佐藤亮太

いつもお世話になっております。中江ゼミ助手の佐藤亮太です。レポートが完成しましたので、ご確認宜しくお願いします。

 

日本型組織と法律

19J110022 佐藤亮太

 

キーワード:金本位制度と土地本位制度、プロジェクトファイナンスと背任、異次元金融緩和と日銀引受、マネーサプライと金利、賃金の伸びとGAFAM(Google Amazon Facebook Apple Microsoft)、年功序列社会と共犯理論、生活保護受給率と給付付き税額控除、不法原因給付と財産犯、公示の原則と背信的悪意、空家問題と相続登記義務化

 

結論

変化することを恐れず、時代に対応出来る日本を目指していくべきである。

 

始めに

1960年代から70年代の時期、いわゆる高度経済成長期と呼ばれていた日本においては、目覚しい経済発展を遂げていた。「2世紀の奇跡」の言葉やハーバート大学のエズラ・ボーゲル教授の著書「ジャパン・アズ・No.1」などから見られるように世界から賞賛の声を浴びていた。また、他のアジア諸国からは日本の高度成長が成功モデルとされて高い評価をされていた。

しかし、現在の日本の状況としては「失われた30年」という言葉に代表されるように、経済成長が滞っている。日本のGDPは約500兆円で、ここからの伸びが少ない。対して、他のアジアの国を見てみると、中国や韓国、香港、台湾、インドなどを見てみると、右肩上がりに上昇しているのが分かる¹。特に中国は30年でGDPが日本の3倍と急成長を遂げた(2020年においてアジア1位、世界2)。飛ぶ鳥を落とす勢いで成長をしていき、アメリカにも届くのではないかとも言われている。そんな日本は、アジアで2位、世界で3位と決して低い順位ではないはずなので、一見すると豊かなイメージがあると感じるのだが、周辺国の伸び率と比較してみるとどうしても相対的に貧しくなっていると考えることが出来る。

そこで、このレポートでは、なぜ日本が「失われた30年」と言われるようになってしまったのかを検討して行くことと、これから先の日本がどのようにして再び繁栄をして行けるかを考えていくこととする。

 

日本社会の特徴²

「失われた30年」がなぜ引き起こされてしまったかを検討して行くには、最初に日本社会の特徴を見ていくことにする。

3-1 日本社会の強さ

まず始めに日本が持つ強さについて5つ挙げる。

@自助と共助の精神の調和

「逆境に強い」や「追い込まれると強さを発揮する」などの言葉に見られるように、日本人の精神には自分でなんとかしようとする心と他者を救済しようとする心が共存している。特にこの傾向が顕著に現れたのが東日本大震災の時である。未曾有の危機に瀕しながらも秩序を保つ姿は諸外国から絶賛された。

A 「道」を窮める自己研鑽の努力の存在

日本がモノづくりの国と称される所以がこれである。漆、衣装、花器、陶芸など日本の伝統工芸品のきめ細かい技巧と繊細な美しさは特筆に値する。また、華道、茶道、書道などの日本の伝統文化には奥義を追及する伝統がある(形の美しさ)。そして、日本人は「振る舞いのこころ」を大切にし、自らの動きが他人に好感を与えるように努力する伝統がある。

B 社会集団における信頼と調和を尊重する精神

「現場主義」や「かいぜん運動」、「かんばん方式」などに見られるように日本企業の強さはその組織内の信頼(TRUST)にあると指摘された(By.フランシス・フクヤマ)。 日本の社会では、信頼を高めるために他者との「調和」を大切にする。日本では「罪の文化」よりも「恥の文化」に係っているといわれる所以でもある。この傾向は、客を暖かくもてなし、喜んでもらおうという「もてなしのこころ」にも表れる。こうした「こころ」によって、相互の信頼感を高めようとするのである。政治において、「和の政治」を掲げるのもこの考えに基づくものである。

C 異文化への寛容性とその高い吸収力

飛鳥時代や奈良時代などの時に中国から技術や文化を取り入れてきた。また、1617世紀にはポルトガル、オランダの技術を学び、さらには明治時代には、欧米から法律や統治機構などの西洋文明を導入してきた。そして、これらを既存の日本文化とのハイブリッドしてきた。しかも、見事に調和しているのが特徴である。クリスマスやハロウィンなどがこれにあたる。

D 自然との共生の中に高めてきた生活文化と感性

欧米では、旧約聖書の教えにある「神は万物を支配するために人間を創りたもうた」という教えから、自然や資源は人類が支配すべきものという思想が浸透しており、地球環境の悪化は技術的な不完全性の所以だと考える傾向がある。一方、日本などアジアでは人類と自然とは共生すべきものだという思想が息づいており、自然の機能を活用しながら環境の改善を図ろうとする。自然の恵みを大切にする考えから「もの」を大切にしようという生活文化が定着しており、「もったいない」という思想が行き渡り、「足るを知る」という徳が尊敬されている。

3-2 日本社会の弱さ

続いて、日本社会の弱さについて4つ挙げていく。

@ 自己決定能力の弱さ

世界的に見てポピュリズムの傾向があるのだが、とりわけ日本においてはそれが顕著に現れている。前例依存、他社追随の傾向が強く、ベンチャー企業が育たない。また、指示待ちの傾向も高く、問題発掘、問題解決の能力に欠ける(調和重視の裏返しともとれる、「空気を読む」なども)。そして、「出る杭を打つ」の言葉にもあるように、率直に他者の成功を祝うことが出来ない風潮も存在している。これらの要因は日本の発展に大きくブレーキをかけていると言わざるを得ない。

A 論理思考を回避する

日本社会においては、議論や交渉について論理的決着を避けようとする曖昧さがある。これも「和」を強調する日本社会の表れである。政治やビジネスの世界でも長期的な関係を保持するために曖昧な政策を行ったり、うやむやな交渉をしてしまうのだ。確かに、日本国内であれば許された話かもしれないが、ひとたび外に出てしまうと決してそうは行かない。「和」を重視するあまり論理性に欠けると、交渉に不確実性と不安定性を高めてしまう可能性が大いにある。現代のグローバル社会において、自己主張をしていくためには、論理的説得力がなければやっていけない。

B 国際性の弱さと国際貢献の消極性

もともと日本人は内向的な正確であるが、近年はさらにその傾向が強まったように感じる。「小切手外交」と揶揄されてきたように、日本の国際貢献は、資金協力に偏りがちであった。安全保障、秩序形成、知的創造の面となると、日本はさしたる貢献をしてこなかった。ASEAN諸国などからは日本がアジアのリーダーとなって欲しいとの声があるが、期待通りに事が進まないのが現状である。

C コミュニケーション能力の弱さ

情報と意思の伝達、相互の理解の促進、そして共感の醸成という3つの側面が含まれるが、日本語には、それにふさわしい表現がない。また、日本では昔から、「目は口ほどにものを言い」、「沈黙は金」などを教訓としてきたが、これらが象徴するように、発言して理解を求めることを控える文化があった。その背景には、日本社会が価値観を共有しやすく、表現による説得によらずに理解し合える社会環境があった。従って、論理的に自己の主張を根拠付ける教育もおろそかであった。一般的に、日本人は、国際会議などで論理的に説明する能力が低い。

3-3 日本企業の特徴³

日本社会の特徴を述べたところで次は日本企業の特徴も以下に記述する。

@企業別労働組合

A年功序列

B終身雇用

Cメインバンク制

D株式持ち合い

(@〜Bは「三種の神器」と呼ばれている)

次に、簡単にメリットとデメリットを挙げる。

まず、メリットとしては、前述のとおり社会集団における信頼と調和を尊重する精神があるため社員の忠誠心が高く、経営が安定する。また、組合との団体交渉もこのおかげで円滑に進んでいく。

対してデメリットも、前述の通り前例依存など日本の発展にブレーキをかけるものである。さらに、組織の硬直化や閉鎖感なども生まれ、経営の非効率化による競争力低下の懸念もあげられる。

 

金本位制度と土地本位制度

4-1 金本位制度並びに土地本位制度とは

金本位制度とは、金を貨幣価値の基準とし,他の貨幣と金との自由な交換(兌換(だかん)や,金の自由な輸出入を認める制度のことである。この制度では貨幣と金とが自由に交換でき,金貨の輸入や鋳造の自由も保証され,国内の通貨,外国為替相場の安定が自動調整作用によって保たれる。19世紀イギリスに始まり,世界の金生産の増大により同世紀末には大部分の国が金本位制を採用(日本は1897年),第一次世界大戦まで続いた。大戦で停止され,戦後復活したが,イギリス経済の衰退や世界恐慌などにより,1930年代にはイギリスを先頭に諸国が金本位制から離脱した。第二次世界大戦後は,アメリカ経済の強大化を背景に,国際通貨基金(IMF)制度の下でドル中心の金為替本位制となった。1971年ニクソンがドルと金の交換停止を発表,73年以降国際的には変動相場制がとられるようになった。

対して、1980年代後半,土地含み益を担保に信用が膨張していく状況が生まれた。これを金本位制とのアナロジーとして土地本位制ということがある。

4-2 土地本位制度と日本

かつて、世界は金本位制度を採用し、ニクソンショックによって金本位制が終焉を迎える事態となった。同じ頃、田中角栄総理大臣による「日本列島改造論」と高度経済成長が相まって「土地神話」が確固たる地位を築くことになる。日本の少ない国土でアメリカの何倍も価値があるなどといった異常事態が発生した。金融機関は湯水の如く金を貸した。土地値を裏付けとした資産評価が罷り通り、株価はうなぎ登りに上昇していった。これがバブル時代である。潜在的に存在していた土地本位制が金本位制の終焉により表面化していく形となった。元々「土地担保」に金を貸す習慣の無かった諸外国は「土地本位制」に走ることはなかった。融資の担保に「技術評価」を据えてきただけ「技術本位制」に移行していく。

日本は「一所懸命」の言葉にも現れるように昔から土地を重要なものと捉える風習がある。国土が小さい分、その土地さえ守れば一族が安泰にすごせるのだ。「先祖伝来の土地を守る」などといったものは、武士の時代に特に顕著に現れている(争い事の原因も土地に関連するものが多い)。鎌倉時代には「御恩と奉公」という関係で将軍と御家人が結ばれていた。その内容は、御家人が奉公(将軍のために戦うことex.「いざ鎌倉へ」)をし、これに対して将軍が御恩(御家人の所領支配の保障や新たな土地の支給)を与えるものである。このことからわかる通り、互恵的な関係性があった。鎌倉幕府の滅亡はこの御恩と奉公の関係に歪みが出来たため起きたと考えられている。なぜなら、狭い日本の国土において、土地を与え続けるといずれ渡せる分が無くなってしまい、これによって御家人が不満をつのらせてしまったためである。

弥生時代から階級社会が始まり、それによって農業共同体というものが誕生した。そこから律令制下での初期荘園の確立が土地制度の始まりである。そんな大昔からある土地制度は、日本人にとって切っても切れない関係性であると言える。諸外国が技術やプロジェクトの内容に重きを置いているのに、日本は土地に固執してしまっている。

4-2-1 賃金の伸びとGAFAM(Google Amazon Facebook Apple Microsoft)

始めに、以下の図を参照してもらいたい。

これは、1992年と1019年の世界トップ企業ランキングを上から25位までまとめたものである(日本企業は黄色で強調、GAFAMはオレンジで強調)。まず、パッと見て分かることは、1992年の図では日本企業が数多くランクインしているのにも関わらず、2019年には1社もランクインしていない(ちなみに、2019年で日本企業が最初に見られるのは33位のトヨタ自動車である)。前述の通り、土地を融資として未だにとっている日本と技術やプロジェクトを重視している海外との差が、明確にこの図に現れたのものだと考えられる。これに対応して、賃金の伸び率も日本は世界的に見て低い。1990年の平均賃金は、イギリスやフランスよりも高い水準で、韓国と比べても日本の方が7割も高い水準であった。そこから30年が経ち、米国は1.5倍に、韓国は約2倍に上昇したが、日本は僅か4%ほどの成長に留まった。これを引き起こした原因も、土地を融資として未だにとっている日本と技術やプロジェクトを重視している海外との差であると推測する(GAFAMのような新興企業が生まれにくい環境が整ってしまっている)

次に分かることは、ランクインしている日本企業のほとんどが銀行であることだ。これは、前述のバブル景気で金融機関が湯水の如く金を貸したことでこれらの企業が潤ったことが原因であると考える。

「失われた30年」を引き起こしている一因としては、未だに土地本位制度の神話にすがりついていることや、変化に対応出来ない体質であると考える。その結果、賃金がほぼ伸びず、世界からも取り残されてしまう状況を産んでしまったのだ。

 

物権変動

前述の通り、日本は土地が重要なものと捉えることは理解出来た。そこで、ここからは具体的な内容に入っていく。

物権変動は10個の物(売買、贈与、交換、消費貸借、善意取得、相続、時効、無主物先占、遺失物拾得、埋蔵物発見)があり、4つに分類(法律行為、事実行為、承継取得、原始取得)される。

なお、不動産物権変動については、第三者に対抗するために登記が必要である(民法177)。ただし、当事者間であれば、意思表示のみで足りる(民法176)。また、判例は二重譲渡について認めている。その時どちらが所有権を獲得するかは、登記の有無で判断する。そして、物権変動の範囲について、判例は無制限説を採っている(いかなる物権変動の場合にも民法177条が適用される)

 

5-1 公示の原則と背信的悪意公信の原則と民法942項類推適用

公示の原則とは、排他的な権利の変動は,占有・登記・登録など他人から認識され得る表象(公示方法)を備えなければ,完全な効力を生じないとする法律上の原則のことである。取引の安全を保障するために特に物権変動に関して問題となり,その公示方法は、不動産については登記,動産については引渡し(占有)である。登記や引渡しと物権変動との関係には,登記や引渡しを物権変動の成立要件とするもの(ドイツ法など)と,当事者間の意思表示だけで一応物権変動は生ずるが,登記や引渡しをもって第三者に対する対抗要件とするもの(フランス法,日本の民法など)との二つの型がある。そして、公示の原則は承継取得であることも特徴である。

公信の原則とは、実際には権利関係が存在しないのにかかわらず,外見上権利関係が存在するように思われる事実がある場合に,この外形を信頼して取引をする者を保護し真実に権利関係が存在したと同様の法律効果を認めようとする原則。このような法の効力を公信力という。たとえば動産を占有する者(借主)を所有者だと誤信してこれから買った者に所有権を取得させる即時取得(原始取得 民法192)の制度はこの原則の顕著な例である。日本では不動産物権の変動(登記)については公信の原則をとっていない

また、公信の原則と公信の原則に並んで、背信的悪意者と民法942項類推適用はこの後の話題(相続と登記、取消と登記、時効と登記)に大変必要となってくる。

5-1 相続と登記

ここからは、「相続と登記」について触れていく。

大前提として、判例理論を下の図に表した。

判例のものさしとして、イベントの前は本来権利者を保護し、イベントの後は対抗問題で解決する。

5-1-1 遺産分割協議と第三者

イベントはここでは遺産分割協議の事を指す。遺産分割協議前の第三者に対しては、民法909条の但書によって、遺産分割の遡及効を制限し、第三者を保護すること、すなわち、第三者の権利を害してはならないというスタンスをとる。

遺産分割協議後の第三者に対しては、899条の2(民法改正で新設)が適用されて、登記が対抗要件となる。

民法177条の「第三者」の範囲について

判例では、制限説をとっている。内容としては、「当事者及びその包括承継人でない者」「不動産に関する物権変動の登記がなされていないことにあたって正当な利益を有する者」である。

〇客観的範囲

肯定説物権取得者、賃借人、差押債権者

否定説実質的無権利者、不法行為者、不法占有者

〇主観的範囲

判例は原則として、第三者が善意・悪意の如何を問わないとしている。これは、民法177条の存在自体が不動産取引における自由競争を是認しているためであるからだ。ただし、背信性を有する者は民法177条の「第三者」に該当しない(配信的悪意者排除論)

5-1-2 相続させる旨の遺言と遺贈

始めに、登記申請は原則として共同申請でしなければならない(不動産登記法60)。また、登記申請の添付書も共同で行う必要がある(登記申請の添付書面と共同申請主義)。これは、複数人でやるため、手続きがかなり面倒であると言える。遺贈も共同申請と添付書類が必要である。そして、第三者との関係は対抗関係であるので、登記を先に備えたものが物権を有することが出来る。対して、相続させる旨の遺言は単独申請が可能である(不動産登記法63 共同申請の例外)。さらに、添付書類が必要なく、当事者間でやりとりができる(第三者の介入の余地を与えない)。この相続させる旨の遺言は遺贈と比べ手間がかからないのと、第三者に介入されることなく当事者間で相続ができるというメリットがある。

5-1-3 相続放棄・相続欠格・廃除と代襲相続

代襲相続とは、「被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定(相続欠格事由)に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。」と規定されている。したがって、被代襲者が死亡したときだけでなく、相続欠格事由に該当したり、被相続人から廃除された場合にも、代襲相続が起こるということになる。これに対して、被代襲者が相続放棄(民法939 絶対的物権変動)をした場合には、代襲相続は起こらない。相続放棄をすると、その相続人は初めから相続人ではなかったことになるためだ。

事例に当てはめると以下のようになる。

 

5-2 取消と登記

詐欺又は脅迫による意思表示は、取り消すことができる(民法961)。イベント前後、すなわち取消しの前後で結論が変わってくる。

取消し前の第三者に対しては、第三者が善意無過失である場合に限り保護される(民法963 ただし、詐欺のみで脅迫は保護の対象ではない)

取消しの後の第三者に対しては、登記の有無によって優劣を決める(民法177)

5-3 時効と登記

所有権の取得時効は民法162条に規定がある。この条文は、占有を要するものであり、登記は不要であると読み取ることが出来る。

ここでのイベントの前後、すなわち時効完成の前後で結論が変わってくる。

時効完成前の第三者に対しては、当事者間の関係であるとし、登記を有しない。

時効完成後の第三者に対しては、二重譲渡の問題として扱い、登記を対抗要件とする(民法177)

 

空家問題と相続登記義務化

日本では空き家が年々増加の一途をたどっている。平成30年住宅・土地統計調査の結果、空き家数は848万9千戸と過去最多となり、全国の住宅の13.6%を占めていることが分かった。空き家が増える原因としては、少子高齢化の進展や人口移動の変化などが挙げられる。また、固定資産税や相続税対策で空き家を起こしておくことも挙げられる。

6-1 固定資産税・相続税と更地価格

前述した通り、日本では土地本位制度が存在していて、これに伴い土地、とりわけ更地の価値が非常に高い。更地にしてしまうと、固定資産税や相続税が多くかかってしまう。とりあえず家を残しておくと、固定資産税は更地のそれよりも6分の1の価格で抑えられる。また、相続税も固定資産税評価額と同額であるので、同じように家を残しておくという対策がとられる。

使用されていない家や土地があり、さらに今後もこれらが増えていくこの現状は、日本にとってマイナス要素であることは言うまでもない。ただでさえ狭い国土なのに、有効活用できる土地が益々減ってしまう。無駄が多いと日本社会の発展にブレーキを掛けてしまうことになる。そんな状況にメスを入れる政策が実施された。平成27年に空き家対策特別措置法が施行された。この税制改正によって、空き家に課税される固定資産税が実質的に増えることになる。また、相続登記義務化が2024年に施行される。3年以内に登記を義務付けることで、所有者を明確にし、取引の安全性を上げ、再開発や公共事業の促進に繋げていくことを目標にしている。

 

刑法と日本

これまでは民法について多くの事例を述べてきたが、ここからは刑法も交えて事例を見ていくことにする。

7-1 犯罪とは

まず大前提認識しておいておきたいものとして、刑法における犯罪の成立要件について説明する。構成要件該当、違法性、有責性の3段階をクリアして初めて犯罪が成立する。

@構成要件該当

始めに構成要件に該当しているかをみる。構成要件とは、刑法の条文に明記されている、犯罪が成立するための要件のことである。例えは、窃盗罪(刑法235)は「他人の財物を窃取した者は,窃盗の罪とし,十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」という条文になっているが,この「他人の財物を窃取した」が構成要件になる。

A違法性

次の段階が、違法性である。違法性がない事を違法性阻却事由という。例えば、正当行為(刑法35)、正当防衛(刑法36)、緊急避難(刑法37)などがある。

B有責性

最後の段階として、有責性がある。責任能力の問題であり、心神喪失及び心神耗弱(刑法39)の者は罪に問われない、もしくは減軽される。責任年齢に満たさないもの(刑法41 14歳未満)も罪に問われない。

 

7-2 不法原因給付と財産犯

財産犯とは、主として利欲的な動機に基づき、他人の財産を害する犯罪。窃盗罪・詐欺罪・横領罪・背任罪などがある。これから先の話題は、財産犯について多く取り上げる。

不法原因給付とは、不法な原因に基づいてなされた給付のことである。例えば賭博(とばく)に負けた者が金銭を支払ったとしても、賭博契約は公序良俗違反として無効(民法90条)なので、不当利得の返還請求ができそうであるが、この請求に裁判所が助力をするのは適当ではない。そこで民法は第708条で、不法な原因に基づいて給付をなした者は給付したものの返還を求めることができない、と規定した。ここにいう不法とは、単に法規違反というだけでは足りず、公序良俗違反ないし醜悪不正な動機をいう。なお不法性が一方的に受領者の側にあるといえる場合には返還請求は認められる(同条但書)¹⁰。不法原因給付の代表的な判例に昭和45.10.21事件がある。この判例によると、反射的利益の影響で贈与者は返還請求ができない、というものである。

7-2-1 刑法と民法の違法性の比較

刑法と民法の違法性には差異があると考える。民法は個人間での何らかの紛争について解決するものであり、刑法は国家が犯罪を犯した人間に罰則を与える違いがあるためである。つまり、刑法の方が厳しいものであると言える。

刑法・民法共に違法な行為は文句無しに違法である。公序良俗違反がこれに当たる。また、刑法が合法で民法が違法というケースもある。そして、刑法・民法ともに合法なものもある。

なお、刑法が違法で民法が合法というのは、刑法の補充性および謙抑性の性質から認められないと考えるのが妥当である。

 

刑法における背信的悪意者

民法の方でも背信的悪意者について触れたが、今度は刑法についてもみていく(ゼミでの問題を利用)

@ABから土地甲を4000万円で買う契約を結ぶ。

ABC(背信的悪意者)2000万円で売った。

BCD(転得者&単純悪意者)3000万円で売った。さらにDは登記を備えた。

Q. 刑法上は何罪に当たるか??

A. BCが横領罪の共同正犯

 Dは所有権を手にし、刑法上は無罪

BCが犯罪が成立するのは理解できるのだが、Dがお咎めなしというのはどうにも理解ができない。Dが善意無過失であるならこのような結果でも納得なのだが、一連の流れを知っていて(悪意)、それでもなお土地甲を購入した。このことはCAを困らせてやろうとする企みに手を貸しているとも取れる。私はDにも横領罪の共同正犯の成立をすべきだと考える(民法94条類推適用で単純悪意も本来権利者のAを保護する)

7-3 プロジェクトファイナンスと背任

プロジェクトファイナンスと背任をみていくのにまたゼミ例題を使ってみていく。

 

@AB信用金庫に自然の中でマレー語を学ぶプロジェクトを推進するために1億円を借りたいと考えている。

AAには土地がないが、B信用金庫の支店長はそのプロジェクトの将来性に目をつけ、プロジェクト自体を担保(プロジェクトファイナンス)にして1億円を融資した(頭取はこれに了承した)

Bその後、コロナで経営危機になりBは融資の分を回収できなくなってしまった。

Q. 支店長は何罪になるのか?また、頭取はどうなるか?

A.立場によって変わる(行為無価値or結果無価値 支店長背任罪or特別背任罪 頭取背任罪の教唆or特別背任の教唆)

横領罪と背任罪の違い

この2つの違いは「行為」にある。

横領罪他人から預かり、保管中の財物を自分のものにする、売却などで勝手に処分するなど、自分の自由にする行為に限定している。

背任罪「任務に違背して損害を与える(任務違背行為)」ものであれば、行為の種類を限定していない。任されている権限を超えていれば広く任務違背とされる。

横領罪と背任罪の目的の違い

横領罪他人の財物に対して「自分のものにしよう」という不法領得の意思が必要。

背任罪自分の利益だけでなく「第三者の利益を図る」目的であっても成立する(自分に利益がなくても成立)

主観的違法要素と主観的超過要素

主観的超過要素とは、主観に対応する客観面がない主観的要素のことである。

・目的犯における目的 ex.通貨偽造罪(刑法148)の「行使目的」

・傾向班における主観的傾向 ex.強制わいせつ罪の性的衝動を満足させる心理的傾向

・表現犯における内心的状態 ex.偽証罪の主観的な記憶に反するという心理状態

・領得罪における不法領得の意思

・背任罪における図利加害目的

・未遂犯における既遂の故意

主観的違法要素とは、行為者の主観的・内心的事実で、違法性の存在を決定し、又は強弱に影響を与える要素のことである(客観の中に主観を入れる)。目的犯や傾向犯、表現犯などが認められている。なお、目的的行為論の立場からは、故意をも主観的違法要素として主張されることがある。

背任罪には2種類ある。1つ目が単純背任罪(刑法247)2つ目が特別背任罪(会社法960)である。単純背任罪はすでに述べている通り、他人から任されている職務に背き,自分や第三者に利益を図るため,他人に損害を与えるという犯罪のことをいう。特別背任罪とは、組織経営において重要な役割を担う者(例題では頭取)が背任を行った場合に,その責任の重さから,通常の背任罪より重く処罰するために定められた犯罪のことをいう。

7-3-1 共犯と身分

上記の例題では、支店長と頭取が共同で融資をしたと見ることが可能である。となると、2人は共犯(共謀共同正犯)となりうる。共犯には、共同正犯(刑法60)、教唆犯(刑法61)、幇助犯(刑法62)に分けられる。なお、共同正犯と教唆犯は「正犯」で、幇助犯は「従犯」である。

また、身分犯の共犯として、刑法65条がある。その1項には、身分がない者でも共犯になる(特別背任罪)2項は、身分のないものは通常の刑(背任罪)になる。ここで、ある問題が浮上する。刑法65条の1項と2項で矛盾が生じている事だ。1項は「連帯的」に考える。つまり、身分がなくても犯罪が成立する(その犯罪に参加してしまうと身分がなくても共犯として扱われる)2項は「個別的」に考える。つまり、身分がない場合には別々に要件をみる(犯罪に参加しても身分がなければ共犯は成立しない)。連帯的にみるのか、個別にみるのかがハッキリとしていないのである。

判例の考え方¹¹

1構成的身分(真正身分)の規定

「犯人の身分によって構成すべき」としている。犯罪が成立するために「身分」なものを「構成的身分犯」又は「真正身分犯」という。

・非身分者が身分者と犯罪をした場合

身分者と同じ犯罪を行ったと考える(共同正犯 刑法60)

・非身分者が身分者を利用した場合

身分者のした犯罪の教唆や幇助(狭義の共犯)が成立する。

・身分者が非身分者を利用した場合

非身分者の行為は犯罪とならない。犯罪を成立させる身分がないためである。このとき考えるのは、身分者の行為が犯罪とならないか、ということである。身分者の行為が間接正犯なら身分者の単独犯に、意思連絡あれば共犯になる(共犯従属性説、実行行為者の行為が犯罪でなければそそのかした者も犯罪にならない)

2加減的身分(不真性身分犯)の規定

「身分によって特に刑の軽重があるとき」というのは、身分があることで刑に差が生じるもの(加重・減軽)。これを「加減的身分」又は「不真正身分犯」という。

以上のことを下記にまとめてみた。

7-3-2 年功序列社会と共犯理論

日本の特徴は前述したが、ここで共犯理論と絡めて行こうと考える。日本社会は責任の所在が不明確な所がある。「おみこし経営」と呼ばれるもので、トップの人間はお飾り、下の人間が実質的に指揮を執っているものである。日本の歴史は「おみこし経営」で成り立っていると言っても過言ではないだろう。摂関政治や幕府政治など、昔からその文化が続いている。こうなると、責任は誰がとるのか分からなくなる。お飾りでもトップの人間が責任を取るのか、または実質的に指揮を執っている人間が責任を取るのか。第二次世界大戦終結後、連合国は「戦犯」を探したわけだが、この時意見が大きく割れた。天皇か陸軍トップ層の人間かである。このような議論を産んだのも、この日本の特性故のことであろう。

責任の所在が不明確なことは共犯理論にも影響を与える。刑法60条には「二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする」とある。この「すべて」の部分に日本の特性が詰まっていると考える。すなわち、連帯責任的にみているのだ(「赤信号みんなで渡れば怖くない」)。これはドイツ法由来の考え方で、関係者全てが共犯になる(犯罪共同説)。日本において、従犯になるケースはかなり少ない。対して、英米法では、正犯と従犯を明確に分類する。強姦を例に挙げてみると、実際に行為をした者を正犯、行為はしていなくても部屋などを用意したものは従犯となる(日本だと全員正犯)

このように、日本社会と共犯理論は共通の部分があるといえるだろう。

 

8 異次元金融緩和と日銀引受&マネーサプライと金利

日本は、経済的にも様々な問題を抱えている。ハイパーインフレになる危険性だ。国が異次元金融緩和などの政策を行うのにはお金が必要である。そこで、国債を発行している。ここで問題なのが、日銀がその国債の半数ほどを買っている事だ。財政法5条本文には日銀引受をしてはならないとの内容がある。しかし、同条の但書で「特別の事由がある場合」には日銀引受が可能となるのだ。これを日本は30年程行っている(もはや特別の事由ではない気がしてならない)。社会保障費など他にも原因はあるが、累積債務(1200兆円)を増加させる一因となっている。

