猪股俊介

1. 結論

 

取消時効・相続と登記といった判例において、似たような考えのもとで似たような方法で裁けたなら理想的であるが、事の本質に触れてみると実は違うことも多く困難である。

 

 

2. 日本法における相続

 

日本民法は大きく総則・物権・債権・親族・相続 (親族法と相続法をまとめて家族法とする) 5つのパートに分かれており、相続はその中の最後の項として存在している。相続は被相続人の死亡によって開始する (882) とし、相続開始の場所は被相続人の住所である (883) と定められている。日本の相続のプロセスを簡略的に説明するならば、@被相続人の死亡、A遺産分割協議の実施、B分割の実行、C各相続人で分配 (登記を要する物に対する登記はここで行われる)、D遺産分割協議並びに相続の完了というようになる。その他相続に関する基本事項はその後の条文の通りなのだが、相続の中でもこと 「遡及」 という文言に関係がある条文といえば以下の二つがある。

 

909 [ 遺産分割の効力 ]

遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。

ただし、第三者の権利を害することはできない。

 

939 [ 相続の放棄の効力 ]

相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

 

さて、日本法の相続において若しも第三者の介入があった場合、この解決を考えるにあたって一本のものさしを提供している考え方が 「取消と登記」 の考え方である。この考え方は 「相続と登記」 の考え方のみならず、「時効と登記」 の考え方にも影響を与えている基本軸的な考え方なので始めに例題をもとにしつつ触れておきたい。

 

Aという人物がBという人物に不動産甲を売り渡した。Aは不動産甲を売り渡した後、この売買契約についてBに騙されていたことを知り取消請求をしたのだが、Bがほぼ同時にCに不動産甲を売り渡していた。不動産甲はAのもとに返ってくるだろうか。この時、Cは民法177条に基づき対抗要件である登記を備えているものとする。この問題を考えるにあたって重要なのは、CBから不動産甲を買い受けたのはいつなのかということである。そして、ここからが時効並びに相続と登記の考え方にも影響する 「一つの重要な出来事を軸に、その前後で考え方を変える」 という考え方である。本問における重要な出来事とは 「AB取消を申し出たのはいつか」 であるので、ABに取消請求をする前にCが買ったのか、それとも取消請求をした後にCが買ったのかで結論が変わる。もし、取消請求をする前にCが不動産甲を購入していた場合、この問題はABとの当事者間の問題として処理されることとなり、不動産甲はAのもとに返ってくることになる。これは、不動産甲こそCのもとにあるものの、所有権の問題はABの間に発生しているものであり、その所有権がBに明確に移転しなかったのだから、そのBから買ったCにも所有権は移転しないという考え方に基づいている。次に、取消の後にCが買った場合はどうだろうか (本問ではA取消請求をした際には不動産甲がCのもとに渡っていたとしてある。しかし、ここではA取消請求をしたにもかかわらず、Bのもとから登記を自己のもとに移さなかったため、BCに不動産甲を売り渡したケースとして考える)。その場合、この問題は対抗問題として処理され、登記を具備していたCが不動産甲を勝ち取ることが出来る。これは、Aが登記を自分の元に移すことが出来る機会を得ていたにもかかわらず、長期にわたりそれを行わなかったことに対するAの怠慢を認めたものであり、二重譲渡類似の考え方により処理すると考えられている。日本民法ではこういった 「権利の上に眠る者は保護に値せず」 とした傾向が強くある。

 

しかし、本問については若干の条件の付加・変更により結論が変わってくるということが多々あり、絶対の条件である訳ではないという点には注意したい。例えば、本問に 「Cは不動産甲を善意取得した」 という文言が追加された場合、例えABに騙されていたとしても不動産をCから取り返すことは叶わなくなる。これは、詐欺による意思表示の取消は善意の第三者に対抗することはできないという旨の条文 (民法963) により、人的抗弁の切断がなされたからである。また、ABに騙されたのではなく脅された場合はどうだろうか。この場合は、いかにCが善意であったとしても不動産はAのもとに返ってくる。同条文内にて人的抗弁の切断はされていないからだ。更に、もしAが制限行為能力者であったり無権利者であった場合はどうか。この場合は上とは見方に若干の差が生まれるのだが (本問は意思も問題であるから)、能力や権限の問題として扱われて不動産はAのもとに返ってくる。そして、こうした考えをもとに 「時効と登記」・「相続と登記」 の問題も同じように考えられ、前者における見分ける軸は時効が完成する時、後者における見分ける軸は遺産分割協議の完了とされている。

 

 

3. 相続と遡及効

 

さて、本章より話の本題である相続と遡及効の話に入っていくのだが、先の章でも触れた通り、日本民法相続法における遡及効が明示されている条文には909上と939条がある。ここで当然のように 「遡及効」 という言葉を使ったが、前もって本来日本の法律において遡及効は認められてはいないという点に触れておきたい。あえて認めるということはそれだけ特別な事柄なのである。

 

では、それぞれの条文を説明するべく、ひとつの判例を挙げてみよう。あるところに二人の息子の父親であるAという人がおり、その妻は既に他界しているとする。ある日、そのAが急に死亡することにより、Aの財産は息子であるB () C () に分割されることになるのだが、この弟Cは借金持ちであり債権者であるDという人を抱えていた。債権者DCの父親であるAが死亡したのをいいことに、了解もなく相続財産である不動産甲の登記を自分のところへと移してしまった。遺産分割協議では兄であるBが不動産甲の相続権を全て持っていた。この時、相続財産であった甲の所有権を取得するのは誰かという問題である。

 

この問題を考えるときに重要になってくるのは、債権者D遺産分割協議の前後どちらのタイミングで登記を自分のもとに移したのかということが一つ。相続財産は合有的に見られるべきか共有的に見られるべきかがもう一つである。遺産を合有的に見て、遺産分割協議前にDが登記を移した場合、909条より遺産分割の効力は相続の開始まで遡り、本来権利者保護 (当事者間の問題) の影響、並びに遺産は分割できないと考えることから不動産甲は全てBが受け取ることが出来る。合有的に見て、遺産分割協議後にDが登記を移した場合は、協議が終了しているにもかかわらず登記の移転を済ませなかったことにBの怠慢があるとして対抗問題扱いとし、先に登記の移転を済ませたDが不動産甲を全て受け取ることが出来るとしている。次に、遺産を共有的に見た場合、遺産分割協議後の結論は遺産を合有的に見た場合と同じになるのだが、遺産分割協議前の結論は 「遺産を分割して見ることが可能」 とする共有的な考え方により結論が変わってくる。この時、遺産分割協議前にDが登記を移した場合、本来権利者保護の影響が働きBにも相続権が認められるというところまでは同じであるが、Bが取得できる権利は法定相続分のみ (ここではBC2者間なので権利は半分) であり、残り半分は債権者Dが取得できるとしている。このように、遺産そのものをどのように見るのかで結論は変わってくる訳だが、判例では遺産を共有的に見る方法を採用している。また、本件についてC相続を放棄した場合はどうだろうか。もしCが遺産の相続を放棄した場合、その効力は相続開始の初めから及ぶことになり、Dがこの遺産相続に介入することは不可能となる。これは、Cが遺産分割後に債権者が登記を済ませた後に放棄した場合も同様の効力を持つ (つまり、遺産は全てBのものになる)

