柴田悠翔
日本のさらなる経済発展のためにも、現在の法律の仕組みについていま一度見直す必要がある
1.物権変動と第三者
物権に関する基本原則として公示の原則と公信の原則がある。共に物権について論じる上では欠かせない大原則である。以下では、この両原則と現行法の関係、物権変動や第三者問題との関係について論じていく。
(1)物権変動の範囲
物権変動は売買や取得時効などによって生ずるが、民法177条はいかなる物権変動の場合にも適用されるのだろうか。177条が適用されるべき物権変動の範囲について、判例はもともと制限説を採っていたがその後無制限説に変更され、いかなる権利変動の場合にも177条が適用されるとした。しかし、177条が適用される物権変動を一定の範囲に限定すべきとする見解も主張されており、現在の有力説は、対抗問題を生じる物権変動に限っては177条の適用があると解している。以下では、物権変動の前後でどのように処理が変わるかについて論じていく。
(@)取消と登記
AB間の土地の売買において、その契約締結時にBがAを欺罔し不当に安価で買い取った場合、Aは詐欺を理由としてその売買契約を取り消すことができる(民法96条1項)が、Aの取消と前後してBが第三者Cに土地を転売していた場合、AはCに土地の返還を請求できるか。
これについて判例は、Aの取消前にCが現れた場合には、民法96条3項によりCが善意無過失であれば保護するとしている。同条の趣旨は、取消の遡及効によってすでに利害関係を有しているCの利益が著しく害されてしまうのを保護することにある。また、Cを96条3項における第三者として認めるために登記は必要かという争いについて判例は、96条3項の文言通り善意無過失のみで足り、登記を要しないと解している。
これに対して、Aの取消後にCが現れた場合には、判例はBを起点としたAとCへの二重譲渡類似の関係があったものとみて177条を適用し、AC間の優劣を登記によって決するとしている。なお、ここではAとCの善意または悪意は問題とならない。
以上が判例の立場であるが、取り消し後の第三者に対して177条を適用することでCが悪意であっても保護されてしまうため、私はこれに反対である。そこで私は、取り消し後の第三者に対しては無権利の法理を用いて、Aの取消により遡及的に無権利者となったBがCと売買契約を締結したとしてもCは土地の所有権を取得できないとすべきであると考える。ただしCがB名義の土地をもってBを真の権利者と誤信した場合においては、民法94条2項を類推適用し善意の第三者Cを保護すればよいというのが私の見解である。
(A)解除と登記
民法では、債務不履行があった場合には契約を解消させることができる旨を定めている(540条以下)。また、その効果として原状回復義務を定めている(545条1項)が、その解釈については、解除によって契約は遡及的に無効になると判例は解している。この判例の解釈を踏まえたうえで、解除の前後でどのように処理が変わるだろうか。
これについて判例は、解除前に現れた第三者については、解除において「第三者の権利を害することはできない」とする545条1項ただし書きを適用し第三者の保護を図っている。この場合において、第三者は善意である必要はないが登記は必要であると判例は解している。
これに対して解除後に現れた第三者については、二重譲渡を構成するため177条を適用し登記の有無によって優劣を決するとしている。
以上が判例の立場であり、これに対抗する有力な学説としては、解除の効果を原状回復のための新たな物権変動の発生と解して、解除の前後を問わず復帰的物権変動があったとみて177条の適用により第三者の保護を図るという見解があるが、私は判例の立場に賛成である。解除前に現れた第三者について、第三者が善意か悪意かを問わないとしているものの、対抗要件として登記を必要としており解除者が権利を失うこととのバランスをとれているといえるため、第三者が善意であったことに限定する必要はないというのが私の見解である。
(B)相続と登記
所有権の移転は相続によっても生じる(民法896条)。以下では相続の中でも遺産分割に焦点を当てて論じていく。
被相続人Aには共同相続人BとCがおり、Aの遺産である土地を遺産分割によりBが単独相続することになった事例において、その遺産分割の前後に第三者Dが土地に関するCの持分権を差し押さえた場合、どのような処分になるだろうか。いわゆる遺産分割協議と第三者の問題である。
これについて判例は、遺産分割前にDが現れた場合には、遺産分割において「第三者の権利を害することはできない」とする民法909条ただし書きを適用し遺産分割の遡及効を制限することで第三者の保護を図っている。
これに対して遺産分割後にDが現れた場合において判例は、Bの法定相続分の範囲を超える部分、すなわちCの法定相続分については、遺産分割に基づいて相続による不動産物権のBへの承継があったとみることができるため、民法899条の2第1項が適用され、登記が対抗要件となると解している。この条文は2018年の民法改正により新設された条文である。
(C)時効と登記
不動産所有権を時効により取得するためには、所有の意思を持って平穏かつ公然に目的物を占有することが必要である(民法162条)。また、その占有期間については、占有開始時に占有者が自己に占有権限がないことにつき悪意あるいは善意有過失であった場合には20年(同条1項)、善意無過失であった場合には10年(同条2項)と定められている。このように取得時効制度は占有を基礎として成立するものであって、登記が成立要件とされているわけではない。
判例は、第三者の登場が時効完成の前後によって時効取得者と第三者の間の関係を異なるものとして取り扱っている。時効完成前に現れた第三者については、当事者間の関係であるとし、登記を要せずに第三者に対抗できるとしている。一方時効完成後に現れた第三者については、第三者関係であるとして177条の適用を認めて、登記が対抗要件になるとしている。
時効の起算点について判例は、時効取得者が占有を開始したまさにその時点で確定されるとしている。時効の起算点を逆算して定めることを認めないことで、時効完成と第三者の登場時期によって異なる処理を行うという判例の基本的な考え方を保っているのである。私もこうした判例の立場に賛成である。
(2)第三者の範囲
177条の第三者の範囲について判例は制限説を採っており、@当事者及びその包括承継人ではなく、かつ、A不動産に関する物権変動の登記がなされていないことを主張するにあたって正当な利益を有する者に制限している。この制限説を採用した場合にどのような基準で第三者を制限すればよいかについては、第三者が物権取得者か債権者といった具体的な立場について考える客観的範囲と、第三者が善意か悪意かに着目して考える主観的範囲に分けられる。
客観的範囲について、権利の取得原因に関しては制限がないため、相続や事項登記といった意思表示以外の原因に基づく取得であっても物権取得者であれば第三者に含まれる。なお、実質的無権利者や不法行為者、不法占有者は第三者に該当しない。
一方主観的範囲については、177条の文言上第三者の主観的要件に制限がないため、判例は原則として第三者が善意か悪意かを問わないとしている。しかし判例は、背信性を有する悪意の第三者は177条の第三者から排除するという理論構成を採用している(背信的悪意者排除論)。この背信的悪意者に関して問題となるのが転得者の問題である。背信的悪意者からさらに転得者が現れた場合において判例は、相対的構成を採用し背信的悪意者であるかを個別に判断し、転得者が背信的悪意者でない限りは第三者として認めるとしている。また、前述とは逆で善意者からさらに背信的悪意者が現れた場合においては、絶対的構成を採用し善意者を権利者として確定させるという見解が有力となっている。
第三者が善意か悪意かを問わないことを原則とした上で背信的悪意者については第三者から排除するという現在の主観的範囲の仕組みについて私は賛成である。悪意の第三者から除外すると取引が滞ることも懸念されるため、不動産取引における自由競争を妨げないという意味でも、単純悪意者を177条の第三者から除外する必要はないと私は考える。また、背信的悪意者であるかを判断する背信性の基準が明確でないことに関しても、公序良俗違反などの一般法理を前提としてきて行われてきたことや、背信的悪意者に該当しうる例をある程度類型化することが可能であることを考慮すれば、明確な基準が定められていなくても問題はないというのが私の見解である。
(3)公信の原則と民法94条2項
無権利者が他人の不動産を第三者に売却したといういわゆる無権限取引の問題において、無権利者と取引をした善意の第三者をどのように保護すればよいだろうか。無権利者から権利を取得することはできないため承継取得は不可能である。また、不動産登記には公信力が認められていないため原始取得することも不可能である。
このような場合において判例・通説は、虚偽の外観を作出した者は、その外観を信頼した第三者に対して外観に基づく責任を負うとする権利外観法理の観点から、民法94条2項を類推適用し第三者を保護するとしている。この94条2項の類推適用には、登記名義の作出に対して真の権利者が関与していたことを必要とする外形作出型や、真の所有者が不実の登記の存在を承認した場合には不実の登記を作出した場合と同様の帰責性があるとする外形承認型といった類型があるが、以下では外形余因型に焦点を当てて論じていく。
真の所有者Aが虚偽の外観を作出したわけではなく、かつ、その虚偽の外観を承認していたわけでもなかったが、Bに対して事前に実印や印鑑登録証明書、登記済証を交付し、Bが登記申請書に押捺する際にもなにも問いただすことなく漫然とこれを見ていただけで、外観作出の原因を与えてしまったという事例がある。この事例では真の所有者による意思的関与がないため94条2項の類推適用は及ばないようにも思える。
これについて判例は、Bが虚偽の外観を作出することができたのは、Aがあまりにも不注意な行為をしてしまったからであり、Aの帰責性の程度は自らが外観を作出したりその外観を承認したりした場合と同視できると解して、94条2項と110条を類推適用し、Cの善意無過失を要件としつつCを保護する可能性を認めた。
以上の判例の立場に私は賛成である。本判決は94条2項と110条の類推適用により第三者保護の範囲を拡大しており、かつ、Aの帰責性の程度とCの保護との釣り合いについて丁寧な検討がされているといえる。また、94条2項類推適用において、第三者の主観的要件に過失がないことを要求する見解もあるが、この見解に立てば、いずれの意見においても94条2項のみで解決することができ、同条の個性が希薄になってしまうともいえるため、無過失までは要求しなくてよいというのが私の見解である。
以上のように現行法は、公示の原則と背信的悪意者排除論により取引の安全の保護を、また、公信の原則と民法94条2項の類推適用によって第三者の保護を可能にしているのである。
2.遺産相続の可否
遺産相続は、私たちの人生の中で一度は経験するであろう出来事である。ただ、一概に遺産相続といってもその形態は多岐にわたり、そこに潜む問題も少なくない。以下では、遺産相続における問題点と判例の立場、それに対する私見について論じていく。
(1)相続させる旨の遺言と遺贈
相続させる旨の遺言と遺贈は、遺産相続においてどのような違いがあるだろうか。
まず両者は相続の対象となる者が異なる。相続させる旨の遺言は相続行為であるためその対象は法定相続人に限られるのに対して、遺贈は被相続人が遺言によって指定した者であれば誰でも受遺者になれるため、遺贈のほうがより広い範囲をその対象としている。
また、両者は行為の形態も異なる。遺贈は相手方のない単独行為に過ぎないため遺産分割協議が必要となる場合が多いが、相続させる旨の遺言は事実行為であり、遺産分割協議を要しない。
さらに判例では、特段の事情がない限りは相続させる旨の遺言と遺贈を異なるものとして解すべきとしており、相続させる旨の遺言は原則として遺産分割方法の指定(民法908条)と解されるとしている。
また、登記の問題においては、どちらも第三者への対抗要件として登記を必要とすると判例は解しているが、相続させる旨の遺言については以前の判例は登記を要しないとしていた。しかし、前述の民法899条の2が新設されたことにより、取得分が法定相続分を超えている以上、第三者に対抗するためには登記が必要となるとした。
これらを踏まえた上である事例について検討してみることにする。父とその子どもに2人の兄弟がおり、ある時父が亡くなった。父は生前に@遺贈、A相続させる旨の遺言によって不動産相続分のすべてを兄に相続することを決定しており、弟もそれに同意していたとする。そして、父の死後遺産相続を行おうとしていたところに登記を所有する債権者が現れ、債務者であった弟の相続分について差押えをしてきた場合、兄は@遺贈、もしくはA相続させる旨の遺言を理由にこの差押えを止めることができるだろうか。これについて、@はできない、Aはできるというのが私の考えである。
まず@について、父の死亡により遺言の効果が発生し、不動産の所有権は父から直接兄に移転する(民法985条1項)が、この不動産の登記を所有する債権者が現れた場合、兄と債権者は対抗関係にあると評価できるため登記を所有している債権者が兄に優先すると考える。
次にAについて、相続させる旨の遺言においては特定の行為を要することなく父の死亡と同時に不動産の所有権が兄に移転するため、登記を有していたとしても債権者の優位性はないと考える。以上が本事例に対する私の見解である。
(2)相続放棄・相続欠格・廃除と代襲相続
民法は、被相続人の子が相続開始以前やその他の原因によって相続権を失った場合において、その者の子が代襲相続することを規定している(887条2項)。以下ではある事例を挙げ、それぞれの場合における代襲相続の可否について検討していく。
Aが@親を殺そうとした、A親に対してひどい侮辱をした、B相続放棄をした、それぞれの結果相続権を失った場合、Aの子どもであるBはこれを代襲相続できるだろうか。
@は相続の欠格(民法891条)、Aは相続の廃除(同892条)に当たる問題である。これに対し前述の民法887条2項は、相続の欠格や廃除によって相続権を失った者の子は代襲相続が可能であることを明文で規定しているため@、Aの場合はともに代襲相続できる。
ではB相続放棄をした場合はどうなるだろうか。民法は、相続放棄をした者は、その相続において初めから相続人とならなかったものとみなすことを規定している(939条)。「初めから」という文言があるようにこの条文は遡及効を有しており、さらに「みなす」という文言があるため反証で覆ることもない。そのため現行法上は代襲相続できないという結論になるが、私はこの結論に反対である。
反対する理由としては939条の効力が強すぎることが挙げられる。確かに相続放棄は遺産分割と異なり、相続人になったことを知った時から3ヶ月という期間制限があり、第三者が利害関係を有する蓋然性が低いことから第三者を保護する必要性は低いと考えられるが、現行法では反証で覆ることもないため第三者の保護が疎かになりすぎているように感じる。これは第三者との対抗問題においてもいえることで、909条で第三者の権利を害することはできないと規定しているにもかかわらず939条がこれに優先されるのは、平衡性に欠けるのではないかと私は考える。
以上の問題を解決するために、939条の文言を「みなす」から「推定する」に変更することで反証によって覆ることを認めるようにするか、あるいは特段の事情において相続放棄の遡及効を制限する旨の新たな規定を設けるべきだと私は考える。
3.土地問題と登記
わが国は世界的にみても豊かな資源と土地を有している国であるが、土地に関しても様々な問題を抱えている。以下ではその問題点と解決策について検討していく。
(1)空家問題と相続登記義務化
これまで相続登記は当事者の任意に任せられていたため、名義変更しないまま長年放置されている土地が増えて問題となっていた。いわゆる空家問題である。所有者不明の土地の増加により、国や自治体、また民間人としても土地利用ができないという問題が生じていた。
こうした問題を受けて議会では、2021年4月に相続登記を義務化する改正法案が可決され、2024年を目途に施行されることとなった。改正法が施行されると3年以内の相続登記が義務化され、期限内に相続登記をしなかった者には罰則として10万円以下の過料が科せられることになる。この改正法により空家問題の解消に期待が高まるようにも感じられるが、私はこの改正法自体にはそこまで目立った効果はないのではないかと踏んでいる。その理由には固定資産税・相続税と更地価格が関係している。
土地を保有・維持する際には固定資産税や都市計画税といった税金がかかるが、現在の日本の法律の仕組み上更地は税金の減額が行われないため、家の建っている土地と更地では更地の方がより高い税負担となる。そのため更地にせずにあえて空家状態で放置することで高い税負担を逃れようとする人が増加し、結果的に空家問題を加速させているのである。
また、空家を相続する際に高い相続税がかかることも空家問題を加速させている一因であるといえる。空家は通常の人が住んでいる家を相続する場合と比べて相続税が割高となるため誰も相続したがらず、結果所有者不明の土地が増加しているのである。
ではこのような現状を打開するためにはどうすればよいか。これについて私は、空家における固定資産税や相続税の引き下げをすべきだと考える。空家が増加傾向にある原因は、空家として放置していた方が得であるという現状にあると考えられる。そのため、相続登記義務化の法改正と併せて、空家を放置するより更地にしたり手放したりした方が得であるという状況を作っていくことが重要である。また、これに並行して土地や空家の有効利用を促すような仕組みも整備していく必要があるというのが私の見解である。
(2)登記申請の添付書面と共同申請主義
権利に関する登記の申請は当事者である登記権利者と登記義務者が共同で申請しなければならない(不動産登記法60条)が、相続に基づく登記の場合には被相続人が既に死亡しているために共同申請することはできず(同条2項)、単独申請が認められている。
では、遺贈登記はここでいう相続に基づく登記に当てはまるだろうか。これについては、遺贈はあくまでも贈与の一種であるため、受遺者が法定相続人でない限り遺贈はここでいう相続には含まれないとするのが通説である。
遺贈登記は、受遺者と遺言執行者または相続人全員によって共同申請する。遺言で遺言執行者が指定されている場合は遺言執行者が遺贈義務者となるが、遺言執行者がいない場合は相続人が遺贈義務者となる。つまり、遺言執行者がいない場合遺贈登記の申請に相続人全員の協力が必要になるというのが現在の法律の仕組みである。
ただ、私はこの仕組みに反対である。受遺者が法定相続人でない場合の遺贈は、受遺者が相続することによって法定相続人の相続分が減少するため法定相続人にとっては納得のいかない遺贈となることも少なくないはずである。そのような場合に法定相続人の中の1人でも登記の申請に協力しないものが現れれば、登記の申請ができず手続きが滞ってしまう。
これについて私は、登記申請に必要な相続人の人数を全員から過半数に変更して手続きを円滑に進められるようにすべきだと考える。
