無その他の日常的な生活状況や心身の状況などとともに、精神障害者との親族関係の有無・濃淡、同居の有無その他の日常的な接触の程度、精神障害者の財産管理への関与の状況などその者と精神障害者とのかかわりの実情、精神障害者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容、これらに対応して行われている監護や介護の実態など諸般の事情を総合考慮して、そのものが精神障害者を現に監督しているかあるいは監督することが可能かつ容易であるなど衡平の見地からその者に対し精神障害者の行為にかかわる責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるか否かという観点から判断すべきである」ため、本件においては認知症患者の妻も要介護認定を受けていたため監督することが可能であったとはいえず、長男は同居していたわけでも頻繁に訪問していたわけでもないため、監督することが可能であったとはいえない。したがって、特段の事情は認められず、家族に責任なしとした。

（3）以上に対する意見

　こういった事例においては、被害者の視点と加害者の視点の両方を考えなければならない。被害者にとっては、何も悪いことをしていないのに損害だけ被って責任も追及できないとなるとやはり腑に落ちない。一方で、加害者にとってはもはや本人の責めに帰すことはできないし、家族にその責任を押し付けるのも酷であろう。最高裁は「特段の事情」の有無をその基準としたが、そうせざるを得ないというのが実情だろう。

　またこの事件では、民法752条に定める「同居、協力及び扶助の義務」を「相互に相手方に対して負う義務であって、第三者との関係で夫婦の一方に何らかの作為義務を課するものではな」いとした。昔の家族のように、「みんなで支え合って暮らす」という理想的な家族形態は今は望めない。現に今では、「8050問題」のように、子が親を面倒見るのではなく、高齢の親が子の面倒を見る事態まで生じている。認知症患者の責任を家族に押し付けるのではなく、社会保障政策において対処することも必要だろう。

（4）認知症対策のための政策

　令和元年の閣僚会議において、「認知症施策推進大綱」が定められた。そこにおいては、基本的な考え方を「認知症の発症を遅らせ、認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指し認知症の人や家族の視点を重視しながら｢共生｣と｢予防｣を車の両輪として施策を推進」することと定められている。またコンセプトの一部として、「生活上の困難が生じた場合でも、重症化を予防しつつ、周囲や地域の理解と協力の下、本人が希望を持って前を向き、力を活かしていくことで極力それを減らし、住み慣れた地域の中で尊厳が守られ、自分らしく暮らし続けることができる社会を目指す」としている。政策的には家族内の問題ではなく、地域や社会全体として取り組むべき問題として考えるべきだろう。

（�E）責任能力に関する補足

　第713条但書には、「故意または過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りではない」と定められている。例えば、飲酒運転をして事故起こした場合、「自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態」にあったから免責されるべき、との主張はできない。これは「原因において自由な行為」であったとみなされるためである。

（�F）認知症患者と離婚

　民法770条によれば、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」、夫婦の一方は離婚の訴えを提起することができると記されている。では、認知症は「強度の精神病」に該当するだろうか。

　判例によれば、統合失調症は「強度の精神病」に該当するとしたが、認知症はそれに該当しないとする。ただし、前述の4号ではなく5号の「その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき」に該当するとして離婚が認められた事例も存在する。

（�G）意見――認知症と情報社会における正義

　情報社会において、情報弱者たる認知症患者をいかに保護するかがという問題がある一方で、認知症患者によって不利益を被った者をいかに救済するかという問題もある。そのバランスをどのようにするかは大変難しい問題である。

�U．予防接種禍

（�@）前書き

　オリンピックが開催されている現在、SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)、いわゆるコロナウイルスの感染拡大が続いている。それを抑制するためには、予防接種が有効である。では、国家が推し進めた予防接種によって被害を被った場合、どのような補償が受けられるのだろうか。

（�A）国家補償の谷間

　国家補償には大きく分けて３つある。国家賠償、損失補填、国家補償の谷間である。国家賠償とは、国家賠償法第1条の定めにある通り、「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたとき」に「国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる」ものであり、憲法17条の「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。」に対応したものである。すなわち、違法な行政活動に対して損害を補償することである。損失補填とは、法律によって明文化されたものではないが、憲法29条3項の「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」に基づき、適法な行政活動に対して損害を補償することである。この２つの間にあり、救済が受けられない領域を国家補償の谷間という。例えば、違法だが過失はないといった事例が考えられる。

　では、これを解消するためにはどうすればよいのか。それは、国家賠償の範囲を広げるか、損失補償の範囲を広げるかして、谷間を埋めようというというものである。国家賠償の範囲を広げるには、過失の要件を厳しくすればよいし、損失補償の範囲を広げるには、憲法29条3項の類推解釈や勿論解釈によって対処すればよい。

（�B）予防接種禍と過失

　では、予防接種禍において、最高裁はどちらの方法を採用したのだろうか。その判例が最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決である。最高裁は国家賠償の範囲を広げる、すなわち過失の要件を厳しくする形を採用し、以下の通り述べた。「後遺障害が発生した場合には、禁忌者を識別するために必要とされる余震が尽くされたが禁忌者に該当すると認められる自由を発見することができなかったこと、被接種者が」「個人的素因を有していたこと等の特段の事情が認められない限り、被接種者は禁忌者に該当していたと推定するのが相当である」。

（�C）現在

　現在においては、予防接種法が制定され、第15条には「市町村長は、当該市町村の区域内に居住する間に定期の予防接種又は臨時の予防接種を受けた者が、疾病にかかり、障害の状態となり、又は死亡した場合において、当該疾病、障害又は死亡が当該予防接種を受けたことによるものであると厚生労働大臣が認定したときは、次条及び第13条に定めるところにより、給付を行う。」と定められている。これを予防接種後健康被害救済制度といい、手順としては、�@健康被害を受けた者が市町村へ申請する、�A市町村が厚生労働省へ申達する、�B厚生労働省が感染症・予防接種審査分科会に意見を聴取する、�C感染症・予防接種審査分科会が厚生労働省へ意見を述べる、�D厚生労働省が市町村へ認定または否認を連絡する、�E市町村が健康被害を受けた者へ支給・不支給を連絡する、といった流れである。

　SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)の予防接種は、予防接種法第9条により国民にはワクチン接種の努力義務が課されている。厚生労働省によると、予防接種とは「感染症の原因となる病原体に対する免疫ができる体の仕組みを使って、病気に対する免疫をつけたり、免疫を強くするために、ワクチンを接種すること」とされる。今回のワクチンにはmRNAワクチンが採用されており、その仕組みは同じく厚生労働省によると「ウイルスのタンパク質をつくるもとになる情報の一部を注射し」、「ウイルスのタンパク質の一部がつくられ、それに対する抗体などができることで、ウイルスに対する免疫ができ」るものだという。

（�D）意見――予防接種と情報化社会における正義

　SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)の予防接種において露見したのは、デジタルデバイドである。すなわち、特に高齢者がインターネットでの予約ができず混乱していた様子が報道されていた。情報活用能力の高い者とそうでない者に2分された様子がはっきりと分かった。

　加えて、予防接種を受けて「自分が任意で受けたのだから補償は受けられない」と思い込んでいる人ももしかしたらいるかもしれない。一人ひとりが日々情報を収集し、それを活用していかなければ生きていけないことを、予防接種の事例を通して思い知ったことである。

　現在では、インフォームドコンセントが重視されている。以前の医療では、生命の尊厳（SQL）が重視されており、患者は医師の言うことにただ従っていればよいとするパターナリズム的姿勢がとられていた。しかしその後、生命の質（QOL）が重視されるようになり、患者の自己決定を尊重すべきとの意見が高まった。これを受けて、医師が患者に対して、しっかりと事前説明をしたうえで同意を得ることの重要性が説かれていった。

　このインフォームドコンセントのコンセプト自体は私も同感である。しかし、例えば重度の認知症患者に対してインフォームドコンセントを求めることは可能だろうか。この場合における「正義」とは何なのか。例えばワクチンにおいては、全員がワクチンについて理解しているわけではない。そもそも医療について一般人が理解できるならば医師はいらないことになる。そういった場合に、果たしてインフォームドコンセントをどのように捉えるべきなのか。課題は残る。

�V．誤想防衛と対物防衛

（�@）誤想防衛

（1）定義

　誤想防衛とは、本来であれば正当防衛に該当しないにもかかわらず、正当防衛に該当するだろうと行為者が誤解をし、反撃を行うことをいう。誤想防衛には3つの類型があるが、ここでは狭義の誤想防衛と呼ばれる類型について記す

（2）狭義の誤想防衛

　狭義の誤想防衛とは、本来であれば正当防衛を基礎づける急迫不正の侵害が存在しないにもかかわらず、それが存在すると誤解をし、反撃することをいう。例えば、ある人が友人にドッキリを仕掛けようと思いつき、木刀を振りかざしたが、その友人は木刀でボコボコにされるのではないかと誤解し、とっさに近くに落ちていた木の棒を使って反撃するような場合が考えられる。この場合、狭義の誤想防衛についてどのように処理すべきだろうか。これについては、故意の認識対象をどのように捉えるかで、2つの説が存在する。

　一つ目は、事実の錯誤説である。この説では、故意の認識対象を構成要件該当事実および正当化事由不存在の事実であると捉える。すると、違法性の意識が否定され故意が阻却される。例えば、前述の例では、傷害の故意は認められるものの、傷害「罪」に対する故意は認められない。したがって、刑法38条が定める「罪を犯す意思」はないと考え、錯誤について過失があれば過失犯として、過失がなければ無罪として処理することとなる。

　二つ目は、違法性の錯誤説である。この説では、故意の認識対象を構成要件該当事実であると捉える。正当化事由の錯誤は違法性の錯誤であると捉えるため、故意の段階では考慮せず、錯誤が避けられない場合に、責任段階で責任を阻却し、錯誤が避けられる場合には故意が認められるとする。したがって、誤想防衛については故意犯か無罪として処理することとなる。

　なお、大判昭８・６・29刑集12巻1001貢では、傍論において違法性阻却事実の前提のなる事実の錯誤については、故意を阻却するとしている。

（3）意見

　誤想防衛を「故意犯」として捉えるのはどうだろうか、と私は疑問に思ってしまう。例えば、前述の例においては、構成要件に該当する事実を認識していたからには故意の認識対象が満たされ、反撃したものが正当防衛であると誤解したことは、本来は法律で禁止されているにも関わらず許されていると誤解してしまったとし、違法性の錯誤であると考えることになる。そのようなことをとっさに反撃に出た者に課すことは可能であろうか。そもそも誤想防衛を生じさせるような状況を発生させた方にも非難は向けられるだろうし、本当に誤解して行ったのに「故意」が認められるとするのは、やや不自然である気もする。違法性の錯誤説に対してはやや疑問が残る。

（�A）対物防衛

（1）定義

　対物防衛とは、物に対して反撃することをいう。対物防衛が問題となるときは、人間に故意や過失がない場合に物による侵害が生じたとき、その物に対して行った反撃が構成要件に該当してしまう場合である。

（2）学説の対立

　対物防衛を正当防衛として認めるかについては、学説が分かれている。対物防衛を正当防衛として認めないのが対物防衛否定説であり、正当防衛として認めるのが対物防衛肯定説である。こうして学説が分かれる理由は違法性をどうとらえるかが異なるためである。

（3）対物防衛否定説

　対物防衛否定説においては、そもそも行為無価値論の立場をとる。すると、人間に対しては「〜してはいけない」、「〜しなければならない」と法律が言うことができるが、物に対しては言うことができないため、法律違反の行為自体が存在しないことになる。すると、正当防衛の要件である不正の侵害がないことになるから、正当防衛は認められないということになる。

　では、正当防衛が認められない場合、どのように法的処理がなされるのだろうか。対物防衛否定説では、緊急避難の問題として処理することとなる。すなわち、「不正」対「正」の問題ではなく、「正」対「正」の問題として扱われることとなる。

（4）対物防衛肯定説

　一方、対物防衛肯定説においては、そもそも結果無価値論の立場をとる。すると、物による侵害についても、法益侵害という結果が生じたのだから不正の侵害ということができ、「不正」対「正」の問題、すなわち正当防衛として処理することができるということになる。

（5）意見

　行為無価値論と結果無価値論については後述することとなるが、多くの場合において行為無価値論の立場をとると妥当な結論が導かれる。しかし、対物防衛の場合、「法律を違反したという行為」を違法性の本質ととらえてしまったがゆえに、正当防衛は認められず、緊急避難しか認められないこととなってしまった。これは妥当とは言えない。「不正」の範囲を柔軟に捉えることによって処理すべきかもしれない。

�W．行為無価値論HandlungsUnwertと結果無価値論ErfolgsUnwert

（�@）前書き

　犯罪とは、構成要件に該当し、違法で有責な行為のことであった。とすると、「違法」とは何なのかを考えなければならない。「違法」の本質をどこに置くのかについて、学説が分かれている。「行為」に違法性の本質を置く考えが行為無価値論であり、「結果」に違法性の本質を置く考えが結果無価値論である。なお、「無価値」とは、ドイツ語の「Unwert」（価値に反する、という意味）を訳したものである。

	行為無価値論	結果無価値論
刑法の機能	行為規範	裁判規範
違法性の本質	行為規範（社会倫理規範）違反	法益侵害
判断資料	客観的事情＋主観的事情	客観的事情
判断時点	行為時（事前判断）	結果発生時（事後判断）

※表は、大塚裕史ほか著『基本刑法�T　総論　第3版』（日本評論社、2019年）より引用

（�A）行為無価値論HandlungsUnwert

　行為無価値論においては、違法性の本質を「行為」に向け、行為規範である刑法に反したことが違法であると考える。この場合、目線は「行為者」に向けられるから、違法性の判断においては、行為時における行為者の客観的事情や主観的事情が考慮される。

（�B）結果無価値論ErfolgsUnwert

　結果無価値論においては、違法性の本質を「結果」に向け、法益侵害という結果を生じさせたことが違法であると考える。この場合、目線は「被害者」に向けられ、違法性の判断においては、裁判規範である刑法をもとに、結果発生時における客観的事情が考慮される。

（�W）対立する事例

　では、これらの学説が対立するのはどのような場合が挙げられるだろうか。その例の一つとしては、前述した対物防衛に見ることができるので、以下にはそれ以外について記す。

（1）不能犯

　不能犯とは、結果を発生させることがそもそも不可能であるため、結果発生の危険性が認められず、未遂犯が成立しないことをいう。とすると、ここで、「結果発生の危険性」をどのように捉えるかが問題となる。なぜならば、結果発生の危険性が認められれば未遂犯は成立することとなるし、認められなければ未遂犯が成立しないこととなるからだ。まさにこの問題は、不能犯と未遂犯の分水嶺となる。

　行為無価値論の立場からは、具体的危険説が導かれることとなる。この立場によると、危険性の判断を行為時に行い、判断の基準を一般人におき、行為の時点において一般人が認識することができた事実と行為者が認識していた事実を判断材料とする。

　結果無価値論の立場からは、客観的危険説が導かれることとなる。この立場によると、危険性の判断を行為後に行い、判断の基準を科学的見地におき、行為の時点におけるすべての事実を判断材料とする。

（2）正当防衛

　正当防衛において、防衛の意思が必要かどうか、偶然防衛は成立するかどうか、過失による正当防衛は成立するかどうかが問題となる。

　行為無価値論の立場に立てば、行為者の主観的事情を考慮に入れるため、防衛の意思は必要となり、偶然防衛は成立せず、過失による正当防衛も否定される。

　一方、結果無価値論の立場に立てば、結果や客観的事情を考慮に入れ、事後的に判断されるため、防衛の意思は不要となり、偶然防衛の成立は認められ、過失による正当防衛も認められることとなる。

（�D）意見

　日本国憲法の精神から言えば、「個人の尊重」を最重視するのが当然である。とするならば、刑法は何のためにあるのかと言われれば、「個人の法益を守るため」という答えが導かれ、「結果」を重要視する考えも当然認められる。一方で、社会秩序の維持という観点からすれば「行為」を重要視する考えも当然認められる。行為無価値論も結果無価値論も、いずれの立場においても、結果が妥当とは言えない事例が出てくる。

　しかし、私は原則として行為無価値論に立脚するのが妥当ではないかと考える。なぜならば、いったん「法律」を制定した以上は、「法律」が法益を守るという「目的」の「手段」ではなく、「法律」そのもの自体が「目的」化され、その「法律」そのものを守ることによって法益が守られると考えられるからである。法律がふさわしいかどうかは立法府の役目であって、法律を運用する立場としては立法府が民主的手続きを踏まえて制定した法律を尊重し、それに則ることが重要ではないだろうか。とするならば、違法性の本質を規範に対する違反と捉えることが妥当であるといえるだろう。

�X．物言う株主と利益相反

（�@）前書き

　物言う株主と利益相反について触れる前に、株主会社がどのような仕組みで成り立っているのかについて簡単に触れる。

（�A）取締役と株主

　株式会社においては、所有と経営の分離が原則となる。したがって、会社を所有する株主と、会社を経営する取締役等との関係についてみていかなければならない。

　まず、取締役は株主総会によって選任される（会社法329条）。取締役はあくまで経営者であって、企業の所有者ではない。取締役と会社との関係は委任の関係にある（会社法330条）。そこで、委任についての民法の条文を見ると、民法644条に、「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」と記されている。加えて、会社法355条には「取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。」と記されている。では、前者の「善管注意義務」と後者の「忠実義務」は異なるのだろうか。判例によれば、善管注意義務は忠実義務とは異なる高度な義務ではないとしている（最大判昭和45・6・24民集24巻第6号625貢）。

　では、これらの義務に違反し、取締役が自己の利益を図った場合はどうなるか。まさにその場合のことを利益相反という。

（�B）利益相反

　会社法356条によると、利益相反取引には２つある。一つ目が直接取引といわれるもので、「取締役が自己又は第三者のために株主会社と取引をしようとするとき」（会社法356条1項2号）のことをいう。二つ目が間接取引といわれるもので、「株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき」（会社法356条1項3号）のことをいう。

　直接取引について、通説によれば名義説が採られている。すなわち「自己又は第三者のために」取引をするという意味を、自己又は第三者の名義で取引をすることとされる。また、間接取引について、その範囲は必ずしも明らかであるわけではない。

　利益相反取引を行おうとする場合は、取締役会の承認を得る必要がある。また、事後においては、取締役は株主総会において、承認を得なければならない（会社法356条1項）。すなわち、事前には取締役会の、事後には株主総会の承認を必要とするわけである。

　では、利益相反取引によって会社に損害が生じた場合はどうなるだろうか。会社法423条3項によると、「第三百五十六条…の取引によって株式会社に損害が生じたときは、…取締役…は、その任務を怠ったものと推定する。」とあり、423条1項によると、「取締役…は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と記されている。

　このような場合において株主には、取締役の責任を追及するために、株主代表訴訟を起こすことができる。これについて定めた条文が会社法847条1項である。「六箇月…前から引き続き株式を有する株主…は、株式会社に対し、書面その他の法務省令で定める方法により、…役員等…の責任を追及する訴え…の提起を請求することができる。…」と記されている。株主代表訴訟はあくまで、会社を代表して行うものであり、取締役の会社に対する責任を追及するものであることに注意が必要である。

（�C）物言う株主

　日本の株式会社の多くは、株主が株主総会において会社の提案に対し単に賛同するだけであることが多かった。しかし、物言う株主と呼ばれる投資家は、株主としての権利を自ら積極的に行使することによって、会社に影響力を及ぼそうとする。会社側にとって、物言う株主は厄介な存在になり、対立することもある。それが顕著になった事例が東芝騒動である。

（�D）東芝騒動

　日本を代表する企業である東芝は、アメリカにおける原子力事業で巨額の損失を出したことが明らかになった。上場企業としての立場が危ぶまれた東芝は、上場廃止を回避するために、海外の投資ファンドから積極的に出資を受け付けた。ここで巨額の出資を行ったのが、後に物言う株主となるエフィッシモである。エフィッシモは東芝に対して経営改善を訴え続けた。しかし、それを煙たく思っていたため、いっそのこと非上場企業にしてしまおうとする提案がなされた。その提案をしたのがCVCである。しかしながら、当時の東芝社長であった車谷氏は以前CVCの日本法人のトップを務めていた経緯があり、これが利益相反に該当するのではないかと指摘された。東芝は日本の安全保障にかかわるような極めて高度で重要な技術を有する会社であるため、日本政府が介入してくることも免れないのである。

（�E）意見

　日本の株式会社の役員は内部昇進者が多く、内部統治がうまく働いていないのではないかとする声もある。また、「企業は株主のもの」という意識も薄いとされ、株主に対して利益を還元する意識が欧米並みではないと指摘する声もある。そこで新たな形態として、指名委員会等設置会社や監査当委員会設置会社が導入されることとなった。

　日本の株価は低迷を続けている。株主からの信頼を得て、投資先としての魅力を高める努力をしていくことも今後の会社には強く求められることだろう。

�Y．民主集中制と哲人政治(プラトン)、法の精神(モンテスキュー)、中台統一と一対一路

（�@）前書き

（1）コロナ禍における世界の状況

　新型コロナウイルスの感染拡大は、民主主義に対する強権的な政治を正当化するかもしれない一つの事例となった。例えば、中国においては感染症のための病院をたった1週間で建設したり、強圧的な取り締まりをしたりすることによって徹底的に感染拡大を防いだ。北朝鮮も同様に、国境侵入者の射殺も厭わないほど徹底した感染対策が敷かれた。その一方で、日本ではいまだに感染拡大が収まらない。

（2）意見――コロナ禍における日本

　私が最も危惧したのは、日本のマスメディアが政府による強権的な対応を声高に叫び続けていたことにある。私は非常に残念であり、危機感を抱いた。確かに感染拡大を抑制し、人命を守ることが必要であることは言うまでもない。しかしながら、いとも簡単に、移動の自由や経済活動の自由を制限してよいものなのだろうか。それらは封建制の時代や近代市民革命を経て我々が勝ち取ってきたものではないのだろうか。それをいとも簡単に放棄してしまうことはよいことなのだろうか。

　今回興味深かったのは、コロナ禍において、政府は自由の抑制に極めて慎重であったのにもかかわらず、民衆の側が自由の抑制に極めて積極的であったことである。報道番組などでは、プロセスを全く無視し、政府がとにかく強権的に国民をコントロールすればよいのだと声高に叫ばれていた。

　私はこのような事態が大変残念であった。まさに民衆は危機的状況に陥ると絶対的な権力と指導者を求めるものであることが2回の世界大戦を経てもなお、21世紀現在の日本においてもなお、その状況が見受けられることに大変失望した。民主主義は果たして無力なのだろうか。もう一度再考する必要がある。

（�A）哲人政治(プラトン)