 

ここでなにが問われているのかというと遺産分割における民法909条の解釈についてである。909条は本文で分割の遡及効を定め、但書で第三者の権利を害することはできないとしている。そして、権利変動に遡及効を与える代わりに第三者を保護する規定の体裁は、解除の5451項や詐欺による取消の963項に似ていると判例は考えている。判例については先に紹介した通りであるが、考え方は宣言主義的に考えるのか、それとも移転主義的に考えるのかといった二つのものがあった。宣言主義は実に合有的であり 「被相続人の死亡前に遡り相続人の財産になったと宣言する」 とする遡及効を認めた考え方である。一方、移転主義は反対に共有的であり 「遺産分割協議の段階で相続人が各自の財産をお互いに移転し合う」 ということからも分かるように、遡及効を認めていない考え方である。そして、先の判例紹介時にも述べたように日本は移転主義を選択している。

 

これを見てふと疑問に思うことは 「相続の本質とはなにか」 ということである。取消・時効と同じようなものさしを用いて測れるとすると、その方がはるかに楽であると思われるからその方が良いのだろう。しかし、相続における遺産とは被相続人から相続人へと直接的に渡るということに意味があるのではなかろうか。それなのに、909条という条文には初めから第三者を保護するという規定が置かれており、相続という事柄の本質を覆そうとしている。相続財産は遺産分割協議によって移転されるとする移転主義的な考え方に反論はないが、遺産分割前に関与しようとした第三者を保護するという規定には疑問があり、取消時効と同様に考えるならば原権利者保護 (ここでは遺族の遺産所有権を絶対的に守ること) の立ち位置で考えるべきである。なにより、本件では弟Cが負債を抱えていたというところにも責があるものの、その債権の回収において親族が亡くなった方が得な場合があるなどという非道さを見逃すことは出来ない。よって、ここでは遺産を宣言主義的に見た場合と同様、第三者のもとに遺産の一部が移るといったことが起きてはならないのだと私は主張する。

 

 

4. 相続法のこれから

 

さて、前章では909条に対する疑問を投げた訳だが、判例に対する疑問は時効と登記の方でも起こっている。時効の完成を10年とした場合、時効完成前に買った第三者は保護されず、時効完成後に買った第三者は177条によって保護されるというのである。第一これが時効の問題でなかったとしたら、10年間という長期間の登記移転猶予があるという状況に疑問が残るし、判例を全面的に支援したとしても、占有期間が長い方が裁判に負けるという疑問が残る。そもそも、取消と登記の考え方を定規として当てているというが、本当にこれは似たような事案なのだろうかという本質的な疑問も出てくる。こうして見ると、似たような事案として裁断されている事柄も、実はそこまで似ていないということがはっきりと分かってくる (要は無理やり枠に当てはめて考えている)。確かに、一つの指標を持って多岐に渡る事柄を裁断できる万能定規があれば、それを利用しない手はない。しかし、いかに面倒であっても存在しない万能定規をあると言って偽るのは良いことではない。そう考えると、一つ一つの事案に即して個々別の対応をするという私の考え方は、どことなくアメリカの判例法主義的であるのかもしれない。だが、曖昧な定規数本よりも、事案に即して正確に測れる定規多数の方が間違いなく良いと私は考える。

 

また、若干相続からはずれてしまうものの、日本法における物権変動を考える際に登記に公信力を持たせることは不可能なのだろうか。動産においては外観法理と取引の安全を認める公信の原則の下、民法192条により即時取得が認められている。これについては、動産が文字通り動かすことが出来るものであるということも大きく関係しており、所有者の所有権を全面的に認めた上で行動しないことには始まらないという側面も確かにある。しかし、これを不動産にしたというだけで出来なくなってしまうのはどうしてなのだろうか。公示の原則から来る登記制度のもと、売買は役所を通してのみ可能としたり、相続においては 「登記名義人の変更なくして、不動産財産は相続されたとみなさない」 とすることで、明確に登記の移転が行われるようなシステムを作ることは出来るはずである。これは形式主義を採るドイツ法の登記制度にヒントを得たものであるが、日本がフランス系の意思主義を採るとしたところで、意思主義と形式主義のハイブリッドのような考え方が生まれてはならないということにはならない。ただ、この場合は登記に全面的な効力を認めるとするドイツ法のあり方をそのまま持ってくるのではなく、権利の移転は明確に、且つ悪意者にあたるものとの取引は徹底的に排除するという考え方 (取消の有効化) にすることで、より正義の実現がなされるものと考える。一つの手間がかかるということは一見マイナスであるが、その後無駄な争いは生まないということを考えれば、同時に権利の明確さが証明されることを考えればプラスの要素も確かに存在するのだ。

 

余談ではあるが、近年日本の相続に関して変わったことといえば相続税法改正があった。基礎控除等並びに贈与税に関してもなかなかの変更がなされており、今後今までよりも多くの人が相続という事柄の深いところまで関係してくるのは間違いない。無論、消費税を含め国の無駄を省くことにより、税金を上げる必要性はないと説くことも出来る。ただ、必要があるから法律を変えたということ一点にのみ注目すれば、法改正により現行法の間違いを正す機会というのも、これから十分にあると考えられる。現に、今は先年より日本民法の大改正が行われており、既存の法律が大きく変化しようとしている局面である。どのような内容が、どの程度変わっていくのかは分からぬが、今後の日本法がより現代的に、よりプラグマティックなものに変化していくことを祈り、 本レポートの締めとする。

 

以上

 

 

< 目次 >

 

1. 結論

2. 日本法における相続

3. 相続と遡及効

4. 相続法のこれから

 

 

<参考・引用に用いた書籍、又はサイト >

 

授業ノート

六法全書

民法T・W [ 内田貴 著 / 東京大学出版会 ]

別冊Jurist 民法判例100選T・家族法判例百選

 

先年までの中江先生の講義レポート課題

http://amazonia.bakufu.org/zidai.htm

 

遺産共有の法的構成 (PDFファイル)

http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/17064/1/11(2)_p28-72.pdf

 

遺産分割の効力・・・分割の遡及効について [宣言主義と移転主義]

http://rikeishoshi.blog62.fc2.com/blog-entry-103.html

 

公示の原則と公信の原則

http://civil-law.jimdo.com/ より

 

 

 

 

歌門律香

「私は遡及効を法定果実にも認めるべきであると考える」

 

第1章身近になった相続税

 相続の事案で気になることは、自分の相続分がいくらなのか・相続税がどうなるのかという点である。相続税法改正が行われ、にわかに近年身近な税金になってきた。

 相続税とは、亡くなった人の財産を相続したり、亡くなった人から財産の贈与を受けた場合に、相続した人や贈与を受けた人に対して課税される税金である。相続税は、亡くなった人の財産が基礎控除額を超えた部分に課税される。