また、種銭は作っている(マネーサプライ)が、実際に動いているお金が少ない状況(タンス預金、内部留保)がある。こんな状況でひとたび戦争などが起きれば、溜まっていた分が一気に市場に流れ出てくるので、ハイパーインフレが引き起こされてしまうのだ。

現在日本銀行は「短期金利マイナス0.1%、長期金利ゼロ%」という政策金利を掲げているが、今の日本ではむしろインフレの危険があるのに、デフレ対策を行うのは如何なものかと考える。

 

生活保護受給率と給付付き税額控除

今日の日本は少子高齢化社会と言われている。2020年の出生率は84832人で、2019年より24407人減って5年連続で減少し、1899年に統計を取り始めて以降最も少なくなった¹²。コロナ禍の影響も相まって妊娠を控える傾向がある事が伺える。出生率が減るということは、将来を担う若者の数が減ることに直結する。さらに追い討ちをかけるように、高齢者の増加が懸念される。2040年頃まで高齢者人口(65歳以上)が増え続けると予測されている¹³。

これらの状況から見えてくるのは、社会保障の崩壊である。負担額の増加と収入額の現象によるものである。生活保護と給付付き税額控除も社会保障の一種なのでそもそもこれからしっかり機能していくのかが懸念材料である。

 

10 まとめ

以上、論点をまとめてきた訳だが、とにかく日本は変化を好まない体質であると考える。確かに、伝統芸能や伝統技術など昔ながらの素晴らしいものは残していくべきだろう。しかし、変に固執してしまってはそれこそ「失われた30年」から抜け出せなくなってしまうだろう。日本社会が抱える問題は数多くあるが、変化を恐れず柔軟に対応していくことで、再び日本が世界に胸を張っていけると信じている。

 

〇参照

 中江先生の授業内容と板書

 勉強会の板書

¹ 世界経済のネタ帳(https://ecodb.net/ranking/area/A/imf_ngdpd.html)

²日本社会の強さと弱さを評価する 日本力の充実と新しい貢献の道を求めて―(https://www.gispri.or.jp/newsletter/201303)

³日本的経営とは?特徴やメリット・デメリットを詳しく解説!(https://the-owner.jp/archives/2802)

コトバンク(https://kotobank.jp/word/%E5%9C%9F%E5%9C%B0%E6%9C%AC%E4%BD%8D%E5%88%B6-159909#:~:text=1980%E5%B9%B4%E4%BB%A3%E5%BE%8C%E5%8D%8A%EF%BC%8C%E5%9C%9F%E5%9C%B0%E5%90%AB%E3%81%BF%E7%9B%8A,%E5%AE%89%E3%81%8F%E6%89%8B%E3%81%AB%E5%85%A5%E3%82%8C%E3%81%9F%E3%80%82)

「安いニッポン! なぜ賃金は上がらないのか?」(時論公論)(https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/457544.html)

コトバンク(https://kotobank.jp/word/%E5%85%AC%E7%A4%BA%E3%81%AE%E5%8E%9F%E5%89%87-62207)

コトバンク(https://kotobank.jp/word/%E5%85%AC%E4%BF%A1%E3%81%AE%E5%8E%9F%E5%89%87-62380#:~:text=%E5%85%AC%E4%BF%A1%E3%81%AE%E5%8E%9F%E5%89%87%E3%80%90%E3%81%93%E3%81%86%E3%81%97%E3%82%93%E3%81%AE,%E8%AA%8D%E3%82%81%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%A8%E3%81%99%E3%82%8B%E5%8E%9F%E5%89%87%E3%80%82)

法定相続人と法定相続分(https://www.souzoku-sp.jp/m/souzokunin/detail/index1.html)

平成30年住宅・土地統計調査 特別集計(https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2018/tokubetsu.html#:~:text=%E5%B9%B3%E6%88%9030%E5%B9%B4%E4%BD%8F%E5%AE%85%E3%83%BB%E5%9C%9F%E5%9C%B0%E7%B5%B1%E8%A8%88%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%81%AE%E7%B5%90%E6%9E%9C%E3%80%81%E7%A9%BA%E3%81%8D%E5%AE%B6,%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%8C%E5%88%86%E3%81%8B%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82)

¹⁰コトバンク(https://kotobank.jp/word/%E4%B8%8D%E6%B3%95%E5%8E%9F%E5%9B%A0%E7%B5%A6%E4%BB%98-125737)

¹¹刑法6512項の共犯と身分の判例・通説の考え方!(https://sinmaikun.com/kyouhantomibun)

¹²「出生率」去年1.34 5年連続で前年下回る 「出生数」は最少に(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210604/amp/k10013067521000.html)

¹³総務省統計局「1.高齢者の人口」(https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1131.html#:~:text=%E7%B7%8F%E4%BA%BA%E5%8F%A3%E3%81%AB%E5%8D%A0%E3%82%81%E3%82%8B%E9%AB%98%E9%BD%A2%E8%80%85%E4%BA%BA%E5%8F%A3%E3%81%AE%E5%89%B2%E5%90%88%E3%81%AE,28.1%EF%BC%85%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82)

 

 

Windows メール から送信

 

 

 

 

 

緒方千城

 

日本型組織と法律

 

1.     結論

新しいやり方や考え方がこれからの社会を変えていくために必要である。

 

2.     日本経済の現状

現在(2021年時点)日本のGDPは約530兆円であり、世界で見ると3位となっている。過去20年間で日本のGDP2000年代後半のリーマンショックや近年は消費税増税や世界で問題となっている新型コロナウイルスなどの原因で下降の時期もあったが、全体的に見れば緩やかな右肩上がりである。しかし、これはあくまで実質GDPであり一人当たりのGDP2011年以降から下降傾向であり、世界における順位は30位である。その要因の一つが日本国内における人口減少が挙げられる。一国の経済力の指標として用いられるので人口の多さによってGDPは影響されるかもしれないため、平均的な豊さを示す指標としてGDPからその国の人口で割った一人当たりのGDP(購買力平価換算)が平均的な豊かさを示す指標となる。これによればGDPでは世界3位出あったが、一人当たりのGDP(2020年時点)の順位は24位と差がある。先進国の中で日本の経済的地位は昔と比べ落ちてきている。

 

3.     日本の経済対策

日本経済が落ち込んだ原因として人口減少に伴う少子高齢化社会、平均賃金の低下が挙げられる。まず人口減少について詳しく論述していく。

まずは、先述したが経済(GDP)はその国の人口が少なくとも影響していることである。日本の人口は2000年代から減少しており、特に14歳以下の人口(出生率)が急速に減少している。その影響で人口減少する前の「働く世代」が現在の高齢者世代となり働く世代の高齢化=国内市場の縮小化に繋がっていく。日本経済の最盛期は戦後の高度経済成長期時代である。この時代は経済成長による所得水準の向上、国民皆保険などの社会保障の充実、医療技術の向上による平均寿命の延命化、これらにより豊かな生活環境が整ったことで二度のベビーブームとバブル景気を引き起こした。しかし、バブルの崩壊やオイルショック、リーマンショックなどの経済的混乱により人口は減少傾向となり、1985年に男女雇用機会均等法が成立したことで女性の社会進出が進む一方で、ワーク・ライフ・バランスの考えに伴う子育て支援体制がまだ不十分となっていることと多様な生活の充実化などで結婚に対する価値観の変化が結婚しない人(未婚化)の増加に繋がると私は考える。これにより生まれてくる赤ちゃんの数は減り人口減少となり経済停滞へと繋がる。

() 少子高齢化と社会保障

現在の日本は、少子高齢化が進んでおりその結果年金・医療・介護等の社会保障費は増大しており、特に第二次世界大戦後に生まれた第一次ベビーブーム時の生まれた世代いわゆる「団塊の世代」が高齢者の中で75歳以上の後期高齢者となる2025年ごろをめどに政府はこれまでの社会保障の在り方を見直す考えだ。具体的には年金改革、介護保険改革、医療制度改革などである。これらを順に改革案について現状など詳しく説明していく。

() 年金改革

長期的な給付と負担の均衡を図り、将来にわたって制度の持続可能性を確保していくため2004年に改革された。その中で公的年金の被保険者数の減少や平均余命の延びに応じ、自動的に給付の伸びを抑制する「マクロ経済スライド」が導入された。現在の日本の公的年金は20歳〜59歳の間の加入期間に入り保険料を納める国民年金と、原則会社員や公務員などの従業員が全員加入し国民年金保険にプラスした保険料が毎月の給料から引かれる厚生年金の二つが主な公的年金であり、今働いている現役世代が納める保険料が高齢者を支えている仕組みである。少子化高齢化により現役世代が減少し高齢者が増加するなかで、今まで通りの水準で年金を払うと現役世代の保険料負担が増し、負担が重くなるがその負担を重くしなければ年金財政が早く枯渇してしまう。その問題を解消するために物価上昇時物価上昇率ほどには給付を増やさないことで年金を抑えるマクロ経済スライドが導入されたが不発となった。その原因としてこれは年金が上がることを前提としていたが、デフレによって物価が上がらずそれが政府の目算よりも長く続いたからである。その結果年金を払い過ぎている状況が続いている現状である。

 

() 介護保険改革

認知症高齢者、高齢者世帯が今後急増することを見込まれることに対応し、地域密着型サービスの創設、地域包括支援センターの創設など新たなサービス体系の創設や予防給付内容の見直し、介護事務企業の創設など介護予防を重視したシステムへの転換を図るなど介護よぼうへの重点的な取組、施設と在宅の利用者負担の均衡を図るため、施設給付の範囲を見直し、食費・居住費を保険給付の対象外とした施設給付の見直しの三つが主な介護保険改革内容である。さらに2021年度から「第8期計画」のスタート、それと同時に2040年度への備えも考えられている。団塊の世代が後期高齢者となり介護ニーズの減少している地域も存在しているため、「地域特性」を生かした介護サービスの提供体制の確保も重要なテーマとなっている。そのため新たに介護予防・地域づくりの推進、地域包括ケアシステムの推進、介護現場の革新の3施策を進めることを考えている。

 

() 医療制度改革

超高齢化社会への突入、医療費増加、経済低迷による保険料伸び悩みにより、医療保険は赤字を計上し、医療保険の各財政運営が厳しい状況になったことから医療制度の改革が打ち出された。現役世代と高齢化世代の公平化を図ると共に、医療費の伸びと経済財政と均衡の取れたものとし、持続可能な制度にしていくため現在は以下の内容が改革として主なポイントとなっている。

1)    安心・信頼の医療確保と予防の重視

質の高い医療サービスを患者が受けられるように医療提供体制の確立、生活習慣病対策の推進体制の構築

2)    医療費適正化の総合的な推進

医療費の伸びが過大とならないよう、糖尿病等の生活習慣病の患者・予備軍の減少、平均在院日数の短縮を図るなどの計画的な医療費の適正化対策の推進

中長期対策・医療適正化計画(5年間)にて政策目標を掲げて、医療費を抑制

短期対策・公的保険給付の内容・範囲の見直し

3) 新たな医療保険制度体系の実現

後期高齢者を対象とした新たな高齢者医療制度の創設

都道府県単位を軸とする保険者の再編・統合

 

() 生活保護受給率と給付付き税額控除

社会保障で年金など医療保険について述べたが公的扶助について述べていく。生活保護制度は憲法25条の生存権を具体化したもので、生活に困窮する全ての国民に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長するための制度である。しかし、近年厳しい社会情勢の影響により失業する人の増加、就労による経済的自立が容易でない高齢者世帯の増加で生活保護受給率は増加傾向にある。これらの社会保障制度の見直しの一つとしてアメリカなどの先進国が取り入れている給付付き税額控除の導入が挙げられる。給付付き税額控除は、税額控除額が産出額を超える場合に、その超える部分の金額を給付(還付)する制度であり、税と社会保障など縦割となっている官庁の業務を効率化させるとともに、勤労を条件にして給付や税額控除を実施することで働く意欲を促進することもできる

 

4.     平均賃金

次に平均賃金の低下について述べていく。日本の男女別、男女合計それぞれの賃金の推移は1990年頃から少しずつ低下してきている。先進国の他国と比べると日本のみが平均賃金の低下傾向にある。この30年で日本が足踏みしている間に経済において他国との差は広がり近年ではそれまでかなりの差があった韓国にも抜かれた。ではなぜ、日本の賃金は世界に比べて賃金が上がらないのか。これは賃金の伸びとGAFAM(Google Amazon Facebook Apple Microsoft)について述べていく。

(1)  賃金の伸びとGAFAM(Google Amazon Facebook Apple Microsoft)

まず、GAFAMとはアメリカの大手I T企業である Google Amazon Facebook Apple 4社に加えて近年ではMicrosoft を加えた5社の頭文字を合わせた世界的影響力のある大手IT企業群の通称である。この5社はアメリカ国内だけではなく全世界にグローバルサービスを展開しており、膨大な収益を上げている。情報社会化・IT化によりスマートフォン・PCなどの電子機器の普及、近年の新型コロナによるオンライン会議の開催などで電子機器の重要はさらに高まりこれらの5社はデジタルにおける生活を支える様々なサービスを展開しているので需要・収益は共に上昇している。

次に、近年爆発的経済成長をしている中国にも同じような企業群がある。中国最大の検索エンジン会社「Baidu」、世界最大の流通総額を誇るインターネット関連会社「Alibaba」、ゲーム事業やソーシャルメディアを提供する大手IT・ネットサービス企業「Tencent」の中国3IT企業のBATである。中国のテクノロジー技術は世界でも最先端の技術を有しており、ドローンを使った無人配送など日本には無いアイデアやテクノロジー技術、さらには企業の技術力等を示す指標となる国際特許出願件数でも2年連続最多となりこれらが中国の経済成長に繋がったと考える。

アメリカや中国そして日本を抜かした韓国に共通することはこれらのような世界に影響力を持つ企業を有していること、その企業に生産性・収益力があることだと考える。最新の決算書を元に「株価(月末)×発行済株式数」で算出した世界時価総額ランキングにおいて日本はトップ50の中に32社がランクインしていたが、2021年時点でトヨタ自動車の1社のみがランクインしている現状である。

(2)賃金と企業の生産性

ミクロ経済学において給料(賃金)は働いた人(労働者)に支払われるものだが、雇用側(企業)は労働者に賃金を支払うことでコスト=賃金を引き換えに労働生産性をもたらす。労働市場において生産性が上がることによって企業の利益は上がり、労働者に支払う賃金も上がる。つまり労働の質(企業の生産性)と賃金はそれぞれに比例しているものである。日本ではアベノミクスによって企業実績の上昇、最低賃金の引き上げなどでGDPは約20%増加したが、賃金(労働分配率)は減少している現状である。労働分配率とは人件費に付加価値をどれだけ分配したのかを示す指標であり、適正な水準を保つことによって適正な人件費がわかる。労働者に賃金を支払いすぎると経営が圧迫し、少なすぎると労働意欲の減退に繋がる。世界的に見て労働分配率は低下傾向だが日本もその例外ではない。

(1)(2)から世界のGDPは少なくとも各国の企業の労働の質と賃金が関連している。かつて日本は世界でもトップレベルの経済的地位に位置しておりそれは、安価で高品質な製品を大量生産したことだったが現在では、中国や東南アジア企業がその位置にいる状況である。そのため先進国などは安価販売・大量生産をせず、高品質で付加価値の高い製品・サービスを提供する形にシフトしたがうまくいっていない現状である。時価総額ランキングにおいて業種別にまとめるとやはりGAFAMBATなどのI T・通信企業が上位にランクインしている。日本もGAFAMのような存在が不可欠であると考える。情報化社会が進むことでデジタル産業は発達しその需要も高まっていることが各国のIT・通信企業の成長につながり、今日の世界ではアメリカのGAFAM、中国のBATなどが世界的影響力を持つ企業へと成長し、アメリカと中国のGDPは上位となった要因でもある。なので、日本の特色を生かした日本版GAFAMを生み出すことによって日本経済の回復を促す要因にもつながると私は考える。

 

. 金利と土地

次に金利関連で日本の対策を見ていく。まず金利とは、お金を借りた際に借りたお金に対して支払う利子の割合のことである。金利には2種類あり、契約した時点からずっと一定になる固定金利と一定期間ごとに金利が変動する変動金利がある。日本は、法定利息は年3%であり、変動金利制としている(民法404条1項2)

() マネーサプライと金利

次に、マネーサプライ(通貨供給量)とは、金融機関から経済全体に供給されている通貨の総量を示す指標である。経済全体の金利は、お金に対する需要(企業の設備投資など資金の必要性)と供給(貨幣供給量、マネーサプライ)で決まる。貨幣供給量は中央銀行(日本銀行)が金融政策によってコントロールしている。個々の取引の金利は、経済全体の金利を元に信用や期間で決定している。返済できない借り手には、信用リスクあるためその分の金利を上乗せ分が多くなり、返済ができる可能性がある借り手には、金利の上乗せ分は少なくなる。期間も同様で長期になれば返済されない可能性が高まり金利の上乗せが多くなり、短期になれば金利の上乗せが少なくなる。これらから金利とはリスクと比例関係にあり、言い換えれば金利の本質とは将来への投資、未来予測とも考えられる。

() 異次元金融緩和と日銀引受

現在、新型コロナウイルスによって日本だけではなく世界で金利の引き下げなどによって経済の停滞からの脱却を図った。日本では、デフレ脱却のため2013年から日銀の黒田東彦総裁が異次元金融緩和を発表した。これはアベノミクスをきっかけに市場に供給する貨幣量を2年間で倍増させ、物価を2%上昇させる目的で打ち出した。この間に日銀は国債を大量買い入れしたことによって日銀の当座預金は膨大に膨れ上がっている。

() 金本位制度と土地本位制度

19世紀の世界各国では金をお金の価値基準とし、国が保有する金と兌換紙幣を発行しそれを交易に使う金本位制度をとっていたが、細かい値の取引ができないなどイギリスの貨幣法制定をきっかけに経済の仕組みが変わるにつれて金本位制度は廃止となり各国それぞれの貨幣を使う通貨貨幣制度へと変わっていった。法律で定められた通貨制度に基づき、その国の中央銀行が貨幣を管理し、経済を動かしていく。国が貨幣を管理するため国の信用によってそのお金の価値が決まり、世界の為替市場で様々な貨幣で取引するため、国の経済への信頼をなくしてしまうとその国の貨幣の価値も下がってしまうのが今日の世界経済の仕組みである。日本も19世紀後半に初めて金本位制度を導入したが、第一次世界大戦によって金の輸出を禁じ、すぐに金本位制度から今の通貨貨幣制度へと移行したため、主に銀をお金の価値基準とする銀本位制度をとっていた。

それと併せて1980年代後半には、土地を担保として信用が膨張していく土地本位制度をとる状況になった。地価高騰が要因でそれを担保に企業設備の更新・拡充、不動産購入、海外などの企業買収のための資金を安く手に入れた。今日でも金融機関は経済的損害を少しでも少なくするためこの土地本位制度が根強く残っており、それほど土地というものは極めて重要な存在なのである。

() 空家問題と相続登記義務化

しかし、土地高騰が続く中で空家問題を忘れてはいけない。空家の数は年々増加し続けており、その割合の中で多くを占めているのが「その他の住宅」である。貸しにも売りにも出されておらず、長期に渡っての不在の住宅や空家の区分の判断が困難な住宅がこれにあたる。ではなぜ、空家が増加しているのか。その原因として以下の三つが考えられる。

1)少子高齢化

少子高齢化社会で人口は減少し、高齢者が介護施設の長期利用で住んでいた家が空家状態となってしまうケースもあり、空家かどうかの判断が困難なこと。

)相続問題

空家を遺族が相続した際に相続人が複数人いる場合は、話し合いをする必要があるため交渉が進まず放置されてしまうケースもあり、空家の処分や土地の売却などの手続きは相続人の同意がないとできないため、勝手に処分することができない。

) 相続税

土地と建物は変わらず財産であるので相続税が遺族に当然課税される。使い道のない空家を相続し、毎年の固定資産税や維持費など支払い続け放置されてしまうケース。

これら三つが空家問題の発生原因でもあり、中でも相続問題が一番の原因であると推定する。しかし、この相続問題解消の糸口として令和6年から施行される相続登記義務化があげられる。これは、「所有者が不明」、「判明しても所有者に連絡がつかない土地」が年々増加していることから、それらを未然に防ぐための仕組みとして可決成立された法改正である。改正内容と改善されるポイントは以下の4つである。

1)      相続登記の義務化と罰則の制定

相続登記はこれまで相続人全員ですべきであったが、それを登記申請促進のため3年以内での単独で申請できることが義務化され、これを怠った場合は10万円の過料が課される。

2)      所有者の氏名住所に変更があった場合の変更登記の義務化と罰則の制定

住所や氏名の変更などで所有者が不明になることを避けるため、相続登記の義務化と合わせて、2年以内の「住所や氏名の変更登記」についての義務化がされ、これを怠った場合5万円の過料が課される。

3)      法務局による所有者情報取得の仕組みの制定

個人が不動産登記をする場合、生年月日などの情報を法務局に提供されることが義務化。

4) 土地の所有権放棄の制度化

相続で土地を取得した際に、土地だけを放棄することは現在できないが、法改正後は、それが可能になり土地を放棄した帰属先は国庫()となる。

土地の相続問題などはこれで解決することができ、空家問題はこの相続登記義務化が有効な手段として期待できると私は考える。

 

6.日本型組織

デフレや日銀引受などこれらを未然に防げなかった要因として物言えない日本型組織の特色にあることだと考える。なので、日本型組織について考えていく。

() 日本型組織

企業における日本型組織の特徴は年功序列社会である。勤続年数や年齢の要素を基に、雇用主の役職や給与などを決めていく人事制度であり、成果よりも長年勤めていると会社への貢献度が高いと見込まれるため長年勤めている人を優遇するのが年功序列社会の本義である。年長者を優遇し役職につくことによって下にいる人からは、物言えない立場になることが年功序列社会であるため、今日の日本の行政や企業がこのような年功序列社会になっているのではないかと考える。

() 年功序列社会と共犯理論  

では、年功序列社会と共犯理論について述べていく。信用金庫の理事長は内心利益を出すために社員Aへ融資の話をしており結果社員Aはその融資を実行したが、後にその融資によって融資先の会社が損害を被ってしまった場合の例題を用いて説明していく。

まず、挙げられるのが社員には背任罪に、理事長は特別背任罪という身分犯が考えられる。身分犯の違いとして、まず前提として身分犯とは、一定の犯罪行為に関する人的関係として特別な地位または状態 (男女、親族関係、資格等)にあることが犯罪成立の要素になっている犯罪類型のことをいう。身分犯は当該身分がなければ犯罪自体が成立しない真正身分犯と身分がなくても犯罪は成立するが、身分があるために通常と異なる刑罰が規定されている不真正身分犯の二つに分けられる。例題の二つは、身分犯であり背任罪は、構成要件において行為者が一定の身分を持たなければ犯罪を構成しない真正身分犯であり、特別背任罪は、構成要件において行為者が一定の身分を持つことで法定刑が加重あるいは減刑される不真正身分犯である。

次に、結果無価値論と行為無価値論の共犯の違いについて述べていく。

 

 

結果無価値

行為無価値

実行従属性

共犯従属性説

共犯独立性説

要素従属性

最小従属性説

制限従属性説

処罰根拠

因果的共犯論

責任共犯論

共犯の本質

行為共同説

犯罪共同説

共犯の違法性

混合惹起説

なし

違法性の本質

法益侵害

倫理違反

共犯と身分

真正身分犯と不真正身分犯

違法は連帯的 責任は個別的

主観的違法要素

認めない(目的犯などは認める)

認める

 

共犯の要素従属性とは、共犯が成立するためには、正犯が一定の犯罪要素を備えるものでなければならないという共犯の性質を指し、結果無価値論と行為無価値論とでは、犯罪の成立範囲が大きく違ってくる。前者の最小従属性説では、正犯の行為が構成要件に該当していれば足りるとし、後者の制限従属性説は、正犯の行為が構成要件に該当し、かつ違法であることが必要とする。つまり、前者は構成要件のみを、後者は構成要件に違法性を有していることが必要でそれ以外の有責性と処罰要件の要素は共犯の成立に必要ないとしている。

主観的違法要素とは、違法を構成する行為者の一定の内心を指し、行為に違法性を与えたり強めたりする要素のことをいう。私は、犯罪について結果無価値の立場をとっているが、主観的違法要素については行為無価値の考えを尊重したい。例えば、嫌がらせの目的で女性を裸にし、写真を撮った場合は、強要罪が成立するが、主観的違法要素を不要とし医者が性的欲求を満たすためだけに写真をとった場合、主観的違法要素の内心的傾向に行為の社会的相当性についても影響するので行為の外形だけでは判断できずに強制わいせつ罪ではなく、こちらも強要罪となってしまう。

例題に戻ると結果無価値論の立場をとると理事長は、主観的違法要素は不要とするのだから背任罪の教唆犯、社員は背任罪となり、行為無価値論の立場をとれば、理事長は特別背任罪が成立すると考える。

 

() 不法原因給付と財産犯 

不法原因給付とは不法な原因に基づいてなされた給付のことをいい、公序良俗違反として無効となるため、相手方は法律上の原因のない利益を受けたことになるが、民法では当該給付についての返還請求はできないとしている。なら刑法ではどうなのか。刑法では背任や詐欺・恐喝などの財産犯との論点につながる。昭和45年の判例で不法原因給付なされた場合の処理について「贈与者において給付したものの返還を請求できなくなった時は、その反射的効果として、目的物の所有権は贈与者の手を離れて受贈者に帰属するに至ったものと解する」としている。

これに似た例として、覚せい剤の購入を依頼して100万円を預けた場合に、委託を受けた者が覚せい剤を購入するのをやめて、100万円を自分のものにしてしまった場合は、不法原因給付ではなく、不法原因寄託とし、横領罪の成立を認めている。

 

() 日本の行政組織との裁判

近年の日本型行政組織の潮流として公法・私法一元化が挙げられる。かつては公法の適用範囲と司法の適用範囲は明確に分けるべきという公法・私法二元論だったが、行政庁の行いや振る舞いが広範囲になったことから公法の適用される場面と私法が適用される場面を個別に見ていく公法・私法一元論が主流となっている。そこで国が公示の原則と背信的悪意について負けた判例があるので紹介する。

登記簿上不動産の所有名義人となっている国税滞納者が滞納処分として不動産を公売処分に付した国が、登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する第三者に当たるかについての判例である。この判例は、国地位が民事訴訟上の強制執行における差押債権者の地位に類似しており、租税債権が公法上のものだからといって、国が一般債権者より不利益な取り扱いを受けるべきではないとして、国税滞納処分による差押は、民法177条が適用されるとした。

 

() プロジェクトファイナンスと背任

プロジェクトファイナンスとは、特定事業に対して融資を行い、そこから生み出されるキャッシュフロー(事業から発生する収益や事業の持つ資産)を返済の原資とし、債権保全のための担保も対象事業の資本に限定する手法である。

会社自体を担保とするので一部の自己資金拠出のみで可能だが、デメリットとして融資が実行されるまでに多大な時間と労力を費やすことになる。だが、金融機関は会社自体を担保とするため融資した事業が成功しないとわかった上で融資をして利益を上げる(背任行為)など悪用もできるので、プロジェクトファイナンスは少ない資金で運用可能だが、大きなリスクもあると考えるべきである。

 

7. まとめ

日本経済の回復には日本版GAFAMのような存在が不可欠だと述べたがそのためには、まず解決すべき課題が山積みである。空家問題の解消は、土地と空家の有効利用へとつながり現在の土地担保制度を見直す良い機会であると考える。年功序列社会においても年長者の意見は若い人は、逆らえないという風潮により向上心などが芽生えないリスクもある可能性があり、古いやり方や考え方は間違ってはいないのかもしれないが、今の経済を作り上げてしまった。そんな社会を変えるためにも今とは新しいやり方や考え方が必要になってくると私は考える。

 

 

 

参考文献・引用

 

ポケット六法

法律学演習・英米法 授業ノート

基本刑法T総論 第3版 大塚裕史・十河太郎・塩谷毅・豊田兼彦著書

購買力平価説      https://www.smbcnikko.co.jp/terms/japan/ko/J0263.html

GAFAM      https://www.pkmarketing.jp/word/gafam 

                  https://media-architect.co.jp/media/gafam/

BAT       https://www.bridge-salon.jp/toushi/china-tech/#中国とテクノロジー 

医療改革制度   https://www.wel.ne.jp/doc/feature/healthcare/healthcare/1.html 

         https://www.kantei.go.jp/jp/singi/syakaihosyou/dai18/18siryou3.html 

世界時価総額ランキング   https://media.startup-db.com/research/marketcap-global 

相続登記義務化  https://green-osaka.com/online/inheritance-registration-obligatory

https://sumitas.jp/sell/guide/425/

 

 

 

 

下山孝明

19J110021 下山孝明 

科目名 演習U 英米法U 

 

テーマ 日本型組織と法律

結論 日本は現代におけるジャパンアズナンバーワンの確立を急げ

 

 大学生である私達の中には、最近リバイバルブームに火がついた山下達郎や松任谷由実などのバブル世代を代表する歌手の歌を聴き親世代が体験した私たちには分からぬ昭和の若さと勢いそして愛に想いを馳せる。さて昭和は何故こうも上手くいっていたのか、そして何故私達現代日本人は衰退し始めたのだろうか?この精神性を活かせば日本はまた世界のメリットを取り込んだ新しい日本型組織を生み出せると確信している。

これを探るにあたって先ずは日本人の組織における精神性から探る必要があるだろう。

 

傘連判状、赤穂浪士にみる日本型組織の年功序列社会と共犯理論

 

「社員は家族」という価値観

 傘連判上、赤穂浪士達の美談これを考察すれば武家的日本型組織を説明することができる。

 傘連判上のルーツは戦国時代の武家にある。

だがその後領主に対して代表が訴える代表越訴を行っていた農民の代表者が重い罰を受けその上訴えが通らないことがあまりにも多かった為、一揆(強訴)をするようになった。その百姓一揆において代表者を隠すために、又結束を高める為に円形に名前を記したものだ。1741年の「御定書百箇条」には一揆の指導者を死刑にすることが定められている為指導しても死刑、代表が越訴しても重い罰を受けるその上、圧政も変わらない。となれば強引にでも政治を変える為にその必要性は尚更感じられる。しかしこの村という組織を村人全員が一つになり行動(共犯)を起こす一蓮托生の関係は仏教を信仰していた日本人独特の結論という風にも取れる。

と言うのも仏教の教典である金剛般若経には「もし、心に相を取るときは、すなわち、我・人・衆生・寿者に著すればなり。何を持っての故に。もし、非法に相を取るときは、すなわち我・人・衆生・寿者に著すればなり。この故にまさに法を取るべからず。まさに非法をも取るべからず。」中村元・紀野一義訳註『般若心経 金剛般若経』 岩波文庫 2004年版 54ppより引用

とある。つまりは個人や個体、生きている者への執着さらには自我をも捨てるこれが優れた人であると述べている。こうした仏教の空の思想、自我を捨て完全に共同体の一部として世相に身を任し溶け込むこの思想は傘連判上、更にはその以前から日本人の精神的傾向を根本から形成したと私は捉えている。そしてこの強い一蓮托生の関係性から抜け出す者を虐める村八分が行われる環境の礎になったとも考えられる。つまり日本人の組織は他人が集まる組織ではなく、一蓮托生の契約を結んだ者の強い結びつきであり欧米のように他人同士が集まり、同じ目標の為に共同すると言うものでは根本的にはないのである。

 フランスのバスティーユ監獄事件を対比の例に挙げれば、民衆による世相を変えるための反乱には変わらないものの、この人を集める流れに決定的な違いがあるのである。フランス人らは圧政への怒りや不満などから煽動者が出現し共同の目的の達成の為自然と人々がバスティーユに集まったのである。しかし日本人は結束方法に自我を無くし同じ存在となり結束する方法を取ったのである。この方法の堅固な結びつきというメリットと結びつきが強い故の身内内における甘えというデメリットが現在日本では問われている。

また、この精神性は現代のそして昭和の日本型組織の、「社員は家族」という言葉の奥底に隠された日本人の精神性が感じられてならないのは私だけであろうか?