　哲学者として極めて偉大であり、後世に多大な影響を及ぼしたソクラテスが生きた時代は、まさにアテネが衰退していく時代であった。ソクラテスは当時のソフィストや彼らの相対主義を否定する。ソクラテスは「無知の知」を唱え、問答法によってそれを明らかにしようとするが、ソフィストにとってそうした行いは大変不愉快であった。その結果ソクラテスは裁判にかけられ刑死する。

　ここで重要なことは、当時のアテネが直接民主制を採用していたこと、そしてソクラテスの裁判が民衆によって行われたことである。ソクラテスの弟子であったプラトンは、こうした状況を鑑み、自分の師であるソクラテスを殺した民衆および民主主義を徹底的に批判するようになる。そこで彼は、優秀な哲学者が専制的に政治を行うべきだと主張し、哲人政治の実現を目指すようになる。

　プラトンはそもそも、イデア論を説いていた。これは、唯一絶対、完全無欠の「何か（イデア）」が存在し、現実世界はその模倣に過ぎないとする考えであった。プラトンは人間の魂を理性・気概・欲望に3分し、それぞれの徳を知恵・勇気・節制として、これらがうまく調和すると個人レベルにおいて正義が実現されるとした。そして国家レベルにおいては、知恵に該当する統治者、気概に該当する防衛者、欲望に該当する生産者の3階級で構成されたとき、理想的な国家である正義の国が実現すると考えた。この知恵に該当する統治者がまさに哲学者であった。

　しかし、プラトンは哲人政治の実現を目指すものの、結局は失敗に終わる。また、プラトンの弟子であるアリストテレスはプラトンのこうしたあまりにも現実離れした思想に修正を加えていくこととなる。

（�B）民主制に対する批判

　民主制はその後長い間、大変評判が悪かった。現に、その後アテネは衰退し、マケドニアに支配されるようになるし、ローマも共和制から元首制や帝政へと移行していく。

（�C）王権強化への道

　中世ヨーロッパは封建制の時代であった。封建制においては、王とその家来である諸侯が封建的主従関係を結び、王や諸侯が土地と人民を直接支配した。人民は土地に縛り付けられ、強制労働である賦役や税金に該当する貢納を収めることが強制されたり、領主裁判権によって裁かれたりした。

　ただし、この時期において、王権は絶対的なものではなかった。王と諸侯との関係はあくまで双務的であり、王に従うことにメリットがないと判断した場合は、その契約関係を断ち切ることもあった。また、国王の権力と並んで、当時は教皇の影響も大変強かった。現に、カノッサの屈辱においては、教皇であるグレゴリウス7世が国王であるハインリヒ4世を破門しているし、インノケンティウス3世は教皇は太陽、皇帝は月とまで豪語している。

　しかしながら、教皇の権力も徐々に衰退していく。そのきっかけとなったのが幾度にわたる十字軍の派遣であった。数回にわたって十字軍を派遣するもその結果は失敗に終わった。そうして十字軍の派遣を主導した教皇の権威は衰退していき、国王の権力が強くなっていくこととなる。そしてついには、アナーニー事件にあるように、ボニファティウス8世がフランス国王フィリップ4世に捉えられ、いわゆる教皇のバビロン捕囚が行われるなど、国王が教皇に勝利していくこととなる。

　その後、ルイ14世の時代になると、国王の権力は神から与えられたものであると考える王権神授説がボシュエによって唱えられ、絶対王政の理論的根拠となっていった。

（�D）社会契約説

　その後、ピューリタン革命の時代に生きたホッブズが社会契約説の先駆者として登場することとなる。彼は、政府などの権力がない状態、すなわち自然状態においては、人間は人間に対して狼であり、万人の万人に対する闘争が起きてしまうため、自然権を譲渡することが必要であると唱えた。

　ホッブズの思想に異を唱えたのが、ロックである。彼は、自然状態を不安定な状態であると考え、その不安定な状態を安定した状態にするために自然権を信託する必要があると唱えた。あくまでも譲渡ではなくて信託であるから、政府がその目的を遂行しない場合に行使できる抵抗権が人民にはあると説いた。加えて、ロックは、立法権が、行政や司法を担う執行権と外交を担う連合権を抑制すべきだと考えた。

　この権力分立の考えを修正したのがモンテスキューである。モンテスキューは著書『法の精神』において、権力を立法権、行政権、司法権に3分したうえで、それぞれがそれぞれの権力を互いに抑制し合い、均衡の状態を保つべきだと主張した。この考えが「チェック・アンド・バランス」である。

（�E）社会主義思想

　時代が進み、資本主義社会の時代が訪れると、資本家と労働者の間には大きな格差が生まれるようになった。労働者は労働から疎外され、資本家は豊かになる一方で、労働者は貧しくなる一方であった。そうした状況を憂いたのがマルクsである。マルクスは労働者階級による革命を起こすべきだと主張し、社会主義社会の実現を目指した。『共産党宣言』においてマルクスは「万国のプロレタリア、団結せよ」と呼び掛けた。その後、マルクスの影響を受けたレーニンが登場し、彼は武力による革命と、労働者によるプロレタリア独裁を主張した。

　マルクスとレーニンの影響を受けたのが中華人民共和国を建国した毛沢東である。彼は共産党を中心とした労働者と農民による独裁を主張した。

（�F）民主集中制

　マルクス・レーニン・毛沢東の思想を背景として現在の中華人民共和国は民主集中制を採用している。憲法第1条に「人民民主独裁の社会主義国家」と記されている通り、中国共産党を中心とした独裁政治である。このことは憲法にもおいても「中国人民は、中国を中国共産党の指導のもと社会主義国に築き上げていく」と記されている。

　中国共産党は、国家中央軍事委員会を指導し、その下に中国人民解放軍を置くなど、軍もその支配下に置いている。また、行政の最高機関である国務院をも指導し、その下には各級人民政府が置かれている。中国共産党は、最高の国家権力機関である全国人民代表大会を指導し、司法府である最高人民法院や最高人民検察院のメンバーを選出する。全国人民代表大会からは中国の最高実力者である国家主席を選出する。このように、中国共産党の影響が立法・行政・司法のすべてに及ぶように設計されている制度が民主集中制である。なお、習近平氏により、国家主席の任期は廃止された。

（�G）中台統一

　台湾はオランダや日本による支配を経験した。その後、時代が進み、蒋介石率いる国民党が資本主義体制のもと、中華民国を建国した。そのため毛沢東率いる中国共産党が社会主義体制のもと建国した中華人民共和国と対立することになった。その後蒋介石率いる国民党は台湾へ逃れることとなり、現在に至っている。中国本土の認識としては、帝国主義時代にアヘン戦争やアロー戦争、義和団事件を機とした8か国共同出兵などによって、中国が分割され、帝国主義国たる西洋諸国による侵略を受けたという歴史認識がある。中国本土にとって台湾はもともと中国本土のものであり、それに口出しすることは内政干渉にあたると捉えている。加えて、台湾統一を成し遂げる意思を憲法において明確にしている。

　尖閣諸島問題も中台統一が絡む問題である。そもそも尖閣諸島は明らかに日本固有の領土であるが、台湾の主張としては尖閣諸島は台湾領であるとしている。とするならば、台湾は中国のものであるから、尖閣諸島は中国の領土であるという主張が成り立つこととなる。現に、中国船が尖閣諸島を頻繁に航行している。なぜ中国がそこまで尖閣諸島に熱を注ぐかというと、確かに天然資源の問題もあるが、尖閣諸島を足掛かりにすることによって台湾統一を狙いたい思惑があるからである。

（�H）一帯一路

　かつての中国には、シルクロードや海の道と呼ばれる交易路が存在し、貿易などが盛んにおこなわれていた。これを参考にして構想されたのが一帯一路である。中国とヨーロッパを陸の鉄道やパイプライン、海上ルートで結ぼうとする。一帯一路の沿線国は100か国に及び、世界人口の6割、GDPの3割を占める巨大な経済圏・物流網になろうとしている。

　そもそもこの一帯一路構想は習近平氏が2013年に打ち出した構想である。2008年の北京オリンピックに向けてインフラ整備に力を注いでいたが、その後リーマンショックが起き、世界経済は急速に停滞した。そのような状況下で中国は巨額を費やした景気刺激策を実施した。そうして中国の存在感が世界的に増すこととなった。しかし、急速な景気刺激策には反動がつきものである。その後過剰生産が発生し、鉄やセメントが余るようになった。この時期に打ち出したのがまさに一帯一路構想である。

　では、一帯一路構想の問題点は何か。それは「債務のわな」と呼ばれるものである。中国は発展途上国などに対しても巨額の投資を行っている。しかし、発展途上国にとってはその債務を返済しきれる保証はない。現に、スリランカは債務免除の代わりとして99年間港の運営権を中国に引き渡した。この「99年間」というのはまさにイギリスが香港を統治していた期間と合致する。また、中国とヨーロッパを結ぶ海上交通路の重要箇所も中国が運営権などを取得するなどして影響を及ぼしている。こうした姿勢が欧米から反感と不信感を買っている。

　それに待ったをかけているのがアメリカである。アメリカは中国の経済成長、貿易赤字、５Gの普及などに対する警戒を強めており、現にトランプ大統領もバイデン大統領も中国に対してはかなり強硬な姿勢を示している。また、日本の南にあるオーストラリアも中国に対してはかなりの強硬姿勢を示しており、中国とオーストラリアの関係はかなり冷え込んだ。最近ではイギリスやフランスも中国に対する警戒を強めており、空母の派遣などを通じて危機感をあらわにしている。

（�I）意見

　中国の強圧的姿勢は長期的に見れば明らかに自己国とって不利益を及ぼすのではないかと考えている。

　そもそも中国は2000年以上もの間専制君主制が続いていた。したがって、中国共産党という非専制君主制の政治は中国の長い歴史から見たら非常にごくわずかな期間の新たな試みであるといえる。しかしながら、結局は習近平氏が国家主席の任期を廃止したように、あたかもまた帝政に戻るかのような状況になっている。プロレタリア文化大革命における毛沢東の失政に対する反省をもう一度再起する必要があるだろう。

　加えて、中国国内には55の少数民族を抱えているし、貿易における恩恵を強く受けているはずである。とするならば、あまりにも強圧的な政治は対内的にも対外的にも長期的に見ればマイナスに働くだろう。確かに、中国は民主集中制によって自由主義諸国では考えられないような猛スピードで経済発展を成し遂げてきた。また、コロナ禍においてもその統制ぶりは自由主義諸国に勝っていた。しかしながら、いつまでも指導部が正しい方向に導き続けられるとは限らない。また、グローバル化が進展する現在において、他の国家との良好関係なくして国際政治・経済をやり過ごすことは不可能である。

　以上のことを考えると、中国はせめてもう少し穏便に事を進めるべきであろう。

�Z．不戦条約と集団的自衛権

（�@）主権国家誕生・勢力均衡・集団安全保障

　中世ヨーロッパは封建制の時代であった。また、神聖ローマ皇帝の影響が領邦に対して及んでいた。

　三十年戦争が起き、ウェストファリア条約が結ばれると、神聖ローマ帝国は事実上崩壊し、主権国家が横並びとなる国際秩序が形成された。

　その後、ナポレオンによってヨーロッパがかき乱されると、ウィーン会議において勢力均衡が採用されることとなった。これは、敵対する勢力同士が軍事力を均衡に保つことによって国際平和を維持しようとするものであった。この方式が採用され、しばらくはうまくいった。

　しかしながら、勢力均衡は問題点を抱えていた。第一に、「同じぐらいの勢力」がどれぐらいなのかが正確にわからないという問題である。加えて、自分は相手側よりも少し優位に立とうとするのが普通である。すると相手の方も同じことを考えるので軍拡に歯止めが利かなくなってしまう。第二に、同盟によって多くの国が数珠つなぎのように紛争に巻き込まれる危険性があるという問題である。　現にこれらの問題が露出したのが第一次世界大戦と第二次世界大戦であった。サラエボ事件を発端として、三国協商側と三国同盟側に分かれて世界大戦に発展した。

　この反省を踏まえてできたのが国際連盟と不戦条約である。不戦条約において重要なことは、戦争が違法化されたことにある。その第一条には「締約国ハ国際紛争解決ノ為戦争ニ訴フルコトヲ非トシ且其ノ相互関係ニ於テ国家ノ政策ノ手段トシテノ戦争ヲ抛棄スルコトヲ其ノ各自ノ人民ノ名ニ於テ厳粛ニ宣言スル」と記されている。この条文においてポイントとなる箇所は「国家ノ政策ノ手段トシテノ戦争ヲ抛棄スル」の「国家ノ政策ノ手段トシテノ」の部分である。これは侵略戦争を意味するとされ、自衛戦争は認められていると解釈されている。

　国際連盟の設置、不戦条約の締結といった取り組みにも関わらず、第二次世界大戦を防ぐことはできなかった。そこで採用された安全保障体制が集団安全保障であった。これはまず、国際連合加盟国すべてが相互不可侵を約束し合い、いずれかの国が侵略行為を行った場合、他の加盟国すべてがその国に対して制裁を加えることによって国際秩序や平和を保とうとするものである。このことを規定しているのが国際連合憲章41条と42条である。41条には「安全保障理事会は、その決定を実施するために、兵力の使用を伴わないいかなる措置を使用すべきかを決定することができ、且つ、この措置を適用するように国際連合加盟国に要請することができる。この措置は、経済関係及び鉄道、航海、航空、郵便、電信、無線通信その他の運輸通信の手段の全部又は一部の中断並びに外交関係の断絶を含むことができる。」と記され、非軍事的措置をとることができる旨が定められている。42条には「安全保障理事会は、第41条に定める措置では不充分であろうと認め、又は不充分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍又は陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる。」と記され、軍事的措置をとることができる旨が定められている。

（�A）自衛権

　前述の通り、不戦条約においては侵略戦争は禁止されたものの、自衛戦争は認められた。主権国家ならば自衛権を有することは当然だと考えられていたためである。現に国際連合憲章51条では、自衛権が以下の通り認められている。「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持又は回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。」ここでポイントとなるのは、個別的自衛権とともに集団的自衛権も認められているということである。

　個別的自衛権とは、自国が武力攻撃を受けた場合に、自国を防衛するために武力を行使する権利をいう。集団的自衛権とは、自国の同盟国をはじめとした、自国と密接な関係にある他国が武力攻撃を受けた場合に、その他国に対する武力攻撃を自国に対する武力攻撃とみなして、他国（＝自国）を防衛するために武力を行使する権利をいう。

（�B）憲法9条をめぐる変遷

　1946年において吉田首相は自衛のための戦争も放棄したと発言した。しかしその後、1954年において吉田首相は自衛権を持つことを認め、憲法に違反しないと発言した。1994年においては村山首相は自衛隊は合憲であると明言した。集団的自衛権を巡っては、1972年の政府統一見解において集団的自衛権の行使が憲法上許されないとしていたが、2014年の閣議決定において安倍首相は集団的自衛権は憲法上許されるとした。

（�C）意見

　日本は長らく直接的には戦争に巻き込まれることがなかった。それは決して日本が憲法9条を掲げたことのみによるものではない。アメリカの核の傘の下にいたことが現実的要因として非常に大きい。現在中国やロシア、北朝鮮をはじめとして日本周辺の安全保障環境は厳しい状態に置かれている。加えて、日本はアメリカと中国という超大国にはさまれている。この2つの国が同じ価値観を共有しているならまだしも、残念ながら現実はそうではない。

　となると、日本はいつまでたっても理想を語り続けているわけにはいかないのである。憲法9条をめぐっては様々な意見があることは事実だが、自衛権を持たない国など世界にはない。加えて、自衛隊を憲法で明文化しなければ、自衛隊を直接憲法によってコントロールすることができなくなってしまうかもしれない。それこそ大変恐ろしいことである。

　現在の状況をより現実的に捉えて判断することが求められている。

�[．総括

　今回のテーマは「情報社会における正義」であった。このテーマについて直接的に記すこととしよう。

　そもそも「正義」とは何か。これについては様々な意見があるし、おそらく正解はないだろう。とすると、「情報社会」について考えることが先だといえる。

　私は一言で情報社会の特徴を述べるならば「抽象化・概念化が進んだ社会」と表現できると考えている。金融面においてもデジタル通貨の発行が検討され始めているし、我々の人生において求めるものも「量」より「質」、「物質」より「精神」へと変化している。安全保障面について記せば、直接的な武力衝突ではなく、サイバー戦争、暗号資産・機密情報流出といった非物質的戦争が現実に行われている。このように情報社会は抽象・概念の世界であるといえる。

　では、抽象化・概念化が進むとどのようになるだろうか。それは格差社会になるということである。デジタルデバイドが見受けられる現状は言うまでもない。政府はSociety5.0に向けた取り組みを進めているが、残念ながらそう簡単にはうまくいかない。しかしながら、情報化は確実に進んでいる。そうなったときに、情報化社会についていけない人々、取り残された人々をどのようにフォローすべきだろうか。

　確かに情報化社会にはメリットもある。インドでは長らくカースト制度が社会の障害となっていたが、ネットビジネスは伝統的な職業ではないため、カーストにとらわれずに職に就くことができる。また、コロナ禍においてはリモート会議が普及し、子育てをしながらの仕事をしやすくなったかもしれない。

　しかしその一方で、情報社会に取り残される人々は必ず存在する。最近では「実力主義」、「成果主義」が吹聴されている。情報社会においては知能が物を言うと同時に、物理的制約が遥かに少ないため、「勝ち組」はどんどん勝ち進んでいき、「負け組」はどんどん取り残されていくこととなるだろう。確かにそれは経済全体でみれば、社会全体でみれば、「全体」の発展と成長に結びついているかもしれない。「弱肉強食」で何が悪いという意見も当然あるだろう。しかし、果たしてそれで本当に良いのだろうか。

　今こそもう一度、法が大切にしてきた理念を振り返るべきではないだろうか。法、とくに憲法が大切にしてきたことは何だろうか。それは「個人の尊重」である。「個人」は法の下に「等しく」扱われる。憲法は「個人」に最上の価値を置いている。とすると、果たして弱肉強食のままでよいのだろうか。我々が血を流して確立させてきた「個人の尊重」という価値をもっと重く受け止めるべきではないのだろうか。

　弱者を救済・保護する。これを行う最たる例が、社会保障ではないだろうか。現在、社会保障は年金の問題をはじめとして否定的に見られることが多い。しかし、本来、社会保障というのは、もっと人間的で血の通ったものであるはずである。

　情報社会において格差が広がっていくことが予想されるからこそ、社会保障の果たす役割は大きくなるだろう。私は情報社会のおける正義というテーマのレポートを以下の言葉で結ぶこととする。

　情報社会における正義とは、より自由で創造的な未来の開拓、物理的制約にとらわれない自己実現を誰もが成し遂げられる社会を目指す一方で、格差が広がる社会において、これまでの法が大切にしてきた「個人の尊重」という基本的原理を重く受け止め、社会的弱者に対する配慮を忘れないことをいう。

参考文献：

https://smtrc.jp/useful/knowledge/sellbuy-law/2016_12.html

https://www.tabisland.ne.jp/column/2019/1107.html

https://sakura-hokuso.com/houjinhoumu/kourei-shisetsu/keiyakutyuuiten02.html

https://info.ninchisho.net/column/psychiatry_077

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https://www3.nhk.or.jp/news/special/news_seminar/jiji/jiji22/

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https://www.unic.or.jp/info/un/charter/text_japanese/

道垣内弘人著『リーガルベイシス　民法入門[第3版]』（日本経済新聞出版社、2019年）

窪田充見・森田宏樹編『民法判例百選�U　債権　[第8版]』（有斐閣、2018年）

石川敏行ほか『はじめての行政法〔第4版〕』（有斐閣、2018年）

大塚裕史ほか著『基本刑法�T　総論　第3版』（日本評論社、2019年）

伊藤真著『伊藤真の憲法入門　第4版』（日本評論社、2010年）

伊藤真著『伊藤真の刑法入門　第4版』（日本評論社、2010年）

伊藤靖史ほか著『会社法　第5版』（有斐閣、2021年）

戒能通弘ほか著『法思想史を読み解く』（法律文化社、2020年）

『最新図説　倫理』（浜島書店、2021年）

『最新図説　政経』（浜島書店、2021年）

『ニューステージ世界史詳覧』（浜島書店、2020年）

『ポケット六法　平成31年版』（有斐閣、平成31年）

会社法�T（平岡克行先生）の講義や配布資料の内容

演習�T（中江章浩先生）の講義や配布資料の内容

国際法�V（則武輝幸先生）の講義や配布資料の内容

東洋法制史�T（田中俊光先生）の講義や配布資料の内容

ゼミの勉強会で先輩から教えていただいた内容

山口将太

テーマ「情報社会における正義」

キーワード：認知症・SARS-CoV-２（severe acute respiratory syndrome coronavirus 2）・予防接種禍と過失・誤想防衛と対物防衛・物言う株主と利益相反・行為無価値論と結果無価値論・民主集中制と哲人政治(プラトン)・法の精神（モンテスキュー）・中台統一と一帯一路・不戦条約と集団的自衛権

　結論→情報社会における正義とは、弱者保護を基本概念とし、社会が発展していく上で変化していくであると考えられる常識に対応していくようなものであると考える。

　理由→情報社会が進むにつれて、産業社会の中ではあまり存在していなかった、「格差」が発生していくと考えられる。これは「人の１０倍早く走れる人は存在しないが、人の１０倍賢い人は存在する」という言葉からもわかるように、情報通信技術を使える人とそうでない人との間にデジタル・デバイド（情報格差）が生まれていくということになる。この情報通信技術についての格差をなるべく減らしていくことが、社会秩序の維持を行なっていく上では大切だと考えるからである。

１，予防接種禍と過失

（１）現在の状況

2019年末に中国の武漢市で第１例目となる感染者が報告され、2020年の3月頃には世界規模の流行に発展したことから、WHOは2009年の新型インフルエンザ以降初となるパンデミックを宣言した、新型コロナウイルス（SARS -CoV-2）だが、2021年になる頃には、設計図を注入するmRNAワクチンであるファイザー（米）、モデルナ（米）、ウイルスベクターであるアストラゼネカ（英）、ウイルス自体を注入する弱毒化ワクチンであるシノファーム（中）などの開発に成功し、大量生産がされ日本でも2月中旬頃から医療従事者や高齢者の先行・優先接種から始まり、現在では自治体での接種や職域接種などで一般の人でも摂取が進んでいる。しかし、このワクチンには発熱や接種部位の痛みなど比較的高い確率で副反応が発生することがあり、これについて国家賠償や補償などの請求をできるのかが問題の１つとして挙げられる。