 では今回相続税のどこが改正されたのか。1つは、基礎控除である。改正前の法律では、この基礎控除が「5000万円+1000万円×法定相続人数」だった。しかし、平成27年1月1日以降に開始した相続案件からは、「3000万円+600万円×法定相続人数」となり4割も減額されることになった。

 例えば、相続財産が5000万円で、被相続人が父で相続人が母と子1子2の3人である場合。改正前の法律では、5000万円+1000万円×3人=8000万円となり、相続財産が5000万円なので基礎控除額を下回る事になる為相続税は発生しない。しかし、現行の法律では基礎控除額は3000万円+600万円×3人=4800万円となり、相続した財産が5000万円なので基礎控除額を上回る為相続税が発生する可能性が出てくる。

 被相続人にとっては、必死で頑張って稼いだ財産であり、相続人にとってはせっかくもらえることになった財産であるため、相続税はできるだけ少なくしたいというのが本音。注意すべき点もいくつかあるが、毎年こつこつと親から子へ財産の贈与を行うなど節税対策を早めにとるのが重要になってくるだろう。

 

第2章遺産分割

 相続分を決める主な手段として、遺産分割がある。これにより、相続により遺産に生じた共有関係を解消することができる。遺産分割は原則として当事者が協議により行う。この場合の当事者とは、共同相続人だけでなく、包括受遺者・相続分の譲受人及び遺言執行者ある。当時者が1人でも欠けた場合、協議は無効となる。協議が調わない時や協議が出来ない時は、家庭裁判所の遺言の分割を請求し、調停や審判で決定する。

 遺産分割をする際3つの注意点・ポイントがある。1つは、相続人となるものが胎児である場合。民法では胎児は既に生まれたものとみなされる(886条)。しかし死体で生まれてきた時は当事者とはならない。生きて生まれてきた時にはじめて相続人として特定されるため、胎児が生まれる前に為された協議は無効となる。2つ目は、協議による遺産分割は、当事者全員の合意があれば被相続人が遺言により指定する遺産分割方法に反するものも、法定相続分に反するものも有効になる。3つ目は、協議に錯誤(95条)、詐欺・強迫(96条)があった場合、無効や取消が認められる点だ。

 また、遺産分割の大きな特徴として、遡及効が認められる。遺産分割が為されると共同相続人の共有状態にあった遺産の帰属先が決まり各共同相続人の単独所有になるが、その効力は相続開始時に遡って生じる(909条)。

 遺産は被相続人から各相続人に相続開始時から継承されていたものと扱われるので、遺産分割はどの遺産が誰に帰属していたのかを宣言するものとみる見解(宣言主義)と、遺産分割は共同相続人の共有状態にあった遺産の持分が各相続人に移転されることで単独所有となったものとみる見解(移転主義)の対立がある。

 歴史的には明治民法は宣言主義を採用していたが、戦後の民法改正の中で民法909条に但書が設けられ第三者の権利を害することはできないとする、遡及効を制限する規定が設けられたことで宣言主義の意義が薄れたと考えられている。

 相続発生から、遺産分割完了まで時間を要することが多く、一部の相続人がその間に特定の相続財産についての自己の持分を第三者に譲渡してしまうケースがある。このような場合において第三者への譲渡を無視した遺産分割が行われかつその遺産分割に遡及効が認められてしまえば、第三者への譲渡も遡って効力を失ってしまう。これを防ぐために、遡及効の制限を設けている。もっとも、第三者において、遺産分割の遡及効の制限を主張するには、譲り受けた相続財産について登記などの対抗要件を備える必要がある。

 

第3章遡及効の必要性

 第2章で述べた通り、遡及効により遺産分割の効力は相続開始時(被相続人が亡くなった日)に遡って生じる。例えば、遺産分割協議を行ったのが相続開始から10年後の日であったとしても、相続財産を取得した日は協議が成立した相続開始日から10年後の日ではなく相続開始日からとなる。民法は、共同相続人が遺産分割協議によって取得した相続財産は被相続人から直接もらったものと考えている為だ。

 私は相続したものが賃貸建物だった場合相続開始時から遺産分割協議終了時間に発生した収益なども自分のものになり良いと考えたが、遡及効は法定果実の前までしか認められていない。法定果実そのものは相続財産ではない為、未分割時の共有としてのその賃料に係る所得は遡及変更されないと定められている。遺産の分割と果実の分割、2つの争続が発生しかねない為法定果実についても、遡及効を認めるべきであると私は考える。

 

第4章持ち物に名前を書くこと

 「自分の持ち物には名前を書きましょう。」と一度は誰もが言われたことがあるだろう。じぶんの持ち物に名前を書く事によって「この傘は自分のものだ。」とアピールすることができる。アピールをしなければ誰かが間違えて自分の傘を持って行ってしまう可能性もあれば、自分の知らない所で取引されてしまう可能性もある。だからアピールをする。このアピールが公示の原則である。公示の原則とは、物権変動があった場合公示をしなければ自分のものだと主張できず、物権変動があったとは認められない。権限を第三者に主張する為に必要な行為(対抗要件)である。

 一方虚偽である公示を信頼して取引をしてしまった第三者を保護する為に公信の原則がある。公信の原則は不動産の取引については認められていない点に気をつけなければならない。

 不動産は動産に比べて高価であるのが通常。よって、動産と比べて取引が頻繁に行われるとは言えない。すると、取引関係に入る者が動産に比べて少ない事になる。そこで、動産に比べて取引の安全性を図る必要性は低いと考えられる。さらに、不動産は登記という明確な公示方法が取られている。よって、事実と異なる公示がされる可能性は動産に比べて低くなり、事実と異なる公示を信頼したものを保護し、取引の安全性を図る必要性は低いと民法は考えているからだ。

 

第5章相続で一番もめるところ

 相続をめぐる問題で一番もめるのは、遺産である不動産を管理していた相続人が、他の相続人に内緒で自分名義に登記したりあるいは他に売却してしまうケースである。その結果他の相続人は相続権を侵害された事になるので、これを救済するために相続回復請求権を侵害された者に認めている(民886条)。問題は時効である。相続回復請求権は、相続権の侵害を知った時から5年、または相続開始の時から20年経つと時効により消滅してしまう。ちなみに、遺産分割請求権は時効消滅することはなく、遺産の共有関係が続く限り存続し続ける。

 相続をめぐる判例を簡単に紹介しようと思う。

昭和47年09月08日最高裁判決
D
の死亡によりD所有の土地について、遺産相続が開始しEF・上告人A1・上告人A2・上告人A3の5名が共同相続した。数年後Fが死亡し、GHIJKの5名が同人の遺産相続をした。ED死亡時D家の戸主であったので当時は家督相続制度のもとにあった関係もあり、家族であるDの死亡による相続が共同遺産相続であることに想到せず、本件土地は戸主たる自己が単独に相続したものを誤信し、自己が単独に所有するものとして占有し、その収益は全て自己の手に収め地租も自己名義で納入してきたが、長男である被上告人に贈与して引渡し被上告人もE同様に単独使用者として占有しこれを収益してきた。一方前記亡F・上告人A1・上告人A2・上告人A3らはいずれもそれぞれDの遺産を相続した事実を知らずE及び被上告人が本件土地を単独所有者として占有し、使用収益していることについて全く関心をよせず異議を述べなかった。