 次に武家においては赤穂浪士の美談を考察すれば傘連判上とはまた違異なった武家的な日本型組織の精神性が垣間見える。

忠臣蔵と呼ばれるこの物語は主君に対する忠誠心と不条理に翻弄されつつもさまざまに苦労し最終的には目標を果たし美しく散るという美談であるが、傘連判上とは対象に不条理への反発ではあるものの物語の主体が農民ではなく既にトップの元に堅固な忠誠心で組織された武士達であることからこの物語からは日本独特の、組織に対しての帰属を求められる「体育会系の会社」が現代に生まれる由縁を見出すことができるのである。そしてこの物語を美談と感じ語り継ぐ私達日本人の精神性もメンバーシップ型雇用を採用する日本型組織が生まれる理由の一つに数えられるだろう。

 この物語を考察すると浅野内匠頭長矩が吉良上野介義央を斬りつけるところから始まるのだがその理由は色々と説が出ているものの明らかではないそして江戸から離れた浅野家の家臣はその理由を知らないのである。しかしながら彼らは忠誠心から浅野内匠頭長矩の未練を果たす為に吉良上野介義央の首を取った。

 ここに現代人からは一つの疑問が生じる。彼らは会社の社長もしくは国の長でも良いがその人の考えを忠実に遂行する。しかしその理由が分からなくても主君の考えは正しいものとして行動するのである。そして組織から離れることが無いので歳とともに階級が上がっていく年功序列社会である。これは現在の私たちからすればあり得ないのではないか?こう言った精神が薄れ始めた日本人が理由もわからずに行動ができるだろうか?これが現在にも受け継がれた日本型組織の精神と現代日本人の精神の乖離である。そしてこれが日本古来の共犯理論である。

主君や会社の社長は家族でもなく、絶対の存在でもなく雇用主というだけの他人であるというジョブ型の概念と「社員は家族」とか「御恩と奉公」とかいうのが混ざり合った日本型組織のメンバーシップ型精神とが対立し合っているのである。

 次に現代日本の刑法から共犯理論を考えていく。

共犯とは大きく分ければ共同正犯、共謀共同共犯(日本では判例概念である)、教唆犯、幇助犯に分かれる。日本型組織の共犯理論を考える上で重要なのは共謀共同正犯と、教唆犯の違いについてである。刑法60条では「二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。」とある。次に刑法611 項「人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。」とある。正犯とは何か?という学説の定義も曖昧な上さらに、ここで気付くのは実行を行わなかった教唆犯とも取れる人間の罪である共同共謀正犯と、教唆犯の実際的な違いの薄さである。60条を解釈すれば、二人以上で犯罪を行えば共同正犯となる。教唆犯の要件と重なってしまい理論的に言えば教唆犯を共謀共同正犯として裁くことも可能であるし、その逆もあり得るという事である。さらに付け加えれば教唆犯で裁かれたとしても正犯に準じて裁かれるのであるから共謀共同正犯のどちらで裁いても事件の重大さにより量刑は異なるからどちらでも良いということにはならないだろうか?日本の刑法はドイツ法を参考に作られたそして教唆犯をも共謀共同正犯として裁くやり方は実に日本的であると私は思う。これは日本型組織を日本型の赤穂浪士や傘連判状にみられる日本型の責任の負わせ方で負わせるのに都合がとても良いからである。しかし今後の日本の発展を考えてみるべきである。本来教唆犯である人間を実行犯の人間と同じに裁く統一的正犯体系は「トップが責任をとらない。」「責任の所在地がどこかわからない」そうした問題を棚にあげ、関わった人間全員を裁けば一網打尽だ。という安直な考えに依ってしまわないだろうか?日本型組織の「社員は家族だから俺たちは一つだから」という責任の負存在を認めてしまうことにならないのか?ジョブ型の現代社会では責任を負わないことはあり得ないここにも日本型組織と世界標準の乖離が見受けられるのである。

 であるからして私はここに一つの解決策を提示する。それは現在の判例解釈に頼り曖昧なまま刑法を運営するのではなく英国法のように、正犯概念を明文化し実行行為の概念を明確にすることである。

先ずこの問題は我が国の判例などほぼ全てにそしてコロナ禍の対応においても共通して言えるのだが明文化せずに曖昧なままにしておいてどちらにも転べるように法律を運用している印象を受ける。それは確かに強みとも言えるが逆に日本型組織の責任の不存在というデメリットをなくしその上でジョブ型へ転換するには大きな障害と言えるのである。

その障害を無くす為にも英国法の精神を取り入れるのである。論文を引用させていただくと

 

 

イギリスにおける正犯概念及び共犯

概念は、わが国のそれと大きく異なるものではないといってよい。ただ、ここで注意しなければならないのは、イギ

リスにおいては実行行為の概念がわが国に比べて厳格に捉えられているということである。わが国では、共謀共同正

犯の理論に代表されるように、犯罪の実現に関して重要な役割を演じたかどうかといった実質的な観点が、正犯と共

犯の区別にあたって考慮される傾向が強いといえる。これに対しイギリスにおいては、単なる謀議をも実行行為と捉

えると実行行為の概念が暖味になってしまうとの理由により、謀議に参加したにすぎず実行行為を分担しなかった者

(8).

は、正犯ではなく共犯として扱われている。

 

イギリスにおける「共犯と身分」に関する一考察

 

https://doshisha.repo.nii.ac.jp/index.php?action=repository_action_common_download&item_id=18735&item_no=1&attribute_id=28&file_no=1&page_id=13&block_id=100

2022114日閲覧

 

 

とある。この概念の線引きそれこそが今の日本に必要とされている概念ではないか。

 

賃金の伸びとGAFAMGoogle Amazon Facebook Apple Microsoft・現代の日本における正しい働き方とはなにか

 

 日本型組織の賃金は何故伸びないのか?そしてGAFAMが伸びるのは何故か?ではどう働けば日本は伸びるのか?この章で述べる。

また、前章では日本型組織の責任とその責任の取り方について述べたが責任が生まれる前の段階である意思決定の方法とその不明瞭さも考察の射程に入れていく。

日本型組織は戦後復興の最中、右肩上がりの経済においてその力を発揮したと言える。と言うのも何も無かった日本においては大量に生産し大量に売るそしてその製品のクオリティが上がっていくそしてプラザ合意がありその熱気はさらに舞い上がっていく。日本型組織の共同体意識の強い一蓮托生の働き方と忠実な人間性は人材流動性の低い昭和においてはバブルを生み出しジャパンアズナンバーワンほどの優秀な働き方であった。しかしこの働き方もグローバル化による人材流動性の高まり、日本人の個人としての意識の復活により現代では次第に通用しなくなった。それが賃金の伸びない理由の一つである。しかしながらコミュニティの結束力は高くここに日本社会の伸びしろがあり、ジョブ型のメリットを取り込めば大きな発展の可能性がある。

 次にGAFAMが何故伸びるのかそれは前述した世界の流れに適したジョブ型だからである。

ジョブ型で真っ先に思い付くのはGAFAMを擁している米国であろう。彼らの働き方は個人を伸ばす決して無我では無い、多民族国家故の多様性は世界で受け入れられる働き方と勢いを生み出した。

またそうした環境では多くのアイデアが生まれ、生活を変える。しかし判例を読んでいても読み取れるような曖昧にしておいて失敗しないようにかつ小さい成功を積み重ねる日本人の考え方、働き方では、かつて我が国でスマートフォンの原案アイデアが受けいれられ無かったように新しいアイデアは受け入れられることが少ない。しかしながら戦国時代の火縄銃然り新しい者を受け入れ変化してきた者が天下を取ったようにジョブ型は変化に富む競争社会において変化しやすいと言うメリットを日本は取り込むべきである。

 では具体的にどうすれば日本は伸びるのかそれは「メンバーシップ型の共存性を活かしたうえで、ジョブ型のメリットを取り込む新しいメンバーシップ型の開発」である。

昨今ではメンバーシップ型のデメリットが多く叫ばれているが実は一概にそうとは言えない。逆にジョブ型のデメリットを述べれば強すぎる競争社会を作ってしまったことだろう。格差は米国の大問題である日本も格差はあるものの米国ほどでは無い。ここにメンバーシップ型のメリットの入り込む余地があるのである。終身雇用制は廃れていく、そして新卒3年目以内の離職率は上昇しジョブホッパーが定番になる。能力により仕事を獲得する。そういった競争原理を取り入れる為に我々は現在の「大卒でも無能力者」を産まぬように職に特化した教育にも舵を切るべきであろう。現在そういった取り組みはセンター試験を廃止し共通テストの採用、大学に新設された特定の職の教育に特化した学部などに見受けられる。だがこうした競争原理を働かせながらも私たちはメンバーシップ型の暖かさ、日本人特有の和合の精神を忘れるべきでは無い。

会社での人間関係も飲み会などのレクリエーションに頼るのではなくPC画面を通した人間関係を強化する為に新たなシステムを生み出す必要があるだろう。それは最近注目され始めたメタバースでも良い。競争と和合のバランスを目指すべきである。

 

金本位制度と土地本位制度プロジェクトファイナンスと背任

 

 経済の観点からこのテーマを考えていく。このキーワード達の根底にはどうすれば金が回り起業などが活発に起こるのかと言うテーマが隠れている。

 金本位制度は金との交換を保証することで兌換紙幣の為替を固定していた。現在日本は管理通貨制度を各国と同様用いているが、土地との交換を保証して成り立つ土地本位制度も生き続けている。

土地本位制度の成り立ちはプラザ合意から円高が進み、対策として日銀が行った低金利政策、そしてマスコミによる土地神話によって地価が高騰したことにある。

であるからして、前述した新しいアイデアが育ちにくい制度はここにも見受けられるのである。

なぜかと言うと、土地がない人間は起業をしたくても担保がないので銀行の融資が受けられないのである。この対策としてプロジェクトファイナンスや仮想通貨管理制度がある。

前者のプロジェクトファイナンスは特定事業の成否に依存して融資を行うので効果的である。

しかしながら、土地などの形のあるものではなく、無形物のプロジェクトに貸し付けると言う点で銀行側が融資が焦げ付くと知りながら銀行の金を融資すると言う背任行為もあり得る点で危うい。この場合は違法性の意識が問われる、厳格故意説はあえて行ったとこに対して故意を認める。

制限故意説は違法性の意識は要件として不要であるがその可能性が故意の要件とするものである。

プロジェクトファイナンスを活かすにあたって、故意の可能性に着目し判例に頼るのではなく法制度によって基準を定めることも重要である。

 

 異次元金融緩和と日銀引受、マネーサプライと金利

次に異次元金融緩和と日銀引受、マネーサプライと金利についてであるが、これはアベノミクスの有効性そして適法性に考察の余地がある。

これらの政策はインフレを起こし物価を引き上げると言う点で現在成功しているが、これからの景気はどうなるか分からないと言う点で不確かである仮に背任罪を適用するならばここでは故意の存在が問われる。

 異次元金融緩和は今までの金融緩和と異なり量的質的にも大きいという意味で異次元金融緩和と呼ばれる。

 日銀引き受けは市場を介さず日銀が直接国債を買い受ける。国債の市中消化の原則に基づいて財政法5条により原則禁止されている。またインフレの恐れもある。

この日銀引受は但書に基づいて行われた。

 マネーサプライは国内に弊価を供給し、金の回りをよくするしかしこれもインフレを引き起こす。次に金利の面では、日銀に貯められた資金を放出するためにマイナス金利を起こし銀行に金をため貯めないことを目的としている。

 しかしこれらの政策には流動性の罠がある。

アベノミクスの金融緩和は金利水準を下げてしまうために、一見すれば企業などに金が回るように見えるが、融資は行われず、銀行から資金を放つ目的が達成されず現状が変わらないという見方もできる。また内政的貨幣供給論に基づけば、需要に基づいて資金は供給されるのだから結局は的はずれな政策とも捉えられる。

日本国債の信用が落ちジャンク債権となればその未来は暗い。

 

 

生活保護受給率と給付付き税額控除

 

 次に働き方と経済の観点とは別に生活保護の観点から日本の発展を考える。

 日本の生活保護受給率はとても低いその原因には申請主義と呼ばれる申請をしなければ生活保護が受けられないシステムにある。申請する際申請者の精神的負荷は大きく、脱落者の様な気持ちを耐え友人と頼る親類がいないことや現在の所得などを全て洗いざらい話さなければならない。そのためホームレスの中には生活保護を受けれても「お上が嫌いだから絶対に嫌だ」と言う人々もいる。これは生活保持義務と生活扶助義務の二つが存在しているのが理由だが、生活扶助義務を子供が履行しない場合母親が公的扶助を受けようとすると扶養義務が優先され生活保護が受けられないなどの例がある。これには儒教的な親を大切にする考えが薄れている場合もあると認めて、家族ではなく個人として認め補助をうけさせる必要もある。また生活保護費算定法(就労自立給付金)によって生活保護は収入認定された分だけ生活保護費として引かれていくので、金を稼ぎたいと望む低所得者がいてもその労働意欲を大きく削ぎただ最低限の生活を押し付けられることになってしまう。そして現行の社会保障もこの状態では上手く回らない。

 その対策として給付付き税額控除は税額控除で控除しきれなかった分を現金にて支給するものであるが、現在低所得者から年金を取り低所得者をさらに締め付け抜け出すのが困難になる様にしている税制を改める一歩として注目できる。税の逆進性に対する対策でもある。またベーシックインカムの様に全ての人に金を配るわけではなく低所得者を狙い撃ちする点でより効果的である。

 

不法原因給付と財産犯、公示の原則と背信的悪意、空家問題と相続登記義務化

 

 最後に空き家問題を通して、これらのキーワードを考察する。

空き家問題を解決するには取引の安全と中古市場の拡張が急務だ。

まずは不法原因給付財産犯の面から考察すると、不法原因給付は例えば不倫の継続を目的として、建物を贈与した場合所有権は受贈者に移転せずとも建物の所有権をもとにして返還を請求してもそれは叶わないなどの判例がある。

これを反射的効果といい民法708条が適用されている。また刑法の面では所有権の保護を優先すると考えることもできる。また判例とは別に不法原因給付と言ってもこれは不倫問題であるために、財産犯つまりは横領罪の成立を認める余地もあると唱える説もある。浅学な主張ではあるが法秩序の統一性を求めれば取引の安全性は保たれる様に感じる。

 次に公示の原則と背信的悪意について述べる。

公示の原則は民法177条により定められており内容は不動産物件変動に登記を要求しその登記に第三者は対抗できないと言うものである。その目的は不動産取引の安全を保護することである。 

背信的悪意者は悪意がある上で信頼を裏切った事実があることが要件である。また、背信的悪意者排除説は177条に基づきその悪意が信義則に反するものとして悪意者を排除するものである。

 しかしながら競争原理を導入するためにも悪意者、第三者の介入をどれだけ許すのかここも検討の余地がある。しかしながら現在の日本は過去と状況が変わり全ての第三者に対して登記を必要とする無制限説を取る必要もない。何故ならば可能性として転得者がよりよく登記の対象を利用できる可能性もあるからである。

 次に空き家問題と相続登記義務化である

空き家問題と相続登記義務化を論じる。空き家問題とは登記と相続の問題と、固定資産税・相続税と更地価格、登記申請の添付書面と共同申請主義が絡まり合う。先ず空き家問題が発生する原因として固定資産税が空き家にかかること、その土地に建物がある場合は、住宅用地の軽減措置特例がかるため空き家を放置した方が安く済んでしまう点がある。

相続税の面では小規模宅地等の特例は人が住んでいない空き家では適用できないことがあげられる。また相続税の評価は路線価方式がとられる。

また、相続の場合は登録免許税もかかる。また、こうした不動産の相続を望まない人は相続放棄を行うそれは取引の安全の為である。また、相続廃除や欠落遺族の生活保障の為、にあるがそうした事情から空き家を取り壊さず放置するケースが増えるしかし、現状を放置すれば国庫に帰属したとしても管理は追いつかない。そして空き家を手にしたい人物がいても被相続人の名義のままの土地は相続登記をしなければ売れず中古市場が滞る。また相続をわざと行わない所有者不明土地の増加も問題である。その土地は誰のものかわからないので売買ができない。また、公的書類にも期限があり、自分の不動産なのに書類が準備できなくなる場合もある。そういった現状の中、中古市場の流れを活発化させるために相続登記義務化は空き家問題の対策として生まれたものである。これは日本が新しく家を建て続ける段階から家を再利用する段階に入ったと考えても良いと私は思う。

 では具体的に申請をする場合はどうなるだろうか今回の法改正では手順も改正され簡素化された。共同申請主義は登記によって直接利益を受ける登記権利者及び 登記によって直接不利益を受ける登記名義人をいう登記義務者の共同申請が登記を行わなければならないというもので、相続登記もこの原則を採用している。また、出頭主義も廃止しオンライン申請が可能になった。また、相続登記申請の添付書面は登記原因証明情報、住所証明情報、登記事項証明書、代理権限証明情報である。これらの公的書類のうち登記事項証明書はオンラインでの申請が可能になった。また、登記識別情報をなくした場合は本人確認によって確認される。しかしまだまだ、これらの簡素化では登記をするものにとっては不便なままでこうした煩雑な事務処理をさらに簡素化するか、専門家をさらに安価に雇えるようにする必要があるだろう。

また共同申請主義を採用する理由は共同に申請することで真正を保護するためであるから国家が介入し真正を保護することで単独の申請を可能にするべきではないだろうか。

 

出典 

 

https://doshisha.repo.nii.ac.jp/index.php?action=repository_action_common_download&item_id=18735&item_no=1&attribute_id=28&file_no=1&page_id=13&block_id=100

2022114日閲覧

 

中村元・紀野一義訳註『般若心経 金剛般若経』 岩波文庫 2004年版 54ppより引用

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html

忠臣蔵 小林 信彦

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00222.html

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html

民法概論 1 -- 民法総則 - 山野目 章夫

物権法[第2版] - 日本評論社。秋山靖浩 伊藤栄寿 大場浩之 水津太郎

 

 

 

 

 

柴田 悠翔

日本のさらなる経済発展のためにも、日本型組織の仕組みについていま一度見直す必要がある

 

 

1.日本型組織と経済の発展

2021年9月29日に公表された国税庁の「令和2年分民間給与実態統計調査結果」によると、2020年の日本の平均給与は433万円となり、前年比0.8%の減少となった。平均給与は2019年が436万円、2018年が441万円で、2年連続で前年を下回っている。私は、こうした賃金の伸びの悪さに日本型組織の仕組みが関係していると考えている。

(1)金本位制度と土地本位制度

戦後の日本は、土地本位制により土地の価格が下がらないといういわゆる土地神話状態が続いていたが、バブル崩壊とともに終息した。このときに土地本位制も終わりを迎えたかのように思われたが、日本では現在も土地本位制が続いている。その証拠に、現在の日本の銀行は土地担保や不動産担保による融資を主としており、土地価格や不動産価格が高ければ多く借り入れることができ、安くなると融資が減り世の中へのマネーサプライが減るような仕組みとなっている。

この土地本位制度の仕組みは、賃金の伸びとGAFAMGoogle Amazon Facebook Apple Microsoftの問題とも密接に関わっている。日本の賃金が伸びない原因の1つにGAFAMのような企業が日本に生まれないことが挙げられるが、ではなぜGAFAMのようなベンチャー企業が日本には生まれないのだろうかといったときに浮かび上がってくるのが土地本位制度の仕組みである。土地本位制度により銀行は不動産を担保に出さないと融資をしてくれないため、企業としては一歩を踏み出しにくく、結果GAFAMのようなベンチャー企業が生まれにくい状況が出来上がっているのである。

このような状況を改善し、賃金を上昇させるために何をすればよいだろうか。これについて私は、企業に対する融資を促進すべきであると考える。日本の賃金を上昇させるためにはやはりGAFAMのような企業が必要不可欠である。そのため企業への融資を促進し、賃金を上昇させるような日本版GAFAMを育てることが日本の賃金上昇に繋がると私は考えている。

これに併せて、債務者にとって酷になりすぎないような担保法制を整えることも必要であると考える。現在の日本経済は土地担保・不動産担保で回っているため、土地価格や不動産価格が上昇すれば日本経済は回復すると考えられる。そこで、日本経済の根幹部分である土地・不動産担保の法制度を見直し、企業にとって融資を受けやすいような状況を作っていくことも重要であると私は考える。

 

(2)年功序列社会と共犯理論

日本型組織の特徴の1つとして年功序列社会が挙げられる。これは年齢が高く勤続年数が長い従業員ほど待遇が良くなる人事評価制度で、社員の人事育成がしやすい、組織の一体感が高まるといったメリットがある。終身雇用制度とともに戦後の日本型組織を支えてきたこの制度であるが、少子高齢化が進む現代においては組織の高齢化も相まって膨大な人件費が掛かるというデメリットもある。さらには刑法上の共犯の問題にも関係してくる。

刑法では、2人以上が共同して犯罪を実行した場合その全員を正犯とすることを規定している(60条)が、その解釈については、関係者は全員共犯であるとするような犯罪共同説を日本はとっている。そのため日本では全体で共犯して全体で同じ量刑を受けるような事例が多く、これについて判例の多くも共同正犯をとっており教唆犯が成立しないことが多い。教唆犯が成立しないということは、組織のトップが責任を取らないことが多いということである。このことは以下の日本型経営の問題とも関係している。

よく日本型の経営はおみこし型経営と称される。有能、無能に関わらず、リーダーになった人間を部下が神輿のように担ぐ経営スタイルを指してこう呼ばれているが、この経営スタイルには弊害があると指摘されている。その典型が、トップの責任を取る精神の欠如である。大企業は特に経営判断一つで巨額の損失を出し、東芝のように会社存亡の危機に追い込まれる場合もある。しかし、経営判断を間違ったトップが司法で裁かれることはほとんどなく、高額の退職金すら受け取っている。

こうした現状を踏まえて、このようなおみこし型経営は一掃するべきであると私は考える。こうした馴れ合いの関係が社会に良い影響を及ぼすとは到底言えず、むしろ日本の経済発展を阻害していると評価することもできるため、こうした経営スタイルは現在の日本には必要ないというのが私の見解である。

 

 

2.経済政策と犯罪

刑法における違法性に関して、行為無価値論と結果無価値論という理論がある。前者は倫理違反を刑の本質とし、行為自体に違法性があったかを重視するというものである。これに対して後者は法益侵害を刑の本質とし、行為の結果を重視するというものである。

ピストルで人を狙って撃ったが弾が完全に外れたというケースにおいて、結果無価値的な考えでは実際には弾が命中しておらず結果が発生していないため犯罪の成立には至らないが、行為無価値的な考えであれば結果が発生していなくてもピストルで人を狙って撃ったという行為が違法なものであったと評価され未遂犯として処罰することができる。このように行為無価値論は未遂犯においてより広い範囲で処罰できるため私は行為無価値論を推す。

(1)横領罪と背任罪と共犯論

以下は共犯理論における両無価値論の立場をまとめたものである。

 

行為無価値論

結果無価値論

罪名従属性

部分的犯罪共同説

行為共同説

実行従属性

共犯独立性説

共犯従属性説

要素従属性

制限従属性説

最小従属性説

処罰根拠

責任共犯論

因果的共犯論

共犯と身分

65条1項 真正身分犯

65条2項 不真正身分犯

65条1項 違法身分

65条2項 責任身分

行為無価値は結果無価値よりも共犯の従属性が強く、より広い範囲において共犯を認めている。また、判例は制限従属性説を採用している。

不法原因給付と財産犯の問題では横領罪を成立させるべきだろうか。これについて検討する前に、まずは不法原因給付に対する民法の処理をみてみる。

不法の原因で未登記の建物が贈与された場合に、その引渡しが民法708条の不法原因給付に該当するかが争われた事例において判例は、708条が適用されるとしたうえで、同条の適用により、建物の返還請求権が否定されるため、その反射的効果として建物の所有権が贈与者から受贈者に移転すると判示した。

以上の判決を踏まえたうえで、私は不法原因給付と財産犯の問題では横領罪は成立しないと考える。横領罪は自己の占有する他人の財物を横領した場合に成立する(刑法252条)が、本判決では贈与者は反射的効果によって既に建物の所有権を失っており、他人の物とはいえないため、横領罪の成立は否定されるというのが私の見解である。

 

(2)プロジェクトファイナンスと背任

企業は、多額な負債を必要とするような大規模なプロジェクトにおいてプロジェクトファイナンスを用いることがある。プロジェクトファイナンスとは、プロジェクトから得られるキャッシュフローを返済原資とし、プロジェクトが保有する資産を担保とした資金調達方法のことである。プロジェクトファイナンスには、スポンサーにとっては大規模な資金の調達が可能となり、貸し手としても高い金利やビジネスチャンスが広がるといったメリットがある。しかし人間が行うことである以上当然失敗する可能性もある。そのようなときにプロジェクトファイナンスの関係者を背任罪として処罰する必要はあるだろうか。

これについて私は、失敗させようという意思がなければ必要ないと考える。仮にプロジェクトファイナンスの失敗時に刑事罰が科されるとなると、企業としても失敗時のリスクを考えると一歩を踏み出しにくくなり、結果自らGAFAMのようなベンチャー企業が生まれにくい状況を作り出してしまうからである。

 

(3)異次元金融緩和と日銀引受

2013年に日銀は異次元緩和と呼ばれる大規模な金融緩和策を推し進め、市場に出回るお金の量を増やした。また、これに併せて財布の発行した国債を直接日銀が購入する日銀引き受けも行われた。こうした異次元金融緩和と日銀引受によって、インフレが起き、実質金利が低下し、その結果経済活動が活発になることが日銀の狙いであったと思われるが、実際には日本の物価は上昇しなかった。日銀が掲げる物価目標は前年比2%であるが、これは異次元緩和の開始当初から現在に至るまで一度も達成されていない。

このような大失敗ともいえる結果になってしまった原因はどこにあるのだろうか。これについて私は、日銀が中立性を放棄したことが原因であると考える。本来日銀は中立的でなければならないが、およそ8年間もの間円安誘導・超低金利政策である異次元緩和を続けている。これは、国民経済の健全な発展に貢献するという使命を逸脱した誤った市場介入であると評価できる。

 

 

3.経済政策と社会保障

日本の経済発展のためには国民に目を向けること、すなわち社会保障制度の見直しも必要であると考えられる。以下では社会保障、及び経済の観点から日本の発展について論じていく。

(1)生活保護受給率と給付付き税額控除

日本における生活保護受給世帯数は2021年9月時点でおよそ164万にのぼり、これに必要な予算は3兆円以上となっている。生活保護受給者が多いということは、それだけ国家予算や地方予算が生活保護受給費によって削減されるということであるから、少しでも生活保護受給率を減少させたいところである。

こうした問題の解決のために、日本でも給付付き税額控除を導入すべきであると私は考える。給付付き税額控除とは課税額より控除額が大きい場合にはその差額を現金で給付する税額控除制度で、生活保護を受ける場合と比べて国の負担が少なく、勤労意欲の促進にもなるため生活保護率の低下が期待できる。さらに、消費税で問題となっている逆進性の緩和にも繋がるため、低所得者対策としては最適のような制度である。

しかし、この給付付き税額控除を導入するにあたってある問題が挙げられる。それが所得の正確な把握である。国民一人一人の所得を把握したうえで給付付き税額控除の対象となるかを判断することになるため、行政が一人一人調べていたら膨大な時間と手間がかかってしまう。このような問題に対して私は、マイナンバーカードの申請を義務化し、各人の所得をマイナンバーカードに紐付けるような制度を作るべきであると考える。

