「NPO法」制定の背景

 

20世紀までの近代社会を支えてきた枠組みの転換が起こりつつある。それは国民国家−Nation state システムの限界の露呈といってよい。国民国家とは、主権国家と領土(統一市場)、文化的共同体の三者の政治的統合として、近代のヨーロッパにおいて成立した社会システムであるが、この三者の組み合わせが近年、齟齬をきたしつつある。

まず、国内的には国民国家を維持すべく進められてきた所得再配分政策を中核とする福祉国家政策が財政の肥大化をもたらした。また、人々の価値観が多様化する中で、政府による均一的なサービスの提供は人々のニーズを充分に満たすものとは言えなくなってきている。特に日本の場合は急激な高齢化もあって、国家主導型システムの有効性への疑問が高まっている。加えて、経済的な成功がもたらした国際的な責任の増大と、円高とバブル経済崩壊の負担がもたらした不況により、単に政治改革、行政改革といったレベルでは解決がつかない状況があり、新しい社会の枠組みが求められている。

国際面でも19世紀以来、産業化がもたらす国力の格差の拡大の中で(第二次世界大戦後は冷戦体制の下で、アメリカ・ソ連の覇権の下で一定の秩序が保たれていたが)、冷戦の終焉に伴い、様々な局面で限界が露呈してきた。

第一に経済面でのボーダーレス化の進展と、文化面におけるアイデンティティ追求が国内市場と文化的共同体の統合を股裂きする状態の中で、文明の衝突というべき状況が各地で噴出している。第二は世界秩序を維持するためには、軍事力だけでは不可能で、国家間の貧富の差を縮小すべき国際的な再配分政策、いわゆる途上国援助と地球環境の保全といった地球レベルの社会政策が求められるようになってきているが、このためには主権国家の連合体である現在の国際機関では成果が期待できない。

しかし、国民国家を基本的な枠組みとする社会システムはそう簡単に消滅するものではない。当面は現在のシステムを軸にそれを補完するものとして、国際的には地域連合が、国内的には都市が部分的な役割を担うと思われる。そして、その状況の中でNPOが新しいパワーとして、一定の役割を果たすと考えられる。これは国家と社会の二面的構造というこれまで公的機構の当然の前提とされてきた官民の役割分担という基本的な仕組みの構造変革に通ずる。すなわち、公共的・公益的なるものを行政が独占する時代が終わったということを意味する。

実は公的なるものを行政が独占する仕組みは当の昔になくなっているのであるが、我々の頭の中には古典的な公益概念が残っており、公的なものは基本的に行政が担うものと考えてきた。そして、その隣に準公益的なものがあり、それは行政に準ずるような主体として公益法人が担い、後は営利活動だけと考えてきた。要するに公と民の中間的なものが制度上きちんと位置づけられてこなかった。

今後は、多種多様の形態の市民活動が活性化していること自体、すなわち地域の住民の自主的エネルギーが活性化すること自体が一種の公益性を持っているというくらい「公益」の概念を柔軟性をもって考え、NPOが住民に根差した発想で、社会ニーズに対応してゆくことが必要なのである。