 本件土地は誰のものになるのかという問題であるが、私は当時家督相続制度のもとにあったとしても亡F・上告人A1・上告人A2・上告人A3らは、Dの遺産を相続した事実を知らなければE及び被上告人に異議を述べる余地はないと考え、本件土地は亡F・上告人A1・上告人A2・上告人A3そしてFの相続人GHIJKで再び遺産分割すべきだと考える。

 しかし、最高裁判所の判決では共同相続人の1人が単独に相続したものと信じて疑わず、相続開始とともに相続財産を現実に占有しその管理・使用を専行してその収益を独占し、公租公課も自己の名でその負担において納付してきており、これについて他の相続人が何ら関心をもたずもとより異議を述べた事実もなかったような場合においては、前記相続人はその相続の時から自主占有を取得したものと解するのが相当であるとなった。

 

第6章相続放棄

 いままで相続で与えられた遺産をどのように分割するか、どのように得るかを問題にしていたが、与えられた遺産が必ずしも自分にとってプラスになるわけではない。借金や滞納金など受けとりたくない財産もある。そこで相続放棄という文字通り相続を放棄する手続きだ。相続放棄をすると、相続に一切関わる必要がなくなりその結果として借金や滞納金などのマイナスの遺産を引き継がずに済むようになる。

 相続放棄を行う場合注意すべき点がいくつかある。1つは、プラスの財産も引き継ぐことができなくなる事だ。また、相続放棄が完了すると後から撤回する事ができなくなるため後に某大な財産が見つかったとしてもその財産を引き継ぐことはできない。2つ目は、放棄をするとほかの相続人に相続がまわっていく事だ。誰も相続に関わりたくないのであれば、第一順位から第三順位までの全ての相続人が放棄する必要がある。相続放棄は裁判官の審判を経て完了する「公的な手続き」であるため、遺産分割のように相続人どうしの話し合いや「私は相続に一切関係ありません。」と一筆書いて相続人に渡す方法では無効になることを忘れてはいけない。

 

第七章 まとめ~遺言の強制力~

 相続をする間、様々なところで争いが起こることがわかった。その争いを防ぎ安全な取引を行うために遡及効や、公示の原則・公信の原則など様々な決まりがある。しかし争続を防ぐための一番の方法は遺言を書くことだと私は思うのだが、遺言をかいても争いが起こるのは何故だろうか。そこで遺言の仕方に注目してみた。

 遺言の仕方で失敗しがちなのが、鉛筆など消して書き直せるもので書いてしまった場合や、誰がどの遺産をもらうのか明確でない場合や遺留分が侵害されている内容である場合、自分の意思で遺言を作成したのかどうかがわからない場合があげられる。遺言をせっかくかいても、仕方を間違えてしまえば無効になってしまったり争続が発生するためしっかりと調べてから書きたいものである。

 また、遺言の全てが法的強制力を持っていない事を忘れてはいけない。法的強制力があるのは、財産処分・相続人の廃除または廃除の取り消し・認知・後見人及び後見監督人の指定・相続分の指定または指定の委託・遺産分割方法の指定または指定の委託・遺産分割の禁止・相続人の相互の担保責任の指定・遺言執行者の指定または指定の委託・減殺方法の指定の10項目である。

相続税法が改正され相続についての案件が増えると予想されている中、遺産分割の方法や遺言のしかた、時効などを積極的に学び極力争いが起こらない相続をこころがけることが被相続人の責任であると考える。


出典:『「家族法」 中川淳・小川富之 編』
   『「もめたら損する 遺産相続」 大神深雪・木村俊治』
   『「民事・刑事 時効 あなたは損する人か?得するひとか?」 長戸路政之』
      
   http://sozokutouki.com/faq/09.html

   http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/999/051999_hanrei.pdf

   http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51999

   http://www.meiji-houmu.jp/knowledge/index.html

   http://www.shihou.cc/blog/2009/02/10/846/

   http://www.daizo3.com/old/kou/minpou/fudosan.html

 

 

 

 

木村 勝

自分の考え  私は相続法の場合においては法律不遡及の原則の立場をとりつつも、限定的に遡及効を認めていくべきだと考える。

 

1 問題の所在

 まず、相続と遡及効の問題の所在を明らかにしていく前に、「相続とは何か」というところからみていくことにする。

 相続とは、自然人の財産法上の地位または権利義務を、その者の死後に、法律および死亡者の最終意思の効果として、特定の者に承継させることをいう。

 相続の根拠としては、以下の3つがある。

      生活保障としての相続

国家は、私人の生活条件に干渉しないという見地から、所有者を失った財産をただちに国庫に収納するのではなく、財産の所有者およびその財産に依拠して生活してきた者にその財産を委ねる。この相続により、被相続人の配偶者・子などは従来と変わりなく安心して生活できる基盤を保障されるのである。相続法は、相続による生活保障の機能を、相続人の範囲や順位(886条から890条まで)、法定相続分(900条)、遺留分に関する規定(902条ただし書、903条3項、964条ただし書、1028条以下)によって担保している。

      取引の安全を保障するものとしての相続

   取引の当事者が死亡したことにより、債権や債務が消滅してしまうとすれば、相手方は死亡という偶然の事情によって不測の損害を被ることになる。そこで、死亡によって相続が開始されると(882条)、相続人は被相続人の財産に属したいっさいの権利義務を承継することとして(896条本文)、相続に取引の円滑・安全性を保障する機能を果たさせている。もっとも、被相続人の一身に専属するものは相続されない(896条ただし書)。また、上で述べた相続人の生活保障と第三者の取引の安全との調和を図った規定も設けられており、(909条ただし書、1031条など)、第三者に不測の損害が生じないよう相続放棄等には家庭裁判所による手続きを要求するなどして相続の状態を 明確化している(938条)。

      相続人の潜在的持分の実現としての相続

 被相続人名義の財産といっても、その形成にあたっては、さまざまな家族の協力がなされているのが通常である。すなわち、家族は相続財産に対して実質的には持分を有していると考えることができる。相続は、被相続人の財産に潜在している家族の持分を具体化する機能を果たす。相続人は、財産形成に対する自己の貢献が相続によって反映されるとともに、その生活を保障され、被相続人と一緒に築きあげてきた財産が受け継がれていくことになる。

 

以上が相続の概要である。では、相続と遡及効はどのような場合に問題になるのであろうか。主に問題になるのは遺産分割の場合と相続放棄の場合である。以下、まず相続と遡及効に絡む問題を検討し、次に日本の社会保障における現状について言及し、最後に自分の結論を述べていくことにする。

 

    2 相続と遡及効

  

(1)遺産分割と遡及効

 

 遺産分割の効力について、909条は本文で分割の遡及効を定め、但書で「但し、第三者の権利を害することはできない」と規定している。このように権利の変動に遡及効を認めるというのは、取消と登記や時効と登記の問題にも生ずる。そこで、まず簡単に取消と登記、時効と登記に触れてから、相続と登記の問題について検討する。