 

(2)経済学派の対立

マネーサプライと金利は相互に影響しあう関係にあるが、マネーサプライの増加が金利に及ぼす効果については経済学派の間で対立がある。以下は経済政策における各経済学派の立場をまとめたものである。

 

ニューケインジアン

新古典派

リフレ派

ポスト・ケインズ派

MMT

租税の意義

財源と捉える

同左

租税貨幣論

自然利子率

肯定説

同左

否定説

金融政策

(マネーサプライ)

やや積極的

異次元金融緩和

消極的

財政政策

◎積極的

貨幣供給量の決定

外生的貨幣供給論

同左

内生的貨幣供給論

外生的貨幣供給論とは、マネーサプライは日銀がどれだけお金を刷るかによって決まるという考え方である。これに対して内生的貨幣供給論とは、マネーサプライは経済の内側の需要によって決まるという考え方である。

これらを踏まえた上で私はポスト・ケインズ派を推す。現在の土地本位制の仕組みを最大限活かすためには、税を貨幣の価値を担保するものとして捉える租税貨幣論的な考えが適していると考えるからである。また、前述のように異次元金融緩和が景気の上昇に繋がらなかった前例があるため、金融政策についても積極的に行う必要はないと考える。

こうした経済学的な観点から見た場合に、日本の経済の発展に必要なことはなんだろうか。これについて私は金利の引き下げが必要であると考える。金利を下げることで企業はお金を借りて投資をしやすくなるため景気の上昇にも繋がると考えられる。しかしここで注意しなければならないのがマイナス金利である。金利を下げすぎてマイナス金利になると貸す側がまったくもって得をしないような状況になるため、かえって景気は低下してしまう。いわゆるリバーサルレートである。そのため、下げすぎには注意したうえで企業と銀行双方にとって負担になりすぎないような金利の引き下げを行う必要があると私は考える。

 

 

4.物権変動と第三者

物権に関する基本原則として公示の原則と公信の原則がある。共に物権について論じる上では欠かせない大原則である。以下では、この両原則と現行法の関係、物権変動や第三者問題との関係について論じていく。

1)物権変動の範囲

物権変動は売買や取得時効などによって生ずるが、民法177条はいかなる物権変動の場合にも適用されるのだろうか。177条が適用されるべき物権変動の範囲について、判例はもともと制限説を採っていたがその後無制限説に変更され、いかなる権利変動の場合にも177条が適用されるとした。しかし、177条が適用される物権変動を一定の範囲に限定すべきとする見解も主張されており、現在の有力説は、対抗問題を生じる物権変動に限っては177条の適用があると解している。以下では、物権変動の前後でどのように処理が変わるかについて論じていく。

(@)取消と登記

AB間の土地の売買において、その契約締結時にBがAを欺罔し不当に安価で買い取った場合、Aは詐欺を理由としてその売買契約を取り消すことができる(民法96条1項)が、Aの取消と前後してBが第三者Cに土地を転売していた場合、AはCに土地の返還を請求できるか。

これについて判例は、Aの取消前にCが現れた場合には、民法96条3項によりCが善意無過失であれば保護するとしている。同条の趣旨は、取消の遡及効によってすでに利害関係を有しているCの利益が著しく害されてしまうのを保護することにある。また、Cを96条3項における第三者として認めるために登記は必要かという争いについて判例は、96条3項の文言通り善意無過失のみで足り、登記を要しないと解している。

これに対して、Aの取消後にCが現れた場合には、判例はBを起点としたAとCへの二重譲渡類似の関係があったものとみて177条を適用し、AC間の優劣を登記によって決するとしている。なお、ここではAとCの善意または悪意は問題とならない。

以上が判例の立場であるが、取り消し後の第三者に対して177条を適用することでCが悪意であっても保護されてしまうため、私はこれに反対である。そこで私は、取り消し後の第三者に対しては無権利の法理を用いて、Aの取消により遡及的に無権利者となったBがCと売買契約を締結したとしてもCは土地の所有権を取得できないとすべきであると考える。ただしCがB名義の土地をもってBを真の権利者と誤信した場合においては、民法94条2項を類推適用し善意の第三者Cを保護すればよいというのが私の見解である。

(A)解除と登記

民法では、債務不履行があった場合には契約を解消させることができる旨を定めている(540条以下)。また、その効果として原状回復義務を定めている(545条1項)が、その解釈については、解除によって契約は遡及的に無効になると判例は解している。この判例の解釈を踏まえたうえで、解除の前後でどのように処理が変わるだろうか。

これについて判例は、解除前に現れた第三者については、解除において「第三者の権利を害することはできない」とする545条1項ただし書きを適用し第三者の保護を図っている。この場合において、第三者は善意である必要はないが登記は必要であると判例は解している。

これに対して解除後に現れた第三者については、二重譲渡を構成するため177条を適用し登記の有無によって優劣を決するとしている。

以上が判例の立場であり、これに対抗する有力な学説としては、解除の効果を原状回復のための新たな物権変動の発生と解して、解除の前後を問わず復帰的物権変動があったとみて177条の適用により第三者の保護を図るという見解があるが、私は判例の立場に賛成である。解除前に現れた第三者について、第三者が善意か悪意かを問わないとしているものの、対抗要件として登記を必要としており解除者が権利を失うこととのバランスをとれているといえるため、第三者が善意であったことに限定する必要はないというのが私の見解である。

(B)相続と登記

所有権の移転は相続によっても生じる(民法896条)。以下では相続の中でも遺産分割に焦点を当てて論じていく。

被相続人Aには共同相続人BとCがおり、Aの遺産である土地を遺産分割によりBが単独相続することになった事例において、その遺産分割の前後に第三者Dが土地に関するCの持分権を差し押さえた場合、どのような処分になるだろうか。いわゆる遺産分割協議と第三者の問題である。

これについて判例は、遺産分割前にDが現れた場合には、遺産分割において「第三者の権利を害することはできない」とする民法909条ただし書きを適用し遺産分割の遡及効を制限することで第三者の保護を図っている。

これに対して遺産分割後にDが現れた場合において判例は、Bの法定相続分の範囲を超える部分、すなわちCの法定相続分については、遺産分割に基づいて相続による不動産物権のBへの承継があったとみることができるため、民法899条の2第1項が適用され、登記が対抗要件となると解している。この条文は2018年の民法改正により新設された条文である。

(C)時効と登記

不動産所有権を時効により取得するためには、所有の意思を持って平穏かつ公然に目的物を占有することが必要である(民法162条)。また、その占有期間については、占有開始時に占有者が自己に占有権限がないことにつき悪意あるいは善意有過失であった場合には20年(同条1項)、善意無過失であった場合には10年(同条2項)と定められている。このように取得時効制度は占有を基礎として成立するものであって、登記が成立要件とされているわけではない。

判例は、第三者の登場が時効完成の前後によって時効取得者と第三者の間の関係を異なるものとして取り扱っている。時効完成前に現れた第三者については、当事者間の関係であるとし、登記を要せずに第三者に対抗できるとしている。一方時効完成後に現れた第三者については、第三者関係であるとして177条の適用を認めて、登記が対抗要件になるとしている。

時効の起算点について判例は、時効取得者が占有を開始したまさにその時点で確定されるとしている。時効の起算点を逆算して定めることを認めないことで、時効完成と第三者の登場時期によって異なる処理を行うという判例の基本的な考え方を保っているのである。私もこうした判例の立場に賛成である。

 

2)第三者の範囲

177条の第三者の範囲について判例は制限説を採っており、@当事者及びその包括承継人ではなく、かつ、A不動産に関する物権変動の登記がなされていないことを主張するにあたって正当な利益を有する者に制限している。この制限説を採用した場合にどのような基準で第三者を制限すればよいかについては、第三者が物権取得者か債権者といった具体的な立場について考える客観的範囲と、第三者が善意か悪意かに着目して考える主観的範囲に分けられる。

客観的範囲について、権利の取得原因に関しては制限がないため、相続や事項登記といった意思表示以外の原因に基づく取得であっても物権取得者であれば第三者に含まれる。なお、実質的無権利者や不法行為者、不法占有者は第三者に該当しない。

一方主観的範囲については、177条の文言上第三者の主観的要件に制限がないため、判例は原則として第三者が善意か悪意かを問わないとしている。しかし判例は、背信性を有する悪意の第三者は177条の第三者から排除するという理論構成を採用している(背信的悪意者排除論)。この背信的悪意者に関して問題となるのが転得者の問題である。背信的悪意者からさらに転得者が現れた場合において判例は、相対的構成を採用し背信的悪意者であるかを個別に判断し、転得者が背信的悪意者でない限りは第三者として認めるとしている。また、前述とは逆で善意者からさらに背信的悪意者が現れた場合においては、絶対的構成を採用し善意者を権利者として確定させるという見解が有力となっている。

第三者が善意か悪意かを問わないことを原則とした上で背信的悪意者については第三者から排除するという現在の主観的範囲の仕組みについて私は賛成である。悪意の第三者から除外すると取引が滞ることも懸念されるため、不動産取引における自由競争を妨げないという意味でも、単純悪意者を177条の第三者から除外する必要はないと私は考える。また、背信的悪意者であるかを判断する背信性の基準が明確でないことに関しても、公序良俗違反などの一般法理を前提としてきて行われてきたことや、背信的悪意者に該当しうる例をある程度類型化することが可能であることを考慮すれば、明確な基準が定められていなくても問題はないというのが私の見解である。

 

3)公信の原則と民法94条2項

無権利者が他人の不動産を第三者に売却したといういわゆる無権限取引の問題において、無権利者と取引をした善意の第三者をどのように保護すればよいだろうか。無権利者から権利を取得することはできないため承継取得は不可能である。また、不動産登記には公信力が認められていないため原始取得することも不可能である。

このような場合において判例・通説は、虚偽の外観を作出した者は、その外観を信頼した第三者に対して外観に基づく責任を負うとする権利外観法理の観点から、民法94条2項を類推適用し第三者を保護するとしている。この94条2項の類推適用には、登記名義の作出に対して真の権利者が関与していたことを必要とする外形作出型や、真の所有者が不実の登記の存在を承認した場合には不実の登記を作出した場合と同様の帰責性があるとする外形承認型といった類型があるが、以下では外形余因型に焦点を当てて論じていく。

真の所有者Aが虚偽の外観を作出したわけではなく、かつ、その虚偽の外観を承認していたわけでもなかったが、Bに対して事前に実印や印鑑登録証明書、登記済証を交付し、Bが登記申請書に押捺する際にもなにも問いただすことなく漫然とこれを見ていただけで、外観作出の原因を与えてしまったという事例がある。この事例では真の所有者による意思的関与がないため94条2項の類推適用は及ばないようにも思える。

これについて判例は、Bが虚偽の外観を作出することができたのは、Aがあまりにも不注意な行為をしてしまったからであり、Aの帰責性の程度は自らが外観を作出したりその外観を承認したりした場合と同視できると解して、94条2項と110条を類推適用し、Cの善意無過失を要件としつつCを保護する可能性を認めた。

以上の判例の立場に私は賛成である。本判決は94条2項と110条の類推適用により第三者保護の範囲を拡大しており、かつ、Aの帰責性の程度とCの保護との釣り合いについて丁寧な検討がされているといえる。また、94条2項類推適用において、第三者の主観的要件に過失がないことを要求する見解もあるが、この見解に立てば、いずれの意見においても94条2項のみで解決することができ、同条の個性が希薄になってしまうともいえるため、無過失までは要求しなくてよいというのが私の見解である。

以上のように現行法は、公示の原則と背信的悪意者排除論により取引の安全の保護を、また、公信の原則と民法94条2項の類推適用によって第三者の保護を可能にしているのである。

 

 

5.土地問題と登記

わが国は世界的にみても豊かな資源と土地を有している国であるが、土地に関しても様々な問題を抱えている。以下ではその問題点と解決策について検討していく。

(1)空家問題と相続登記義務化

これまで相続登記は当事者の任意に任せられていたため、名義変更しないまま長年放置されている土地が増えて問題となっていた。いわゆる空家問題である。所有者不明の土地の増加により、国や自治体、また民間人としても土地利用ができないという問題が生じていた。

こうした問題を受けて議会では、2021年4月に相続登記を義務化する改正法案が可決され、2024年を目途に施行されることとなった。改正法が施行されると3年以内の相続登記が義務化され、期限内に相続登記をしなかった者には罰則として10万円以下の過料が科せられることになる。この改正法により空家問題の解消に期待が高まるようにも感じられるが、私はこの改正法自体にはそこまで目立った効果はないのではないかと踏んでいる。その理由には固定資産税・相続税と更地価格が関係している。

土地を保有・維持する際には固定資産税や都市計画税といった税金がかかるが、現在の日本の法律の仕組み上更地は税金の減額が行われないため、家の建っている土地と更地では更地の方がより高い税負担となる。そのため更地にせずにあえて空家状態で放置することで高い税負担を逃れようとする人が増加し、結果的に空家問題を加速させているのである。

また、空家を相続する際に高い相続税がかかることも空家問題を加速させている一因であるといえる。空家は通常の人が住んでいる家を相続する場合と比べて相続税が割高となるため誰も相続したがらず、結果所有者不明の土地が増加しているのである。

ではこのような現状を打開するためにはどうすればよいか。これについて私は、空家における固定資産税や相続税の引き下げをすべきだと考える。空家が増加傾向にある原因は、空家として放置していた方が得であるという現状にあると考えられる。そのため、相続登記義務化の法改正と併せて、空家を放置するより更地にしたり手放したりした方が得であるという状況を作っていくことが重要である。また、これに並行して土地や空家の有効利用を促すような仕組みも整備していく必要があるというのが私の見解である。

 

(2)登記申請の添付書面と共同申請主義

権利に関する登記の申請は当事者である登記権利者と登記義務者が共同で申請しなければならない(不動産登記法60条)が、相続に基づく登記の場合には被相続人が既に死亡しているために共同申請することはできず(同条2項)、単独申請が認められている。

では、遺贈登記はここでいう相続に基づく登記に当てはまるだろうか。これについては、遺贈はあくまでも贈与の一種であるため、受遺者が法定相続人でない限り遺贈はここでいう相続には含まれないとするのが通説である。

遺贈登記は、受遺者と遺言執行者または相続人全員によって共同申請する。遺言で遺言執行者が指定されている場合は遺言執行者が遺贈義務者となるが、遺言執行者がいない場合は相続人が遺贈義務者となる。つまり、遺言執行者がいない場合遺贈登記の申請に相続人全員の協力が必要になるというのが現在の法律の仕組みである。

ただ、私はこの仕組みに反対である。受遺者が法定相続人でない場合の遺贈は、受遺者が相続することによって法定相続人の相続分が減少するため法定相続人にとっては納得のいかない遺贈となることも少なくないはずである。そのような場合に法定相続人の中の1人でも登記の申請に協力しないものが現れれば、登記の申請ができず手続きが滞ってしまう。

これについて私は、登記申請に必要な相続人の人数を全員から過半数に変更して手続きを円滑に進められるようにすべきだと考える。

また、登記申請の際には申請書に必要書類を添付して法務局に申請する必要があるが、この手続きが非常に繁雑なものとなっている。これは前述の空家問題にも絡んでくるもので、空家を相続しようとする際には相続登記が必要になるが、その手続きが繁雑であるが故に相続を後回しにし、結果放置されるという事例も少なくない。

このような問題に対して私は、空家の相続における特別法を新設し、空家における相続登記の手続きを従来のものよりも簡易的なものにする旨の条文を定めて空家の相続が積極的に行われるような仕組みを作る必要があると考える。

 

 

6.今後の経済発展に向けて(まとめ)

日本型組織と経済発展は決して無関係ではないと私は考えている。前述の年功序列制度などはまさに経済発展を妨げる原因となっていると言っても過言ではない。今後さらなる経済発展をし、若者が未来に希望を見いだせるような社会を作るためにも、現在の日本型組織の仕組みについていま一度見直す必要があると私は考える。

 

 

参考文献

https://bizspa.jp/post-524426/

https://www.mag2.com/p/money/237401

https://isaac-gaikokugo-school.jp/article/leader-management-risk

https://the-owner.jp/archives/5231

https://www.imes.boj.or.jp/research/abstracts/japanese/kks13-3.html

https://column.ifis.co.jp/toshicolumn/skam-02/85260

 

 

 

Windows メール から送信

 

 

 

 

福井虎太朗

日本型組織と法律

 

金本位制度と土地本位制度プロジェクトファイナンスと背任異次元金融緩和日銀引受、マネーサプライと金利賃金の伸びとGAFAM(Google Amazon Facebook Apple Microsoft)年功序列社会共犯理論生活保護受給率と給付付き税額控除、法原因給付と財産犯公示の原則と背信的悪意空家問題と相続登記義務化

 

日本型組織をどう捉えるか。日本型組織の考え方は十人十色ではあるものの、終身雇用や「空気」といった、安定している雇用形態と、「おもてなし」とも話題となるほどの気品から、逸脱することを許さない強い圧力が込められた「空気」を重んじた組織とも定義することが出来る。しかし私は、この日本型組織をヒエラルキー型年功序列社会であると考える。一方で外資系企業では組織がフラットな関係が主流であり、複数の上司が存在していることで、作業の報告がウェブ状に拡散していくのに対し、日本のようなピラミッド型組織では、1人に報告することで完結する。

ヒエラルキー型は大企業に比較的多く、特徴として権限と責任の所在が分かりやすく、役割分担の自覚と共有がしやすく、組織の専門性と業務効率性を高めることに寄与する。一方ヒエラルキー型は、ピラミッド型組織になるため、上層の意見・意向が優先され、下層は常に上層の顔色を伺う状態に陥りやすく、意思決定に時間がかかる。そのため、柔軟性に欠けた組織になりやすい。また、年功序列社会であるため、「新人はこれをすべき」や、年を重ねるだけでキャリアが上がり、理不尽な対応をする上司に対しやりどころのない不満を抱える部下は多い。このように年齢やキャリアの有無による、縦社会を重んじる日本型組織について、現状とこれからの課題について分析する。

 

令和時代の日本型組織における課題

現在の日本経済の組織運営では、以下の3つの課題が上げられる。

1. 日本企業をとりまく事業環境の変化

2. 従業員の雇用・労働環境の変化

3. テクノロジーと企業経営の直結

私が生まれた2000年から現在にかけて世界のテクノロジーと技術は激変した。スマートフォンのないガラケーの時代に生まれ、iPhoneが発売され、時計までもがタッチパネルになり、無線で音楽が聴け、一般人が「バズる」ことで一気に有名人になれる社会が生まれた。しかし、この変革と勢いに日本の企業はあまり追いついていけていない。201912月のコロナ流行が始まった当時、先進国の1つである日本は、発展途上国に先立ち、国家の鎮静と解決への研究を真っ先に行うべきにもかかわらず、他国に遅れを取り、長々と感染拡大と医療崩壊を続け、飲食店とう接客業に大きな打撃を与えた。

平成の30年間で日本は少子・高齢化が進み、企業の労働需要を満たす市場としても、今後プロダクトを提供する市場としても、大きく変わり、今後は「困難な時代」になると思われる。人口は2004年の12,784万人をピークに、人口減少社会に転換した。総人口は今後一貫して減少傾向にあり、国の予測によると、2050年には9,515万人となり、高齢化率が約40%まで上昇することが見込まれている。また、世界の「稼ぐ構造」も一変しました。2018年時点では、世界の企業別時価総額ランキング上位50社には「GAFAM」と呼ばれる米国や中国等の進行IT企業の多くが占め、世界的事業で注目されていたトヨタが日本で唯一日本企業の中で35位にランクインした。世界市場における日本企業は軒並み存在感を失った。

このように日本の経済力が落ち続けている原因として、労働環境の問題が挙げられる。日本型組織の特徴であった、終身雇用や年功序列によって賃金や昇進が決まる、「日本的雇用慣行」が今の少子高齢化による生産人口の減少に伴う女性の進出、外国人労働者などの多様な人材の活躍の場を奪っている。出産・育児が女性のキャリアにとって不利に働くこと、中途採用や外国人といった外部の優秀な人材の活躍の場がなくなること、生産性に応じた賃金が支払われないこと、などの事情から、「人生100年時代を踏まえた多様なキャリア形成や個人の事情に応じた働き方」が求められる。

1990年代までは日本の賃金は世界トップクラスだった。しかし、その後名目賃金はほとんど上昇せず、物価上昇分を差し引いた実質賃金は1997年を100として2016年には89.7に低下している。(OECD調査)日本がどんどん貧しくなるのとは対照的に、世界各国で着実に賃金が伸びている。

アベノミクスの失敗

労働者に賃金を支払うのは主に企業であり、企業がより多くの賃金を支払うには企業がまず利益を獲得しなければならない。そのためには、国家経済の成長が必要であり、「国の経済が成長→企業の収益が拡大→労働者の賃金が上昇」というのが、一般的な賃金上昇のロジックである。2013年から現在まで続いた安倍晋三政権・菅義偉政権のアベノミクスは、このロジックによるものであるが、これらは「トリクルダウン」といわれ、金融緩和で円安誘導すれば、輸出型の大手企業が成長し、その恩恵が関連する中堅・中小企業に及び、労働者の賃金が上昇して家計が潤う、と想定された。大手企業の収益は改善したものの、中小企業にはあまり影響が生まれず、全体的な賃金水準は上昇せず、結果的にトリクルダウンは起こらなかった。

日本では、中小企業・地方企業・サービス業の賃金が低いことで知られている。また、労働者に占める低賃金の非正規労働者の割合が高いことが指摘され、男女の賃金格差も問題に上がっている。賃金水準を上げるにはマクロ経済の改善だけでは不十分であると考えられる。賃金上昇を阻む一つ目の構造問題は、中小企業である。中小企業の賃金が低いのは、世界的に珍しくないが、規模の経済が働きにくいため、生産性が上がらない。しかし日本の企業は生産性の低い中小企業が淘汰されず存続しているのが特徴にある。

2008年のリーマンショックを受けて倒産の危機に瀕する中小企業を資金面で支援するため民主党政権が、金融円滑化法が制定された。それにより、危機は去ったものの、自民党政権に代わった後も、手を変え、品を変え、今日に至るまで倒産防止のための政策支援が延々と続けられている。日本の法人全体に占める赤字法人の割合は、65.4%(国税庁、2019年集計)に達する。赤字企業の会社が、十分に従業員に賃金を支払えるわけがないのである。

2次安倍政権の放った3本の矢(金融緩和・財政出動・成長戦略)のうちの鏑矢ともいうべき矢は、日本銀行を巻きこんだ「異次元の金融緩和」政策である。超金融緩和政策の特徴は以下のとおりである。

 

    1に、メディアを利用して強いメッセージを発信し、世の中の雰囲気を変え、期待感を高揚させようとする一種の「口先介入」を先行させていることである。「異次元の金融緩和」、「2年で2倍の資金供給」、「国債購入月7兆円」といった強いメッセージは、情勢を先読みして動く内外の浮気な投資家の関心を目覚めさせ、すぐに国債価格の上昇、株高、円安となって表面化し、「安倍バブル」 が発生した。その結果、国債・株式などを保有する内外の投資家の金融資産は上昇し、利益に浴したが、国民の生活は、円安による輸入物価の上昇で悪化した。

    2は、金融政策の操作対象を金利から、資金供給量(マネタリーベース=社会で流通している現金と金融機関の日銀当座預金残高の合計)に変更し、この資金供給量を2年間で2倍にし、日本の経済社会に溢れかえるマネーを注ぎ込もうとしていることである。すでに金利はゼロ近傍に張り付いているので、これ以下に下げようがないので、「異次元の金融緩和」を実施するには資金供給の量そのものを増大させることになったわけである。実体経済の成長をともなわない過剰なマネーの供給は、金融資産や不動産関連のバブルを膨張させることになる。

    3に、資金供給を倍増させるやり方は、日銀が毎月7兆円ほどの国債を金融機関(銀行)から大量に購入し、その購入代金を提供するやり方(日銀当座預金残高の積み増し)である。日銀が毎月7兆円もの国債を購入するようになると、それは新規に発行される国債の7割程が日銀によって引き受けられることになり、国債発行の歯止めを失う。

    4に、日銀が、株価や不動産価格の動向に直結するリスクの高い金融資産(ETF、J-REIT)も購入対象にしたことである。「異次元の金融緩和」は、資金供給量だけでなく、リスクの高い金融資産にも手をだす「質」にも配慮した「量的・質的金融緩和政策」の特徴をもつ。これは、「アベノミクス」の金融政策のねらいが、株価や不動産価格も上げようとしていることを示唆している。2年間で物価を2%上昇させるために、「あらゆることを実施する」

38. 「異次元の金融緩和」政策とはなにか〜「アベノミクス」の特徴と問題点を探る〜 Copy Copy of 山田博文のNetizen越風山房 (gunma-u.ac.jp)より引用

 

中央銀行は「物価の番人」として、国民生活を破壊し、社会を混乱させるインフレ・物価高を抑制するインフレ・ファイターの役割を担いでいるのであり、インフレ・物価高を促進する役割を引き受けているところに、今回の金融政策の異常性が表れている。

「異次元の金融緩和」は、日銀が金融機関から国債を大量に購入する「日銀引受」を取った。政府が倒産することはあり得ないため、国債は数多くある多種多様な金融商品の中でも、投資にあたってもっとも信用力の高い評価のAAA(トリプルエー)といった最高の格付をもつ金融商品である。国債市場は、各国において代表的な金融市場の地位を占めているので、その動向は、他の金融市場だけでなく、経済全体にも大きな影響を与える存在となっている。日銀による民間金融機関からの国債の大量購入は、今回の「異次元の金融緩和」政策に先立つ量的金融緩和政策の発動時点(2001年3月)でも、日銀が民間金融機関に「補助金」を与えるようなもの、との問題点が指摘された。「異次元の金融緩和」政策は、日銀による国債の買いすぎを防ぐための「銀行券ルール」を凍結した為、国債発行の歯止めを失ってしまった。日銀が金融機関に安価なマネーを大量に供給することによって、民間金融機関の経営を救済しただけでなく、増発される大量国債の消化資金を提供してきた。リスケジュールやデフォルト・リスクなど政府債務危機から被る自分たちの金融資産の暴落の危機を回避するために、後ろだてとなる国庫収入を求め、増税を主張する。国債ビジネスの活発化―国債増発―政府債務累積―増税の悪循環が繰り返される。この悪循環からみえてくる政府債務危機とは、政府の債権者になった金融機関・投資家など国債保有者たちの金融資産暴落の危機である。

 

日銀の金利政策

日銀の金利政策の1つにマイナス金利政策がある。

これまでマネタリーベースを増やせばインフレになる、と主張して行ってきた量的金融緩和から、マネーサプライを増やすことに主眼を切り替えたものであり、マネタリーベースとは「銀行の中にあるおカネ」、マネーサプライとは「銀行の外にあるおカネ」である。市中の銀行から国債を買い取って銀行にマネーを供給しても、銀行がそのおカネを日銀の当座預金に預けたままにしていては世の中に出回るおカネは増えない。ともに銀行の資産勘定である「国債」と「日銀当座預金」を付け替えているに過ぎない。日銀当座預金というおカネの「置き場所」を封じるものであるが、そうなるとこれまで「国債」と「日銀当座預金」の「入れ替えプレー」をしていた銀行は、日銀の国債買取に応じなくなる可能性がある。おカネの置き場がないので、国債を手放さなくなるかもしれない。それでも国債を買い集めるには高い価格で買うしかない。例えば、満期保有すると損が出るような価格、すなわちマイナス利回りで買う方法である。日銀に預けてもマイナス金利、国債の利回りもマイナスとなったら、銀行のおカネはそれ以外のところに向かわざるを得なくなる。それが日銀の狙いであり、市中に出回るおカネ=マネーサプライ増加を期待しての策である。

地方銀行の融資形態の一つにプロジェクトファイナンスがある。プロジェクトファイナンスとは、プロジェクトから得られるキャッシュフローのみを返済の原資として実施される融資であり、A会社が新たな新規プロジェクトBを計画していたとする。通常の銀行借り入れでは、A会社が銀行から融資してもらい、その資金を元手に新規プロジェクトBを進行する。しかし、プロジェクトファイナンスでは、別会社として新規プロジェクトB社を設立し、B社として銀行から融資を受ける。プロジェクトファイナンスは、安定的なキャッシュフローを生み出す事業に向けた資金調達の手法として活用されることが多く、発電所、空港、鉄道等といったインフラストラクチャーが代表例である。プロジェクトファイナンスのメリットとして、プロジェクト融資の場合、多額の借金を背負う必要がない。別会社として融資を受けるため、事業会社本体は返済の責任を負わない。そのため、少ない自己資金で大規模なプロジェクトを実現することができ、高いビバレッジ効果江尾得ることを通じて、エクイティ投資に対するリターンを極大化することが出来る。

一方でデメリットは融資の組成に際して時間や費用等のコストが多くかかる点がある。例えば、後述するがプロジェクトが抱える潜在的なリスクに対して、契約での取り決めを細かく作り込んでいく事から、融資関係の契約書の量は膨大となり、これを交渉しレビューする弁護士費用も相当な金額となる。デメリットも大きいが、新規事業の発達が少ない日本の企業やベンチャー企業への後押しになればと思う。現在の日本では、GAFAの時のような投資家がほとんどいない。元々日本にベンチャー企業に投資をする文化があまりないため、プロジェクトファイナンスや、ベンチャーキャピタルのような投資制度や企業は重宝され、推進されて欲しい。ベンチャーが活発になれば、停滞していた日本の経済も動き出すのではと考える。

 