前提として、事実的因果関係や過失の存在を加害者の損害賠償の支払いを求める被害者側が、証明しなければならないという証明責任を負うということになる。これは、新型コロナウイルスのワクチン接種後に副作用が出て、それについて国に対して損害賠償を求める場合、ワクチン接種と副作用との間の因果関係や過失を証明する責任を負うのは国民であるということになる。しかし、この証明は他の原因が多数存在する可能性があることから、非常に困難なものであり、請求は不可能ということになる。

（２）過失の範囲

ここで、「過失」とは何なのかを考えていく。過失については、行為無価値論と結果無価値論の立場から範囲が異なっており、そのことによって証明の範囲も変わっていくということになる。

法益侵害や人権を重視し、客観的な立場から考える結果無価値論の視点から考えると、主観的な予見可能性が過失の本質であるとする旧過失論を採ることになる。この旧過失論とは、結果の予見可能性・予見義務違反があれば過失は成立すると考えられ、過失の証明も予見可能性があれば当然予見義務も存在することが認められるので、予見可能性を証明すれば足りるということになる。さらに、結果無価値論的立場からは、過失の範囲を安易に変えることは「悪」と解釈されている。しかし、問題点として医療や運転などの行為によって事故を起こした場合、予見可能性があったとしてすぐに過失ありと判断されるということになり、医療や運転が増加する現代社会においてこのように判断するのは酷であるというものがある。

これに対して、倫理違反や社会秩序を重視し、主観的な立場から考える行為無価値論の視点から考えると、客観的な結果回避義務違反が過失の本質であるとする新過失論を採ることになる。この新過失論とは、結果が予見される場合に注意義務や結果回避義務を怠った場合に過失が成立すると考えられており、社会的に相当な行為は構成要件該当性がないとするので、旧過失論と比べ過失の範囲は狭くなっている。さらに、結果無価値論的立場からは、加湿の範囲は時代とともに変わっていくべきだと考えられている。

しかし、森永ヒ素ミルク中毒事件（徳島地判昭48・11・28）では、企業災害から国民を守るために、公害や薬害などの「未知の危険」が問題となる事件において、「危惧感説」が取られることが明らかになった。危惧感説とは、予見可能性の範囲を抽象化し、一般人ならば「危惧感」を抱くような状況において、結果回避のための措置を導くものであり、低い程度の予見可能性でもなお結果回避義務がありうるという理論である。この危惧感説をとることによって、過失の範囲は旧過失論よりも広くなっている。

　しかし、採用する過失論によって広すぎることや、狭すぎることがあるので「修正の理論」により調整されている。

（３）加害者保護

　過失の範囲を変化させることで加害者に不利になることがあり、それに対して保護を与えるものがいくつか存在する。

・許された危険

社会的に有益あるいは不可欠な行為は、それが法益侵害の危険を伴うものであったとしても許容されるとする理論。その行為から実害が発生したとしても、結果回避につき相当な措置が取られていれば違法ではないとする。この理論は、新過失論の基礎となるものである。

・信頼の原則

行為者は、他者が適切な行動に出ることを信頼して行動してよく、他者の予想外の不適切な行動によって生じた法益侵害については、その行為は過失責任を問われないとする理論。この理論も新過失論の基礎となるものである。北海道大学電気メス事件（札幌高裁判昭51・3・18）では、看護師には刑法上結果発生の予見可能性があったとし業務上過失傷害罪（刑法211条1項）を認定したが、執刀医については、「…手術開始直前に，ベテランの看護師を信頼し接続の正否を点検しなかったことが当時の具体的状況のもとで無理からぬものであったことにかんがみれば，…ケーブル接続の点検をする措置をとらなかったことをとらえ，執刀医として通常用いるべき注意義務の違反があったものということはできない」とし、無罪になっている。

・危険の引き受け

法益の主体が一定の特別な危険を認識した上で、あえてその危険に身を晒したことにより行為者による不注意等から結果が発生した場合、その法益侵害結果は違法視されないという理論。ダートトライアル事件（千葉地裁判平７・12・13）では、「ダートトライアル競技は、その性質上、転倒や衝突等によって乗員の生命、身体に重大な損害が生じる危険が内在しており、その練習においても、競技時と同様の危険が伴うことは否定できないこと・上級者が初心者の指導のために同乗するような場合、同乗者は前記の危険性についての知識を有しており、運転手が技術向上のために暴走、転倒等の一定の危険を冒すことを予見していること・同乗者は、運転手への助言を通じて一定限度でその危険を制御する機会もあること・そのような認識、予見のもとで同乗していた者については、運転手が予見の範囲内にある運転方法をとることを容認した上で、それに伴う危険を自己の危険として引き受けたと見ることができ、その危険が現実化した事態については、違法性阻却を認める根拠がある」として違法性を阻却している。

（４）被害者保護

　過失の範囲を変化させることで被害者に不利になることがあり、それに対して保護を与えるものがいくつか存在する。

・証明責任の転換

　権利行使を容易にするといった特別の政策的理由に基づき、一方の当事者が特定の事実について証明責任を負う場合に、特別規定や証明妨害の法理により反対事実について、挙証責任を負わない当事者に証明責任を負わせること。例えば、自動車事故による損害賠償請求について、民法709条に基づいて加害者に損害賠償請求をするときには、原告が被告の過失について証明しなければならないが、自賠法3条但書に基づき損害賠償請求をするときは、被告が過失がなかったことについて証明しなければならないというようなものである。また、民法770条（裁判上の離婚）のような権利根拠規定の場合は、不貞行為があったことなどの証明の責任は原告が追うことになり、この場合不貞行為があったことを証明できなかったときは離婚できないということになるが、仮にこの条文に「夫婦の一方が、他方の同意なしに外泊を行ったときは、不貞行為があったと推認する。」という規定が追加された場合、原告は被告が外泊をしたことのみを証明できれば、離婚できるということになり、被告が不貞行為がなかったことの証明責任を負うということになる。

・間接反証

　ある主要事実につき証明責任を負う当事者が、その主要事実を推認させるに足る間接事実の存在を証明した場合に、相手方がその間接事実と両立しうる別の事実の存在を立証することによって、その間接事実による主要事実の存在が疑わしいことを明らかにすることで、間接事実による推認を妨げること。

（５）賠償と補償

　賠償についての根拠条文として、憲法17条（国及び公共団体の賠償責任）が挙げられる。この条文には、「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。」とあり、さらに国家賠償法第１条１項には、「公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」とあるように、公務員が行った故意又は過失のある違法な行為については、国に対して損害賠償請求できるということである。補償についての根拠条文については、憲法29条（財産権）３項からわかるように、適法な行為によって生じた損害については、国に対して補償の請求ができるということである。

　ここからわかるように、違法で無過失な行為については賠償や補償が及ばないとされる国家補償の谷間が生じることが問題とされている。この救済手段として行為無価値論のたちばからは、過失を広げること、補償の範囲を広げる、憲法の改正を行うなどの方法が結果無価値の立場からは保証などで対応するという方法が挙げられる。

（６）物言う株主と利益相反

　証明責任の例として、物言う株主が代表取締役の過失より、会社に不利益が生じたことを理由に代表取締役に対して、損害賠償請求をする場合についても言える。この場合は、取締役に証明責任があると考える。根拠としては、会社法429条１項には「悪意又は重大な過失があったとき」には取締役は賠償責任を負うが、２項に「注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない」と記載されているからである。しかし、弱者救済の法律として、利益相反と第三者というも李、これにより被害者である会社が、取締役に過失があったことの証明の責任を負う。

（７）まとめ

　これらのことから、ワクチン接種による副反応の国家賠償や補償について現在では、困難なものであると考えられているが、私は行為無価値論の立場を推して、過失の範囲拡大などを行い、被害者保護・弱者保護の観点から補償を行っていくべきだと考える。しかし、ワクチン接種に関して日本は強制接種ではなく、任意摂取の形がとられており、昨年の予防接種法の改正により、努力義務が義務付けられたわけだが、強制というわけではないので、副反応があることを知った上で受けていると言うことになり、このシステムの上での賠償請求は難しいと考えるのが通常である。そこは、結果無価値論的な考えも取り入れ、健康保険などの適用など、保険の範囲を広げることも視野に入れて考えていくべきであると考える。

２，民主主義的中央集権制度（民主集中制）と民主主義（デモクラシー）

　現在の国家組織の原則として、中国に代表される民主集中制とアメリカに代表される民主主義の大きく二つに分かれている。これからの情報社会について、どちらの組織体制を支持していくことが正義であるのかを考えていく。

（１） 民主集中制と哲人政治(プラトン)

民主集中制の始まりについては、古代ギリシャの時代まで遡る。当時の古代ギリシャでは、アテネを活動の中心として、金銭を受け取って徳を与えるという弁論術などを使っていたソフィストたちが存在していた。ソフィストたちは、真理の探究よりも相手を論破することに力を注いでいた。これに対して、ソクラテスは「知らないことを知っていると思い込んでいる人々よりは、知らないことを知らないと自覚している自分の方が賢く、知恵の上で少しばかり優っている」や「最大の賢者とは、自分の知恵が実際には無価値であることを自覚する者である」と述べ、「無知の知」について説き、ソフィスト達のように報酬を受け取らずに、問答法を利用して、賢者たちが無知を指摘していった。しかし、無知を指摘された人やその関係者からは憎悪されることになっていく。そのようなことが原因で、アテネ市民により告発され、当時のアテネの裁判制度であった、501人の裁判員による古代の「裁判員制度」によって死刑になってしまう。これによって、偉大な師であったソクラテスを殺された、プラトンは民主政に疑問を抱き、哲人王を統治者として政治を行えば、理想的な国家になるという「哲人政治」がベストだと考え、この考え方が現代の民主集中制に繋がっている。

（２）社会契約論

こういった、権力集中（絶対王政）の理論に対し、それを批判したのが「人間は生まれながらにして自由・平等の権利を持つとし、それを保障するためには相互に契約を結び、権利を譲渡や信託することによって、政治を行なっていくとした「社会契約論」を採っていたホッブズ・ロック・ルソーである。さらに、モンテスキューが「法の精神」を著し、三権分立についてとき、これらの考え方が現代の民主主義に繋がっている。

（３）中国における民主集中制

　中国では、「共産党の行うことは、常に正しい」という前提から、共産党に権力を集中させ、一党独裁という体制になっている。日本やアメリカといった自由主義国家では、権力者でも間違えることがあるので、権力を分けることによって、相互に「抑制と均衡」を働かせることによって、人権を保障しているというわけだが、共産主義が「共産党の行うことは、常に正しい」という考え方になっている以上、「共産党は間違えない」ということになり、チェックする必要がないということになる。

　この民主集中制の利点として、新型コロナウイルス（SARS -CoV-2）への対応の速さが一つとして挙げられる。中国では、現在新規感染者はほとんど出ていない。このようになった根拠として、一早く武漢をロックダウンしたことやスマートフォンアプリ（日本でいうCOCOAみたいなもの）を普及させたことなどが挙げられる。なぜ対応が早かったのかを考えると、権力を集中させることで、決定までの時間や決定してから行動するまでの時間などが早くなるからだと考えられる。一方で、権力分立について考えると、法案や条例などを発議してから決定までの時間が長くなり、対応が遅くなっていると考えられる。

（４）まとめ

　このように考えると、これから先さらに変化していくと考えられる情報社会の中では、民主集中制の方が理にかなっていると考えられる。

３，不戦条約と集団的自衛権

（１）中台統一と一帯一路

　中国が現在押し進めている政策として、中台統一と一帯一路が例に挙げられる。中台統一とは、かつて一つの国であった台湾(中華民国)と中国（中華人民共和国）を再び一つの国としようとする動きである。一帯一路とは、2013年に中国が発案した、中国からヨーロッパにかけて陸路（一帯）と海路（一路）に長距離貿易ルートを確立することで、中国や他国で経済成長していこうとする動きである。しかし、一帯一路で問題となっているのが、中国の「債務の罠」による、金銭的侵略である。これは、スリランカのハンバントタ港の例からわかるように、中国の支援によって大規模な港を建設したが、借金の返済ができないという理由で、中国企業に運営権を引き渡すという「新植民地主義」というものになっている。

　中台統一については、日本の領土である尖閣諸島も問題となっている。中国の考えとしては、尖閣諸島は台湾の領土であり、台湾は中国のものであるから、尖閣諸島は中国の領土というものであり、このような主張をする原因となったのは1969年に国連によって、「尖閣諸島の近海に大量の石油が埋蔵されている」と報告されたからと言われている。

　仮に、尖閣諸島の占有や一帯一路による金銭的侵略が日本に及んだ場合、日本はどのような処置を取れるのかを考えていく。

（２） 不戦条約

　戦争の規定において、国際的な条約として、第１次世界大戦終了時に締結された、「不戦条約（戦争放棄に関する条約）」があり、第1条には「戦争放棄」が第2条には「紛争の平和的解決」が記載されている。さらに、国際連合憲章の第51条には、武力攻撃に対しての自衛権に関して「個別的自衛権」と「集団的自衛権」について記載されており、日本国憲法第9条１項に「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とされている。これらの規定から、武力攻撃・武力侵略に関しては、「個別的自衛権」及び「集団的自衛権」は認められていると解されるべきであり、一方で武力以外に対しては放棄せざるを得ないと解される。さらに、自衛隊法76条１項でも、武力攻撃に関して「個別的自衛権」及び「集団的自衛権」に関して出動が認められており、その上第88条には武力行使に関して「必要な武力」や「合理的に必要とされる限度」とされており、その範囲については詳しく記載されていない。

（３） 正当防衛と緊急避難

　自衛権について、正当防衛という形に当たるのか否かを詳しく見ていく。正当防衛とは、刑法36条で規定されており、・急迫不正の侵害があること・防衛の意思があること・防衛の必要性があること・防衛行為に相当性があることの４要件を全て満たすことで無罪になるとされている。

　ここで例を挙げて考えていく。�@地震によって柵から逃げた犬に襲われそうになった時に、逃げられたが反撃した場合、�AAとBは知り合いで、酔っ払ったAをBが介抱していたとき、通りかかったCはBがAを襲っていると勘違いして空手の有段者であるCがBを回し蹴りし、Bを殺してしまった場合。これらの例は、誤想防衛と対物防衛が問題として考えられる。

�@の場合、犬が襲って来ているわけだが、犬は刑法上「物」として扱われるので、「物は不正行為をすることはできない」という点から、急迫不正の侵害の要件に当てはまらないので、正当防衛は成立しない。しかし、対物防衛は成り立ち、対物防衛に関しては、刑法上は緊急避難として扱われるので、刑法３７条により無罪になると考えられる。「逃げられた」という点については、確かに緊急避難は回避・逃走を優先すべきとされているが、実際は対物防衛であるので、回避・逃走を優先すべき義務はないと考えられるので、結果は変わらないと考える。また、犬の飼い主が犬の怪我に対する損害賠償ができるかという点については、民法720条２項に対物防衛をしたものに対して、損害賠償請求できないことが記載されているので、損害賠償請求はできない。

　�Aは勘違い騎士道事件(最判昭62・3・26)を例にしたものである。この判例では、実際には正当防衛が成立するような「急迫不正の侵害」がないにもかかわらず、これがあるものと誤信し、防衛の意思を持って止むを得ずした反撃行為である、「誤想防衛」であり、さらに本件回し蹴りは、防衛手段としての相当性を逸脱おり、「過剰防衛」にも当たるとされた。このような結果から、被告人の行為は誤想過剰防衛にあたり、傷害致死罪が成立するが、警報36条2項により刑が減刑されるとされた。この判決は、誤想防衛を行為無価値論から派生される、厳格責任説をとり刑法38条３項の「法律の錯誤」を故意犯と判断することで、有罪にしていると考えられる。

（４） まとめ

　このような理由から、中国が仮に侵略してきた場合、日本において損害が発生することが確実であり、さらに平和的解決策がないとされる場合は、必要な範囲での反撃行為は「自衛」に当たり、認められると考える。

４，情報社会における精神病

　社会が発展するにつれて、重大な病は「感染症」や「生活習慣病」のように変化してきたが、情報社会において重要視されるのは、「精神病」と考えられる。特に考えたいのが、民法第770条１項４号における、「強度の精神病」の範囲についてと、後見人についてである。

　例を挙げて考える。認知症であるAがAの運転する自動車の過失によって、人身事故が発生したときに、（１）被害者であるBの請求できることについてと（２）Aの成年後見人にあたる妻Cが離婚請求することが可能かについて、さらに（３）Aが統合失調症の場合はどうなるかについて考える。

（１） Bの請求できること

　民法上問題となるのは、BはAに対して損害賠償請求できるのかどうかという点である。仮に認知症でなければ、当然に709条（不法行為による損害賠償）が適用されると考えられるが、認知症患者であり、さらに成年後見人が存在していることから、713条で言われている「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を書く状態」であると考えられ、賠償責任を負わないということになる。しかし、それで終わっては、被害者保護の観点から解決しているとは言えない。そこで、監督人であるCに対して、714条監督者責任を追及できると考える。このように考える原因として、加害者であるAと監督者であるCは不真正連帯債務であると考えられる。そのため、Aについての損害賠償請求が免除されたとしても、債権者に不利な事項については、相対効であるため、Cへの請求は免除されないと解されるからである。民法上は、認知症か統合失調症であるかの区別はない。

　刑法上は、仮に認知症でなければ、209条（過失傷害）が適用されると考えられるが、認知症の場合は39条２項により刑は減軽され、統合失調症の場合、39条１項により罰されないことになる。

（２） Cが離婚請求できるか

　日本では現在、離婚については「破綻主義」の考えを採用しており、これは、婚姻が客観的に破綻し回復困難となった場合に離婚を認めるべきというものである。さらに、裁判上の離婚について規定されている民法770条で、離婚原因として、１項４号に「強度な精神病」にかかった場合と５号には「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」と規定されている。このことから、「認知症」であるという理由だけでは、離婚することはできないと考えられる（判断材料にはなる）。ただし、既に破綻状態であった時にはできる。統合失調症の場合は、離婚請求すれば、離婚することは可能であると考える。

５，総まとめ

　いくつかの項目に分けて、現代の情報社会における課題や問題点について検討してきたが、どの問題にも様々な論点があり、多角的な視野を持って解決策を模索していくことが必要だと考える。情報社会が発展することによって、「いつでも・どこでも・誰とでも」アクセスし合える状況になっていき、効率面については、これまでの比ではないほどに成長することが予想される。しかし、これはいいことばかりではなく、単純労働などの減少やAI導入による雇用の減少に伴い、経済的弱者が増加すること、また情報社会においていかれる情報弱者の増加も考えられる。弱者保護を行なっていく国の政策なども必要不可欠だと考えるが、自分自身でも、時代にあった職の探求や情報を扱えるようになる努力など、自分自身の行動も必要であると思った。

（参考文献）

・六法

・Wikipedia

・授業板書

・勉強会

岩崎一也

情報社会における正義

18j110013 岩崎一也

キーワード：認知症、SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)、予防接種禍と過失、誤想防衛と対物防衛、物言う株主と利益相反、行為無価値論HandlungsUnwertと結果無価値論ErfolgsUnwert、民主集中制と哲人政治(プラトン)、法の精神(モンテスキュー)、中台統一と一帯一路、不戦条約と集団的自衛権、

　私は、情報社会における正義とは、資本主義に基づき、行為無価値論的考えのもと弱者を守る平等な世界であると考える。

1.はじめに

　去年に引き続き猛威を奮ったSARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)のワクチンは開発されたが未だ収束の目処は立っていない。そんな中東京オリンピックが開催された。安心安全に開催するため、経済を回すためにもワクチン接種は急務である。しかし、ワクチン接種を拒否する団体が虚偽の情報を発信し、ワクチン＝危険、副反応で死ぬ、といったデマを発信し続けている。このような情報に惑わされないためにもエビデンスのある情報を精査し、正しい情報を選択する力が必要である。

　また、ワクチン開発のなかで中国製のワクチンが闇取引で富裕層の中ではやった。しかし現在はその中国製のワクチンの性能に疑惑が上がっている。日本と古くから隣国として付き合ってきた中国だが中国政府はいかがなものだろうか、中国は社会主義国、日本は資本主義国、これからの付き合い方をいま一度考え直す時期に差し掛かっているのかもしれない。

2.予防接種禍

　現在、SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)に対して有効とされているワクチンは、モデルナ、ファイザー、アストラゼネカの３社である。効果と違いは以下の通りである。

メーカー	モデルナ	ファイザー	アストラゼネカ
接種方法	４週間で2回の筋肉注射	３週間で2回の筋肉注射	４週間で2回の筋肉注射
発症予防効果	９４％	９５％	７６％
接種対象	１８歳以上	１２歳以上	１８歳以上
変異株に対する効果	アルファ型には効果あり、ベータ型には効果が低下	アルファ型には効果あり、ベータ型には効果がやや低下	アルファ型には効果あり、ベータ型には効果なし
主な管理方法	冷凍 −20℃〜５℃で６ヶ月保存可能	冷凍 −７５℃〜１５℃で６ヶ月保存可能	冷蔵 ２〜８℃で６ヶ月間保存可能

　ワクチンを受ける際に厚生労働省は、「対象者には原則として接種を受ける努力義務の規定が適用される、予防接種による感染症予防の効果と副反応のリスクの双方について理解した上で、自らの意志で接種を受けていただいています。受ける方の同意なく、接種が行われることはありません」と明示している。つまり予防接種を受けるかどうかは個人の裁量で決めることができるということである。では、認知症患者や赤ん坊の場合はどうで絵あろうか。自己判断や意思の表示ができないのであるのだから予防接種は受けることが出来ないのか。

予防接種に関しては、「予防接種法」という法律で定められている。予防接種法第2条7項「この法律において『保護者』とは、親権を行う者又は後見人をいう。」 。予防接種実施規則第５条の２「予防接種を行うに当たっては、あらかじめ被接種者又はその保護者に対して、予防接種の有効性並びに副反応について当該者の理解を得るよう、適切な説明を行い、文書により同意を得なければならない。」　 つまり、親権をもつ父親か母親が文書による同意をすれば自分の子供に予防接種を受けさせることができるのである。 では、認知症になって、コロナワクチンの有効性・安全性、接種後の通常起こりうる副反応及びまれに生じる重い副反応並びに予防接種健康被害救済制度について説明を受けても理解できず、意思表示ができない高齢者の場合はどうなるであろうか。 厚労省は、高齢者施設に対して、「施設が家族や施設嘱託医の協力を得て本人の意思を確認し、自筆か意思確認した人の代筆で予診票の同意欄に署名してもらう」としたうえで、「認知症の人には分かりやすい言葉や絵、写真などを使って可能な限り本人の意思を確認して、意思確認ができない場合も成年後見人が いれば家族や主治医、入所施設の職員らと相談して接種できる」と通知した。 予防接種では親権を行う者又は後見人のみが保護者として同意権を認められており、それ以外の子供や孫や親族、ましては介護サービス提供者が本人に代わって同意することは原則認められていない。