取消と登記の場合

取消と登記の場合は、取消の前後で分けて考え、取消前には96条3項が適用され善意の第三者が保護される。取消後には対抗問題として考え177条を適用し対抗要件を備えたほうが勝つとされている。これが判例でもあり通説的見解である。

時効と登記の場合

例えば、Aの土地をBが善意・無過失で10年間占有したとする。このとき、BAに対して時効を主張するのに登記は不要である(162条)。時効完成前にAから土地を譲り受けた第三者との関係でも登記は不要である。時効完成後に現れた第三者との関係では、AからBAから現れた第三者に土地を二重譲渡されたような関係となり、対抗問題となる。この場合には177条が適用され、登記を先に備えたほうが勝つことになる。このように時効と登記の場合も時効完成の前後で分けて考えるのが判例である。しかし、このような判例理論には有力な批判がある。

それは、時効完成後の方が、Bが長く占有しているのに、時効完成の後に第三者が現れ登記を備えてしまえば負けるというのはおかしい、というものである。たしかに、占有期間が長いほうが負けるというのは占有を尊重する立場からは不当のようにも思える。しかし、時効完成後に登記をすぐに備えなかったBにも問題がないとは言い切れない。やはり、権利の上に眠るものは保護しないという法諺のように判例を支持すべきだと私は考える。

 

※仮に判例のように時効完成後に登記を必要とした場合でも、占有者は善意・無過失であるから登記を移そうということなどをそもそも考えないのかもしれない。しかし私はここであえて言及したいのは、そのような権利意識の希薄さ(多少なりとも法意識があれば少なくとも占有開始時に占有者は法務局等で登記を確認するだろう)によってこのような問題が生じているということである。この点につき、川島武宜は著書「日本人の法意識」において興味深い議論を展開している。

 

 以上を踏まえた上で遺産分割と遡及効を検討する。まず、909条をどのように解釈するかについては、二つの考え方がある。分割の効力に遡及効を認める宣言主義と遡及効分割の効力に遡及効を認めない移転主義である。事例を踏まえて考えていくことにする。例えば、Aが死亡し、Aの相続人B,Cが協議の結果、A所有の不動産はBが相続することになったが、Cが当該不動産をDに売却し、Dが登記を備えた場合である。分割協議の後に第三者Dが現れた場合、対抗問題で処理されるのは宣言主義移転主義のどちらの考えをとったとしても変わらない。問題は分割協議前に第三者Dが現れた場合である。宣言主義の考えに立脚した場合、相続開始により合有的な相続の状態が生ずると考え、遡及効を認めるため、確定的にBが勝つ。これに対して移転主義の考えに立脚した場合、相続開始により共有的な相続状態が生ずると考え、分割の効力に遡及効を認めないため、事例の場合、Bの相続分だけBが勝つということになろう。判例は移転主義を採用している。移転主義に関しては、909条の規定に反するものだという批判もある。しかし、現実には相続開始から遺産分割まで相当の時間を要するのが通常で、その間に生じた果実等も遺産分割の対象となりうる。このような実情を踏まえると、遺産分割は共有状態を前提に、各相続人がそれぞれの共有持分を譲渡する、という移転主義の考え方が妥当であると私は考える。

 

(2)相続放棄と遡及効

 

 相続人には自らの意思で相続しないことを選択する自由が認められている。これを相続放棄という。たとえば、被相続人の積極財産が1,000万円で債務が2,000万円とすると、単純承認した相続人は債務超過となっている1,000万円分を相続人自身の財産から弁済しなければならない。これでは相続によってかえって損をする。このような場合に相続放棄がなされる。そして、939条には「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」と規定されており、相続放棄の効果として遡及効を認めている。

 相続放棄に遡及効を認めることで問題になるのは、取引の安全との関係である。事例を踏まえて考察していくことにする。例えば、Aが死亡しBCが相続人となった。C相続放棄をしたが、その旨の相続登記がなされる前に、Cの債権者Dが、A所有の不動産についてCが2分の1の持分を有するとしてCに代位して所有権登記をし、これを前提に仮差押登記を経由した。この場合、BC相続放棄の効果をDに対抗できるかが問題となる。BC共同相続の場合、Bは相続開始と同時に本件不動産に2分の1の持分を有することになる。ところが、その後C相続放棄をすると、遡及的に不動産はCに帰属しなかったことになる。したがって、放棄前に現れた第三者との関係では、第三者保護の特別の規定がない以上、放棄をもって対抗できるということになる。放棄後に現れた第三者との関係においては、最高裁は、放棄の効力は、「絶対的で、何人に対しても、登記等なくしてその効力を生ずる」として、BDに登記なしに対抗できるとした。私の意見としては、放棄前に現れた第三者に関しては、放棄をもって対抗できるということに異論はない。しかし、問題は放棄後の処理である。たしかに、放棄の後に生ずる第三者は差押債権者であることが多く、そのようなことを考慮すると、相続人の債権者は、本来、債務者である相続人自身の財産を当てにすべきであって、相続財産に対する期待はあまり保護に値しないため、判例の帰結は妥当のようにも思える。しかし、実際の事件においては、第三者Dが生じたのは放棄した後の8年後であり、そのような場合でも相続人が保護されるのは疑問であろう。言い換えると、相続人は相続登記の移転を8年間も放置していたことになる。私の意見としては、放棄後は基本的には判例の立場にとりつつ遡及効を認めるとしても、あまりにも相続人に怠慢や落ち度が重大な場合には、信義則、あるいは、判例は遡及効を持つ意思表示の取消後の第三者との関係では復帰的物権変動を想定して、対抗問題として処理しているため、整合性を考慮する、などして遡及効を限定的に解するべきであろう。実際の事件において、原審は対抗問題としている。このようなことを考慮すると、最高裁の判断は形式的すぎると私は考える。

 

 以上が相続と遡及効に関する主な問題であるが、これまで事例で扱ってきたのは不動産の場合における第三者関係の問題である。補足として動産の場合の第三者関係にも言及しておく。

 動産は不動産と違って頻繁に取引されるから、一般に取引の安全を保護する要請が強くなる。例えば、動産Zが取引行為によってO→P→Q→Rと移転した場合において、OP間の契約に瑕疵があり、無効や取消の効果が生じた場合においても、Rは善意・無過失の場合、引渡しを受けたときに、即時にその動産について行使する権利を取得する。これを即時取得という(192条)。このように、目的物に対する売主の占有を信頼して売買契約をした買主は保護されるというルールが採用されている場合、占有に公信力があるといい、このような外観を信頼して取引したものを保護していく考え方を公信の原則という。

 これに対して、不動産の物権変動においては、登記が対抗要件となる。このように物権変動において登記のような外界から認識しうるもの(公示)を要求する原則を公示の原則という。日本においては、不動産の場合、登記に公信力はない。つまり、一般に、無権利の売主から登記を信頼して買った買主を保護する制度がない。その理由は、不動産のような価値の大きな財産については、真の権利者の保護を取引の安全よりも重視すべきだからである。ただ、それによって取引の安全が脅かされるのを救済するために、94条2項の類推適用という方法が使われるのである。以上が動産に関する第三者関係の問題の通説的理論である。私もこのような考え方に異論はない。