また、登記申請の際には申請書に必要書類を添付して法務局に申請する必要があるが、この手続きが非常に繁雑なものとなっている。これは前述の空家問題にも絡んでくるもので、空家を相続しようとする際には相続登記が必要になるが、その手続きが繁雑であるが故に相続を後回しにし、結果放置されるという事例も少なくない。
このような問題に対して私は、空家の相続における特別法を新設し、空家における相続登記の手続きを従来のものよりも簡易的なものにする旨の条文を定めて空家の相続が積極的に行われるような仕組みを作る必要があると考える。
4.今後の経済発展に向けて(まとめ)
法律と経済発展は決して無関係ではないと私は考えている。前述の空家問題などはまさに経済発展を妨げる原因となっていると言っても過言ではない。今後さらなる経済発展をし、若者が未来に希望を見いだせるような社会を作るためにも、現在の法律の仕組みについていま一度見直す必要があると私は考える。
参考文献
物権法[第2版] 日評ベーシック・シリーズ
https://orange.suzukikenji.com/2015/03/06/post-1637/
https://souzoku.asahi.com/article/14236129
https://www.souzoku-koshigaya.net/qa/post_110.html
https://green-osaka.com/online/inheritance-registration-obligatory
Windows の メール から送信
鈴木里奈
相続法の講義にてお世話になっております。帝京大学法学部法律学科、学籍番号20J116026の鈴木里奈と申します。
本メールにて、相続法のレポートを提出いたします。ご確認よろしくお願いいたします。
テーマ:相続と登記
結論:相続法と不動産登記法または登記そのものにより現代日本の相続は形作られており、日本の現状に基づいて法改正もされている。
1.相続と基本原則
まず民法176条には、物権変動が特段の意思表示がない限り、当事者の意思表示によってのみ生じる旨である、意思主義についての規定がある。そこで、物権変動の外形を明確にするための相続の基本的原則として、公示の原則が存在する。これは、物権変動を第三者に対抗するためには、登記や引渡しなどの公示が必要となることをいう。民法177条には不動産に関する登記、民法178条には動産に関する引渡しについて定められている。民法177条にある「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」のうち「第三者」の解釈について、背信的悪意者を含めるのか否かという論点がある。背信的悪意者とは、単なる悪意を超え、登記がないことを利用して他者を害する目的として物件を取得する等、自由競争の範囲を逸脱するような者を指す。単なる悪意者は、自由競争の範囲内として認められるので、民法民第三者に含まれる一方、背信的悪意者は、登記の主張をすることが信義則違反であると考えられるため、「第三者」に含まれないと解される。これを背信的悪意者排除論といい、判例は、背信的悪意を持つ者に対しては登記なしに物権の取得を対抗できるとした。したがって、背信的悪意者排除論は、公示の原則の特別な例外という関係にあるといえる。一方で、民法第177条の「第三者」にあたる者から不動産を譲り受けたものが背信的悪意者であった場合、背信的悪意者は民法177条の「第三者」の地位を継承していると考えられる。
また、公信の原則も存在する。これは、権利の外形を信頼し取引した者を保護する原則である。第一に動産においては、占有という形で所有権の外見を捉えることができるので、第三者が占有者に対して所有権があると信頼して取引を行った場合は、原則として所有権を取得することができる。しかし不動産においては、外形は登記となっているが、登記名義人が所有権を有しないとき、登記を信頼して取引を行った者は、所有権を取得することはできない。つまり公信の原則は、不動産には及ばないとされている。不動産について、公信の原則に代わる保護規定として、民法94条2項類推適用が考えられる。民法94条には、1項に「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。」、2項に「前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」とある。民法94条2項類推適用とは、真実の所有者が他人名義の登記を放置し、明示又は黙示にその状態を承認していたときは、この名義を信頼して不動産を買い受けた者に対して、所有者は所有権を主張することができないと解している。つまり、公信の原則と民法94条2項類推適用は、権利の外形を信頼し取引した者を保護するという点で共通しているが、前者の公信の原則は動産に、後者の民法94条2項類推適用は不動産に用いられるという点で異なる。
2.登記と効果
まず登記と時効の関係として、時効取得というものがある。時効取得については民法162条に定められており、「所有の意思をもって、他人の物を平穏かつ公然に一定期間継続して占有した場合、当該物の所有権を取得すること」をいう。占有者が時効により不動産の所有権を取得すると、真実の所有者はその所有権を失うこととなる。取得時効が認められるための要件は、全部で三つある。第一に「所有の意思があること」が挙げられる。所有の意思とは、所有者として物を排他的に支配しようとする意思のことで、所有の意思があるか否かは、占有取得の原因である事実によって外形的・客観的に判断される。第二に「平穏かつ公然と占有したこと」が挙げられる。平穏とは、占有するために暴行や脅迫が用いられていないことであり、甲前途は、占有している旨を公表していることをいう。両者を満たしている必要があるとされている。第三に「一定期間占有したこと」がある。占有の期間については、善意無過失の場合は10年、それ以外の場合は20年とされている。以上三点の要件を満たした上で、時効により所有権を取得するためには、民法145条に定められている時効を援用することが求められる。時効の援用とは、時効による利益を受ける旨の意思表示をすることである。基本的に所有権移転登記をする場合は、現名義人と新名義人の両者で共同して手続きを行う必要がある。これを共同申請主義という。一方で実例としては、時効取得の場合は裁判にて時効取得や登記手続きが認められるケースが多く、このとき法務局の登記申請には、判決書や確定証明書などの添付書類が必要となる。
さらに登記と取消の関係として、抹消登記が挙げられる。抹消登記の対象は、抵当権などの担保権や、地上権などの用益兼のほか、所有権を含めたすべての権利となっている。抹消登記の原因としては、年月日取消・解除・権利の放棄等がある。基本的に、登記義務者と登記権利者との共同申請によって行われるとされている。例えば、登記に関する判例には、抵当権の被担保債権が弁済などにより消滅した場合、付従性により抵当権も自然に消滅するので、その抹消登記をしなくても第三者に対抗することができるとするものがある。また、詐欺や錯誤による取消前の第三者は、善意無過失であれば保護される。つまり所有権を主張できるとする一方で、詐欺や錯誤による取消後に第三者が現れた場合は、先に登記を備えた方が保護されると解されている。
3.相続法と法定相続人
被相続人が他者に相続させる旨の意思表示の方法として、相続させる旨の遺言と相続させる旨の遺贈が存在する。まず、相続させる旨の遺言とは、共同相続人のうちのある特定の相続人に対し、相続財産を「相続させる」とする内容の遺言のことであり、相続させる財産は特定の財産を指す場合や全ての財産を指す場合など様々だが、前者が基本であると考えられている。この特定の財産を相続させる旨の遺言は「特定財産継承遺言」と呼ばれている。この特定財産継承遺言は、遺贈であるといえるような特段の事情がない限り、原則として遺産分割方法の指定である。しかし相続人の間でこの遺言と異なる遺産分割をすることはできず、遺言の効力発生時に、対象となる遺産が特定の相続人に継承されると解されている。ただし、特定財産継承遺言において、対象となる相続人以外の相続人の遺留分を侵害している場合、遺留分侵害額が請求される。また、民法899条の2によると、特定財産継承遺言によって財産を取得した相続人であっても、法定相続分を超える部分を継承したときは、その法定相続分を超える部分については、登記等の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することはできないとされている。一方、すべての相続財産を特定の人物に相続させる旨の遺言についても、包括遺贈でなく遺産分割方法の指定である。
相続させる旨の遺言について、その効力として、相続分の指定等を自由に決定することができる。例えば、被相続人に妻1人と子2人がいた場合、法定相続分は、妻が2分の1、子はそれぞれ4分の1ずつである。一方で、これと異なる相続分が遺言に存在した場合は、その遺言の相続分に基づいて遺産の取り分が決定される。しかし、遺言書は遺留分を侵害することができないとも解されている。民法1406条には「遺留分権利者及びその継承人は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる」とある。
次いで相続させる旨の遺贈について、遺言と大きく異なるのは、財産を譲る相手に制限がないという点である。また遺贈の場合は、遺言は指定された相続人が単独で所有権移転の登記申請ができるのに対し(4.にて後述)、受遺者は他の法定相続人全員と共同で所有権移転の登記申請を行う必要がある。さらに対象財産が農地である場合には、包括遺贈でない限り、農地法による農業委員会又は知事の許可が必要となる。また、借地権と借家権の場合、遺言においては賃貸人の承諾が不要なのに対し、遺贈は賃貸人の承諾が必要である。つまり、相続させる旨の遺言と相続させる旨の遺贈の間には、相続人を指定できたり相続分を決定できたりするなど、財産を相続させることができるという共通点がある一方、相続人に関する制限や許可の必要性の点で異なる部分もある。
他方で、法定相続分や遺言と異なる相続分を決める手段として、遺産分割協議が挙げられる。相続人全員が同意した場合、遺産の割合を話し合いそれぞれの相続分を決めることが出来る。また、遺産分割協議において相続分が決まった場合には、遺産分割協議書を作成しておく必要がある。一方もし遺産分割協議において話し合いがまとまらなかった場合は、家庭裁判所での調停や審判の手続きによることとなる。そして、遺産分割協議によって、相続財産である不動産を相続した者は、その旨の相続登記をしなければ、第三者に対抗することはできないと解されている。この遺産分割協議による相続と第三者の関係性においても、上記の民法899条の2が適用されると考えられる。
反対に、相続ができなかったり相続を放棄したりする可能性も考えられる。まず相続放棄とは、その名の通り相続を放棄することである。例えば被相続人に借金等の債務があった場合に、相続放棄という手段がとられる場合がある。相続放棄をするためには、相続開始を知ってから3ヶ月以内に、家庭裁判所へ相続放棄申述書を提出しなければならない。この期間を過ぎると単純承認したこととなり、相続放棄は認められない。次いで相続欠格とは、特定の相続人が民法891条の相続欠格事由に当てはまる場合に相続権を失わせる制度である。民法891条おける相続欠格事由について、大きく5つ定められており、第一に、故意に被相続人や相続の先順位・同順位の者を死亡に至らしめた若しくは至らしめようとし刑に処された者、第二に被相続人が殺害されたことにおいて、これを告発・告訴しなかった者、第三に、詐欺又は強迫によって、被相続人が遺言をし撤回・取消・変更することを妨げた者、第四に詐欺又は強迫によって、被相続人に遺言をさせ、撤回・取消・変更させた者、第五に遺言を偽造・変造・破棄・隠匿した者が挙げられている。以上に当てはまる場合、その相続人は相続権を失い、また遺贈も受け取ることができないとされている。次いで推定相続人の廃除という方法もある。これは、相続人に著しい非行がある等の場合において、被相続人が家庭裁判所に請求して、相続人から相続資格を奪うことをいう。推定相続人廃除制度と呼ばれ、被相続人の意思によって相続する資格を奪えることとなる。推定相続人の廃除事由について、民法892条には「被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったとき」との規定がある。
上記の相続放棄・相続欠格・廃除について、それぞれの場合に代襲相続ができるのかという問題が生じる。まず相続放棄をした場合は、代襲相続はできないとされている。そのためもし相続放棄がされた場合は、相続権は次順位の相続人に移る。一方で相続欠格と推定相続人の廃除に関しては、代襲相続は可能である。根拠は、欠格事由に該当するのも推定相続人の廃除により廃除されるのも本人のみであり、それは子にまでは及ばないと解されているからである。
4.現代日本における相続についての諸問題と法改正
現代の日本において、更地価格と建物が建っている土地価格にかかる固定資産税・相続税を比較すると、まず固定資産税に関しては、前者の更地の方が高額になるというのが現状である。更地は、固定資産税評価額の70%が課税標準額であり、その課税標準額の1.4%が固定資産税額となる。一方で、土地に住宅を建てると「住宅用地」となるため、固定資産税が下がる。住宅用地の固定資産税には、住宅用地の軽減措置という固定資産税を低くする制度が設けられている。小規模住宅用地の課税標準額は、固定資産税評価額の6分の1であり、一般住宅用地の課税標準額は、固定資産税評価額の3分の1である。一般的に空き家を壊すと固定資産税額は3〜4倍に跳ね上がるともいわれている。また、相続税においても更地の方が高額になる。更地の土地の評価額は、土地の路線価に面積を乗算して算出される。一方で建物を建てた場合、相続税評価額は路線価に面積を乗じたものの評価額より21%減額されることとなる。さらに、更地に建物を建てようとすると、建物の相続税評価額は固定資産税評価額と同等であり、固定資産税評価額は建築にかかった金額の50%となる。したがって、固定資産税・相続税において、更地のままにしておくよりも建物が建っていた方が、税額がより低くなるため、現在の日本では空屋問題が生まれてしまう。
この空屋問題の対策として、相続登記義務化が決定した。そもそも空屋が存在してしまう問題として、前述のとおり固定資産税・相続税の問題も挙げられるが、空屋の登記名義人が定まっていなかったり長年放置されたりしていることが原因として考えられる。相続登記義務化が決定したことにより、土地所有者が亡くなった際にその相続人は、相続を知ってから3年以内に相続登記することが必要となる。正当な理由なく相続登記をしなかった場合は、10万円以下の過料が科される。相続登記義務化は令和6年4月1日に施行される。また、施行日前に相続の開始があった場合にも適用される遡及適用である。
また、不動産登記制度の見直しとして、登記において共同申請主義を原則としているのに対し、登記申請の添付書面によっては、単独で申請ができたり、書面申請において出頭せずオンライン申請ができたりするような不動産登記法の改正を行った。改正により単独申請ができるようになったのは、相続人に対する遺贈の登記である。ただし、この遺贈は相続人への遺贈に限るとされている。また、単独申請ができるその他の例として、判決による登記等も挙げられている。さらに上記の「特定財産継承遺言」も、2019年の民法改正により存在しているものである。
5.小括と自分の考え・感想
相続と相続登記は、切っても切り離せない関係である。第三者への対抗要件として登記が必要不可欠であり、これは相続においてもその他民法上の関係性においても同様であった。主に現代日本の空屋問題についてフォーカスすると、講義を受けるまでは建物が建っている土地の方が更地よりも税金がかかるのではないかと考えていた。建物と土地双方を所有しているようなイメージだったため、より多くの物を持っていた方が税額は高くなりそうだったからである。しかし租税法や本講義である相続法を学び、国民がより相続をしやすいように法改正をしたり、できるだけ国民の負担が少なくなるような制度を設けたりしていることを実感した。
また、相続放棄と代襲相続の関係について、相続放棄においては代襲相続ができないのが自分の考えとは異なっていた。相続欠格や廃除に関して代襲相続ができるという根拠については納得できたが、相続放棄において代襲相続ができない理由が分からなかったので、自分なりに考えてみた。すると、実際に相続放棄をするケースとしては被相続人が借金等の債務を抱えている場面が多く、相続放棄をすることで相続人の配偶者や子に借金までをも相続させないようにするためなのだと分かった。さらに遺産分割協議などの制度を設けることにより、相続人に相続に関する意思決定をできるようにしていて、国民により寄り添えている仕組みになっているのだと実感した。
後期を通して相続法を学び、様々な詳しい事例や判例に基づいて自分なりに考えることで、より理解が深まった。「自分の思考」を持つことの大切さを実感したので、これからも多様なケースにおいて自分の考えを取り入れることを忘れないようにしたい。そして本講義で学べた知識は今後役に立つので、何か試験を受けてみたり資格を取ってみたりできたら良いと思う。
6.参考文献
・内田貴(2002)「民法W〔補訂版〕親族・相続」東京大学出版会
・山野目章(2018)「民法概論1-民法総則-」有斐閣
・総務省ホームページ(https://www.soumu.go.jp/menu_sosiki/index.html)
・国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/)
・政府広報オンライン(https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201809/1.html)
以上
貞苅陽大
中江章浩先生
相続法を受講している、20J103023、貞苅陽大です。
期末課題であるレポート試験を提出させていただきますのでよろしくお願いします。
法学部法律学科二年、20J103023、貞苅陽大
テーマ「相続と登記」
結論:相続と登記の重要性について考え、現状の問題について考えていく。
1.相続とは何か
相続とは、相続開始の日から亡くなった人(被相続人)が所有していた財産及び一切の権利義務を受け継ぐことである。また、受け継ぐことができるのは配偶者や子供など被相続人と一定の身分関係にある人(法定相続人)に限られている。
相続をする際に被相続人からの相続させる旨の遺言には遺贈と相続の二種類が存在する。遺贈とは遺言による財産の無償譲渡のことを指す(民法964条)。遺贈するという遺言を行った者を遺贈者といい、遺贈によって利益を受ける者を受遺者と呼ぶ。上記のように相続は法定相続人のみにしか行うことが出来ない。一方で、遺贈と呼ばれるものは法定相続人以外の人も対象とすることが出来るのが大きな違いである。
しかしながら法定相続人であるからといって必ずしも相続できるとは限らず、相続放棄、相続欠格、相続排除のような場合は相続人から外れることとなる。