　現在、特別養護老人ホームでは入所者の8〜9割が認知症といわれていて、成年後見制度を利用していない人が数多くいる。 認知症の人を抱える家族からは「国は、家族や親族の同意も認めてほしい」、施設からは「現場の実情に合った運用を認めてほしい」という声が上がっている。 田村憲久厚生労働相は4月23日の衆院厚労委員会で、認知症の人へのワクチン接種について「どのような形で本人の意思確認をすればいいのかを丁寧に示したい」と述べ、確認方法を明確にして近く自治体に通知を出すと発表したが未だ見解が示されていない。

　副反応により亡くなった場合に責任の所在がどこにあるかが問題になる。予防接種禍と過失という点で、判例で過失が認められなかったのも関わらず被害救済を判示した異例あの判決がある。

　予防接種ワクチン禍集団訴訟

　東京地裁昭和59年5月18日判決　判例タイムズ５２７号１６５頁

　要点　

予防接種法（昭和五一年改正前）の規定または国の行政指導に基づき自治体が勧奨した予防接種（インフルエンザワクチン、種痘、ポリオ生ワクチン、百日咳ワクチン、日本脳炎ワクチン、腸チフス・パラチフスワクチン、百日咳・ジフテリア二種混合ワクチン、百日咳・ジフテリア・破傷風三種混合ワクチン等）を受けた結果、副作用により障害または死亡するに至った被害児とその両親らが原告（被害児62名中訴提起前の死亡被害児を除く36名、その両親らの家族124名、合計160名）となり、民法上の債務不履行責任、国家賠償法上の責任または憲法上の損失補償責任を追及するとして、国を被告として損害賠償請求訴訟を昭和47年３月から六次にわたって提起した。裁判所は、予防接種と重篤な副反応との因果関係認定基準として次の四つの要件が必要であると解し、本件ではそのすべてが充たされているとして相当因果関係があるものと認めた。

（１）ワクチン接種と、予防接種事故とが時間的、空間的に密接していること。
（２）他に原因となるべきものが考えられないこと。
（３）副反応の程度が他の原因不明のものによるよりも質量的に非常に強いこと。
（４）事故発生のメカニズムが実験・病理・臨床等の観点から見て、科学的、学問的に実証性があること。　賠償責任については、種痘と他の接種とを複合して行い、通常量の倍の種痘を施したという一部の原告を除いて過失が認められず、賠償責任も認められないとしたが、憲法29条３項に基づく損失補償責任は認められると判示した。

　判決文

被告国は、伝染の虞がある疾病の発生及びまん延を予防し、公衆衛生の向上と増進に寄与するとの公益目的実現のため、各種予防接種につき、法により罰則を設けてその接種を国民に強制し、あるいは各地方公共団体に対し、国民に接種を勧奨するよう行政指導して各種予防接種を実施していたものである。

被告国のかかる公益目的実現のための行為によって、各被害児の両親は、各被害児に本件各接種を受けさせることを法律によって強制されあるいは心理的に強制された状況下におかれ、その結果、前記認定のとおり各被害児は本件各接種を受け、そのため死亡しあるいは重篤な後遣障害を有するに至ったものであり、このことにより、各被害児及びその両親は、後記認定のとおり予防接種に通常随判して発生する精神的身体的苦痛を超え、それらを著しく逸脱した犠牲を強いられる結果となった。そのことは、本件各被害児およびその両親にとって、予防接種により当然受忍すべき不利益の限度を著しく逸脱した特別の犠牲を余儀なくされたものということができる。

他方、本件における各被害児及びその両親の蒙った特別犠牲に対し、その余の一般的国民は、予防接種の結果、幸にして、各被害児らのような不幸な結果を招来することなく、また各予防接種によって伝染の虞がある疾病の発生及びまん延を予防され、よって、予防接種法が目的としている国民一般の公衆衛生の向上及び増進による社会的利益を享受しているのである。憲法二九条三項は「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。」と規定しており、公共のためにする財産権の制限が社会生活上一般に受忍すべきものとされる限度を超え、特定の個人に対し、特別の財産上の犠牲を強いるものである場合には、これについて損失補償を認めた規定がなくても、直接憲法二九条三項を根拠として補償請求をすることができないわけではないと解される従って、生命、身体に対して特別の犠牲が課せられた場合においても、右憲法二九条三項を類推適用し、かかる犠牲を強いられた者は、直接憲法二九条三項に基づき、被告国に対し正当な補償を請求することができると解するのが相当である。

　私見

　予防接種の副反応に関する判決は損害の範囲を多くカバーできる損害賠償が適用されてきた判決において、損失補償を適用した異例な判決である。私は、損失補償制度ではなく損害賠償制度を使い過失の要件を解釈的に緩和する必要があると考える。国家賠償法1条1項は、違法と過失を要件としている。その違法の意義については解釈が分かれているが、結果回避義務違反説に立ち、違法と過失の二元的判断がなされる場合には、違法であるが過失がないという事態が生じ得る。つまり国家賠償の谷間である。適法で有過失の場合は国家賠償法を使えるが、適法で無過失の場合は保証することが出来ない。従って過失を広げるのである。国家賠償法1条に定める「過失」要件を解釈論的に緩和する方法は、本来被害者である原告が負担すべき過失の立証責任を、被告側である国に転換することにより、国家賠償請求による救済を図れる。また、国家賠償法2条の「営造物」又は「設置管理」の語を広義に解して、実質的には同条1条の問題ともなるような事例を、2条の問題に引き直すことにより、無過失責任を認めることができる。

　過失に関しての説は大きく分けて4つある。旧過失論、修正旧過失論、新過失論、新々過失論である。その中でも旧過失論が結果予見義務、新過失論が結果回避義務である。結果予見義務と結果回避義務で問題になるのが、行為無価値論HandlungsUnwertと結果無価値論ErfolgsUnwertである。過失における行為無価値論HandlungsUnwertと結果無価値論ErfolgsUnwertの違いは以下の通りである。

過失に関して	行為無価値論	結果無価値論
本質	主観的に倫理違反か	客観的に法益侵害か
目的	社会秩序	人権保障
過失	結果回避義務違反	結果予見義務違反
理論	新過失論	旧過失論
違法無過失に関して	過失の範囲拡大	過失の範囲はそのまま

　私は、行為無価値論である新過失論を推している。

　ワクチン接種等の医療に関しては、新潟水俣病判決のように証明責任を病院側に転換することによって間接反証させて被害者を有利にさせることが必要なのではないかと考える。

3.代理について

　予防接種の認知症の人や子供に関して法定代理人について問題となったが、代理に関する問題が現代社会において他にもある。東芝問題である。

　東芝問題とは、昨年7月31日に開催された東芝の株主総会が「公正な運営」であったのかに疑義があるとする9月23日付けのアクティビストからの調査要求を、同社経営陣が無視したというところから始まる。調査を要求したのは、旧村上ファンドで活躍したメンバーがシンガポールで設立したエフィッシモ・キャピタル・マネジメント（以下「エフィッシモ」と略）。このエフィッシモ、問題の7月の株主総会の直前に株式を売却、保有比率を15.36％から9.91％に引き下げているが筆頭株主である。東芝と経済産業省が一体となって、少数株主の株主提案権の行使を妨げようと画策したり、一部の外国株主に不当な圧力をかけたりしたと指摘した調査報告書について、2021年6月14日には永山治取締役会議長が記者会見を開いて、「監査役のけん制機能が働いていなかった。コンプライアンス意識が欠如していたと言わざるを得ない」と、混乱する経営状況を陳謝した。

　東芝問題は、物言う株主と利益相反についてポイントである。C V Cが東芝に対して友好的買収という名目で今の取締役を続投させる条件で買収を進めた。東芝に買収案を持ってきた車谷氏は元C V Cの日本法人の会長である。物言う株主から辞任を迫られたときにホワイトナイトとして登場したのがC V Cである。そもそも車谷氏は三井住友銀行で副頭取を務めたバンカーだが、東芝の社長兼CEOに就く前はCVC日本法人会長の座にあった。車谷氏が「現在、CVCとは何の関係もない」といくら強弁したとしても、古巣が手を差し伸べている構図そのものは変わらない。車谷氏より問題なのが現在東芝の社外取締役についている藤森氏である。藤森氏は現在、CVC日本法人の最高顧問でもある。そのポストに見合う報酬をもらっている人が、片や東芝の取締役として、「買収提案に賛成するか反対するか」を主張できる立場にあるのだ。車谷氏はグレーだが、藤森氏に関しては完全に利益相反ではないかと考える。このような疑惑がある人間を重要なポストにおくべきではないと考える。藤森氏に関しては、今回の東芝と全く同じ構図のM＆Aが最近あった。2月に資生堂がヘアケア商品「TSUBAKI」を含む日用品事業をCVCに1600億円で売却した件だ。藤森氏は旧知の間柄である資生堂社長兼CEOに誘われ、昨年から同社の社外取締役にも就いている。さらに藤森氏は過去に東芝の子会社である東芝テックをCVCに売却しようと動いたこともあります。また武田薬品工業の社外取締役という肩書を持つ一方、同社の子会社で一般用医薬品を手掛ける武田コンシューマーヘルスケアをCVCに売ろうと画策したこともある。

　利益相反取引には２種類ある。直接取引と間接取引である。直接取引とは、取締役がその行為を行う当事者として取引することをいう（会社法356条1項２号）。直接取引の具体例としては、取締役と会社の間で行われる売買契約、会社から取締役への財産の贈与、会社の製品の取締役への譲渡、取締役から会社への金銭の貸付（ただし、無利息・無担保は除く。）である。間接取引とは、会社が取締役本人以外の第三者と取引することだが、この場合も会社と取締役の間の利益が相反する取引であれば利益相反取引になる（会社法366条１項３号）。間接取引の具体例としては、以下の例が挙げられます。会社が取締役個人に対して債務を保証する行為、会社による取締役個人の債務の引受、会社による取締役の債務を物上保証する行為である。

　利益相反に関する判例が以下の通りである。

　売掛代金請求事件

　昭和43年12月25日　民集 第22間13号3511頁

　最大判

　裁判要旨

一、商法第二六五条にいう取引には、取締役と会社との間に直接成立すべき利益相反行為のみならず、取締役個人の債務について、その取締役が会社を代表して、債権者に対し債務引受をする等取締役個人の利益となり会社に不利益を与える行為も包含されるものと解すべきである。
二、会社は、商法第二六五条に違反する取引のうち、取締役と会社との間に直接成立すべき取引については、右取締役に対して、その無効を主張することができるが、取締役が会社を代表して自己のためにした会社以外の第三者との間の取引については、右第三者が取締役会の承認を受けていなかつたことについて悪意であるときにかぎり、その無効を主張することができる。

　解説

　取締役会の承認を得ないでした利益相反取引の効力は、民法108条違反の場合と同様に一種の無権代理人の行為として無効である。だが、取引の安全性から、第三者の悪意・重過失を会社が主張して立証しなければならない。まとめると相対的無効説からは、

・直接取引の相手方→無効

・直接取引の転得者→悪意・重過失の場合のみ無効

・直接取引の相手方→悪意・重過失の場合のみ無効

となる。

4.中華人民共和国

　中国製のワクチンは本当に有効なのだろうか。ワクチン生産大国であるインドが自国の感染爆発のせいで海外への輸出を停止する中で中国製ワクチンの存在感が高まっているが、輸入国から「感染拡大防止の効果が疑わしい」との声が高まっている。最初に問題になったのはチリである。チリはワクチン接種が最も進んでいた国の一つだったが、4月に入ると国内で感染が再び拡大し、チリ政府は6月10日、首都サンチャゴの全域にロックダウンを再導入すると発表した。チリで接種されているワクチンの9割が中国のシノバック製ワクチンである。バーレーンでも同様の問題が起きている。バーレーンは中国のシノファーム製ワクチンの接種率が極めて高いのにもかかわらず、感染者が急増している事態を受けて、ワクチンの2回接種を完了した人を対象に米ファイザー製ワクチンの追加接種を開始した。インドネシアでは中国製ワクチンを接種した医療関係者数百人が新型コロナウイルスに感染したことが明らかになっている。

　かつての中国は、日本製といえば高品質、中国製は粗悪品という感覚であった。しかし中国のZ世代の若者の中では、以前は大人気だった日本のものや海外製品よりも中国製品を買う人が増えている。中国製品の品質が向上したのである。そんな中でのワクチン開発である。ワクチン開発に成功し欧米諸国のように買占めをさせずに新興諸国に分配し中国の権威を示そうとしたのだろうか。そのためワクチンの性能よりも開発スピードを優先させてしまったのであれば失敗だったのではないかと思う。インドネシアなどがワクチン接種以前と感染が変わらないのであれば昔の中国の粗悪品のイメージを再び与えるだけである。

　中国がスピーディにワクチン開発できたのは民主集中制であったためだと考える。では民主政治と民主集中制の違いは何であろうか。これは民主集中制と哲人政治(プラトン)が鍵となる。哲人政治の「哲人」という言葉ですが、これは「魂を構築する要素の中で、最も理性を占める割合が多い人」を指す。魂は三つの要素、理性・意思・欲望からできているという魂の三分説があり、プラトンはその理性の多い人間を「哲人」と考え、「哲人」が政治を行う体制のことを「哲人政治」と呼んだ。プラトンは哲人（＝哲学者）が政治を行うえば、理想的な国家を創れると考えたのである。なぜそのようなことを言い出したのかというと、それは衆愚政治が原因である。衆愚政治とは民主政治が腐ったもので、具体的にいうと古代ローマで初めて民主政治が始まり一般市民でも政治に参加することができるようになったのだが、民主政治が長引くにつれて選挙で勝つ人は人気者か口がうまい人だけになってしまい、頭のいい人や政治がわかっている人がいなくなり、政治はうまく機能しなくなってしまったのだ。これが衆愚政治である。そして、この衆愚政治を生み出す民主政治を否定し、哲人政治がベストだと考えたのがプラトンだった。プラトンは哲人こそが理想的な国家を知ることができると考えた、それはプラトンがイデア論という思想を核にしていたからである。プラトンは「私たちはこの世の中に、真の三角形を見たことがないのに三角形がどういうものかを知っている。真の三角形は異世界（イデア界）に存在している。」といい、国にもイデアが存在すると類推適用したのである。ただし、哲人政治も万能とはいえない。なぜならプラトンがいる間は政治が安定するかもしれないが、プラトンの死後はどうなるだろうか、弟子が受け継いだとしても何世代もプラトンの意思が受け継がれるとは思えない。ここで始まるのが独裁政治である。ナチスドイツのようにユダヤ人に対する人種差別が始まるのだ。現在の中国は大々的にナチスドイツのようには人種差別は行ってはいないが、陰で国際社会に知られないように人種差別を行っている。私は、哲人政治には反対である。権力を一点に集中させてしまうと必ず独裁化してしまう。これは歴史が物語っている。権力は分散させてできれば三権分立の法の精神(モンテスキュー)のように行ったほうが長い目で見たときに人権も政治も安定して守られるのではないかと考える。

今の中国は習近平国家主席率いる中国共産党による一党独裁である。中国の目標として中台統一と一帯一路である。

2013年に習近平国家主席が一帯一路構想を打ち出した背景には、�@TPPへの対抗、�A海外需要の掘り起こし、�B中国の内陸地域振興、の３点が挙げられる。2017年、アメリカがTPPからの離脱を表明したことにより、TPPに対抗する必要性は後退したものの、アメリカの対中政策の強硬化と自国第一主義への傾倒により、政治的に「親中」の立場をとる国を増やす必要性が高まった。そのため、習近平政権は、一帯一路によって貿易、投資、援助を拡大して「親中」国を増やすことを目指すようになった。

では日本は一帯一路に加入したほうがいいのであろうか。一帯一路の大きな問題点は、「AIIBと債務のわな」「米中対立の大きな要因」のふたつになる。

AIIBは、中国が主導するアジア太平洋地域のインフラ整備を支援する国際金融機関として2015年に正式に設立した。日本とアメリカが加盟するADB（アジア開発銀行）では対応しきれないほど増大する、アジア地域のインフラ整備に必要な資金のニーズに補完的に応えることも目的とし、設立後、AIIBの理事会で承認された累計融資額が120億ドルとされていた時期があった。しかし、実際に融資されたのは２割にも満たず、その多くはADB（アジア開発銀行）や世界銀行（World Bank）のプロジェクトに、相乗りするような協調融資となっているという報告がなされた。また2017年以降、一帯一路に対する批判として表面化してきたのが、中国による発展途上国への「債務の罠」と呼ばれる事例だ。スリランカは、中国から融資を受けて自国内にハンバントタ港という大規模な港を建設したものの、借入金の返済に行き詰まってしまい、中国企業にハンバントタ港の運営権を99年間引き渡すことになった。これまで一帯一路構想に協力的であった沿線の参加国にも波及し、一部の国では中国との経済連携に好意的だった政権が選挙で敗北、後の新政権によって事業見直しが行われるほどにまでなった。アメリカの研究機関「世界開発センター（CGD）」が2018年3月に発表した調査では、モンゴル、ラオス、キルギス共和国、タジキスタン、パキスタン、モルディブ、モンテネグロ、ジプチの8ヵ国が、一帯一路にともなった債務リスクを抱えていると指摘した。

米中対立に関しては、中国はその海上航路上にあるインド洋の港に中国海軍の船艇を配備している。インドはもちろん、西側の代表国であるアメリカの安全保障戦略において重要な問題となっており、さらに「デジタルシルクロード」と呼ばれる、一帯一路に含まれるオンラインネットワークの普及と活用に関する活動も、アメリカにとっての懸念事項となっている。問題は2017年に中国で成立した国家情報法だ。それによると中国の組織および個人は中国政府の要請に応じて情報を提供しなければならず、理論上では、デジタルシルクロードで拡張されている中国企業が保有している光ケーブルや新規格の高速大容量通信「5G」ネットワークなどを通過した情報について、中国政府が要請すれば、それらを入手できる可能性がある。

債務の面からも情報の安全性という面でも日本にはかなりのデメリットがある。

中台統一はこれまで限りなく不可能に近いと考えられてきた。民主体制下にある台湾の人々が共産党の独裁下にあり言論の自由もない中国との統一など、望むはずがないからだ。もし統一があり得るとするなら、それは中国による武力統一ということになるのだが、その場合、中国に十分な揚陸作戦能力がないこと、台湾空域で台湾側が航空優勢を確保していること、さらに台湾関係法に基づき、米国が台湾の安全保障にコミットしていることを勘案すれば、中国による武力統一も、限りなく不可能に近いのが現実だと考えられてきた。だが、経済面に限って言えば、中国と台湾は急速に緊密な関係を築きつつある。経済面での接近が政治面にも波及していくことは十分に予測できる。仮に中台統一が実現されたら、東アジアの安全保障環境は大きな変化に見舞われ、日本も対応を迫られることになる。

日本と中国間での一番の問題といえば尖閣諸島問題である。日本政府は、1895年1月、他の国の支配が及ぶ痕跡がないことを慎重に検討した上で、国際法上正当な手段で尖閣諸島を日本の領土に編入した。第二次世界大戦後、サンフランシスコ平和条約においても、尖閣諸島は日本の領土として扱われた上で、 沖縄の一部として米国の施政下におかれた。また、1972年の沖縄返還協定によって、日本に施政権を返還する対象地域にも含まれているなど、尖閣諸島は戦後秩序と国際法の体系の中で一貫して日本領土として扱われてきた。中国政府は、1895年の尖閣諸島の日本領への編入から、東シナ海に石油埋蔵の可能性が指摘され、尖閣諸島に注目が集まった1970年代に至るまで、実に約75年もの間、日本による尖閣諸島に対する有効な支配に対し、一切の異議を唱えなかった。サンフランシスコ平和条約で尖閣諸島が日本の領土として確認されて米国の施政下に置かれ、その一部を米国が射爆撃場として使用しても、尖閣諸島は中国共産党の機関紙や中国の地図の中で日本の領土として扱われてきた。中国は、主に15世紀から18世紀の中国の文献において、尖閣諸島の中国名の島名が現れることをもって、尖閣諸島を「発見し、命名」したと主張し、明・清朝の使節（冊封使）が琉球国に派遣された際の記録に、琉球国に向かう途中に尖閣諸島を通り過ぎたとの記載があったことをもって、尖閣諸島を「利用した」と主張している。しかし、本当に中国が島の発見や島の命名をしたか、また、数十年に1度派遣される中国王朝の使節が尖閣諸島を航路標識として利用したかは不明であり、また、それのみで領有権の主張を裏付けることにはない。国際法上、領域権原を取得するためには、明確な領有の意思を持って、継続的かつ平和的に領域主権を行使していることが必要だが、これまで中国は、自らが尖閣諸島をそのように実効的に支配していた証拠を何ら示していない。石油が出る可能性が発見されて急に権利を主張してきたのだ。

もしも尖閣諸島に軍事侵入してきたらどうなるだろうか。不戦条約と集団的自衛権の問題になる。攻めてきた場合に戦闘になれば正当防衛となるだろうか。この問題については、誤想防衛と対物防衛の問題が絡んでくる。国家レベルでの緊急避難をどう捉えるべきであろうか。日本国憲法９条によれば、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」と記されている。つまり日本は戦争放棄しているのである。では尖閣諸島に攻めてこられたまたは本国に攻められた場合は反撃することはできないのであろうか。その場合は、内閣総理大臣が自衛隊法に基づき「防衛出動」を発令する。防衛出動とは、日本に対する外部からの「武力攻撃事態」が発生したとき、もしくは「武力攻撃事態」が発生する明白な危険が切迫しており、日本を防衛する必要があると認められる場合に、自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣によって、命令されるものです。防衛出動は、特に緊急の必要があり、事前に国会の承認を得る時間的余裕がない場合を除き、原則として事前の国会承認を必要とするものだ。また、日米安全保障条約により集団的自衛権の行使がされ米国軍が共同で戦闘をしてくれるので安心である。また、国連憲章５１条によると、「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国が措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持又は回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章の権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。」と明記され国連軍の派遣が示唆されている。