 

 3 日本の社会保障における現状

 

 春期の私自身のレポートhttp://amazonia.bakufu.org/1408kazoku.htmでも言及したが、日本は少子高齢化現象が叫ばれて久しい。出生率の低下により、少子化が進み、また高齢者の増加によって介護の人手不足も深刻化している。また、介護費用の増加により、介護を十分に受けることができない高齢者も存在する。このような問題に対応するために、中江先生は興味深い解決策を提示している。それは逆抵当融資(リバースモーゲッジ)である。これは自宅を担保にして銀行などの融資機関から借金をして、その借金を毎月の年金として受け取る制度である。つまり、貸し倒れを前提とした抵当権を居宅に設定するわけである。現在の日本で高齢者が亡くなったあとに残された空き家が820万戸あるとされている。これは中古住宅市場の未発達や新築主義に由来するものであるが、このような空き家が増えることは環境の整備や居宅の廃材の増加などの関係において、望ましくない。そこで、空き家をなくすために、このような逆抵当融資を取り入れていくことには意義があるだろう。また空き家が都市部にある場合には、相続税法改正により、基礎控除額が縮小したため、将来的に地価が上がった場合には、相続税の申告の対象になるであろう。しかし逆抵当融資を行っていれば、返済時に担保物件の売却価値が借入残高を下回る担保割れが起きるリスクも減るので、都市部に不動産を所有している高齢者は逆抵当融資の利用を積極的に促していくべきであると私は考える。

 

4 自分の結論

 

  上述してきたように、主に相続と遡及効について検討してきたが、冒頭で述べたとおり、法律は後衛的なものであって不遡及が原則である。民法の相続やその他の事例においては例外的に遡及効を認めているのである。私は、「相続に遡及効を全面的に認める」あるいは「相続に遡及効は一切認めない」というように原理主義的にどちらか一方に偏るべきではないと考える。法というのは社会の秩序の維持や安定に資するものでなければならない。いくら結論までの道筋が理路整然としていても、社会的な常識にそぐわないとすぐに判例が変更されてしまうように、法と社会常識は切り離せない関係にある。法というのも社会的な常識や道徳と密接にかかわっているため、社会一般的な「こうあるべき だ」という要請を無視することはできないのである。もっとも、社会現象というものは流動的であり、時には法の欠缺も生じることもある。法が想定していないときに法をどのように解釈して社会の秩序維持や法的安定性を保っていくべきか、というのを考えていくのが法律を勉強したりする学生や法律家の仕事であると私は考えている。そのようなことも踏まえて、具体的妥当性と法的安定性を考慮しつつ、自分の結論を述べると、私は相続法の場合においては法律不遡及の原則の立場をとりつつも、限定的に遡及効を認めていくべきだと考えるのである。また、相続と遡及効の問題にかかわらず、社会一般の問題(たとえば社会保障)に対してもこのような考え方(法はどうあるべきか=リーガルマインド)で対処していくべきだと私は考えている。

 

 

 

 

出典

 

『民法I - 総則・物権総論』(東京大学出版会、1994年、第42008年)内田貴著

『民法IV - 親族・相続』(東京大学出版会、2002年、補訂版2004年)同上

親族・相続 第2版 (伊藤真試験対策講座) 伊藤真 著

日本人の法意識』(岩波新書、1978年)川島武宜 著

法における常識』(岩波書店(岩波文庫)、1972年)ポール・ヴィノグラドフ 著

現代法学入門 第4版 伊藤 正己(東京大学名誉教授),加藤 一郎(東京大学名誉教授)/ 編

 

中江先生の授業・板書

 

 

 

渡邉 錬

「相続と遡及効」に関して私は、第三者の動きのタイミングによって変わる結果が逆でもいいのではないかと考える。

[.相続と登記] 

根拠としてまず相続放棄と共同相続、遺産分割のケースを挙げる。相続放棄の場合、判例では民法915条(.相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。2.相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる)と民法939条(相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす)によって占有者が勝つことができる。共同相続の場合は、当事者問題になってこれも占有者が勝つことが出来る。だがしかし、遺産分割の場合は、遺産分割協議の前と後で結果が変わってしまう。遺産分割協議前の場合は占有者が勝つことが出来る。宣言主義の場合は、被相続人の死亡時から相続が始まるので相続人の合有となる。合有になると、持ち分は占有者で分割請求もできないためすべて占有者の勝ちとなる。移転主義の場合は、遺産分割協議が終了した時点からの相続となるためそれまでは共有となる。共有となった場合は、持ち分は占有者のものであるが分割請求が出来るため占有者の相続分だけ占有者が勝つことが出来る。遺産分割協議後の場合については、民法177条(不動産に関する物権の得喪及び不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない)により対抗問題となり登記のある方が勝ってしまう。また、遺産分割の場合は民法909条(遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない)が適用されるため、第三者によって効力が妨げられてしまう。遺産分割協議の前だとしても後だとしても、占有者が相続すると決まった時点で第三者は対抗する効力を持つべきではない、第三者に対抗できないといった問題が起きてはならないと考える。

[.時効取消] 

次に相続と登記の問題である。登記の場合、判例を取消と同じくする必要はないと考える。取消と登記の場合、取消前に第三者が登場した時は、民法96条(.詐欺又は脅迫による意思表示は、取り消すことができる。2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。3.前二項の規定による詐欺による意思表示の取り消しは、善意の第三者に対抗することができない)で当事者問題となり占有者が勝つことが出来る。しかし、取消後に第三者が登場した場合は二重譲渡類似となり対抗要件なので第三者が登記を持っていた場合は第三者が勝つ。取消後に登記を自分の元へと移す猶予があったにもかかわらず、それをしなかった占有者の怠慢があるために民法177条によって対抗問題となる。時効と登記の場合も同様である。相続と登記の場合も相続前に登記をしたら共有だと持分だけ、合有だとすべて占有者が勝つことができる。相続後の場合は、登記のある第三者が勝ってしまう。取消の場合は自ら決定したことから起きる問題だと思うので正しい判例だと思う。しかし、時効と相続の場合はそうすべきではないと思う。時効の場合、時効前なら効力が残っていると考えて第三者が勝っても不思議はない。ただ、時効後の場合は、効力が残ってない上に占有期間が長いはずの占有者が敗けるのはおかしいと考える。相続と登記の場合は決められたことであるから前後で変える必要性はないと考える。相続の場合においては取引の安全よりも本来権利者保護を優先させるべきだろう。このように登記の判例を挙げても第三者によって権利が移動することに幾分かの矛盾が生じると思う。

[.公信の原則公示の原則] 