一つ目の相続放棄とは、相続開始のときからではなく相続の開始を知った日から3ヶ月以内に、家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出することで可能となる。また、相続人が相続財産を隠したり、使ったりした場合はたとえ3か月以内であっても、単純承認をしたものとみなされ、相続放棄をすることは出来なくなる。尚、一度相続放棄すると、たとえ3か月以内であっても、撤回したり取消したりすることは不可能となる。加えて相続放棄の場合は代襲相続を行うことはできないとされている。
二つ目は相続欠格である。これは、いずれも相続人にふさわしくないと判断され、法定相続人の立場や権利行使を強制的に奪う制度のことを指す。主に相続欠格に該当する事由には以下の5つが挙げられる(民法891条)。
1.故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者。
2.被相続人が殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただしその者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
3.詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者。
4.詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者。
5.相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者。
該当した場合は、相続はもとより、遺贈も受け取ることが出来ないとされている。しかし、代襲相続は可能とされている。
最後の相続排除とは、相続欠格と同じような制度のことである。しかし、相続欠格とはことなる排除事由が存在する。廃除事由には、「虐待」「重大な侮辱」「著しい非行」の3つが挙げられる(民法892条)。
1.「虐待」とは、被相続人に対する暴力や耐え難い精神的苦痛を与えること。
2.「重大な侮辱」とは、被相続人の名誉や感情を著しく害すること。
3.「著しい非行」とは、虐待・重大な侮辱という行為には該当しないものの、それに類する推定相続人の遺留分を否定することが正当といえる程度の非行を指す。
これらに該当する者は生前であれば、相続人廃除が家庭裁判所の審判手続きで確定したとき、相続人資格喪失の効果が発生する。一方、遺言で相続人の廃除の意思表示をした場合には、家庭裁判所の審判が確定した時点で、相続開始時にさかのぼって相続人の資格を失うこととなる。また、相続排除も相続欠格同様に代襲相続を行うことは可能とされている。
2.登記とは何か
登記及び登記制度とは、重要な権利や義務などを社会に向けて公示し、それらを保護した上で取引を円滑にするために定められている法制度の一つである。登記制度に従って登記をすることにより、第三者に対して権利を主張したり、社会からの信用を得たりすることができるようになる。
登記には公示の原則と公信の原則と呼ばれるものが適用される。日本の民法は意思主義を採用しているため、当事者の意思表示(合意)によって物権変動は生じる。この意思によって生じた目に見えない物権変動について、外界から認識できるように方法で公示をしなければならないという考え方を公示の原則という。主な公示方法は、不動産の物権変動があったことを公示するには登記を、動産の物権変動があったことを公示するには引渡しをすればよいとされる。
加えて民法177条では、「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない」と規定している。また上記の第三者に対抗する為に登記が必要なものとして法律行為の取消(民法121条)・解除(同法545条)、特定遺贈(同法985条)、遺産分割[遺産分割協議](同法909条)、時効取得(同法162条)などが挙げられる。しかしこの第三者に背信的悪意者は該当しないとされている。背信的悪意者とは判例上、「実体上物権変動があった事実を知りながら当該不動産について利害関係を持つに至ったものにおいて、その物権変動についての登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情がある者」(最判昭和44年1月16日)を指すとされている。
もう一つの公信の原則とは、登記や引渡しなどの公示は第三者に対して物権の状態を示すものである。その際第三者は公示どおりの物権変動があったのだろうと期待する。こういった第三者の公示への期待・信頼を保護するため、たとえ公示が実際の権利状態と異なる場合でも、公示どおりの物権変動があったこととする考え方を公信の原則という。公信の原則が適用されるような公示には「公信力がある」とも言われる。動産の物権変動における引渡しには公信力が存在し、民法192条の即時取得(善意取得)制度がそれに該当する反面、この公信力は不動産の物権変動における登記には発生しない。したがって、虚実の登記を信頼した者は原則的には保護されないことになる。ただし、第三者が善意(無過失)で虚偽の登記を信頼した場合は、通謀虚偽表示に関する民法94条2項を類推適用して保護される可能性が存在するとされている。
登記には共同申請主義と呼ばれるものが存在する。これは不動産登記法60条や特許登録令18条から、「権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない(不動産登記法60条)」、「登録は、法令に別段の定めがある場合を除き、登録権力者及び登録義務者が申請しなければならない(特許登録令18条)」と定められており、これらを合わせて採用しているものが共同申請主義と呼ばれるものである。これらは例外を除き必ず守らなくてはいけない原則とされている。
これらに加え、相続登記の際には相続登記申請書というものを管轄の法務局に対して提出することとなっている。この相続登記申請の添付書面には必ず「登記原因証明情報、住所証明情報、代理権限証明情報」を記載しなくてはならない。その他色々な場面ごとに必要なものが異なるものの、相続登記の際には上記の三つの情報を必ず記載しなくてはならないとされている。
3.相続に起こっている問題
現在日本では空家の数が増え続けていることが問題となっている。空家が問題視される1つ目の理由は、空家が増えているということにある。2013年の総務省調査によると全国の空き家数は約820万戸、全住宅の7戸に1戸が空き家という状況になっている。これが2033年頃には空き家数2150万戸、なんと全住宅の3戸に1戸が空き家になってしまうという民間予測となっている。これらの空家が発生する最も一般的な原因は、自宅を所有する高齢者が老人ホームなどの高齢者住宅や子供宅などに転居することが挙げられる。
これらを解決すべく不動産登記法が改正され今後、相続登記の義務化及び住所や氏名が変った場合の申請登記も義務化されることとなった。相続登記の義務化は、法改正以前に相続したものの、登記していない物件にも適用される。その場合の相続登記の期限は、相続によって不動産の取得を初めて知った日あるいは改正法の施行日のいずれか遅い日から3年以内となる。相続登記の義務化関係の改正は公布後3年以内の政令で定める日が施行日となるので、不動産の取得を知っていた場合には、施行日から3年以内に相続登記する義務が生じることとなる。また、転居や結婚等で住所や氏名が変った場合の申請登記も義務化され、所有権の登記名義人は住所などの変更日から2年以内にその変更登記の申請をしなければならない。これには個人だけでなく、法人の本店移転なども対象となる。
加えて固定資産税を払う納税者にとって、更地価格の場合と空家などの建物が立っている土地の価格を比べると、更地の方が納税する額が増えるとされている。その為相続をした土地を更地にせず、空家などの建物を建てたままにするということも問題となっている。
これらの問題は都心や交通網の発達している地域や、限界集落などの高齢者の多い地域に多く見られていると感じる。これらを解決するには相続登記の義務化など国民へ強制的に行わせるものではなく、より固定資産税の引き下げを実施したり、不動産を相続登記する際の手続簡略化など国民の負担を軽減させるべきではないかと私は考える。
4.相続に関わるお金事情
相続にはそれに伴い固定資産税、相続税と呼ばれる税金を支払わなくてはならない。固定資産税とは、シャウプ勧告を契機として行われた昭和25年の地方税制度の根本的改革に伴い創設されたものである。固定資産(土地、家屋及び償却資産)の保有と市町村が提供する行政サービスとの間に存在する受益関係に着目し、応益原則に基づき資産価値に応じて、所有者に対し課税する財産税のことを指す。固定資産税の税率はほぼ一定となっている。
相続税は、相続等により財産を取得した場合にその取得した財産に課される税のことである。財産の価額が高くなるほど税率が上がる累進税率を適用することで、資産の再分配を図るという役割を果たしている。相続税は、相続した財産の価額から基礎控除といわれる一定の額を控除して計算している。この基礎控除の水準は、バブル期の地価の上昇に伴い引き上げられていた。しかしその後地価は下落を続けているにもかかわらず、基礎控除の水準は据え置かれてきていた。また、税率も徐々に引き下げられており、相続税が課されるのは亡くなられた方の4%程度に低下し、相続税の再分配機能が低下しているといった指摘がなされていた。こうした状況を踏まえ、相続税の再分配機能を回復し、格差の固定化を防止するために平成25 年度税制改正では、地価動向等を踏まえた基礎控除の引下げによる課税ベースの拡大を図るとともに、税率構造について見直しが行われていたと言える。
しかしながら現在でもこの様な金銭的問題は解決されておらず、多くの未納税者が存在している。それらを少しでも解決していくにはこの先も様々な事を改正していかなければならないに違いない。
5.終わりに
私は相続法の講義やこのようなレポートを通して相続や登記について沢山調べ、学び将来に向けて現段階から準備しなければならないと強く思うことが出来た。単に相続、登記と言っても様々な種類や段階が存在し、法学部に所属している自分でさえ完全に理解するのは難しいと感じた。人間は誰でも一生生き続けることは出来ず、いずれかは必ず死ぬ。その為にも両親や自分が亡くなる間際に焦って準備するのではなく、若いうちから段々と計画を立て、自分の持つ権利(義務)を放棄しないようにしていきたいと考えることが出来た。
また、日本は現状コロナウイルスによる影響で高齢者の死亡者数が大幅に増加している。これにより空家数も増えていると考えられる。日本はこれら問題を解決するために今後どのように対応し、解決していくのか見守っていきたい。
[参考文献・参考資料]
・大塚法務行政書士事務所「相続放棄・相続欠格・相続排除について」URL:https://main.ootuka-g.com/souzoku/souzoku-houki.html (参照日:2022年1月17日)
・相続会議(朝日新聞社)(2020/07/09)「相続欠格になる5つの事由 相続人の資格を失う場合は?」URL:https://souzoku.asahi.com/article/13518023 (参照日:2022年1月17日)
・岡本綜合法律事務所「『相続させる』と『遺贈する』という遺言の違いは?」URL: https://fukuoka-yuigon.com/qa/ (参照日:2022年1月17日)
・HIRO(2013/11/01)「公示の原則と公信の原則(公信力)について|法律勉強ノート」 URL:http://houritutechou.blog46.fc2.com/ (参照日:2022年1月17日)
・田中謙次(2021/07/01)「民法177条における『第三者』とは。不動産登記・物権変動・公示の原則」URL:https://owners-age.com/star-takken/blog/toki/ (参照日:2022年1月17日)
・NPO法人 空家・空地管理センター「増え続ける空家〜2つの空き家問題〜」URL:https://www.akiya-akichi.or.jp/what/troubles/ (参照日:2022年1月17日)
・大林香世(2021/06/25)「土地の相続が2024年に変わる?土地登記が義務化、違反すると罰金も」URL:https://magazine.aruhi-corp.co.jp/0000-4409/ (参照日:2022年1月17日)
・財務省「4『相続税』と『贈与税』をもっと知ろう---もっと知りたい税のこと 令和元年10月:財務省」
URL:https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei0110/04.htm (参照日:2022年1月17日)
・総務省「総務省|地方税制度|固定資産税の概要」URL:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/149767_08.html (参照日:2022年1月17日)
・HOME4Uオーナーズ(2021/08/30)「更地にしても大丈夫?知っておきたい固定資産税のカラクリ|HOME4Uオーナーズ」URL:https://home4u-owners.jp/contents/tax_inheritance-38-10261 (参照日:2022年1月17日)
・司法書士平成事務所「相続登記申請の添付書類とは|札幌で相続登記・相続手続は司法書士平成事務所」URL:https://souzoku-sap.com/15002655555411 (参照日:2022年1月17日)
・コトバンク「共同申請主義とは
– コトバンク」URL:https://kotobank.jp/word/ (参照日:2022年1月17日)
嶋田 涼佑
相続法 期末レポート
法学部 法律学科 2年15組
20J115023 嶋田 涼佑
相続と登記の現行法の利点と問題点。
目次
はじめに
1. 公信の原則と背信的悪意者排除論
2. 公信の原則・民法94条2項類推適用における第三者の取引の安全とその危険性
3. 相続と「遺贈」の違い。また、「遺贈」で起こりうる弊害
4. 「遺産分割協議」前後の対抗問題と「第三者」
5. 「代襲相続」と「相続放棄」の均衡の取れた関係性
6. 「時効」と「登記」の関係と共同申請の弊害
7. 「取消」と「登記」の均衡の取れた関係性
8. 「空き家問題」と根本的解決解決のために必要なもの
9. 「共同申請主義」に傾倒しすぎた現行法への懸念
10. 最後に
はじめに.
日本の現行法の中の相続法は、先人たちの知恵のおかげでとても完成度の高い法律となっている。しかし、時代が移り変わり、現代社会ではこの法律の問題点も多々見られるようになってきた。これから9つのテーマに沿って相続法について、自身のの見解を述べていく。
1、 「公示の原則」と「背信的悪意者排除論」
公示の原則という大原則を守るために、背信的悪意者排除論による背信的悪意者の権利制限だけでなく、第三者の権利が均衡を崩している現状をを変えていくべきだ。その理由を以下から述べていく。
公示の原則とは、様々な権利関係の変動において外部に対して外形的手段を認識できるように示す原則の事だ。物権変動時に、この原則の則ることでその取得物が誰のものであるかが公的に判断できるため非常に重要となる。民法上でも、民法177条において「不動産の対抗要件は登記」と、また、民法178条において「動産における対抗要件は引渡し」と定められている。これを対抗要件主義という。特に、物権変動の際に、二重譲渡などが発生してしまえば、所有者が誰なのかを公的に判断することが非常に困難となることが予想される。そういった際に対抗要件がどこにあるかで所有者が誰であるかを公的に判断するのだ。裁判所の判例でも、二重譲渡における所有権の有無は、対抗要件の有無によって決められるというのが通説となっている。そのため、客観的に見ればその人物が第三者であっても対抗要件を保持していれば、第三者の方に所有権が認められるのだ。これは、先に対抗要件を獲得した方に権利を認めるという早い者勝ちの理論であり、日本における資本主義の原則の一つだ。
しかし、対抗要件を持っている第三者であっても、権利の取得が認められない場合がある。それは第三者が背信的悪意者であった場合だ。背信的悪意者とは、故意に人を貶めたり、それを画策した事実がある人物のことだ。背信的悪意者の要件として、1.相手方が悪意であること 2.信頼を裏切ったりそれを画策したという事実があること という2つの要件がある。
では、なぜ背信的悪意者には対抗要件を持っていても権利が認められないのか。それはひとつの学説が関係している。それが「背信的悪意者排除論」だ。民法上の規定では、第三者の条件について、善意であることを要件とはしていないため、その第三者が悪意であったとしても第三者保護は適用される。背信的悪意者排除論では、ただ単に悪意の第三者ではなく、所有者の権利を侵害することを目的とした悪意者については、第三者保護をする必要は無いという主張の学説である。この学説は、裁判所の判例でも適用されており、背信的悪意者排除論は通説となっている。以下の判例も背信的悪意者排除論を適用した判例だ。
「名古屋高等裁判所 所有権確認請求 昭和43年8月2日 結果:棄却
判示事項: 登記の欠缺を主張することができないいわゆる背信的悪意者にあたるとされた事例
裁判要旨: 甲が乙から山林を買い受けて二三年余の間これを占有している事実を知つている丙が、甲の所有権取得登記がされていないのに乗じ、甲に高値で売りつけて利益を得る目的をもつて、右山林を乙から買い受けてその旨の登記を経た等判示の事情がある場合には、丙はいわゆる背信的悪意者として、甲の所有権取得について登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にあたらない。」(事件番号:昭和42(オ)564)
この判決において、背信的悪意者は正当な利益を有する第三者にあたらないとされている。これは、背信的悪意者が対抗要件を所有者よりも先に獲得したとしても、所有者の権利を侵害し、自らが有利となる状況下で対抗要件を獲得したため、公平性が欠くと判断したのだ。
私個人の見解としても、背信的悪意者排除論は、対抗要件主義の日本において、その欠点を埋める役割のある非常に重要な学説だ。確かに日本は資本主義社会であるため、先に対抗要件を取得した者に権利を認めるという理論は決して間違っているとはいえない。しかし、それ以前に私が法的に争う場合に一番重要だと考えるのは「公平性」だ。背信的悪意者の行動自体が公平性を欠くものであり、権利侵害を受けた所有者を保護することは、弱者保護の観点から見ても絶対に必要なことなのだ。
先ほども述べたが、私の見解では、法的に争う場合に最も重要なのは「公平性」だ。今の日本は、判例などを見ても対抗要件主義や早い者勝ちの理論に傾倒しすぎていると懸念している。そのため、別の観点から、公平性が十分に取れているかを当事者間の背景などを今以上にしっかりと見極めて判決を出して欲しい。