誤想防衛と対物防衛の問題の判例で英国騎士道事件がある。概要は、1981年7月5日午後10時20分頃、空手3段の腕前である英国人の被告人は、夜間帰宅途中の路上で、酩酊した女性とそれをなだめていた男性とがもみ合ううち、女性が倉庫の鉄製シャッターにぶつかって尻餅をついたのを目撃した。その際、同女が「ヘルプミー、ヘルプミー」などと（冗談で）叫んだため、被告人は女性が男性に暴行を受けているものと誤解して、両者の間に割って入った。被告人はその上で、女性を助け起こそうとし、ついで男性のほうに振り向き両手を差し出した。男性はこれを見て、被告人が自分に襲い掛かってくるものと誤解し、防御するために自分の手を握って胸の前あたりに上げた。これを見た被告人は、男性がボクシングのファイティングポーズをとり、自分に襲い掛かってくるものと誤解し、自己および女性の身体を防衛しようと考え、男性の顔面付近を狙って空手技である回し蹴りをし、実際に男性の右顔面付近に命中させた。それにより、男性は転倒して頭蓋骨骨折などの重傷を負い、その障害に起因する脳硬膜外出血および脳挫滅によって、8日後に死亡した。

最高裁では過剰ということで傷害致死罪となった。私は、この判決に賛成である。いくら暴行を受けていたように見えても空手をやっていたのであれば手加減の仕方もわかっていたはずなので殺すことはなかったのではないかと思ったからである。

　対物防衛に関しては、私は行為無価値論に立ち正当防衛は成立しないのではないかと考える。正当防衛の成立要件は急迫不正の侵害があり、その侵害が人であった場合にのみ成立するからである。犬などの動物は法律上ものであるのだから成立しようがないのである。正当防衛が成立しないから緊急避難で対処しようという考えもいささか疑問に感じる。緊急避難の成立要件は正VS正であるのだから犬が襲ってこれば不正VS正の関係になってしまうのではないかと思う。もちろん犬を倒すために人のものを使って倒して結果的に物が壊れてしまえば緊急避難が成立するがそうでなければ成立はしないのではないかと考える。したがって犬に襲われたといった対物防衛に関しては、民法７０９条の不法行為による損害賠償請求でよいと考える。行為無価値と結果無価値での違いは以下のとおりである。

	行為無価値	結果無価値
防衛の意思	必要	不要
対物防衛	不成立	成立
偶然防衛	不成立	成立
過失による正当防衛	不成立	成立

5.まとめ

　私は、情報社会における正義とは、資本主義に基づき、行為無価値論的考えのもと弱者を守る平等な世界であると考える。

6.参考文献

　裁判所ホームページ　https://www.courts.go.jp/index.html

　株式会社日本総合研究所　https://www.jri.co.jp/

　内閣官房　https://www.cas.go.jp/jp/ryodo/index.html

　外務省　https://www.mofa.go.jp/mofaj/index.html

　国際連合　https://www.un.org/en

　

緒方千城

1. 結論

私は、情報社会における正義とは情報をいかに守れるかである。

2. 予防接種禍と過失

新型コロナウイルスSARS–CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)の出現により対面による様々なことがオンラインに置き換わった。テレワーク やオンライン授業をはじめ、押印の廃止、役所の手続きなどのオンライン化により情報社会への動きを加速させた。

(1)新型コロナウイルスSARS–CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)

2019年末以降から中国の湖北省武漢市から新型コロナウイルス（SARS–CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)）が発生し短期間で全世界に広がり今日も世界で感染が広がっている。発生初期に世界保健機構（WHO）は新型コロナウイルス感染症を“COVID-19”と命名したが、2020年に分析の結果、新型コロナウイルスは一般の風邪の原因となるウイルスや2000年代に中国の広東省仏山市から発生したSARSウイルスなどが含まれているところから国際ウイルス分類委員会（ICTV）が新型コロナウイルスをSARS–CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)と新たに正式名称とした。

この感染症の流行により世界各国で早急にワクチンの開発が進められた。いち早く開発に成功したアメリカのワクチンがファイザー社とモデルナ社の２社である。現在の日本もこの２社のワクチンを接種対象となっている。それに伴い摂取後の副反応について問題となっている。

(2)予防接種の副反応と予防接種ワクチン禍集団訴訟

予防接種の副反応による健康被害は稀だが健康被害救済制度にて救済できる。予防接種の副反応による健康被害は不可避的に健康被害が起こりうるもので、接種に係る過失の有無に関わらず、予防接種と健康被害との因果関係が厚生労働大臣により認定された時は予防接種法によりその救済を行う。

ワクチン接種により重症化予防などの効果もあるが、それと同時にワクチンによる健康被害が生じてしまうという事も否定できない。健康被害が生じた場合は国賠法１条により適用を受けることになる。予防接種による健康被害は稀に起きるが、損害賠償を求めて集団訴訟に発展したケースもある。その一つが昭和４０年代から長期期間問題となった予防接種ワクチン禍集団訴訟である。

この訴訟は改正前の予防接種法により国の行政指導に従い各地方公共団体が接種勧誘した各種予防接種を実施し、1種類または2種類の接種を受けた結果、右予防接種ワクチンの副作用により、疾病にかかり、障害の状態、または死亡するに至った事件である。当時の被害にあった被害児の両親らの合計１６０名（提訴前の死亡被害児を除く）が原告となり、当時厚生省が行っていた防疫行政につき、民法上の債務不履行責任、国家賠償法上の責任または、憲法上の損失補償責任を追及するとして、国を被告として損害賠償請求を提起した。裁判所は、予防接種ワクチン接種とその結果発生するとされる重篤な副反応との間に因果関係が存在すると認めるための基準として、次の４つの要件を解した。

一　ワクチン接種と、予防接種事故とが時間的、空間的に密接していること。

二　他に原因となるべきものが考えられないこと。

三　副反応の程度が他の原因不明のものによるよりも質量的に非常に強いこと。

四　事故発生のメカニズムが実験・病理・臨床等の観点から見て、科学的、学問的に実証性があること。

本件の各被害児らはこれら全ての要件を充足しているから、本件における各被害児に対する予防接種とその発生した結果との間には、相当因果関係があるものと認められた。次に被告国または厚生大臣の責任について、被告側が「予防接種の実施に際して、その強制によると勧奨による接種を問わず、予防接種を受ける国民の生命身体を侵害する事故が発生することのないよう万全の措置を講ずべき最高度の安全確保義務が債務として存在する」という主張は認められず、厚生大臣には、「未必の故意」による責任（本件の場合、予防接種により一定の確率で健康被害が起きることを認識しながらもそのまま続けた→未必の故意に該当）として違法に他人（原告側）に損害を加えたとして故意責任は認めることできず、被告国は、「具体的過失による責任」が存在した。予防接種について以下５つの注意義務違反の過失が存在するとし、民法上の債務不履行責任、または厚生大臣の公権力の行使についての国家賠償法１条の責任は、いずれも認めることができないとした。

一　予防接種が不明のワクチンあるいは危険性の高いワクチンの接種を廃止すべき義務違反

二　事故発生の危険のある若年者を被接種者としないよう接種対象者を決定すべき注意義務違反

三　禁忌該当者等事故発生の危険のある身体的状態にある者を接種対象者から除外すべき注意義務違反

四　安全のため可能な限りワクチンの力価（量）を減らし、免疫のため必要最小量を規定量と定めるべき注意義務違反、及び規定量以上を誤って接種することのないよう指示すべき注意義務違反

五　他の予防接種との間隔を十分にとったうえで予防接種を実施すべき注意義務違反

この訴訟のように予防接種による健康被害の損害賠償訴訟は多くは過失が一番の論点となる。

３．過失について

予防接種ワクチン禍集団訴訟にて過失が問題となったが、そもそも過失とは不注意や失敗が簡単な意味となるが刑法学的な意味をとると過失は行為者が不注意によって犯罪事実の発生を防止しなかった落ち度のある態度、つまり結果が発生することについて予見は可能であった状態のことである。近代の刑法は罪刑法定主義と並び責任主義（責任なければ犯罪なし、責任なければ刑罰なし）を確立した。行為者には責任能力が備わっていることが前提であり、認知症などの精神障害により責任能力が欠けていれば責任無能力者であり、犯罪は成立しない（刑法３９条１項）。これに加えて行為者には故意または過失が必要となる（同法３８条）。

（1）二つの学説

刑法で守るべき違法の本質は、法的利益（法益）であり、それが侵害されたことが違法となる。刑法の犯罪成立要件の一つである違法性について２つの学説が存在する。それが行為無価値論HandlungsUnwertと結果無価値論ErfolgsUnwertである。

違法性の本質を犯罪の行為に重点を置いて解釈する行為無価値論HandlungsUnwertと違法性の本質を犯罪の結果に重点を置いて解釈する結果無価値論ErfolgsUnwertであり、刑法学者によっては行為無価値論HandlungsUnwertの考えをとる学者もいれば結果無価値論ErfolgsUnwertの考えをとる学者もいるため二つの学説についてどちらが相応しいか議論されている。拳銃で人を殺した際に殺人犯が殺人罪で捕まった場合を例に二つの学説について詳しく考えていきたいと思う。前者の行為無価値論HandlungsUnwertは行為規範（人が守るべき規範）を維持して犯罪を防止しようとする立場からは、「行為」の悪さを重視し、行為規範に違反することが違法性の本質であるが、人の行動の良し悪しを判断にするには、「どのようなつもりで行動したのか」と言う後者の主観面も重要であるとして、違法性の本質の判断材料に主観的要素も含まれる。例に挙げた殺人罪について人を殺そうとする殺害「行為」が違法の本質に該当するということになる。

後者の結果無価値論ErfolgsUnwertは裁判規範（裁判官が守るべき規範）であるとする立場からは、「結果」の悪さを重視し、法益侵害が違法性の本質であるとするが、法益侵害は客観的なものであるから、違法判断は客観的な事情に基づき判断され、行為者の主観面は原則として違法判断に影響しないとされている。例に挙げた殺人罪について人を殺害して死亡させた「結果」が違法の本質に該当するということになる。

行為無価値論HandlungsUnwertと結果無価値論ErfolgsUnwertについて詳しく下の表にて簡単にまとめる。

	行為無価値論HandlangsUnwert	結果無価値論ErfolgsUnwert
違法性の本質	倫理違反　主観重視	法益侵害　客観重視
法の目的	社会秩序の尊重	人権保障　罪刑法定主義
過失について	結果回避義務違反	結果予見義務違反
過失犯	旧過失論	新過失論
正当防衛	防衛の意思必要	防衛の意思不要
対物防衛	緊急避難	正当防衛
偶然防衛	不成立	成立

(2) 誤送防衛と対物防衛

「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。」（刑法３６条１項）

緊急時に違法性が阻却されるのが正当防衛であり、不法な行為よりも、自己又は他人の権利を守る行為を保護すべきことから自分の正当な行為（正）に対して違法な侵害（不正）から正対不正の関係にある。反対に自分の正当な行為に対して正当な利益で正対正の関係にあたる緊急避難は自己または他人の正当な利益を守るために第三者の正当な利益を侵害する行為（自己の行為を正当化）のため正当防衛よりも要件が厳しい。

正当防衛と比較されることがある誤送防衛について規定はないが急迫不正の侵害がないのにあると勘違いして反撃した場合のことをいい、行為者は自分の行為が正当防衛として違法性が阻却されるため故意が阻却され、犯罪は不成立となる。

次に人間による侵害行為以外の「物」に対して反撃することを対物防衛というが、対物防衛は動物や物に対する侵害も不正の侵害といえるのか、物に対する正当防衛が許されるかが問題となる。

例えば犬に噛みつかれそうな者が、犬の頭を殴打しその犬を死亡させた場合、犬の飼い主に十分に管理していなかったとして飼い主に故意・過失が認められる場合には、犬の侵害は飼い主の故意行為・過失行為と推定できるので飼い主に対する正当防衛となる。だが、他人の飼い犬であった場合、犬に対する反撃行為は器物損壊罪（同法２６１条）の構成要件に該当するので、正当防衛の成否が問題となる。つまり対物防衛が問題となるのは、正当防衛における急迫不正の要件の「不正」な侵害といえるかどうかである。対物防衛について否定説と肯定説の二つが存在する。

否定説は、行為無価値論HandlungsUnwertにより不正な侵害は人間に基づく行為というように捉えて、侵害は人による「行為」でなくてはならないため動物や物の侵害は「行為」にあたらないとして、正当防衛の要件を満たさないとしている。

肯定説は、結果無価値論ErfolgsUnwertは法益侵害を本質としているため物や動物による法益侵害も「不正な侵害」にあたり被害者側の正当な法益を侵害していることから正当防衛を認めるとしている。

　

(3) 不戦条約と集団的自衛権

正当防衛が刑法上の人や物にもいえるが、急迫不正の侵害を排除するために、武力をもって必要な行為を行う国際法上の権利（自衛権）でもある。自衛権は自国や他国みたいする侵害を排除するための行為を行う権利である集団的自衛権と自国のみに対する侵害を排除するための行為を行う権利である個別的自衛権に区別される。国連憲章５１条にて個別的自衛権、集団的自衛権があり、全ての国連加盟国は自衛権を認められているが、自衛権は平和のために行使することから不戦条約にも関連している。

1928年に不戦条約はアメリカ合衆国を中心に結ばれた。あらゆる戦争が合法化と見做されている時代に第一次世界大戦が各国で甚大な被害を受けたことから、平和維持のための機関として国際連盟が結成され、軍事同盟によらない戦争防止の方策が模索された。そのため不戦条約はその後の国際法における戦争の違法化、国際紛争の平和的処理の流れを作る上で大きな意味を持った。さらに、この条約は自衛権の存在を否定していなことから憲法９条にて平和主義を希求していることから日本も自衛権もあるという解釈がなされている。

(4) 物言う株主と利益相反　

最後に過失が問題となった事件として東芝騒動を挙げる。

東芝騒動は主に物言う株主と利益相反が問題となった。２０１５年に東芝の不正会計問題（粉飾決算）が発覚し、金融商品取引法２１条の２において「上場会社が有価証券報告書等に虚偽記載をしたことにより株価が下落した場合、株主がその下落分の損害が請求できる」と規定されていることから今回の粉飾決算が該当し、「無過失責任」について争われた。

その後も巨額の損失、東証２部への降格などが起きたが、車谷氏が会長兼CEOになり東芝は黒字への転換、東証１部復帰など立て直しに成功したと思われるが、またしても問題が起きる。子会社での不正取引を公表、さらにCVCからの買収提案が報じられた。CVCは車谷氏の古巣であり、この買収案が車谷氏への利益相反なのではないかと思われた。当時の株主総会にて車谷氏の再任賛成割合は57%と危うい立場にあったが、古巣であるCVCからの買収により自身の地位は確立する。さらにこの買収による本当の目的は物言う株主（アクティビスト）からの脱却なのではないかといわれた。物言う株主からの圧力に追い込まれていた車谷氏は、株式を非公開にし、上場廃止により株の値動きをわかりにくしたり、ホワイトナイト（友好的買収者）によりアクティビストからの脱却も考えられた。

４. 政治哲学

情報社会、高度に変化してゆく社会における法律、法規範の役割の変化が見られる。現代の国家における法律などはイデオロギーに由来している。今日のアメリカや日本などの民主主義は法の精神（モンテスキュー）に中国やロシアにおいて国家組織の原則となっている民主集中制は民主集中制と哲人政治（プラトン）に由来していることから現代の政治思想は政治哲学に由来している。政治哲学は国家の本質、政治と法の関係、戦争と平和など扱う主題は幅広い。古代から政治は哲学的な議論はされており、西洋では古代ギリシア時代のプラトンやアリストテレスの時代まで遡る。

(1)民主集中制と哲人政治（プラトン）

当時の古代ギリシアの政治について考えると同時に哲学的な立場からも政治は研究されていて、古代ギリシアでは民会にて市民権がある成人男性による多数決による直接民主主義が行われていた。この時代から現代の民主主義の考えが誕生していた。西洋哲学の基礎を築いたソクラテスはポリス（古代ギリシアの都市国家）の法秩序は、人間の自然に基づく物で、重大な権威を持ち、また、人間の自然に反する法秩序に対しては、ポリスの説得という正義に適った方法をとるべきだと論じた。ソクラテスであるプラトンはソクラテスを刑死させたアテナイ民主制を批判し、哲学者による統治＝哲人政治を主張した。哲人政治とは理性の多い人間「哲人」が政治を行えば理想的な国家が創れるとして考えた。その原因として民主制が腐った衆愚政治が関係している。民主主義の利点は市民が全員政治に参加できることだが、選挙で口のうまい人や人気があるだけの人だけが当選し、政治を行うと国政はうまくいかなくなり、このような状態を衆愚政治と呼ぶ。そんな人を政治に参加させず理想国家を知っている人のみが国政を行うべきだとプラトンが考えたが、この考えは独裁政治にあたると思われるため民主集中制と哲人政治（プラトン）は現代の民主集中制に由来している。

　(2) 法の精神（モンテスキュー）

次に現代の民主主義に由来するのが法の精神（モンテスキュー）である。「社会政治学の父」とも言われたフランスの哲学者モンテスキューはアメリカ合衆国憲法やフランス革命の理念に大きく影響を与えた人物である。イギリスの政治に影響を受け、当時のフランス王政から市民革命期を経て発展した自由権という考えは、国王の権力の濫用を防止して、国民に権利や自由を確保するための「権力分立」の考えを生み出した。絶対王政による権力集中は、独裁政治を生み出すことから個人の人権まで侵害されてしまうのを危惧したことから権力を分けるという考えに至り、「法の精神」にて自由と権力についての重要性を述べた。この考えが後に国家権力を立法権、執行権、同盟権の三権分立を唱えたロックに影響を与え現代の民主主義の基となった。

5. 中台統一と一帯一路　

民主集中制を国家原則としている中国は近年、新型コロナウイルスSARS–CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)問題だけではなく台湾との中台関係が問題となっており中台統一と一帯一路が深く関係している。

(1) 台湾統一問題

中国と台湾との問題に台湾統一問題がある。中国共産党を中心に「一つの中国」を原則に台湾統一を目指す中国と中国とは違う主権独立国家を目指す台湾。

台湾の正式名称は中華民国で元々は、清朝(今の中国)の領土であったが日清戦争において日本が勝利し下関条約で日本の領土となった。第二次世界大戦で日本は敗戦し台湾から引き揚げ、中国本土から国民党の蒋介石率いる中華民国が台湾へ行き、共産党の毛沢東との中国本土の内戦に負け、中華民国は現在の台湾へと逃げ現在の台湾へとなった。

これにより中国は太平洋の影響力を行使するため「中国の一部」である台湾や尖閣諸島などを統一することが中国の目的である。

(2) 一帯一路構想

2013年に中国の習近平国家主席が一帯一路構想を打ち出した。そもそも一帯一路構想とは中国が打ち出した構想でアジアからヨーロッパを陸路と海路で物流を生み、そこで貿易を活発化させ経済成長につなげようとする大規模な経済圏構想である。

中国は昔ながらにヨーロッパとの陸路で結んだシルクロードを有しておりその現代版として宣伝し世界各国に参加を呼びかけている。陸路は中国西部から中央アジアを通りヨーロッパを通るシルクロードで（一帯）、海路は中国沿岸部から南シナ海から東南アジアへと抜けてインド洋を通り、アラビア半島沿岸部、アフリカ東岸へ向かう２１世紀の海上シルクロード（一路）という構想である。これらを合わせて一帯一路となる。一帯一路構想は中国の経済圏思想でもあるが同時に、新たな経済戦略であると言われている。中国のGDPは年々増加していき、国内投資から生み出された過剰な生産能力を輸出し、国内で行き詰まった経済成長を国外に広げることで、国内の生産余剰問題を解消するという新たな経済戦力である。

また中国と台湾の主要都市を結んだ６つのルートを計画している総合交通計画も目指している。これにより広東省と香港、マカオを統合したベイエリア地域（大湾区）の経済社会の発展し、香港・マカオの市民が大陸に進出するきっかけ、「一国二制度の実践内容を豊かにするもの」と謳われている。

６．まとめと私見

私が考える情報社会における悪とはデマなどの誤った情報の拡散である。情報社会における情報はと諸資源と同等の価値であるため、重要なものである。近年マイナンバーカードの導入により個人の医療情報、資産情報、税情報など一本化されているため、個人情報の漏洩リスクの危険性がある。そのような情報を漏洩した場合にも故意・過失について問われる可能性がある。そういったことから私は、結果無価値論ErfolgsUnwertの考えをとる。その理由として違法性は客観的に見るのが最適だと思うからであり、刑法では法益保護を目的とし、

その法益は客観的なもので、違法判断は客観的な事情に基づき判断されるからである。何より違法とは被害者の側、客観的に見ていくべきだからだと私は考える。

引用・参考文献

ポケット六法

法律学演習・英米法　授業ノート

コトバンク　「一帯一路」

警察官のためのわかりやすい刑法　佐々木知子著　立花書房

基本刑法1総論　第三版　大塚裕史・十河太郎・塩谷毅・豊田兼彦著　日本評論社

よくわかる法哲学・法思想第二版　深田三徳・濱真一郎編者　ミネルヴァ書房

予防接種ワクチン禍事件　

第一審–京都産業大学　https://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~suga/hanrei/120-1.html

https://info.yoneyamatalk.biz/判例/【憲法判例】予防接種ワクチン禍事件昭和59年5月18/

ワクチンについて

https://www.mi-net.org/yakugai/datrial/decisions/840518mctokyo.html

行為無価値論　結果無価値論

http://ma-se-law.jp/publics/index/79/

東芝騒動

https://blog.home.kingsoft.jp/business/20170306_19705.html

https://note.com/to10ya8/n/n43cbe7992749

https://www.dailyshincho.jp/article/2017/02171250/?all=1

不戦条約

https://rekishiclub.jp/husen-jouyaku/#i-2

モンテスキュー

https://seijikeizai7.com/montesquieu/

一帯一路

https://www3.nhk.or.jp/news/special/news_seminar/jiji/jiji22/

https://www.digima-japan.com/knowhow/china/16660.php

中台統一

https://www.yomiuri.co.jp/world/20210701-OYT1T50180/

https://diamond.jp/articles/-/268612

厚生労働省HP

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08851.html

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q2-1

下山孝明

テーマ　情報社会における正義

結論　「何が正しくないのか」という正義を定義することにより情報社会において変動し続ける時代に適応し繁栄する礎を作り上げる。

�T　情報社会、危険社会における結果無価値論ErfolgsUnwert

の優位性

　１　現在の実務での立場

刑法の任務とは「法益の保護」である。この立場は「法益侵害説」とされていて、平野龍一博士の説く結果無価値論である。この刑法の任務の定義は実務においても「折衷的行為無価値論」の立場が利用されていることから明らかな共通認識と言える。しかし折衷的行為無価値論は結果無価値論的な刑法の任務を掲げているのになぜ行為無価値論

HandlungsUnwertと結果無価値論ErfolgsUnwertの二つの立場の内、行為無価値論の立場を基礎としているのか？根拠として行為無価値論は結果無価値論とは異なり「規範違反説」をとるこれはM・E・マイヤー（M.E.Mayer）によれば、国家の承認した文化規範（Kulturnorm）と相容れない態度が、それぞれ（実質的）違法性の内容であるとされている。（日本では団藤重光博士の主張した立場である）つまり行為無価値論は「社会倫理」に基づく判断が可能で社会秩序に基づいた判決を下せるため柔軟性があるため今日の実務の立場を形成していると言える。