次に動産の場合を挙げる。動産の場合は不動産と違って原始取得(新たな権利が生まれること)というものが適用される。動産の場合は、詐欺によって占有者から第三者へ動産が移った場合は第三者が動産を占有できる。虚偽表示の場合は、民法94条(相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。2.前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない)によって第三者が占有できる。これは民法192条(取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する)の即時取得(原始取得)による公信の原則で新たに権利が第三者に生まれたためである。強迫の場合は、民法96条により、占有者がそのまま占有できる。また、占有者が未成年若しくは成年被後見人だった場合、権利は占有者のままである。詐欺や虚偽表示により騙された場合は、占有者が被害にあっているのだから第三者が善意、悪意にかかわらず権利は占有者に戻す必要があると思う。さらに、善意の第三者がまた別に誰かに動産を受け渡した場合は公示の原則で民法177条の対抗問題で承継取得(前主の権利を引き継ぐこと)となりどのような経緯があろうと権利は移ってしまう。善意の第三者に対抗できない判例が多く感じる。これはもともとの占有者、権利者の立場が非常に弱く不利に働くことだと思うので本来の権利者に対する効力を強くするべきだと思う。

[.相続税法改正] 

また、相続税法改正によって平成27年1月1日から相続税法が変わることも理由の一つである。変更前は、どんなケースであっても相続財産が6000万円を超えない限り相続税がかかることはなかったが、相続税法改正後は3600万円を超えると相続税がかかってしまう。これは今回の相続税法改正によって基礎控除額が40パーセントも縮小されてしまうということである。この相続税法改正によって相続税を支払う人が大幅に増加すると見られている。さらに、相続税率が上がったことで最高税率が50パーセントから55パーセントに引き上げられた。相続税の課税対象額が2億円を超える場合に増税となるため、富裕層の税負担が大きくなることが容易に想像できる。また、未成年者控除、障害者控除の控除額が引き上げられることになる。今までは1年につき6万円だったが、10万円にまで引き上げられる。これは他の税率が上がったことによって未成年者と障害者への負担が大きくならないようにするための変更である。もともと相続税を計算するにあたって土地や不動産は優遇措置があった。例えば、1億円の現金は1億円の評価だが、建物は固定資産勢評価 額に基づいて評価される。そのため、1億円で建てた建物は約6000〜7000万円の評価額となり現金よりも建物を相続した方が相続税の税額も少なくなる。これに加えて今回の改正では、減額できる土地の上限面積が拡大し、事業用宅地と居住用宅地の完全併用が認められるため、節税対策としての不動産活用への可能性が広がることになる。このように平成27年1月1日より大幅に相続税法が改正された。基礎控除額に限ってはおよそ20年ぶりの改正となる。大幅に変更が行われたことによって対象者も増加することが確実視されているのだから、第三者が絡むケース(遺産分割など)でタイミングによって権利が移動したり勝者が変わったりするのは混乱を招く可能性があるから簡素にすべきだと考える。

[.考察とまとめ]

相続法において私は、本来の権利者の立場や権利者に対する効力がいささか弱いように感じる。相続は相続する者が主であるわけだから民法177条や民法909条、民法96条のように後から第三者が関わってきた場合に権利者、占有者の効力が消えて第三者の効力が生まれるのはおかしいことだと思う。さらに権利などがそれによって移ってしまうことが不思議である。相続することが決まったのであればそれ以降は何者にも対抗できないようにするべきではないだろうか。逆に相続前に第三者が関わってきた場合には、まだ何も決まっていない、動きもない状態とみなし第三者に対抗できなくするようにしてもいいと思う。つまり私は、相続に関しては取引の安全 よりも本来権利者の保護を重要視した方がいいという意見である。相続税に関しても、今回の相続税法改正によって不動産活用が節税対策としてさらに有効になるわけだから本来権利者を保護する動きを見せることが相続者への負担を減らす意味でも重要なのではないかと思う。ただし、動産の場合は受け渡しなどが不動産よりも容易であると思うので本来権利者の保護を優先させることが厳しいと感じる。そのため、動産には公信の原則が適用され不動産には適用されないことには納得がいく。だが、意思能力で詐欺の場合と虚偽表示の場合は本来権利者を優先する必要があると考える。民法96条の3項に詐欺の場合は善意の第三者に対抗できず、取り消しを行うことができないとある。これは騙された方が悪いと解釈できる判例だと思う。また、民法94条では相手と通じてした虚偽表示は無効になるが、善意の第三者に対抗することはできないとある。たとえ第三者が善意であっても詐欺や虚偽の意思表示をされて被害にあったという事実は変わらないのだから本来権利者の保護を優先して取り消しや無効を行えるようにしてもいいと思う。動産と不動産の場合で、多少違った考察になるが本筋としては「善意の第 三者の持つ効力が強すぎる」ことと「第三者の関わってくるタイミングによって変わる判例を変えるべき」ということである。以上のことから、私は第三者が関わってくるタイミングでの権利が移動する判例は逆でもいいのではないかと考える。また、遺産分割の場合、その効力は遺産分割協議終了時に生ずる方がいいと考える。(4,065)

 

出典:

・実用六法 ポケット版(平成26年版)

・すみだ税理士事務所(http://www.sumida-tax.jp/category/1452996.html)

・中野相続手続センター(http://www.tokyo-intl.com/category/1619613.html)

・「相続法」の授業で書いた自筆のノート

 

 

 

 

 

1.      結論

 

民法第909条の遺産の分割の効力における但書の遡及効は制限するべきである。

 

2.      遡及効の制限に関する判例

 

 民法第909条但書における遡及効についての判例がある。昭和46126日の最高裁判決の判例である。この判例は被相続人の遺産分割協議が終わった後に相続人のうち2名に債権者が相続財産である不動産に仮差押えの登記をしたことについて更正登記手続きのための承諾を求めたものである。それについて最高裁は「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼつてその効力を生ずるものではあるが、第三者に対する関係においては、相続人が相続によりいつたん取得した権利につき分割時に新たな変更を生ずるのと実質上異ならないものである」として相続人と第三者との関係については対抗関係問題として処理するとした。

 

3.      民法第909条の2つの解釈論と判例

 

 前掲の判例の909条は相続の効力の遡及効についてとそれによる第三者保護の条文であり詐欺取消の規定963項に似たものであるがこれには2つの解釈の仕方がある。1つは宣言主義、もう1つは移転主義である。宣言主義とは遺産分割協議は最初からその遺産を相続する相続人のものであることを事後的に宣言するものであるとして遺産分割の効力を相続の開始まで遡及するという考え方である。これは909条の本文に忠実に寄り添った考え方である。移転主義とは相続開始により分割協議が終わるまでは共同相続人の間に遺産の共有状態があることを認めて遺産分割は共同相続人のそれぞれの持分を譲渡しあうという考え方である。そしてこの考え方によると遺産分割の効力は遺産分割協議以前に遡らない。前掲の判例においては遡及効を前提にしつつも一旦取得した権利すなわち遺産の共同所有権について遺産分割時に新たな変更すなわち共同所有している遺産の持分権の譲渡による権利変動に実質的変わりないとして移転主義に歩み寄った形となっている。ちなみに相続放棄915条により3か月の期間のうちに相続放棄をしなくてはならないうえに939条により遡及効もあり、そしてさして取引安全を害さないであろうことから強い権利であるとされている。そのために相続放棄の際には常に相続人の権利になる。

 

4.      対抗関係問題について

 