金融の歴史

通貨の始まりは、金本位制からである。金本位制度は金を軸とし、各国の通貨価値を定める制度である。国が保有する金の量と同量の「兌換(だかん)紙幣」を発行し、兌換紙幣はいつでも金と交換できることを政府が保証する。金との交換が保障されなければならないため、兌換紙幣は、製造される金額にリミットが設けられている。金本位制が法的に実施されるようになったのは、1816年のイギリスが始まりだが、金貨が公益に使われ、世界で交易が進むにつれ、大量の金貨を持ち運ばなければならず、少額の取引がしづらかった。日本では、銀本位制度を採用していたが、日清戦争の賠償金をきっかけに、金本位制に移行した。

1930年代に入ると、多くの国で金本位制が廃止した。その理由は、第一次世界大戦や1930年の世界恐慌によるによる金輸出の禁止が挙げられる。金本位制の代わりに新しく採用されたのが「通貨管理制度」であった。金本位制は全世界で共通の価値を有することになるため、各国での取引がスムーズになるというメリットがあったが、金の保有量が、信頼や経済活動に大きく影響すること、取引で支払いが増えるほどその国の金の保有量が減るため、世界の普遍的な基準として敷くのには問題があった。

日本には慣用句に「沽券にかかわる」という言葉がある。

江戸時代は、幕府の検地によって、農地についての所有者・石高・面積を一覧でまとめて管理していた。所有権が農地以外の武家地、町人地、寺社地にも認められており、町人地は土地所有者に権利証である「沽券」が交付された。農地の取引は、「田畑永代売買禁止令」によって禁止されていたが、名主の家で土地の取引は行われており、名主は不動産仲介業を兼務していた。当事土地は金融担保としても利用され土地本位制の始まりとなった。

一方で欧米では、土地はあり余るほどあり土地が価値あるものとしては捉えられてきた。しかし、電気ガス水道といったインフラの整備された土地は、普遍的な価値がるとして、欧米も土地本位制度を取り入れて不動産金融が欧米の経済を発展させた。最近起きている金融危機は不動産の証券化によっておきたものであり、担保価値が際限なく分割化されて株式に近くなったために起きた。そのため、一物件の担保が、数百に分割されてしまうと、担保処分が難しくなる。そのため、だから不動産の債権の証券化は土地本位制から逸脱した制度であるといえる。日本では、土地が株式に比べ誰にでも価値判断がしやすかったため、適正価格が形成されるが、株式は、専門家でないとなかなか適正価格が、判断できない。そのため、土地に無限の価値があると思い込んでいしまったため、株式のように投機的に売買されるとバブルが発生してしまった。90年代に起きた日本のバブル崩壊は土地本位制に危機をもたらした。

 

イトマン事件

イトマン事件とは、「伊藤萬株式会社を巡る特別背任事件」のことであり、不況に煽られて経営不振に陥った伊藤萬株式会社に多額の資金が流入し、その資金が反社会的勢力に流出したといわれている。当事伊藤萬株式会社は1973年に起きた、オイルショックの影響を受け不況真っただ中であった。その苦境の中、メインバンクである住友銀行から、伊藤萬株式会社河村が社長として送り込まれた。河村は2年で経営を黒字にしたものの、1985年のプラザ合意によって、急激に円高となったことで、再び経営不振に陥った。しかしその時日本では、バブル全盛期であったため住友銀行は積極的に融資を行っていた。伊藤寿永光と許永中は、伊藤萬株式会社の経営を改善するためとして絵画やゴルフ場への投資を社長の河村良彦に持ち込み、怪しげな不動産取引や美術品、貴金属などの取引を積極的に行っていたと言われている。そして、伊藤萬株式会社に入り込んだ伊藤寿永光と許永中は、暴力団関係者とも関係があるとされており、経営を改善するという名目で住友銀行から莫大な資金を伊藤萬株式会社に流入され、住友銀行から伊藤萬株式会社を介して3,000億円以上の資金が流出した。この一連の巨額の不透明な取引中の不当な絵画取引についての特別背任罪が問われた。(最決平成17107)

イトマン及びその子会社が、被告人が実質的に経営支配していた会社から著しく不当に高額な値段で絵画を購入したことによってイトマン側に損害が発生した点について、イトマン側の取締役と並んで、被告人にも特別背任罪の共同正犯が成立するか否かが問題になった。この事件から、任務違背行為者の取引相手に対し、身分のない者についての共同正犯について、刑法651項によって単純に共犯(共同正犯)の成立を認めるという手法を用いていない。取締役については身分犯が適用され特別背任罪(会社法960条及び961)が成立する。しかし、身分のない者であっても、背任行為者の取引相手を背任行為の共同関与者として処罰するには、「身分のない者であっても、共犯とする」という刑法651項の規定を経由しなければならない。そして、判例・多数説によると、651項の「共犯」は共同正犯を含むと考えられており、共謀共同正犯も確立した判例・実務であるので、形式的な可能性としては対向的取引相手、例えば、不正融資の借り手について、特別背任罪の共同正犯を認めることには、刑法解釈論上は支障がないと考えることが出来る。ここで共犯理論について考える。共犯が成立するためには3つの事実が挙げられる。

1.教唆犯としての処罰が事実上存在しない

2.従犯処罰も少なく、各論的事情に左右されている

3.共同正犯が事実上大勢を占める

「裁判官の思考と共犯理論」

https://www.waseda.jp/prj-genkeiken/pdf/vol.1/matsuzawa1-1.pdf

1の事実から言えることは、教唆犯規定の事実上の廃止という注目すべき事態を招いている。2では、従犯の処罰が少ないことに加えて、さらに、共同正犯と従犯の区別基準としてあげられる事情が、従犯の量刑事情とほぼ一致・均質化していることが指摘できるため、共同正犯と従犯の区別が、共同正犯の側に非常に偏っていると同時に、理論的に極めてぼやけている。3では、実行行為を行っていない者が、共謀共同正犯として処罰される共謀共同正犯論の肯定に支えられている。これらの事実は一見無関係の物に見えるが、現行法から見ると、異なる様相が見えてくる。これらの事実より、相互連関する者であり、一つの原理から、適切に説明することのできる性質を持っている。

このことから、取締役や執行役等には、会社の経済的な利益を追求すべき義務がある。しかし、他方で、株式会社の取引相手は、経済社会においては自らの利益を追求して活動する存在であるので、取引の相手方当事者である株式会社の利益の保護や配を期待される立場ではあり得ない。従って、株式会社に財産上の損害を与えたからといって、特別背任罪の共同正犯が成立するものではない、というのが基本的な視点となる。

 

不動産の二重譲渡

必要的共犯における対向犯の議論という一般論に比べて、より参考になると考えられるのが、不動産の二重譲渡における悪意の買主のケースがある。不動産の所有者が、当該不動産を売却し代金の支払いを受けたにもかかわらず、依然として自己に登記名義が残っていることを利用して、他の者にさらに同一不動産を売却して登記を移転したような場合に、所有者に横領罪が成立することはほぼ争いがないが、第2の買主が悪意で二重に譲渡を受け移転登記を受けたという事情があった場合に、第2の買主に横領罪の共犯が成立し得るのかという点である。形式上は、横領罪という真正身分犯に占有者という身分のない者が加功している場合であるとして、刑法651項によって共同正犯の成立を認めることは可能であるが、判例やそれを支持する多くの学説は、第2の買主は、登記を備えれば民法177条によって悪意であっても優先するので、刑法上も横領罪の共犯にはならないと考えてきた。しかし、第2の買主がいわゆる背信的悪意者である場合には民法177条の「第三者」から排除されるとする民事判例を受けて、例えば、第2の買主が売主に対して積極的な働きかけを行ったことによって売主に二重譲渡の犯意を生じさせたような場合には、第2の買主に横領罪の共同正犯が成立するとされている。背信的悪意者は民法177条の第三者に当たらないため、例外として公示の原則という考え方がある。

 

不法原因給付における論点

不法原因給付とは不法な原因に基づいてなされた給付であるが、たとえば賭博に負けた者が金銭を支払ったとしても、賭博契約は公序良俗違反として無効(民法90条)なので、不当利得の返還請求ができそうであるが、この請求に裁判所が助力をするのは適当ではない。そこで民法は第708条で、不法な原因に基づいて給付をなした者は給付したものの返還を求めることができない、と規定した。ここにいう不法とは、単に法規違反というだけでは足りず、公序良俗違反ないし醜悪不正な動機をいう。(日本大百科全書より)

不法原因給付が絡む刑法上の論点は、「不法原因給付と詐欺・恐喝罪」と「不法原因給付と横領罪」に二分される。ともに不法原因給付が問題になるといえど、前者では不法原因による給付の場合に財産的損害が観念できるのかという形で財産犯の問題になるのに対し、後者は不法原因によって給付された事物は「他人の物」にあたるのかという問題になるため、同一的に論じるのは難しい。

 

安倍元総理の背任

多額の国債に追われる中、総理大臣主催の「桜を見る会」が開催された。予算枠を大幅に超過して、自己が主催する後援会や与党議員、妻の昭恵氏らの利益を図る目的で招待者数をいたずらに増やし続けた。その結果、国に財産上の損害を与えた。これにより、東京都地方検察庁に、「桜を見る会の私物化」として背任罪で刑事告発された。主催者である首相自身が開催要項を無視し、税金を自らの後援会活動に利用した。被害額は、時効にならない2015年から19年までの予算超過額1億5121万円余の損害を国に与えた。

背任罪とは

「他人のためその事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図り、または本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる(刑法247条)。」

                                       日本大百科全書(ニッポニカ)より抜粋

と説明される。

 

ベーシックインカム

 新型コロナウイルスの経済対策として一律10万円の給付が実現したことで、ベーシックインカム(BI)に対する注目が高まっている。現在の生活保護自給率6年間を平均すると全体の2.85%。である。「貧困の撲滅」や「働き方の改善」といったメリットも論じられているが、経済学者や財政学者の中では反対論や警戒論も根強い。その理由は、主に次の三つの点に集約される。第一に、BIが社会保障給付の切り下げを意味するのではないかという懸念である。現在の社会保障体系では、年金、生活保護、失業給付、児童手当・児童扶養手当といった現金給付が既に存在している。BIによってこれらの現金給付の水準が引き下げられたり、合算して据え置かれたりするのであれば、再分配政策(租税制度や社会保障制度などを通じ、所得格差を縮める政策)としては「後退」することになる。実現可能なベーシックインカムの政策の一つに「給付付き税額控除」がある。ベーシックインカムを、配り方だけ給付付き税額控除方式にすることを可能にした制度である。給付付き税額控除は事後的な所得補償システムなので、生活保障機能が弱いという課題点も残ります。つまり、災害や感染症のような有事の場合、セーフティネットとしてちゃんと機能するかどうか。ここは事前型所得補償のベーシックインカムの方が優れている点といえる。

 

日本の新たな金になる木として、私は空き家の活用が挙げられると思う。現在に地方を中心に空き家問題と地方高齢化が進んでいる。私も池袋や千葉の海沿いの古民家風のリノベーションされた、レンタルスペースを利用したが、古民家とは思えない設備と環境に感動を覚えた。2024年に「相続登記義務化」が発足される予定だが、空き家所有者の大半が認知をしていない。登記を行うことで、維持や、相続税がかかることから、手放すものも多い。しかし、空き家こそ現在の日本経済における新たな穴場となるのではないだろうか。リノベーションして、空き家を貸し出すのもよいが、更地とし新しい建物を建てたり、現在減少している公園に変革させるのも、新たな若い世代を呼び込む政策の一つとなるだろう。

日本の経済の停滞は、資金調達の難しさもあるが、地方をうまく活用できていない点にあると私は考える。インフラの設備を整えることで、東京都に集中しない経済づくりがこれからの日本の懸け橋になると考える。

 

 

Windows メール から送信

 

 

 

 

山口佑都

日本型組織と法律

18J107018 山口 佑都

 

結論:「楽な方に…」といった責任逃れの決定権者と、論理的な筋を通すべきというロマンある法の温度差は今までもこれからも続く。

 

1、 今後の貨幣市場における課題

日本の経済分野における政策の歴史を見てみてもわかる通り、先見の目を持って成功した先読み政策は全くと言ってないはずだ。アベノミクスも然り、不景気の現状打破をすべく当時内閣総理大臣であった安倍晋三により打ち出されたものである。これらの政策には、貨幣についての基礎となるような認識に基づいた考えによるものだ。貨幣市場について語るには、金本位制度と土地本位制度を振り返って説明する必要がある。そもそもの金本位制度とは、貨幣価値の基準を金にすることにより始まったものである。日清戦争以前は銀本位制度を採用していた我が国にとって、清国からの多額の賠償金を得ることができたのは、金本位制度への転換の契機となった。それから時代は流れ、1980年代になるとバブル景気が訪れる。人口の増加や消費の増加も要因になったことだろう。それまで脚光を浴びることのなかった“土地の価値“に注目したのである。高騰を続ける地価を金に代わる担保にしたというわけだ。「土地を持っていることが何よりの資産」と考えられるようになったのだ。

現代社会において「土地を持つこと」はリスクとも考えられている。固定資産税をはじめとする税金や管理に伴う維持費といった、デメリットの要素がクローズアップされるのである。少子高齢化に伴う人口減少も、貨幣価値の下落により拍車をかける。バブル景気の当時より約3分の1になっているのだが、制度は当時から何も変わっていないのである。

新たな問題として空き家問題が挙げられる。介護施設への転居や相続をしたものの実際に使われていないなど、空き家になる原因は多岐にわたる。そこで2021年4月に参議院本会議にて可決・成立した相続登記義務化が注目を集める。これにより、今後さらに増加するであろう空き家数を抑え込む狙いがある。宙ぶらりんになる空き家をなくすことで、土地や家屋の所有者不明問題をなくす。国土の小さい島国だからこそ、有限な資産活用を急ぐべきなのである。

2、 新しいカネの動きを作るために

 近年、市場における融資制度の種類は多岐にわたる中で、かつ法学部生らしく法学と関係するところの話題でいうと、プロジェクトファイナンスと背任を取り上げようと思う。そもそも融資制度は、貸し出す金融機関側は不良債権化を防ぐためにしっかりと審査をし、事業を運営する企業に対して、企業の資産(わかりやすくすると有形資産)を担保に資金を融資する。一方でプロジェクトファイナンスは、事業を企画した企業は新たに事業運営会社を設立し、金融機関はその事業を担保にして、事業運営会社に対して資金を融資する。事業運営会社と金融機関の2者間だけでは貸し倒れのリスクが大きく、これは両者ともに背任であると身内に指摘されかねない懸念がある。というのも、金融機関側は当然のことながら審査をするにあたって万全を期すわけであるが、担当者に過失があって不良債権化した場合、また事業運営会社においても事業運営にあたって背任と指摘されかねない行為に及んだ場合は特に不法行為として両者だけでなく、利害関係を有する第三者(株主など)から損害賠償請求をされる可能性を大いに含むのである。

 背任罪に関していえば、ここ数年で注目を集めるSDGsに関する事業や経営判断にも該当するリスクはある。経営者には特に2つのリスクがあり、それは背任告訴リスクと株主代表訴訟リスクである。前者については、会社に与えた「財産上の損害」に対して、最大で10年以下の懲役/1,000万円以下の罰金を課す、会社法第960/特別背任罪、刑法第247/背任罪がある。後者については、受託者責任に反し会社に与えた「損害」に応じて、この損害を回復する義務(会社法第847条)を理由に損害賠償請求を受ける可能性がある。地球環境に対する資源の保護や地球全体での権利保護といった観点においては、「多少の不利益を被ったとしても、今を我慢すれば未来での幸せを得ることができる」という何とも頼りない暗黙の了解が前提にある。しかし、現実問題としてそううまくはいかないのが常である。メーカーは「資材を環境に配慮したものに変更すると仕入れコストが増え、利益が減る」といい、コンビニエンスストア「食品廃棄低減のため在庫圧縮すると機会損失が発生し、売上が減る」というだろう。事業会社は「サステナビリティ推進部署に人的・資金リソースを投入する分、会社全体の利益が減る」、債権発行体「グリーンボンドは余分な発行コストがかかる」と。企業はどちらに舵を切っても株主から背任罪として責めを負う立場にあるのか。もちろん責任はあるが、事業というものは必ず成功するという保証もない。運命は多くの要素を含む。本心はどうであれ(悪意有過失の背任行為は断罪されるべきと思うが)、会社の存在意義を鑑みると、実際に訴訟に繋がるようなケースはあまりないのが実情だ。社会全体の利益は、今ではマネーとしての価値だけではない。

 さて、建て前はさておき、日本政府が推し進める金融政策について論じよう。異次元金融緩和と日銀引受はいずれも問題の先送りや責任逃れをする手段に過ぎない。まるで性格の悪い夏休み明けの小学生のような行動である。確かに短期的に見ればマネーサプライの上昇が期待できる。しかし、未来にわたって大きなツケを払わされるこっちの身にもなってほしい。金利というのは下手に弄っていいというものではない。今金利を下げたところで、しばらくして金利は上昇していく。そうすると消費は落ち込み、結果として政策実行前よりも症状は悪化するのだ。

3、 自称経済大国

 これだけの治療を受けている国が、「日本のGDPは世界で第3位です」なんて誰が信じるだろうか。半世紀の間に年号が2回変わったが、賃金の伸びはなかった。何なら実質賃金は下がったといってもいい。所得税、住民税、厚生年金、健康保険料、、、etc3か月後(現在2022119日)には多額の税金が徴収されることが確定している。先ほど述べたマネーサプライと金利についての話はどこへ行ったのだ。GAFAM(Google Amazon Facebook Apple Microsoft)といった外資系大企業に吸い取られたというのも間違いではないが、「日本国民の半分以上を占める高齢者の預貯金に回った」可能性があるとは税金で食っている政治家は口が裂けても言わないだろう。貧困層は年齢問わずあるとしても、預貯金1億円を超える高齢者の数は少なくない(オレオレ詐欺のニュースを見て感心するほどである)。経済原理だけで日本の家計は回っていない。約2000兆あるといわれる眠ったお金が放出されるとき、“GDP3位の生活“を国民が送ることができるようになると考えている。

4、 年功序列社会と共犯理論

 中江ゼミでの授業で出た「日本型組織とは」という質問について、ネガティブな意見が大多数を占めた。年功序列社会と共犯理論を関連づけるような意見が出るのも言うまでもないが。「前に倣え」を刷り込まれてきた日本人の集団心理をネガティブな要素として、共犯理論とリンクするのだと認識してしまった私が愚かなのかもしれないが、私にはそう聞こえた。いや、あながち間違っていないのかもしれない。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という思想の元、堕落するはずだった日本社会が運よく経済の成長に支えられ生きながらえているとすれば、Xデーはすぐそこまで確実に来ているのだ。

5、 日本の社会保障制度は万全なのか

 生活保護受給率が上昇している背景には、高齢者の貧困の要因が隠れている。敢えて受給しない世帯の存在については割愛するが、そういった要素があっても上昇している現状がある。厚生労働省社会援護局保護課による1995年から2015年における統計資料「年齢階級別生活保護受給者数、保護率の年次推移」を見ても明らかである。特に65歳以上の受給者数は年々上昇し続けていることがデータから読み取れる。受給率が大きく上昇したわけではないが、母数が増えているのは見過ごすことはできないだろう。何もしないというのも酷な話である。受給者数が上昇しているということは、受給条件にギリギリ入ることのできなかった貧困世帯もあるのである。低所得者層に対しての支援の在り方は多様だ。もっとも、日本において実現していないベーシックインカムや給付付き税額控除も理論として人気はあるが、実現しない・できない理由はあるのだ。予算の問題もあるが、低賃金労働を生み出す壁を増やしてしまいかねない要素も絡む。現在ある103万の壁・150万の壁が最たる例である。

6、 保護の例外

 反対に言えば、保護に値するとして例外を設定し認めることだ。せっかくキーワードが用意されているのだから使っておこう。ここで2つ取り上げるとしよう。1つは不法原因給付と財産犯2つは公示の原則と背信的悪意である。

前者について、公序良俗に反する事項を目的とする場合、契約は無効とする民法90条の前提条件が基礎となる。また、民法708条の不法原因給付の返還についての規定がある。これは、一見すると不法原因給付とそれに関する返還においてのみであると思いがちだが、刑法の財産犯に視野を広げると不法原因給付に関連する罪状が変わるというマジックが起きるのである。例えば違法薬物の売買を持ち掛けられ支払いを済ませた後、違法薬物の受け渡しがなかった場合、不法原因給付のみでは太刀打ちできないが、刑法の詐欺罪を理由づけることも可能なのである。

後者については、配信的悪意者に当たっては「実体上物権変動があった事実を知りながら当該不動産について利害関係を持つに至った者において、右物権変動についての登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情がある場合には、かかる背信的悪意者は登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しないものであって,民法一七七条にいう『第三者』にあたらない。」とした最判昭和44116民集23巻1号18頁において結論付けられる。私はこれに異論がない。

これら2つの事例において共通する概念は公序良俗である。恐らく、中江ゼミ最後のレポート課題には「公序良俗」を軸とした問題が出題されるだろうと考えていたが、まったくその通りであった。自身の正義に照らし合わせて己で判断する。法はあくまで厳格だ。厳格な法が柔軟性をもって裁く余地はそう多くない。それほど、法という一分野ですら重要な要素なのだ。公序良俗の概念は、私が中江ゼミに入るきっかけでもある。この概念を初めて知ったとき、恥ずかしながら素直に「なんと便利な言葉なんだ」とさえ思った。しかし、今では私の物差しの一つになっている。もし、優秀答案として幻のWEBサイトの片隅にこのレポートが掲載され、ふと開いて目に留まったならば思い返してほしい。

 

 

「私は正義を貫けているか」

 

 

このレポートを目にするのは私自身かもしれない。だが断言しよう。私は死ぬまで自身の正義を貫くつもりであると。

 

 

 

 

田澤勇斗

日本型組織と法律

法学部法律学科(学籍番号:19J106024)田澤勇斗

 

 

結論:

現在の日本においては「個人主義」・「権利外観主義」・「自由主義」・「実力主義」が趨勢を増していく方向にあるものの、人々の価値観や組織の実態においては「集団主義」・「実質重視」・「平等主義」・「安定主義」が根付いており、どちらが望ましいと割り切れる単純な話ではなく、むしろその「折衷」形態を生み出していくことに日本のポテンシャルがあると考えるべきであり、その「折衷」形態が「堕落」、「停滞」、「衰退」等となることなく、「成長」、、「進化」、「アウフヘーベン」へとしていけるかが日本の課題であり、日本型組織と法律に必要なことである。

 

(T)金本位制度土地本位制度

 

(@)土地本位制度

 

 土地本位制度とは、金本位制をもじった言葉であり、融資の際に「土地」が最重要視される状況をいう。日本の金融機関は、融資をする際に、よい「土地」を持っているか否かを重要視する。なぜならば、「土地」が安全な資産であると考えられていたためである。その理由としては、第一に、経済学においては、土地の値段は、その土地によって得られる利益の値段によって決まると考えられており、戦後の日本が経済成長を続けていたこと、第二に、経済成長に伴い、その用地としての土地の需要が高まっていたこと、第三に、日本は国土面積のわりに人口が多く、また戦後の日本は人口が急激に増加していたため、住宅地としての土地の需要が高まっていたこと、などが挙げられる。よって、金融機関にとって、融資の条件としては、その融資のプロジェクトアイディアがどれだけ優れているかとか、どれだけ優良な企業の株式を保有しているか、といった不確実なものよりも、「土地」という確実なものを担保として欲していた。しかし、そのような状況では、いかに優れた事業案を持っていても、融資を受けられるか否かは「土地」があるか否かで決まってしまうこととなる。融資をする側にとってみれば、極論、「その事業が成功するかどうかなんて、そんなことはどうでもいい。とにかく銀行にとっては、貸した金が返ってくること、もし万が一返ってこない場合は、資産として確実な土地が手に入ること、これが重要なんだ」という発想になる。これでは将来の成長があまりにも見込めないではないか、例えば、「土地」を担保とするのではなくて、その事業案そのものを担保にするなどの代替案が必要ではないか、という考えが出てきた。

 

 担保権の中でも代表的な抵当権についての条文をあたると、「抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。」(民法3691項)、「地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。」(同2項)とあることから、抵当権の目的物は、原則として不動産・地上権・永小作権に限られることになる。これは、「登記制度が原則として不動産にしか存在しない」ためであるが、「経済社会の状況から別個の財産権の担保化も必要となって」きたことや、「登記技術が発達」したことによって、以上3つのもの以外も抵当権の目的として設定できるようになってきている(『リーガルベイシス民法入門』)。現に、特別法によっていくつかの抵当権が設定できるようになっている。

 

 第一は、工場抵当権である。これは、「工場敷地・工場建物に設定された抵当権は工場備え付けの機械・器具にも及ぶものとする制度」である。しかし、それでは、「賃借権や工業所有権などの権利、あるいは、備え付けていない機械・器具(運送用自動車など)は、担保目的にならない」ため、財団抵当権が設けられた。

 第二は、前述の財団抵当権である。これは、「企業経営のための物的設備や権利を一括して一つの財団を形成するものとして、この財団を不動産または動産とみなして抵当権を設定するという制度」である。しかし、それでも「種類が限定されていること、目録作成の手続が面倒なことに加えて、財団抵当権では、商品や売掛代金などの流動資産やノウハウなどを担保目的物とすることができない」ため、企業担保権が設けられた。

 第三は、前述の企業担保権である。これは、「会社の総財産を一括して担保化する」制度である。「ただし、この担保権は、株式会社の社債の担保にしか用いることができず、また、その効力は弱いものでしかないので、実際にはあまり用いられていないという。」(第一から第三まで『新基本民法3 担保編 物的担保・人的担保の法 第2版』)

 

(A)金本位制度

 

 そもそも、金本位制度とは何か。それは、「貨幣が金と交換できる」という条件を付けることによって、その貨幣の信用を高め、貨幣を流通させる制度である。このようにすれば、わざわざ実物の金を用いなくても、貨幣があれば経済を回すことができ、また使用する人々にとっても、金と交換できるという信用が得られ、貨幣を使おうとするインセンティブが働き、貨幣の流通が促進される。

 

(B)金本位制度土地本位制度

 

 金本位制度の場合は、その貨幣の担保として金がある。金は原則として価値が下がらないと考えられている。一方、土地本位制度の場合は、融資の担保として土地がある。土地は原則として価値が下がらないと考えられてきたが、現在は言うまでもなく否定されている。金本位制度の場合は、金の保有量に限りがある。土地本位制度の場合は、土地に限りがある。

 

(C)「日本型組織と法律」との接点

 

 前述の通り、土地本位制度の下では、そのプロジェクトの優劣は評価されず、将来の成長が見込めない。今後は、そのプロジェクトや権利そのものに担保を設置することが促進されるような法整備が必要であるといえる。

 

 

(U)プロジェクトファイナンス背任

 

 (@)プロジェクトファイナンス

 

 プロジェクトファイナンスとは、「特定の事業から得られる物や収益のみを返済原資にあてる資金調達方法」であり、「銀行や商社などが事業計画の調査・立案段階から参加し、収益性や返済能力などを分析し、必要な資金を調達する」。「不動産などの担保価値や企業の信用力を裏づけとする通常の融資とは異なり、事業が行き詰まっても、プロジェクトの主体企業は損失を補填する必要はない。」(以上『日本大百科全書』)「プロジェクト単位で与信を行っており、担保となるのはそのプロジェクトの資産に限定され」る。「プロジェクトファイナンスはそもそも欧米において、油田・ガス田・鉱山開発などの資金調達手段として考案されたハイリスク・ハイリターン型の大型融資手法であり、金融機関は個々のプロジェクトの経済性、技術リスク、法的リスクにまで踏み込んだ評価を行う必要がある。」(以上は、「アンテロープ」ホームページ)

 すなわち、簡単にまとめると、金融機関が、あるプロジェクトを単位として融資し、そのプロジェクトが成功した場合はその利益を得られ、成功しなかった場合は、通常の融資とは異なり、企業はその損失を補填する必要がないものをいう。

 

 (A)プロジェクトファイナンス背任との接点1

 

 ここで問題となるのは、融資する側の判断である。プロジェクトを単位にして投資するため、そのプロジェクトが成功するか否かを自ら判断しなければならない。加えて、仮に成功しなかった場合は、その融資額を失うため、責任が問われることとなる。したがって、背任罪について知る必要がある。

 

 (B)背任

 

 まずは背任罪の条文を確認する。「他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」

 

  (B-1背任(論点1:背任行為とは何か)

 

 では、まず、背任行為とは何だろうか。これについては、3つの説が対立している。

 第1の説は、権利濫用説である。これは、「本罪は、事務処理上の包括的権限をもつ者が主体となるのであるから、第三者に対する法律行為についての任務違背行為が対象になる」ため「法的な代理権を濫用して本人に財産的損害を加えるべき行為」をいうとするものであるが、「代理権濫用に背任を限定する根拠はない」と批判される。

 第2の説は、背信説である。これは、「背任罪の本質は、本人との間の信任関係に違背して、本人の財産を侵害することにある」ため、「信任関係に違背して本人に損害を加えるべき行為」をいうとするものであるが、「成立範囲が不明確になるおそれがある」と批判される。ただし、これが通説とされており、実際に綜合コンピュータ事件などの判例で肯定されている。

 第3の説は、背信的権限濫用説である。これは、「背任罪の本質を信頼関係の破壊ないし誠実義務の違反ととらえると同時に、処罰範囲の限定・明確化を図る」ため、「行為者が事務処理上有している権限を濫用して行われる背信的権限濫用により本人に財産上の損害を加えること」をいうとするものである。(以上は『伊藤真の条文シリーズ6 刑法』)