　

２　学説の対立

二つの立場は1956年（昭和31年）に刑法全面改正作業において対立する。

この改正において平野博士は、これを戦前の国家主義と応報刑論に基づくものとして批判している。社会倫理に依る刑法改正は不敬罪等の社会秩序に反する行為は国家の思うままに処罰できてしまうからである。

　３　情報社会、危険社会における問題提議

　さて絶えず形を変え続けるこの社会で私たちの「倫理」というのはどこまで確かな物だろうか？倫理も社会と共に変わりゆく物だと言える。例えば、「時代倫理」という物がその根拠で過去の身分制などである。確かに社会の変動に合わせ私たちが変わることは必要不可欠である。だがそれは刑法の任務ではないのだ。刑法はあくまでも個人の自由を保障できる集団統一の機能的な手段であるべきである。

つまり行為無価値論（規範違反説）ではこれからの社会の情報化と危険社会に適応できないということである。根拠として規範違反説が社会倫理に依るということは国家が正しいことを定めるという点で個人は自由な思想を失い多様性もなくすのである。これは「刑法の道具化」を招く。法は倫理を少しも必要としないべきである。民主集中制や哲人政治などの権力が集中した国家などではそれが適していて国家の運営を易くするかも知れないが、私は法が「正しくないこと」を定めその機能が働くことによって人は国家から与えられた正しいことではなく、法の定めた正しくないことを除いたことが出来るのであると考える。それは自由な社会と個人の保障を実現し多様性を生む。そうすることで社会の変動に私たちは「進化」で対応できるのである。

　具体的には現代社会においてSARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)大流行しているが数十年後、後遺症として脳内に侵入したコロナウイルスが認知症を発症させるとの懸念がある。これはあくまでも懸念であり科学的な立証はまだなされていない。しかし仮に将来コロナウイルスを過去に罹患した者の認知症患者が我が国に大量に発生した場合どのように保障するのか。

　４SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2) と認知症。予防接種禍と過失においての結果無価値論を用いた対応の模索

　結果無価値論の立場から予防接種禍と過失に向かい合ってみる。予防接種禍は違法無過失の典型例と言える。国賠法の一条では「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。」とある。しかしこの条文では違法無過失の時、憲法における基本的人権の保障が出来ない。ここに社会保障の谷間と呼ばれる問題点があるのである。

　私はこのケースこそ結果無価値論の出番であると主張する。実務では行為無価値論の立場で過失を拡大することが多く見られるが、結果無価値論はあくまで結果のみを見るのだから予防接種禍によって被害がでた場合は結果に則り保障が出来るのである。行為無価値論のように過失を広げつつも国賠法の射程範囲を広げすぎないようにする等の注意も不必要である。

例えばSARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)の予防接種においてもファイザー製ワクチンを打った後に、モデルナ製ワクチンを打ってしまう等の打ち間違えが発生したがこれは健康被害が確認されていないため問題はないであろう。しかし前述した通り認知症などの後遺症を数十年後に発症した場合過失の特定は困難を極め原因特定の努力をしてもコロナウイルスによる障害か国家の進めたワクチン接種による障害かは特定不可であろう。厚労省は副反応による健康被害が起きた場合は予防接種法に基づく救済をするとしているが過去の予防接種禍が又生まれることが予測できる。このような状況下において私は結果無価値論的に仮にワクチン予防接種をした者が認知症を発症した場合その結果のみに着目して憲法第十三条「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」を用いて公共の福祉から保障するのである。

　５誤想防衛と対物防衛における結果無価値論と行為無価値論の違いどちらを採用するのか

先ず誤想防衛は違法阻却事由の錯誤が論点となる。結果無価値論と行為無価値論では行為無価値は厳格責任説を結果無価値では制限責任説をとる。

厳格責任説は違法性の錯誤を意識の可能性として問題と捉え、故意を阻却する。しかし、事実の錯誤は禁止の錯誤となり誤想防衛が成立しない。制限責任説は違法性の意識の問題とせず故意を阻却する。故意が阻却されるとどうなるのか？故意は犯罪成立要件の一つであり、犯罪が成立しない。正対不正の関係であるからして正当防衛となる。そのため判例では結果無価値論的に事実の錯誤があったとして誤想防衛は無罪であり、過失が存在した

場合に過失傷害罪などが成立するのである。厳格責任説は構成要件該当事実を故意の要件としないので、主観的である等の批判が思い浮かぶが、制限責任説では法律の効果を制限するだけであるからそうした批判を受けない。（筆者は結果無価値論の刑法には倫理を持ち込まないという立場なのでこうした批判を受けない立場に立つということは本論文の論拠を組み立てるに当たって重要な要素であると考える。）

次に対物防衛では行為無価値論に則り緊急避難の条文を使うが緊急避難の法的性質について責任阻却事由一元説と違法阻却事由一元説がある。通説では違法性阻却事由一元説である。正対正の関係である緊急避難は刑法第３７条において許されていると言うことと法益保護は刑法の任務であると考えるから、対物防衛を法益保護のための程度を越えない行為は緊急避難と捉える事が出来るのである。責任阻却事由一元説は防衛行為が社会倫理に矛盾するため緊急避難を違法と捉えるほかない。

　６　物言う株主と利益相反

私は本論文において「正しくないことを定義する」ことそして社会倫理は国家や様々な事象によって変化するものであるから法の脱倫理化をするべきと主張しているが、この章においても主張することは同じである。国家の主導する社会は変化をもたらさないのである。

古くから我が国は財閥が発展するに当たってサイレントパートナーの慣習が長く続いた。出資者は静かに見守り配当を受け取るのみである。しかし現代において出資者つまり株主は静かではない金融規制改革などによりその影響力は増した。配当のために企業の成長を期待し口を出すのである。それが物言う株主である。東芝問題ではCVCによる買収を利益相反とエフィッシモグループが再調査させるなどして問題になったが、経済産業省が東芝と連携して投票を操作したことも問題になるなど日本の慣習が揺らいでいる。

確かに国が会社を引っ張っていくことによるメリットも存在するし我が国はそうして発展してきた。しかし物言う株主が影響力を強めている現在、そうはいっていられない。

�U　民主集中制国の台頭と我が国の安全保障

　　自由とは何か。中台統一と一帯一路を掲げる中国は、我が国は勿論のこと世界諸国の奥深くまでその影響力を拡大している。古代ギリシャにおいて哲人政治が発案されたように我が国やドイツ、イタリアにおいてファシストが台頭したように自由民主主義政治への信頼は現在、民主集中制の力強さに大きく揺らいでいる。

民主集中制と哲人政治（プラトン）などその強さはどこから生まれるのか？それは変動を続ける社会において独裁や一権集中的な体制は有事の際、即座に国家をまとめ動くことが出来るという点で素早く、効果的に、そして何より国民は権力者の決断力に安堵しその効果を実感する。法の精神（モンテスキュー）は三権分立を説き民主主義の基礎となったが有事の際には機能しない。これはコロナ禍のワクチン接種においてもその長所と短所を日本人の我々も理解させられている。また民主集中制国家だけではなく、民主主義国家においても民主集中制国と同様の制度がある。ワイマール憲法には国家の有事の際は民主主義が機能しないことを見越して議会を通さず国を運用できるという「非常大権」が存在していた。又反対に、中国も経済においては自由主義的な制度を取り入れるなど、民主集中制と民主主義は根本的には差異がないことがよくわかる。

２　現状を踏まえた我が国の安全保障

　我が国には不戦条約と集団的自衛権があるがこのうち不戦条約は憲法九条として存在している。政府見解では憲法九条において自衛権（集団的自衛権含む）が否定されていないことから必要最小限の自衛権は認められるものとしている。しかしパワーバランスが崩れ始めている今我が国は他国に領土を占拠されたとき、議論をしている暇はあるだろうか？これは一つの意見ではあるが、我が国もアメリカの大統領令の様な制度の導入を検討する必要性があるとここに主張しておきたい。確かにトランプ大統領の大統領令の濫用は社会の混乱も招くし歴史を振り返れば、民主主義の皮を被った独裁国に変貌する可能性もある。しかし昨今の不安定な情勢下で我々は民主主義を守るために民主集中制を良く理解しうまく民主主義に組み込む必要があると言えるだろう。

出典　

平野龍一博士の刑事実体法論 — そのイデオロギー的背景について 村 井 敏 邦

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcl/45/2/45_308/_pdf

クラウス・ロクシン 쓕刑法の任務としての法益保護」 松 原 芳 博

https://waseda.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=9068&item_no=1&attribute_id=162&file_no=1

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%BC

渡邉裕太

　何度も申し訳ございません。 キーワードが一部分赤字になっておりませんでした。 お手数おかけしますが、宜しくお願い致します。

法律学演習�T&英米法�T「情報社会の正義」

19J110012 渡邉裕太

キーワード:認知症、SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)、予防接種禍と過失、誤想防衛と対物防衛、物言う株主と利益相反、行為無価値論(HandlungsUnwert)と結果無価論(ErfolgsUnwert)、民主集中制と哲人政治(プラトン)、法の精神(モンテスキュー)、中台統一と一帯一路、不戦条約と集団的自衛権

(1) 結論

結論として私は情報社会の正義とは、様々な情報が流通している中で個人が自分の意思を持つことだと考えている。

(2) 情報社会と新型コロナウイルス

情報社会とは、情報が諸資源と同等の価値を有し、それらを中心として機能する社会のことである。[1] 1990年代以降、世界には急速にインターネットが普及していき、様々な情報が誰でも簡単に手に入るようになった。

しかしながら、これには、もちろんデメリットもある。 それは、様々な情報が錯乱していて、何が本当の情報で何が嘘の情報なのかを判断するのが、とても難しいことである。 このデメリットが大きく影響してくるのが、現在起こっている新型コロナウイルスこと、SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)のような未知の病気が大流行したときである。 このような未知の病気が大流行したときに、情報社会のデメリットが大きく影響する理由は、嘘の情報と本当の情報があっという間に拡散されてしまい、未知である為、判断材料も無いまま情報の真偽の判断を迫られる点にある。 しかも、未知の病気に関する情報の判断によっては生死に直結する事もある。 膨大な情報が手に入る利便性の裏には危険な事も必ず含んでいるものである。

(3) 新型コロナウイルスワクチンから学ぶ過失と情報社会

最近は、日本でも新型コロナウイルスのワクチンの接種が始まったが、この事により様々な真偽不明な情報が出回ってしまった。

例を挙げてみると「新型コロナウイルスのワクチンを接種すると5年以内に死ぬ。」「新型コロナウイルスのワクチンを接種すると流産する。」「新型コロナウイルスは大量破壊兵器。」などという情報である。 私の感想を述べさせてもらうと真偽不明な情報かつ、あまりにも科学的根拠は無いような情報であると思ってしまうが、この情報を本当だと仮定し、ワクチン接種を反対する人が多いのも事実である。 このような反対している人の中で最も厄介なのが、他人にもワクチンの接種をさせない事を強制してしまう人が存在する事である。 ある事例では、新型コロナウイルスのワクチンの予約表を反対する婚約者に無理矢理破られたということもあるようだ。

そして、日本ではこのような事情や、新型コロナウイルスに対する様々な対応が遅かった事もあり、新型コロナウイルスのワクチン接種率があまり上がっていないのである。 これは大問題である。 私の意見では、基本的人権を尊重するならば、接種するかしないかの自由はあるとは思う。 しかし、本気でこのパンデミックを収束させる事を考えるならば、ある程度はワクチンを接種することを強制しないと治らないと考えている。 だが、このようなワクチンの情報にも本当の事はあり、ワクチンを接種すれば副作用が起こることや、ワクチン接種後に死亡した事例が7月21日現在、751件もある。[2] これはあくまで接種後に死亡した事例であり、ワクチンが原因で死亡したという因果関係まではない。 しかしながら、もしもこの因果関係が証明された場合、誰が責任を取るべきなのだろうか？ これが予防接種禍と過失の問題である。 この問題は旧過失論や新過失論、もしくは行為無価値論(HandlungsUnwert)と結果無価論(ErfolgsUnwert)のどっちの立場に立つのかによって結論が変わってくる。

このような具体例の事件として薬害エイズ事件がある。

・薬毒エイズ事件

1980年代に血友病患者に対し、加熱処理をせずウイルスの不活性化を行わなかった血液凝固因子製剤（非加熱製剤）を治療に使用したことにより、多数のHIV感染者およびエイズ患者を生み出した事件である。非加熱製剤によるHIV感染の薬害被害は世界的に起こったが、日本では全血友病患者の約4割にあたる1800人がHIVに感染し、うち約400人以上がすでに死亡しているといわれる。[3]

この事件についても新型コロナウイルスのワクチンの例についても、私の意見としては行為無価値論、つまり新過失論の立場に立つ。 何故ならば、このワクチン接種問題の場合、結果回避義務はあるのはもちろんの事だが、結果回避や予見義務をあまりに重視しすぎてしまうと「誰もワクチンを作らなくなってしまうのではないか？」と私は考えている。 但し、重視しすぎてしまう場合に問題があると述べているだけであり、薬毒エイズ事件のような、非加熱製剤を使用した事例では、予見義務の有無の判断基準を厳しくするべきだとも考えている。

ワクチンを作る以上、必ず副作用が起こり、高確率で死者が出てしまう。 この事を踏まえた上で接種者はワクチンを接種するべきであり、ワクチン開発会社が結果回避義務を怠ってない限りは、責任は発生しないというのが私の意見である。 しかしながら、ここでまたしても難しい問題が発生する。 私は先ほど自分の意見として「本気でこのパンデミックを収束させる事を考えるならば、ある程度はワクチンを接種することを強制しないと治らないと考えている。」と述べたが、パンデミックを治める為に、ワクチン接種を強制し、もしも副作用によって何か起こった場合に、開発側が結果回避義務を怠っていなければ、責任を逃れるという理論はあまりにも被害者にとって残酷である。 私がワクチン接種に自由があると思うと述べた理由はここにある。 ワクチン接種を強制する事は、集団免疫を高める上で必要である。 しかしながら、先ほどの問題や基本的人権の事を考えると現実的ではない。 なので、私はワクチン接種の自由をある程度認めた上で、個人自身が情報を見極めてよく考えてからワクチンを接種して欲しいと考えている。 1つの情報を見て危ない物、もしくは安全な物だと仮定するのではなく、様々な情報を見てから、自分はどうするかを考える個人が増えれば、ワクチンの接種率は上がるであろうと私は思う。 この考え方はワクチンの問題だけではならず、情報社会に置いて非常に重要な考え方である。

(4) 罪の考え方

　ワクチン問題だけではなく、他の問題でも過失の在り方が罪の在り方に直結すると言っても過言ではない。 認知症の患者が起こした事件や、誤想防衛と対物防衛のような違法性に関連する事件や、物言う株主と利益相反の問題など様々な事件が過失の在り方と関連している。 この関連の事件の具体例では「JR東海認知症事故訴訟」「勘違い騎士道事件」「東芝の不正会計」などが挙げられる。

このような問題も全て含めて、私は過失の幅は狭い方、つまり新過失論の考え方の方が良いと考えている。 様々な考えがあると思うが、過失が広い方、つまり旧過失論や結果無価値論の方の考え方に立ってしまうと、結果を重視するので、故意が無くても結果が生じてしまえば重く罰せられる可能性があり、あまりにも残酷な結果になってしまう事がある。 逆に行動に犯罪の故意があったとしても、不能犯のように結果が生じなければ無罪という事があり得てしまう。 なので、私は結果よりも結果に行きついた過程や背後にあった事情から罪を考えたいと思う。

(5) 政治と新型コロナウイルス

　現在起こっている新型コロナウイルスこと、SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)の問題が原因で、日本は今、国家のやり方などに疑問を呈されているのが現状である。 新型コロナウイルスは中国で発生したものにも関わらず、中国の対処は早かった。 しかしながら、日本は東京オリンピックの開催があるにもかかわらず、新型コロナウイルスに対する対処が非常に遅かった。 全年代のワクチン接種の案内が終わる前に東京オリンピックが始まってしまった事、もしくは東京オリンピックをこのような状態で開催してしまった事や、緊急事態宣言の多用など、様々な事に対して国民からは批判の嵐である。

　それに比べて、中国は徹底した監視や水際作戦、新種のウイルスが発見された場合には地区の閉鎖、市中感染が確認された場合、その地域の住民の移動を制限し、全員にPCR検査をするなど非常に徹底されている。[4] このようなパンデミックを対処する上で良い意味で他国に比べて非常にフットワークが軽い。

何故、日本は対処が非常に遅く、中国の対処は早かったのであろうか？ この問題には様々な要因があるが、これは政治の形態にあると言っても過言ではない。

日本は議院内閣制の国であり、法の精神(モンテスキュー)の影響を受け、立法、行政、
司法の三権分立をしている国である。 それに比べて、民主集中制と哲人政治(プラトン)の影響を受けて中国は権力集中制という国家権力が1つに集中している形の国である。

プラトンの哲人政治とは、独裁制により哲学を学んだ者に強大な権力を付与し、意志決定を速やかに行うことで、強力な改革を行う政治の事である。[5] プラトンの師であるソクラテスが民主政治の下で理不尽に処刑された事からプラトンによって唱えられた思想である。 この哲人政治に対して、国民主権の下で生きる私たち日本人の多くは、否定的な意見を持っていたのではないかと私は思っている。 そして、私もその内の1人である。

しかしながら、この政治体制を保ってきた中国が近年急激な経済成長を遂げ、新型コロナウイルスのパンデミックに強力な政策をより早く取れたのは、この民主集中制という政治体制が主な要因の1つであるのは間違いない。 だが、この民主集中制はもちろんデメリットもある。 それは、1つのところに権力を集中させると権力者が権力を濫用したときに、それを止める事が非常に難しいところにある。

私の意見として、日本の形態、つまり法の精神(モンテスキュー)の理論のように権力分立をしている事に関しては、良い体制だと考えているが、この問題の前に、今の日本では上手く政治が機能していないと苦言を呈さざるを得ない。 というのも、自分自身が最近見た政治家たちのマニフェストには、現状では明らかに実現不可能である事などが羅列されているケースがある。 そして、票を集める為にはしょうがないとは思うが、都合の良い事ばかり書いてあり、若い世代よりも高齢者にとって都合の良い事が多く書かれている事が多いように見える。 そして、私が投票に行く度に思うのは自分と同じ世代の人たちが全く投票に来ていない。 このような事が合わさると、実現不可能な事、もしくは高齢者にとって都合の良い事をマニフェストに書いている政治家が当選してしまい、最終的にはマニフェスト通りにいかないまま、国民に媚を売るような形で強力な政策を打ち出せずに終わってしまう。 このような政治が上手く機能していない状態を解決するには、まず都合の良い事ばかりではなく、苦しい現状にも目を逸らさずにしっかりと向き合うことである。 そして、若い世代がしっかりとこの先をどうすべきかを考えて投票をする事が非常に大切である。 投票率から見ての通り[6]、殆どの若い世代が政治に無関心という事は明白である。 だが、この新型コロナウイルスによって様々な不満などを抱えている若い世代は多く居るのもまた事実であり、この事は日本の政治の在り方を考える大きなチャンスでもあると、私は思っている。

(6) 今後の世界と日本の関係

　新型コロナウイルスのパンデミックによって、今後、更に世界は大きく変化すると予想できる。 何よりも世界中が不況に陥ると、それが戦争の火種となりかねない。 特に今の日本と中国では新型コロナウイルスの問題以外にも尖閣諸島問題があり、中国は中台統一と一帯一路構想を打ち出しているという点から見ると、日本と中国、そしてアメリカの関係は非常に危険な状態にあると言っても過言ではない。

ここで、憲法9条の在り方や不戦条約と集団的自衛権の問題を考えてみたい。 不戦条約やそれに影響された憲法9条などの「国際紛争を解決する手段」に自衛権は当たらないとしているが、果たして本当にそうなのだろうか？

日本は憲法9条に戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認の3つの要素から構成されているが、私の意見では、自衛権を行使するには戦力(自衛隊 - 日本では最低限の実力とされている)を所持していないと不可能であるし、個別的自衛権ならまだしも、他国が攻撃されて集団的自衛権を行使する事が、戦争の放棄と交戦権を否認している状態とは言い難い。

先ほど「日本と中国、そしてアメリカの関係は非常に危険な状態にある」と述べたが、何故、アメリカも危険な状態にあるのかというと、憲法9条以外にも日米安全保障条約の問題があるからだ。

日米安保条約5条

「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。」

日米安保条約6条

「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。」

私の意見では、この条文を見ると、日米安保条約を結ぶという事は日本とアメリカが軍事同盟を結ぶという事であり、集団的自衛権の行使に該当するものである事は明白である。 これにより将来、新型コロナウイルスの対処に難航している日本とアメリカと、中台統一を目指している中国がどちらかとぶつかってしまった時に、この3つの国が戦争に発展する可能性はゼロではない。 このような状況であるからこそ、私たちは憲法9条の在り方や、日米安保条約と不戦条約と集団的自衛権の問題などを、今一度考える必要があるのではないだろうか。

(7) 終わりに

　中江先生が「新型コロナウイルスは現代の黒船」とずっと仰られているように、世界は今でも既に変化しているが、現在以上に変化する可能性がある。 今のような世の中だからこそ、ある意味では良い機会であると私は考えている。 政治やワクチン接種のような問題以外にも、様々な事を考えて個人が意見を持つこと、そして、何か物事を考える上で、この情報社会の情報をヒントとする事が重要なのではないだろうか。 これが私の考える「情報社会の正義」である。

・その他の参考にしたもの

　法律学演習&英米法の板書

　犯罪学(堀田晶子先生)のレジュメ

　自分のノート

　佐伯仁志、大村敦志/編集代表『ポケット六法 令和3年版』有斐閣(2020)

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木村星太

情報社会における正義

演習�V　18J110007 木村星太

キーワード

認知症、SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)、予防接種禍と過失、誤想防衛と対物防衛、物言う株主と利益相反、行為無価値論HandlungsUnwertと結果無価値論ErfolgsUnwert、民主集中制と哲人政治(プラトン)、法の精神(モンテスキュー)、中台統一と一帯一路、不戦条約と集団的自衛権