 前掲の判例において第三者と相続人の関係は対抗関係として処理するとしていたが対抗関係問題というのは当事者と第三者の間で所有権の所在について争う関係のことである。これは民法第177条によって登記することで対抗要件を備えたものが所有権をもつことになる。なぜ相続について177条の対抗関係問題となるのかについては、取消の第三者関係に似た構造だからである。取消についての条文は民法第121条で遡及効があり、またその遡及効から第三者を保護する規定もある点で909条と似た点がある。詐欺取消の第三者関係については取消の意思表示の前にあらわれた第三者は当事者問題として、963項に従い善意の第三者に対抗できないとする。対して取消の意思表示の後にあらわれた第三者の場合は詐欺にあった当事者が取消後に登記を自分にもどさなかったという怠慢に帰責事由があったとして177条の対抗関係問題として処理する。どのように177条の対抗関係問題に当てはめるのかというと取消によって遡及効として詐欺をうけた当事者に所有権が最初からあったことにはなるのだが実質的には詐欺をした当事者にいったん権利が移り所有権が詐欺をうけた当事者に戻るという復帰的物権変動がおこっているのでそのうえで詐欺をした当事者が第三者にその不動産を売ってしまった際に二重譲渡類似の関係とみて177条の対抗関係問題として処理するということである。これに従って前掲の判例においても遺産分割協議の前後に場合分けをして前は当事者問題、後は対抗関係問題として処理するとしている。これらに似たものとして他に時効に関するものもある。構造は似ているとしても実際の状況やそもそも原因となる法律行為も違うのに同じように扱うのは少し疑問に思われる。

 

5.      公示の原則公信の原則

 

 現在わが国では物権変動についてその要件は意思表示で足りるという意思主義の立場をとっている。対してドイツでは物権変動につき登記を必要とする形式主義をとっている。そのためドイツでは公示の原則が強いが、わが国では必ずしも公示の原則が強いわけではない。前掲の判例で用いられた不動産における物権変動の対抗要件に関する177条や動産における物権変動の対抗要件に関する178条などは公示の原則に沿ったものであるが、192条の即時取得などは公信の原則に沿うものである。942項の類推適用、109条や110条の表見代理などの外観法理やそもそもの176条による意思主義というのは公信の原則によるものであり、そのうえに憲法第39条にて法律不遡及の原則もあるのだから遺産分割の効力における遡及効の制限はあってしかるべきである。

 

6.      社会事情、社会背景など

 

 一生懸命の語源である一所懸命という言葉があるように日本人は昔から土地本位主義であるため、今日の日本では不動産の中古市場が未発達となっており空き家が800万戸もあり問題となっている。さらに新築主義でもあるのでまだ使える建物も取り壊されコストが多くかかってしまっている。対してアメリカでは不動産を持つことについてよりも、使うことに興味を持つ傾向があるのでこういった問題はさして目立たないであろう。我が国も思考を変えて新築にこだわりすぎず中古不動産市場をもう少し潤わせてもいいのではないかと思われる。穢れの習慣や文化も今のグローバル化すなわち欧米化してきた現代ではほかの文化は保持すべきでも不動産においてはそうこだわるべきでないと考えたからである。先の使える建物の取り壊しについてもそうすることでコストが大きく減ることになるはずである。また居宅しか財産がない老人の介護やシングルマザーなどワーキングプアの問題などさまざまあるが、居宅しか財産のない老人の介護について最近の介護サービスは実際お金がかかる面もありこの頃の有料老人ホームでは月に42万かかるという。そこで自分の居宅を質にして一生分介護してもらうということもあるようである。質権は流動的であるからそういったことも可能である。そしてその後その建物を改装してワーキングプア、シングルマザーなどに住んでもらうこともいいのではないかと講義の際に聞いたがとてもいい話だと思った。そういった場合に遺産分割の効力における遡及効の制限があると救われる家庭もあるかもしれない。相続人の得るはずだった分の遺産がなくなるので最高の策であるとは決して言えないが、条文に規定がある以上判例にのっとれば遺産分割協議の前は共有分があるのだし、遺産分割協議のあとは登記さえ備えればよいのだから全く絶対に遺産がなくなるわけでもない。私が言う遺産分割の効力における遡及効の制限は判例の同程度である。他にも社会事情として201511日に相続税法改正の適用がされた。その内容について・基礎控除の引き下げ・相続税率の見直し・未成年者控除及び障害者控除の引き上げ・特定居住用宅地などにかかる特例の対象面積の拡充・特定居住用地と特定事業用宅地への小規模宅地等の特例の適用がある。基礎控除は40%ほど引き下げになり、相続税率の見直しによって課税の段階が増え、200万超の課税財産に関して増税になる。この改正により相続税の申告する対象者が増える上に基礎控除の引き下げ相続税法の見直しにともなって相続税の対象額があがり遺産の多いものは相続税が多くかかることになる。

 

7.      以上を踏まえてのまとめ

 

 自分の意見として遺産分割の効力における遡及効の制限はすべきであるとしてその理由を取引安全すなわち第三者の期待保護のためだとした。それについて遡及効の制限をしたことにより相続人の相続する財産が第三者にわたりやすくなると考えた。相続人の保護について前の段落において述べたが、私が考えた遡及効の制限にくわえて要件はあるものの相続財産についても詐害行為取消権がおよぶのでやはり少し保護が欠ける部分があるように思われる。しかし遡及効を前掲の判例の程度で制限をして遡及効を強くしすぎないようにし、第三者保護に重点を置き遡及効におそれて不動産中古市場に手を出さなくなるということがないようにしたいと考えた。そこで遺産分割の効力における遡及効の制限がなされる場合を少しだけ限定したらどうかと考えた。たとえば第三者に善意など第三者の主観的要素を入れてみたらどうかと考えた。最初はむしろ第三者関係に入ることについて多少なりとも相続人にも責任があるのではないかと考えて相続人側に善意無過失を要求してもよいのではないかと考えた。しかし先ほど述べたように相続人の保護に欠け、第三者が強くなりすぎるように思われたため。第三者の主観的要素を加えてみてはどうかと考えたのである。遺産分割の効力における遡及効の制限についての第三者の主観的要素は909条などの条文に規定がないので、条文を無視することになる。しかし条文に規定がなくても第三者の主観的要素が関係する条文がある。177条では条文上では単に登記を早く得たものが権利を取得するということが書かれているだけなのだが、当事者をわざと害してやろうという意思のあるものすなわち配信的悪意者を177条の適用から排除するという配信的悪意者排除論というものがある。それに似た構造だとしている詐欺取消の条文963項には第三者の主観的要素が明文として規定されている。他の段落であげていた公信の原則についてでもその例に挙げた即時取得の要件は善意である。その次の理由で不動産市場の活発を大事にするべきだと考えた。そのことについてやはり遡及効の制限がある方が第三者となる者にとって不動産の売買がしやすくなるのではないかと考えたのである。以上を考慮して私は遺産分割の効力における遡及効の制限はすべきである結論とした。

 

出典

l  民法W           内田貴 著

l  小野山公認会計士・税理士事務所ホームページ

Onoyama-cpa.com

l  裁判所ホームページ

corts.go.jp