2.「公信の原則」・「民法94条類推適用」における第三者の取引の安全とその危険性
公信の原則と民法94条2項類推適用は、第三者保護の観点から非常に重要なものだが、安易に使用せずに、しっかりと事例を見極めてからしようすべきだ。
公信の原則とは、実際には現実に権利関係が存在しないが、存在しない権利関係があたかも外見上には本当に実在するように見えた場合は、外見上の権利関係を信頼して取引した者を保護するという原則だ。この原則は、主に第三者保護、特に善意の第三者の取引の安全を優先を目的としたものだ。公信の原則は、主に動産において適用される原則で、公信の原則が適用されることで善意無過失の第三者は、当該動産においての権利が保証され、即時取得する事が出来る。公信の原則の要件としては、主に客観的に見た時に公信力がどれだけあるかというのがある。
なぜ、公信の原則は太においては適用されないのか。まず、不動産に公信の原則を適用した時に最も大きな弊害は、不動産における登記だ。動産の場合であれば、公信の原則を適用することによって権利が保証され、動産を即時取得をすることが出来たが、不動産の場合は、登記こそが対抗要件なため、権利関係の影響で即時取得をすることが出来ないこと。もう一つは、不動産には公信力がが与えられていないこと。以上の2つの理由から、公信の原則が適用されるのは基本的に動産のみなのだ。
それでは、公信の原則に代わって不動産における第三者保護及び第三者の取引の安全を目的とした法律や原則は存在しないのだろうか。一般的には不動産の場合は、民法94条2項類推適用によって第三者の取引の安全を実現している。類推適用とは、条文の要件を全て満たさない場合においても条文を適用させるというものだ。そもそも民法94条2項は、相手方と通謀して行った虚偽の意思表示の無効は善意の第三者には主張出来ないといった条文なため、通謀という要件を満たさない場合は直接適用することが出来ない。そのため、第三者の取引の安全を目的とした今回の様な場合は、民法94条2項類推適用によって通謀を行っていなくても虚偽の意思表示の無効は善意の第三者には主張出来ない事となる。
公信の原則と民法94事件番号2項類推適用は、共に第三者の取引の安全を保証するものだ。これは私の意見だが、この国は「第三者」を優先的に考えすぎな傾向ではないだろうか。確かに公平性などを考えても第三者保護は重要であるし、取引においての前提条件というのも理解出来るが、このような手段を取ってしまうと、第三者保護を理由に所有権欠格事由に全く該当しない善良な所有者から所有権を取り上げる事に繋がってしまうため、軽々しく適用せずに、適用する際は慎重に適用すべきか見定めることが必要だと強く提言したい。
3.相続と「遺贈」の違い。また、「遺贈」で起こりうる弊害
相続とは違い、遺贈では、多くの弊害が発生する。これは、現行法の弊害でもあるため、早急に対策が必要だ。その理由を以下から述べていく。
最初に相続と遺贈の違いについて見ていこう。相続は、人が亡くなった際にその人の財産上の権利と義務等を法定相続人に移転することをいう。法定相続人以外は相続することが出来ないため、被相続人が相続させる旨の遺言を書く場合には、法定相続人の名前を書かなければならない。
一方で遺贈は、遺言によって財産を無償で譲ることを指す。相続との大きな違いは、遺贈には、受遺者に制限を設けていないため、法定相続人以外の人間にも財産を譲る事が出来ることだ。
相続と遺贈のそれぞれのメリット・デメリットについては、不動産登記手続きの際に相続人であれば単独で登記申請を行えるのに対して遺贈の場合は受遺者が法定相続人全員と行う必要があるため、かなりの労力がかかる。また、遺贈によって受遺者が農地を取得する際には相続人と違い、農地法に則って農業委員会か知事の承認を受ける必要がある。
このように、遺贈は法定相続人以外にも財産を受け取ることが出来る代わりに様々な制約が課されるのだ。そのため、法定相続人でも相続でなく遺贈によって財産を受け取ることは可能だが、相続によって財産を受け取る方が利点も多いため、今後法定相続人になった際には、被相続人に相続させる旨の遺言を書いてもらい、その規定分を相続することが先決だ。
先程も述べたが、遺贈では、不動産登記申請をする際に法定相続人全員と共同申請をする必要がある。その弊害で、法定相続人と何らかのトラブルになった際には円滑に登記登録を進められないのではないかと私は懸念している。特に、遺贈では基本的に法定相続人以外が受遺者となる場合もとても多いため、法定相続人以外が財産を受け取ることを快く思わない人間にとっては好意的には見られないだろう。また、そのような考えを持つ人間が法定相続人以外の受遺者に進んで協力しようという姿勢にはならないはずだ。そういった際に、不動産登記申請が円滑に進まず、財産を譲り渡すことに支障が出てしまえば、これも大きな課題となってしまう。
私は、このような問題を未然に防ぐために、遺贈に関する一部法改正が必要だと提言したい。例えば、不動産の登記の際には法定相続人全員とではなく、代表一名の法定相続人と共同申請を行えるようにするなどだ。確かに遺贈は相続と違い、法定相続人以外にも財産を譲り渡すことができるが、それは被相続人の意志によるところが大きいため、円滑に財産を譲り渡すことが出来ない場合が出てくれば、受遺者になんの過失もないのに遺言が守られない事となる。そのようなことは絶対にあってはならないため、いち早く法整備を検討することが必要だろう。
4.「遺産分割協議」前後の対抗問題と「第三者」
遺産分割協議前後で判例が異なるのは法律では通説であるため、何も問題がないが、遺産分割協議前に適用される民法909条については、第三者を善意に限定していくべきではないだろうか。
遺産分割協議とは、法定相続人同士で遺産の分割について協議して合意することだ。遺産分割の効力については、「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。」と民法909条に記されている。ここで問題となるのは、遺産分割の遡及効は第三者保護には効果がない事だ。だが、第三者保護に重点を置きすぎると、遺産相続の安全性が失われてしまう。そのため、通説では本来の相続人の相続分と遺産分割協議によって相続することになった本来の相続分を超える相続分、また、遺産分割協議前後で対抗問題が変化するとされている。
まず、本来の相続分については、自身に本来の所有者があるため、すぐに登記をすれば第三者に主張出来る。これは、遺産分割協議前後でも変わらず、登記をすればすぐに自身の所有物として主張できる。
本来の相続を超える相続分については、本来の相続分ではないため、他の相続人から本人への物権変動が生じていると解されるべきである。そのため、第三者が所有権を主張してきた場合は民法909条の「第三者を害することはできない」というただし書きの効果で遡及効を主張出来ずに、第三者に対抗できない。遺産分割協議後の場合は、民法177条の対抗問題となってくるため、対抗要件である登記を持っている方が所有権を主張できる。
遺産分割協議と第三者保護の観点から、この通説は非常にバランスが取れたものであるが、私は、やはり日本の法制度と学説は第三者が非常に優位に作られていると改めて確信した。特に、上記で挙げた民法909条のただし書きは第三者が悪意であっても保護すると解釈されるものなので、相続の安全性の観点から見ると問題なのではないだろうか。私は、民法909条ただし書きにおける第三者は、善意の第三者に限定すべきだと提言したい。
5.「代襲相続」と「相続放棄」の均衡の取れた関係性
代襲相続と相続放棄の関係は、法的、資本主義的、弱者救済的、公平性、どの視点から見ても均衡の取れた関係性だ。
代襲相続とは、被相続人の子が相続開始以前に死亡した時(民法887条2項)、及び相続欠格事由に該当し、若しくは排除によって、その相続権を失った時(みんな891条)は、相続人の子供が代襲して相続人になることだ。また、死亡した相続人に複数子供子どもがいれば、その数だけ代襲相続人となる。基本的には、相続人死亡時や相続欠格などを理由に相続することが不可能になった際の保険として適用される制度で、相続時の相続人救済の観点から見ると、非常に素晴らしい制度だ。
しかし、この代襲相続でも相続できない場合がある。それは、親である相続人が相続放棄をした時だ。相続放棄の効力は、「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」(民法939条)というものだ。相続放棄をした場合は、最初から相続人ではなかったとみなされるため、相続人では無い人間の子供が代襲相続人となり得るはずも無いため、相続人が相続放棄をした場合は、相続人の子は代襲相続することが出来ない。
この代襲相続制度は日本において非常に素晴らしい制度だ。代襲者が無くなっている場合でも、民法887条3項で代襲者の子に引き継げるという再代襲相続制度があり代襲相続が出来なくなった場合の対策が完璧に近い形で民法上記されている。
一部では、相続放棄の場合でも相続人の子の意思ではないから代襲相続を例外的に認めるべきとの声もあるが、相続放棄の効力の都合上でそれを実現させるのは難しい。また、相続人の相続放棄の場合でも代襲相続が認められたとして、相続人が被相続人に債務があることを認知していて、それを理由に相続放棄をしたのにも関わらず、何も知らない相続人の子に、被相続人が債務を押し付ける目的で代襲相続を勧めるといった事例が出てくる可能性がある。このような対策のために、相続放棄と代襲相続の関係は今のままであった方が均衡が取れた関係性だと私は推察する。
6.「時効」と「登記」の関係と共同申請の弊害
まず、所有者の時効取得というのは、時効に よって所有権を取得する制度で
「1..二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2.十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。」(民法162条)と民法162条の条文でも記されている。動産の場合は、時効取得が成立した時点で占有されている場合が多いので、基本的には問題になりづらいが、問題は不動産である。
不動産の場合は、所有権を主張するには対抗要件として登記をする必要がある。そのため、時効取得をした際には前所有者の協力を得て共同申請にて所有者移転登記を申請しなければならない。しかし、時効取得が成立しても、取引もせずに自分のものだった所有物を明け渡すことは快く思わない人間も多く、前所有者が共同申請に協力しないという事例も少なくない。
このように前所有者の協力を得られない場合には、所有者移転登記手続きを命ずる確定判決を裁判所に出してもらう必要がある。確定判決を得た後は、時効取得者は、単独で所有者移転登記手続きを申請することが出来る。
「福岡高等裁判所 昭和41年11月22日 判決:破棄差戻 判示事項:取得時効と登記
裁判要旨: 不動産の時効取得者は、取得時効の進行中に原権利者から当該不動産の譲渡を受けその旨の移転登記を経由した者に対しては、登記がなくても、時効による所有権の取得を主張することができる。」(事件番号 昭和38(オ)516)
この判例によると、時効取得者は、確かに登記を備える必要があるが、その手続きには時間もかかるため、その間は所有権が認められないということであれば所有権そのものの侵害ともなり得るため、登記をまだ備えていなくても、所有権の取得を主張できる。
私は、時効取得する者が、所有者移転登記手続きを行うためには、前所有者と一緒に共同申請する必要があるというのがとても引っかかる。前所有者が協力的な人間とは限らないし、むしろ知らないうちに自分の所有物が他の人間に
のものになっていたというのは複雑であるし、協力的になれないという人間も多いだろう。確かに、裁判所から所有者移転登記手続きを命ずる確定判決を裁判所は出してくれるが、相当な手間がかかるため、対策として善意取得者であれば、単独申請を認めるなどの緩和が必要ではないだろうか?そうなれば、当事者間のみならず裁判所の労力も減少するため、仕事効率も上がる。簡単なことではないが、色々な観点から議論を展開して欲しい。
7.、「取消」と「登記」の均衡の取れた関係性
取消と登記の関係性は非常に均衡が取れた関係性だ。先程私が民法909条においては改善の余地ありと評したが、民法909条の欠点を完璧に近い形で埋めているのがここで出てくる民法96条だ。では、民法96条が民法909条よりもなぜ私は評価しているのか。それを以下から順を追って説明していく。
まず、取引上の取消とは、民法上でこう記されている
「1. 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない」(民法96条)
この条文に記されている通り、民法上では詐欺又は強迫による意思表示は取り消すことができる。これは、取引の安全の観点から見ると非常に重要な法律だ。だが、96条3項に記されている通り、善意無過失の第三者には対抗できない。では、代襲相続側になく、取消が行われた取引の購入者が持っていた場合はどうなるだろうか。
通説では、取引の取消を行ったのが第三者の取引前後だったのかで判例が変わっている。
まずは、第三者の売買契約が取消前であった場合。この場合は、取消の遡及効の効果で第三者は登記がない場合でも対抗できる。
第三者の売買契約が取消後であった場合は、客観的には、登記持っている人間から第三者への物権変動が発生したように解釈できるため、民法177条の対抗要件が主軸となり、登記を持っている人間が所有権を主張できる。
この民法96条3項の第三者は、善意無過失に限定されているため、公平性の観点からも取消に関する法律は、非常に均衡が取れた法律だ。ここが、私が先程改善の余地ありと評した民法909条の欠点を完璧に近い形で埋めていると評している理由だ。民法909条を改正する場合は、この民法96条を参考にすれば民法909条の欠点も無くなるだろう。
8、「空き家問題」と根本的解決解決のために必要なもの
結論からいうと、空き家問題は、現行法の中だけでは絶対に解決しない。どこを解決していくべきか。
日本の空き家問題とは、日本の現代社会において非常に問題となっていることの一つで、1988年は394万戸だった空き家が2018年には2倍以上の848万戸へと膨れ上がっている。原因としては、家を相続した後に登記を移さずにずっと放置した結果、そのまま時代が進んで所有者が誰かが分からないまでになってしまったというのがある。
その対策として不動産登記法が改正され、相続登記義務化が2024年4月1日試行予定だ。
この法案によって、相続の開始日及び所有権取得を認知した日から3年以内に不動産名義変更登記を行わなければならず、違反すれば、罰則がつく。この法案は、誰の所有物かが判別できない空き家が減少を目的とされ、空き家問題解決の糸口となるのでは無いかと期待されている。この法案は、一律で相続開始日からではなく、所有権取得を認知した日から3年と記されているため、自身の所有物と知らないうちに3年が経過して罰則を受けるという懸念もなく、救済措置としても十分な法案だ。
しかし、これだけで空き家問題が根本的に解決されるとはいえないだろう。その理由は、固定資産税・相続税、都市計画税と更地価格の関係だ。なぜ、上記の関係が空き家問題と密接に関係しているのか。それは、家のある土地と更地では、固定資産税・相続税、都市計画税の貸される金額が全く違うからだ。
まず、固定資産税と都市計画税についてだが、家のある土地は、減税特例が適応され、更地に比べて固定資産税が安くなる。更地では減税特例が適用されないため、固定資産税は約6倍.都市計画税は約3倍かかってしまう。この事情もあって、とりあえず家を更地にせずに放置してしまうといった事例が多発してしまうのだ。最近では、空き家対策特別措置法が制定された。特定空き家として区分された空き家は固定資産税を高く設定するというものだが、それであれば最初から空き家を更地にした方が利点があるような法律を制定した方が根本的解決を目指せるだろう。空き家問題を根本的に解決したいのであれば、まずは現行の固定資産税都市計画税を見直すべきだと強く提言したい。
次に、相続税だ。被相続人から財産を相続する際に、現金よりも不動産の方が相続税が安くなるのだ。不動産の場合では、時価の80%の金額に相続税が課せられる。この差はとても大きいもので、相続税軽減を目的として家は使わない場合でも家のある不動産を相続する人間も少なくない。そのことも空き家問題の原因となっている一要因だと私は推測している。
空き家問題は日本でも非常に問題となっているが、本当に解決するためには、現行の課税構造を見直し、更地の方が家のある土地よりもメリットのあるように構造を作り変えれば、国民も空き家を取り壊したりして、その土地が有効活用できるようなるのではないだろうか。
9.「共同申請主義」に傾倒しすぎた現行法への懸念
現行の法制度では、共同申請主義に傾倒しすぎている。そのため、段階的に単独申請主義の採用を増やしていき、均衡を取るべきだ。その理由を以下から順を追って説明していく。
不動産の登記申請において、共同申請主義が原則となっている。これは、登記に名前のある前所有者や前所有者の相続人全員と新所有者が共同で登記申請をするというものだ。なぜ、共同申請が原則となっているかというと、登記申請の添付書面に不一致がないかや現行の制度を維持するために混乱を未然に防ぐためなどがある。また、悪質に登記を移されたり、登記を利用したりするのを防ぐために登記の名前に記載されている本人やその相続人と共同で申請させるというものなのだ。この共同申請主義は、そういった事を防ぐためにはとても合理的に見える。
しかし、この共同申請主義にも大きな課題もある。それは、このレポートの3、6.とも重複するが、登記申請をする際に、本人か相続人全員と共同申請する必要があるということ。特に、相続人の場合は、法定相続人全員と共同申請する必要があるため、協力を得られない場合には法的手続きを行って、裁判所の確定判決が出るまで待たなければならない。このように現行法の構造では非常に労力がかかってしまうため、確定判決を待たなくても良いように、手続きの簡易化や共同申請を行う際には、法定相続人の代表者を1名から申請できるようにすれば、円滑な登記申請が望めるだろう。
11. 最後に
私は今回現行の相続法での利点とそれに伴って発生する問題について論じてきた。特に、第三者保護の協力性と登記申請における共同申請主義の弊害についてと空き家問題に関しては懸念することが多々ある。第三者保護は、とても法律上大切なものではあるが、一方で私は第三者保護に傾倒するあまりに当事者間の取引を蔑ろにしていると痛感したりもする。第三者保護以外の観点からも様々な当事者間の事情を加味することも必要ではないだろうか。
また、共同申請主義については、利点も多くあるため登記申請という重要な手続きでは主流となっているのも理解できるが、円滑な取引という観点から見ると弊害も多々あるので、単独申請で申請できる条件をを段階的に増やしていくことも必要だと強く提言したい。
そして空き家問題は、未だに解決が難しい問題の一つであるが、空き家対策特別措置法以外にも、固定資産税や都市計画税を更地価格よりも引き上げて、逆に更地の場合は減税措置を取ったりと多くの対策を講じていく必要がある。空き家の減少は本当に段階的に減らしていくしかないため、少しずつでも早急に対処していきたいところだ。