 つまるところ、「背信説を基本としながら、背任罪の各成立要件の内容を合理的に限定していくほかないと思われる。」(『基本刑法U 各論』)

 

(B-2背任(論点2:事務の内容1

 第2に、事務の内容が裁量的である必要があるか否か、すなわち、機械的事務は背任罪の適用外となるのか否かについて記す。

 「限定背信説の立場から、事務処理者は本人の権利・義務を左右できる権限に基づいて他人の事務を処理する者に限られるから、事務はある程度包括的、裁量的なものでなければならず」「機械的事務は含まないとする見解も主張されている。」「しかし、学説においては、事務は裁量的なものに限られないとする見解が多数を占めている。機械的な事務であっても、本人との信頼関係に違背してその事務を履践せず、本人に財産上の侵害を与えた以上は、当罰性を有するからである。判例も、同様の理解に立っていると考えられる。」(『基本刑法U 各論』)

 すなわち、機械的事務も背任罪が適用されるため、事務は裁量的である必要はない。

 

  (B-3背任(論点3:事務の内容2

 第3に、事務の内容が財産上の事務である必要があるか否かについて記す。「通説は、背任罪が財産犯であることを根拠に、事務処理者における事務は財産上の事務に限られると解している。」(『基本刑法U 各論』)

 

  (B-4背任(論点4:図利・加害の認識の程度)

 図利・加害目的があると判断されるためには、どの程度の認識が必要であろうか。これには3つの説がある。

 第1の説は、未必的認識説である。これは「図利加害の点を認識することで足りる」とするものであるが、「加害目的の場合には故意の内容と重複することになり、法があえて「目的」として故意とは別のものを要求した趣旨に反する」、「未必的認識で足りるとすれば、ほとんどの財産的処分について加害の未必的認識が認められることになりかねず、正当な冒険的取引が行えなくなる」といった批判がある。

 第2の説は、確定的認識説である。これは「加害目的は、故意と重複する要素であるところ、立法者があえて故意とは別に目的を要求したのは単なる認識以上のものを要求する趣旨である」こと、「本罪の成立範囲を限定しすぎないためには、意欲や積極的認容までは要しないと解すべきである」ことを理由に、「図利加害の点につき確定的認識が必要である」とするものである。

 第3の説は、本人図利目的排除説である。これは「図利加害目的という要件は、当該任務違背行為が本人のためにする意思で行われたものではないという要件を裏側から規定したものである」ことから「本人のためにする意思(本人図利目的)が認められない場合は、図利加害目的は未必的なものでも足り」、「本人図利目的がある場合は、図利加害目的が否定される」というものである。(以上は『伊藤真の条文シリーズ6 刑法』)すなわち、「主として自己・第三者の利益を図るか本人を加害することが動機だった場合は、従として本人の利益を図るという動機があっても図利・加害目的は認められ、逆に、本人図利が主たる動機であった場合は、従として自己・第三者の利益を図ることが動機であっても図利・加害目的は否定される。」(『基本刑法U 各論』)これは具体例を考えてみるとわかりやすい。プロジェクトファイナンスの融資担当者が「これはこの銀行のためになる」として融資を決定したとしよう。しかし、この時、多くの場合は「この融資が成功すれば、自分の出世につながる」という考えもあるのではないだろうか。その場合、もし仮に融資が失敗してしまえば、背任罪になりかねない。しかし、「銀行(本人)のため」という目的が主で、「自分(の出世)のため」という目的が従であるならば、たとえ「自分のため」という考えがあったとしても、背任罪に問われないということになる。逆に、「自分のため」という目的が主で「銀行(本人)のため」という目的が従であるならば、背任罪に問われることになる。

 最高裁判決昭和631121日によれば、「特別背任罪における図利加害目的を肯定するためには、図利加害の点につき、必ずしもその意欲ないし積極的認容までは要しないものと解するのが相当であるとした。」(『伊藤真の条文シリーズ6 刑法』)加えて、他の判例においては、「古くから、本人の利益を図る目的であった場合には背任罪の成立を否定してきた」し、「融資に際し、本人である銀行の利益を図るという動機があったにしても、それは融資の決定的な動機ではなかったということを理由に、図利・加害目的を認め」たものがある。

 

 (C)「日本型組織と法律」との接点

 

 プロジェクトファイナンスは、土地本位制度を打破するうえでは有効な手段となりうる。ただし、その際は、融資担当者の背任責任が問われかねないことに留意しなければならない。ただし、必要以上に背任罪の射程を広げてしまうと、経済活動が委縮しかねない。したがって、「主として自己・第三者の利益を図るか本人を加害することが動機だった場合は、従として本人の利益を図るという動機があっても図利・加害目的は認められ、逆に、本人図利が主たる動機であった場合は、従として自己・第三者の利益を図ることが動機であっても図利・加害目的は否定される」という説は、プロジェクトファイナンスの点からいえば妥当であると考える。

 

 

(V)異次元金融緩和日銀引受

 

 (@)異次元金融緩和

 異次元金融緩和とは、「2013434日に開催された、黒田東彦日本銀行総裁就任後初の日銀金融政策決定会合において決定された大胆な金融緩和政策の総称」である。(『情報・知識imidas』)「黒田新総裁は、就任の直後に、戦力(政策オプション)の逐次投入ではなく、一挙投入によってデフレの克服を図るという姿勢を示し、すでにゼロ金利の下で金融政策の余地がないとみられていたなかで、国債買い上げ、ETF(上場投資信託)、J-REIT(不動産投資信託)の購入を通じてマネタリーベースを2年で2倍まで増やすという大胆な金融政策をとった。」「この「量的・質的金融緩和政策」がデフレからの脱却を可能とする波及経路は、@予想物価上昇率の引上げ、Aイールドカーブの引下げ、B金融機関のポートフォリオ・リバランスの3点にあった。」(以上は『現代日本経済 第4版』)

 ものすごく粗雑かつ簡単に表すならば、「手段を選ばないカネのバラマキ」によって何としてもデフレからの脱却を目指す、というのが異次元金融緩和である。要は、国債を買い上げることによって民間銀行に大量にカネをばらまき、その結果、銀行が一般企業等にジャンジャン貸し出すようになり、カネが世の中に大量に供給されるというカラクリである。この量的金融緩和に加えて、国債という比較的リスクの低い金融商品だけでなく、株式や不動産といった比較的リスクの高い金融商品にまでも手を突っ込む、質的緩和も行う。ちなみに、「マネタリーベースとは、「日本銀行が世の中に直接的に供給するお金」のこと」であり、「「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」+「日銀当座預金」」のことを指す。(以上は、「日本銀行のホームページ」)このマネタリーベースを2倍にしようというのだから、いかに「異次元」であるかがわかる。

 

 (A)国債の買上と日銀引受の違い

 

 国債の買上とは、日銀引受とは異なる。日銀引受とは、日本銀行が民間銀行を介さずに、直接国債を引き受けることをいうが、これはインフレに歯止めが利かなくなることや、財政の信頼性が極めて大きく失われることになるため、財政法第5条で禁止されている。一方、買上とは、日本銀行が民間銀行から国債を買い上げることである。したがって、これは日銀引受には当たらないものとなる。

 

 (B)異次元金融緩和日銀引受の接点

 

 山田博文氏は、異次元金融緩和は実質的な日銀引受であるとし、次のように批判している。「「異次元の金融緩和」政策は、日銀による国債の買いすぎを防ぐための「銀行券ルール」(日銀の長期国債の保有残高を日銀券の発行残高以下に抑えるルール)を凍結したので、国債発行は歯止めを失ってしまった。

 近年の一連の超金融緩和政策(ゼロ金利・量的金融緩和・包括的金融緩和・異次元の金融緩和)は、日銀が金融機関に安価なマネーを大量に供給することによって、民間金融機関の経営を救済しただけでなく、増発される大量国債の消化資金を提供してきた。そのしくみは、こうである(図3)。

 @

日本銀行が民間金融機関の保有する国債を購入し(国債買いオペレーション)、その購入代金が民間金融機関に供給される。「異次元の金融緩和」では、月7兆円の国債が購入されるので、新規発行国債の7割は日銀の購入によって消化され、「国土強靱化」といった大規模「財政出動」の安定財源が確保される。

 A

潤沢なマネタリーベースを日銀から供給される民間金融機関は、資金繰りが困難になることはなく、国債などの金融資産はいつも日銀が買い取ってくれるので、経営は好転する。そのうえ、銀行は、BIS規制を盾にとり、貸出金の不良債権化を嫌って、貸し渋りをつづけている。打撃を受けたのは借入金に依存する多数の中小企業であり、地域経済である。経済不況と雇用破壊は長期化する。

 B

日銀から銀行に供給された大量のマネーが向かった先は、リスク・フリーの安全な金融資産の国債であり、銀行は、貸出よりも、政府保証の国債ビジネスにシフトした。銀行の帳簿では、企業貸出が減退し、それとは対称的に、国債保有高が増大していった(図4)。国債を保有し、政府から確実に利子を受け取り、市場で国債を売買することで、国債売買差益が確保できるからである。

 C

政府にしても、毎年、40兆円を超える大量国債を新規に増発しつづけるには、国債の大口の買い手を見つけなければならないが、その役割は日銀の資金供給によって強力に支えられた民間金融機関に演じてもらえた。

 こうして国債増発のメカニズムがフル稼働しはじめ、国債発行はその歯止めを失ってしまった。これは、民間金融機関を介した日銀による間接的な国債引受 といえるであろう。財政資金の調達先を辿っていくと、日銀のマネタリーベースに突き当たり、日銀による財政ファイナンス・財政赤字の穴埋めが行われている、といってよい。国債の日銀引受を禁止した財政法第五条は空文化している。

 「アベノミクス」の二本目の矢は、10年間で200兆円の大型公共事業を実施する「財政出動」にあるが、そのための財源は国債の増発に依存する。「異次元の金融緩和」政策と日銀の国債大量購入は、国債増発メカニズムとなって作動し、「財政出動」のための財源となる。

 すでにGDPの2倍ほどに累積した国債発行残高を抱えた「政府債務大国」日本は、「財政出動」で増発される国債を上積みすることになる。」(「山田博文氏のホームページ」より)

 

 (C)「日本型組織と法律」との接点

 

 物価上昇率2%の目標は未だ実現されず、一般庶民には景気が回復しているという実感はあまりない。そのような中で、とにかくカネをひたすらバラマキ続けている。しかし、日本の企業は賃金を上げないため、庶民の購買意欲も向上しない。財政赤字は増え続け、給料は上がらずとも物価は上がる。一体、日本がどこに向かおうとしているのか、何を目指しているのか、全く見えてこない。加えて、新型コロナウイルスの感染拡大を機に、莫大な財政出動を行った。

 法律で定められた市中消化の原則も骨抜きにされる今、長期的な財政再建の見通しと、そのための法整備が求められる。

 加えて、日銀の第一の使命は、日本銀行法第1条に定められている通り、「物価の安定」であるはずである。政府と協調的に機能することは必ずしも悪いことではないが、短期的な成果を目指しすぎて長期的視野を見失うことは危険である。戦後日本の復興金融金庫の日銀引受がインフレをもたらした過去を忘れてはならない。その後に来たのは「ドッジ=ライン」という鬼の超均衡予算である。「延命治療」には必ず限界が来る。

 

 

(W)マネーサプライ金利

 

(@)金利

 

 「今、100万円をもらうのがよいか。それとも、10年後に100万円をもらうのがよいか。」その最善の答えは前者である。なぜならば、今、直ちに100万円をもらい、それを銀行に預ければ、利子がつくからである。

 では、「今、100万円をもらうのがよいか。それとも、10年後に200万円をもらうのがよいか。」その答えは単純ではない。そこで、異なる時点におけるお金の価値を比較するためには、現在価値と将来価値という概念が必要となる。

 現在価値とは、「ある所与の将来の金額を生み出すのに必要な現在の金額を一般的な利子率を用いて計算したもの」であり、将来価値とは「現在の金額が将来いくらになるのかを所与の一般的な利子率を用いて計算したもの」をいう。

 具体例を考える。今、100万円を預金した場合、10年後にどれくらいの価値になるかを考える。今、金利を複利5%として考える。すると、1年後には、(1+0.05)×100万円、2年後には、(1+0.05)×(1+0.05)×100万円=(1+0.05)^2×100万円となるから、10年後の価値は、(1+0.05)^10×100万円=163万円となる。

 では逆に、10年後に200万円受け取る場合の現在価値はどれくらいであろうか。これを考えることを割引という。先ほどの具体例を逆に導出すればよいわけだから(すなわち、先ほどは掛けたのだから、今度は割ればよい)、200万÷(1+0.05)^10=123万円となる。

 すなわち、金利を複利5%と設定した場合において、「今、100万円をもらうのがよいか。それとも、10年後に200万円をもらうのがよいか。」という問いに対しては、10年後にもらった良いということになる。(なぜならば、前述のとおり、将来の200万円は、現在の123万円の価値があり、現在の100万円は将来の163万円の価値しかないから。)

 となると、この問の答えは金利によって左右されることとなる。では、いったい金利はどのように決まるのだろうか。

 

(A)流動性選好理論

 

 流動性選好理論とは、「貨幣需要と貨幣供給が均衡するように利子率が調整されるというケインズの理論」(以上、『マンキュー経済学U マクロ編』)をいう。貨幣供給量はすマネーサプライのことであり、すなわち、市中に出回っている貨幣量のことを意味する。そして、貨幣需要量と貨幣供給量が均衡した際の利子率を均衡利子率という。要は、利子率は需要と供給で決まるわけだから、金融政策によってマネーサプライを増やせば、均衡利子率は低くなるし、マネーサプライを減らせば均衡利子率は高くなるわけである。

 

(B)「日本型組織と法律」と金利マネーサプライとの接点

 

 「今、100万円をもらうのがよいか。それとも、10年後に200万円をもらうのがよいか。」という問いを(@)で考えた。その答えを左右するものは金利であったが、金利はどのように決まるかと言ったら、マネーサプライによって決まるのである。

 日銀による異次元金融緩和などによってマネーサプライが増えている結果、金利は当然低くなる。金利が低くなるということは、上記の割引における導出過程中の分母が小さくなっていくということだから、割引現在価値は大きくなっているということになる。

 

 

(X)賃金の伸びGAFAM(Google Amazon Facebook Apple Microsoft)

 

 (@)リチャード・カッツ氏の記事

 賃金の伸びについて、「日本人の賃金が停滞し続ける「日本特有」の理由」という東洋経済ONLINEの記事を見つけたため、そこから引用する。

 「ここ数十年、実質賃金が上がっていない富裕国は日本だけではない。しかし、豊かな国の中で賃金の上昇率だけではなく、賃金自体が下がっているのは日本だけである。」「日本の生産性の伸びは30%と、他国と同じだったが、労働者の賃金は1%減少している。日本の労働者の賃金が最近まで他国の労働者のそれよりも国民所得に占める割合が高かったことを考えると、この状況は特に衝撃的だと言える。」「その1つの結果として、財政赤字が増え続けている。賃金が抑制されると消費者の需要が減退するため、ほとんどの豊かな国では、税収以上に多くの支出をして総需要の不足分を補わなければならない。」「第1の原因は技術的なもの、つまり情報通信技術(ICT)の台頭だと主張する者もいる。」「多くの経済学者は、ICTは過去の技術と何かが違うと考えている。具体的には、これまでの技術と比べて、ICTは労働力、特に労働経験がない、あるいは経験が浅い労働力の需要減少を招いた一方、高いスキルを有する労働力への需要の増加につながった。結果、経済成長の成果が資本の所有者の手により多く渡ることになった。」「IMFによると、「世界の労働分配率の低下は、低・中技能労働者の負担となっている。1995年から2009年の間に、低・中技能労働者の合計労働所得シェアは(GDPの)7%ポイント以上減少したが、世界の高技能労働者のシェアは5%以上増加した」。」「IMFは、国民所得に占める労働分配率の低下の半分は、新しいテクノロジーが原因と推定している。」「OECDは、労働分配率低下の原因の8割は、テクノロジーとその関連事項であると推定している。」「労働者の交渉力の低下が賃金低迷に影響していると指摘する専門家もいる。後にIMFのチーフエコノミストとなるオリビエ・ブランチャード氏は2001年にはすでに、賃金シェアの低下は、労働組合の弱体化、新自由主義的な規制緩和策、労働者と政党の過去の提携関係の弱体化に起因すると主張していた。典型的なOECD諸国では、組合員は1970年代後半にピークに達し、全労働力の半分を占めていた。それ以降、組合員数は減少の一途をたどり、今ではわずか20%になっている。日本では、19601975年には労働者の3分の1が組合に加入していたが、現在は17%にとどまっている。」「テクノロジーだけでなく、政治的な影響もある。すなわち、国ごとの賃金の運命は、その国の政策立案者や政治に大きく左右されるのだ。賃金の伸びが生産性の伸びを上回った4カ国のうち3カ国は、労働者の政治力が強い北欧3カ国だった。一方、国民所得に占める労働分配率が最も低下した4カ国のうち3カ国は、労働協約の対象となる労働者の割合が最も低い日本、アメリカ、韓国だった。賃金における政治家の影響力を示す一例として、いわゆる「積極的労働市場政策」によって、所得に占める労働分配率をGDPの数%引き上げることができるという事実がある。これは、失業した労働者の再教育や雇用者と労働者のマッチングなどを通して再就職を支援する施策である。新しい仕事に就ける自信があれば、労働者は賃金抑制に抵抗しやすくなる。驚きはないが、GDPに占めるこのような政策への支出は、日本とアメリカが最下位に近く、北欧諸国が最も多くなっている。」「最大の要因は、低賃金の非正規労働者が急増したことである。1980年代には労働人口の15%だった非正規労働者が、最近では40%近くまで増えている。正社員の平均時給が2500円であるのに対し、派遣社員は1660円、パートタイムは1050円にすぎない。」「非正規労働者の増加が、正規労働者の交渉力を弱めている」。「エコノミストの深尾京司氏らは、日本では非正規労働者の増加が労働分配率低下の実質的な要因になっていることを確かめた。また、韓国でも同様の結果が出ている。しかし、ヨーロッパには、非正規労働者が多いにもかかわらず、賃金への影響が大きく異なる国がある。日本と最も対照的なのはフランスだ。非正規労働者が労働力の3分の1を占めているにもかかわらず、1995年から2011年の間、フランスの賃金と生産性の伸びの差はわずかであった。何が違うのだろうか。両国とも、同一労働同一賃金が法律で定められている。フランスでは、労働検査官の活用を含めて法律を執行している。一方、日本では、問題の調査と違反者の起訴を義務付けられた省庁がない。被害者は自分で訴訟を起こし、費用を負担しなければならない。さらに、フランスでは正規・非正規を問わず、組合に所属しているかどうかにかかわらず、ほぼすべての労働者が組合契約の対象となっている。日本では、組合員のみが契約の対象となり、派遣労働者や派遣会社から派遣された労働者が組合に加入することは法律で認められていない。確かに、フランスの非正規労働者の平均賃金は、一般労働者の平均賃金よりも20%低い。しかし、多くの非正規労働者が、正規労働者にも低賃金を支払う職業や企業で働いているという事実を考慮に入れると、賃金格差はなくなる。」「また、フランスは積極的労働市場政策にGDP2.2%を費やしており、これはOECD25カ国の中で5番目に高い。フランスの非正規労働者は日本同様、労働時間の短縮や特定の手当を受けられない、正社員になるのが難しいといった多くの困難に直面している。しかし、フランスでは、明らかな賃金差別は問題の1つではない。もっとも、労働不足の深刻化は労働者の交渉力を向上させるため、今後賃金をめぐるポジティブな動きが政治周りであるかもしれない。」

 

(A)GAFAM(Google Amazon Facebook Apple Microsoft)

 

 では、GAFAM(Google Amazon Facebook Apple Microsoft)の賃金状況はどのようになっているのだろうか。

 GAFAM(Google Amazon Facebook Apple Microsoft)が賃金を高い水準に設定している理由は、優秀な人材の確保のためである。そのために、「同業他社との相場観」、「ジオグラフィ(国と地域)」、「企業内ランク」の3つの要素で賃金水準を決めているという。第一に、「業界内の同業他社を10~20社くらい厳選し、それぞれの会社の給与水準を調べ、自社の給与水準を上位%に位置したいかを人事や上層部で決め」ている。第二に、国や地域の賃金水準をカテゴリー化し、その中で個々の賃金を決める。第三に、その人の地位や専門性によって決める。社員は皆、自身のキャリア開発を考えていて、会社もそれをバックアップしているという。そのためGAFAM(Google Amazon Facebook Apple Microsoft)においても人材の流動性は高いが、従業員がやりたい仕事をやれることによって生産性が向上するという。また、個々の賃金は「performance」(結果)、「process」(努力)、「presentation」(自分の業績を説明すること)によって決まる。

 

 (B)効率賃金

 

 効率賃金とは、「労働者の生産性を上昇させるために、企業が支払うとする均衡水準を上回る賃金」のことをいう。GAFAM(Google Amazon Facebook Apple Microsoft)の賃金設定も、この効率賃金の理論に合致しているといえる。「この理論によれば、賃金が均衡水準以上に上昇すると、企業経営はより効率的になる。」

この効率賃金で有名な例が「フォード」である。フォードは当時としては非常に高い賃金水準で人を雇った結果、「離職率が低下し、

欠勤が減少し、生産性が上昇した。労働者の効率が上がったので、賃金が上昇したにもかかわらず、フォード車の製造原価は低下した。したがって、均衡水準以上の賃金を支払うことは、フォード社にとっても利益をもたらすものであった。ある歴史家は初期のフォード社について次のように書いている。「フォードと経営陣は、多くの行事の場で、高賃金政策は好業績につながると率直に喧伝していた。彼らのこの発言は、高賃金政策によって労働者の規律が高まり、彼らの会社に対する忠誠心も高まり、個々人の効率性も高まった、ということを意味した。」ヘンリー・フォード自身、日給5ドルの賃金を「われわれがなしえた最も立派な原価削減策の一つだ」と述べた。」(以上は『マンキュー経済学U マクロ編』)

 

(C)「日本型組織と法律」との接点

 

賃金水準が上がらない、将来の成長は見込めない、会社では嫌なことばかり、給料から天引きされる社会保険料や税金は年々増えるばかり…。このような状況の中で、どうして会社に対する忠誠心や勤労意欲が向上するだろうか。働けど働けど給料は上がらない。ならば、「いかに仕事をさぼるか」を考えるようになるのではないだろうか。「働き方改革」が日本でも喧伝された際に、それがあたかも「働かない改革」であるかのごとく流布されてしまったことは大変残念である。労働生産性の向上が企業にとっても労働者にとっても幸福をもたらすことを忘れてはならない。

 

 

(Y)年功序列社会共犯理論

 

 (@)年功序列社会

 

 年功序列社会においては、上司の言うことには従わなければならないだろう。先ほど扱ったGAFAMとは異なり、人材の流動が少なく、定年まで一つの会社に勤める年功序列社会においては、上司に気に入られるか否かが命運を握る。となると、理不尽な上司の命令にも従わなければならないようになる。そのような場合において、これを犯罪の域にまで広げた時、何が見えてくるだろうか。

 

 (A)共犯理論

 

 具体例を通して考える。上司Xが部下Yに対し、Aを殺害するよう命令した。部下Yは上司Xの命令に従い、Aを殺害した。この場合において、上司Xと部下Yには、それぞれどのような罪が成立するだろうか。もちろん、あまりにも極端な例ではあるが、これを通して共犯理論を考えてみることとする。

 この場合、上司Xは命令をしただけで、実際に殺人という実行行為は自ら行っていない。とすると、Xは殺人罪の教唆犯あるいは幇助犯に過ぎないのだろうか。しかし、上司Xは、殺人の実現においては、部下Yと同じような、もしくはそれを上回るような役割を果たしているのではないだろうか。それを部下Yだけ殺人罪で処罰して、上司Xはその教唆犯あるいは幇助犯に過ぎないとするのはおかしいではないか。当然そのような考えがわいてくる。

 

 (B)共謀共同正犯

 

(B-1)定義

 

 「共謀共同正犯とは、2人以上のものがある犯罪の実行を共謀し、共謀者の1人がその犯罪を実行したときには、現実に実行行為を行わなかった者もまた共同正犯としての罪責を追うとする理論をいう。刑法60条は共同正犯の要件を定めているが、その条文を厳格に解釈すれば、共同正犯の成立には、共同実行の意思(主観的要件)に加え、共同実行の事実(客観的要件)の¥も必要であることになる。そのため、共同実行の事実のない共謀共同正犯は上記要件を欠き、共同正犯の成立が認められないこととなり、教唆犯または幇助犯が成立するにとどまるとも思える。しかし、とりわけ集団的組織的犯罪の場合、共謀に主導的役割を果たし、実行行為は配下の者に任せて犯罪の目的を果たすいわゆる黒幕的な存在もおり、そのような者を教唆犯または幇助犯とするのは実質的正義に反する。そこで、共謀共同正犯という理論を認めることにより、そのような黒幕的存在の者を共同正犯として処罰することができないかが問題となってきた。」(『伊藤真の判例シリーズ3 刑法 第2版』)

 

  (B-2)学説の対立

 

 まず、共謀共同正犯を否定する説がある。その理由として「共同正犯も正犯であり、正犯とは実行行為を行うものである以上、実行行為の分担が必要である」こと、「「共同して犯罪を実行した」とは、実行行為を共同する場合と読むのが素直である」こと、「共謀共同正犯を肯定すると、従犯との区別が困難となり、本来従犯として軽く処罰すべき者を共同正犯として重く処罰する危険がある」ことなどを挙げている。

 しかし、「判例は、戦前の大審院から戦後の最高裁にいたるまで一貫して肯定説に立」ち、「およそ共同正犯の本質は2人以上の者が一心同体のごとくあいよりあいたすけて、各自の犯意を共同的に実現し、もって特定の犯罪を実行することにある」と述べて、共謀共同正犯を認めている。加えて、練馬事件においても、「「共謀共同正犯が成立するには、2人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互に他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、酔って犯罪を実行した」ことが必要といい、「他人の行為をいわば自己の手段として犯罪を行った」点を強調し」た。

 肯定説においては、学説が4つほど分かれている。

 第一の説は、「共同正犯を共同意思主体の活動と解し、民法上の組合の類推により共謀共同正犯を肯定する」共同意思主体説である。この説には、「個人責任の原則に反する」という批判がなされている。

 第二の説は、「一部実行全部責任の根拠は相互に相手を自己の手足のように利用しあうことにあり、共謀共同正犯も「共同意思のもと一体となって相互に了解し合って互いに相手を道具として利用し合う」から共謀者にも正犯性を認めうる」とする間接正犯類似説である。この説には、「規範的障害を有する共謀者を道具として支配拘束することは不可能であり、かりにこれが認められるならば単独の間接正犯であり、共同正犯ではない」との批判がなされている。(以上『伊藤真の条文シリーズ6 刑法』)

 第三の説は、「共謀者が構成要件に該当する事象を支配していること、あるいは共謀者が相互にその意思や行動を強く規制する心理的拘束によって結びついていることを根拠に正犯性を肯定する」行為支配説である。この説には、「間接正犯類似説の場合と同様の批判が向けられている。」

 第四の説は「実行行為を担当していない者が実行に準ずる重要な役割を果たし、実行行為者とともに構成要件該当事実を共同惹起したといえるときに共謀共同正犯が認められるとする」準実行行為説である。(以上『基本刑法U 各論』

 

 (B-3)共謀共同正犯の成立要件

 

 共謀共同正犯の成立要件は、@共同の意思ないし正犯意思、A共謀の事実、B共謀に基づく実行行為があることが挙げられている。(『伊藤真の条文シリーズ6 刑法』)

 

 (C)「日本型組織と法律」との接点

 

 当然ながら、背後にある黒幕(今回の場合は、上司X)を正犯として処罰することができないのは妥当ではない。しかし、かといって、共謀共同正犯をあまりに広げてしまっては、共同意思主体説のように、刑法の根本原則である個人主義に抵触しかねない、あまりにもダイナミックで飛躍的なものとなってしまう。また、間接正犯類似説や行為支配説の説明は、実行犯となる手下(今回の場合は、部下Y)が事象をコントロールできる範囲をあまりにも広げすぎてしまい妥当ではない。加えて、準実行行為説がその妥協点として有力ではあるものの、やや曖昧過ぎる気もしてしまう。

 裏を返せば、第一・第四の説は、上司Xに、第二・第三の説は部下Yに視点が向かうこととなる。第二・第三の説では「部下Yの共謀共同正犯に対する主体性」が強調されているが、果たしてそのような主体性が年功序列社会において認められるのだろうか。そのような主体性は実質的に存在するのだろうか。部下Yにそれだけの主体性や責任を認めるのならば、部下Yの権利を手厚く保護すべきであるが、日本型組織においてそれがなされているとは言えないし、そもそも個人主義というよりはむしろ団体主義的な日本型組織において、「上」の者に責任があるからこそそれに従っているといえるだろう。もっとも、仮にそれを打破したいのであれば、部下に帰責性を認めるべきではある。

 ということは、この共謀共同正犯の問題は、日本の組織の在り方そのもの(すなわち、「上」と「下」の関係や、「個人」の主体性に重きを置くのか「団体」の団結性・組織性に重きを置くのか)が問われているということになる。

 

 

(Z)生活保護受給率給付付き税額控除

 

 (@)生活保護受給率

 

  厚生労働省の「生活保護の被保護者調査(令和3年10月分概数)の結果」によると、被保護実人員は2,037,970人、被保護世帯は1,641,917世帯、保護の申請件数は18,726件、保護開始世帯数は16,637世帯、保護率(人口百人当たり)は1.63%となっている。また、「生活保護を利用する資格のある人のうち現に利用している人の割合(捕捉率)は2割程度にすぎ」ない。(『日本弁護士連合会』パンフレットより)

