価値座標軸

 

社会の変動は様々な現れ方をする。細かい事象が多く、ともすれば大きな流れがどちらに向いているのが分かりにくいことも多い。そういった場合、座標軸で価値観を分析して見ると、社会の諸事情が捉えやすいことが多い。

現在の社会変動も三つの座標軸で捉えて見ると、その動きがよく分かる。第一は集団的か、個人的かという座標軸である。これは哲学的に言えば、平等を重視するか、自由を重視するかの選択であり、社会保障の分野について言えば、高負担高福祉か、低負担低福祉かの選択の問題でもある。組織論で言えば、大きくて強い中央集権的な政府か、小さくて弱い地方分権的な政府かの選択の問題でもある。

第二の座標軸は生産者重視か、消費者重視かという座標軸である。明治以来、日本は貧しさから脱却するため、「富国強兵」をスローガンにして生産量を増大することに力を注いだ。そのために、生産し易くするための体制、即ち終身雇用・年功序列的な雇用形態や、高率投資をするための従業員への利益配分を少なくする方式、また、下請企業が親企業を頂点とするピラミッドの中で、継続的に長期間にわたって取り引きをする、いわゆる「系列取引システム」などを生み出した。これらは、生産者重視の価値観を重視したシステムである。逆に消費者重視の価値観を徹底すると、規制を撤廃し、市場を完全にマーケットメカニズムに委ねることになる。その結果、優勝劣敗が起こり、効率の悪い企業はどんどん倒産することになる。

第三は国際的か、民族的かという座標軸である。国際的な価値観を徹底すれば、デファクトスタンダードと言われる世界標準に極力合わせる方策を採ることになる。社会保障は極力国籍要件を撤廃し、外国人にも適用することになるし、第二次世界大戦は日本の侵略戦争であるという見方をとることになる。外交は対外協調的で、集団的自衛権は容認するという考え方になる。

民族的な価値観を重視すると、日本固有なものは国際的な慣行がどうであろうとも、断固として守るということになる。日本式経営、業界協調などは民族的なものとして断固として守るという立場になる。入国管理も強化して、極力外国人は排斥するといった考え方になる。第二次世界大戦は欧米列強や中国などに包囲され、やむを得ず行った防衛戦争という見方になる。

この集団的か・個人的か、生産者重視か・消費者重視か、国際的か・民族的かの三つの価値観をそれぞれX軸、Y軸、Z軸にとると、空間を八つの象限に分けることができることになる。今までの日本はどちらかというと、より集団的、より民族的、より生産者重視の象限に位置した。大競争時代の中で、日本はその社会の基本的なベクトルをより国際的、より個人的、より消費者重視の方向に以って行かざるを得ないだろう。

勿論、これらの価値の対立は人類の永遠の課題であり、どちらかよいといった結論がある訳ではない。しかし、今後の時代背景を考えると、基本的なベクトルより国際的、個人的、消費者重視の方向に行かざるを得ないのである。