現行の相続法は、優秀な先人たちが考え抜いて作られたものであり、それには心から敬意を払うが、時代が進むにつれて、現代ならではの問題が多数出てきている。その時代に合わせた法改正を行っていき、法律のアップデートをこれから目指す事が現代で法律を学ぶ人間の使命なのではないだろうか。
引用資料
裁判例結果詳細 名古屋高等裁判所 所有権確認請求 昭和43年8月2日 事件番号: 昭和42(オ)564
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54084 (閲覧日:2022/01/18)
裁判例結果詳細 福岡高等裁判所 所有権確認請求 昭和41年11月22日 事件番号:昭和(オ)516
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=53871(閲覧日:2022/01/18)
参考資料
大河 純夫 掲載年不明 「『背信的悪意者』は民法177条の『第三者』に当たらないとの法命題について」立命館大学
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/05-6/ookawa.pdf(閲覧日:2022/01/18)
國府 新助 掲載年不明 「法律行為の取消と第三者」第一経大論集 第19巻
第1号
(閲覧日:2022/01/18)
川阪 宏子 2004年 「『相続させる』旨の遺言についての一考察」立命館法政論集
第2号立命館大学
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/hosei-2/kawasaka.pdf (閲覧日:2022/01/18)
小野 憲昭 2017年 「相続欠格の宥恕に関する一つの覚書」北九州市立大学法政論集第44巻第3・4合併号 北九州市立大学
https://www.kitakyu-u.ac.jp/law/kenkyu/pdf/44-3_4ono.pdf (閲覧日:2022/01/18)
滝沢 聿代 2001年 「取得時効と登記・再論」成城法学64号 成城大学
https://www.seijo-law.jp/pdf_slr/SLR-064-005.pdf (閲覧日2022/01/18)
金子 敬明 2009年 「法律行為の取消と登記」千葉大学法学論集
第24巻第1号 判例研究 千葉大学https://opac.ll.chiba-u.jp/da/curator/900052124/09127208_24-1_15.pdf
(閲覧日:2022/01/18)
中山 布紗 2012年 「民法94条2項と同110条の類推適用が認められた最高裁平成18年2月23日第一小法廷判決における真正権利者の帰責性判断―最高裁平成15年6月13日第二小法廷判決との比較から―」北九州市立大学法政論集第39巻第3・4合併号 北九州市立大学 https://www.kitakyu-u.ac.jp/law/kenkyu/pdf/39-3_4nakayama.pdf
(閲覧日:2022/01/18)
下村 郁夫 2014年「空き家問題の法的課題と対応策」都市住宅学84号 政策研究大学院大学https://www.jstage.jst.go.jp/article/uhs/2014/84/2014_99/_pdf/-char/ja
(閲覧日:2022/01/18)
佐藤亮太
お世話になっております。中江ゼミ助手の佐藤亮太です。相続法のレポートが完成致しましたので、ご確認宜しくお願いします。
相続と登記
19J110022 佐藤亮太
キーワード:公示の原則と背信的悪意、公信の原則と民法94条2項類推適用、相続させる旨の遺言と遺贈、遺産分割協議と第三者、相続放棄・相続欠格・廃除と代襲相続、時効と登記、取消と登記、空家問題と相続登記義務化、固定資産税・相続税と更地価格、登記申請の添付書面と共同申請主義
1 結論
停滞した日本社会において、変化を恐れず柔軟に対応していくべきである。
2 始めに
1960年代から70年代の時期、いわゆる高度経済成長期と呼ばれていた日本においては、目覚しい経済発展を遂げていた。「2世紀の奇跡」の言葉やハーバート大学のエズラ・ボーゲル教授の著書「ジャパン・アズ・No.1」などから見られるように世界から賞賛の声を浴びていた。また、他のアジア諸国からは日本の高度成長が成功モデルとされて高い評価をされていた。
しかし、現在の日本の状況としては「失われた30年」という言葉に代表されるように、経済成長が滞っている。日本のGDPは約500兆円で、ここからの伸びが少ない。対して、他のアジアの国を見てみると、中国や韓国、香港、台湾、インドなどを見てみると、右肩上がりに上昇しているのが分かる¹。特に中国は30年でGDPが日本の3倍と急成長を遂げた(2020年においてアジア1位、世界2位)。飛ぶ鳥を落とす勢いで成長をしていき、アメリカにも届くのではないかとも言われている。そんな日本は、アジアで2位、世界で3位と決して低い順位ではないはずなので、一見すると豊かなイメージがあると感じるのだが、周辺国の伸び率と比較してみるとどうしても相対的に貧しくなっていると考えることが出来る。
そこで、このレポートでは、土地制度を中心としてこれから先の日本のあり方を検討していく。
3 金本位制度と土地本位制度
3-1 金本位制度並びに土地本位制度とは²
金本位制度とは、金を貨幣価値の基準とし,他の貨幣と金との自由な交換(兌換(だかん) )や,金の自由な輸出入を認める制度のことである。この制度では貨幣と金とが自由に交換でき,金貨の輸入や鋳造の自由も保証され,国内の通貨,外国為替相場の安定が自動調整作用によって保たれる。19世紀イギリスに始まり,世界の金生産の増大により同世紀末には大部分の国が金本位制を採用(日本は1897年),第一次世界大戦まで続いた。大戦で停止され,戦後復活したが,イギリス経済の衰退や世界恐慌などにより,1930年代にはイギリスを先頭に諸国が金本位制から離脱した。第二次世界大戦後は,アメリカ経済の強大化を背景に,国際通貨基金(IMF)制度の下でドル中心の金為替本位制となった。1971年ニクソンがドルと金の交換停止を発表,73年以降国際的には変動相場制がとられるようになった。
対して、1980年代後半,土地含み益を担保に信用が膨張していく状況が生まれた。これを金本位制とのアナロジーとして土地本位制ということがある。
3-2 土地本位制度と日本
かつて、世界は金本位制度を採用し、ニクソンショックによって金本位制が終焉を迎える事態となった。同じ頃、田中角栄総理大臣による「日本列島改造論」と高度経済成長が相まって「土地神話」が確固たる地位を築くことになる。日本の少ない国土でアメリカの何倍も価値があるなどといった異常事態が発生した。金融機関は湯水の如く金を貸した。土地値を裏付けとした資産評価が罷り通り、株価はうなぎ登りに上昇していった。これがバブル時代である。潜在的に存在していた土地本位制が金本位制の終焉により表面化していく形となった。元々「土地担保」に金を貸す習慣の無かった諸外国は「土地本位制」に走ることはなかった。融資の担保に「技術評価」を据えてきただけ「技術本位制」に移行していく。
日本は「一所懸命」の言葉にも現れるように昔から土地を重要なものと捉える風習がある。国土が小さい分、その土地さえ守れば一族が安泰にすごせるのだ。「先祖伝来の土地を守る」などといったものは、武士の時代に特に顕著に現れている(争い事の原因も土地に関連するものが多い)。鎌倉時代には「御恩と奉公」という関係で将軍と御家人が結ばれていた。その内容は、御家人が奉公(将軍のために戦うことex.「いざ鎌倉へ」)をし、これに対して将軍が御恩(御家人の所領支配の保障や新たな土地の支給)を与えるものである。このことからわかる通り、互恵的な関係性があった。鎌倉幕府の滅亡はこの御恩と奉公の関係に歪みが出来たため起きたと考えられている。なぜなら、狭い日本の国土において、土地を与え続けるといずれ渡せる分が無くなってしまい、これによって御家人が不満をつのらせてしまったためである。
弥生時代から階級社会が始まり、それによって農業共同体というものが誕生した。そこから律令制下での初期荘園の確立が土地制度の始まりである。そんな大昔からある土地制度は、日本人にとって切っても切れない関係性であると言える。諸外国が技術やプロジェクトの内容に重きを置いているのに、日本は土地に固執してしまっている。
3-2-1 賃金の伸びとGAFAM(Google Amazon Facebook Apple Microsoft)
始めに、以下の図を参照してもらいたい。
|
1992/12/31 |
|
|
|
|
会社名 |
時価総額 |
国 |
創設年 |
1 |
エクソンモービル |
759 |
アメリカ |
1999 |
2 |
ウォルマート・ストアーズ |
735 |
アメリカ |
1962 |
3 |
GE |
730 |
アメリカ |
1892 |
4 |
NTT |
713 |
日本 |
1985 |
5 |
アルトリア・グループ |
693 |
アメリカ |
1985 |
6 |
AT&T |
680 |
アメリカ |
1983 |
7 |
コカコーラ |
549 |
アメリカ |
1892 |
8 |
パリバ銀行 |
545 |
フランス |
1822 |
9 |
三菱銀行 |
534 |
日本 |
1919 |
10 |
メルク |
499 |
ドイツ |
1668 |
11 |
日本興業銀行 |
463 |
日本 |
1902 |
12 |
住友銀行 |
455 |
日本 |
1876 |
13 |
トヨタ自動車 |
441 |
日本 |
1937 |
14 |
ロイヤルダッチ石油 |
436 |
オランダ |
1907 |
15 |
富士銀行 |
417 |
日本 |
1864 |
16 |
第一勧業銀行 |
417 |
日本 |
1971 |
17 |
三和銀行 |
379 |
日本 |
1933 |
18 |
BTグループ |
375 |
イギリス |
1980 |
19 |
P&G |
364 |
アメリカ |
1837 |
20 |
グラクソ・スミスクライン |
361 |
イギリス |
1999 |
21 |
ブリストルマイヤーズスクイブ |
350 |
アメリカ |
1887 |
22 |
ジョンソン・エンド・ジョンソン |
331 |
アメリカ |
1886 |
23 |
ペプシコ |
329 |
アメリカ |
1965 |
24 |
GTE Corp |
322 |
アメリカ |
1935 |
25 |
さくら銀行 |
318 |
日本 |
1876 |
|
2019/12/31 |
|
|
|
|
会社名 |
時価総額 |
国 |
創設年 |
1 |
サウジアラムコ |
18,791 |
サウジアラビア |
1933 |
2 |
アップル |
13,048 |
アメリカ |
1976 |
3 |
マイクロソフト |
12,031 |
アメリカ |
1975 |
4 |
アルファベット(グーグル) |
9,229 |
アメリカ |
1998 |
5 |
アマゾン |
9,162 |
アメリカ |
1994 |
6 |
フェイスブック |
5,853 |
アメリカ |
2004 |
7 |
アリババ |
5,690 |
中国 |
1999 |
8 |
バークシャーハサウェイ |
5,537 |
アメリカ |
1839 |
9 |
テンセント |
4,606 |
中国 |
1998 |
10 |
JPモルガン・チェース |
4,372 |
アメリカ |
1799 |
11 |
ジョンソン・エンド・ジョンソン |
3,839 |
アメリカ |
1886 |
12 |
VISA |
3,699 |
アメリカ |
1958 |
13 |
ウォルマート・ストアーズ |
3,372 |
アメリカ |
1962 |
14 |
ネスレ |
3,227 |
スイス |
1866 |
15 |
バンク・オブ・アメリカ |
3,168 |
アメリカ |
1928 |
16 |
P&G |
3,115 |
アメリカ |
1837 |
17 |
マスターカード |
3,012 |
アメリカ |
1966 |
18 |
エクソンモービル |
2,952 |
アメリカ |
1999 |
19 |
中国工商銀行 |
2,945 |
中国 |
1984 |
20 |
サムスン電気 |
2,884 |
韓国 |
1969 |
21 |
台湾セミコンダクター |
2,869 |
中華民国(台湾) |
1987 |
22 |
AT&T |
2,855 |
アメリカ |
1983 |
23 |
ロッシュ・ホールディングス |
2,792 |
スイス |
1869 |
24 |
ユナイテッドヘルス・グループ |
2,785 |
アメリカ |
1977 |
25 |
ウォルト・ディズニー |
2,607 |
アメリカ |
1923 |
これは、1992年と1019年の世界トップ企業ランキングを上から25位までをまとめたものである(日本企業は黄色で強調、GAFAMはオレンジで強調)。まず、パッと見て分かることは、1992年の図では日本企業が数多くランクインしているのにも関わらず、2019年には1社もランクインしていない(ちなみに、2019年で日本企業が最初に見られるのは33位のトヨタ自動車である)。前述の通り、土地を融資として未だにとっている日本と技術やプロジェクトを重視している海外との差が、明確にこの図に現れたのものだと考えられる。これに対応して、賃金の伸び率も日本は世界的に見て低い。1990年の平均賃金は、イギリスやフランスよりも高い水準で、韓国と比べても日本の方が7割も高い水準であった³。そこからさらに30年が経ち、米国は1.5倍に、韓国は約2倍に上昇したが、日本は僅か4%ほどの成長に留まった。これを引き起こした原因も、土地を融資として未だにとっている日本と技術やプロジェクトを重視している海外との差であると推測する(GAFAMのような新興企業が生まれにくい環境が整ってしまっている)。
次に分かることは、ランクインしている日本企業のほとんどが銀行であることだ。これは、前述のバブル景気で金融機関が湯水の如く金を貸したことでこれらの企業が潤ったことが原因であると考える。
「失われた30年」を引き起こしている一因としては、未だに土地本位制度の神話にすがりついていることや、変化に対応出来ない体質であると考える。その結果が、賃金がほぼ伸びず、世界からも取り残されてしまう状況を産んでしまったのだ。
4 物権変動
前述の通り、日本は土地が重要なものと捉えることは理解出来た。そこで、ここからは具体的な内容に入っていく。
物権変動は10個の物(売買、贈与、交換、消費貸借、善意取得、相続、時効、無主物先占、遺失物拾得、埋蔵物発見)があり、4つに分類(法律行為、事実行為、承継取得、原始取得)される。
なお、不動産物権変動については、第三者に対抗するために登記が必要である(民法177条)。ただし、当事者間であれば、意思表示のみで足りる(民法176条)。また、判例は二重譲渡について認めている。その時どちらが所有権を獲得するかは、登記の有無で判断する。そして、物権変動の範囲について、判例は無制限説を採っている(いかなる物権変動の場合にも民法177条が適用される)。
4-1 公示の原則と背信的悪意、公信の原則と民法94条2項類推適用
公示の原則とは、排他的な権利の変動は,占有・登記・登録など他人から認識され得る表象(公示方法)を備えなければ,完全な効力を生じないとする法律上の原則のことである。取引の安全を保障するために特に物権変動に関して問題となり,その公示方法は、不動産については登記,動産については引渡し(占有)である。登記や引渡しと物権変動との関係には,登記や引渡しを物権変動の成立要件とするもの(ドイツ法など)と,当事者間の意思表示だけで一応物権変動は生ずるが,登記や引渡しをもって第三者に対する対抗要件とするもの(フランス法,日本の民法など)との二つの型がある⁴。そして、公示の原則は承継取得であることも特徴である。
公信の原則とは、実際には権利関係が存在しないのにかかわらず,外見上権利関係が存在するように思われる事実がある場合に,この外形を信頼して取引をする者を保護し真実に権利関係が存在したと同様の法律効果を認めようとする原則。このような法の効力を公信力という。たとえば動産を占有する者(借主)を所有者だと誤信してこれから買った者に所有権を取得させる即時取得(原始取得 民法192条)の制度はこの原則の顕著な例である。日本では不動産物権の変動(登記)については公信の原則をとっていない⁵。
また、公信の原則と公信の原則に並んで、背信的悪意者と民法94条2項類推適用はこの後の話題(相続と登記、取消と登記、時効と登記)に大変必要となってくる。
4-1 相続と登記
ここからは、今回のレポートの題名にもなっている「相続と登記」について触れていく。
大前提として、判例理論を下の図に表した。
判例のものさしとして、イベントの前は本来権利者を保護し、イベントの後は対抗問題で解決する。
4-1-1 遺産分割協議と第三者
イベントはここでは遺産分割協議の事を指す。遺産分割協議前の第三者に対しては、民法909条の但書によって、遺産分割の遡及効を制限し、第三者を保護すること、すなわち、第三者の権利を害してはならないというスタンスをとる。
遺産分割協議後の第三者に対しては、899条の2(民法改正で新設)が適用されて、登記が対抗要件となる。
※民法177条の「第三者」の範囲について
判例では、制限説をとっている。内容としては、「当事者及びその包括承継人でない者」「不動産に関する物権変動の登記がなされていないことにあたって正当な利益を有する者」である。
〇客観的範囲
肯定説→物権取得者、賃借人、差押債権者
否定説→実質的無権利者、不法行為者、不法占有者
〇主観的範囲
判例は原則として、第三者が善意・悪意の如何を問わないとしている。これは、民法177条の存在自体が不動産取引における自由競争を是認しているためであるからだ。ただし、背信性を有する者は民法177条の「第三者」に該当しない(配信的悪意者排除論)。
4-1-2 相続させる旨の遺言と遺贈
始めに、登記申請は原則として共同申請でしなければならない(不動産登記法60条)。また、登記申請の添付書も共同で行う必要がある(登記申請の添付書面と共同申請主義)。これは、複数人でやるため、手続きがかなり面倒であると言える。遺贈も共同申請と添付書類が必要である。そして、第三者との関係は対抗関係であるので、登記を先に備えたものが物権を有することが出来る。対して、相続させる旨の遺言は単独申請が可能である(不動産登記法63条 共同申請の例外)。さらに、添付書類が必要なく、当事者間でやりとりができる(第三者の介入の余地を与えない)。この相続させる旨の遺言は遺贈と比べ手間がかからないのと、第三者に介入されることなく当事者間で相続ができるというメリットがある。
4-1-3 相続放棄・相続欠格・廃除と代襲相続