 

 (A)給付付き税額控除

 

 給付付き税額控除とは、「税金から一定額を控除する減税で、課税額より控除額が大きいときにはその分を現金で給付する措置」のことであり、「例えば、納税額が10万円の人に15万円の給付付き税額控除を実施する場合には、差額の5万円が現金支給される低所得者や子育て世帯への支援策としてカナダや英国で導入されている。消費税は所得にかかわらず同じ税率が適用されるため、消費性向が高い低所得者の税負担が相対的に重くなる「逆進性」がある。給付付き税額控除は「逆進性」対策の有効打といわれる。」(以上は日経新聞の記事より)

 給付付き税額控除と並べて候補となるのが「ベーシックインカム」であるが、これには批判や懸念点がある。

 「BIが社会保障給付の切り下げを意味するのではないかという懸念である。現在の社会保障体系では、年金、生活保護、失業給付、児童手当・児童扶養手当といった現金給付が既に存在している。BIによってこれらの現金給付の水準が引き下げられたり、合算して据え置かれたりするのであれば、再分配政策(租税制度や社会保障制度などを通じ、所得格差を縮める政策)としては「後退」することになる。」また、「BIのようにすべての人に一律に給付する「普遍給付」では、一人ひとり異なる受給者の状況にきめ細かく対応することはできない。しかも、現在の年金や生活保護の給付水準を維持したまま、BIを上乗せするのでは、納税者の理解が得られにくいというジレンマも抱えている。」加えて、「インフレへの恐怖である。BIを現金給付の切り下げや現物給付の市場化を伴わない体系、すなわちいかなる歳出も削減せず、財政赤字の拡大によって設計した場合、一国の供給力が一定とすれば、需要だけが増大することになり、短期的にはインフレに帰結する恐れがある。物価上昇は資産を持たない低所得層ほど実質的に所得が目減りし、結局は低所得層に負担のしわ寄せが集中することになりかねない。」

 「この給付付き税額控除が導入された背景には、各国で広く採用されている所得税の基礎控除に再分配効果上、欠陥があるとの認識がある。所得税には一般的に基礎的な控除が存在し、日本でも2019年まで一律38万円の基礎控除があった(20年から所得に応じた控除に変更)。これは、課税によって生活が立ち行かなくなることを防ぐため、最低生活費には課税しないという考え方に基づいている。しかし、最低生活費の非課税=所得控除は、所得が高くなるほど税率も高くなる累進税率の所得税体系では、高い税率を掛けられる高所得層の基礎控除分も非課税となるため、高所得層により大きな利益をもたらす。また、非課税世帯のような低所得層は、そもそも基礎控除分を課税所得から控除しきれず、制度からほとんど利益を得られていない。こうした欠陥を抱えているため、所得控除の再分配効果は限られている。」 「日本の現行の租税体系には、他にも問題点がある。まず、株式の譲渡益などの金融所得が、他の所得と合算して税率を掛ける総合課税ではなく、別に一定税率を掛ける分離課税となっていることだ。金融所得の税率は20%(別途、復興特別所得税)であり、多くの金融所得を得ている超高所得層にとっては、累進税率が課せられないことから、所得全体でみれば租税負担率が低くなっている。また、年金や医療、介護の社会保険料も、徴収する年間の保険料に上限が設けられていることなどから、高所得層では負担が増えない仕組みになっており、低所得者ほど負担が重い。筆者が18年分の国税庁「申告所得税標本調査結果」などを基に、所得別の所得税と社会保険料の負担割合を試算したところ、所得が1億円以上の層から負担割合が下がっていく傾向が見られた」(以上は「エコノミストOnline」より)

 しかし、仮に給付付き税額控除が導入した場合、「税と社会保障は一体化し、国税庁と社会保険庁が合体して金融庁のような独立した機関にな」り、「これでは既得権を失うとして財務省や厚生労働省が大反対していることが、制度改革が進まない理由になってい」る。(「橘玲の日々刻々」より)

 

 (B)「日本型組織と法律」との接点

 

 給付付き税額控除は逆進性を縮小させるには適している。要は、垂直的公平に適しているといえる。ただし、そのためには、国民一人ひとりの収入や課税額等を把握しなければならない。そのためにはマイナンバー制度を活用する必要があるが、マイナンバー制度は完全に普及していたり理解がなされていたりするとは言えない。そのような中途半端な状況下でこの制度を導入しようとすれば、とんでもないコストがかかるだろう。給付付き税額控除を導入するならば、まずはそういった前段階を整備する必要がある。

 加えて、必要なことは、法人税の引き上げである。法人税は年々引き下げられている。給料は上げないくせして、企業の内部留保が増えるばかりでは、分配が進まないどころか、成長もないだろう。ただし、法人税に関しては、タックスヘイブンの関係があることから、国際的に協調して引き上げることが必要となる。ただし、現実には難しいであろうから、いずれの制度を採るにせよ、まずはマイナンバー制度の徹底整備がすべての前提条件であるといえる。

 

 

([)不法原因給付と財産犯

 

 (@)最高裁昭和23年6月5日第2小法廷判決

 

  (@-1)論点

 

 「資金の委託行為が不法原因給付(民法708条本文)にあたり、委託者にその資金の返還請求権が認められない場合でも、横領罪が成立する」だろうか。これについて次のような判例があった。「Xは、巡査のY1およびY2から、Yらの収賄行為を隠ぺいするため、Yらの上司であるA警察署司法主任等の買収を頼まれた。そして、Xは、Yらから、そのための資金として金2万2000円を受け取り、保管していた。その後、Xは、保管中の金員のうち2万円をほしいままに費消した。」以上のような事件である。(以上は『伊藤真の判例シリーズ3 刑法 第2版』)

民法708条によれば、「不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。」と記されている。これに従えば、賄賂を返還するように請求してもその請求は認められないから、賄賂を受諾したものが自由に処分できることとなる。とするならば、横領罪は成立しないのだろうか。これについて学説は対立している。

 

 (@-2)学説の対立

 

第一は、「横領罪が成立する」という「肯定説」である。その理由としては、「民法708条の適用があるという前提に立ち、」「給付者・寄託者は、民法上返還請求権を認められないだけで所有権は失っていないから、受給者・受託者にとって不法原因給付物は依然として「他人の物」にあたる」こと、「行為ないし行為者の処罰の必要性の見地から、民法上保護されない委託関係であっても刑法上保護の必要がある」ことなどが挙げられる。

第二は、「横領罪は成立しない」という「否定説」である。その理由としては、「民法708条の適用があるという前提に立ち、民法で保護されない不法原因給付物の給付者に対し、刑法上横領罪の被害者として保護を与えるのは法秩序の統一を破る」ことなどが挙げられる。

第三は、「不法原因給付物については横領罪は成立しないが、不法原因寄託物については横領罪または占有離脱物横領罪が成立する」という「折衷説」である。その理由としては、「不法原因給付物と不法原因寄託物を分け、前者について民法708条の適用を受け、所有権は受給者に移転するが、後者は民法708条の適用がなく所有権が移転しないこと」などが挙げられる。(以上は『伊藤真の条文シリーズ6 刑法』)

「肯定説」に対しては、「民法上許される行為を刑法上処罰することになり、刑法の謙抑性(刑法は刑罰という過酷な制裁を内容とするから、その適用は必要最小限にとどめるべきであるという原則)に反するという批判」や「横領罪の第一次的な保護法益は所有権であると解されているから、」「所有権の侵害はないのに委託信任関係の侵害だけで横領罪の成立を認めるのは妥当ではない」という批判が向けられている。また、「折衷説」に対しては、「民法理論において不法原因給付と不法原因寄託を分けるという解釈はとられておらず、寄託も終局的に利益を与えている以上は「給付」であるから、」「賄賂を預けた場合も不法原因に当たり、民法708条の適用があるという批判が寄せられている。」(以上は『基本刑法U 各論』

 

(@-3判決要旨

 

 上記判決によると、「不法原因給付が民法上返還を請求できないとしても、横領罪の目的物は単に犯人の占有する他人の物であることを要件としているのであって必ずしも物の給付者において民法上その返還を請求しうべき物であることを要件としておらず、買収目的で使用するため受け取り保管中の金員は、被告人の物ということはできないし、金銭のような代替物であるからといってただちにこれを被告人の財物であると断定することもできないので、結局被告人の占有する他人の物であり、これを自己の用途に費消すれば横領罪が成立するとする。」としている。(以上は『伊藤真の条文シリーズ6 刑法』)

 

(A)最大判昭45・10・21民集24巻11号1560頁

 

「しかし、その後、最大判昭45・10・21民集24巻11号1560頁が登場したことにより、肯定説は再考を迫られることになる。たしかに、民法708条は、返還請求権に関する規定であって、不法原因給付物の所有権について直接定めたものではないが、」「民法708条が不法原因給付物について給付者の返還請求権を認めていないことの反射的効果として不法原因給付物の所有権は受託者にあるとの判断を示した。この民事判例に従うと」「Xは「自己の物」を費消したにすぎず、横領罪は成立しないことになる。」(以上は『基本刑法U 各論』

 

 (B)「日本型組織と法律」との接点

 

 行為無価値論に立脚すれば、いずれにせよ他人の物を盗んだということに変わりはないのだから、横領罪が成立ということになるだろう。一方、結果無価値論に立脚すれば、賄賂は保護に値しないと考えるのがふつうであるから、横領罪は成立しないということになるだろう。

 ただ、賄賂であるがゆえに保護に値しないから横領罪不成立、とすれば、では、賄賂だったら、保護に値しないものならば盗んでいいのか、ということになりかねない。例えば、『桃太郎』が鬼ヶ島から盗品を分捕ってくる私的救済は、確かに物語としては「いい話」として終わるかもしれないが、それは現代刑法の精神に適合するといえるだろうか。加えて、『羅生門』で老婆から物を奪った男の良心は無駄であったのか。やはりそうとはいえないであろう。「事情を知っている悪意者」、「悪知恵の働く者」が勝ち組となる法整備は不適切であろう。とするならば、この場合は行為無価値論に立脚するのが妥当であろう。

 

 

(\)公示の原則背信的悪意

 

 (@)公示の原則

 

 「物権変動を第三者に主張するには、外部から認識できる一定の徴表的な形式が伴わなければならないとする原則を、公示の原則という。簡単にいえば、物権変動について公示を備えないかぎりは、第三者にその権利を主張しえない、対抗しえないということである。これに対して、真の権利状態と異なる公示が存在する場合に、公示を信頼して取引をしたものに対し、公示どおりの権利状態があったのと同様の保護を与える原則を、公信の原則という。簡単にいえば、実際に物権変動はなかったのだが、それがあると信じて取引に入ってしまった人を保護する制度である。」「物権については、その変動を登記・引渡しによって外部に示すという公示の原則が採用されるが、権利の外観である登記を信頼して取引をした者を保護するという公信の原則は、不動産については採用されていない。」その理由としては、「登記官には登記の実質的審査権がなく」「真実の権利を反映していない登記が実際に多く存在」すること、「不動産取引は、動産取引に比べ、日常頻繁では」なく、「取引の相手方」「に慎重さを要求してもよいこと」などが挙げられる。

 

 (A)背信的悪意者排除論

 

 例えば、Aが不動産をBに譲渡し、その後、悪意のCに同じ不動産を譲渡した場合を考える。この場合において、「第一譲受人Bは、登記を備えないかぎり、Cに対して自己の所有権を対抗しえない」。「その理由としては、自由競争の建前のもと、善意・悪意を区別すべきでないということ」、「善意・悪意を区別すると取引が混乱するので取引の安全上、画一的処理が必要である」こと、「177条の文言が善意・悪意を区別していないこと」などが挙げられる。

 「しかし、単なる悪意を超えて、登記の欠缺を主張することが著しく信義に反するような第三者」「は保護に値しないと考えて、このような背信的悪意者は「第三者」から排除されると考えられている(判例・通説)。これを背信的悪意者排除論あるいは背信的悪意者論という。」(以上は『スタートアップ民法・民法総則【伊藤真試験対策講座1】』)

 

 (B)論点

 

 ここで、2つの論点を考える。一つは、背信的悪意者から譲受した場合の譲受人の扱いはどうなるか、もう一つは、善意または単純悪意者から譲受した場合の譲受人が背信的悪意者であった場合の扱いはどうなるか、である。

 

  (B-1)論点1(背信的悪意者からの譲受人の扱い)

 

 具体例を考えよう。「Aが土地をBCに二重に譲渡し、登記を備えたC背信的悪意者であった場合、Cからさらに土地を譲り受けたDに対し、Bは土地所有権の取得をDに対抗することができるのか。」この場合、「背信的悪意者は、信義則(12項)上登記の欠缺を主張することが許されないにすぎず、権利者といえるため、転得者は有効に権利を取得することができる。転得者が「第三者」から排除されるかどうかは、転得者と第一譲受人との間で相対的に判断されるべき事柄である」ことから、「当該譲受人自身が背信的悪意者でないかぎり、Bは所有権の取得を対抗できない」と判例は示している。

 

  (B-2)論点2(善意ないし単純悪意者からの譲受人が背信的悪意者である場合の扱い)

 

 具体例を考えよう。「Aが土地をBCとに二重に譲渡し、登記を備えたCが善意であったが、Cからさらに土地を譲り受けたD背信的悪意者であった場合、Dは土地所有権を取得することができるのか。」この場合、「Cが登記を備えた時点でC所有が確定しているのであり、Dはその権利を承継取得するにすぎない。法律関係の早期安定のためにはCのもとで権利を確定させるべきである」ことから、Dは「権利を取得する」。(以上は『伊藤真の判例シリーズ3 刑法 第2版』)

 

 (C)「日本型組織と法律」との接点

 

 「不動産の場合、登記には公信力がない。」「その理由は、不動産のような価値の大きな財産については、真の権利者の保護(これを静的安全という)を取引の安全(動的安全という)よりも重視すべきだからである。」「学説の中には、もっと直接的に、登記に公信力を与えるべきだと主張するものもある。しかし、取引の安全を図れば図るほど、真の権利者が容易に所有権を失うことになるわけで、静的安全の保護も軽視すべきではない。両者の利益の調整が物権法の重要なテーマのひとつになっている。」(以上は『民法T [4] 総則・物権総論』)

 

 

(])空家問題相続登記義務化

 

 (@)空家問題

 

  空家問題とは、「「登記記録では所有者がわからない、もしくはわかっていても連絡がつかない土地」によって生ずる問題」を言う。(「家族信託の相談窓口」ホームページより)この背景にあるのは、「相続登記の申請は義務ではなく、申請しなくても不利益を被ることは少ない」こと、「都市部への人口移動や人口減少・高齢化の進展等により、地方を中心に、土地の所有意識が希薄化 ・ 土地を利用したいというニーズも低下」していること、「遺産分割をしないまま相続が繰り返されると、土地共有者がねずみ算式に増加」することなどが挙げられる。問題点としては、「所有者の探索に多大な時間と費用が必要」とすること、「所有者の所在等が不明な場合には、土地が管理されず放置されることが多い」こと、「共有者が多数の場合や一部所在不明の場合、土地の管理・利用のために必要な合意形成が困難」であることによって、「公共事業や復旧・復興事業が円滑に進まず、民間取引が阻害されるなど、土地の利活用を阻害」していること、「土地が管理不全化し、隣接する土地への悪影響が発生」していることなどが挙げられる。「高齢化の進展による死亡者数の増加等により、今後ますます深刻化するおそれ」があることから、「所有者不明土地問題の解決は、喫緊の課題」となっている。(以上は、法務省民事局「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」)現に、「2017年(平成29年)12月に公表された所有者不明土地問題研究会(一般財団法人国土計画協会)の最終報告で「2016年(平成28年)時点の所有者不明土地面積は、地籍調査を活用した推計で、約410haあり、九州(土地面積:約367ha)以上に存在する」という衝撃的な報告がされ」た。(「不動産名義変更手続センター」ホームページ)「経済的損失は年間約1800億円にものぼるとされてい」る。(「家族信託の相談窓口」ホームページより)

 

 (A)相続登記義務化

 

 以上の空家問題を解決するために、202441日から相続登記が義務化される。すなわち、「所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない」と法改正がなされた。

 第一のポイントは、「申請をすべき義務がある者(相続人等)が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処する」という罰則規定があることである。

 第二のポイントは、「「施行前に相続が発生した不動産においても所有権移転登記(相続登記)が義務となる」という点」である。このように、遡及効を認めることによって、抜け穴を防ぎ、空家問題の解消が目指されている。

 

 (B)「日本型組織と法律」との接点

 

 「噂の東京マガジン」で度々取り上げられている定番問題がこの空家問題であった。近隣住民も役所も何もできず困り果てていた映像が印象に残っている。それを何とか解消しようと、空家問題の発生予防に向けて制定されたものがこの相続登記義務化である。

 その趣旨はよいと思うが、ただでさえ、今でも縦割り行政で手続きが煩雑な現状において、さらに手間と負担を増やすのは、国民感情としてはあまり良いものではないだろう。したがって、できるだけ簡略化し、時間やコストがかからないような制度設計が望まれる。

 

 

(※)参考文献

l   道垣内弘人『リーカルベイシス 民法入門 [3]』(日本経済新聞出版社、2019年)

l   大村敦志『新基本民法3 担保編 物的担保・人的担保の法 第2版』(有斐閣、令和3年)

l   『日本大百科全書』

l   伊藤塾『伊藤真の条文シリーズ6 刑法』(弘文堂、平成20年)

l   大塚裕史『基本刑法U 各論』(日本評論社、2014年)

l   橋本寿朗『現代日本経済 第4版』(有斐閣アルマ、2019年)

l   N・グレゴリー・マンキュー『マンキュー経済学U マクロ編[4]』(東洋経済新報社、2019年)

l   伊藤塾『伊藤真の判例シリーズ3 刑法 第2版』(弘文堂、平成23年)

l   伊藤真『スタートアップ民法・民法総則【伊藤真試験対策講座1】』(弘文堂、2019年)

l   内田貴『民法T [4] 総則・物権総論』(東京大学出版会、2008年)

l   https://hourei.net/law/129AC0000000089

l   https://hourei.net/law/140AC0000000045

l   https://kotobank.jp/word/%E5%9C%9F%E5%9C%B0%E6%9C%AC%E4%BD%8D%E5%88%B6-159909

l   https://www.mag2.com/p/money/237401/2

l   https://www.mag2.com/p/money/237401/3

l   https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10213083870

l   https://www.meets-fs.co.jp/blog/entry-219225/

l   https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%9F%E5%9C%B0%E7%A5%9E%E8%A9%B1

l   https://amiyazaki.net/BUSINESS_SHIFT/JapansLostDecade/the_estate_myth.html

l   https://amiyazaki.net/BUSINESS_SHIFT/JapansLostDecade/estate_bubble.html

l   https://www.ifinance.ne.jp/glossary/loan/loa022.html

l   https://japanknowledge.com/lib/display/?kw=%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%82%B9&lid=1001050309550

l   https://www.nsspirt-cashf2.com/entry/2018/09/23/245/

l   https://www.antelope.co.jp/navigation/finance/word/kana6/word4.html?yclid=YSS.1000005677.EAIaIQobChMIkoXLovit9QIVo5vCCh1f5gTMEAAYASAAEgLV7_D_BwE

l   https://japanknowledge.com/lib/display/?lid=50010A-106-0182

l   https://www.ifinance.ne.jp/glossary/japan/jap125.html

l   http://shakai.edu.gunma-u.ac.jp/~yamachan/contents/forum/cn13/pg381.html

l   http://ictj-report.joho.or.jp/1905/sp05.html

l   https://gentosha-go.com/articles/-/6473

l   https://gentosha-go.com/articles/-/6478

l   https://nobu0824.com/2018/10/05/%e7%95%b0%e6%ac%a1%e5%85%83%e9%87%91%e8%9e%8d%e7%b7%a9%e5%92%8c/

l   https://www.glossary.jp/econ/finance/nichiginhikiuke.php

l   https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/op/f09.htm/

l   https://koumu.in/articles/200603n

l   https://japanandworld.net/economy/2190/

l   http://blogs.bizmakoto.jp/hyas/entry/5823.html

l   https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/statistics/h06.htm/

l   https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/outline/a01.htm/

l   https://toyokeizai.net/articles/-/475188

l   https://toyokeizai.net/articles/-/475188?page=2

l   https://toyokeizai.net/articles/-/475188?page=3

l   https://toyokeizai.net/articles/-/475188?page=4

l   https://toyokeizai.net/articles/-/475188?page=5

l   https://ajo-consulting.com/column/salary/#:~:text=GAFA%E3%81%A7%E3%81%AF,%E5%B9%B4%E5%8F%8E1%2C000%E4%B8%87%E5%86%86%E3%81%AF%E4%BD%8E%E3%81%84%E3%81%BB%E3%81%86%E3%81%A7%E3%81%99%20%E3%80%82

l   https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1012564760

l   https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1177925306

l   https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/hihogosya/m2021/dl/10-01.pdf

l   https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/booklet/data/seikatuhogo_qa.pdf

l   https://www.nikkei.com/article/DGXNASFS3004I_Q1A131C1EE1000/

l   https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200721/se1/00m/020/029000c

l   https://diamond.jp/articles/-/159687

l   https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/corporation/082.pdf

l   https://www.f-shintaku.jp/column/1994/

l   https://www.moj.go.jp/content/001362336.pdf

l   https://www.meigi-henkou.jp/16130337523182

 

 

 

 

多田樹

「日本型組織と法律」

19J205003 多田樹

 

キーワード:金本位制度と土地本位制度、プロジェクトファイナンスと背任、異次元金融緩和と日銀引受、マネーサプライと金利、賃金の伸びとGAFAM(Google Amazon Facebook Apple Microsoft)、年功序列社会と共犯理論、生活保護受給率と給付付き税額控除、不法原因給付と財産犯、公示の原則と背信的悪意、空家問題と相続登記義務化

 

結論:日本型組織と法律の関係性を見てみると、現在の社会には問題点は数多くある。その現状を変えるには日本型組織を根本から変えるか一人一人が責任についてしっかりと考える必要がある。

 

・はじめに

最初に、現在の日本における組織の在り方について、いくつか挙げてみる。第一に挙がるものは、年功序列社会である。この年功序列というのは、経験数や秩序の観点より、年齢や勤務年数に応じて年数が大きいものに対して役職や賃金が上がるなどピラミッド型のように形成された社会である。例として、政治家には年長者が極めて多い。この現象は、日本人の年功序列という概念を無視することができないためである。また、この年功序社会の概念は、日本人の同調圧力にも関わっているだろう。同調圧力も日本型組織の一つであり、いわゆる空気の読みである。年功序列が日本型組織の縦社会で、同調圧力は横に広がる日本型組織だといえるのではないだろうか。

この日本型組織には経済的な観点にも大きく影響している。日本型組織について少し掘り下げて法律と絡めながら考えてみる。

 

1.年功序列社会と責任

年功序列社会において、責任の居場所はどこにあるのだろうか。年功序列社会なのだから、年長者にあるべきなのが望ましいのだが、私はそんなことなないと考える。年功序列社会と共犯理論には関係性がある。そもそも共犯というのは二人以上のものが一つの犯罪に関与していることで成立する。ただ、その共犯の従属性について、正犯者が犯罪の実行に着手していない場合に関しては実行従属性の原則により共犯を成立させる要件にはならない。現在の日本のような年功序列社会では、従属性を利用した集団無責任が問題となっている。政治家や官僚、企業の幹部などは甘い意識が膨大な責任となってしまう。しかし実行したものが見つからない事象に関して正犯は見つかることなく、責任の居場所はあやふやになってしまう。現に東京オリンピックの会場設立の予算は無駄が多いと指摘されたことがあった。この事例は同じような状況で成り立ってしまっていたと考える。日本では年功序列社会の歴史において、企業の不祥事など数多く横行している理由の一つはここにあるのではないだろうか。

これらのことは一般企業や政治に限ったことではなく、経済に影響を与える銀行業にもみられる。銀行は企業がプロジェクトを起こす資金の調達のためにプロジェクトから発生したキャッシュ・フローで返済する、忠実義務によるプロジェクトファイナンスという融資を行っている。しかしこの融資は特性上、別会社を設立して銀行から貸し入れを行っているのだが、任務違背行為による背任罪の成立もありうる。このプロジェクトファイナンスと背任において、年功序列による教唆の場合には身分犯の構成要件になりうる。任務違背の違法性の本質は結果無価値では法益侵害で違法要素は目的犯を除き認められず行為無価値では倫理違反にあたり、違法要素は基本的認められる。先ほども述べた通り年功序列社会と共犯理論の関係のように責任の居場所の特定が難しいために現在の社会での一つの問題点だと考える。

 

2. 空家問題と相続登記義務化

かつて日本は金本位制度と土地本位制度という制度があった。金本位制度いうのは、金の裏付けを貨幣とし、金をお金の価値基準とする制度である。対して、土地本位制度というのは、土地は、なくなることも劣化して価値が落ちてしまうこともなく、価値が上がると担保価値も上がるため、銀行にとっては好都合とされた制度である。この二つのうち金本位制度は第一次世界大戦時に金輸出の禁止によって廃止された。日本は管理通貨制度に移り変わる。土地本位制度は土地の価格は上昇し続けるといわれる土地神話が広まっていたため、土地を担保として信用されることが多くなった。日本の銀行も土地を担保とすることや、不動産担保による融資を行っていた。広まっていた時代はバブル期であったため土地を買う人は極めて多かっただろう。しかしバブル崩壊とともに土地神話は崩壊した。時代は進み、現在は少子高齢社会真っ只中であり、人口が減少するにつれて住居に住む人は必然的に減っていく。また高齢化であるため施設を利用する人が多くなるなどして、空家が増加するという問題が新たに生じている。相続問題も生じている。親元を離れた人は空家を相続しても住むことはせず空家のまま残ってしまってしまう場合が多いのだが、土地所有者が不明のまま空家になってしまう場合も少なくない。この土地所有者不明の問題の解決策として令和6年に相続登記が義務化される。相続登記が期限内にされなかった場合、罰則が適用されるなど、空家問題の改善のために厳しくなっている。

また、相続された建物について、相続者は土地と建物の所有について決定することができる。そこで土地と建物が別々の所有者に帰属されるときの、民法388条の法定地上権の適用について考える。法定地上権の成立要件として、次のようになっている。

@抵当権設定時に土地上に建物が存在すること

A抵当権設定時に土地と建物の所有者が同一であること

B抵当権の実行により、土地と建物の所有者が異なるに至った

これらの場合に成り立つ。また、設定された抵当権などの目的が果たせない場合には物上代位することもできる。

さて、これまで空家問題から土地の所有に関して述べてきたが、土地の取引は手堅く行われている。土地神話が崩壊したといいつつ土地本位制度はいまだに続いているといえる。また、日本の銀行は融資の促進により、賃金の伸びとGAFAM(Google Amazon Facebook Apple Microsoft)のような企業をつくり、成長させることで債務者にとって厳しい思いをさせないような担保制度をつくっていくことが必要であり、土地の活用や空家の活用の促進をしていく必要があるだろう。

 

3.裁判

裁判における日本型組織について考えてみる。日本は憲法32条により裁判を受ける権利を基本的人権として定めている。また確定した裁判が持つ効力として、裁判が確定した以上、同じ事柄が訴訟上問題になったとしてもそれに反する主張や裁判を許さないという既判力を持つ。ただ、公示の原則と背信的悪意の関係のようなものもある。公示の原則というのは、権利の変動において登記など他人から認識できる公示がなければ効力を生じないというものである。背信的悪意は悪意を持ちながら権利者に害をもたらすことを目的とした行為である。民法177条より登記がなければ第三者に対抗することができない。だがこの第三者には背信的悪意者は含まれない、背信的悪意者排除論が不動産法第5条を原型とした規定があり、範囲として定められている。事実の錯誤や法律の錯誤のような違法性の意識について責任のあり方について考えさせられることだろう。

背任罪と似ている人格的法益を保護する者に、他の財産法益を侵害する財産犯というものがある。不法の原因に基づいてなされた給付である、不法原因給付と財産犯は適用されるのだろうか。これは不法な給付を受けることに犯罪が成立する場合は財産犯が幅広く肯定される。また、給付したものの返還に関しては否定的である。

 

4.金融政策

経済において日本の好景気といったらバブル経済期が挙がる。このバブル経済期はいつまでも続くことはなく、51か月間の好景気が続いたのちはバブル崩壊を迎え不景気に転じた。この不景気に転じた要因の一つはバブルを終息させるために日銀はマネーサプライの伸びを大きく低下させたことによるという見方がある。マネーサプライというのは、通貨供給量という、実際の世の中に出回っているお金のことである。この政策によって物価下落に陥ってしまった。この景気を回復するためには、物価の安定が目標である。そのために金利の設定がカギになる。マネーサプライと金利の関係というのは、経済に大きな影響を与える。このマネーサプライと金利を調整することにより、金利を下げ、企業や個人に対して資金の借り入れをしやすくし資金の流れがよくなる。金融緩和政策は物価の安定させるために重要な政策だといえる。お金を増やす量的金融緩和と国債以外を買い入れる質的手段によって行われる質的金融緩和がある。近年の金融政策については安部政権時代、3本の矢が放たれた。その矢というのは、金融緩和、財政出動、成長戦略というものである。そのなかでも金融緩和に関して、日銀に対して量的、質的ともに次元の異なる政策、異次元金融緩和政策を打ち出した。この異次元金融緩和というのは二年間のうちにマネタリーベース(資金供給量)を2倍にするという大胆な政策を打ち出した。この政策によって民間の金融機関は国債を日銀が購入するため経営を好転させることができる。異次元金緩和と日銀引受は安倍政権時代に日銀時代に強制された政策であり、誰も対抗することができない。この行政組織も日本型のものである。この政策について長らく目標は先送りされたが達成はされていない。