1.結論

情報社会では多くの歴史を知り、どんな時も自分の頭で考えて行動することが正義である。

2.民主集中制と三権分立

まず民主集中制とは、民主主義的中央集権主義の略で、ロシア社会民主労働党が採用した党組織の原則である。また、コミンテルンの加盟政党に普及するとともに、ソ連や中国において国家組織の原則へと拡張されていった。最近では中国が民主集中制の代表となっている。民主集中制の歴史を見ると、マルクス・レーニン主義というのがある。これは、マルクス主義の一つの潮流であり、ボリシェヴィズム、ロシア・マルクス主義の中心でもある。レーニンの死後、ヨシフ・スターリンによって提唱され、定式化された、ロシア革命の指導理念としてボリシェヴィキの指導者ウラジーミル・レーニンが案出したものである。またそれを一般化・普遍化した思想である。民主集中制とはもともと分派結成の自由も含めた異論の表明は保障するが、少数は多数の決定に従わなければならないとする組織原則である。ボルシェビキは、17年革命以前は分派結成の自由を保障していた。革命後の内戦・帝国列強のロシア侵入に対する戦争の中で指導部の指導力を強める必要から、ロシア共産党は1921年に一時的な措置として分派の結成を禁止した。スターリンは、レーニンの死後、党は討論クラブではないとして、分派の禁止を民主集中制の原則にまで高めた。以後、第二次大戦後も各国共産党は、分派を禁止する一枚岩の組織原則としての民主集中制を保持し続けた。それは党内討論よりも指導部による方針の上意下達を優先する、各国の共産党を例外なく蝕んだ組織内官僚主義の組織論的根拠となったと言えよう。民主集中制の組織原則は党の方針について、全党的な議論をする、多数決によって決定された方針の正誤は、全党の実践を通じて検証するという組織原則である。民主集中制の組織原則を乱暴に破壊したのはスターリンであるとされる。スターリンはレーニン死後、指導部の90%余りの幹部を粛清して独裁体制をつくりあげた。ここで民主集中制と哲人政治(プラトン)について考える。ではプラトンとは一体どのような人物なのか。プラトンは、古代ギリシアの哲学者であり、ソクラテスの弟子にして、アリストテレスの師に当たる。プラトンは、師ソクラテスから問答法と、正義・徳・善を理知的かつ執拗に追求していく哲学者としての主知主義的な姿勢を学び、国家公共に携わる政治家を目指していたが、三十人政権やその後の民主派政権の惨状を目の当たりにして、現実政治に関わるのを避け、ソクラテス死後の30代からは、対話篇を執筆しつつ、哲学の追求と政治との統合を模索していくようになる。プラトンのイデア論について考えてみる。イデア論とはあらゆるものの本質はこの世の中にはないという意味である。初めて見たときは何のことかさっぱりわからなかった。イデア論とは例えば、三角形の定義は「内角の和＝180°」。では、内角の和が180°の三角形を現実にみたことがあるか？

しかし、この世の中に本当の三角形を目にしたことがある人はいない。つまり、この世の中で実際に見ることのできる三角形の１つの角を原子レベルで拡大していくと、線は点の集まりになる。だから、点の集まりになってしまうと内角の和を数えるどころか角が存在しないことになります→目にすることのできる三角形は三角形の定義から外れる・しかし、我々は見たこともない三角形がどういうものかを知っているこの問題に対して、プラトンはこのように答える。我々はこの世の中に、真の三角形を見たことがないのに三角形がどういうものかを知っている。→真の三角形は異世界に存在している。プラトンはこの真実を様々なことに派生させていく。もっとわかりやすく説明すると、「一番の美女は誰」という質問に対して石原さとみって断言できない。人それぞれ感じ方は違うが、石原さとみが美女であることにも変わりはない。我々は「美の本質」が何かわからないのに、美女は美女だと感じる。本当の正義と美も三角形と同じように、この世の中では見ることができない。正義の定義なんて人それぞれで、美の基準も人によって違う。しかし、真の正義、真の美もイデア界にあるとプラトンは論じます。これがプラトンのイデア論である。プラトンは国家のイデア（究極の理想形）を知っている哲学者が国家を引っ張っていくべき、もしくは、哲学者でなくても王になった人物は国家のイデアを理解できるところまでレベルを上げなければいけない。民主政治だとこのような考え方は実現することはできない。つまり国を引っ張る政治家も選挙に勝つためには、民衆にとって都合のいい振る舞いをしなければならない。選挙で勝ち、自分の理想を追求したくても、民衆に反対されれば、それは受け入れられない。このような国家システムでは理想の国家にはなれない。なぜなら、民衆の全員が「真の理想国家」を知っているわけじゃないから。そして、理想の国家を知っている人物であれば、民衆の意見など受け付けないシステムを作ればいい。その人物が一人で頑張れば理想の国家になれる、と考えた。プラトンはこのようにして、自分の思想と政治を結びつけ、民主集中制と深い関わりがある事がわかる。ここまでが、民主集中制と哲人政治(プラトン)についてである。ここで三権分立についても考えていきたい。権力分立とは権力が単一の機関に集中することによる権利の濫用を抑止し、権力の区別・分離と各権力相互間の抑制・均衡を図ることで、国民の権利・自由の確保を保障しようとするシステムである。三権分立とは立法・行政・司法から成り立っており、これは法の精神(モンテスキュー)において、国家権力を立法権、万民法に関する事項の執行権（国家の執行権・行政権）、市民法に関する事項の執行権（司法権・裁判権）の3つに区別した。この考え方は現代に至るまで受け継がれており、三権分立では一般に国家権力を立法権・行政権・司法権の三権に分類し、それぞれ、立法権を立法府（議会）、行政権を行政府（大統領あるいは内閣）、司法権を司法府（裁判所）に担わせる。では法の精神(モンテスキュー)とはどのような人物なのか。モンテスキューはフランスの政治思想家で当時の政治や社会を痛烈に批判した。フランス人権宣言よりも40年も前である、1748年に『法の精神』を発表して、自由と権力のバランスの重要性を説いた。モンテスキューは権力の分立を唱えたロックに大きな影響を受けてる。ロックは国家権力を立法権、執行権、同盟権の三権に分けたが、同盟権は執行権に含まれているので実質、二件分立論者という事になる。モンテスキューはさらに具体的に権力の分立を解いて、権力を一立法権、司法権、行政権の三権に分けた。この思想は現代のアメリカ、イギリス、日本、フランスなどの先進国の政治制度に採用されている。ちなみにプラトンの弟子であるアリストテレスは民主政治の考え方で反イデア派である。イデアが現実の個々のものを離れて存在するという師の考えを批判的に検討し、もっと現実的な形で理解する。イデアは現実と切り離しては存在できないものであるという、現実優位の方向への修正である。ここでアリストテレスは「イデア」の代わりにその同義の語である「エイドス（形相）」を使用し、その対概念としては「ヒュレー（質料）」をおく。プラトンは「イデア」と「エイドス」を同じようなものとして扱っていたが、アリストテレスは「形相（エイドス）」を明確に自分の哲学の基礎として採用している。

　私は上記で述べた民主政治と民主集中制の歴史や考え方を調べ、これからの情報化社会は民主集中制の考え方が大切だと思う。今の日本の政治は他国より遅れている。日本は三権分立であり日本の法律では国民は平等に保たれており今は大丈夫だと思う。しかし10年後や20年後はIAがどんどん発展していき、やがて情報戦争が始まると私は考える。現在日本はアメリカに守られている立場にあるが、やがて安保条約も曖昧になり自国のみの力で他国に対抗しないといけない。そのためには今の日本に絶対的指導者を置き、国民を管理する必要がある。日本が力をつけなければ他国にどんどん洗脳されていくことになる。民主集中制の考え方になると格差が生まれ平等性が保てなくなるが、そうなった時のためにも自分自身で食っていける力を身につけることも大切である。

3.中国の在り方

　中国は唯一、SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)が流行している中で経済成長が伸びている。2020年の中国のGDPを調べてみると昨年のGDPは前年より2.3％拡大した。第4四半期（10〜12月）は前年同期比6.5％増で、第3四半期（7〜9月）の4.9％から加速している。英シンクタンク「経済ビジネス・リサーチ・センター」（CEBR）は26日、中国が当初予測よりも5年早い2028年までに、アメリカを抜いて世界最大の経済大国になるとの報告書を発表した。中国は世界で最初にCOVID-19の打撃を受けたものの、迅速かつ極めて厳格な措置を取ることでこの感染症を抑制した。欧州諸国のように、多くの経済活動の停止につながるロックダウンを繰り返す必要はなかった。その結果ほかの主要国とは異なり、中国は2020年の景気後退を回避し、経済成長率は約2%となる見通しだ。そんな経済成長が絶えない中国だが、現在台湾との問題を抱えている。これは情報化社会にとってとても大切なことである。そこで中台統一と一帯一路について考える。中大関係とは中国大陸（中華人民共和国）と台湾（中華民国）との関係のことである。つまり中台統一とは台湾との統一を目指す中国と、中華人民共和国とは違う主権独立国家でありたいと願う台湾という意味である。そもそも台湾と中国は、歴史的にどのような関係を築いてきたのであろうか。まず、台湾は清朝の領土であり、清朝は日清戦争で敗れ、1895年の下関条約により日本に台湾と澎湖諸島を割譲した。このことで日本は、マラヤ・ポリネシア系先住民族に加え、福建や広東から移住した漢民族が住む台湾を殖民地として統治した。ところが日本は1945年8月にポツダム宣言を受け入れて連合国に対し無条件降伏をする。この結果、日本は約50年間統治していた台湾を手放した。台湾は、連合国軍の命令により、10月には当時中国大陸を統治していた中華民国政府によって接収された。これは、清朝を引き継いだ中華民国に台湾が復帰することを前提視するプロセスであった。それに伴い、台湾は中華民国の統治下に入った。そして台湾の脱植民地化は、台湾独立ではなく、中華民国による「祖国化」（中国化）として進められていった。

当時、本土の日本人から差別を受けていたとはいえ、多数の台湾住民は安定した環境で教育を受け、近代化の洗礼を受けていた。彼等は1945年に中国国民党が指導する中華民国政府の統治が始まると台湾省出身者という意味で「本省人」と呼ばれた。そこに、中華民国政府とともに多くの人が中国大陸から台湾に渡りました。彼等は、台湾以外の省から来た人という意味で、「外省人」と呼ばれる。外省人は、苦しい日本との戦争を乗り越えた中国人としてのプライドはあったが、教育や近代化の水準については、本省人と大きなギャップがあった。このような歴史の背景がある。また、現在の中国トップである習近平は中台統一をしようとしている。また一帯一路という、中華人民共和国が推進する、同国とヨーロッパにかけての広域経済圏構想も行っている。習近平総書記が2013年9月7日、カザフスタンのナザルバエフ大学における演説で「シルクロード経済ベルト」構築を提案したことに始まり、翌2014年11月10日に中国北京市で開催されたアジア太平洋経済協力首脳会議で習総書記が提唱した。中国からユーラシア大陸を経由してヨーロッパにつながる陸路のシルクロード経済ベルトと、中国沿岸部から東南アジア、南アジア、アラビア半島、アフリカ東岸を結ぶ海路の21世紀海上シルクロードの二つの地域で、インフラストラクチャー整備、貿易促進、資金の往来を促進する計画である。このように習近平は様々な取り組みを行い世界の頂点に立とうとしている。これらの中国の取り組みを踏まえて不戦条約と集団的自衛権の在り方が大事になってくる。つまり国家レベルでの緊急行為をどうとらえていくかが日本の課題である。１９２８年に「戦争放棄に関する条約」（パリ不戦条約）が結ばれ、「国家の政策の手段としての戦争を放棄する」ことを宣言。これが「二度と戦争はやるまい」と多くの国々が考えたことだった。この流れを破ったのが日本であった。日本は国際連盟の理事国であり不戦条約も批准していた。しかし１９３１年、中国東北部への侵略を開始。日本はこの侵略戦争を「満州事変」と呼び、国際連盟規約や不戦条約違反だと批判されないよう、宣戦布告した戦争ではなく事変だと言い訳するためである。その後、日本は、ドイツ、イタリアと軍事同盟（日独伊三国軍事同盟）を結び、第一次世界大戦をはるかに上回る悲惨な第二次世界大戦を引きこした。その反省から、「戦争のない世界」をめざし生み出されたのが国際連合であり、その到達点に立って生まれたのは日本国憲法である。この日本国憲法で9条と集団的自衛権の在り方が今後の日本で大切になっていく。憲法9条を深く知るために砂川事件最高裁判決という判例がある。事案は東京都北多摩郡砂川町の米軍飛行場において、基地の拡張に反対するデモ隊の一部が柵を超えて米軍基地の敷地に入ったため逮捕された。しかしデモ隊は「憲法9条は自衛のための戦力の保持も許さない」「米軍が日本に留まることは憲法9条に違反する」として無罪を主張した。高度な政治性を有する統治行為」は司法が判断しないことを、統治行為論という。最高裁は「憲法第9条は日本が主権国として持つ固有の自衛権を否定しておらず、同条が禁止する戦力とは日本国が指揮・管理できる戦力のことであるから、外国の軍隊は戦力にあたらない。したがって、アメリカ軍の駐留は憲法及び前文の趣旨に反しない。他方で、日米安全保障条約のように高度な政治性をもつ条約については、一見してきわめて明白に違憲無効と認められない限り、その内容について違憲かどうかの法的判断を下すことはできない」（統治行為論採用）として原判決を破棄し地裁に差し戻した。

　私は上記の最高裁の結論に反対です。私は個別的自衛のためであっても戦力を持てるかどうかについてはあえて判断していなくて、個別的自衛権とは異なる集団的自衛権を肯定しているなどと言えないことはおかしいとおもう。砂川判決は駐留米軍が戦力にあたらないと判断したに留まり、集団的自衛権を含んでいないと考える。集団的自衛権行使容認していないことに反対である。また、現在中国では上記で述べたとおり世界のトップになろうとしている。もし仮に世界のトップになった場合、日本はどう中国やアメリカと関係を持つべきなのか苦しむことになると思う。そうなる前にやはり集団的自衛権の在り方や現在の法律、日本の制度を変えていくことが明るい未来に繋がると私は考える。また情報社会において何が正しい事なのか見極める力をつける事が大切だ。

4.情報社会における日本社会

現在世界はSARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)によってあらゆる様式が変わってきている。日本の社会もこのパンデミックによって大きく変わろうとしている。そんな情報社会において日本の企業が次々と不景気になり苦しんでいる。ここで物言う株主と利益相反について考えていく。これを考える上で一つの事例について考えていきたい。妻Bは夫を亡くしてしまった。夫には兄Aがいた。そこで妻Bは親権者として兄Aに集中した。妻BにはC、Dの子供がいたとする。この場合利益相反はどうなるのか。判例はBとC、Dは利益相反にはならない。しかし、C,Dの関係は利益相反になる。C、Dは利害が一致しているように見えるが、兄と弟なので利益が反することがあり得る。なのでC、Dの法定代理人は別でないといけない。民法108条では同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。実際は、Bが法定代理人なので双方代理人である。本来なら特別代理人をC、Dに選出しなければならない。これを踏まえた上で東芝騒動について考えていく。東芝は去年CVCキャピタルというイギリスのプライベートエクイティ（PE）ファンドである。買収額は2兆円を超える見通しであった。東芝のCEOを務めた車谷暢昭とCVCは深い関係がある。車谷は三井住友銀行出身（旧三井銀行に入行）。2017年5月にCVCキャピタル・パートナーズの日本法人の代表に就任している。その後、2018年4月に経営危機のあった東芝のCEOに就任しました。東芝メモリ（現キオクシア）をベイン・キャピタルに売却した立役者となる。東芝は2006年に買収した原子力発電のウエスチングハウスののれんの減損による債務超過に陥り、上場廃止寸前にまで追い込まれた。それを回避すべく2017年に6,000億円もの大型増資に踏み切ります。しかし割当先にアクティビストファンドが潜んでいた。これが今回の買収提案に繋がる。アクティビストファンドは、東芝の巨額増資のようなイベントを利用して割安で株式を手にする。保有比率を高めて経営改革や増配、自社株買いなどを迫って持ち株の価格上昇を狙う。これが物言う株主とも呼ばれている。また、また、アクティビストとの対立が続いていた車谷CEOは辞任してしまった。

　私は今回の騒動を含め日本の企業が外資系企業にどんどん買収されている。これはコロナウイルスの影響もあるが現在中小企業は経営に苦しんでいる。政府はどんどん無駄に長く規制をして飲食店や日本の企業を苦しめている。今回の東芝は買収されなかったものの日本の企業はどんどん外資系に買収されてくだろう。そうなれば日本社会はどんどん崩壊していく。なのでベンチャー企業に融資を積極的にするなど様々な取り組みを行うことが大事になってくる。

5.情報社会における刑法

まず一つの事例について考えてみる。Aが散歩していたら、反対から犬を散歩させているBが近づいてきた。するとBの犬がBのリードを振り払ってAに襲いかかってきた。Aは犬に噛まれないように、持っていた杖で犬を叩いてなんとか怪我をせずにすんだ。しかし、Bの犬はこれによって酷く怪我を負ってしまった。さて、このようなケースでAには犯罪が成立してしまうのか。この問題を考える上で誤想防衛と対物防衛について考える。まず、そもそも「対物防衛」とは正当防衛の「急迫不正の侵害」という要件に関わるものです。

もっと詳細にいうと、対物防衛とは、正当防衛における急迫不正の要件のうち、「不正」な侵害と言えるかどうかという点が問題となるものなのである。そもそも正当防衛とは「不正」な侵害に対する防衛行為であるところ、犬に噛まれそうになったということが、はたして、「不正」な侵害にあたるのか。否定説からは対物防衛の事例で正当防衛を使うことはできない。その上で対物防衛の論点を解決するには2つのパターンが考えられる。一つ目は、他の行為を侵害行為として正当防衛を成立させる。もう一つは、緊急避難の成立である。もう一つの事例を見てみる。例えば、Ｂが、Ａを脅かそうと、Ａに対し、おもちゃのピストルを向けたところ、Ａが本物のピストルであると誤信し、Ｂに対し、手元にあった金属バットで暴行を加え重傷を負わせたようなケース。実際には正当防衛が成立するような「急迫不正の侵害」がないにもかかわらず、これがあるものと誤信し、防衛の意思をもって、やむを得ぬ反撃行為をするのが誤想防衛の考え方である。判例は、誤想防衛は「故意」がなく、犯罪は成立しないとしている。次に刑法において行為無価値論とは、結果だけでなく、行為の不正も違法性の本質であるという考え方である。また主観重視で、悪の本質は社会倫理に反する。つまり社会秩序が上手く動くように考えているのが行為無価値論である。逆に結果無価値論とは行為の結果が不正、マイナスの価値となるのが違法の本質と考えるものとしている。つまり、法益を侵害するのが悪の本質であるという客観重視である考え方を結果的無価値という。日本では二つに分かれている。行為無価値の中心人物は団藤重光であり、結果無価値の中心人物は平野龍一である。一つ例題をあげて行為無価値論HandlungsUnwertと結果無価値論ErfolgsUnwertについて深く掘り下げていきたい。例えばAという警官がある記者Bを逮捕しようとした時に、その記者Bが警官の足を銃でうとうとしたが、弾が入っていなかったとする。これは法律的にどのような問題があるのか。例えば弾が出なかったので殺すことができないのでこれは不能犯になる事がわかる。不能犯では具体的危険説である。これは一般人の目線で材料を集め判断することである。そして神様の判断基準、上の立場からみて危険と考えるのが客観的危険説である。つまり不能犯では行為無価値は具体的危険説、結果無価値では客観危険説である。もう一つ例題をあげよう。19歳のAとBカップルが都営住宅へ住もうとしたが、公文書が必要であり、先輩の住民票のコピーを提出した。これは法律的にどのような問題があるか。住民票のコピーの文書偽造はどのようになっているか。まず公文書と私文書を分ける。そして行為を分ける、有形偽造、無形偽造に分ける。有形偽造とは名義を偽ることである。例えば木村星太という作文の名前を変えると名義を偽り、無形偽造になり内容を偽ったことになる。これらから公文書偽造になる。つまり、公文書は大きく広く重く罰し、私文書は小さく軽く罰する。虚偽私文書作成は刑法上罰せられない。つまり結果無価値だと無罪になる。

　私は情報社会において結果無価値の考えがいいと考える。情報社会はものすごく格差ができると考える。判例では行為無価値をとることが多く結果の妥当性が多くなる。しかし情報社会になると基礎的な社会の在り方が変わってくると考える。最初はなかなか上手くいかないことが多いかもしれないが、必ず日本は遅れをとることになる。中国は台湾、尖閣諸島を奪いに行くと考える。そうなった時に日本社会は崩壊していく。そうならないために、結果的無価という考えを大事にしていきたい。

6.コロナウイルスは情報社会のキーマン

現在世界ではSARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)まだ収束せずに世界で感染が広がっている。ワクチンは完成したものの様々な問題があると考える。そこで予防接種禍と過失について考えていきたい。予防接種禍事件とは防接種法（昭和51年法第69号による改正前の法律）によって実施され、あるいは国の行政指導に基づき地方公共団体が接種を勧奨した各種予防接種を実施し、1種類または2種類の接種を受け、その結果、右予防接種ワクチンの副作用により、疾病にかかり、障害の状態となり、または死亡するに至った本件各被害児とその両親らが原告（原告数は、被害児62名中訴提起前の死亡被害児を除く36名、その両親らの家族124名、合計160名）となり、当時厚生省が行っていた防疫行政につき、民法上の債務不履行責任、国家賠償法上の責任または憲法上の損失補償責任を追及するとして、国を被告として、昭和47年3月から6次にわたって損害賠償請求を提起した。東京地裁は、二名の事故については担当医師等の過失を認め、国家賠償法1条1項による賠償責任を認めたが、その他の被害児については、国家賠償責任も債務不履行責任も認めなかった。ここで過失のおさらいをしていきた。過失とは、注意義務に違反する状態や不注意をいい、特に民事責任あるいは刑事責任の成立要件としては、ある結果を認識・予見することができたにもかかわらず、注意を怠って認識・予見しなかった心理状態、あるいは結果の回避が可能だったにもかかわらず、回避するための行為を怠ったことをいう。刑事上の過失とは旧過失論、新過失論、新々過失論と三段階に変化してきた。旧過失論とは主観的な予見可能性が過失の本質であるとする見解である。新過失論とは結果回避義務違反を重視する。新々過失論とは何らかの危険が予想されればそれで過失となる。民事上の問題ではそもそも過失を責任の要件とするかが問題である。過失は上から重過失責任、過失責任、中間責任、無重過失責任、無過失責任、結果責任となっている。今回の判例では国家賠償法1条1項を求めたので過失責任の問題である。過失責任の証明責任は被害者である。また結果回避義務と信頼の原則の関係について考えていく。信頼の原則とは行為者がある行為をなすにあたって、被害者あるいは第三者が適切な行動をすることを信頼するのが相当な場合には、たといその被害者あるいは第三者の不適切な行動によって結果が発生したとしても、それに対しては責任を負わないとする原則である。信頼の原則は、道路交通の領域だけでなく、複数の人が危険な共同作業を分担して行うことが必要とされる領域においても適用されるとして、医療過誤の分野にも信頼の原則が適用されるとする見解が有力であるが、人の生命・身体を直接の対象とする医療の分野において、信頼の原則を適用する余地があるかについては、場合を分けて慎重に検討されなければならないと考える。また、過失の証明は難しい。そこで、過失の推定と監督責任について考えていく。賠償する場合は過失の推定が必要である。過失の推定とは反証がない限り、過失があったものと判断することをいう。監督責任とは、民事上の責任能力の無い者が、第三者に損害を生じさせた場合に、法定監督義務者にその損害の賠償義務を生じさせる責任をいう（民法第714条1項本文）。この責任は、監督義務者がその監督義務を怠らなかったとき、あるいは、監督義務を怠らなくても損害が生じたであろう場合には責任を免れる（民法第714条1項但書）。なお、監督代行者も法定監督義務者と同様の責任を負う（民法第714条2項）。この判例では、監督責任は国である。また、現在認知症患者に対してコロナワクチンの接種が家族同意で事実上うてるようになった。予防接種を含む医療行為は原則、本人同意が欠かせないがそれが同意を得なくてもできるようになったのはおおきい。しかしそれで上記のことのようなことがおきたら誰が責任をとるのだろうか。