代襲相続とは、「被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定(相続欠格事由)に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。」と規定されている。したがって、被代襲者が死亡したときだけでなく、相続欠格事由に該当したり、被相続人から廃除された場合にも、代襲相続が起こるということになる⁶。これに対して、被代襲者が相続放棄(民法939条)をした場合には、代襲相続は起こらない。相続放棄をすると、その相続人は初めから相続人ではなかったことになるためだ。
事例に当てはめると以下のようになる。
4-2 取消と登記
詐欺又は脅迫による意思表示は、取り消すことができる(民法96条1項)。イベント前後、すなわち取消しの前後で結論が変わってくる。
取消し前の第三者に対しては、第三者が善意無過失である場合に限り保護される(民法96条3項 ただし、詐欺のみで脅迫は保護の対象ではない)。
取消しの後の第三者に対しては、登記の有無によって優劣を決める(民法177条)。
4-3 時効と登記
所有権の取得時効は民法162条に規定がある。この条文は、占有を要するものであり、登記は不要であると読み取ることが出来る。
ここでのイベントの前後、すなわち時効完成の前後で結論が変わってくる。
時効完成前の第三者に対しては、当事者間の関係であるとし、登記を有しない。
時効完成後の第三者に対しては、二重譲渡の問題として扱い、登記を対抗要件とする(民法177条)。
5 空家問題と相続登記義務化
日本では空き家が年々増加の一途をたどっている。平成30年住宅・土地統計調査の結果、空き家数は848万9千戸と過去最多となり、全国の住宅の13.6%を占めていることが分かった⁷。空き家が増える原因としては、少子高齢化の進展や人口移動の変化などが挙げられる。また、固定資産税や相続税対策で空き家を起こしておくことも挙げられる。
5-1 固定資産税・相続税と更地価格
前述した通り、日本では土地本位制度が存在していて、これに伴い土地、とりわけ更地の価値が非常に高い。更地にしてしまうと、固定資産税や相続税が多くかかってしまう。とりあえず家を残しておくと、固定資産税は更地のそれよりも6分の1の価格で抑えられる。また、相続税も固定資産税評価額と同額であるので、同じように家を残しておくという対策がとられる。
使用されていない家や土地があり、さらに今後もこれらが増えていくこの現状は、日本にとってマイナス要素であることは言うまでもない。ただでさえ狭い国土なのに、有効活用できる土地が益々減ってしまう。無駄が多いと日本社会の発展にブレーキを掛けてしまうことになる。そんな状況にメスを入れる政策が実施された。平成27年に空き家対策特別措置法が施行された。この税制改正によって、空き家に課税される固定資産税が実質的に増えることになる。また、相続登記義務化が2024年に施行される。3年以内に登記を義務付けることで、所有者を明確にし、取引の安全性を上げ、再開発や公共事業の促進に繋げていくことを目標にしている。
6 まとめ
日本は変化をなかなか受け入れられない体質があるように思える。というのも、これまで挙げてきたことが根拠となっている。相続登記義務化など、少しずつではあるが改革が進んできている。情報化社会の中で乗り遅れないためにも、変化を恐れず柔軟に世の中を渡っていく必要があると考える。
〇参照
・中江先生の授業内容と板書
・勉強会の板書
・¹世界経済のネタ帳(https://ecodb.net/ranking/area/A/imf_ngdpd.html)
・³ 「安いニッポン! なぜ賃金は上がらないのか?」(時論公論)(https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/457544.html)
・⁴ コトバンク(https://kotobank.jp/word/%E5%85%AC%E7%A4%BA%E3%81%AE%E5%8E%9F%E5%89%87-62207)
・⁶ 法定相続人と法定相続分(https://www.souzoku-sp.jp/m/souzokunin/detail/index1.html)
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中江先生
お世話になっております。レポート課題の提出に参りました。
相続法の授業ですが大変楽しかったですし、相続について深く考える事ができた良い授業だったと感じました。
以下、レポート課題ですので、よろしくお願いいたします。
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テーマ:相続と登記
タイトル:相続の正義とは何か
1.はじめに
人が死亡した際、その人の財産はどうなるのか。この問題は、神経質になる人が多いように思え、実際に、自分の父親も祖母の遺産に関して、父親の兄弟と揉めていた記憶があった。祖母の面倒・介護を最初から最後まで見ていたのは、父親であるのに、血縁がつながっている理由だけで遺産を分割するのは、虫のいい話だと、考えたのだろう。
結果は、父親は大敗し、遺産分割は法的には正当に行われたのであった。
そこで、果たして、相続と登記において、今の判例や学説は、正義を貫いているのかどうか、疑問に考えた。
今回のレポートは、相続と登記の正義について検討し、自分なりに評価・反駁する。その意義は、本来保護されるべき対象を保護できているのか検証するためのものである。
2.空家問題
相続した不動産を期間以内に登記しておかないと罰則が発生するという、相続登記の義務化か、令和6年より施行されることになった。
この法律の趣旨として、空家の解消があげられる。全国に空家は800万戸存在する。【総務省データ(https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/hyouka_190122.html)
最終閲覧日1月18日】
これだけの空家が存在するということは、本来その地域に住みたいのに、空家があるという理由で飽和すると、その人が保護できていないことになる。また、土地と建物を無駄にするという社会経済的にも良くない。なので、今回の相続登記の義務化は、立法目的としては素晴らしいものであった。
では、この法律を制定することで、空家問題が解消するのか。
私は、相続登記の義務化によって、これらの問題が解消できるとは考えられなかった。そもそも、空家定義とは、人が住んでいない状態の建物を指す。
たとえ登記したとしても、最初から空家だったところが使われるようになる確証はない。まして、人が住んでいると定義できるほど、長期間滞在するようにはならない。
登記の趣旨とは、公示する事で「誰から見ても自分のものである」とアピールする。それは、第三者への対抗要件となる。【内田貴『民法T総則・物権総論』第4版】
公示の原則から、登記を備える事で空家が、完全な所有者を有する状態へと変化してしまった。むしろ登記を備えていないほうが、空家が第三者にとられ、それによって有効に空家が使われるのならば、社会経済的にも良いとされるに違いない。
もちろん、背信的悪意によって空家を取得しようとする第三者は排除されなくてはならない。
これらの事から、相続登記の義務化はある意味愚策だったのではないかと、結論付ける。
では、最も有効な対策は何だったのか。
罰金ではなく、国に帰属することができれば、もっと有効に活用できる手段は増えるのではないかと考える。
その土地・建物が、登記を忘れるほど(或いは調べないほどに)関心がないものであるので、国にとられるのは一見財産がマイナスになるように思えるが、いらないものがなくなるだけなので、そう神経質になる人は多くないと考える。
3.固定資産税・相続税と更地価格、そして空家問題
更地の状態が一番固定資産税が高くなるという事実がある。逆に、家が建っていると安くなる。また、非住宅用地はこの対象に当たらず、固定資産税が高い状態になる。
つまりは、人が住んでいるから税金が安くなるということになる。
加えて、空家を放置していると、更地よりも高い固定資産税が付く。また、解体をすると6倍の固定資産税が付くことになる。
個人的には、この法制度については相続登記の義務化よりは合点がいく。
固定資産税が高くなるからと言って、罰金のように直ちに支払わなければならないのではなく、翌年の1月1日時点で更地であれば固定資産税が高くなるというものだ。
つまりは、更地のままで放置しておこうという不届きな者をなるべくなくして、土地を有効活用できる法制度だと考える。
4―1.配偶者居住権による時効と登記
父母兄弟二人の4人家において、父親が死亡し、相続人が母、兄弟二人になったとする。相続財産は、1000万円と1000万円相当の土地・建物だとする。遺産分割協議を経て、母が1000万、兄が1000万円相当の土地・建物、弟は相続放棄したとする。
母は、配偶者居住権を行使して、兄が相続した土地・建物に住むことになる。その際、兄は兄で別に家庭を持っており、その土地・建物は利用していない。弟は、母と一緒に暮らすが、何も知らない善意者だとする。
この場合において、弟は時効により、登記して第三者への対抗要件として、兄が相続したはずの土地を獲得できるのか検討する。簡単に言ってしまえば、相続秩序の問題である。
結論から言ってしまえば、これはありうると考える。ただし、事例によっては時効取得を認めないようにしなければ、相続秩序が崩壊する。
4−2.欠格事由・排除・代襲相続の場合
弟側に当時、欠格事由・相続欠格があり、相続できずに、このような形(3−1の事例のような形)で間接的に相続しようとすれば、背信的悪意だと認定され、簡単に請求は棄却されるに違いない。
または、生前父親に対し酷い侮辱や、暴行を加えており、相続人排除によって除外されている場合でも同様に違いない。
では、弟が先立っており、弟の子供が代襲相続をしたとする。この場合は、十分と取得時効が完成しうる。
4−3.通謀していた場合
母と弟が通謀し、相続財産の全てを巻き上げる。ひいては、兄にだけ相続を間接的にさせない為、配偶者居住権を行使した場合である。例えば、兄だけが腹違いだとすれば、母は全く関係のない赤の他人とも言えなくもないので、こういう事例が想定できる。
この場合の解決策として、公信の原則と民法94条第2項類推適用の考え方を取り入れることにする。
民法94条の類推解釈とは、相手方との通謀でなされた虚偽の意思表示は無効とするものであるが、これらは一般解釈では、通謀と呼べないことがある。だが、通謀性に欠ける場合でも、できる限り94条を類推適用し、善意無過失の第三者を保護しようというものである。【平野祐之『コア・テキスト民法TU総則、物権法』新世社】
この解釈を使えば、兄は時効取得から保護されるに違いない。
ちなみに、兄を第三者と評価する理由としては、相続の段階においては第三者と評価できないが、時効取得の段階に至れば、第三者と評価することができるという判断である。
故に、弟側の請求は棄却されるに違いない。
4−4.取消と登記
配偶者居住権付きの不動産を売買した場合で考える。この場合は第三者と弟との勝負になるが、第三者は配偶者居住権付きだと評価していたので、当然に時効取得の事を考えなくてはならないとして、弟のほうが勝ちそうである。
では、何らかの理由で、上記の売買が取消になったらどうだろう。
例えば、詐欺によって不動産の売買契約を結び、買い手がまた別の第三者に転売する場合、売買契約を取り消すことになるが、この第三者が善意者か悪意者で、結論を変えているのが判例の立場である。善意無過失の場合は返還しなくていいし、悪意の場合は返還する必要がある。【内田貴『民法T総則・物権総論』第4版】
この事例と同じように解するのが、妥当だと考える。とすると、配偶者居住権を利用して時効取得しても、兄は返還を請求することができると解することができる。
5.遺言がない!
相続させる旨の遺言と遺贈は、どちらも遺言で行うものであるが、その性質は全く持って異なる。「相続させる」と書けば、法定相続人以外には相続できないのである。
手続きについても違いがあり、「遺贈する」については共同申請主義を取っており、ほかの相続人も協力して、登記申請の添付書面の作成にあたる。「相続させる」については単独でも相続できる。【本山敦等『家族法』日評ベーシック、第三版】
問題としては、死にゆく人に対して「遺贈してほしい!」や「遺言を書いてほしい!」とは言いづらい点にある。介護をしているが、法定相続人の対象になっていない場合だと、特にそう言いづらいに違いない。
2019年には民法の改正され、上記の問題に関して解消するための法案が作られた。被相続人をその子供の妻が無償で介護していた場合、遺言が無くても妻は遺産の受け取りを請求できるようになった。【ANNnews『「無償の介護」などにも遺産相続 40年ぶり法改正』2019/05/09放送分】
問題はここからで、請求できる財産が法定相続分に依存していない点にあると考える。
基本的には相続人との話し合いで、金額を決めることになるが、当然折り合いがつかない場合があり、そうすると裁判所に調停を申し立てるのだが、その目安が介護ヘルパーの労働対価と同じ程度としているのだ。
法制度自体は評価すべきであるが、夫が死ななかった世界線では(遺言がないので)法定相続分によって分割するはずだが、それを下回る可能性が十分とあるということになる。
この点については、個人的には評価することができず、法定相続分だった分を請求できるようにするのが、最も良いと考える。
6.まとめ
今回のレポートでは、問題がありそうな点だけをピックアップして、検討してみた。立法段階では、問題に関して解決するように努力しているようだが、人間はやはり機械的に動くことはない。絶対に課題は発生する。
時代の流れによって、新たな技術や考え方が浸透する。そうすると、当然今の法律そのものや、法解釈、リーガルマインドは劣化していく。
ならば、なし崩し的に問題を解決していくしか、糸口はないのかもしれない。
もちろん、問題ばかりではない。民法もとい相続法は全体的に見れば、善意無過失者を保護する方面によっているものが多い。そういう意味では、相続秩序の安全はある程度確保されていると感じた。
また、問題が起きたらその都度解決していけば、かわいそうな人は少なくなると考える。
参考文献
本山敦等『家族法』日評ベーシック、第三版
内田貴『民法T総則・物権総論』第4版
内田貴『民法W相続法』第4版
平野祐之『コア・テキスト民法TU総則、物権法』新世社
総務省データ(https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/hyouka_190122.html)
最終閲覧日1月18日
ANNnews『「無償の介護」などにも遺産相続 40年ぶり法改正』2019/05/09放送分
野崎萌子
相続は、将来親が亡くなる時に必ず行われることだと思うので、しっかり理解しておくべきである。
【増える空家】
高齢化が進み、団塊世代の相続が進み、所有者不明の空家問題*が増えている。そこで、令和6年4月1日から相続登記義務化*が施行される。土地所有者が亡くなった際に亡くなった方の配偶者や子供といった相続人は、取得を知ってから3年以内に相続登記*することが必要になる。正当な理由なく怠れば10万円以下の過料が科される。罰則の適用は、取得が明らかなのに申請を怠るなど悪質なケースが想定される。
相続登記義務化*されることで、現在起きている空家問題*で近所トラブルも所有者が分かり、責任の所在を明確にすることができ、根本的解決が早期に出来ると考えられる。相続登記義務化*がなければ、増えるであっただろう空家問題*も未然に防ぐことが出来る。
【登記*するためには】
登記*するためには、登記申請の添付書面*に原本の添付が原則で、「住民票の写し」等についても、その証明書の原本を添付する必要がある。なお、コピーは不可。
不動産登記*の申請は原則、共同申請主義*である。登記*をすることによって直接利益を受ける者(登記*権利者)と登記*をすることによって不利益を受ける者(登記*義務者)とが共同してすることを要し、また登記*権利者および登記*義務者またはその代理人が直接登記*所に出頭しとしなければならない(26条1項)。現行法において共同申請主義*を採用する理由は、登記*官に登記*の申請について実体的な権利関係の有無を審査するいわゆる実質的審査権を与えていないことから、登記*を必要とする実体関係の当事者に共同して登記*を申請させ、これにより登記*の真正を担保しようとするものである。ただ、例外もある。判決による登記*のように共同申請によらなくても登記*の真正を担保することができる場合、たとえば相続による登記*、登記*名義人の表示変更の登記*のように登記*の性質上共同申請が考えられない場合においては、登記*名義人が単独で申請をすることができる。
【取消と登記*】
法律行為の取消と登記*は、主に不動産取引においてその法律行為が取り消された場合において(民法96条・6条2項・9条)、第三者*が保護または対抗するための要件として登記*が必要か不必要かという問題である。
@ 不要説(大判昭和4年2月20日民集8巻59頁、学説の多数説)
もし登記*が必要だとしたら、表意者Aが登記*を買主に移転した後は、もはや制限能力・強迫などを理由として取消*権を行使できなくなり、制限能力者、被強迫者の保護に欠けるからというのが登記*を不要とする理由である。
A 必要説
第三者*の保護の要請、取引の安全の見地から、表意者に登記*を要求すべきであるとする。
【時効と登記】*
こういった事例はどうなるのか。
Bは親戚のAから甲不動産を買った。代金を支払って引渡しも受けたが、親戚との取引であり安心していたこともあり、費用を節約するため、登記*は移さなかった。その後、Bは長年にわたって甲不動産を使用したが、特に誰からも何も言われなかった。しかし、経済的に苦しくなったAが、Bが登記*を移していないのをいいことに、甲不動産をCに対しても売却し、登記*を移してしまった。Cから甲不動産を引き渡すように言われたBは、Cに対し、時効によって甲不動産の所有権を取得したと主張できるのか?
Bは登記*を移しておらず、占有・登記・登録など他人から認識され得る表象(公示方法)を備えていないので、公示の原則*により、主張は難しく思える。
不動産が二重に売買された場合、第一の売買の買主と第二の売買の買主は、自分が主張しようとする権利(所有権)と相手方の権利(所有権)が両立しない関係(対抗関係)になる。そのため第一買主、第二買主は原則として、登記*をしなければ、相手に対し、不動産の所有権を取得したことを優先的に主張できない(対抗できない)ことになる(民法177条)。ただし、例えば第二買主が、第一買主が所有権を取得した事実を知っていて(悪意)、しかも第一買主に登記*がないと主張することが信義に反すると認められる者(背信的悪意*者)である場合には、第一買主は、登記*をしなくても、第二買主に対し、不動産の所有権を取得したことを対抗することが出来る。第一買主Bと第二買主Cは対抗関係になるため、Bは、Cが背信的悪意*者でない限り、Cに対し甲不動産の所有権を取得したことを対抗できないことになると考えられる。
しかし、それではBが不憫なので、時効*により甲不動産の所有権を取得したと主張できないのか?