 

5.格差社会

現在の日本の雇用制度では終身雇用と、企業が倒産しない限り定年まで働くことができる。これは基本的に入社から定年まで同じ場所で働くことが前提としてなされる制度である。そのため定年まで働くことが多い。また年齢が上がるとできることも少なくなるため、給料は比較的もらう子tができるがあまり働かないなんてことも少なくはない。その分若者たちの負担が大きくなる。それに加え、現在日本は少子高齢社会のため若者の人数が少なく、高齢者が多い。若いものの少ない給料から保険料の天引きはかなりの痛手である。しかも保険料の天引きは上がり続けており、若者たちは悲鳴をあげながら働くことになるだろう。さらに65歳以上の生活保護受給率は他の年代よりも増加している。それに伴い若者の低所得や子育てなどがあり、高齢者がお金をもらい若者は低所得という格差が生まれる。格差を減らすにはどうするべきか。海外では個人所得税の税金控除に加え税額控除で控除しきれなかった残りの一定割合を現金給付する、給付付き税額控除の制度がある。これは低所得者や子育ての支援策として導入されている。ただ、日本は導入されていない。高齢化が進んでいる社会で保険料や年金が増えていく世の中で支給する財源の確保が難しいからではないかと考える。また、税額が控除されても生活保護受給率は下がらない、生活保護受給率と給付付き税額控除の二つのつながりは格差社会に影響しないのではないかと考える。

 

出典・参考

Wikipedia

授業板書

コトバンク

勉強会

 

 

 

 

 

山口将太

テーマ「日本型組織と法律」

 

キーワード:金本位制度と土地本位制度・プロジェクトファイナンスと背任・異次元金融緩和と日銀引受・マネーサプライと金利・賃金の伸びとGAFAMGoogleAmazonFacebookAppleMicrosoft)・年功序列社会と共犯理論・生活保護受給率と給付付き税額控除・不法原因給付と財産犯・公示の原則と背信的悪意・空き家問題と相続登記義務化

 

結論→日本版GAFAMを育てるため、銀行が企業に対しもっと融資しやすい環境・法律を作っていくことが必要であると考える。

 

1.年功序列社会と共犯理論

(1)年功序列社会

現在の日本型組織の特徴の一つとして、「年功序列」が挙げられる。この、「年功序列」とは、年齢や勤続年数に応じて、役職・賃金を上昇させる人事制度のことある。近年では、職務内容における職務給や職務遂行能力による職能給も増加している一方で、日本人には年功序列という考え方が根付いているということがわかる。

(2)プロジェクトファイナンスと背任

 プロジェクトファイナンスとは、特定事業に対して融資を行い、そこから生み出されるキャッシュフローを返済の原子とし、債権保全のための担保も対象事業の資産に限定する手法であり、つまり企画(プロジェクト)を担保として融資を行うということである。

 〈例題1〉仮に、銀行の支店長が自己の出世のためにあるプロジェクトに1億円の融資を行い、結果プロジェクトが失敗した場合にどのようになるのかを考える。この場合、背任罪(刑法247条)と横領罪(252条)という二つの意見に分かれることが考えられる。

 背任罪については、要件としては、「@他人のためにその事務を処理する者がA自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を与える目的(図利加害目的)でBその任務に背く行為(任務違背行為)をし、本人に財産上の加えた時(全体財産の減少)」(247条)となっている。例題では銀行の支店長が自己の出世のためにした行為であるため@・Aは満たしており、さらにプロジェクトに失敗し担保もないため1億円の損害を銀行に与えているため、Bも満たしているため、背任罪は成立すると考えられる。

 一方で、横領罪は「@自己の占有するA他人の物(個別財産)をB横領した者」(252条)となっており、銀行のお金は個別財産ではないという点から例題は横領罪にはならないことがわかる。

 また、背任罪と横領罪の区別としては、2つある。1つ目は、そもそも横領罪は「物」が対象とされているという点である。二重譲渡を行なった場合に横領罪になるのに対して、二重抵当を行なった場合に背任罪になることからもわかる。2つ目は、権限の逸脱(横領罪)か乱用(背任罪)かという、行為態様によってである。

(3)プロジェクトファイナンスと共犯

 〈例題2〉では、(2)の例題において支店長が、銀行の社長からの助言(日本型組織の特徴である「年功序列」という観点から、社長の助言は断ることはできない)により1億円を融資したという場合にはどうなるかを考える。これは、共犯についての問題である。

 共犯とは、複数人が同一の犯罪に関与することで、正犯である共同正犯(60条)・正犯と同一の刑を科される教唆(61条)・従犯であり正犯よりも減刑される(63条)幇助(62条)に分かれている。また、身分犯の共犯(65条)では、1項に真正身分犯について、2項には不真正身分犯について規定されている。真正身分犯とは、他人のものを占有する、若しくは他人の事務を処理する者が横領罪や背任罪を犯すことができ、反対にそうでない者(非身分犯)は横領や背任を犯せないという点からわかるように、その身分があることによって犯罪を構成するというものである。不真正身分犯とは、他人のものを占有する、若しくは他人の事務を処理する者という身分に加えて、さらに「業務上」、「取締役」などの身分がある場合に刑の軽重があるものである。

 例題2では、支店長は例題1と同じく当然に背任罪になると考えられ、社長については

教唆行為によって融資の実行を決意させていると考えられるので、背任の教唆になると考えられる。

(4)異次元金融緩和と日銀引受

 では、前内閣総理大臣である安倍晋三が打ち出した「アベノミクス」についてはどのように考えられるかについて考える。アベノミクスは簡潔にいうと国債の大量発行+日銀引き受けをすることで景気を上げようとする動きである。アベノミクスは、「異次元金融緩和」と言えると考えられ、「異次元金融緩和」とは、巨額の資金供給と超低金利を通じて経済に働きかけるものと定義されている。

 ここで、アベノミクスにおける国債の大量発行は、財政法5条の但し書きを利用し、原則禁止とされていることを例外的に行なっているとされている。しかし、例外を利用し過ぎているという考えから、安倍前首相は会社法960条における特別背任罪に当たるという考えを取ることもできる。また、黒田日銀総裁に関しても、安倍前首相と協力して行なっていることから、共犯であると考えられ、特別背任の正犯である安倍前首相に対して、黒田日銀総裁は特別背任の教唆にあたると考えられる。

アベノミクスに関して、マネーサプライと金利の変化について考えると、累積債務1200兆円、タンス預金などのマネタリーベースが600兆円、通常マネタリーベースの10倍ほどであるマネーサプライが2倍にも満たない1000兆円であり、日本の現在のGDP500兆円であることも踏まえると、普通はインフレになると考えられるが、なかなか景気は上がっていないことがわかる。また、金利に関しても、現在金利約0,01%と極限まで下がっている状況にも関わらず、景気は回復していない。

(5)金本位制度と土地本位制度

では、なぜ担保なしで融資することが難しいのかを考える。

現在日本では、融資する代わりに所有している土地に抵当権などをつけるという土地本位制が融資における原則となっている。一方で、金本位制とは、一国の貨幣価値を金に裏付けられた形で金額を表すものであり、金の裏付けが貨幣供給量の限界となるため、デフレ基調となる。

ここで問題となるのが、法定地上権(民法388条)と物上代位(304条)についてである。法定地上権とは、土地とその上の建物を同じ所有者が所有している場合に、競売等により土地と建物が別々の所有者に帰属することとなった際に、民法などの規定により建物のために地上権が自動的に発生することとされており、このように土地建物が強制的に分離処分される際に、法律の規定により建物のために発生する地上権のことである。つまり、土地とその上の建物の所有者が異なる場合にどのように対処するのかという問題もある。

物上代位とは、担保物権(抵当権など)の目的物が売却、賃貸、滅失、破損によって、その物の所有者が金銭その他の物を受ける請求権を取得した場合、その担保物権がこの請求権の上に効力を及ぼすことであり、代位物の範囲としては、売却代金・賃料・損害保険金・地代・補償金などが含まれる。ここでいう、担保物権は先取特権(304条)・質権(350条・

に対しては認められていない。

ここからもわかるように、日本の「貸した金は絶対返してもらう」というような背景が垣間見える。一方で、アメリカでは、冒険的貸付を行うことも珍しくなく、これがGAFAMの誕生の原因になっているとも考えられる。これからの日本が、アメリカや中国のような経済大国に負けないためにも、日本版GAFAMを育てていくことは重要である。この先、日本の賃金の伸びとGAFAMGoogleAmazonFacebookAppleMicrosoftの誕生させるためにも、冒険的な貸付・プロジェクトファイナンスを適法化していくことなど様々な対策をとっていかなければならない。

 

2、日本における財産犯

(1)不法原因給付と財産犯

 財産犯はいくつかの種類に分けることができる。分け方としては、@不法領得の意思があるか否かA@の意思があり、占有移転があるか否かBAがあり、処分行為があるか否かというものである。@について、意思がないものの例としては、器物損壊(刑法261条)が、Aについて、移転なしのものの例としては、横領(252条)・背任(247条)が、Bについて、処分行為のあるものの例としては、詐欺(246条)が、処分行為のないものの例としては、窃盗(235条)・強盗(236条)がある。

〈例題3〉A(女性)とB(男性)との間に愛人契約が成立しており、Bが購入した甲不動産をAが美容室として使用するために贈与したとする。しかし、その後AB間の関係が悪化したことにより、Bは甲不動産の登記を備えた上で、Aに対して甲不動産の返還請求に関して、提訴した。

 この場合、民法上は愛人契約自体が公序良俗違反(90条)であり、不法原因給付(708条)であるため、「不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない」とされているため、登記を備えていたとしても、Bは返還請求できないと考えられる。一方で、公序良俗違反(90条)の条文についてみると、「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」とあり、そもそもAB間の贈与契約自体無効であると考えられ、Bは取り戻すことができるという考え方もできる。

 刑法上は、刑法242条によると、自己の財物であっても、他人が占有している場合は他人の財物であるとみなされるので、不動産侵奪(235条の2)や公正証書原本不実記載等(157条)・私文書偽造(159条)などは認められず、ABともに無罪であると考えられる。

(2)公示の原則・公信の原則

 公示の原則とは、物権変動を第三者に対抗するには「公示」(外観表示)を備えなければならない、という原則であり、民法177条に不動産については「登記」が、178条に動産については「引渡し」が対抗要件にあたるとされている。この公示がなされていない場合、「第3者」に対抗することはできないとされている。

 一方で、公信の原則とは公示に公信力を付与し、公示された権利の外観を信じて取引に入った者は、たとえその外観通りの権利がなくても、法律上、その権利があったのと同様の保護を与えるべきであるというものであり、これは動産にのみ認められたもので、不動産には認められていない。

(3)公示の原則と背信的悪意

〈例題4〉BAに対して4000万円で売却した不動産をC2000万円で売却し、さらにCが善意の第三者であるD3000万円で転売した際、Aは登記を備えておらず、登記はDが備えていたという場合どうなるのかについて考える。

 この場合、民法上はCBからAへの売却価格の半額で購入していることは、この時点で背信的悪意者であると見ることができ、背信的悪意者と1対1の場合、背信的悪意者を177条でいう「第3者」とは認めず、Aが勝つことになるが、転得者がいた場合、そのものが善意であり、登記を備えていた場合、勝つことはできないとされている。

刑法上は、1の(2)で考えたように、二重譲渡に関しては横領罪が成立するため、BCが横領(252条)の共犯として刑に処されることとなる。

(4)空き家問題と相続登記義務化

 現在、空き家が増加していることも問題化されている。原因としては、大きく2つあり、1つ目は、高齢化社会が進む日本全体の問題で、団塊世代の相続が進み、空き家が急速に増加すること、2つ目は、空き家所有者自身が空き家の管理や活用について問題を抱えていることである。

 そもそも空き家には、「賃貸用の住宅」・「売却用の住宅」・「別荘などの二次的住宅」・「その他の住宅」の4種類が存在し、近年問題となっている空き家は、貸しにも売りにも出されておらず、長期にわたって不在の住宅である、「その他の住宅」である。「その他の住宅」が増加する原因としては、親が亡くなり相続で家を引き継いだ場合が多く、そのまま放置するため、登記も移されていないという不動産も多く存在している。

解体すれば良いという話ではあるが、解体しない理由として、解体費用がかかることに加えて、解体することで、固定資産税が最大で6倍になってしまうというリスクや都市計画税も最大3倍になるリスクもあり、放置しているというケースも多い。

 解決策としては、空き家対策特別措置法や相続登記義務化などさまざまな取り組みが行われている。また、解体費用を補助する制度などもあり、これらを活用し、リフォームし賃貸物件にすることなども収益化できる可能性もあり、これらのことをより広告することなども、空き家の減少につながっていくと考えられる。

 

3、生活保護受給率と給付付き税額控除

(1)生活保護受給率

現在日本の補足率は20%辺りを増減しており、米国・ドイツは60%、フランスは90%となっている。日本の補足率が低い原因として、申請が大変なことや生活保護などに対するスティグマ・水際作戦などが挙げられる。スティグマとは、生活保護のような公的扶助の受給者は,あたかも他の社会構成員から負の烙印を押されているかのように精神的負担を負うように、ある個人や集団に対して形成される負の烙印のことで、日本人特有の「恥の文化」という考え方もあり、生活保護受給率は低くなっている。

(2)所得税における所得控除と税額控除

 所得控除とは、一定の要件に当てはまる場合に所得の合計金額から一定の金額を差し引く制度のことで、{(収入–経費)–控除額}×税率で求められ、所得控除が大きければ大きいほど、納めるべき所得税額は低くなるというものである。

 一方で、税額控除とは(収入–経費)×税率–控除額で求められ、所得控除が控除額を引いた上で税率をかけるのに対して、税額控除は課税標準からそのまま控除額を引くので、その恩恵は大きくなる。ただし、税率が高い高所得者層にとっては、課税標準から最後に控除するよりも高い税率をかける前に控除する方が有利になる。すなわち、高所得者層は所得控除の方が有利となる。

 税額控除では、支払う税金を極限まで0に近づける、もしくは0にすることができる。しかし、0以下にすることはできない。つまり、税金を安くすることはできるが、マイナスにすることはできない。これを0未満にすべきというのが給付付き税額控除である。つまり、

課税額より控除額が大きいときは逆に税金を受け取れるというものである。これを行うことにより、弱者保護の社会に変化していくことも予想される。

 

4、まとめ

現在の日本型組織の特徴として、「年功序列」や「終身雇用」、「新卒一括採用」、「企業別労働組合」、「おみこし経営」などが挙げられる。このような日本型社会のメリットとして、政策の継続性や組織の一体感、人材育成などがある一方で、変化への対応の遅れや集団無責任、年長者の高コスト化、競争力の低下などのデメリットも存在している。

 日本のGDPや賃金が数十年間伸びてないことから、これから成長していくためには、変化していくことが求められると考える。デメリットの一つに変化の対応の遅れとあるように、日本は急変化することはなかなか難しいことであるとは思うが、少しずつでも日本人の意識を変えていくことがこれから先、日本の成長につながっていくと考える。

 

(参考文献)

・六法

Wikipedia

・授業板書

・勉強会

・三井住友銀行ホームページ

・毎日新聞

SUUMO住宅用語大辞典

・空き家・空地管理センターホームページ

 

 

 

丸山晃平

一部訂正がありましたので再び送らせていただきます。

よろしくお願いします。

 

日本型組織という古い考えに囚われてしまうと会社でも自分の意見が通せずより一層社会や経済発展の妨げになるので、新しい日本社会を作るには能力主義も評価されていくべきである。

1.不動産問題

1空家問題と相続登記義務化

現在、空家問題は重要な課題であり、政府は対策に本腰で取り組んでいると考えられる。主な問題点は少子高齢化・固定資産税対策・解体費用などが挙げられている。少子高齢化の影響で空き家が増えている理由としては、人口が減ると必然的に空き家が増加するからである。さらに高齢化という事も重なり、入院したりすることで持ち家に住まない人が増えているからである。固定資産税対策の理由としては固定資産税には、宅地に対する優遇措置がある。建物を解体して更地にするとその対象外となり、毎年の固定資産税や都市計画税が上がってしまうため、税負担を少なくしようと空家のまま放置する人も少なくないのである。解体費用の理由では、空家を所有しているが使用する目的がなく、取り壊したいものの、解体費用がなく解体へと進めないということである。平成27年には空家対策特別措置法が施行され以下の4点に該当する物件は特別空家に指定された。

・倒壊の危険性がある物件

・衛生環境が悪い物件

・管理が行き届いていない物件

・周辺からの苦情が多い物件

以上の特別空家に該当する場合固定資産税が6倍に跳ね上がる。その為、固定資産税対策に空家を所有する事は望ましくない状態となった。それだけではなく、行政が危険のある建物と判断した場合には、助言や指導を受ける。これを無視すると、次に期限付きの改善命令が出される。さらにそれでも改善が見られない場合に強制的に対処し解体することになってしまう。これを「行政代執行」という。その際に必要となった解体費用は所有者に請求される。

ここで問題となるのが行政が勝手に解体して費用を請求する事は横暴であるという考えもあるが私はそうは考えられない。なぜかというと、倒壊の危険がある場合には、行政は所有者に指導を行なった上で改善の傾向が見られなかったと判断した場合に解体を行うので問題はないと考えられる。憲法の観点から考えると、憲法252項の「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」としている為、公衆衛生を保つ上で行政の立場では当然の職務であるので勝手に解体しても所有者に請求しても問題ないと考えられる。

また、民法・不動産登記法の改正等についての要網案が決定し、2024年に施行され、相続登記義務化となる。今までは様々な事情により相続登記がされないことが多く法的にも相続登記が義務付けられているわけではなかったため被相続人の名義のまま放置されているケースが多くあった。義務化によってこの相続による所有権移転登記を義務化しようということである。これによって、相続を登記するメリットは相続を簡略化できるということである。

しかし、相続登記をしなかった場合に10万円以下の過料支払わなければならない点である。税金対策にはならない事などを国民に周知していくことで空家に対する意識が変わりより空き家が減っていくのではないだろうか。

そして、2023年には国庫帰属制度が施行されるがこの制度では空家問題は改善の見込みはあるだろう。この制度は所有者不明の土地を国庫に帰属ができるという制度の1つである。現在、所有者不明の空き家が多く存在しているのでこれを国庫帰属させるだけでもかなりの改善が見込めると考えられる。だが国庫帰属は審査が厳しい上に費用がかかってしまうので、補助金などの支援や緩和措置を取ることで国庫帰属に思い悩んでいた人も足を踏み出すことができる様になるだろう。

 

2金本位制度と土地本位制度

金本位制とは、金をお金の価値の基準とする制度である。政府の銀行が発行した紙幣と同額の金を保管しておき、いつでも金と紙幣を交換する制度で19世紀から20世紀のはじめにかけて世界各国で取り入れられていた。しかし、経済の仕組みが変わるにつれ、金本位制は次第に崩れ、1930年代には、ほとんどの国で廃止されていった。土地本意制度とは、1980年代後半、土地含み益を担保に信用が膨張していく状況が生まれた。これを金本位制とのアナロジーとして土地本位制という事がある。地下高騰の中で企業は膨大な土地の含み益を担保にして、企業設備の更新・拡充のほか不動産の購入、経営の多角化、海外の企業買収などのための資金を安く手に入れた。金融機関の側では、貸付審査において担保としての土地の重要性が著しく高くなり、土地がなければ信用を与えないという風潮が生まれたと言われた。土地を担保にするのではなく、プロジェクトから得られるキャッシュフローを返済原資とし、プロジェクトが保有する資産を担保とした資金調達方法である。次にプロジェクトファイナンスと背任で考える。

[例]

A社がプロジェクトをB銀行の行員に見せたところ行員はプロジェクト内容に賛同し、融資を行えば必ず成功すると確信したが、コロナの影響で倒産危機となってしまった場合にこの行員はどうなるのか。(上司に許可なく)

[私見]

今回の場合、行員は融資したらA社は必ず成功すると確信していた為、会社の利益となるだろうと考えていたことが理解できるので背任罪ではないと考えるのが妥当であろう。私は、業務上横領罪となると考える。なぜなら、この事件の場合だと会社のお金であり、上司に許可なく融資を行なったので自分の判断で財物を利用したので業務上横領罪が適用されると考える。

 

(3)建物明渡

[例]不法原因給付と財産犯

Aは、配偶者がいるにも関わらず、配偶者以外のBと不倫関係にあり、その関係を維持する目的で、A所有のBに贈与した。

甲建物が未登記建物である場合において、Aが甲建物をBに引き渡した時には、Aは、Bに対して甲建物の変換を請求することはできない。

また、不法な原因のために給付した者は、その給付したものの返還を請求する事ができない。これを不法原因給付という。

それに加えAが明渡を拒否した場合どうなるかを考えよう。

仮にAが明渡を拒否した場合には、私は財産犯となり、不動産侵奪罪の刑法2352項になると考える。だが侵奪に該当するには、新たな占有が必要である。だが、私は新たな占有は必要ないと思う。なぜかというと建物は既にBに贈与されている事で所有権はBに移り変わってしまっているので、Aが占有し続けることは不動産侵奪罪に該当するのではないかと考える。

4公示の原則と背信的悪意

[例]

Aが甲土地をBCに対して2重に譲渡した場合において、Bが所有権移転登記を備えない間にCが甲土地を善意のDに譲渡してDが所有権移転登記を備えたときは、Cがいわゆる背信的悪意者であってもBDに対して自らが所有者であることを主張できない。

配信的悪意者からの譲渡人であるD(転得者)も有効に権利を取得する事ができる。よって、その者自身が配信的悪意者でない限り民法第177条にいう第三者に該当する。つまり第三者と対抗する場合には不動産登記法における公示の原則で登記をしていないと対抗する事ができなくなってしまうのである。

 

2.給料が数十年上がっていない日本{賃金の伸びとGAFAMGoogle Amazon Facebook Apple Microsoft

1)日本は給料が30年以上伸びておらず、伸び悩んでしまっているのが現状である。そこで良く言われるのが日本もGAFAMのような企業を生み出さないと賃金が上がらないのではないかという事である。日本にもGAFA Mの様な企業が立ち上がれば雇用を生み出し、経済が活発化し日本の賃金が上がることも考えられる。ここで問題となるのがデジタル課税である。私は、デジタル課税を導入し今後立ち上がる日本国内の企業だけでなく、GAFAMからも徴収していくべきだと考える。それにより、デジタル庁の財源とし、より一層デジタルに力を入れていく事が可能となるであろう。

なぜ、デジタルに力を入れるべきなのかというと情報社会であることは当然であるが、新型コロナウイルス感染症の蔓延中にも関わらず日本型組織(例:年功序列・社会の雰囲気に合わせる・同調圧力・終身雇用・意思決定の遅さ)特有の古い考えである紙・ハンコ文化が問題となったからである。この問題は紙・ハンコ文化のデジタル化毛嫌いするという社会的な雰囲気が残っていたからであると考えられる。だが、政府によって時差通勤・テレワークの推奨を推奨された事で脱ハンコ(デジタル型ハンコ)が進み社会的にも新たな業務方式に変わってきている。多様な働き方が現在注目されているので良い傾向である。

2)貧困問題 生活保護受給率と給付付き税額控除

令和3年の生活保護受給率は1.63%となった。2010年の先進諸外国の生活保護利用率・捕捉率は以下の様になっている。

日本

ドイツ

フランス

イギリス

スウェーデン

12700万人

8177 万人

6503 万人

6200 万人

9415570

生活保護 利用者数

1998957

7935000

372 万人

5744640

422320

利用率

1.6%

9.7%

5.7%

9.27%

4.5%

捕捉率

15.3~18%

64.6%

91.6%

47~90%

82%

上記の図を見てわかるように日本の生活保護受給率の低さは先進諸外国と比べると極めて低い数字にとどまっている事がわかる。なぜ、日本だけが異常に受給率少ないのかというと水際作戦が原因であると考えられる。水際作戦とは、役所に申請に行ったにも関わらず相手にされず、門前払いされ申請することを拒否される事である。これによって救済対象である人でも拒否してしまっている事で生活保護受給率が低いと考えられる。それに加え日本型組織の特徴でもある恥の文化である事も関係しているだろう。恥の文化によって生活保護を受給することは恥ずかしいという社会的な雰囲気があることで受給に思いとどまってしまっているのが現状である。

だが、私はそうは思わない。生活保護は救済措置としての最後の砦であり、憲法25条によって保障されているので恥ずかしがらず受給する権利を有しているからである。

また、役所が受給を拒否することは【憲法25条2項の生存権】の侵害となり憲法違反となるので、受給対象者に対しての水際作戦を即時停止するべきだと考える。

そして、低所得者対策に給付付き税額控除を運用する考えも現在でている。私は給付付き税額控除には反対である。なぜかというと役所などにわざわざ申請しなければならなく、手間がかかる上に障碍者の方の申請が難しい事も考えられるからである。そこで、申請を省いて給付システムが可能となるのがベーシックインカムである。だがベーシックインカムを採用するにも所得などを把握する必要がある。そのために、マイナンバーカードと紐付ける事で手間を省きスムーズに給付することが可能となると思われる。

 

3.日本型組織の特徴である年功序列社会

1)この年功序列社会と共犯理論は囚人のジレンマであると考えられる。囚人のジレンマとは以下のことを指す。

・両方の囚人が共に黙秘を貫けば、証拠不十分なため2人とも懲役1年

・両方の囚人が共に自白すれば2人とも懲役5年

・片方の囚人が自白して片方の囚人が黙秘した場合、自白した囚人は司法取引により

釈放、黙秘した囚人は罪を一身に負わされ懲役10年

以上の囚人のジレンマを会社組織に当てはめて考えよう。「社員同士が共に協力して仕事をこなせば業務向上」「社員同士がお互い足を引っ張りあえば業務低迷」これが自然な流れである。では「片方の社員が足を引っ張れば」つまりこれらを囚人のジレンマでいえば2人の合計が10年と両者が自白した場合と同じであるから、お互い足を引っ張りあった場合と同様に業績低迷であると言える。

つまり、簡単にいえばお互いに協力し合えば業務が向上するという事である。これは業務だけではなく、出世も同じことが言える。私は、この囚人のジレンマが弊害となっていることが日本社会の経済が成長せず給料が伸び悩んでしまっていると考える。それは、企業が個人能力主義を取っていないことによって部下が良い提案をしても上司が気に入らないと案を出しても採用されない事である。この連鎖によってやる気を見出せず、仕事をしない上で高給取りの上司が増えてしまっていると考える。その為、これが日本型組織の欠点であると考える。

そして、中江教授が考えている様に、若者の人材育成が社会を変えていくという考えに私も賛同である。自分の考えに異を唱えられても自分の考えを曲げない事で貫き通すことで僅かながらだとは思うが小さな積み上げによって社会は徐々に変化していくであろう。

 

4.金融

1マネーサプライと金利

一国の経済全体の金利はお金に対する需要と供給で決まる。お金の需要とは、企業の投資など資金の必要性のことである。一方、お金の供給とは、貨幣供給量(マネーサプライ=市中に出回る資金の量)であり、日本銀行が金融政策によってコントロールしている。例えば、資金の必要性が2倍になった時にお金の供給量を2倍にすればお金の価値は変化せず、金利は一定に保てる。しかし、資金の必要性が2倍になったのにお金の供給量をそのままにしておくと、お金の価値は上がり金利が上昇する。逆に、資金の必要性が変わらないのにお金の量を増やしてしまうとお金の価値は下がり、金利が低下する。景気が低迷している場合には、お金の供給量を増やすことによって貨幣供給量を増やして金利を低下させ、企業が借り入れをしやすくすることで資金の流れをよくする。

2異次元金融緩和と日銀引受

国債を日銀引受で行わない理由は、財政法5条により原則禁止されている。これは、中央銀行がいったん国債の引受によって政府の資金供与を始めると、その国の政府の財政節度を失わせ、中央銀行通貨の増発に歯止めが掛からなくなり、悪性のインフレーションを起こす恐れがあるからである。ただし日本銀行は、金融調節の結果として保有している国債のうち、償還期限が到来したものについては、財政法5条但し書きの規定に基づいて、国会の議決を経た金額の範囲内に限って、国による借換えに応じている。安倍晋三前首相はデフレ脱却に向け掲げた経済政策をアベノミクス(3本の矢)という。第1の矢が大胆な金融政策、第2の矢が機動的な財政政策、第3の矢が民間投資を喚起する成長戦略である。金融政策である異次元金融緩和はデフレ脱却のために行ったものの、デフレ脱却まではいくことができなかったので政策的には失敗に終わったと考える。

それに加え、アベノミクスは全体的に考えても根本的な解決はしていないと考える。それは、誠意かつ保護の受給率をみてわかるように受給率がここずっと平行線を辿っており改善の兆しが見られていないことである。よって、アベノミクスの効果はあまり良くなかったと考える。

 

出典

https://o-uccino.com/front/articles/73573

https://sittoku-kai.com/a14.html?yclid=YSS.1001174061.EAIaIQobChMIlcjOw6Wx9QIVFq2WCh1BhwhzEAAYAiAAEgLIxPD_BwE

https://www.i-sozoku.com/navi/00287/#

https://blogos.com/article/300630/

https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/booklet/data/seikatuhogo_qa.pdf

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/hihogosya/m2021/dl/01-01.pdf

https://www2.nhk.or.jp/school/movie/clip.cgi?das_id=D0005402913_00000

https://kotobank.jp/word/土地本位制-159909

https://www.jsda.or.jp/gakusyu/edu/web_curriculum/images/mailmagazine/Vol.22_2017.0706.pdf

https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/op/f09.htm/

https://gyosyo.info/平成25年・2013|問34|民法/#kotae

https://www.foresight.jp/takken/column/believers/