　私は上記のような事件が起こらないようにワクチンにたいしてしっかりと考える必要がある。今回のコロナワクチンは安全性が高いと言われているが、10年後、20年後に副作用が出るかもしれない。そうなった時にまたパンデミックが起きてしまう。私はワクチンを打たず国民一人一人の行動が大事であると思う。

7.まとめ

　今回のレポートを書いていく中で情報社会で法律とはどうあるべきなのか深く考えることが出来ました。私は金融機関に将来就職します。金融現在マイナス金利がずっと続いており不景気である。そんな中に就職するのは間違っているかもしれないが私はあえてチャンスととらえている。ただ上司の言うことを聞いて仕事をするだけでなく自分の頭で考えて行動していくことがとても大切であると私は考えている。情報社会はAIの普及やコロナウイルスにより日本だけでなく世界で当たり前であったことが大きく変わろうとしている。そのなかでやはり自分なりの正義を持ち、社会の歯車として生きていきたいと考えています。

出典

授業板書

リラックス法学部

Wikipedia

コトバンク

ポケット六法

デイライト法律事務所

https://www.toben.or.jp/message/seimei/post-357.html

https://uteimatsu.com/theory-of-ideas/#i

福井虎太朗

情報社会における正義 （中江ゼミ）

法学部政治学科19j202011        福井虎太朗

キーワード

認知症、SARS-CoV-2、予防接種渦と過失、誤想防衛と対物防衛、物言う株主と利益相反、行為無価値論HandlungsUnwertと結果無価値論　ErfolgsUnwert,民主集中制と哲人政治（プラトン）、法の精神（モンテスキュー）、中台統一と一帯一路、不戦条約と集団的自衛権

結論「正解はだれにもわからない。情報社会になった今だからこそ、様々な意見、情報をもとに全世界規模で試行錯誤することが出来る。何が正しく、間違っているのかはわからないだろう。しかし、少しでも多くの人と考え、耳を傾け、納得させる答えを出すことこそが、たとえ結果が失敗であろうと、胸を張って『正義であった』と言えるだろう。」

情報社会にける正義とは何かについて考える。

そもそも正義とは何か。正義とは国語大辞典では「正しい道理」、「人として行うべき正しい道理」と解説される。これは現代人の大体が思う答えである。しかし、正しいとはどういうことか。人によって正しいと思う価値観は違うのではないか。

正義という概念を説明するには古代ギリシア・ローマ時代までさかのぼる必要がある。正義とは英語で[justice]と表記するが、[jus]はラテン語から来ており、「法」や「権利」を意味する言葉であった。正義という言葉が生まれる前は[suumcuique](各人には各人を)という標語で言い表されてきた。つまり、その人に相応するものをその人に帰属させることが正義であるとされるため、当然の取り分をその人に与える「分配の正義」や、その人がなしたことに対して当然の報いを受ける「応報の正義」である場合もある。

古代ギリシアのソフィスト派のトラシマスコは、正義を「強者の利益」と規定したのに対し、イデア論を唱えたソクラテスの弟子プラトンは「権力」と「権利」との区別を明確にし、「正義」を国家の備えるべき思考の徳とした。また、プラトンの弟子アリストテレスは正義を「配分的正義」と「応報的正義」に分け、後の正義論に大きな影響を与えた。

このように正義とは何かについて明確な答えはなく、様々な価値観や国の状況、宗教や環境から正義と呼ぶべき道理を暫定し続けてきた。そのため正義という概念に正確な答えを導き出すこと自体が不可能である。強いて言えば、一人ひとりが「万人から見ても正しい」かつ「自己の中でも正しい」と思えることが正義であるといえるのではないか。

つまり、　正義＝正解　ではない。これが私の思う「正義」である。

そして情報化社会とは、私たちが今生きるこの第4次産業革命後の脱工業化社会、脱産業社会であり物や人に付随する大量の情報そのものに価値を置き、大量の知識や情報を収集、伝達、処理することを社会の中心に据えた世界である。農業革命後、労働力過多であったイギリスが蒸気機関を開発し、イギリスを中心に「物流社会」が始まっていった。その後、アメリカとドイツを中心に軽工業から重工業への転換である第2次産業革命が起こる。19０0年代後半から起こった、第3次産業革命はデジタル革命とも呼ばれ、コンピュータが登場する。Apple、Google、FacebookなどのIT企業が先導し、急激なデジタル化社会へとシフトした。このタイミングが、今の私たちを大きく変えたイノベーションだと私は思う。そして現在、ありとあらゆる物、人の情報が数字に置き換えられ、膨大なデータとなって世界をめぐり人からAIになった社会、「情報社会」の誕生である。

SNSやインターネットを通じて情報が行き来する時代。家にいても裏側の政治がリアルタイムで把握できる世界。一つの動画投稿から始まり全世界で有名となり、彼の一言は人生が変わるほどの影響力を持つ。「正義の○○」などのアカウント名を名乗った集団が思ったことをつぶやき、コメントすることで、人生を狂わされ、命を投げ出す。すべては目に見えない「１と０」の組み合わせでしかない情報により、誰かが救済され、誰かが裁かれる。誰が正義で、何が正義なのか。

正義と政治の関係

正義と政治は密接に関係している。国による権力の行使は基本的に正義のもとに行われるからだ。では誰が権力を持つのか。日本国憲法では国民主権という言葉がある。これこそが民主主義である。

日本の政治は代議制民主主義であるが民主主義とは何か。民主主義（デモクラシー）の語源はギリシア語の「デモネ（人民）」と「クラティア（権力）」である。市民により選ばれた代表を通じて、権限を行使し、市民としての義務を遂行する統治形態である。また、人間の自由を守る一連の原則と慣行である。デモクラシーの反対は「アリスト（優れた人）」と「クラティア」でアリストクラティアである。貴族性や寡頭制を意味する。扇動的政治家によってソクラテスが処刑されると、プラトンやアリストテレスらが「デモクラシー」を「衆愚政治」と批判した。そして、プラトンは「哲人政治」を主張する。王政は次第に廃止され、元老院と市民集会が権力を持つ「共和制」が支持され皇帝は非世襲となり、市民集会で選ばれ、「プリンケプス（市民第一人者）」と位置付けられた。近代ではデモクラシーが自由主義にとって重要な構成要素となり、フランス革命、米国独立戦争を通じ近代市民社会の根本原理となった。その後、議会制民主主義が普及し、ホッブズ、モンテスキュー、ロック、ルソーの時代が来る。

古代ギリシア以降デモクラシーは進化し分かれていった。現代世界の政治体制は、多くの資本主義国が採用する議会制民主主義と、中国、朝鮮、ベトナムなど社会主義国が採用している民主集中制に大きく分かれた。議会制民主主義は大きくアメリカに代表される大統領制と、イギリスに代表される議院内閣制に分かれる。アメリカでは、権力の集中と乱用を防ぐため、司法・立法・行政を独立させ厳格な三権分立を定め、相互の抑制と均衡を制度化している。三権分立は国家権力が1つの機関や勢力に集中されていたのでは、権力は国民の統制を離れて巨大化する恐れがある。ロックは立法権執行権を分離し、立法権優位制度を取ったが、モンテスキューは「法の精神」で今のアメリカの厳格な三権分立に分けた。どちらも権力を複数に分担させ、チェック・アンド・バランスの関係を築こうとする主張であった。

一方で、社会主義国である中国では民主権力集中制を採用している。複数政党による選挙絵の競争や権力分立は認められず、共産党が一党独裁のもと、立法・行政の両機関を統制している。

軍事独裁などから解放され民主主義国が増えた今、財政危機に陥ったギリシアのEUと国民の対立のように民主政治と、国債の政治的・経済的利害が衝突することもある。このような対立が一国の民主政治のこれからの課題である。この場合の正義とは、国民の意思を尊重することなのか、それとも国を救済しようとする国際的支援をすることなのか。

国民の意思を尊重すること、すなわち国民が正しいと思う行動といえる。その意見を尊重すれば、国民からすれば、一見正義を貫いたと見えよう。しかし、結果が伴われなかった場合恐らく国民から「何とかしろ」と、暴言を吐かれることだろう。一方国民の主張を無視し、国際的支援を全面的に受け入れた場合にもし失敗すれば、国民を無視した挙句、国政の信頼を落とすことになり、国政は崩壊の一歩をたどる。どちらにするかではない。どちらも取り入れることが必要である。財政危機に陥っている以上国政に問題はある。国政で解決が不可能ならば、外的支援は不可欠であると考える。そこで国政がやるべきことは、外部から指示と、国民の声の妥協点を見つけ出すことである。それがこの場合の正義であると考える。

日本国憲法第9条　【戦争の放棄、戦力及び交戦権の否認】

日本国憲法第9条では日本国の戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認を定め平和主義を象徴したものである。

第9条で定められた背景には、宗教レベルに洗脳された日本軍人の交戦意識の断絶と、アメリカの初期対日占領政策、15年にわたる近隣諸国に多大な被害を及ぼし、悲惨な体験もした日本国民の平和への念願と決意の表明からである。憲法の前文では、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにし、諸国民の公正と真偽に信頼して、自らの安全と生存を保持する決意を明らかにした。この日本の平和主義は世界に広まり、全世界の国民が「平和のうちに生存する権利」を求めるようになった。しかし、軍備を廃止したにもかかわらず、軍備のレが意図して、警察予備隊や、保安隊、警備隊、自衛隊へと成長していった。平和主義を掲げるようになった世界は、国際政治構造を根本的に変革させた。PKOや国連安全保障理事会などが設立されていった。第1次世界大戦後、国内紛争を解決する手段として締約国相互で戦争の放棄を約束した不戦条約がある。当時の列強諸国である日本を含め15か国が著名し、集団安全保障体制を形成したものであった。この条約は戦争を違法化するものだが、一方で加盟国は原則自衛権を保持しており、条約違反に対する制裁も規定されていない名ばかりの条約になってしまった。その後、国連憲章で集団的自衛権が認められるようになった。加盟国が攻撃された際に、攻撃された国は自衛権の行使を行うことが許され、また当事国以外の加盟国も、攻撃してきた国に対して、軍事的制裁を行えるものとした条約だが、制裁を義務付けたものではない。そのため日米安全保障条約のように締約国間で集団的自衛を義務化する条約を結ぶ国もある。その1つが日本であるが、集団的自衛権の行使は日本の不戦条約に違反しないのだろうか。しかしながら、日本が侵略された際、アメリカは自衛することを強いられる。不均衡な関係であることは事実である。

この問題は戦後から今にかけてまでずっと議論され続けている。日本政府は都合が悪くなるたび第9条の解釈を変え続けてきた。選挙が起きるたび、第9条を守ると宣言する政治家をよく見る。日本国民のほとんどが戦争に行くことを望まないだろう。しかし、アメリカ人は戦争がしたいのか。いや、戦争はお金になるだけであって駆り出される側のアメリカ人は、心から望んでいるものはいないだろう。お金だけ払っている日本、お金と引き換えに命を差し出すアメリカ、戦争をしない日本、戦争をするアメリカ、守られる日本守るアメリカ、日本の軍備予算が高い高いと叫ぶ国民の声は正義といえるのだろうか。

中台関係

中台関係は冷戦時代の問題がいまだに解決していない。中華人民共和国と中華民国の争いである。かつては台湾側が中国に攻め込もうとするくらい力を持っていたが、今では圧倒的に中華人民共和国が有利である。そのため、中華人民共和国は中台統一を目指し、動き続け、台湾はそれを拒否し続けている。なぜ統一しないのか。それは双国の政治制度が異なるからである。中国は共産党独裁、台湾は民主主義である。中国側は一国二制度を提案するも台湾側がデモを起こし、拒否している。長い停戦ため中国は武力行使を行う可能性がぬぐえない。この中台統一に関しては日本にも影響が及ぶ。中国が台湾を支配することで中国を封じ込めていた「第1列島線」を突破されることを意味する。よって日本は1945年同様、国が包囲された状態となり、日本が東アジアから孤立される。また財政面では一帯一路が進められている。アメリカと中国はアメリカの中国への高関税により貿易摩擦が問題を抱えている。一帯一路は中国経済の成長を促すとともに欧州との戦略的連携と関係の再構築の狙いがある。しかし大規模開発になるため、環境破壊、乱開発や汚職、途上国の債務の返済不能の現状など問題が数多く残る。インフラ整備や、物流が盛んになれば経済が潤い途上国の発展にもつながるが、目先だけではなく、環境問題や汚職など、隠れた問題に目をつぶる活動はどうかと思う。

自衛権

自衛権はどこまで許されるのか。

もし日本が近隣諸国から侵略を受けたらどうなるのか。日本のように基本的に軍備を持たない国民は戦争法規上では非戦闘員として扱われる。そのため、非戦闘員に無差別に攻撃することは戦争犯罪に当たる。そのため、非戦闘員には緊急避難が強いられる。しかし、相手の戦闘員に銃を向けられたとする。命の危険を感じた非戦闘員が兵士を身近なもので殴り殺してしまった場合どうなるのか。人を殺した場合は殺人罪に当たる。しかし、「急迫不正の侵害」があった場合正当防衛や緊急避難として認められる場合がある。しかし、もし兵士が反射的に銃を向けただけで殺人の意思がない場合、正当防衛といえるのか。この違法性の本質を2つの解釈で考えることが出来る。その二つが、行為無価値論HandlungsUnwertと結果無価値論ErfolgsUnwert,である。

行為無価値論から言うと、敵国の兵士に銃を向けられた時点で急迫不正の侵害があり、結果的に殺人を犯してしまったが、行為無価値論に立てば正当防衛が認められると考える。一方で結果無価値論から見ると、兵士は銃を向けるものの攻撃の意思がない為、非戦闘員側は誤想防衛だといえる。もし、反撃されなければお互い被害にあわなかったため、正当防衛は成立しないだろう。具体的危険説から見ると緊急避難であると考えられるが、過剰防衛であったことは否定できない。しかし、戦時中の為、心身に常に緊迫した状況が続くため無罪であると考える。

相手がペットであった場合。不可抗力によって飼い主から離れ人を襲われた為感激し殺してしまった場合はどうなるのか。他人の所有する動物は財物に当たる。しかし、結果無価値論では緊急避難に対物防衛は保護されているため器物損壊に該当しない。また、正当防衛はペットに違法性が無い為「急迫不正の侵害」が認められないだろう。

認知症患者の場合はどうか。認知症患者が包丁片手に襲い掛かってきた際に防衛の為、殴り倒した。この場合どうなるのか。認知症患者は精神疾患を抱えている為、無責任能力者として扱われる。そのため、無責任能力者の行う違法行為は監督者が負う。しかし、今回は認知症患者と言えど、殺傷能力を持つナイフを持ち歩いており、銃刀法違反である為、防衛側には緊迫不正の侵害があったといえる。そのため、正当防衛が認められる。

信頼と正義

信じた人に任せたが、総合的利益の為か裏切るような行為を取られた場合の正義とは。

東芝騒動を例に挙げる。東芝の経営不信に陥ったことによりCVCキャピタル・パートナーズからCOを受け入れたことで東芝の買収話が持ち上がった。このことにより東芝と物言う株主との対立が始まる。争点は東芝が外部COを取り入れた。CO取り入れたことにより経営は好転した。それによりCVCキャピタル・パートナーズから買収話が持ちかけられたが、COの前所属先がCVCであった。そのためこの買収話が利益相反なのではと声が上がった。

英投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズから2兆円で買収提案される。東芝は株式を非公開化した。東芝の車谷暢昭CEOが経営の立て直しをスムーズに行いたいため上場を取りやめ、事業を売却したお金でスクイーズアウトを利用し会社の立て直しを図った。東芝にはアクティビスト物言う株主が沢山いたため身勝手な要求が多かった。その為CVCが企業統治体制を見直し経営判断を早める協力を持ちかけられ、株主総会で支持を得られなかった車谷は辞任へ追い込まれた。

この車谷とCVCとの関係と買収話が利益相反に当たるのかという話だが、車谷はCVCとの関係を否定した。車谷がCVCのOBであるとしても直ちに利益相反になるわけではないが、疑念を抱かれるのは無理ない。また、現状として経済の立て直しの最善策であると私は考えるためお互いに利益が生じている為、利益相反にはならないと考える。

本件のように信頼して会社を任せた車谷に東芝は裏切られたかのような反応を見せたが、東証1部まで経営を立て直してくれた事実に対したとえそこに多少の裏取引があったかもしれないが、恩人に対し利益相反だと訴えることは正義に反しているのではないか。

予防接種禍と国家賠償

現在世界中でSARS-CoV-2の感染が広まり大問題になり未だに終息がついていない状況である。しかし、現在になってようやく日本でも終息の兆しが見えてきた。ワクチンの存在である。日本ではいまだにワクチンの開発が完了はしていないが、ファイザー製とモデルナ製のワクチンが普及しつつある。しかしこれらのワクチンには副反応が伴う。症状は注射した部分の痛み、疲労、頭痛、筋肉や関節の痛み等がみられることがあり、まれな頻度でアナフィラキシー（急性のアレルギー反応）が発生すると厚生労働省が発表している。しかしワクチンは体にとって異物であり、排除のための免疫反応を起こすものである。その為、無過失保障であり、健康被害がワクチンによるものと厚生労働大臣が認定したときは、予防接種救済法に基づいた救済が与えられるとされている。現在ワクチンを打つ際に死の危険性があることを忠告されていない。理由の一つとして、いち早く全国民がワクチンの接種を行い、集団免疫を付けたいのだろうが、もし、ワクチンが原因で死亡した場合どうなるのか。実際それぞれのワクチンを接種後亡くなっている患者がいる。このような状況が日本で起きてしまえば、無過失責任による救済補償では済まされない。予防接種渦をめぐる「損害賠償と損失補償の谷間」に注目する必要がある。過去に予防接種により、志望ないし重篤な後遺症を患った被害児が62名いた。その両親や生存被害児等159名が原告となり国に対し、損害賠償と損失補償を合併させ請求した事件がある。当事の地裁は62のうちの2名について担当医師の過失を認め国家賠償責任を肯定したがその他の被害児に対しては国の債務不履行責任と国家賠償法上の責任を否定した。そのうえで憲法29条3項の「類推適用」により、損失補償請求を認めた。しかしこの判決に対し国は控訴した。憲法の類推適用では適法行為による意図的な財産権侵害を対象としている為、本件予防接種被害にまで拡張することは「憲法解釈の枠をこえるもの」であり、本件を認めると、憲法の体形が崩れ、国家賠償と多くの場面で競合し、国家賠償法が故意・過失という主観的要件を要求する意味を失わせ、実質上違法無過失責任を認めることになると主張した。

損失責任論について。本件の「類推適用」による損失補償請求の否定は正当である。なぜなら憲法9条1項では財産権、2項では社会的・経済的弱者に対する保護があり、3項では公用収用による特別な犠牲を蒙る場合が定められているがそれは、1項の「正当な補償」が必要であると規定するものであるため、単に3項のみを取り出して論じることはできない。また3項はいかなる理由による生命・身体に対する補償ではないからだ。しかし、予防接種をしたくらいで命を奪われた被害者家族をないがしろにする行為はいたたまれない。このような特殊なケースについて結果責任を認めるべきであると考える。予防接種禍をはじめ「国家賠償の谷間」の場合、国は損失を填補すべきである。国の活動に起因しており、原因行為が保障されない場合で、行為者に故意・過失もなければ国が結果だけを考慮し損失補償を行うべきである。国の財産は無限ではないが、国民に対して思いやりのある行動が出来るような法律制度を整えてもらいたい。

結論

以上のことから、正義は正解ではない。また、正解はだれにもわからないが、古代から現在にかけてまで常に正義の概念は民衆の心にあり、一人ひとりが正義を持ち合わせている。一人ひとりの正義は衝突しあい、争いが起こることもある。また、正義の隣に欲望が存在することも確かで、この欲望が正義の方向を狂わすこともある。だからこそ、国のトップは情報社会になった今、様々な意見、情報をもとに全世界規模で試行錯誤し何が正しく、間違っているのかを見極めるのは難しい、少しでも多くの人と考え、耳を傾け、納得させる答えを出すことこそが必要であると思う。

出典

・ Bureau of International Information Programs “Principles of Democracy”

・ [詳説　政治・経済研究　藤井剛, 2010]

・ [高校政治・経済　新訂版　実教出版, 平成30年]

・ 参考：PROVE https://www.provej.jp/column/china/silkload/#toc-l-10

・ 朝日新聞デジタル　2017/5/23

https://www.asahi.com/articles/DA3S12950773.html

・ 文春オンライン　2021/4/10  https://bunshun.jp/articles/-/44709?page=3

・ 憲法論叢創刊号抱　喜久雄（1994 年 4 月）

Windows 10 版のメールから送信

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[1] 情報化社会 – Wikipedia

[2] ワクチン接種後「死亡事例751件」厚労省が21日の副反応検討部会に報告 前回から195件増 – Yahoo!ニュース(https://news.yahoo.co.jp/articles/cd6671e0d25bb1f60b00e83a33785fba140a8dcf)

[3] 薬毒エイズ事件 – Wikipedia

[4]

中国のコロナ対策 カギを握る徹底した監視と水際対策 - NHK NEWS(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210603/k10013065171000.html)

[5] 哲人政治 - Wikipedia

[6] 国政選挙の年代別投票率の推移について - 総務省(https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/nendaibetu/)