民法は、時効*による所有権の取得を認める制度(取得時効*制度)を設けている。具体的には20年間、所有の意思をもって平穏にかつ公然と、他人の物を占有した者は、その所有権を取得する、と定めている(民法162条1項)。また、10年間、所有の意思をもって、平穏にかつ公然と、他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意でありかつ過失がなかったときは、その所有権を取得する、とも定めている(民法162条2項)。
時効によって、長年住み続ければ他人の不動産が自分の物と主張できる制度を初めて知った時は納得がいかなかった(泥棒が空き家に入って住み続けたらその人の家になるのかと考えた)が、登記*を移さなかったという理由で、急に家を取られても困るので、確かにこういった制度も必要だと思った。ただ、登記*を移すことは自分の財産を守り、主張する大事な手続きなのでしっかりするべきだ。
【動産と不動産】
「信頼した者は保護される」という原則があるが、動産と不動産では適用される制度が違う。
[動産]
虚偽・不実の登記*を信頼した、第三者の取引の安全を図る理論と言われる公信の原則*では、真実の所有者の落ち度を考慮することなく、相手方の信頼だけで保護される。動産は一般的に不動産に比べて価格が低いため、真実の所有者の損失は比較的軽微なので、動産取引の安全保護を重視されている。
[不動産]
不動産は価格が高く、生活や事業の基盤でもあり、それを失う真実の所有者の損失はとても大きなものとなるので、「信頼した者は保護される」そんな公信の原則*を不動産に採用することは出来ない。しかし、不動産でも第三者*の取引の安全を図る要請があるべきだ。そこで適用されるのが民法94条2項類推適用*である。「相手方と通じてした虚偽の意思表示」はない場面、真実の所有者は「意思表示」はしていないが、虚偽の・不実の登記*という虚偽の外観の作出に所有権を失ってもやむを得ないような帰責性が認められ、そんな真実の所有者より、善意の第三者の取引の安全を優先して保護を図るべき場面に、類推適用をする。「意思表示」はないので、直接適用はできないが、類推適用して取引の安全を図るのだ。
動産や不動産で適用される基準も違う上に、不動産のような生活の基盤となるものは大事なので、判断が難しい。私の父も不動産を経営していたが、大手会社の不動産に詳しい人から意見を聞いて慎重にやっていた。気を付けていても、法律や不動産に詳しくなければ簡単に騙されたりしかねないので、こうして見抜けなかった落ち度をカバーして貰える法律があるのは有難いと思う。
【付いてくる固定資産税*】
固定資産税*は、1月1日現在に土地や家屋など固定資産税*の対象となる財産の所有者として固定資産課税台帳に登録されている人に対して課税される。固定資産税*課税台帳に登録されている人は、通常、1月1日時点での登記名義人である。
[計算]
課税標準額×税率(ほとんどの場合で0.3%)=都市計画税額
亡くなった人の財産にも固定資産税*は課税される。未払い固定資産税*があれば、相続人に支払い義務が出てくる。しかし全てを相続人に背負わせるのは酷なので、相続税*の申告では、亡くなった被相続人の債務を遺産から差し引くことが出来る。被相続人の代わりに払う固定資産税*も債務として遺産から控除出来る。ただし、範囲が決まっていて、相続税*の計算で債務控除ができるのは、亡くなった時点でまだ納付していない部分だ。つまり、被相続人が亡くなった日と納期限の前後関係で、債務控除できる範囲が変わる。
また固定資産税*は更地か建物があるかで異なる。更地だと、固定資産税*が高くなる。大きなタイプ。「住宅用地特例」という減税制度の特例が適用されなくなってしまうからだ。住宅用地特例だと固定資産税*は1/6、都市計画税は1/3減税される。
「公示価格」、「基準地価格」は標準的な更地価格*だ。不動産は一つとして同じものはない。そのため、同じ地域の土地でも、土地の形、面積、方位、接する道路の状況などによって価格は大きく変わる。ただ固定資産税*が高くなるからと言って、古家を壊さないのが得策とは一概に言えない。
空家問題*でも、放置していた間の固定資産税*や都市計画税を払わなくてはいけないとなると、確かにわざわざ名乗り出て、登記しようとは思えないのは納得がいく。特定空家等に指定されると固定資産税*の負担がさらに増すので、人によっては相続登記義務化*は嬉しくない法改正だと思う。
【相続と遺贈】
特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言*)とは、「遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言」のことである(民法1014条2項参照)。共同相続人のうちのある特定の相続人に対し、特定の相続財産を遺贈*ではなく「相続させる」とする内容の遺言で、判例・通説(遺産分割効果説)によれば,相続させる旨の遺言*は,相続人間でこの遺言と異なる遺産分割をすることはできず、遺言の効力発生時に対象となる相続財産が特定の相続人に承継される効果を生じる。ただし、承継した相続財産のうち法定相続分を超える部分については、登記*がなければ第三者*に対抗できないものとされる(民法899条2)。
「相続」と「遺贈*」では、取り扱い方が大きく異なるので注意が必要である。遺贈*は、法定相続人でなくても、財産を引き継ぐことが出来るが、以下のようにデメリットが多い。
・遺贈登記*は手間がかかる。
・遺贈登記*しないと権利を主張できない。
・農地の遺贈*には農業委員会、もしくは都道府県知事の許可が必要。
・借地権の遺贈*は賃貸人の承諾が必要。
・不動産取得税がかかり、通常の相続における登録免許税よりも高くなる。相続税*も2割加算される。
相続させる割合を遺言者自身が自由に決めることができるが、自身の兄弟姉妹以外の法定相続人には、最低限相続できる財産の割合である遺留分が保障されている。遺留分を明らかに下回り、不公平な場合には、遺留分を主張することができる。
遺言書で書いたことは全て実現されると思っていたが、しっかりと法定相続人には遺留分が保障されていると初めて知った。記憶に新しい紀州のドン・ファンは、遺書に全財産13億を「全財産を田辺市にキフする」としたが、遺留分として田辺市は妻に約6億5000万円渡さなくてはならなかった。もし遺産をあげたくない場合でも、法定相続人であれば、遺留分で分けなくてはいけないとなると遺言者の意思に反しているなと思った。須藤早貴被告はその遺産欲しくて堪らなかったんだろうが、お金の怖さを感じた。
【遺産分割協議】*
相続人全員で合意すれば、遺言の内容や法定相続分とは異なる割合で遺産を分けることができる。相続人全員で遺産の分け方についての話し合いをすることを遺産分割協議*と言う。相続人全員が合意しなければ無効でとなる。そのため、行方不明の相続人を除外して行ったり、いわゆる隠し子が存在することを知らずにその子を含めずに行った遺産分割協議*は無効となるので注意が必要である。遺産分割の話し合いがまとまらない場合には、最終的には、家庭裁判所での調停や審判の手続き(弁護士しか代理は出来ない)によることになる。
また相続財産である不動産を単独で相続した者や、法定相続分を超える相続分を取得した者は、その旨の登記*(相続登記*)をしなければ第三者*にその相続した権利を対抗(主張)することはできない。
私の家でも、祖母が亡くなった時に遺産分割協議*をしたが、結局平行線のままで遺産分割調停までいき、伯母達とはあまり良い関係ではなくなった。祖母は遺言を一切残さなかった。もし遺言書でも残してくれていたら、ここまで大事になることはなかったのかもしれないので遺言書を書いて、自身の意思を残しておくことは大切だと思う。
【相続する意思・相続させる意思】
先述した紀州のドン・ファンのように、絶対に相続させたくない人がいる場合、遺言書に書いても法定相続人であれば遺留分が渡されてしまう。遺言者の意思を確実なものにするために、また相続させられる側の意思も尊重するために「相続放棄・廃除・相続欠格」*がある。
[相続放棄] *
被相続人が死亡した後、「財産はいらない」と手続きすること。相続発生前に手続きすることは出来ない。
[相続廃除]*
被相続人が相続人に虐待や重大な侮辱を受けたり、或いは著しい非行が相続人にあった場合、被相続人は相続人の地位を剥奪することができる。
[相続欠格]*
被相続人を殺した、または被相続人に自分が得するような遺言を作成させた人間に相続権はない。それが相続欠格*である。相続欠格*は法律上当然に相続人としての資格を失うので、「相続放棄*」や「廃除」*のように家庭裁判所で手続する必要はない。また、剥奪された場合、相続権が回復することは二度とない。
また、代襲相続*といって被相続人より先に相続人が亡くなっている場合に、被相続人から見て孫、ひ孫、甥姪等が相続財産を受け継ぐことが出来る。被相続人に子がいない場合は、被相続人の本来の相続人である兄弟姉妹が相続人となるが、その兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合は、甥や姪が兄弟姉妹に代わって代襲相続*する。
では、相続放棄*・廃除*・相続欠格*となった子にそれぞれ子(つまり被相続人から見たら孫)がいた場合、孫は代襲相続*人になれるのか。
・相続放棄*した子の子 → 代襲相続権なし
・廃除*された子の子 → 代襲相続*権あり
・相続欠格*となった子の子→ 代襲相続*権あり(孫は、子が相続欠格*であることを知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税*の申告を行うこと)
これを見ると紀州のドン・ファンの場合、須藤早貴被告に実刑判決が下れば、被相続人を殺した相続欠格*に当たるので、相続権の剥奪となると考えられる。最終的に紀州のドン・ファンの意思に沿う結果にはなったが、お金のために殺されたのは気の毒だ。
私の実家の土地はかなり広いので、親から相続を受ける時はかなりの相続税*がかかると思われる。そのため、父親は相続関係の本を読み漁り、既に相続税*対策をしている。弁護士や司法書士の先生に指示してもらっているが、素人では非常に難しいと感じるので、最低限の知識だけでも学んでおく必要があると思う。
《出典・参考文献》
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不動産名義変更手続センター
相続登記の義務化(今後どうなる?)
司法書士 板垣 隼
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更地の固定資産税はなぜ高いのか?空き家の活用方法も解説
更新日2021/12/28 閲覧日2022/1/19
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沼田市の不動産専門株式会社丸井不動産
土地の値段(更地価格)の調べ方
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相続と遺贈の言葉の違いで相続の取り扱いが大きく変わる2つのこと
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紀州のドン・ファン氏の遺言書と遺留分
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遺産相続・遺言作成ネット相談室
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町田リーガル・ホーム
遺産分割と第三者との関係
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松谷司法書士事務所
遺産分割協議
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株式会社 吉澤相続事務所
相続放棄・廃除・相続欠格の違い、分かりますか?
更新日2019/2/4 閲覧日2022/1/19
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民法判例わかりやすいブログ総則物権編
民法94条2項の類推適用《意思外形対応型》(最判昭和45年9月22日判決)/民法94条2項と110条の類推適用《意思外形非対応型》(最判平成18年2月23日判決)
suzuki kenji
更新日2021/9/16
閲覧日2022/1/19
https://orange.suzukikenji.com/2015/03/06/post-1637/
田中謙次の宅建士&賃貸管理士試験ブログ
法律行為の取消しと登記 〜とくに民法96条による取消を中心に〜
更新日2014/2/20
閲覧日2022/1/19
https://kenjitanaka.hatenablog.com/entry/2014/02/20/153000
スタケンBLOG
【宅建民法を攻略】公信の原則〜見た目を信じちゃいけないの?〜
田中謙次
更新日2020/9/18 閲覧日2022/1/19
https://owners-age.com/star-takken/blog/sokujishutoku/
三井住友トラスト不動産
不動産売買の法律アドバイス
更新日2020/5/??
閲覧日2022/1/19
https://smtrc.jp/useful/knowledge/sellbuy-law/2020_05.html
相続弁護士ナビ
相続欠格とは|相続権を失う5つの事由や相続廃除との違いを解説!
更新日2021/3/29 閲覧日2022/1/19
https://souzoku-pro.info/columns/other/55/
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下山孝明
19J110021 下山孝明 相続法
テーマ 相続と登記
結論 登記におけるより積極的に競争原理を取り入れるべきだ
公示の原則と背信的悪意
公示の原則とは第三者に物権変動の公示が為されていない時、その物権変動を無かったものとして扱うものを言う。民法176条では物権の設定及び移転は当事者の意思表示のみによってその効力を発生する。意思主義の根拠条文である。だが現実的な問題としてその意思表示は第三者にとって所有権は取得されているかどうかを知り得ることが出来ない。ここで民法177条は取引の安全性を保つための趣旨をもっている。こちらは形式主義の根拠条文である。初期の判例の無制限説的には不動産に関するすべての物権変動に登記を要すれば公示の目的が達成されるとしている。そしてここでの「対抗することができない」とは登記を持たざる場合は第三者に抵抗できないと言う事実が所有権移転登記を速やかに実行する動機となるからである。これを対抗要件主義という。また動産でも対抗要件主義は定められているが、占有改定を行えば動産が現実世界では動かずとも引渡しがあったこととなるため、公示の原則は機能していない。以上のことを踏まえると意思主義と形式主義が民法において対立しているようだが、意思表示の手段として公示が必要とされると言う点において我が国では意思主義の立場をとっていることがわかる。
次に177条の第三者とは誰のことを指すのだろうか?その主観的範囲において第二譲渡や第三譲渡された悪意者も含まれるのだろうか?
177条には主観的要件の制限はなく、第三者が悪意か善意かは問われないがしかし、ここで第三者に悪意者を含めないことは、不動産取引の自由競争を妨げないようにすることが目的であるとも取れる。しかしながら、害意を有するものが不動産取引に関わることは取り引きの安全性を脅かすことから、判例は背信的悪意者排除論を採用している。具体的には不動産登記法5条の詐欺または脅迫によって登記の申請を妨げたものと他人の為に登記を申請する義務を負う第三者であり、これらを類推適用している。また実質的な当事者性が認められる者、害意を有する者である。次に議論が活発なのは背信的悪意者の転得者である。この場合では第二譲渡は無効とならないが、各人ごとに背信的悪意者を判断するため相対的構成をとり、背信的悪意者であっても保護される場合がある。
また、転得者は登記の援用を行えると言う議論もある。しかしながら相対的構成は最終的に譲り受けた背信的悪意者が、善意者から土地を譲り受けた場合に被譲渡人が悪意者として排除された場合善意者に解除権を行使する可能性があるそうした場合善意者は必ず背信的悪意者を見抜いた上で取引を行わなければならず、これは不可能である。
どこまで悪意者の介入を認め自由競争を促進するのかここに疑問が上がる。単純悪意者排除説は自由競争を即是としない点で対照的である。具体的には自由競争の範囲をどこまでにするのかと言う点で背信的悪意者排除説と異なっている。また背信的悪意者排除説の背信とは公序良俗に近い様な規範の要件の為、背信性の無い悪意者つまりは取引を妨害する気はないが、取引の成立前になんとか土地を欲しいと欲した単純悪意者は排除するのかしないのか、その点で議論がある。
以下浅学な私の意見である。これは全てに通じるが日本の法は総じて曖昧であると感じる。この曖昧さは柔軟に対応できる強さはあるが、上述した様にいろいろな事象が関わった場合誰の利益をどう言った概念で優先するのかが錯綜し多くの学説的対立を生み出している。また、民法では基本的にドイツ法の形式を見習いながら、物件においてはフランス法の意思主義をとっている。そして悪意者をどこまで認めるのかという点においては、競争を大いに認めるべきである。土地を持つ者は177条によって公示が勧められているのだから競争に置かれていることを意識し単純悪意者と競争することを覚悟するべきである。
公信の原則と民法94条2項類推適用
公信の原則は公示を信頼して取引を行なった者はその物件をあるものとして扱うことのできる原則である。この原則は公示を積極的に信頼した者を保護する為の原則である。公示の原則において外に示された関係性の意義を確保する役割と、動産変動において十分に機能しない公示の原則を機能させるためのものである。引き渡しの公示の効力は弱く、取引を安定させるものである。しかし不動産取引では登記に公信力を持たせることはできない。根拠条文は192条の即時取得である。
我が国では公信力を不動産登記に持たせる必要性は動産ほど無いとしている。
次に、公信の原則と民法94条2項類推適用について述べる。不動産取引においては無権限取引において活用される法理である。無権限取引は対抗問題ではない点で177条の問題とはならない。しかしながら、第三者保護の必要性から、民法94条二項の類推適用を行うのである。それはこの法が権利外観法理を最も表現しているからである。
真の権利者が外形を作出していた場合実質的には通謀虚偽表示のように考える。また、外形一部作出型と外形与因型では、権限外の行為の表見代理の規定である110条も交えて判例は結論を出した。110条をも交えて結論を出すと第三者の保護において善意だけでなく無過失までも要求される。
時効と登記
不動産を時効取得するには所有の意思を持って平穏かつ公然に目的物を占有することが必要である。占有期間は善意無過失の場合10年。悪意あるいは善意有過失の場合は20年である。時効は占有を基礎として成立するので暫し登記との関係性が問題となる。時効完成前は未登記でも占有者は登記に対抗できる。時効完成後は177条の適用を認めて登記を対抗要件にすることを認めている。
例えば二重譲渡の場合である。時効の援用を用いれば占有者は登記がなくても登記を持っている人物に対抗ができる。しかし本来登記が出来るのにしていないという点に177条の公示の原則に反していて帰責性がある。この場合登記が考慮されないのは競争原理から考えれば不合理である。判例では所有権の事項取得では悪意の対象を規範においての背信性ではなく占有の事実の認識としておりこの点で悪意認定の基準を緩和している。悪意者よりも登記可能性が優先される。これは競争原理を優先する観点からすればおかしくないか。意思主義を取る日本では公示の原則は意思の表示の手段である。登記具備は強制されるものではないが、優劣判断の基準としては大いに鑑みられるべきである。従って、第三者の悪意者の範囲を広げることなどはせず背信性がある場合を除き競争を活発化させるべきである。
取り消しと登記
判例は取り消しの時点の前後によって結論を変えている。取り消し前の場合は第三者が善意無過失である場合に限り、第三者を96条3項の取り消しの遡求効により保護する。判例は善意無過失者の登記の必要性において登記を要しないと解している。被詐欺者には一定の帰責性が認められるからである。登記を必要とする場合は権利保護資格要件としての登記である為、対抗要件とはまた異なる従って96条3項の第三者に適応するための登記である。取り消し後の登記の場合は第三者との二重譲渡の関係性が浮き上がる為177条を適用し対処する。取り消しを行なったものと転売を受けたものの対抗要件として登記が必要とされる。
しかし121条の取り消しの効果は初めから無効とみなすもので、取り消しの後に177条での対抗要件を見出すと矛盾してしまう。また第三の悪意者も保護されることとなる。そして前後で判断が変わるのは難解な理論である。その解決策として無権利法理が適用される。
相続させる旨の遺言と遺贈
相続させる旨の遺言は1014条二項に基づくもので、特定財産承継遺言と呼ばれる。現在相続させる旨の遺言が実務では使用されることが多い。これは内容の解釈によって遺贈又は、遺産分割の方法と解される。原則としては遺産分割方法の指定と解される。甲を相続する際に相続人Aと他の相続人Bが共同相続の登記をしたとしてその持分権をBの債権者Cが差し押さえた場合Aは899条の2により対抗するには登記が必要となる。これは相続債権者や不動産の取得者などが不足の損害を被る恐れがあったからである。
遺贈は964条に基づく遺言を残していた場合甲土地の所有権が故人より移転される。登記を移転せずに相続した相続人が他の相続人によって第三者に譲渡された場合、相続人は登記を対抗要件として必要とする。
相続させる旨の遺言と異なり、相続人以外の第三者を受遺者とさせることもできる。この場合は受遺者と相続人全員が共同で申請をする。だがこの場合相続人と第三者の受遺者間で相続争いが起きた場合対抗要件なくして権利を主張できるが、これはおかしい、一律に対抗要件を必要とすると定めたのであるから受遺者である第三者を身内と捉えず、177条に基づいた対抗要件をみとめるべきである。遺言執行者が選ばれている場合は遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を執行人が有していて、相続人はこれを妨げてはならない。またこの場合も他の相続人は登記を必要とする。
遺産分割協議と第三者
具体的には第三者が持分権の差し押さえを行なった場合である。
遺産分割協議の前後のどちらの時期に第三者が登場するのかによって、判例は区別している。遺産分割協議の前に第三者が現れた場合は909条但し書きが適用されるために遡及効が制限され、登記を持った第三者が保護される。
遺産分割協議後の場合は遡及効が制限されず899条の2第一項が適用され、登記が対抗要件となる。
なぜならば相続による承継があったとされるからである。
相続放棄・相続欠格・廃除と代襲相続、空家問題と相続登記義務化
空家問題と交えて考えていく。まずは相続放棄で初めから相続人ではなかったことになる。固定資産税の支払い義務からは免れるが、相続人全員が相続放棄した場合、財産管理義務は残る。
次に相続欠格となった場合は相続人となることができなくなる。廃除は推定相続人が被相続人に対して虐待、又は著しく侮辱した場合、もしくはその他の著しい非行があった場合は被相続人は廃除を要求できるというものである。廃除はこの様に被相続人が推定相続人を相続人として認めない場合そしてその事実が客観的に認められる場合に相続の資格を剥奪される点で、法的にも犯罪とされる事柄が由縁で剥奪される点で異なる。
代襲相続は被相続人(亡くなった人)の子供などの法定相続人が、死亡、相続欠格、相続廃除などに該当する場合に、その法定相続人の子供が代わりに遺産を相続する制度のことで、代襲相続が起こると相続人の人数変動が起きたり、誰が相続人なのか相続争いの元となる。
これらの点から空き家問題と相続登記義務化を論じる。空き家問題とは上述の登記と相続の問題と固定資産税・相続税と更地価格、登記申請の添付書面と共同申請主義が絡まり合う。先ず空き家問題が発生する原因として固定資産税が空き家にかかること、その土地に建物がある場合は、住宅用地の軽減措置特例がかるため空き家を放置した方が安く済んでしまう点がある。
相続税の面では小規模宅地等の特例は人が住んでいない空き家では適用できないことがあげられる。また相続税の評価は路線価方式がとられる。
また、相続の場合は登録免許税もかかる。また、こうした不動産の相続を望まない人は相続放棄を行うそれは取引の安全の為である。また、相続廃除や欠落遺族の生活保障の為、にあるがそうした事情から空き家を取り壊さず放置するケースが増えるしかし、現状を放置すれば国庫に帰属したとしても管理は追いつかない。そして空き家を手にしたい人物がいても被相続人の名義のままの土地は相続登記をしなければ売れず中古市場が滞る。また相続をわざと行わない所有者不明土地の増加も問題である。その土地は誰のものかわからないので売買ができない。また、公的書類にも期限があり、自分の不動産なのに書類が準備できなくなる場合もある。そういった現状の中、中古市場の流れを活発化させるために相続登記義務化は空き家問題の対策として生まれたものである。これは日本が新しく家を建て続ける段階から家を再利用する段階に入ったと考えても良いと私は思う。
では具体的に申請をする場合はどうなるだろうか今回の法改正では手順も改正され簡素化された。共同申請主義は登記によって直接利益を受ける登記権利者及び 登記によって直接不利益を受ける登記名義人をいう登記義務者の共同申請が登記を行わなければならないというもので、相続登記もこの原則を採用している。また、出頭主義も廃止しオンライン申請が可能になった。また、相続登記申請の添付書面は登記原因証明情報、住所証明情報、登記事項証明書、代理権限証明情報である。これらの公的書類のうち登記事項証明書はオンラインでの申請が可能になった。また、登記識別情報をなくした場合は本人確認によって確認される。しかしまだまだ、これらの簡素化では登記をするものにとっては不便なままでこうした煩雑な事務処理をさらに簡素化するか、専門家をさらに安価に雇えるようにする必要があるだろう。
また共同申請主義を採用する理由は共同に申請することで真正を保護するためであるから国家が介入し真正を保護することで単独の申請を可能にするべきではないだろうか。
出典 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00222.html
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html
民法概論 1 -- 民法総則 - 山野目 章夫
物権法[第2版] - 日本評論社。秋山靖浩 伊藤栄寿 大場浩之 水津太郎
小野田 匠
誤字が見つかり2回目の提出です。申し訳ございません。よろしくお願いします。
法学部法律学科3年14組19j114001 小野田 匠
結論 法や制度を知り、理解し、正しく活用することが大事である。
1公示の原則と公信の原則
公示の原則とは、権利関係の変動を外形的手段で外部に認識しうるように示すという原則をいい、不動産の所有権の移転や抵当権の設定のような物権の変動は、物権が物の支配を内容とする強力な権利であり、しかも取引の前提となる権利であるから、これを公示すべきものとされ、民法は、不動産登記法の定めるところにより、これを登記しないと第三者に対抗することができないとしている(民法177条)。すなわち、公示の方法として登記を対抗要件とするにとどめるので、物権の変動の当事者間では登記をしなくても物権変動の効果は生じるが、登記をしないとこれを第三者に主張することができないとする。第三者は悪意でも保護されるが、背信的悪意の場合は保護されない。背信的悪意とは、悪意と背信性(信義則違反)がある者で、民法177条によって保護されないとしている。
次に公信の原則とは、権利の外形を信頼した者を保護する原則をいい、動産の占有者には、所有権の外形としての占有があるので、第三者は、その占有者に所有権があるものと信じてこれを買い受けたときには、たとえその占有者が所有権を有していなくても、原則として所有権を取得することができる。これを善意(即時)取得といい(民法192条)、日常頻繁に取引される動産の取得者は保護される。一方、不動産の権利の外形は登記であるが、登記名義人が所有権を有しないとき、登記を信頼してその名義人から不動産を買い受けた者は所有権を取得することができない。すなわち、不動産については公信の原則は認められていない。ただし、真実の所有者が他人名義の登記を放置し、明示または黙示にその状態を承認していたときは、この名義を信頼して不動産を買い受けた者に対して、所有者は所有権を主張することができない(民法94条2項類推適用)。
2登記
登記とは色々あるがここでは、主に不動産登記についてである。不動産登記は,土地や建物の所在・面積のほか,所有者の住所・氏名などを公の帳簿(登記簿)に記載し,これを一般公開することにより,権利関係などの状況が誰にでもわかるようにし,取引の安全と円滑をはかる役割をはたしている。そして権利に関する登記を申請する場合には、申請書だけを提出すればよいのではなく、その申請が正しいことを保証するために一定の書類を添付する必要がある。この登記申請の添付書面の例として、登記原因証明情報やその内容、登記識別情報、住民証明情報、などが必要となる。また、登記の申請方法として共同申請主義を採用している。これは、原則として申請をするには登記権利者と登記義務者とが共同してすることを要するものである。例外として、相続による登記、登記名義人の表示変更の登記などは、登記名義人が単独で申請できる。これが採用されている理由は、登記の真正を担保するためである。
3登記と様々な問題
登記に関する問題の中で、ここでは時効と登記、取消と登記について取り上げる。
時効と登記について、まず時効取得は悪意の場合は20年、善意無過失の場合は10年間所有の意思をもって、平穏にかつ公然と、他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。この時効取得を原因とする物権変動にも177条が適用される。だが、状況によって時効による所有権の取得を主張するのに登記が必要な場合と、そうでない場合がある。登記が必要なのは、時効完成後に現れた第三者に対してである。だが、完成後に現れた第三者が背信的悪意者である場合は登記がなくても対抗できる。必要のない場合として、元の所有者との関係や時効完成前に現れた第三者、再度時効の成立に必要な期間を経過した場合が挙げられる。
取消と登記では、詐欺による取消か強迫によるものか、取消前の第三者か取消後の第三者かによって違いがある。例えば、A→B→Cの流れで土地が移転していき、AがBの詐欺を理由に取消す場合、取消前にC(第三者)にまで移転していてCが詐欺について善意無過失であった場合は、Cが保護されるためAは取消を理由にCに対抗できない。だが取消後にCに移転した場合は、ABの契約は取消されているため、契約は遡及的に無効となるため、Bを中心に二重譲渡の関係になり先に登記をしたほうが権利を主張できる。
先ほどの例で取消の原因が強迫であった場合、取消前にCまで移転していてもCを保護する規定はないため善意であろうと、Aは取消を主張できる。しかし取消後の第三者は詐欺の時と同じで、先に登記をしたほうが権利を主張できる。
4空家問題
空家問題とは、全国の空家数が年々増加していることで、社会問題の1つである。空家があることで、地域の景観の悪化、家屋の倒壊、不法占拠や放火などの犯罪リスクの増加、その土地や家屋が有効活用されないため機会損失を起こすなど様々な問題がある。
空家が増える原因は、家を所有している高齢者の身体が不自由になり、老人ホームや子供の家に転居することにより、空家が増える原因となる。これから団塊の世代が後期高齢者になるため、その傾向に拍車がかかるとされている。さらに相続問題や税制度も原因になっている。税制度上の問題では、固定資産税が挙げられる。不動産の所有者は固定資産税を負担している。固定資産税は、土地の上に建物が建っていると最大で6分の1に軽減される制度がある。そのため、建物が建っているほうが更地価格よりも安いため、建物を放置し続けることになる。これらが原因となって、空家問題が進行している。
空家問題の対策として、「空家対策推進に関する特別措置法」が平成26年に成立した。これは、空家の適正管理をしない所有者に対して、市区町村が助言、指導、勧告といった行政指導、勧告しても状況が改善されなかった場合は命令を出すことができる。そして、特定空家に指定されたのちに改善の勧告をされると固定資産税の優遇措置が適用されなくなり、家屋の撤去などもでき、その撤去費用は所有者が負担するといったものだ。その他の対策として、空家バンクという自治体や自治体から業務委託を受けた企業により運営されている空き家の所有者と空き家の購入希望者をマッチングさせるものや、空家管理サービスなどがある。さらに相続登記義務化が2024年に施行されることになった。不動産を相続した場合、その不動産の名義を亡くなった人から相続した人に名義変更する必要があり、この手続きを相続登記という。これは当事者の任意であるため、名義変更せず長年放置されることになり、これも空家問題の1つのである。そこで、3年以内の相続登記が義務化され、しないと10万円以下の過料が科せられることになるという法改正がある。また、家を相続する場合、空家でも相続税はかかる。だが、亡くなった人が生前住んでいた自宅を相続する場合は、一定の要件を満たすことで小規模宅地等の特例が適用でき、これにより相続税を節税できる。そこで、相続が起きる前に売却する、賃貸に出すなどすれば、節税もでき、かつ空家問題の解消につながる。
空家に対する法の成立、改正、自治体による動きによって改善が図られていると思うが、税制度の見直しもすべきでないかと思う。特定空家に指定されないように管理すれば、税は軽減され、結局そのまま空家になってしまう。相続登記も同じように登記さえしてしまえば、あとは同じような状況になる。だから、固定資産税の軽減率の調整や新たな税の仕組みを考える必要があると思う。しかし、税を多く課すことにより家を建てなくなる傾向になってしまう可能性もあるから、バランスの調整を慎重に行わなければならないと考える。
5相続
次は、相続についてみていく。まず相続とはある人が死んだときにその人の財産(すべての権利や義務)を、特定の人が引き継ぐことを言う。相続の方法として法定相続、遺言による相続、分割協議による相続がある。法定相続とは民法で決められた人が決められた分だけもらう相続で、亡くなった人の配偶者と、子か親か兄弟姉妹などである。次に遺言による相続とは、亡くなった人が遺言書により相続の内容を決める相続。最後に遺産分割協議による相続とは、相続人全員で協議して遺産の分割方法を決める相続である。遺言書がある場合は原則、遺言書に沿って相続し、ない場合は法定相続、また相続人全員で協議して、それぞれの事情に応じて分ける遺産分割協議による相続をすることになる。
相続方法についてそれぞれもう少し触れていく。まず法定相続について、配偶者は必ず相続人になり、血族は優先順位が高い人が相続人になる。第1順位は子および代襲相続人、第2順位は両親等の直系卑属、第3順位兄弟および代襲相続人となっている。また孫が相続することもでき、この場合を代襲相続という。代襲相続は、法定相続人である子が死亡しているとき、代わりに孫が相続することである。さらに相続する人によって相続できる割合が異なる。配偶者と子供が相続人である場合、2分の1ずつとなり、配偶者と直系尊属の場合は、配偶者3分の2、直系尊属3分の1になり、配偶者と兄弟姉妹の場合、配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1となる。なお子供、直系尊属、兄弟姉妹がそれぞれ2人以上いるときは、原則として均等に分ける。
法定相続人にあたれば誰もがその相続分がもらえるわけではない。相続放棄、相続欠格・廃除に当たる場合は相続できない。相続放棄とは、被相続人の財産に対する相続権の一切を放棄することである。すべての財産が対象なので、預貯金や不動産などのプラスの財産から、負債などのマイナスの財産も含まれる。また相続放棄をした場合、代襲相続はできなくなる。次に相続欠格とは、相続人が被相続人の生命を侵害するような行為をする、脅迫により遺言書を自分が有利になるように作成または修正させようとした場合には相続欠格に当たる。そうなると、法定相続人としての権利が剥奪される。最後に相続廃除とは、ある相続人によって虐待や侮辱行為がなされていた場合、被相続人は家庭裁判所に申立をすればその相続人の相続権を剥奪することが可能になり、これを相続廃除という。相続欠格は被相続人の意思には関係なく適用されるが、相続廃除は被相続人自らの意思で決めることができる点に違いがある。相続廃除できるのは遺留分を持つ、配偶者、子、父母の身になる。兄弟姉妹に財産を渡したくない場合、相続廃除は遺言書でも指定できる。これらの3つのどれかに当たる場合は相続することができない。
次に遺言による相続をみていく。遺言書には3つの種類がありそれぞれ決められた様式があり、様式の条件を満たす必要があり、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つである。遺言書によって相続するときの注意としては、相続させる旨の遺言と遺贈の違いである。相続させる旨の遺言は、特段の事情がない限り、何らの行為を要せず被相続人死亡時に直ちにその遺産はその相続人に相続により承継される。遺贈とは、遺言による財産の無償譲渡のことをいう。遺贈の場合、相続人以外の者も受遺者になることができる。また、受け取る物が不動産の場合、相続させる旨の遺言は、単独で所有権移転登記が可能であるが、遺贈の場合、受遺者と法定相続人との共同申請でしなければならないので、相続人の協力を得られないケースもある。さらに、相続させるという文言を用いた場合には、登記がなくとも第三者に対抗できるが、遺贈の場合は登記をしなければ第三者に対抗できないことに注意が必要だ。
不動産を遺贈によって、相続人以外に贈与する際に共同申請が必要なことに疑問を持った。不動産とは、財産の中でもとても大きなもので、それを相続人以外の人に渡すのだから、共同でしなければならないという考えは理解できる。だがそれでは、その人に遺贈したいという被相続人の意思が意味をなさない場合や、法定相続人に表面上は異論がないが実際に登記をしに行かないなどの場合があると遺贈の意味がなくなってしまう。なので、被相続人と法定相続人以外の人の関係が、ある一定の条件に当てはまる場合(不貞関係ではないなど)や法定相続人に特に異論がない場合などは、被相続人の意思を考慮して、遺贈をうけた法定相続人以外の人でも単独で相続できるようなルールがあってもよいのではないかと考える。
最後に遺産分割協議による相続。遺産を相談して分けることになった場合、遺産分割協議を行う。相続人全員が参加して協議を行うこと、協議の結果を書類に残すことが必要である。相続人が1人でも欠けた状態で行うと、その結果は無効になる。ここで気を付けなければならないのは、遺産分割協議と第三者の関係になる。不動産を例に考えると、相続が開始した場合、各相続人は法定相続分に応じた共有持持分を取得し、その後遺産分割をした場合には、その内容に基づき各相続人が遺産を取得する。民法909条によって、遺産分割をした場合その効力は相続開始の時に遡って生じるものとされ(遡及効)、被相続人から直接承継したことになる。さらに民法909条は第三者の権利を侵害することはできないとしている。このことは、遺産分割前に取引した第三者に適用される。例として、相続人A、Bが不動産を相続し、Aが共有持分を第三者Cに売却した後に、Bが取得するという遺産分割協議が成立した場合、遺産分割の遡及効によって、Cは無権利者から取得したことになり持分を取得できなくなる。そのため、このようなCを保護するために909条が第三者の権利を害することができないとしている。だがCが保護されるには登記をしていなければいけない。先ほどの例で協議の後にAがCに売却した場合は、BとCは対抗関係になり登記の優劣により決まることになる。
ここまで相続についてみてきた。相続は誰しもが経験することであるがゆえに、トラブルも多いと思う。実際多くの判例があり、中江先生の講義でも多く見た。こういったトラブルを起こさないためには、相続について知り、理解することが大事であると思う。実際相続する前になって、相続の制度について知るのは少し遅い気がする。この制度は見てきたように複雑なものも多く簡単ではない。だから、何かを通して1度知っておく必要があると考える。例えば、中学校で相続について詳しい人を招き講義をするなどして、若いうちから知ることが大事であると思う。これから先の時代、年金の問題などを考えると、相続はとても重要なものになる。自分たちが受け取るときだけでなく、託す時だって、トラブルがないように相続することがいかに大事であるかを知った。この相続法という講義を得てそのことについて知れたことは僥倖であると感じる。
参考文献
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公信の原則、公示の原則、共同申請主義
2
https://yonemoch.net/2017/09/16/attach/
3
時効と登記
https://smtrc.jp/useful/knowledge/sellbuy-law/2020_05.html
取消と登記
https://takken-success.info/b-90/
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空家問題
https://grand-next.jp/journal/2020/07/05/3368.html
https://www.akiya-akichi.or.jp/what/sochihou/
https://chester-souzoku.com/measures/empty-house-
5
相続
https://www.smbc.co.jp/kojin/souzoku/chishiki/chishiki01.html
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4132.htm
https://souzoku-pro.info/columns/souzokuhouki/24/
https://souzoku.vbest.jp/columns/2061/amp/
https://www.mc-law.jp/sozokuigon/22893/